ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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旅の終わり。復讐の終わり


第60話:ヒーローと復讐の果て

 ヒリつくのは戦いの空気を味わっているからか。それとも目の前で交差されるビームサーベルのバチバチによるものなのか。それが分からなくなってしまうぐらい、今、私は闘争本能の赴くままに斬り合っている。

 

「っ……」

『流石、アウトロー戦役の英雄って感じだね』

 

 その割には私の攻撃をすんなりいなしてるじゃないですか。

 ビームサーベルの斬撃にガトリング砲によるファンネルを全て回避。

 代わりと言わんばかりにビームサーベルビットによる追撃が待っている。

 身を捩りながら回避。もしくはビームサーベルで受け流すことで、これを避けきる。

 

 目の前の桜色のガンプラ。ガンダムファイルムの完成度は異常だ。

 ビットの精度も完璧なら、その強度だってとにかく硬い。日々の積み重ねとダイバーの相性。そして何より、完成度に裏付けた自信。

 私が目指すべき場所があるとすれば、迷わずそこを選ぶだろう。

 ハルと名付けられた桜色のダイバーは、間違いなく強敵だ。

 

「だけどっ!」

 

 私だって負けてられない。だってケーキヴァイキングのリーダーだから。

 エンリの恋人だから!

 

 スラスターを開放しながら打ち出すのは腕のミサイル。

 まずは牽制球。ファイルムに到達する前にビットによってミサイルは撃ち抜かれ、代わりに襲いかかってくるのはGNソードガン。

 確かシグルブレイドと同じ実体剣だったはず。まともにビームサーベルで受けても引き裂かれてしまう。なら……。

 襲いかかる剣を進行方向にビームサーベルでスライドするように受け止める。

 もちろんスライドだ、真正面からじゃない。バレエのようにくるりと回転させた身体からのカウンター。まずは左腕、持って行かせていただきます!

 明らかに突いたスキ。そのスキを、ビットが許すはずがない。それも想定内。ドッズビームガトリングとガトリングガンの両方で殲滅しつつ、左腕を持っていくつもりだった。

 

「なっ?!」

 

 左腕はシールドも兼任していたワイヤーブレイドによって防御される。この人、目が別々に動いてるんじゃないよね?!

 

『お返し』

 

 パリィするように弾かれた私と切り替えしたGNソードガンが狙うのはコックピット。

 こんなところで、刺されてたまるか!

 オーバーヘッドキックの要領で空中を一回転。コックピットを蹴り飛ばしながら、GNソードガンによる攻撃をなんとか回避する。

 ハルさん、一挙手一投足が確実に相手を殺すセンスを感じる。伊達に修羅場をいくつもくぐってないように見える。

 だけど、それ故に殺意の方向性は真っ直ぐで、なんとか回避できている状態だ。

 荒い息を整えつつ、目の前の強大な相手に4枚のシールドファンネルを携える。

 

『ユーカリ、だったよね。わたし、あなたと戦えるのを楽しみにしてたんだ』

「え?」

 

 意外だと思った。エンリではなく、私と?

 

『お互い近接型のオールレンジ使い。考えていることが一緒で、なおかつGBNのセンスがいいって思ってたんだ』

「……それはお互い様ですよ。あんな攻撃受けきれないと思ってたので」

『あはは、それは同感。でも予想以上だった』

 

 まるで『今まで手加減していた』かのような言い方。

 呼応するように、ファイルムの右腕からGN粒子が溢れ出しているように見える。

 見上げる視線の先。そこには桜色に満開のごとく咲き乱れる、粒子の花びらが舞い始める。

 

『わたしの全力、見せてあげる。トランザム・紅桜』

 

 目に見えぬ。いや、見える。見えるけれど捉えきれない。

 突如消えたようにいなくなったのは、つまるところ今までのスピードではなく、それ以上の『3倍』のスピードで視界からいなくなったということ。

 センサーは上空。太陽を背に向けながら、GNソードガンを振り下ろす。

 ギリギリのタイミング。だけど避けられないほどじゃない。コックピットの先端、フラッシュアイのドクロに切れ味を残しながら、これをなんとか回避する。

 だがこれだけじゃ終わらない。ビームライフルビットによる連射を加えながら、突進するファイルムの刃を、ビームサーベルでなんとか受け止める。だけど、シグルの刃じゃこれは崩される。

 体制を崩されながらも、右脚でファイルムの胴体を突き飛ばし。加えてレッグミサイルもばらまく。すかさずドッズビームガトリングで連射を加えつつ、シールドファンネルのIフィールドでビーム群を受け止める。

 もちろん煙の先にはファイルムがいない。上じゃない。今度は下か!

 とっさに逃げるように空中へと飛び出す。直後、下からの奇襲、コブラによる斬撃が襲いかかる。

 レッグミサイルはまだリキャストが溜まってない。ビームサーベルで弾き返しながら、なんとか距離を取るべく空中に黒い線が走る。追うのは桜色のコントレイル。今度は左か!

 

「少しはっ! 手心というものをっ!」

『本気じゃないと、ダメじゃん!』

 

 まるで鳥かごにいるような感覚。脱出しようにもシールドファンネルのIフィールドでビット攻撃を無力化するので手一杯。

 シェムハザ自身はファイルムのトランザムによって立ち往生。

 なんて、なんて強いんだこの人は……!

 

『ちぇすと!』

 

 続いて襲いかかるのは、剣だけ?! 弾いた先にいるのは誰もおらず、これが囮だったということに気づくのはコンマ数秒。次の瞬間には左腕がワイヤーブレイドによって挟まれていた。

 手首を回転させてワイヤー部分を切断するも、ワイヤーブレイドによる切断も同時。

 まんまと嵌められたシェムハザの左腕が両断、爆破される。

 爆風に煽られて逃げようとしても、今度はビット。小手部分のミサイルポットを起動して、ビット破壊。残りは3つ。

 背後から迫るのは桃色のビームサーベル2本を持ったファイルム。

 流石にそこまで視界は広くないんだよぉ!

 振り向きざまにフラッシュアイを点滅。残り数センチでコックピット両断のところを回避する。

 強い。その強さに直結するところが相手にすることへの面倒臭さ。

 ねっとりと張り付いて、スキを伺い2本の腕で斬り裂く。それこそが彼女のやり方。強さの所以。

 トランザムの時間はおおよそ3分。今はたったの1分しか過ぎ去ってない。これを後何セットやればいいんですか。

 でもビームサーベル相手なら斬り裂かれる心配はない。なら幾分か勝利の可能性は見えてくる。

 

『安心して、わたしだって鬼じゃない。ナツキの相手の邪魔はしないから』

 

 それは救済の一言だったかもしれない。

 

 ――だとしても。

 

「関係ありません。私はハルさんに勝ちたい。私だってエンリに相応しい女なんだからッ!!」

 

 迫りくるファイルムに対してミサイルを撃ち込むが平然と回避。

 もう慣れてきた。フェイントを掛けながらも、その自前のスラスターで接近戦を繰り広げる。だったら次来るのは恐らく……。

 振りかざした右手を回転させて、擬似的なビームバリアを再現。躊躇しているすきを狙って、ガトリング砲が火を吹く。

 仕留めそこなって、ビームと弾丸は宙を泳ぐけど、今のでだいぶ見えてきた。

 

『……やっぱり見込んだとおりだよ』

 

 受け止めながら、流しながら。集中力全部使い切ってでも、ここでトランザムは打ち止めにさせる。そうでもしないと勝てない。

 激しくなる攻撃の一方で、私の中での逆転案は1つ。それはトランザム切れを狙っての必殺技『スーパーパイロット・プライド』。でなければ勝てないッ!

 残り1分。相手も焦れてきたのだろう。だけど、焦らない。私はまだ勝ち筋を諦めてなんかいない。

 もうシールドファンネルは、ビット群は存在していない。攻撃の最中に全て消し飛ばした。だから後は本体同士のぶつかりあい。

 

「もうそろそろなんじゃないですか、トランザムの有効時間は!」

『……そうだね。通常であればその時間だね』

 

 剣戟を続けて、残り5秒。

 向こうが引いた。それならこちらも打って出る!

 

「スーパーパイロット・プライドッ!!!!

 

 伸びるビームサーベル。出力をMAXにしたこの一撃。もはや受けきれるはずがない!

 

『トランザム・七分咲き!』

 

 居合抜きのように受け止めた右腕の桜色の粒子はまだ生きている。いや、それどころかチカラを増している?!

 

『わたしのトランザムは4分間なんだ!』

 

 3倍×2の6倍のチカラを瞬時に出しているファイルムはまさしく性能の暴力。

 例え必殺技でさえも、その威力にはビームサーベルを折らずにはいられなかった。

 桜色のコントレイルが宙を舞う。ラインを引くように、絶望という名の刃が格の違いというもので斬り捨てる。

 でもッ!

 泣きそうにになりながらもそれでも前に。前に。

 

「前にッッ!!!」

 

 ビームサーベルを投げ捨てて、真正面にいるファイルムへと抱きつき、そのまま地面へと叩きつけた。

 負けは認める。だけど、最後に足止めだけはさせてもらう。

 自分の足に向けて、右腕の最後のミサイルを思う存分叩きつける。

 

『試合に勝って勝負に負けたかな』

 

 狙いは誘爆。レッグミサイルを所持している足に向かって爆発させるのだから、ダメージはそれだけ大きくなる。

 要するに自爆行為だ。それでも足止めになるのなら、私は喜んでこの身を捧げる。エンリの勝利のために!

 

「だから、これでッ!!」

 

 勝利のための狼煙は、刹那の爆発。

 届かないことを知った。個人的には悔しいけど、今日は私のためのバトルじゃない。

 お願い、勝って。エンリ。

 

 ◇

 

 反応。ロストは3つ。そっか、負けたか。

 だけど、目の前にいるこいつを倒してからそっちに行く!!

 繰り広げられるのは刃と爪の交差。殺意のぶつけ合い。

 

『こっちもハルとセツちゃんがやられちゃってるんだ。だからッ!』

「関係ないわ! これはあんたとわたしのデュエルよ!!」

 

 闘志はむき出しにする。それでも冷静に、冷酷に。

 テイルシザーやマシンキャノンを交えた連撃を器用に無力化していく相手に苛立ちと焦りを覚えながら、それでもと食らいつく。

 地の利は向こうが有利。だけどこちらには氷でできた足場がある。これがある限り、地上戦と同じことができる。

 

『やっぱそれきついな』

 

 ミラージュコロイドの光の翼でくるりと後退。そのまま舞台は地上へと落ちていく。

 行かせはしない。何をしでかすか分からない、その攻撃に付き合っているどおりなんてないんだから。

 最短距離で上に氷を生成して、跳ね返るように地面へと飛んでから着地。ビーム砲を連射しつつ、接近していく。

 ここまでビーム攻撃は一切してきていない。熱を凍らせるオーバーフリーズシステムがあるからだろう。だから近づく一方で光の翼を翻して接近することは読めていた。

 爪で受け止めながら、もう片方の腕で氷の壁を生成。続けてテイルシザーでコックピットを狙いに行く。

 もちろんその攻撃は受け止めるでしょう。だから今度は足で回し蹴りだ。

 捉えた。氷の壁に叩きつけたオーバースカイは地面を何度かバウンドしながら、縦回転に吹き飛んでいく。土煙が上がっているけど、そんなのは関係ない。殺意をこの右手に籠めて、脚部に力を込め、一気に放つ。

 こいつで、トドメだ!

 

『そう来ると思ってたよ』

 

 襲いかかるのは3本の刃。

 2本はビームブーメランだとして、もう1つはビームチェーンか!

 オーバーフリーズシステムだとしても、この不意の一撃を受け止められない。ビームブーメランを身体に受け止めつつ、ビームチェーンで握った右腕を中心に勢いよくに舞い上がる。これは、背負い投げか!

 なんとかオーバーフリーズシステムを起動させ、地面に叩きつけられた衝撃で、拘束を解く。まずい、フィードバックで身体が軋む。痛みに震えるわたしの前に突きつけられたのは、ナツキのガーベラストレートであった。

 

『エンリちゃん、乗り越えられたのは認めるよ』

「あんたも、そうだったのね」

 

 ナツキもずっと考えていたのかもしれない。

 わたしとの決勝戦。本気を出しきれなかったことを。

 わたしだけじゃなかったのだろう、決勝戦に悔いが残っていたのは。

 

『私も、ずっと悩んでた。一時期はガンプラも辞めて、もっとちゃんとした子になろうって。でもハルのおかげでこうしてまたここに立ててる』

「そう……」

 

 わたしもよ。ずっと悩んでいた。

 実際のところ2年前からその存在は知ってたし、タイミングを見計らって襲いかかろうとも思った。

 だけど、あんたはあの時からずっと幸せそうだった。そんな相手を見たら、気持ち萎えるじゃない。何のために泣いたのか、とか。何のために復讐なんてしてるのか、とか。

 幸せそうなあんたを見ていて、わたしはずっと戦えなかった。

 

『エンリさん!』

『エンリちゃん!!』

 

 そんな時だったのよ、ユーカリに出会ったのは。

 アホで、犬みたいで、ずっとかわいいって思ってたけど、そんな子がわたしをヒーローって呼ぶのよ。

 愛しいあの子が、ヒーローって。エンリって呼んでくれるだけで……ッ!

 

『エンリ。勝って!』

 

 わたしは、それだけでいい。それだけで戦えるッ!

 右腕はまだ生きている。左腕だって。足だって!

 爪で弾いてから、すぐさまドロップキックを叩きつけ、なんとかその拘束を解除する。

 オーバースカイがすぐさま空中に飛ぶので、その後を追う。

 何を考えているの、ナツキ。高度が上がれば上がるほど、地の利は上回っていくけれど、氷の床がある以上、わたしと空中戦をするのはあまり得策ではない。ならなんで……。

 

『確か、この高度だったよね』

「……あんたも、粋なことするじゃない!!」

 

 高高度での戦い。見覚えがある。聞き覚えがある。

 決勝戦の続き。本気でのやり直し。あの頃とは違くても、その時の想いは1つ。

 勝ちたいという情熱だけ!

 

 氷の壁や床を生成しながら、縦横無尽に飛びかかるも、ミラージュコロイドが幻惑として立ちはだかる。あぁ、これだから面倒くさい。これだからナツキとのバトルは楽しい。

 けれど、リソースをそんなに使っても大丈夫かしら。ずっとは保たない。それはあんたが1番証明していたでしょう!

 

『エンリちゃん、やっぱり強い』

「ナツキこそ。腕は鈍ってないみたいねッ!」

 

 ミラージュコロイドを切っても、以前斬り合いが続く。

 埒が明かない。どちらも、決め手にかけている。だったら……。

 

「ゼロペアー、あんたの本気全部貸しなさい。ここにはわたしと、ゼロペアーと、ナツキがいる。これ以上にないほど素敵な復讐劇でしょう?!!」

『オーバースカイ、あなたの雪辱戦。あなたの後悔が詰まってるこの場所で、本気を出さないのは相手に失礼。そうだよね』

 

「『あんた(あなた)も!!!』」

 

 蒼翼が輝き始め、ゼロペアーの周囲が凍てつき始める。

 瞬間に始まるのは時限強化による激突。トランザムとリミッター解除の小宇宙。

 

 追いつかないわけではない。食らいついても離れないのはお互い様。

 だからこそこの戦いは楽しい。本気と本気のぶつかり合いなんだから。

 複雑に連なる氷の螺旋をすり抜け、オーバースカイが斬る。

 これを回避して、続けて裏拳。これも回避される。だけど、これならどう?!

 

「オーバーフリーズ・クライシス!!!」

 

 氷の炎がオーバースカイのガーベラストレート目掛けて一気に立ち上っていく。

 それがあんたのメインウェポンで、他の兵器はビームを併用するからこの状況において困難を極める。それが刀一本で戦ってきた代償よ!!

 

『痛いところを……ッ!』

「さっさと、落ちなさい!!」

 

 加えてテイルシザー+本体のゼロペアークロー。これだけの攻撃、流石のあんたでも受けきれるはずがない。

 

『しまっ!』

 

 絡みついたのは刀を持っていない腕。わずかでも行動を鈍らせたのなら十分。

 氷の床を駆け上り、爪を突き立て、勝利をもぎとるために。

 

「わたしの復讐の糧になれ!!!」

 

 その瞬間だった。恐らくここが勝負の分かれ道。

 投げたのだ、ガーベラストレートを。

 

 とっさの行動。ありえないはずの、メインウェポンを手放したことへ動揺している内に右肩に突き刺さり角度がずれる。

 腰の部位を貫通させたゼロペアーの爪を早く抜かなければ。その硬直が、最後へのカウントダウンだった。

 

 突き刺されたのは上から。

 おおよそ腰にマウントしていたのであろうビームサーベルを抜き取り、コックピットを貫いたのだ。

 

「……また、勝てなかったわね」

 

 後悔とも言うべきだろうか。それともまた別の……。

 この胸の奥にある奇妙な満足感は戦って負けたから? いや違う。やっと、ライバルとの本気のバトルが出来たから嬉しいんだ。良かった、楽しかったんだ。わたし。

 

『エンリちゃん』

「……なに?」

『楽しかったね』

「……そうね」

 

 あぁ、本当に楽しかった。

 ユーカリ、わたしはもう大丈夫みたいよ。だから安心して。

 でも、後で思う存分……泣いてもいいかしら?

 

 復讐は果たされた。

 でも、それはそれとして、やっぱり悔しいのよ。

 人前で泣いてるところなんて見せたくないけれど、あなたになら。ユーカリになら見せられるから。

 

 青と黒の閃光は倒れる。役目を終えたように。疲れたから休むみたいに。

 お疲れ、ゼロペアー。帰りましょう、わたしたちのケーキヴァイキングに。




お疲れ、ゼロペアー。お疲れ、わたし

次回最終話です。
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