ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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リレーションシップ番外章もラストなので、よく見て


EX11:一緒に描く未来へ

 2年前。私は約束したことがある。

 その日はとても寒かったけれど、そんな気温の変化すら忘れてしまうような、あったかくて柔らかい場所。

 あの日のことを思えば、あの日の約束を思えば、こんな苦行なんていくらでも超えられる。そんなことを考えられてしまうぐらいには。

 

「すぅ……はぁ……」

「いよいよだね」

 

 マフラーの隙間に入り込むようにして1/144スケールの金髪の小さな電子生命体が手を振る。

 

「お邪魔ですわ! 手を振ると、わたくしの視界が阻害されますの!」

 

 白髪碧眼の少女がオレンジ色のマフラーを首に巻いて、案の定邪魔だと言われた小さな隣人をつまんで肩まで持ってくる。

 仕方なく座った彼女は私を送り出すようににっこりと笑う。

 

「まったく。エンリちゃんも来ればよかったのに」

「いろいろ準備があるのでしょう。わたくしにはもう分からない話ですが」

 

 今日、エンリは私を応援しに来ない。

 大学入試の結果が出るのにもかかわらず、エンリは特に見向きもせずに約束を果たそうとしていたのだ。

 私が留年でもしたらどうするの? なんてLINEで聞いてみたら、あっさりと「わたしのところは頭悪いから行けるわよ」なんて一言で蹴り飛ばされてしまった。

 そんなのでいいのかなぁ。なんて思いながら受験していたけれど、実際にそこまで難易度は高くはなかった。こんなにあっさりしていていいのだろうか。という反面、エンリとのキャンパスライフはここから始まるんだ、なんて妄想に夢躍らせる。

 

「じゃあ、行ってきます!」

「えぇ」「てらー!」

 

 その日は雪なんて降らないし、照り付ける太陽は寒々しい風によって打ち消されているし。なんというか、風情がない。枝木だって、もっと緑色だったり桜色に染め上がってほしいものなのに。

 ないものねだりをしてもしょうがない。合格有無の看板の前に立ち、自分の受験番号を探す。

 上から下へ。ここは違う。

 左から右へ。……この辺だ。

 すーっと下に目線をスクロールさせて、そして……。

 

「……あった」

 

 喜びよりも、先にやってきたのは安心感だった。

 慣れない勉強も、慣れない面接も。全部全部頑張った。何のために? 決まっている。私のために。そしてエンリのために。

 人並みから外れて、木の下で待っていたムスビさんとフレンさんのそばにやってくる。

 不安げな表情を浮かべている彼女たちであったが、私がピースサインをすれば、表情が一転する。

 

「や、やりましたわね!」

「やったじゃん! おめでとー!」

「あ、ありがとうございます! えへへ」

 

 代わりに喜んでくれたから、私も後追いで喜びの感情が心の底から滲み出してくる。

 あぁ、私。ちゃんとエンリのところに行けるんだ。

 LINEでエンリに「合格しました」というメッセージを送って、溢れ出る喜びの模様を肌で噛みしめていた。

 

◆エンリ:AM10:47

おめでとう。よかったわね

 

 ◇

 

 その日は迫ってくる。

 受験が終われば、次に襲い掛かるの引っ越し作業だ。

 えっさほいさと自分の荷物を段ボールの中に詰めていく。

 

「ムスビさん! そっちの段ボールください!」

「はいな! フレンさん、ガムテは?」

「こっちだよー!」

 

 要するに、イチノセ家は現在とてつもないほどどったんばったんと、うるさかった。

 

「もう。ユカリちゃんがいなくなるのは置いておいて、ムスビちゃんまで出ていくなんて」

「その節は大変お世話になりましたわ」

「んもぅ! やっぱりムスビちゃん、うちの子にならない?!」

「さ、流石にそれは……」

「お母さんも手伝ってよ! ほら新聞紙!」

「はいはい。分かったわよ」

 

 私を含めて、ムスビさん、フレンさんはこの春でイチノセ家から引っ越しすることとなっていた。

 私は約束を果たすために、ムスビさんとフレンさんは就職先の近くに住むために。

 なんでも、ムスビさんは健康食品関連の会社に入ったのだとか。やっぱりトマトジュースが決め手だったのだろうか。宣伝文句は、これであなたもトマトランチ! みたいな。さすがにないか。

 フレンさんはそれについていく形に。実際紆余曲折あっても、まだ二人はくっついていないそうであるものの、付き合うのは秒読みぐらいの二人の関係に、エンリとやれやれって首を振ってたっけ。

 

 2年。そう、たった2年あれば意外と物事は変わってしまう。

 男子、三日会わざれば刮目して見よ、なーんて言葉もあるぐらいだ。人間は3年あれば簡単に変わってしまう生き物なのかもしれない。

 身長は伸びなかったけど、エンリとも出会って付き合って、本音をぶつけ合うぐらいには成長したと思う。まぁ、まだキスのその先。というか、いろいろ、その……。えっちなこととかは一切やれてはいないのだけど。

 って、そんな話はいいんです。

 段ボールにコップやら食器やら。あとは入学祝いの包丁とまな板だったり。

 今度は私が作らなくちゃいけないもんな。ちょっとだけ面倒くさいかも。

 

「ムスビさんもちゃんとお料理上手くなりましたしね」

「当然ですとも! レシピ通りちゃんとやれば大抵なんとかなるのですわ!」

 

 この二年で目覚ましい進展をしたと言えば、ムスビさんの料理の腕前だった。

 メシマズ女子から、丹念にお母さんが教え込んだ結果、レシピ通りなら失敗はしない、というぐらいまで成長していた。ここまで来るともう料理上手と言ってもいいかもしれない。

 

「アタシもメシマズムスビちゃんを見ずに助かるよ」

「今度の夏はそうめんから冷やし中華ぐらい行けますわ!」

 

 妙に広くなった自分の部屋と、段ボールの山に少しだけ名残惜しさを感じる。

 言わば巣立ち。イチノセ家という巣から、明日へと旅立つために準備を進める。そっか、もうすぐなんだよね。

 エンリ、今からそっちに行きますからね。

 

 ◇

 

 荷物は先に引っ越し先に届けておいた。

 だからあとは挨拶をして、電車に揺られて今は見知らぬ、それでも今後は知っていくような、そんな駅に降りる。

 町並みは意外と静かで少しさびれている。エンリらしくていいのかな、なんて気持ちでいっぱいになったり。

 ここが八百屋で、こっちが肉屋。あっちがショッピングモールなのかな。あー、お客さんはあっちに吸い込まれてしまったのか。なんて少し失礼なことを考える。

 それでも、こっちの方が少しだけ安いみたいだし、自転車で走ればすぐと考えれば、結構安く済ますことはできるだろう。

 

「えーっと、確か……」

 

 エンリにしては意外と高いマンションを選んだ気がする。

 とは言っても、外側はコンクリートが少し剥げていたりと、築年は結構経っているのだと思う。

 エレベーターで昇ってだいたい3階。少し動作の遅いドアが開けば、該当の部屋にピンポンを鳴らす。

 どたどたと駆けってくる足跡と、高鳴る鼓動。

 そうだ、今日からここが……。

 

「お待たせ、待ったかしら?」

 

 ここが、エンリと一緒に住む家になるんだ。

 

「えっと……ただいま」

「……ん。おかえり」

 

 初めての帰宅を交わせば、段ボールで少し邪魔な通路を通っていく。

 約束。それは2年前のファーストキスの時に交わした約束。

 私が高校を卒業したら、一緒に暮らそうっていう、そんな他愛のなくて、大切な約束。

 それが今、果たされたんだ。

 

「どうかしら」

「すごいです! いい感じです!」

 

 部屋の中を眺めながら、二人の巣に感動する。

 キッチンは綺麗だし、ダイニング兼リビングだって、割と広い。

 多分ここでガンプラを作ったりするんだろうか、なんて思うだけで胸が張り裂けそうになる。

 そして別室の寝室。……あれ?

 

「エンリ、これって……」

「……ごめん。金銭的にこれしか無理だったの」

 

 ダブルだと思い込んでいたベッドは何故かシングルサイズで。

 意外と値が張るとは知っていたし、想像通りならシングルの倍の値段ではあると思っていたけれど、まさかお金が足りない、なんてことがあろうとは……。

 

「ユカリ、寝相は?」

「び、微妙ですかね」

「分かったわ」

 

 私の手を握って、真面目な顔で彼女はこう告げる。

 

「あんたを抱き枕にするわ」

「なんでですかぁ!」

 

 本人曰く、そうした方が行動を制限されてきっと寝相がいずれよくなるだろう。という希望的観測であった。

 そんなんでよくランカーやってますねこの人。まったく、愛おしくなっちゃう。

 

「嫌かしら?」

「嫌とか、そういうのじゃないです」

「じゃあどうして?」

「……だって」

 

 ――エンリに抱き着かれたままだったら眠れなくなっちゃうし。

 細々と小声で告げる、私のワガママはちゃんとエンリの耳に届いていたらしい。

 彼女がどんな意味でこの言葉を捉えたかはさておき、堪らなくなってしまうのは確かだった。

 念願の引っ越し初夜。私だって、人並みにそういう知識はあるし、気にならないと言えば嘘になるわけで。

 

「ユカリ、いいのね?」

「え、えへへ……。ふつつかものですが」

 

 ちゃんと使う人はわきまえている。

 エンリだから言えることであって、他の誰かには絶対言わない。嘘であっても、絶対に。

 

「あんた、ホント……」

 

 手を引かれて、ポスリとエンリの胸元に収まる。

 心臓の音が耳に届いて。まるで、初めて告白されたときと同じような感覚。あぁ、なんかこの感覚、すごくいい。

 息を吸って、エンリの匂いを肺いっぱいに充満させる。

 名残惜しそうに吐き出して、それからもう一度胸に顔をうずめる。

 

「大好きです、エンリ」

「……わたしもよ」

 

 胸元から彼女の顔を見上げて、ありのままを愛を伝える。

 1人でもがいていたエンリはもういない。

 過去の記憶が絡みついて離れない、そんな彼女は振り切って。

 震える手も、何もなかったと思っていた掌も、今は私の手がある。

 

「……エンリ」

「ユカリ」

 

 引っ越しの荷物なんてとうに忘れて、二人の空間へと入り込んでいく。

 これから住む私たちの愛の巣。二人だけの秘密の花園。

 何度目かはもう忘れた静かな口づけを交わして、私たちは約束を果たした。




その口づけは、私たちを結ぶリレーションシップ

今回でリレーションシップバトローグはこちらでおしまいになります。
次回作は今月中に上がればいい方でしょうか。
ストーリーの本筋が練りきれてないので、しばらく時間をいただければ幸いです。
続けて読んでくださう方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします!
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