全61話となる予定ですが、それまで読んでいただければ幸いです。
「ムスビさん!」
避けられない。現実は非情である。
被弾したわたくしのダナジンは自壊を始め、そのままAGE特有の桃色の爆発として、宇宙を彩る。
「ムスビ!」
避けられない。現実は非情である。
集中砲火によってダメージを負ったわたくしのダナジンに対して、追撃と言うべき一撃が振り下ろされる。もちろん回避のしようがないので、そのまま桃色花火へ。
◇
「……勝てませんわ」
ユーカリさんの乾いた笑いも、今は少し心の奥底にチクチクと刺さってしまう。
フレンさんのドンマイという慰めも、今は正直追い打ちの言葉にしかならない。
「まぁ、戦績低いわよね」
「うぐっ!」
まだエンリさんの言葉の方がマシと言えるけれど、それでも心に突き刺さるのは変わりないわけで。
はっきり言おう。わたくしは弱い。
アディ、もとい愚弟との共同戦線が崩壊した今、フルトレース型のVR機器もなければ、ある一種の暗示として付けていたゼハート似のマスクもない。
わたくしは、ファイターとして必要なものがなくなってしまったのだ。
「エ、エンリ! そういうのは口が裂けても言わないのがお約束ごとですよ!」
「……ごめん」
「口が、裂けても……」
我がケーキヴァイキング内でのエースは基本的にエンリさんとユーカリさんの2人。だいたいエンリさんが撃墜数を稼いでいるが、ユーカリさんも負けず劣らず、といったところだった。単にユーカリさんのゲームセンスによる賜物と言っていいだろう。
技術で言えばフレンさんも劣っていない。
環境に適応させた4つのセルと全乗っけした火力のクイーンズランド・セル。サポートメカまでバッチリ把握していなければ、恐らく最も厄介な相手といえばこのフレンさんになると思う。
そして、残るわたくしだが、正直あまり戦績がよろしくない。
元々ビルダーとしての素質はあると言われていたものの、ファイターとしてのセンスはからっきし。
暗示まで掛けたレギルスNはノイヤー家との絶縁と共にさよならバイバイ。
今あるダナジン・スピリットオブホワイトも種が知れてしまえば、先手で襲いかかるには適した相手だ。
エネルギー伝達までの時間とダナジン特有の足の遅さ。戦う腕もなければ、反射神経なんてものもない。要するに接近されてしまえば、死なのだ。
「ほ、ほら! ムスビちゃんめっちゃガンプラ作るの上手いし! あれだよ? ダナジンだって『我がご主人さまは手先が器用なお方』とかなんとか言ってるし!」
「手先が器用でもバトルに活かせなければ、意味ないんですわ!!」
ELダイバー特有のスキル、ガンプラの声も勝てなければ意味がない。
フレンさんからそういう話を聞いた試しはなかったが、今それを問題にしているわけではない。
勝ちたい。勝って、自分のガンプラが1番であることを証明したい。
「まぁ。今のフォースの目標があのナツキに喧嘩を売ることなんだから、多少なりとも戦力は増強したいわね」
「でも、ダナジンっしょ? レギルスだってムスビちゃん使いたくないって言うだろうし」
それはそうだ。だって否が応でもあの愚弟の顔がちらつくのだ。こっちから願い下げだ。
だとすれば前任機であるギラーガとか。さかのぼってゼダス。ゼイドラ辺りも捨てがたい、のだが……。
「ヴェイガン機って、基本的に近接ばっかですよね」
「まぁ、フリット編のジェノアスが片手1つで一捻り、みたいなものでしたし、高出力兵器なんてそれこそデファース辺りしか思い浮かびませんわ」
ヴェイガン機はとにかく近接特化の機体ばかりだ。
キオ編の終盤にこそギラーガのビットというオールレンジ対応兵器が生まれたものの、ヴェイガン側としてはそれが限界。それ以上のものはガンダムのデータから技術を奪ったレギルスかそれこそヴェイガンギアしか……。
瞬間。巡るのはAGE最終回に置いて全MSたちが立ち向かったあの凶悪な兵器。
ヴェイガンギアともう1つ対をなすボスとの融合体。わたくしはそれを知っている。そして、偶然にもHGAGEシリーズとして発売された超高級で超巨大なモビルスーツと呼んでもいいのか分からないほどのガンプラが1つだけ存在した。
「……ヴェイガンギア・シド、ですわ」
「は?」「へ?」「ん?」
ユーカリさんとエンリさんの驚く顔と、未だに察しがついていないようなフレンさんのハテナマークが目の前に浮かび上がる。
「あんた、本気で言ってる?」
「ヴェイガンギア・シドって、あのヴェイガンギア・シドですよね?!」
「えぇ。火力にはもってこいですわ」
「一応プラモ化はしてるけど……えぇ……」
「2人とも、なんでビビってんの? ウケるんだけど」
何か琴線に触れたユーカリさんとエンリさんが捲し立てるようにフレンさんにキレつつ説明を始めた。
そもそも、ヴェイガンギア自体がガフランと比べ1.5倍もの大きさである。故に体格差的にも、リーチ的にも強大なパワーを有している。
その上でシドという超大型MSと合体していると言う始末。まぁそりゃ大きいのは分かるだろう。
原作でもAGEのラスボスとして君臨しており、その人気は密かに高いものと思っている。最も活躍の機会が1話だけと、もったいない結果で終わったのだが。
ちなみにこの世界ではHGAGEとしてヴェイガンギア・シドが販売されている。もちろん普通のHGとは比べ物にならないほどの値段になってしまっているが。
「えぇ……ウケる……」
「何ドン引きしているんですか。あなたにも手伝ってもらうんですよ」
「へ?!」
脳内にあるのはベースとなるヴェイガンギア・シドともう1つの元ネタ。
とりあえず明日までに形にして持ってくると言って、その場からログアウト。ユーカリさんの家に直帰してから、わたくしの理想とする蒼の深淵を形作っていく。
あぁ、楽しい。楽しいですわね。創作意欲が駆り立てられるとはこの事。最高にハイって奴ですわ!!
「やべぇよ。ムスビちゃんイカれちゃってる……」
「私も、あんなに楽しそうなムスビさん見たのは初めてかも……」
ドアの隙間からドン引く2人の影も形も気にしない。わたくしはかのシャフリヤールのような天才とは言わないでも、火力と美しさを兼ね備えた最高の『ガンプラ美』を完成させてみせる。待ってなさい3人とも。明日にはとてつもなく素晴らしい原案を持ってきますからね。
◇
翌日。
ケーキヴァイキングのフォースネスト。ロイヤルワグリアの一角において、わたくしはスーツに着替え、メガネをそれらしく身につけてスクリーンの前に立っていた。もちろんメガネは伊達メガネだ。
「……何やってるのよあんた」
「もちろん、イノベイティブでセンセンシャルなわたくしのビューティフルガンプラの草案紹介ですわ!」
横文字を並べているが、これらの意味はあまりない。
ウィンドウを3人のもとに表示させてから、わたくしはこう言う。
「お手元の資料をご覧くださいませ」
「わー! なんかそれっぽい!」
メガネの中心をクイッと上げて、レンズを光らせる。こういう細かい動作をしっかり反映してくれるGBNの技術班には感謝だ。
「やりたかっただけでしょ、それ」
「かっけーじゃん! 後でアタシにもやらしてー!」
キラキラ目で輝かせるユーカリさんとフレンさん。んー、なんという充実感なのでしょう。まるでわたくしがエリート社員にでもなった気分です。
わたくしをジト目の死んだ目で見てくるエンリさんはさておき、スクリーンに映し出された機体名を読み上げる。
「ヴェイガンギア・カオスMAX・シド(仮名)?」
「名前は後で考えますわ」
2枚目のPowerPointで作ったような資料に画面を切り替える。
まぁ要するにだ。ヴェイガンギア・シドととあるカードゲームのドラゴンを組み合わせた火力に火力を載せた機体だと思ってくれれば構わない。
「ヴェイガンギア・シドは攻撃力や迎撃力、機動性に優れた機体だと言っても過言ではありません。近接も遠距離も出来る素晴らしいガンプラです。しかしながらこうとも捉えられます。あまりにも上級者向けすぎる機体であると」
汎用性に優れた、ということは『何でも出来る』ということ。
だがこれを扱いきれなければ『器用貧乏』と言う枠に収まってしまうのは言うまでもない。
何かに尖った機体は、それこそ防御力が弱いなどの欠点はあるにせよ、仕事をしてしまえばそれで役割は完遂できる。いわゆる初級者から中級者向きの機体だとわたくしは踏んでいる。
もちろんコルレルやガプルのようなこれしかできないような機体ではなく、ある程度出来てる上での特化と言う意味ですわ。
ヴェイガンギア・シドはある程度何でもできてしまうが、わたくしが扱うには些か上級者向けがすぎるのだ。だからわたくしは考えた。
「砲撃戦を主体にしましたわ、3枚目をご覧くださいまし」
「へー、レーザーかー」
「って、あんたまたこれなの?」
「サテライトシステムを積んで、羽根からレーザーを照射すれば、大抵の敵は近づいていけず、サテライトキャノンの攻撃を許してしまう、のですわ!」
要するに耐えてから撃ち抜け、ということ。
肥大化した体積にサテライトシステムを積み込み、その上でレーザーウイングと呼ばれる周囲にレーザーを放つユニットを装備。その他諸々を兼ね備えてしまえば、それはもう立派なドラゴン!
「それこそが、わたくしの考えるさいきょうのヴェイガンギア・シドですわ!」
「……ユーカリ、あんたの親友はやっぱり頭おかしいわ」
「ごめんなさい、私もそれは前から……」
「2人とも酷いですわ?!」
エンリさんはともかく、前からユーカリさんはこの機体の素晴らしさに気づいていなかったということ?! 何たる不覚! もうちょっと汎用的な機体にしてユーカリさんの注意を引くべきだったか。
ちらりと二人の隣で座っているフレンさんを見たが、反応は大して変わりはない。
「ウケる~! セッちゃんと同じ発想じゃ~ん」
セッちゃん。火力の妖精なんて呼ばれているフォース春夏秋冬に属する可憐なELダイバーセツのことだ。
密かにあの人のことは意識しているものの、かたやハモニカ砲。こちらはサテライトキャノン。そこには決定的で爆発的な火力の違いがあると考えている。つまり、わたくしの方が上なんですわ! だからこそ高らかに宣言しよう。
「サテライトキャノンの方が優秀なんですわ!」
「ムスビ、わたしは心底あんたのことを怖いと思ったわ」
「ムスビちゃんなら、セッちゃんとタメ張れんじゃないかな」
「頑張ってください、ムスビさん!」
「憐れむような目はおやめくださいまし!!」
◇
「はい、持ってきたわよ」
「まさか持ってるとは思いもよりませんでしたわ」
「積みプラだったの、開封はしてないわ」
数日後、大きな箱を持ってわたくしたちの家にやってきたのはエンリさんだった。
ヴェイガンギア・シド、思ったよりも大きいですわね。ですが、ビルダーとしては引けないところ。いやむしろワクワクしていると言ってもいいかも知れません。
けど、それより気がかりなことが一点。
「どうしてユカリさんの家を知っていましたの?」
わたくしが知っている限り、エンリさんがユカリさんの家に来たことはない。
ユカリさんが招いたと言ったら納得がいくような大した話ではないけれど、聞いておきたかったんだ。
答えは、予想以上に予想していたとおりだった。
「以前呼ばれたのよ、シェムハザを作る時に」
あぁ、わたくしがもたついてる時に2人は関係を進めていたんでしたのね。
「本当に、付き合っているんですね」
「……まぁ、ね。まだ手を繋いだぐらいだけど」
「それでも羨ましいですわ。愛しい人と結ばれるのは」
フラれても、少しだけ消えない炎がある。
もう結ばれることはないって思っていても、もしかしたら、って考えてしまうじゃないですか。
でも言ってましたよね。ユカリさんはちゃんとエンリさんのことが好きと。
「エンリさん。ちゃんとユカリさんを離さないでくださいね」
「当たり前よ。好きなんだから」
少しだけ低い身長のライバルを見下ろす。たった数cmなのに、遠いな……。
「ところではフレンは? あの子の後見人あんたでしょ」
「あぁ、でしたらヴェイガンギアのために使い走りさせてますわ」
「は?」
リレシプの世界はゼイダルスもヴェイガンギア・シドもプラモ化してる