ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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これはとあるメイドの独白


EX9:メイドのわたくしと白い貴女

 与えられた仕事を全て終えた私は自室に戻り、1人思いに浸っていた。

 

「……ムスビお嬢様」

 

 私はネコヅカ・ヒヨリ。またの名をネコビヨリとしてGBNにログインしているしがないメイドであった。

 どこのメイドであるか。そのぐらいは推測に足るものだろうが、一応答えておくとしよう。

 アウトロー戦役。一躍有名になったケーキヴァイキングの裏側で、悪い意味で有名になってしまったノイヤー家。私はその家のメイドである。

 故に、家を出ていくまでのムスビ様の様子を逐一把握していたし、監視するようにと命じられていた。

 

「いろいろ、ありましたね」

 

 日記帳の端をなぞりながら、今のムスビ様を見て私事のように喜ぶ。

 彼女の異様な差別は目にしていたし、ノイヤー家のある種の宗教じみた考え方に絶句した覚えがある。

 しかし、それを見て見ぬ振りしていたのはなにかすれば自分が解雇されるかもしれない、という恐怖があったからだろう。だから、そういう意味ではユカリ様にも感謝の言葉しかなかった。

 そして、この前けーきう”ぁいきんぐとして彼女と再会し、確信した。

 もうノイヤー家という鎖のような縛りがないということに。

 

 思い出を振り返るため、日記帳をペラリとめくれば、そこにある文字列を読み進めていった。

 

 ◇

 

 彼女は白髪碧眼という、生まれ持ったアルビノの容姿によって、呪われた子としてこの世に生を宿した。

 当時のことは流石の私も分かりかねるところではあったものの、先輩のメイド長から聞いた話によれば、一時期ムスビ様を人知れず闇に葬るか否か、という審議にまで掛けられたとのことだ。

 結局あまりにノイヤー家の第一子が生まれるとのことで触れ回ってしまった手前、消すなんてことは出来ずに、そのまま放置していた、ということだ。

 

 そして、あれはおおよそムスビ様が小学校に上がったときのことでしょうか。

 私、ヒヨリがメイドとしてこの家に入り、ムスビ様のしつけを任せられたのはこの時期でしょう。

 ひと目見た時、私は打ち震えました。

 白い髪に、青い瞳。白い肌と、少しだけ痩せこけた肉。

 読書をしながら、どこか浮世離れした少女に私は一目惚れしたのです。

 こんなに美しい人がいたのか、とか。こんな相手に何故強く当たらなければならなかったのか、とか。そんな事ばかり考えていた。

 メイド長も見た目なんてどうでもいいのにね、とお小言を口にしていたのを覚えている。

 その程度には、素敵な見た目だったことを覚えていた。

 

 私と比較的歳が近いせいもあって、身の回りのお世話は私がやることになっていた。

 ただ、彼女は恐ろしいほど静かで、お世話もいらないぐらいにはしっかりとした子だった。

 

「あっ……」

「どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでもありません」

 

 この歳の子供にしてはありえないぐらい、ワガママを言わなかった。

 それが何故か、なんて恐ろしいほど分かってしまう自分が怖かった。

 優しくしようとしても、ご主人様がいる手前、手を差し伸べることは出来ない。私は、ただ彼女を見守ることしか出来なかったのだ。

 

 中学校に入学して数日後。彼女はこの屋敷を去っていた。

 理由はムスビ様の母が、もうこの家にあなたはいらない宣言をしたからにほかならない。

 この頃、アディ様も生意気に育ち始めていたし、手のかかる子供は1人で十分だということだったのかもしれない。

 それでも付き人であった私は続いて監視という役目を仰せつかった。

 理由なんて大したものはなく、たまたまそばにいたメイドだったからに他ならないだろう、という推察。

 だが彼女はそれがきっかけで、徐々に変わっていった。

 学校で何があったかは分からないが、ご機嫌な気分で帰ってくる日もあれば、大きな紙袋を持って家に戻ってくる姿を何度も見ていた。

 失礼であるとは思いつつも、彼女の部屋に侵入してみれば、ガンプラと呼ばれるおもちゃが棚の上に鎮座していたのだ。

 その時、私は感動した。あぁ、神様は親に見放された子供でも、楽しみを与えてくださるのだと。

 

 怪我をして帰ってくることもあった。

 少しずぶ濡れだったり、チョークの粉のようなものも。

 それでも、表情は明るかった。私は察することが出来た。友達ができたんだろうと。

 よかった、ちゃんと彼女にも友達ができたんだって。心の底から安堵の声が出てきたんだ。

 

 ◇

 

 時は過ぎて、ムスビ様がGBNにログインするようになってからも、私の仕事は終わらない。

 同じくGBNにログインして彼女の動向を観察していた。ネコビヨリって名前だって、名字と名前を組み合わせただけで他意はなかった。

 彼女は受け入れてもらえていた。それはそうだろう。ネットゲームの世界で見た目が多少変だったとしても、その上を行く方がいらっしゃるのだから、日常茶飯事と捉えられて、よろしくな、って挨拶するのは。

 私は、それだけで嬉しかった。ムスビ様が受け入れられて、新しい毎日を手に入れることができたんだって。

 

 その日、珍しく友達と遊んでいた。ユーカリという名前らしい。

 恐らく彼女のリアルの友達なんだと思う。良かった、と言う安心感が心に襲ってくる。

 もしかしたらこのお仕事もしばらくしたらおしまいなのかもしれない。

 フォース『ケーキヴァイキング』が結成されてからはそんな風にも考えていた。

 

 だけど、ある日を境にムスビ様の表情がまた暗くなった。

 理由は簡単だ。ユーカリ様がエンリ様という方と付き合い始めたからだ。

 初めての友達である彼女が他の誰かとお付き合いすることとなった。一見すれば祝福すべき内容であるのだが、ムスビ様の場合は違った。

 自分を追い詰め、あのアディ様の提案に乗ってしまったのだ。それが自分を利用する使用人目線から見ても卑劣な男であることを知っておきながら。

 辛かっただろう。苦しかっただろう。手を差し伸べられたらどんなによかったのか。

 でも私にはその覚悟がない。二人で共に逃避行するなんて言う勇気は、どこにもなかった。

 

 私はそのままお屋敷に戻ってムスビ様のお手伝いをすることとなった。

 プラシーボ効果とフルトレース型のVR機器。負担が大きいはずなのに、それでも流される姿が痛々しかった。

 

「お疲れさまです、お嬢様」

「あなたは、確かヒヨリさんですよね?」

「えっ! は、はい。お嬢様の幼い時からお世話させていただいているメイドです」

「しばらく見ていませんでしたから。お変わりないようで」

「お嬢様はとてもお変わりになられました。もちろん、良い方向で」

 

 一礼して、その場を立ち去る。

 正直びっくりしていた。私のことを覚えているだなんて。

 交わした言葉は恐らく100にも満たないだろう。それでも覚えていてくださったのだから、これほどメイド冥利に尽きることはない。

 同時に感じる。たった数年で、人は変われるのだと。

 私も、もっとムスビ様の手を引いていれば。もっと敵に立ちはだかっていれば、変わったのでしょうか。

 後悔と懺悔と、それからわずかな希望。

 彼女を変えられたユーカリ様になら、ケーキヴァイキングならこの状況を覆してくれると、確信していたのだから。

 

 そしてアウトロー戦役でそれを覆した。

 ムスビ様の告白と、ユーカリ様による返事によって全て。

 それからはトントン拍子。アディ様はとても厳しいと噂の専用スパルタ道徳のお勉強部屋へと突き落とされた。正直ざまぁ見ろとしか思えない。

 ムスビ様はノイヤー家と絶縁し、このお屋敷を去っていった。そして私のお仕事も。

 本来ムスビ様のお世話だったのに、その当人が絶縁したのだから急な暇をもらってしまったのだ。

 どうしよう。そんな時に現れたのは大旦那様である、ルドゥーガ様であった。

 

「ヒヨリ。君にはしばらくムスビの監視をしてもらう」

「……お言葉ですが、ムスビ様にもうそんな気を起こす理由はないと考えています」

 

 私は心のありのままを伝えた。もう失うものなんてないのだ。仕事だって見つければいい。中卒だから大した仕事には就けないだろうけど、それでも。

 

「理由は2つだ。1つは君の言った通り、ノイヤー家への復讐を本当に考えているのなら今がチャンスだ。報告書に週1回のペースでいい。こちらに情報を渡してくれ」

「…………」

「もう1つは。……ここだけの話にしておいてほしい」

 

 私ははいと、その言葉にうなずいた。

 他でもないルドゥーガ様による、大切ななにかだと感じたからだ。

 

「例え呪われた子供だったとしても、妻が何を言おうが、私の子供なのだ。心配にならない父親はいない」

「……ルドゥーガ様」

「君は最もムスビの近くにいた。だからこれは君にしか頼めない大切な仕事だ。請け負ってくれるか?」

 

 きっとこの思いは絶対に表に出してはいけない禁断の果実だ。

 口に出せば全てが壊れてしまうような、そんな本音。

 仮に嘘だったとしても、そんな言葉に首を横に振ることなんて出来ない。無下にすることなんて、メイドの私にできるわけがない。

 

「もちろんです。この仕事、全うさせていただきます」

「ありがとう。……それでは、頼んだぞ」

 

 ルドゥーガ様は肩をポンっと叩いてその場を去った。

 その甘えた心を置いてきたように。親心を、他でもない私に託したように。

 

 ◇

 

「……婿養子、というのも大変ですね」

 

 ノイヤー家の力関係のトップは現在妻のメルマル・ノイヤーのものであった。

 彼女がムスビを迫害した張本人。どうこう言われるのなら彼女しかいないのだが、特に言及してこなかった辺り、ルドゥーガ様が誤魔化したのだろう。

 

「それにしても、イチノセ様の家に来てからムスビ様は楽しそうですね」

 

 ご近所付き合いという設定でイチノセ家の母からムスビ様の情報を手に入れていた。

 まぁ順風満帆そのもので、私ですらあくびが出てしまうものだ。

 おひるご飯もたまにサラダチキンが登場する程度で、特に問題視される点はない。

 いつもどおり限界リプをした辺りで、ベッドに腰を掛けた。

 

「ムスビ様は、これから大丈夫なのでしょうか」

 

 実質週1の報告書の送信以外はメイドらしいことをしていない。

 これではダメだと思っているが、監視が仕事なのだから仕方がない。

 ムスビ様が高校を卒業して、就職して。ムスビ様、お仕事できるのだろうか。そうしたら私はどこの立ち位置に行けばいいのだろうか。

 これでもお金は溜め込んでいるから養ってあげたい気持ちはある。

 それがムスビ様のためになるかはさておき。

 

「あぁ~、不安です~! どうしたらいいの~!?」

 

 頭を抱えながら悩むけれど、答えは出ない。でないからあとは成り行きに任せるしかないか。

 

「それにしても、今日のムスビ様は可愛かったなぁ……」

 

 けーきう”ぁいきんぐとして活動しながら、今日もムスビ様の動向を監視する。

 お仕事2割、愛でること8割。そんなノリで。




意外と愛されていた、そんな一幕。

◇ネコビヨリ / ネコヅカ・ヒヨリ
リアルはノイヤー家のメイド。ムスビめっちゃ好き。見た目マジフェチズムに刺さりすぎてやばい。けど流石に主人の手前、ムスビには優しくすることも出来ずに少し後悔していた。なので今のムスビとしての活動を支えに生きている。

◇ルドゥーガ・ノイヤー
婿養子としてノイヤー家に迎えられたムスビの父親。
あまりノイヤー家の考えには染まっていないものの、悟られれば当主と言っても何をされるか分からない。そのため一応のところは従っている。
ムスビ絶縁の話は、体良くノイヤーとGBNの縁切りをしたこととムスビの今後を考えての行為であった。

◇メルマル・ノイヤー
諸悪の根源
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