「ひひぃー! 無理じゃないけどむーりー!!」
「今日はもう3回目なんですよ! これくらいなんだっていうんですか!」
「マジ無理めっちゃ病む」
とか言いながら目の前にいるNPDの頭部をビームで吹き飛ばしてゲームセット。リザルト画面へと突入した。
「頼む……今度こそ……ぴゃ!」
出てきたパーツデータは取るに足らない者で、目的のものではなかった。
「マジかよ、もう一周かぁ……」
「あはは……。私もいますから」
さっきから何をしているか。
その答えはヴェイガンギア・シド(仮名)に取り付けるパーツデータ取得のための周回行為だった。
今回っているミッションはガンダムXにおいて、最終決戦の地となった月周辺でのDOOM攻防戦。
目的の品はサテライトキャノンに必要なリフレクターパネルとサテライトシステムの元となる受信機だ。
ガンダムXやDXのプラモデルなどであれば簡単に移植は出来るものの、ヴェイガンギア・シド(仮名)は背中から受信する白ダナジンと同じシステムを採用するらしい。
そのために特殊な、というよりもガンダムヴァサーゴチェストブレイクの素材が必要となる。
要するに、ガンダムヴァサーゴを倒して背中の受信機パーツをゲット! というイメージでいいと思う。まぁ、その確率がえげつないほど低いんだけど。
「これで6回!」
ヴァサーゴの頭にジャベリンを突き立て、そのまま下に振り下ろせば真っ二つ。ヴァサーゴは機能を停止して、その場で爆発。ミッションクリアの表示とともにすぐさまリザルト画面へと突入する。
「ジャベリンありがとね! って言いたい気分だけど、それよかこっち!」
南無南無と手のひらをこすり続け、ここだ! と言うタイミングでリザルトウィンドウを表示させる。
中身は……。サテライトランチャーのパーツだった。
「そっちじゃないんよー!!!」
「まぁ、流石に今日は難しいですかね」
「むぅ……確かにそろそろプラネットコーティング切れ気味だった気がするし。明日また仕切り直しでいっか」
私とフレンさんのログインポイントは違う。
GBNは家からログインが出来るVR機器も存在するのだけど、高くて買えないのだ。
お母さんにおねだりしても、バイトできるようになったらね。という一本押し。
まぁ、私もお小遣いだけでは物足りなくなってきたから、バイトを探さなきゃなって気持ちはあるんだけど、それにしたってフレンさんには甘すぎる。
必要だからということで自宅からのログイン用VR機器を買ったり、必要だからということでミニチュアの家を買ったり。これでは一人っ子時代の方がまだマシだったと言えよう。
思わずため息を付きながらログアウト。
今日はどうしようかな。G-Cafeでちょっと一息付けたい気持ちもあるし。うーん。
「あっ……」
そんな驚きが声から漏れる音に気づいて振り向く。
黒い髪で、私なんかよりも数倍身長の高い男性、ヒロトさんと。隣りにいるのはG-Cafeでよく見かける店員さんだ。
「あ、ヒロトさん! お久しぶりです!」
「お知り合い?」
「うん、ちょっとGBNでね」
彼女かな。なんて邪な考えを持ちつつ、こんな時どうしようかなーと、思考を張り巡らせる。ちょうどG-Cafeで休憩したかったし、お誘いしてみよう。
「あの。少しお話しませんか?」
「うん、そうするよ。最近噂になってるらしいしね」
◇
「わたしはムカイ・ヒナタです。いつもヒロトがお世話になってます」
「い、いえこちらこそ! 私はイチノセ・ユカリです!」
アセアセと濡れていない額に水滴を感じながらも、きっと年上であろうヒナタさんと挨拶を交わす。
なんというか、ヒナタさんって落ち着いているというか、少し大人っぽいというか。エンリのようなタイプではない、優しいお姉さんという立場が相応しいのかな。包容力があって、周りを見ていて。みたいな。
そんな感じでG-Cafeにやってきた私たち3人は座るやいなや飲み物を注文する。
「自分のアルバイト先で注文するのって、変な感じ」
「そういえば……。たまに見かけてましたけど、ヒナタさんってここでバイトしているんですか?」
「うん。2年前ぐらいからね」
おかげでガンダムのことはいっぱい知ってるんだよ! なんて口走る彼女。
「昔は何も知らなかったのにな」
「ちょっと! 今ここで言わないでよー」
私といるときは寡黙ながらも優しいお兄さんな立ち位置だったヒロトさんが、こんなに親しげに毒づくなんて。
なるほど、付き合っているんだな。これは。
「仲いいですね」
「そうかな。うん、そうかも」
「何年も幼馴染やってないからかな」
幼馴染。そういうのもあるのか。
幼馴染と言えばなかなか恋人関係にならないというのが定説だが、2人はどうなんだろう。見たところエンリと同じぐらいの見た目だし、20歳前後なのかな。その歳まで幼馴染やってるって、結構濃密……じゃなくて親密な関係に見えるな。
「ところで、アウトロー戦役お疲れ様」
「ありがとうございます!」
そっか。後から知ったけど、あの戦争は何人かのG-Tuberの手によって配信されていて、結構広くに伝わっていると聞いたっけ。
私たちとしてはただただムスビさんを失恋させるための戦争だったんだけど、やっぱ規模が大きかったのだろう。エンリも、専スレができてるっていうぐらいには有名になったって言ってたっけ。
「1人の女の子のために戦争を起こす。ロマンチックだよね」
「あはは、皆さんには随分迷惑かけちゃいましたけどね」
あの戦いは色んな人にいっぱい迷惑をかけているのは知っている。
元粛正委員会もまだ活動しているって話だし、それに対抗するアウトローもたくさんいるとのことだ。
でも私たちにとってはムスビさんのための戦争だったから、じき収まってくれることを祈るばかりだ。
それから私たちはいろんな事を話した。
お互いの最近の近況だとか、ガンダムAGE-2シェムハザのことだとか。
キョウヤさんがかなり興味を示しているらしく、どこかの機会でまた会いに行きたいとか言っているのも聞いたり。
ムスビさんがヴェイガンギア・シドを作っていることもついでに言ったら結構驚かれた。
「そっか。あのヴェイガンギア・シドを改造か」
「はい。でもまだ名前が決まってなくて」
この下り前にもした気がする。バッドガールのときだ。
名前が降りてこないとムスビさんが頭を抱えて悩んでいたっけな。
「ユカリちゃんのところはケーキヴァイキングってフォース名なんだよね? だったらヴァイキングギア、とかどう?」
「ヒナタ、それは安直すぎないか」
「えー、素直な方が覚えやすいよ! ユカリちゃんはどうかな?」
ヴァイキングギア・シド。ヴァイキングギア・シド。ヴァイキングギア・シド。
「いいですね!」
私は親指を上に立てながら、キメ顔でそう言った。
いいな、ヴァイキングギア・シド。まさに海賊らしいじゃないですか! アウトローの中のアウトローって感じ、好みです。
「ほら、言ったでしょヒロト!」
ヒロトさん、何も言わずに微妙に嫌そうな、でも安心したような顔で「いいんじゃないか」と口にする。
後で報告しなきゃな。ヴァイキングギア・シド。それがムスビさんの新たなる機体名だ。
「本当に仲がいいですよね。お付き合いなさってたりするんですか?」
だからこそ口が緩んでしまったのはどうしようもないと思うんだ。
例えば別に聞かなくてもいいかな、って関係性を口に出して質問してしまうぐらいには。
その返答は……。2人とも異なっていた。
「そんな! 付き合ってるだなんて。わたしたちはそんな関係じゃないよ! まぁ、でもそう見られているんだったら、嬉しいかなーなんて」
「付き合ってはないかな」
そんな関係じゃないよのあとから尻込みするように消えていくヒナタさんの嬉しいのだろう言葉と、ヒロトさんの塩対応。なんという温度差。ひょっとして片思いなのでは?
「ヒナタは……。いや、この話はもういいんじゃないか?」
いや、微妙に頬を赤らめてるし、照れてるって言った方がいいのか。これは脈アリだ。ヒナタさんもっと押しちゃえ!
どうしよう。フレンさんの気持ちになってきた。この恋のようなものの行方、私は知りたい!
「じゃ、じゃあせっかくですし、連絡先交換しませんか?!」
「いいよ。俺からはあまりメッセージ来ないかもだけど」
「ヒロト。LINEの返事、ちょっと遅いんだもん。だからすぐ来なくても気にしないでねユカリちゃん」
熟年夫婦と言うべきかな。それともヒロトさんのことをよく見ているからなのかな。
やっぱり気になるし、くっつけたい。フレンさんの気持ちになったのはこれで2度目だけど、分かった気がした。うん、これは危険な果実だ。
連絡先を交換した私たちはG-Cafeでゆっくりと時間の流れに身を委ねるのだった。
◇
『何だこの弾幕ッ! ぐああああああ!!!!』
蒼白く光る閃光。無数に結ばれる死の線は近づいたものを問答無用で蒸発させる。
宇宙空間の常闇にさんざめく蒼いビックバンはまさしく一つの星とも勘違いしてしまうような激しい熱を帯びている。
見たものを恐怖させ、同時に熱と質量を持って撃墜される。
『サテライト、来るぞ!』
「遅いですわ! 『混沌のシグマシスバースト』ッッッ!!!」
咆哮のように開かれた口から溢れ出すのは白き星の輝き。否。それは熱をまといし死の灰。威力カオスMAXな叫び。溢れ出る、サテライトキャノンのビーム。
通った後の射線上には誰もいない。そう、何一つ。岩のオブジェクトでさえも。
『ば、化け物……?!』
曰く、その見た目は蒼き龍であったという。
ヴェイガンギア・シド改め、ヴァイキングギア・シド。ムスビさんのガンプラが完成した瞬間だった。
◇
「対戦ありがとうございました!」
「いやぁびっくりだよ。あんな化け物と相手するなんて」
「ふふ、それは結構。作った甲斐がありましたわ!」
相当ごきげんなのか、ムスビさんは手の甲を口元に寄せて、よくある似非お嬢様の笑い声をエントランスロビーに轟かせていた。
ヴァイキングギア・シドの試運転に選んだのは、最近やっと受けれるようになったフォース戦だった。
手っ取り早く対人戦で慣らした方がいい結果を得られる。というエンリの脳筋的発想にムスビさんが同意。そのままフォース戦を何戦か行った、というものだ。
結果は全戦全勝。エンリの接近戦もそうだが、特に輝いたのはムスビさんのヴァイキングギア・シドだ。
大きいと言うだけでまず威圧感を与えられる。懐に飛び込みさえすれば、と言う発想も尻尾のカオステイルや腕のビームサーベルで両断。砲撃戦はフェザーミサイルとビームライフル。さらにはサテライトキャノンにレーザー砲と。とにかく巨大なのをいいことに火力を乗せまくっていた。
私たちがハムスターした甲斐あって、出来上がったこのヴァイキングギアはある意味ケーキヴァイキングの象徴なのかもしれない。なーんてね。
「やはり火力こそが正義ですわね」
「まーたなんか言ってるよ。でもそんなアホなとこも好きー」
「っつかないでくださいまし!」
2人の進展は相変わらず。
というかムスビさんが逆に距離を取るようになったので、状況は微妙に悪化していると言ってもいいかもしれない。
これから2人がどうなるのか。それを見守りながら、私たちも少しは進展できるといいんだけどな。
「エンリ、私のこと好き?」
「っ! 何よ突然」
「フレンさんの好き好きムーブ見てたら、ちょっと気になっちゃって」
「面倒くさい彼女してるんじゃないわよ」
面倒くさい?! 私、面倒くさいって言われた?!
そのぐらい察しろと、そう言いたいのは分かるけれど、私だって求めたいときは求めたいんですよーだ。
「分かるでしょ、それぐらい」
そう言って、彼女はそっと手を握ってくれた。
恋人繋ぎじゃないのは、人がいる手前なのか、それともまだその領域に達していないだけなのか。
言わなきゃ伝わらないこともある。だけど、仕草だけでそれを伝えることだって出来る。のかもしれない。
握った手をぎゅっと握り返して愛を伝える。私も好きですよ、って。
徐々に芽生えつつある恋を、離さないようにそっとぎゅっと胸の奥底で抱えながら。
ハァイジョージィ。ヒロヒナはいいぞ
◇ヴァイキングギア・シド
名前の由来はケーキヴァイキングの繁栄を込めて、ヴァイキングの名を借りている。
ヴェイガンギア・シドを元ネタであるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン並みに蒼くしながら、機動性の代わりに砲撃戦を主に置いたムスビの新たなるガンプラ
とあるファイターが操るヴェイガンギアKのレプリカから改造されている。
白ダナジンと同じくサテライトシステムを積んでおり、ビームバーストストリームに代わる『混沌のシグマシスバースト』が可能となっている。
また、シド部分から分離が可能で、本機体の性能が著しく低下するものの、行動は可能になっている。
・特殊システム
サテライトシステム
分離
・武装
カオステイル
ビームサーベル
フェザーミサイル
ビームライフル
『混沌のシグマシスバースト』
サテライトキャノンである。
レーザーウイング