ノイヤーちゃんの捜索を始めてからおおよそ数週間が経過していた。
至るところで掲示板での目撃情報は相次いでいるものの、決定的に遭遇の場面には出くわしていなかった。
曰く、金色のガンダムレギルス率いる一団が、俗に言うマナー違反者たちを駆逐していっていること。
曰く、金色のレギルスに乗っている少女は、ゼハートのようなマスクを付けていること。
曰く、その少女はノイヤーと名乗っていること。
この3つさえ揃ってしまえば、だいたいのことは分かってしまう。
間違いなくノイヤーちゃんだった。
でもどうしてノイヤーちゃんがそんな事を始めたのだろうか。
初心者狩りを日頃から倒したいなんて言ったこともなければ、マナー違反者を征伐するとかも言っていない。
それにゼハートのマスクなんかを使って、何がしたいのかも分からない。
狂気に落ちてしまったのならそれでもいい。連れ戻すだけだ。
だけど、誰かにそそのかされているのであれば……。
「ノイヤーちゃん……アタシは……」
アタシはノイヤーちゃんを助けたい。ユーカリちゃんもエンリちゃんもそれを感じているけれど、何故だかアタシにはそれ以外の、それ以上の何かを胸に秘めているのだ。
不安ならそれでいい。恐怖なら別に感じていても何ら不思議ではない。
でもこの胸をドキドキと震わせながら、不安と恐怖の奥底に沈んでいる、ノイヤーちゃんを助け出したいって気持ちが何なのか。言葉に表せずにいた。
なんだろうこの気持ちは。味わったことがない感覚。ノイヤーちゃんだけはなんとしてでも、この手ですくい上げたいと言う感情。アタシには、これが分からない。分からなくてモヤモヤしていた。
「これが恋……? なんてあるわけないか」
ELダイバーフレンは恋愛映画やアニメが好きという感情から生まれた電子生命体だ。
途中で何故か混ざったギャルの概念はさておき、恋愛事情には詳しいつもりでいた。
でも、実際にアタシ自身が告白されたケースも多々あった。それはたいてい男性が多かったけれど、アタシはその愛を必ず断るようにしていた。
何故か。それはアタシ自身が恋愛というものを、恋というものを知らなかったからに他ならない。
胸がときめけば恋なのか。それともドキドキと心臓が高鳴れば恋なのか。あるいは恐怖シーンによる吊り橋効果が恋なのか。それが一切分からない。
言葉では分かる。憧れもする。実際に体験したことのない感情を欲しいと思うのは、恋愛というものから生まれたELダイバーとして当然のことなのかもしれない。
だけど、恋に至ったことのないアタシは、その感情が分からなかったんだ。
「ここも異常なし、か」
フォース共有フォルダからマップを表示させてまた1つバツ印を付ける。
これで何度目だろうか。嫌気が差すほどの地味な作業に飽き飽きする。
もっとバトルがしたい。もっとフォースのみんなと仲良くくっちゃべりたい。もっと、ノイヤーちゃんと話がしたい。
もっと遊びたいのに、ノイヤーちゃんはいったいどこにいるのさ。アタシらにシコリだけ残して、姿を消すなんて、そんな無責任な真似をノイヤーちゃんがするはずないよね。
そう考えても、現状は一切変わらない。とりあえず今は探すことだけを考えなくちゃ……。
「バックパックのミノフスキー粒子の残量もそろそろ切れそうだし、一回戻ろっかなー」
今まさしく、アタシがこの場から離脱しようとしたその時だった。
ヘアセンサーから鳴り響く悲鳴と、バトルフィールドが展開されている予感を感じ取ったのは。
「もしかして……」
ノイヤーちゃんがいるかも知れない。
アタシの予感はエネルギー残量がなくなりかけている事を度外視して、ハイランド・セルのミノフスキードライブを全開に、飛び立っていった。
◇
「ノイヤーさん、助け出した者はどうしますか?」
「逃しなさい。粛正委員会が正義を為した、と触れ回るように指示して」
「了解です」
慣れない指示に疲れはするものの、目の前でビットの檻に閉塞させた無法者を面倒くさそうに見る。
そもそもわたくし自体にこの戦いの意味はなく、ただノイヤー家の道具として動いている状況。何が悲しくて粛正委員会のリーダーなんてしているんだか。
だけど、ファイターとしてのチカラが付いてきたのは間違いなかった。
最高のガンプラ、最高のVR機器。そして強くなると言われたこのマスク。
かのアシムレイトほどではないにしろ、プラシーボ効果によるマスクを付けた際に強くなるという暗示をかけられ、フルトレース型と呼ばれるVR機器をその身に宿したこのレギルスNであれば、エンリさんにも勝てる。そう核心していた。
エンリさんに勝ち、ユーカリさんをこの手に収める。わたくし自身の戦いとは、言わばそういうものだ。
だからチカラを付けつつ、来る日に備えて身体を慣らす。それがわたくしの目的とノイヤー家の目的を兼ね備えたものなのだから。
『い、いっそ早くやってくれ! このままじゃ何も……っ!』
「正義は我々にこそあります。あなたの一切の意見は聞いていません」
『クソッ! 何が粛正委員会だ! やってることはただの度が過ぎた自治厨行為だろ!!』
そのとおりだ。だけど、今のわたくしには一切響かない。
ユーカリさん辺りに言われれば、気が変わるのでしょうか。
「終わりました。この者は?」
「じっくりといたぶってから処分しなさい。再起不能になって、粛正委員会の名しか出せないように」
『い、嫌だぁあああああああ!!!!!』
悲鳴、か。それに釣られて、火に入る夏の虫も1匹やってきたみたいだ。
その少女のような機影は1つ。わたくしのよく知るELダイバーの機体であった。
その期待はスタングルライフルを構えて、ビットの檻目掛けて、DODS効果のあるビームを射出させた。
ビットが誘発し爆発すると、その中にいたケンプファーが飛び出された。
『あ、ありがとう、フレンちゃん……!』
『いいから逃げて! アタシがここを食い止めるから!』
「あの者……ELダイバーですか?」
「えぇ。そうみたいですわね」
シールドからレギルスビットを展開して、ケンプファーをかばうように立ったモビルドールフレンに対して警戒する。
『ノイヤーちゃんだよね?! アタシだよ、フレン!』
「なんですか、この馴れ馴れしいギャルは! そこをどきなさい!」
割り込んできた通信に少し嫌気がさす。今はまだ見つかりたくなかったのに。
でも、ちょうどいいか。あの愚弟からは必ず勝たなければ粛正委員会の意味がないって言ってたし。不本意ではあるものの、わたくしはライフルをフレンさんに向けた。
「ミチルさん、目の前に向かってツインバスターライフルを照射してください」
『ノイヤーちゃん!!』
「分かりました」
ミチルと呼んだ、ウィングゼロカスタムがツインバスターライフルを構える。
射線の先はフレンさんとその先にいるケンプファー。分かっているでしょう。守るためには光の翼とCファンネルをどっちも使わなくちゃいけないことぐらい。
敵機の方から聞こえる舌打ちとともに、光の翼を前面に解放。加えてCファンネルを回転させながら衝撃の備える模様だ。
だけど、その程度でツインバスターライフルを守れるとでも思っているの?
トリガーを引いて、巨大な黄色い閃光が通常よりも大きいツインバスターライフルから発射される。
それはまさしく天雷。相手を粛正するための、強烈なる波動砲。
地面を焦がしながら真正面から来るビームの塊を、フレンさんは直で受け止めた。
こちら側からでは光に飲まれているようにも見えるが、バスターライフルの先がやや広がっているのが見える。これは本当にビームを切り裂いているのだろう。
光の翼とCファンネル、そしてスタングルライフルであれば、このバスターライフルは相殺することは出来るだろう。でもたかがそれまでだ。わたくしという余剰戦力がある以上、この防御は無意味になる。
光が細くなっていき、ビームの照射が止む。
草木は1つ残らず燃え尽きており、射線を脅かす者はほとんど消え去っていた。モビルドールフレンを除いて。
モビルドールフレンはもはや息も絶え絶えと言った模様だった。
エネルギーを使い果たしたであろうハイランド・セルを含めて、文字通り盾となったフレンが地面に落ちていく。
バックパックやCファンネルはもちろんのことながら、相殺したはずのビームエネルギーがフレンの手足を溶かし、もはや歩くことすらままならにほどの悲惨な姿。おおよそ膝から先、肘から先がもうないのだ。
ダルマ状態と言えばいいだろうか。もう航行不能により、耐久値も残り僅かだろう。
「ノイヤーさん、あのELダイバーは?」
「私がやる。ミチルは残りのケンプファーをやってください」
「はい!」
白い翼をはためかせながら、空中を飛ぶ姿はまさしく鳥か天使か。これを聞いたらエンリさんが飛んでやってきますわね。
「さて」
手を下していないモビルドールフレンはもはやボロボロだ。
地上に降り立ってから、焼けただれた地面を歩いて、フレンの前に立った。目的なんて1つだけ。この手でフレンさんの心を叩き潰したかったからだ。
『ノイヤーちゃんどうして?! なんでアタシらを裏切ったの!!』
「裏切ったなどと人聞きの悪い。私は自分に正直になったまでです」
『私って何さ! 仮面なんて付けちゃってさ! そんなので変わったつもりなの?!』
変わった。そうか、変わったつもりか。ならどんなに楽だったでしょうか。
ニヤリと口元を歪ませて、わたくしはこう答えましょう。ヴェイガンの仮面を被ったゼハートらしく。
「私の今はノイヤー家の戦士です。それ以上でも以下でもない。ましてやケーキヴァイキングのノイヤーではない」
『……アタシのせいなの? 恋が、実らなかったから…………』
「っ! そんなはずありませんわ! わたくしはまだ終わってない!」
『だったら戻って告白するぐらいの勇気ぐらいあるでしょ! 終わってないって言うなら、アタシにノイヤーちゃんの最後を……きゃぁあ!!』
苛立つ。あなたに、わたくしの何が分かるっていうんですか。
終わってないなら告白をするんじゃなくて、させる。ユーカリさんに振り向かせるんですわ。そうすればエンリさんなんて眼中になくなる。そう、わたくしは真に愛されることになる。
あなたみたいな、外側から見ているだけの耳年増な3歳とは違うんですのよ。
「そもそも、なんでわたくしがあなたの指示に従わなくてはいけないんですの?」
『だって、アタシら友だ……っ!』
ダルマ状態となったモビルドールフレンを蹴り飛ばしてその言葉を遮る。
誰が……ッ!
「誰があなたの友達ですって?」
その無駄に贅肉が整った胸部を何度も何度も踏みつける。
憎しみを込めて。苛立ちを込めて。嫉妬を込めて。
「わたくしはあなたのことが嫌いなんです」
『っ! でも、アタシのこと中身は好きって!』
「そういえば、言ったことありませんでしたわね」
確かに中身は嫌いではなかった。それは認めましょう。友達ヅラするぐらいも許します。
だけど、それ以上に。いや、それが最も憎くて憎くてたまらない。
「わたくしはあなたの金色の髪の毛もッ!」
サイドテールによって機能しているヘアセンサーを踏み潰して破壊する。
「その緑色の瞳もッッ!!!」
今度は顔面を踏み潰して、モビルドールアイを粉砕する。
「わたくしが望んでも手に入れられなかったすべてを持っている、あなたが大っ嫌いなんですのよ!!!!!」
もはやメインカメラも死んだモビルドールフレンを粗雑に蹴り飛ばして、地面に這いつくばらせる。
「あなたが何をしたって、何か同情しようとしても! その見た目がすべてを台無しにする! あなたさえいなければこんな思いはしなかった! あなたさえいなければ、わたくしはぁぁあああ!!」
『ノイヤーちゃん!!!』
左手から発振されるビームサーベルを胸部に突き立てる寸前、そんな声が聞こえてくる。
『アタシは、ノイヤーちゃんのこと好きだよ? だから……』
「恋も知らないあなたがそれを言うなぁ!!!」
左腕を大きく振りかぶりながら、わたくしと文字通り一心同体になったレギルスNに向かって刃を叩きつける。
バチンと混じり合った刃と鈍器。間違いなくそれはモビルドールフレンの胴体ではなかった。
『止めなさいノイヤー』
切り返すようにして繰り出された右腕のパンチを躱して、何度かバク転しながら距離を取る。
その見た目はかつての仲間の姿には程遠いものの、それでもらしさという面で言えば似ている。そんな相手。
ガンダムゼロペアー。その声色、見た目、仕草。その全てがわたくしからひだまりを奪った張本人。
「エンリさん……ッ!」
『あんたをぶっ潰して、コックピットから引きずり下ろしてでも、ユーカリのところに連れていくわ』
クリアパーツが輝く漆黒のゼロペアーは、まさしくわたくしを力づくでも取り戻しにきた悪魔であった。
その容姿さえなければ
・ガンダムレギルスN
ガンダムレギルスを金色にレンズを緑色に染め上げた、
粛正委員会サイドとしてのムスビのガンプラ。
レギルスNのNは「ノイヤー」「ノブレスオブリージュ」を意味している。
基本的な性能はレギルスのころとは変わってないものの、羽根がゼロカスのものだったり、
磁気閃光システムを採用していたりと、ところどころ別物が含まれている。
アディ曰く、正義を体現するためのガンプラであり、正義が絶対であることを証明する機体。
ガンプラも最高のものにしているし、操縦するムスビ自身も暗示による強化を得ている。
またモビルトレースシステムを採用しており、身体を使ったフルトレース型のVR機器を使用しているため、その動きはもはや人間と同様と言っても過言ではない。
(実写版アサクリのアニムスと似たイメージ)
・特殊システム
Xトランスミッター
モビルトレースシステム
・武装
頭部ビームバルカン
ビームバルカン
ビームサーベル
レギルスNライフル
レギルスシールド
レギルスビット
レギルスキャノン