この世には同じ顔をした人がだいたい3人ぐらいいるらしい。
そんなにそっくりさんが多くては、私と同じ顔をした人がエンリを誑かしたらどうなってしまうんだろうか。
ちゃんと私のことを見ていてくれるだろうか。そんなくだらないことを考えながらこのGBNの世界へと意識を移していく。
このGBNだって同じ顔をしたそっくりさんは3人どころか大量に存在する。
例えばチャンプ。クジョウ・キョウヤなんか、リスペクトしたアバターがいくらでも存在しているのだから恐ろしいところだ。
さて、何故こんな話から始めたのかと言えば、こんな噂が私の犬耳に入ってきたからである。
曰く、ケーキヴァイキングに似たリスペクトフォースが最近できたらしい。
フォース名をけーきう”ぁいきんぐ。明らかにかぶせてきたな、というのが私の感想だった。
「なんだか面白いですね、自分たちのリスペクトフォースだなんて!」
「そうですわね。アウトロー戦役からずいぶんと有名になったものです」
さびれたレストランのフォースネスト「ロイヤルワグリア」でゆっくりまったりとドリンクサーバーのオレンジジュースを口にする。
相変わらず掲示板自体は見せてくれないものの、一目置かれている、という空気感はなんとなく私にも伝わっており、エントランスロビーでも度々話題になっているのは耳にしていた。
もっとも、その噂が大抵ケーキヴァイキングのものではなく、私とエンリの関係性であることは少し不愉快ではあるが。
別に公言しているわけでもないし、ガンスタグラムでも露骨な態度は出していないのに。
やっぱりアウトロー戦役での告白が一番広まってたりするのかなぁ。
「迷惑行為さえしてなければ、わたしは関係ないのだけど」
「ストレス発散にその辺のファイターに戦闘けしかけるあなたがそれを言いますか」
「ちゃんと試合の申込はしているわよ。その上で殴ってる」
「アハハ、ウケる~! ほぼニンスレじゃん!」
ドーモ、じゃないわよ! とかつてのノリなんて忘れてノリツッコミをしているエンリ。
昔に比べてずいぶんと丸くなったとは思う。でも今の彼女もそれはそれで素敵だ。もうちょっとかわいらしさマシマシでエンリには笑顔になってもらいたい。
「そいやさー、その件のけーきう”ぁいきんぐとフレなんだけど、会ってく?」
「……あんた、どんだけフレンドいるのよ…………」
「数えんのやめたわ! アハハ!」
それだけいるんだ。前に聞いたときは1000人とか聞いた気がするし、もはやGBNのアクティブユーザーとだいたい友達、なんて言えるレベルなんじゃないだろうか。
改めてフレンさんの人脈の広さに驚いてしまう。これがギャルか……。
けーきう”ぁいきんぐの件を承諾しながら、私たちは彼女(?)たちの返事を待つのであった。
◇
返事は速攻で帰ってきた。
待ち合わせの場所となるテラスエリアで彼女(?)たちの特徴を目で探していた。
けーきう”ぁいきんぐ。全員が全員何らかの獣人モチーフのどこかで見たことあるようなダイバールックであり、リスペクトや要素を兼ねたプチッガイに乗っているとのことだ。
緊張まじり、どんな相手か不安まじり、けーきう”ぁいきんぐの姿を目視すべく出入口の方を見ていると、彼女たちはやってきた。
「わー! モノホンのケーキヴァイキングじゃん! ほら見てよ、チーワワ、トオイ、ネコビヨリ!」
「はしたないですよ。憧れの相手に会えたことは興奮してもよいですが、まずは挨拶です」
「あ、そうだった!」
現れたのは4人。
ビシディアン風の衣装を身にまとった悪そうなチワワ。やさぐれ顔の猫。青目に純白毛並みをしたこっちも猫。そしてゴールデンレトリバー。
濃い。見た目の味が濃い……。それにどことなく私たちに似ている感じがしてさらに濃い……!
思わず胃もたれしてしまいそうな見た目で彼女たちは挨拶を始めた。
「わたしはけーきう”ぁいきんぐのリーダーチーワワです。よろしくね」
「トオイ」
「ダイバーネームをネコビヨリと申します」
「ゴルンはゴルンね! よろ~!」
私たちもそれに合わせて自己紹介するも、にこにこと笑うチーワワさんと仏頂面のトオイさんがどことなく私とエンリに似てるし、ネコビヨリさんとゴルンさんも同じく。
性格まで合わせてこなくてもいいのに。あ、でもネコビヨリさんはムスビさんよりもっとおしとやかというか。礼儀正しそうに見えるほどの令嬢だ。
ムスビさんがそんなネコビヨリさんを見つめて、不可解そうな顔をする。
「どうかいたしましたか?」
「……いえ、どこかで見たような見た目と声色だったので」
「それはそうでしょう。何故なら……」
ネコビヨリさんは突然ウィンドウを目の前に表示させて、指で素早くタップ&スライドをする。
目のも止まらぬ速さで少し目を回しそうになるほどだが、やがてぴたりと止まるとウィンドウをこちらにひっくり返してくれた。内容はムスビさんのおひるご飯だった。
「ムスビ様のムスビ・ランチの大ファンで、よくコメントを残しておりましたから」
それはムスビさんがドン引きするぐらいのコメントの羅列だった。
ムスビさんは昔からガンスタグラムにおひるご飯を載せる癖があり、今日もイチノセ家の温かいご飯とともにトマトジュースが載せられている画像を上げている。
彼女自身に記録以外の他意はないものの、これが意外と好評。
「トマトジュース来た!」とか「最近サラダチキンはないね」とか「ヤク○トじゃないのか」とか。やっていることが全身タイツのレーサーみたいなやり口だからこそ流行ってしまった、というべきなのだろう。
そして目の前にいるネコビヨリさんは俗称ムスビ・ランチに魅了された一人だったのだ。
「最近は栄養を兼ね備えたお弁当やパンの数々。サラダチキンだけだった昔とは違うのですね……」
「なんで親目線なのよ」「ウケる」
「失礼いたしました。生のムスビ様を見れて、五体満足で天に召されますわ」
「よくは分かりませんが、流石にやめていただければ……」
冷や汗を流しながら対応するムスビさん。うーん、珍しい光景というかなんというか。
と、そんな彼女たちに割り込む形で金髪サイドテールのフレンさんが画面をのぞき込んだ。
「見して見して~!」
「こちらです。この何とも言えない食事が好きでして」
「あ、これこの前のご飯じゃん!」
女三人集まれば姦しい、なんて言葉あるけど、二人でもそれ相応に賑やかである。
ゴルンさんも加わってムスビさんのおひるご飯を中心にした会議が始まるわけで。出来れば家主である私にも声をかけてほしいところなんだけど。
「騒がしいわね」
「でもよくないですか? こんなのも」
「……そうね。悪くないわ」
幸せを噛みしめたように笑みを浮かべるエンリ。そうですよね、私たちはあのアウトロー戦役に勝ったからこそこんな日常が待っていたわけで。
あぁ、なんか嬉しいなぁ……。
その瞬間であった。膝裏に何らかの衝撃が走り、バランスを崩した私が、膝をカクンと地面に付いたのは。
うぎゃっ! なんて声を上げながら、そのローキックの主を見る。彼女は、笑顔だった。
「……チーワワさん?」
「なんでしょうか」
「今、蹴りませんでした?」
「蹴ってないですよ」
あれ、今明らかに蹴られた気がするんだけど。
思わずエンリもこちらに声をかけるも、チーワワさんは何でもないと言う。
な、なんだ。まるでポル○レフがDI○のザ○ワールドを使われた時のような感覚。謎だ。何が起こったんだろう。
「……ん」
そうして困惑している間に差し伸べられたのはトオイさんの手。思わず掴んで立ち上がらせてくれる。
でも依然として何が起こったかは、分かってない。
「何があったんですか?」
「あのチワワに蹴られたのよ」
「へ?!」
エンリにいい顔をするチーワワ。やや胸の奥でモヤっとした感情を抱きながらも、トオイさんの話を聞く。
ざっくり説明すると、そこまで大事ではない。チーワワさんはエンリの隠れファンであり、知れっと近づいた私のことを泥棒わんこと評して、夜な夜な私の写真に対してあんなこと(酷い事)やこんなこと(酷い事)をしているのだとか。
要するに、チーワワさんは私のことが嫌いなのである。
「いやでも、告白してきたのはエンリの方ですし……」
「それ、絶対あのチワワの前で言うんじゃないわよ。絶対キレる」
予想できた。今のローキックだけでも鋭かったのに、ハイキックやドロップキックなんてされた日にはガンプラに乗ってないのに撃墜判定を受けかねない。
……でも、それはそれとして目の前で行われている光景をよしとすることもできないわけで。
天秤にかけるのは自分の身か、自分の心か。どちらかに従えばどちらかが傷つく。どちらにBETするのか。そんなのは決まっていた。
トオイさんにお礼を言ってから、私はエンリの隣に行って、ポケットに突っ込んだ腕をひったくるように胸に寄せた。
「なっ?!」
「ユ、ユーカリ。いきなりどうしたのよ」
「……エンリは私のです」
敵視するのは目の前のチワワ獣人。エンリは、私のものであるという自己意志。恋人特有の嫉妬。この女にだけは譲りたくないという絶対なる決意。
「……へぇ」
今、エンリを賭けた戦いがー! なんて起きることはなかった。
「あんた、調子に乗りすぎ」
「いたっ!」
トオイさんがやってくると、チョップがチーワワさんの頭部に突き刺さる。
「な、なにさぁ!」
「人様のカップルに迷惑をかけるなって言ってるのよ」
「でも、この女がエンリさんを!」
「でもも、だってもない。逆の立場だったら不服でしょ」
「うぅ……」
な、なんか。意外と問題が片付きそうな状態だった。
というか、トオイさんって結構面倒見がよかったりするのだろうか。
「ごめんね、この馬鹿が変なこと言って」
「い、いえ……」
けーきう”ぁいきんぐも、私たちとは負けず劣らず味が濃いのでは。見た目だけではなく、その中身までも。なんとなしにそんなことを思いながら、私はエンリの腕の感覚を味わっているのだった。
「……ところでユーカリ。その腕いつまで組むつもり?」
「あっ……、すみません……」
「いいのよ。たまには、いいものね」
そんなことを言われたら、胸の奥がポカポカと暖かいものが充満していく。
腕に顔をすり寄せて、彼女からの愛を感じ取る。初めてやったけど、今後もちょこちょこやってみようかな。
「この女っ!」
そんな罵倒も、今は心地いい気分だ。
女の子はだいたい嫉妬すると可愛い
◇けーきう”ぁいきんぐ
彼のアウトロー戦役を勃発させた(自称)ヴィランフォース、ケーキヴァイキングをリスペクトしていると思しきフォース。
リーダーはビシディアン風衣装を纏ったチワワが務める。
また他にもやさぐれ面の猫や、蒼い瞳の純白猫、ゴールデンレトリバーをメンバーとして、どこかで見たことあるようなメンツが目白押し。
各個の乗機はそれぞれリスペクト元ダイバーやその乗機の要素をふんだんに詰め込んだプチッガイの改造機。
◇チーワワ
ビシディアン風の衣装を纏った獣人型のメスチワワ。
どことなくユーカリを思わせる見た目で、無害そうに思わせるが、実際にはユーカリよりも普通にワル。
ユーカリを何故か敵視しており、出会い頭にドロップキックで蹴り飛ばすぐらいには嫌い。
リアルは大学でエンリの隠れファンをやっており、しれっと近づいていたユーカリを泥棒わんこと見ている。ちなみにエンリは知らない相手。
ガンプラはAGE-2ダークハウンドを真似たプチッガイ。ダークッガイ。
◇トオイ
やさぐれ面の獣人型猫。とにかくツンデレ。
どこかエンリを思わせる見た目で、その通りきつい性格だと思いきや、エンリにとにかく甘い。
チーワワとは違い、ユーカリにも優しく軽く手懐けている。
チーワワの静止役は基本この猫。そのためフィジカルはかなり高め。
リアルはチーワワの友達。エンリのことは知っているけど、そうでもなくない? という常識人。ちなみにエンリは知らない相手。
ガンプラはゼロペアーをモチーフにしたプチッガイ。ゼロッガイ
◇ネコビヨリ
青い瞳をした純白の猫型獣人女。
なんとなくムスビをイメージした見た目ではあるが、めちゃくちゃ礼儀正しく、お嬢様という言葉が相応しいほどの令嬢。
ガンスタグラムに上がるムスビ・ランチの大ファンであり、ノイヤー時代から追っている筋金入り。サラダチキンが出ると発狂する。
リアルは???(後日公開予定)
ガンプラは白ダナジンをモチーフにしたプチッガイ。スピリッガイ
◇ゴルン
ゴールデンレトリバーの見た目をした女性型獣人
変にフレンをイメージしている見た目で、めっちゃ犬っぽい。けーきヴァイキングが近づくとしっぽをブンブン振る。