「クリエイトミッションを作ろう!」
突然そう言い始めたのは他でもないギャルのELダイバーだった。
「アタシ思ったんだよねー。ウチらって、全然お互いのこと知らないって」
「そんなことは……」
結成してからおおよそ3,4ヶ月と言っていいケーキヴァイキングは、結成自体はしていたものの誰かさんたちのせいでまともな活動はあまりできていない。
最近だってムスビさんのヴァイキングギア・シドの制作とテストだけで1ヶ月かけているのだから、フォースらしい活動というものはフォース戦かフェスぐらいなもので、大きなものには参加していなかった。
「じゃあエンリちゃん。ムスビちゃんの好きな食べ物は?」
「……サラダチキン」
「違いますわ」
「じゃあトマトジュース」
「なんで今日のお昼ごはんをサラッと突いてくるんですか」
ごめんなさい。私もムスビさんの好きな食べ物は分からないかも。
なんだろう。キャビアとかフォアグラとかそういったオシャンティーでゴージャスな食材たちだろうか。お高めなやつの。
「結局なんなのよ」
「トマト系ですわね。煮込みハンバーグもありです」
やっぱりトマトじゃないですか?!
なんですかそのトマト推し。あー、だからトマトジュースばかり飲んでるんだ……。
長らく謎だった事と不思議な納得感と共に、私の脳内ノートにムスビさんはトマト好きであるということを書き記す。
「ね? いい感じにスッキリするっしょ?」
「まぁ、トマトなら納得ね」
「むしろ何だと思われていたんですか……」
さて。フレンさんが仕切り直すようにパンっと手のひら同士を叩く。リーダー、私なんだけど。と思いつつ、事の発端であるフレンさんに問いかける。
「つまり、親睦を深めたいからクリエイトミッションを作るってこと?」
「そーそー! 題して『追憶のアウトローたち』みたいな」
「追憶のアウトローたち……!!」
魅力的な単語に思わず尻尾を振ってしまうが、ここはクールにならなければ。そう私は仮にもこのフォースのリーダー。堂々たる振る舞いこそがギャングの頂点たるボスの役目。クールに……。
「やりましょう!!!!!」
「うわ声でっか。どんだけ張り切ってんのさ」
「本能には逆らえないのね」
「可愛らしいですわね~」
人をただの獣と呼ぶなかれ。私は素直だって言われたいのだ。あと、身体が勝手に反応するから、仕方なく可愛らしいことをしているんです。そこは間違ってはいけないんですよ?
というところで、ケーキヴァイキングを代表するクリエイトミッションを作ることになりました。
まずはどんな内容のミッションにするかというところからだ。
ミッションとは言ってもいくつか種類がある。探索なり討伐なり無双系なり。とにかく型となるミッションの種類を決めなければ先には進めないのだ。
「それは最初に決めてたんだー! 連戦系にしない?」
「連戦系、まぁ無難ですわね」
「すみません、連戦系ってなんですか?」
GBN歴はだいたい4ヶ月ぐらいだけど、まだまだ知識が足りていない。もう一度言うけどどこかの誰かさんたちのせいで、ろくにGBNを堪能していないのが原因なのだ。2人はもうちょっと反省してほしいですね。
連戦ミッションとは複数のWAVEから成るステージを1つずつ攻略していき、全部クリアしたら、ミッションもクリアとなる仕組みだ。
もちろん準備の難易度も跳ね上がるみたいですし、フレンさんの考えていることをやろうとすると、恐らく大事になってくるのがそこに登場するガンプラだった。
「ケーキヴァイキングの思い出をなぞっていく感じ! そうしたらアタシたちのことも知れて、一石二鳥、みたいな?」
「まぁ、悪くはないわね」
「ひょっとして、あのレギルスNを作成しますの?!」
反応は十人十色。いいんじゃないかという声とトラウマをもう一度作成するという嫌な声もある。
ケーキヴァイキングの方針は多数決だ。だから最後の一票を持っている私に白羽の矢が立つわけで。
悪くないし、なんだったらバッドガールとバッドリゲインは四肢の付け替えだけで成立する機体だ。作成する手間はそれほどないので、私としてはエンリとムスビさん次第だった。
エンリのゼロペアーは今の形にするのに1回壊しているため変えは効かない。一からの作成となる。
ムスビさんのレギルスNも、言ってしまえばあれはノイヤー家のガンプラ。ミッションを作るとなれば、一度作成する手もがあるわけで。
でも思い出づくりはしたいし……うーむ。
「返事は今じゃなくていいよ。アタシは今回足手まといになりそうだし」
クリエイトミッションでのNPDガンプラは基本的に現実で作成する。
だから人間の1/12ぐらいのサイズしかないフレンさんでは、作成に参加することができない。だから無理言ってのお願いだったのだろう。
「わたくしも少し考えさせてください。レギルスNを出すとなると、正体もバレますから」
それもそうか。ほぼほぼバレていると思うけど、一応絶縁という形で今を過ごしているのだ。ノイヤー時代のレギルスNは出せないとなると、うーん。どうすれば……。
考えをまとめている最中に、私とエンリはガンダムベースの閉店時間になってしまった。
一度リセットすれば、案外いい考えが浮かび上がるかもしれないか。
そんなノーテンキなことを脳裏に宿しながら、私たちはGBNという電子の世界から現実世界へと浮上した。
◇
帰り道。エンリと二人っきりになる数少ないチャンス。
……というか、まだ呼び捨てが慣れないっていうか。すぐにさん付けに戻っちゃいそうでおっかないなぁ。エンリ、絶対落ち込んじゃうだろうから。
「どうかした?」
「……あ、いえ。エンリと出会ったときのこと思い出してて」
あのときはAGE-1だったなぁ。旅の始まりで、歩き始めた第一歩がまさかの初心者狩りの遭遇。まったくやになっちゃうよね。
そんな時助けてくれたのが黒いツインテールの髪の毛を揺らした女の子。
前までは追うだけの背中が、今ではこうして隣りにいてくれる、私のヒーロー。
まだまだ隣の距離は遠いけど、それでもどんどん近づいているのは感じる。
「あのゼダスよね。チョロかったわ」
「あはは、エンリ強いから」
「GPDの経験があったからよ」
それからエンリと戦ったこともあった。
さながらディグマゼノン砲に飲まれるフラムとオブライトさんみたいで少しかっこいいかもしれない。なーんて、結局私がやれたのは足止め程度だけだったな。
それからフレンさんと出会ったり、チャンプとお茶会したり。
フォースネストにエンリのお兄さん、ユウシさんとユメさん。サマーフェスも印象的だったな。
でも幸せ絶頂なら後は下るしかなかった。
「ナツキさんとは、いつ決着をつけるつもりですか?」
「……あいつ、ね」
エンリの復讐の相手であり、怒りに任せた戦闘で大敗を期した蒼翼のサムライ。
そんな相手と戦うために自らを追い込んでいったエンリと、それを止めるために手を引くことを止めなかった私。
きっと、今でもシコリは残っているんだと思う。
私がしたことはと言えば、みんながそばにいるって言っただけ。復讐をむしろ推奨しているんだもん。変な話だよね。
「春夏秋冬からフォース戦のお誘いはきてるんでしょ?」
「バレてましたか」
「向こうはわたしたちのこと相当気に入ってるみたいだから」
タイミングさえ言ってくれれば、必ず日取りは決めれるところまでは行っている。
だけど、それにはエンリの覚悟というか、気持ちの問題があって。
今はどんな気持ちなんだろう。怒り。もしくは失望。それともまた別のなにか。
私がエンリに恋をしていたら、言えたのだろうか。恋人だろうと、踏み込めない一歩はある。彼女自身が進まなければいけない一歩もある。それまで、手伝うことができるだろうか。
「クリエイトミッションを作り終わったら。そうしましょう」
「エンリ、大丈夫なんですか?」
彼女はクスリと、街灯で照らされた顔で笑う。
「大丈夫よ。あんたがいてくれるから」
何度かあった、エンリの笑顔。その全てが私には美しく見えて。
でもどこか儚くも見えた。なんでだろう、なんて考える必要はあまりない。多分不安なんだ。言葉では言えても、心は追いつかない時がある。エンリは自分自身を励ますために、私を安心させるために誤魔化す。
なんだ、エンリだって嘘つきだ。
フリーだった私の右手で心配ないよ、と逆に励ますようにそっと手を添える。
少しだけ驚いたような表情を浮かべ、目を閉じる。
「はい、私がいます」
「……ありがとう。ごめん、ちょっとだけ身体貸して」
断りを入れつつも、許してくれるって思ってるんだろうな。それだけエンリが愛してくれている証拠は少しだけ重たくも、気持ちいい暖かさだ。
エンリは私の手を引いて彼女の胸元へと誘導してくれた。
腕を背中に回して、そっと私と密着するように。この音、エンリの心臓の音かな。すごく早鐘を打っている。緊張してるんだ。
「わたし、怖いわ。もしナツキが本気で戦ってくれなかったら、と思うと」
「はい」
「結局ナツキに劣等感を抱いてるのよ。ずっと。GPDのときから、今までずっと」
それは、どれだけの重荷だったのだろうか。
頑張っても頑張っても頑張っても。常に前にいるのはライバルで。
手を伸ばしても、走っても届かないその背中を彼女の不調によって偶然にも追い越してしまったときの絶望感が。失望が。劣等感が。
私も腕を回して抱きしめる。大丈夫だよって。安心させるみたいに。
「ごめん。わたし、強い女じゃないから」
「知ってます。人一倍努力家で、クールに装ってるくせにすぐに照れちゃって」
「う、うるさい」
「強いのに、誰よりも敗北を知っている。そんなエンリが好きなんです」
顔を胸に埋めて、心臓の鼓動を耳にする。先程よりも、少しだけ鼓動が遅くなっていた。
この好きが、恋なのか憧れへの同情なのか。そんなはもう分からない。
ただ1つ言えるのは、この好きが偽りではなく、本物の愛であることだけだ。
「ユカリ、絶対勝つわ」
「はい。エンリなら絶対できます!」
愛の熱とぬくもりを冷やすように、名残惜しく離れる。
でも。願わくば。もっとエンリとこうしていたかった。これが恋なのかな。もう分かんなくなってきちゃった。
恋心はまだ分からないけど、愛というやつだけは少しだけ分かる。
それは今まで持っていたものとさして変わっておらず。ただ相手の為を思うこと。それが愛なんだと思う。
だから、私はエンリを愛している。この世界の誰よりも、エンリのことを思っている。
「……帰りましょう。私もゼロペアー作らなきゃだし」
「エンリ、それじゃあクリエイトミッションに?!」
「勘違いしないで。スペアってことよ」
これはこれは素直じゃないこと。
まぁでも。そんなところがエンリらしいや。
◇
「フレンさん。作りましょう!」
「よしきたー!」
クリエイトミッション作成は意外とすんなり通ってしまった。
ムスビさんもあくまで他人なのだから、レギルスNを作ったって何も言われないだろうという豪胆な意見からこの意見を押し通す。
まぁ、ケーキヴァイキングを語る上でアウトロー戦役は絶対に欠かせないものですからね。
そんなこんなで、ガンプラやらフィールドの作成やらを進めていく。
最初はVSゼダスM5機。続いてゼロペアー戦。フレン戦に、ちょっと飛んで2度目のゼロペアー戦。
そしてアウトロー戦役時のVSケーキヴァイキング、と計5戦作ることになった。
「意外と戦ってないですわね、わたくしたち」
「他にも戦ったでしょう、兄さんとか」
「ベルグリシとは二度と戦いたくありませんわね」
フレンさんは主にフィールド担当。残りの3人がリアルでガンプラの製作。という役割分担だ。
それぞれ、ゼダスMが私。ゼロペアーはもちろんエンリ。そしてレギルスNは他でもないムスビさんが作ることとなっていた。
……って言っても。私だけ5機っておかしくないですか?!
「何言ってるのよ。世の中にはマグアナック36機セットを作った奴がいるのよ。5機ぐらいなによ」
「そうですわ。あのレギルスNとかいうやつの完成度も馬鹿にならない以上、手を抜けないんですの」
この人達は頭のネジを数本どこかに置いてきてしまったのだろうか。
そう言われても不思議ではないほどのビルダーたちだ。私にとっては10本の腕と10本の足を作るだけでもしんどいというのに。
はぁ。こんなことだったらクリエイトミッション作ろうだなんて言わなければよかった。
「手が止まってる。動かさないと永遠に完成しないわよ」
「なんですのこの磁気旋光システム対応型のビームライフルは。ふざけていますの?!」
「……頑張ります」
そんなこんなでケーキヴァイキングのクリエイトミッション『追憶のアウトローたち』の制作は始まったのだった。
強くて、弱い、そんなあなたを愛してるから