このGBNには二種類のダイバーが存在する。
料理が出来るダイバーと、出来ないダイバーだ。
「つーことで、君たちに集まってもらったのは他でもない! 料理は好きかー?!」
歓声とブーイングが鳴り響く客席とコメント欄。そして参加者たち。
「春夏秋冬ちゃんねる特別企画! フォース対抗料理コンテスト、始まるよー!!」
今度は歓声100%の賛歌。
誰がやる。何をやる。そんな答えを一発で解決してくれるような、そんなタイトルコールに私は嫌な予感しかしていなかった。
◇
時は数日前にさかのぼる。
今日もいつも通りにミッションでもやろうかなー、と考えていた矢先に1通のメールが届く。
誰からだろう。該当の誰かと表題を見て少し驚く。
「ナツキさんからだ。なんだろう」
答えはナツキさん。春夏秋冬とのフォース戦の後、エンリには内緒で密かにフレンド登録をしていたのだ。
そしてその表題は『挑戦状』と叩きつけられていた。内容はこんな感じだった。
仰々しくってごめんね! でも一度やってみたくて!
と、さっそく本題なんだけど、近々春夏秋冬とケーキヴァイキングのコラボ配信をしたくて。
内容はバトルとかじゃないよ。いや、バトルって言っていいのかな。
料理対決って感じで、2on2のタッグ戦みたいな。
いいと思ったら、返事お願いね! それじゃあよろしくー!
これをエンリに伝えたら、即決で、叩き潰すの一言だった。あの人のことどれだけ嫌いなんだろうか。
◇
「ナツキ、あんたには負けない」
「こっちもだよ! お互い、正々堂々と、戦おうね?」
ガッチリと握手するナツキさんとエンリ。
その視線は好敵手を見るような目線。バチバチと震える視線のエフェクトは雰囲気だけではなく本物。文字通り力いっぱい握りつぶそうとしている2人の握手を見て、私とハルさんはどことなく嫉妬の目線に満ちていた。
「……エンリ、ナツキにお熱だね」
「そうですねー……」
と言うか。これ配信されてるんですよね。
目の前でフレンさんとムスビさんがサングラスかけて司会してるし、審査員席でモミジさんとセツさんが腕を組んでいる。ノリノリすぎませんか、この人たち。
「見てよ。あそこの4人、全員料理できないからあんな席でふんぞり返ってるんだよ」
フレンさんとムスビさんがそんな感じなのは知っていた。
でもモミジさんとセツさんも大概彼女たちの同志だったとは。
「べ、べっつにー?! アタシらだってできるしー! でも司会いないとダメじゃん?! そゆことー!」
「そーだよ! セツたちは何も悪くないもん!」
「そこのEL2人、それが墓穴掘ってんぞ」
「「うぐっ!」」
まぁ、ELダイバーって基本的に料理作らないだろうからね。ある意味そうしないと決着がつかないから、妥当な判断と言えよう。
問題はうちのエンリも、料理下手だということだ。
お題はお母さんの献立、というものであった。
王道なところでいえばハンバーグとかカレー。あとは肉じゃがと言ったところだろうか。
「エンリは何かあったりしますか?」
「……コンビニのお弁当じゃダメなの?」
「え?」
思わずエンリの顔を見た。不思議そうな顔をしている。それが当然というべきな感じの。
……嘘でしょ。
「えっと……。エンリってこの企画の趣旨分かってますよね?」
「当然じゃない。正々堂々と、美味しいコンビニお弁当を手にすればいいことでしょう」
ハルさん、私たちはもうダメかもしれません。私たちの負けでいいです。
そんなことを考えて、ちらりと対戦相手のキッチンを見ると、そこには何故か座らされているナツキさんが1人。これにはエンリも首を傾げずにはいられなかった。
「……あんた、何してるのよ」
「ハルに手を出すなって言われたから」
「あんた、この企画の趣旨分かってる?」
ブーメラン。投げた刃が今ナツキさんとエンリの頭に突き刺さっている。
これは、なんというかどっこいどっこいな勝負の気がしてきた。
「エンリ、勝ちたいですよね」
「もちろんよ。相手がナツキなら尚の事」
「でしたら、私の指示に従ってください。絶対。ぜーーーーったい! 美味しい料理を作れますから!」
「え、えぇ。分かったわ」
正直マルチタスクはそこまで得意ではないけれど、これも子供が出来たときの予行練習ということにしておこう。エンリとの子供ができるかは分からないけれど。
作る料理はハンバーグ。だから用意するのは玉ねぎとひき肉。そしてパン粉と牛乳卵ぐらいだ。エンリにだって、玉ねぎをみじん切りにすることぐらいできるはず。
「みじん切りって、縦に切ってから乱雑に切るイメージ?」
「えっと、もっといい方法があって……」
玉ねぎを大きめに切るか小さくして風味を出すかは人それぞれだ。
だけど総じてその方法は間違っていると、料理ができる人は皆言うだろう。
「まずは縦に切れ目を入れて……」
そんな事を考えながら、エンリの後ろから包丁を握る手に私の手を添えて説明する。
縦に切れ目、横に切れ目を入れて、切れ目の入っていない方から切っていけば自ずとみじん切りになっていく。私はよくフードチョッパーを使って手間を半減させているものの、料理初めてのエンリがそんな裏技を覚えてしまうと、料理の醍醐味が減ってしまう気がするし。
考え事をしているのか、エンリの動きが少し鈍いのを感じる。
「どうしたんですか?」とエンリの顔を伺うように下から彼女を見る。
「あ、あんた。気づいてないの?」
「何がですか?」
「……後ろから抱きしめられて、動揺しないわけないじゃない」
「え?」言われて数秒。気づいてコンマ0秒。
よくよく考えたら、エンリとそんなに接触する機会なんて本当になかった、というか、まだ手だってそこまで繋いだことなかったのに、その。後ろから抱きつくように手を添えてたとか。そんな、そんな……。
「あーっと、どういうことかな、解説のムスビちゃん!」
「教える素振りを見せて後ろから抱きしめる。カレカノ密着の常套手段ですわね。全く破廉恥ですわ!」
「これには壁のシミくんちゃんも大ダメージ! 時代はナツハルよりもユーエンかー?!」
なつはる? ゆーえん? なんですかそれは。
というか、そんなつもりで密着したわけじゃないですから! 破廉恥とか言わないでくださいよぉ!
「これが若さか……」
「ハル、たかが2歳差でしょ。私も手伝おうか?」
「ナツキはダメ。絶対ダメ」
「うぅ……」
それからエンリが再起動するまで数分がかかった。
◇
数十分してから出来上がったのはハンバーグと野菜サラダの各種。
ハンバーグは渾身の出来、とは言えないものの、エンリと私の血と涙の結晶なので、美味しいはず。
野菜サラダはちぎって盛り付けてドレッシングを掛けただけなので、手間はないものの、お母さんの献立というにはやはりお手軽感は強いだろう。
「ハンバーグと……ハルちゃん、これは?」
「青椒肉絲。お母さんがよく作ってたんだ」
対するナツキハルペア(ハルさんが10割調理)もお手軽感を滲み出させた一品であった。
ピーマンと豚肉があれば、後は適当にパプリカを入れたのであろう青椒肉絲は恐らくクック◯ゥ製。味は一定ではあるものの、その出来は一定以上。そしてお手軽さで言えば、調理後の洗い物を除けばピカイチと言ってもいい。
「……やりますね」
「そっちこそ」
謎の握手を交わして、お互いの健闘を称え合う。
それとは別に後ろでエンリとナツキさんがまたいがみ合っているけれど。
「もらったわね、この勝負」
「いーや! 私のハルの方が美味しいし!」
「そんな事ないわ。わたしのユーカリの方が美味しいに決まってる」
少し引き気味で、その様子を見ていると、審査員が席に座る。
「では、食べさせてもらおう~おう~ぉぅ……」
「なんでエコーなんよ」
「だってそれっぽいと思ったし!」
「あーはいはい。じゃ、いただきます」
「いただきまーす!」
まずはハルさんの作った青椒肉絲から。
何故か手元に持っていた白米と一緒に食べ合わせて、その味を噛み締めていく。
もしゃもしゃと言う言葉が相応しいセツさんの食べっぷりと、どこか大人を感じさせるモミジさんの食べ方が印象的であった。
「んー、やっぱハルの料理って感じだわ」
「ハルお姉ちゃん、面倒くさいからってすぐきせーひんのソース使うもんね」
「悪かったな」
「いやでも、お母さんの献立ポイントは高いよ」
やはり私の推察通り、ポイントはかなり高かった。
後で聞いた話だが、少し味を濃いめにしていたのだとか。こう言う細かいこだわりがまたお母さんらしいと言えばらしいポイントの1つだ。
続いてハンバーグ。またもはもしゃもしゃ食べるセツさんは見ていて和んでしまう。
かたやモミジさんはハンバーグを箸で切り分けてから口に運ぶ。
「ん。単純に美味しい」
「ねー! 玉ねぎはちょっとゴロゴロしてるけど!」
「うっ……」
エンリが分かりやすく凹む。
まぁ、あれだけ玉ねぎを大きめに切っているたのだから仕方ないか。
でもちゃんと火は通っているはずだし、なんだったら玉ねぎの風味がまた美味しいはずなんだけど、どうなんだろう。
「でもこの素朴さも少し料理下手なお母さんみを感じるよ。玉ねぎの大きさもその愛情故だと思えばまた……」
気付けばモミジさんはハンバーグを完食。セツさんもまた同じく、といった様子であった。
「んじゃー、勝敗を決めよー! おふたりとも、どっちがよかったかパネルに出してね!」
「せーの!」という言葉とともに、開かれたパネルはどちらもユーカリエンリペアだった。
私たちは顔を見合わせて、思わずハイタッチ。なんともあっさり決着が着いてしまったものの、勝ちは勝ちだ!
「決め手はやはりハンバーグで?」
「それもあっけどー……」
二人してナツキさんの方を見ると、こう言った。
「サボりはないわ」「ないねー」
「いや。だってハルがキッチンに立つなって……」
「だって、ナツキお世辞にも料理が上手い下手とか、そういう次元じゃないんだもん」
結局はそんなところ。どうやらナツキさんはメシマズ班の1人であったらしい。
やいやいと言葉をかわす3人に対して、エンリは視線を向ける。
ただ一言。ナツキさんを鼻で笑ったエンリに、彼女が今にも爆発させそうな感情をエンリに向けた。
「エンリちゃん、表出よう。食事の後は運動ってよく言うでしょ?」
「上等じゃない。今度こそ勝ち星もらうわよ」
その場でガンプラを召喚すると、明後日の方向へと飛んでいってしまった。
これ、どうやって閉めればいいんだろうか……。
「あ、あはは……。そんじゃ!」
フレンさんは逃げるようにその場でウィンドウを起動して、配信終了ボタンを叩き押した。あ、そんな感じでいいんだ。
スキあらばいちゃつく