ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

51 / 75
アウトロー戦役、中編。ギャルとお嬢様。そして……


第49話:フレンドを結んで。諦めさせるということ

 わたくしには夢があった。ほんの些細な夢だ。

 今にして思えば、子供らしくて口に出してしまえば恥ずかしくなってしまうほどの女の子として当たり前の憧れだったんだと思う。

 

 でも、わたくしには過ぎたもの。思いをどれだけ重ねても、現実だけは変えようのない真実。この容姿が受け入れられないという残酷な答えに、わたくしは打ちのめされていた。

 そんなときだ。彼女がそんなどん底の底の底。地獄まで手を伸ばして助け出してくれたのは。

 嬉しかった。わたくしという存在を初めて肯定してくれた優しい人。

 最初は物好きがいたもんだと思ったけど、接すれば接するほど、その優しさが体内を巡り巡って、いつの間にかわたくしは本当の笑顔を取り戻していた。優しさが、毒とは知らずに。

 

 モビルトレースシステムによって、身体を動かしながら突撃してくるアウトローたちを胴体から切断したり、コックピットにビームバルカンを乱射したり。

 あくびが出てしまうほどの容易さだった。

 強くなった。それは暗示による効果だってことをわたくしは知らない。

 だけど、フルトレース型のVR機器のおかげで全身の感覚が鋭くなったのは確かだ。機材とは、得てしていいものの方がよい結果を得られる最たる例である。

 1機。また1機と戦っている内に、どうやら目の前にいる金髪緑眼のモビルドールだけとなっていたらしい。

 

『ノイヤーちゃん』

「またあなたですか。戻らないと、そう言ったはずですわ!」

 

 金色と桃色のビームサーベルが激突する。

 あなたとは相容れない。それはもう叩きつけたはず。

 そう、叩きつけて壊したはずなんだ。それなのに、なんで。何故わたくしの前に立つんですか、フレンさん。

 

『アタシは、ノイヤーちゃんを終わらせに来たの』

「終わらせに? ははっ、わたくしは、まだ終わってませんわ!」

 

 おおよそ元お嬢様とは思えないほどのヤクザキックでモビルドールフレンの胴元を蹴り飛ばす。ハイランド・セルのミノフスキードライブで姿勢を整えながら、カウンターと言わんばかりにCファンネル6基が飛んでくる。

 いい加減その芸当は見飽きましたわ。左右に避けるように自分の意識を伝達させて、そのとおりに身体を動かす。身体は機敏だ。どんな動きにもついてこれる。

 ビームバルカンで牽制しつつ、距離を取ればCファンネルたちも引いていった。

 

「わたくしはまだ終わってない。あなたを倒して、すぐにでもエンリさんと戦い、わたくしが強いことを証明する!」

『って、思い込んでるだけでしょ?』

 

 ピリリとした感覚とともに、明らかに首を狙うCファンネルを縦横無尽に避ける。

 合間合間に放たれるスタングルライフルのビーム砲撃は、ビットを展開したビームバリアで防いでいく。

 このわたくしが、そう『思い込んでいる』とでも言いたいんですの。そう。それならそうでいいです。が……。

 

「例えそうだったとしてどうするのです。わたくしがエンリさんより弱いというのは重々承知の上ですわ。その上であの愚弟に魂を売って、ここまでやってきたんです。今更引けるわけないでしょうが!!」

 

 くるくると空中を回転しながらレギルスキャノンや胸のビーム砲を乱射。

 ある種では乱雑な弾幕にも見えかねないが、それを光の翼で避けながらも、確実に回避していく。

 

『だから終わらせに来たんだよ!』

「同情なんて、要りませんわ!!」

 

 同時にシールドからレギルスビットを展開。スキを与えないように確実に詰めていく。

 フレンさんの機体は性能が全体的に控えめだ。それを自身の技術で補っている。伊達に初対面ヴァルガのELダイバーは違う。

 光の翼で爆発していくビットを補充しながらも考える。

 もし、あなたがその見た目でなければ、と。もっと仲良くなれたのでしょうか。

 いや、ケーキヴァイキングのノイヤーはもう捨てたのだ。だから、今更振り返ることはない。

 周囲がビームの嵐で焼け野原になっていても、フレンさんは止まらない。

 

『同情なんかじゃない! アタシはノイヤーちゃんと一緒に遊びたいの!』

「それこそ願い下げですわ!」

 

 嵐を掻い潜ってCファンネルが接近。

 ビームバスターで迎撃するものの、それでは突破できないとなれば、今度はレギルスNライフルでのビームリングの発射。

 磁気閃光システム搭載してるから、そのリングはビームサーベル並みの威力だ。流石のCファンネルだって弾かれる。

 弾かれたところを、ビームバルカンで動力部を狙って乱射。たやすく1基を落とす。

 

『ノイヤーちゃんの意見なんて聞いてない! アタシはアタシのワガママを通させてもらう!』

 

 モビルドールフレンの方に装備されたシールドから、今度はジャベリンが取り出される。

 ジャベリンに内蔵されたビームワイヤーが起動。その場でバリアを作るように振り回せば、ビット群がすべて爆発する。

 舌打ちを鳴らす暇もなく、爆炎から突き出してきたのはジャベリン。

 咄嗟にビームサーベルで弾き返せば、ジャベリンを狙ってスタングルライフルが発射された。

 直撃したジャベリンは爆発。熱にやられてこっちの耐久値もわずかに減る。

 

『それにノイヤーちゃんだってワガママだよ! 自分の思い通りにならないからって、変なことまで始めちゃって! まるで子供だよ!』

「3歳児に言われたくありませんわ!」

 

 ビームリングで爆風を切断するも、そこにモビルドールフレンはいない。

 センサーが示しているのは下。急降下したフレンはミノフスキードライブの推進力を利用して、爆発的に急上昇していく。

 まるで戦闘機のテクニックの1つ、コブラのようなマニューバ。

 突然の奇襲に為すすべなく接近を許され、乱雑なタックルをお見舞いされる。

 続きは両腕を掴まれての頭突き。コックピットを揺らされて、フィードバックによって全身がかき乱されるような感覚に陥る。

 

『ユーカリちゃんのこと好きなら、なんで告白しなかったのさ! 自分で言えば話は変わったかもしれないんだよ?!』

「ッ! 人の心にズケズケと土足で踏み入るな!!」

 

 レギルスビットを展開。その場で爆発させる。

 もちろんダメージは受けるけど、このままドッグファイトになるぐらいだったら……。

 

『それでも、ノイヤーちゃんは言えなかった! 好きなのに!!』

 

 Cファンネルが今度は迫りくる。でも狙いは手先のレギルスNライフル。だったらこのぐらい捨ててやりますわ!

 すれ違いざまにビームバルカンを連射して、残りのCファンネルをすべて撃破する。

 こちらの代償はダメージとレギルスNライフル。これだけなら、まだ……。

 

『ただのヘタレだよ、ノイヤーちゃんのヘタレ!』

「黙っていればいけしゃあしゃあと! 恋も知らないあなたに……」

『知らないよ! だけど、友達としての好きは知ってる。好きは伝えなきゃ、意味がないんだよ!!』

 

 友達としての好きを知ってる? 好きは伝えなきゃ意味がない?

 そんなの……ッ!

 

「そんな事分かってますわ! あなたが言うほど、わたくしはバカじゃありません!!」

『だったら、どうして……?』

 

 今まで激昂してた2つの魂が急に静かになる。

 どうして? どうしてって、逆に他に理由がありますの?

 わたくしが何に恐れている事は分かっている、分かった上で。わたくしが言えない理由ぐらい分からないんですの?

 

『やっぱ、怖いから?』

 

 的確に、その場所を貫いてくる。

 

『幽霊みたい……』

『化け物がよぉ!』

 

 フラッシュバックするのは他でもない、過去の、中学時代の記憶。

 家族も、学校のみんなも、誰でさえも。わたくしのことを嫌っていた。

 何故。どうして。それがこの容姿のせいだってことは分かってる。

 だからユーカリさんだって、離れていかないってことぐらい、分かってるんだ。

 頭では理解してる。ちゃんと、ユーカリさんは離れていったりはしないって。どんな関係になっても、そばに居てくれるって信じてるから。

 でも……。

 

「心は、それを許してくれません。心のどこかで、ユーカリさんも皆さんと同じように、どこかでわたくしのことを煙たがるかもしれないって、思ってましたの」

 

 言うなれば、自信のなさの現れだったのかもしれない。

 弟と比べて大した才能もなく、皆と比べて肌は白いし、髪の毛だって老婆のようで。 そんなの、当たり前じゃないですか。わたくしがわたくしのことを1番嫌っている。それは紛れもない事実なんです。

 

「わたくしには、ユーカリさん以外なにもないんです。仮初のお嬢様設定だって、本当は無理に作ってるだけ。今はただの、没落お嬢様。だからあの人に、あの人に断られたりでもしたら、自分自身が崩壊してしまう。わたくしが、何者でもなくなってしまう……」

 

 だから狂気に落ちた。自分を守るために。

 怖いでしょ。自分を否定されたら誰でも。それは昔から否定され続けた、わたくしが言うんだ。間違いない。

 光は、どこにもないから光なんだ。影に隠れたわたくしの人生で唯一光ったユーカリさんに、わたくしの大好きな人に、否定されたら、それこそ……。

 

『アタシがいるじゃん……』

「え……?」

『アタシがいるって言ってんじゃん! 勝手にユーカリちゃん以外いないって言わないでよ!』

 

 光は、どこにもないから光なのであって……。

 

『うっさい! アタシのこと大っ嫌いならそれでいい。だけど、そんなんでアタシはあんたが、ノイヤーちゃんが好きなんだよ! それは否定させない。させてたまるか!』

 

 ヴァルガの灰色がかった雲から一筋の光が落ちる。いや、2本だ。

 1つは目の前のフレンさんに。もう1つはわたくしに。

 

『ノイヤーちゃんにはユーカリちゃんだけじゃない。アタシだっているし、エンリちゃんだって! みんながあんたの光になる! 道標になる! フラれたってアタシたちがいる! だから……ッ!』

 

 光は暖かい。わたくしが、触れていいものじゃないって、そう思ってたのに……。

 また、夢を見ていいんですか? また、あの日の思い出を享受してもいいんですか? わたくしは欲張りだから、ずっと。ずっと求めていたものだから……。

 

 気付けばモビルドールフレンがレギルスNの顔に触れていた。まるで、涙を拭うような素振りをして。

 

「そんな仮面、外そ?」

「…………泣いてる顔は、そんなにいいものではありませんわ」

「アタシだって泣いてるし、おあいこっしょ! ……それに」

 

 ――アタシは、清純で海のように透き通った蒼い瞳が好きだから。

 

 ◇

 

 やったか。なんて言葉は往々にしてフラグである。バアルもどきの爆発の中現れたのは蒼い翼と桜色の翼。そして装甲がむき出しになった黄金色のサイコ・フレーム。

 

『有象無象が……ッ! 僕のガンダムノブレスの装甲を破りやがってッ!』

 

 それは必殺技の一種である空蝉。戦闘不能となる一撃を防ぐ役割を持っているそれは、紛れもなく卑怯者と罵るのに都合のいいユニークスキルと言った方がいいかもしれない。

 黄金の趣味の悪いフルサイコフレームとその剣。まさしくその見た目は、成金と言っても差し支えない。

 

 そんなときだった。もう1機の黄金色をした機体が迫りくるのは。

 

『やぁ姉さん。今ちょーどいいところなんだ。1つ付き合ってくれないかッ!』

「……お断りしますわ」

 

 黄金色のレギルスNは私の前に立つ。それはまるで何か重大なことを口にするかのような重々しさを感じた。

 その甘ったるく、戦場には不釣り合いな雰囲気にその場の全員が察することができた。

 

『まさか……。姉さん、捨てられるのが分かってないのかい?! その言葉を口にすれば最後、友達として扱われなくなる。それが分かってて……』

「少しお黙り!!」

 

 ピシャリとその巨大な体躯でさえも黙らせる声には、明確な意思が乗っていた。

 アウトローだろうが、無法者だろうが、G-Tuberだろうが、そんなのは関係ないと言わんばかりに、黄金色のレギルスNは。ムスビさんは言葉を紡ぎ始めた。

 

「わたくし、夢がありましたの。お嫁さんっていう、口に出してしまえば恥ずかしいような、そんなのです」

 

 その容姿故に、そんな素敵な夢でさえ叶わなくなってしまう。そんな恐怖。

 

「その夢を叶えてくれるかもしれない、そんな相手がユーカリさんでした」

 

 その希望の狭間にあるものは絶望。夢が叶わないと、そう確信してしまったエンリさんとの事実。

 

「ずっと言い出せなくて。もどかしくて。それでも、わたくしは口にします」

 

 怖い。そんな感情が言葉の震えから伝わってくる。

 それでも。だとしても。伝えたいって思ったのだろう。言いたいって思ったのだろう。

 

「わたくしは、ユーカリさんをずっとお慕いしておりました。わたくしと、付き合ってくださいますか?」

 

 私は、ユーカリは、それに答えなくてはいけない。

 すごく残酷で、彼女の心を傷つける行為だったとしても。彼女が前を向くためには必要な優しさ。

 

「私ね、好きな人ができたんです。強くてかっこよくて。でも可愛くて、嘘が嫌いな女の子」

「えぇ、知っていますわ」

 

 その答えは、選ばないという答え。

 私だって口にするのは怖い。関係が壊れてしまうかもって思うから。

 でもムスビさんはそれを超えて口にしてくれた。だったら、相応の。選ばないという優しさを伝えなくてはいけない。

 言葉を口に含んで。ゆっくりと目を開いて、私は言おう。その答えを。

 

「私は、その人が。エンリさんが好きです! 大好きなんです! だから、ノイヤーさんとは、付き合えません」

 

 失恋はいつだって辛い。言った相手も、言われた本人も。

 だけど、前に進むためには必要な傷なんだ。傷ついて傷ついて。それでも立ち上がって、また新しい一歩を踏む。

 それに名を付けるのであれば絆。断ち切られても、もう一度と望むのであれば、固く、強く、結ばれる。

 

「……フラれて、しまいましたわね」

「フッちゃいました」

 

 でも、その声は少し晴れ晴れとしていて。心のどこかではくすぶっていたその炎を誰かが消してくれることを祈っていたかのように見えた。

 そんなの、私の勝手な想像かもしれない。でも、そのぐらいにはノイヤーさんの泣いた笑顔が素敵だった。

 

「でも何故でしょうね。心の奥底で溜まってたヘドロが全てどっかに行きましたわ」

「よかったじゃん、ノイヤーちゃん!」

 

 いつの間にか隣にいたフレンさんがノイヤーさんの背中を叩いて、励ますように口喧嘩を始めだした。

 あぁ、なんか。今が、私が本当に望んでいた未来なのかもしれない。やっと。やっと4人で……。

 

『だぁああああああ!!! 何だよこの茶番は!!! フラれることぐらい分かってただろう?! なのになんで姉さんはそんなに笑ってられるんだよ!!!!』

 

 黄金色の巨人が再び目を覚ます。

 駄々をこねるように振り下ろされたノブレス・ソードを難なく避ける。

 

「紳士として、その態度はお粗末ですわね。姉として、最初で最後の教育を施してあげますわ!」

『出来損ないの呪われた子供の癖に、大層なこと言ってんじゃねぇよ!!』

 

 最後だ。これで最後。目の前にいるガンダムノブレスを叩き潰して、私と私の大切なみんなのために、未来を切り開く!

 ケーキヴァイキング4人が揃った今なら、負ける気がしない!




悲しいも、切ないも。その言葉に乗せて。
くすぶっていた炎は、いつしか消えていた。


◇ガンダムノブレス
フルサイコフレーム製のガンダム・バエル。1/60スケールででかい
正義を体現すべく、バエルをあえて使った悪質なガンプラ。
UCガンダムのデストロイモードに相当しなくても、
様々なサイコフレームの共振効果が見込め、
特にサイコミュ・ジャックなどのようなことができる。
移動するだけでも風圧が強く、ガンプラを蹴散らすだけの力がある。

・特殊機能
フル・サイコフレーム
サイコミュ・ジャック

・武装
ノブレス・ソード
電磁砲
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。