One And Only ~勇気の炎と清楚な風~   作:疾風のナイト

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剣と魔法の世界で跳梁跋扈するモンスター。
人間の財産ひいては生命を脅かすモンスターを討伐する冒険者。
冒険者が集う冒険者ギルド。
ここに1人の冒険者がいた。


第1章

 硬質な石材で舗装されている道、整然と並んでいる石造りの建物群で構成される街。街は多くの人が行き交い、活気で満ち溢れている。

 石の街と表現できる場所において、他の建物よりも一際、巨大な建物が建っている。この巨大建物の名前は冒険者ギルド。ここに冒険者と呼ばれる者達がいる。

 冒険者ギルドに所属する冒険者達達であるが、斡旋された依頼を達成することにより、金銭的な報酬を得ることで生計を立てている。

 依頼者から提供される依頼。その内容は害獣駆除等の日常の延長線上に位置するものもあるが、とりわけ目を惹く依頼がモンスター退治である。

 動植物と共に自然界に生息しながらも、人間に牙を剥く異能かつ異形の生物。それがモンスターの存在である。凶暴なモンスターを退治すること、これが冒険者特有の仕事と言っても過言ではない。

 一見、華やかにも見える冒険者達の仕事。その反面、危険と隣り合わせの職業であることも事実だ。依頼失敗による損失や怪我は勿論、最悪の場合には死に至ることもある。

 だが、様々なリスクを孕みながらも、冒険者になる者は後を絶たない。ある者は金銭的な報酬を得るため、ある者は社会的な地位を確立するため、ある者は憧れの感情を満たすため、まさに志す動機は人それぞれであった。

 冒険者ギルド内に設置されている受付。この受付では依頼を預かり、冒険者に斡旋を行うことをしている。従って、この受付は依頼者と冒険者を繋ぐ窓口であると言っても過言ではない。

 そして現在、冒険者ギルドの受付において、受付の女性と中年の男性が会話をしている。ギルドの制服に身を包んだ受付の女性であるが、清涼感を演出するためか、髪を短くとめている。

一方、中年の男性に関しては、特に目立った武装はしていないため、冒険者に仕事を提供する依頼者であることが分かる。

「ここでの依頼はモンスター退治で間違いありませんね?」

 懇切丁寧な姿勢で応対する受付の女性。様々な依頼人と冒険者を相手にしてきたのか、終始、落ち着いた様子で冷静な表情を崩すことがない。実際、この会話の主導権を握っているのも、本来であれば、聞き手役である受付の女性だ。

「そうだ」

 受付の女性からの確認の言葉を肯定する大柄な体格の中年男性。さらに詳細な内容を語り始める。

 自身が居住する農村において、農作業に従事している中年の男性。話によれば、ここ最近、モンスターが農地に現れ、荒らし回っているのだと言う。おかげで農作物の収穫にも支障が生じている状態だ。最悪の場合、領主への年貢を納めることができないかも知れない。

「農村に出現するモンスターの種類、依頼達成で支払われる報酬を教えていただけますか?」

 中年男性からの話を一とおり聞き終えた後、現場に出没するモンスターの種類、支払われる報酬額を尋ねる受付の女性。これらの点が依頼の価値が決める要となるからである。

「出現するモンスターはティアル、依頼料は銅貨5枚だ」

「そうですか、難しいですね」

「……!」

 眼前の中年男性に対して、ハッキリと宣告する受付の女性。一方、宣告を受けた中年男性の方は愕然となる。

 各地に出現するモンスター。多種多様なモンスターの中には、凶暴な種族もいれば、比較的大人しい種族もいる。

補足しておけば、中年の男性が口にしたディアルと言うモンスターであるが、動物の鹿を思わせる容姿や特性が特徴的である。確かに人間よりも身体能力は上回っているが、モンスターの部類の中では、そこまで危険な存在ではない。

 強大かつ危険なモンスターを討伐すること、つまりは多額の報酬と難易度の高い依頼が好まれる傾向にある。

 対して、農村に出没するモンスターは大して危険ではない上、依頼人から支払われる報酬も多くはない。従って、冒険者が積極的に引き受ける依頼ではない。

「依頼そのものは受付させていただきます。こちらの依頼書に記載の上、報酬の銅貨をお預かりします」

「……分かりました」

 受付の女性から指示を聞いた上、書類に必要事項を記入する中年の男性。その後、受付に書類を提出した後、報酬となる銅貨を預け、冒険者ギルドから出る。

なお、受付の女性の口より、非情な事実を告げられたためか、帰りの足取りは虚ろなものであった。

 すると、先度の中年の男性と入れ違うようにして、1人の男性が慣れた様子で受付の前に現れる。

 受付の前に現れた男性。年若い年齢、出で立ち等により、冒険者であることが容易に想像できる。引き締まった長身、腰のある黒髪、端正な顔立ち、その一方でどことなく荒んだ雰囲気が印象的だ。まるで道半ばして志を諦めたといった感じである。

男の名前はヴレイブ、冒険者ギルドに所属する冒険者である。それなりの経験と実績があるため、等級的には中堅に近いとも言えるだろう。

 今回、ヴレイブが冒険者ギルドを訪れた理由、モンスター退治の依頼が提供されているかを確かめるであった。

「あ、ヴレイブさん。ご苦労様です」

 にこやかな表情をもってして、ヴレイブのことを迎える受付の女性。冒険者ギルドで受付業務に従事する以上、所属する冒険者の顔と名前を覚えておくことは必須事項であった。

「今日はどういったご用件で?」

「依頼探しにちょっとな」

「依頼探しですか……それならば、先程、新しい依頼が……」

「ああ、近くで聞いていた。遠慮しておく」

 受付の女性の案内に苦笑して答えるヴレイブ。何故ならば、今しがた説明を受けた依頼であるが、ヴレイブには魅力的なものではなかったからだ。

「邪魔したな」

 受付の女性に告げた後、冒険者ギルドから出ていくヴレイブ。もっと魅力的な依頼があれば、引き受けようとも考えていたが、どうやら見込み違いのようだ。

 冒険者ギルドの建物を背にして、独りで考え込んでいるヴレイブ。アテが完全に外れてしまったため、これから先、どうしようかと考えていた時であった。

 次の瞬間、人の気配を察知するヴレイブ。冒険者として経験を積んできたためか、自分に向けられる気配に鋭敏になっていた。

 そして、ヴレイブの目の前には今、1人の男の子が立っていた。質素な服装を見る限り、農村の子どもであることが分かる。

冒険者ギルドから出てきたヴレイブを見た途端、身体を震わせながらも懸命に口を開く男の子。まるで自身の内の中に秘めた勇気を振り絞っているかのようだ。

「あ、あの、お、お兄ちゃんは冒険者ギルドの……」

 緊張によるものからか、言葉がぎこちない男の子。服装や話の内容、察するに男の子は先程の依頼を持ち込んだ男性の子どもらしい。

「ああ。俺は冒険者ギルドに所属する冒険者だ」

 自分が冒険者であることを伝えた後、男の子の言葉に耳を傾けているヴレイブ。いつもであれば、無視することも十分に可能である。ただ、何かが無視を決め込むという行為を消し去っていた。

「お願い。僕達の村を助けて!モンスターのせいで困っているんだ。どうか助けて!お願い!」

 堰を切ったような勢いをもって、ヴレイブに懇願する男の子。男の子には金も地位もない。だからこそ、一生懸命にお願いするしか、他に残された道はなかった。

 必死な男の子の姿を前にして、困惑の表情をしているヴレイブ。本来、この依頼は得になりそうもないため、引き受けるつもりはない心情である。

 だが、どうしてだろうか。ヴレイブの乾いた心が揺さぶられる。その昔、捨て去ったものが戻ろうとしている感覚だ。

「分かった……俺に任せておけ」

 気がつけば、ヴレイブの口からは承諾の言葉が漏れていた。この時、自分の軽率さを呪うが、一度、口にしてしまったことは引っ込めることができない。

「本当!?」

 ヴレイブから承諾の言葉を聞いた瞬間、これまでの悲壮な表情が一転、男の子の顔には希望の光が戻る。

「ああ、本当だ。だから、早く家に帰るんだ」

 再度、自身の意思を表示した後、男の子に帰宅を促すヴレイブ。周辺の治安が安定しているとはいえ、ここは子どもが滞在するには相応しい場所ではない。

「うん!」

 ヴレイブの言葉を素直に受け入れ、自分の家に帰っていく男の子。足どりは軽くなっていた。

 男の子が帰宅する様を見届けた後、冒険者ギルドの方に踵を返すヴレイブ。先程の依頼を引き受けるためであった。

 

 数日後、冒険者ギルドの南方に位置している農村。この場所に農地が広がっているが、所々、無残に荒らされてしまっている。

荒れた農地付近には今、ヴレイブの姿があった。そう、あの後、ヴレイブは依頼を引き受け、ティアルを退治するため、この場所にいるのだ。

さらにヴレイブの傍には立会人として、依頼人の中年男性、大人の男衆の姿もある。なお、男の子は年少のためか、立会人の中にはいなかった。

「あの、本当に何てお礼を言えば良いのか……」

「そこまで気にすることじゃない」

 冒険者が依頼を受けたということもあり、終始、感激の表情をしている中年の男性。一方、淡白な表情で受け答えしているヴレイブ。

 本来であれば、ヴレイブ自身、今回の依頼を引き受ける予定はなかった。年端もいかない子どもに懇願されたため、成り行きで引き受けることになっただけである。このヴレイブの選択に関して、他の冒険者達はどのような見方をするのだろうか。

 恐らくは他の冒険者は苦笑するだろう。何故ならば、ヴレイブ自身もそうだ。ただ、このまま放っておけない何かがあった。

「さてと……」

 今一度、自身の装備を確認するヴレイブ。現在、ヴレイブの右手には鉄の長剣が握られている。鉄の剣は突出した性能はないものの、癖がなく扱い易いのが特徴である。それでいて安価なので調達も容易だ。

 この他にも、何らかの事情で武器が失われた場合、徒手空拳での戦闘を想定して、両手には手甲、両脚には足甲を装備しているが、これらはあくまでも補助的な装備に過ぎない。

「(それにしても……)」

 今回の依頼に関して、内心、疑問を抱いているヴレイブ。特に疑問点は畑を荒らすティアルのことである。

 確かにティアルは動物や人間以上の身体能力を持ち、農作物を食べる習性があるモンスターである。その一方でティアルと言うモンスター自体、戦闘経験のない人間でも十分に撃退可能である。

 人間でも撃退可能なティアルが田畑を荒らしている。その一方で農村の人間達が困っている。この現状にヴレイブは違和感を覚えずにはいられなかった。

 現場でティアルが出現するまで待機するヴレイブ。相手の出方を待つのも冒険者の立派な仕事である。

 やがて、ヴレイブ達のいる場所に近づく足音が聞こる。恐らく件のティアルの足音なのだろう。即座にヴレイブは敵対者のティアルを確認作業に移る。

「何っ!?」

 農地に現れたティアルの姿を見た瞬間、驚きの声を上げているヴレイブ。何故ならば、想定したものとはあまりにも異なっていたからだ。

 ヴレイブの目の前に出現したディアル。一般的に知られている姿より一回り大きく、周囲から荒々しい気配を発している。この点だけでも十分に異常だ。

特に注目すべきは頭部から伸びた角である。単に大型化しているのみならず、先端が刃のように鋭角化している。勢いよく突き立てれば、相手を串刺しにすることも十分可能だ。

 何故、ここまでディアルが凶暴化しているのか。その原因は定かでない。単なる偶然の可能性もあれば、あるいは環境による変異かも知れない。

 ただ、いずれにしても、今回の依頼に関しては、並大抵の冒険者達は敬遠するだろう。達成が容易かつ報酬額が少ないからではない。依頼の難易度の高さに比べて、報酬額が少な過ぎるからだ。

 即座に鉄の剣を構えるヴレイブ。今回の依頼はティアルを退治して、農地を守ることである。そうであれば、注意をこちらに向けておく必要がある。

 対するディアルもまた、自慢の角を前面に向けている。荒々しい気配も手伝って、その様は猛牛のようである。

「……」

 睨み合うヴレイブとティアルの姿を見て、中年の男性の表情も険しくなる。今の自分達にできることはなく、成り行きを見守っていることしかできなかった。

 

 幕を開けたヴレイブとティアルの戦闘。気配のぶつかり合いであれば、両者共に互角であると言えるだろう。

 そして、ついに痺れを切らした結果、電光石火の勢いをもって、突撃を仕掛けてくるティアル。槍の穂先のような角がヴレイブに迫る。

「くっ!?」

間一髪の局面でティアルの攻撃を回避するヴレイブ。この時、反応が遅れていれば、串刺しになっていたであろう。

相対しているティアル。体格が大柄化しているためか、身体能力もまた格段に行動している。何らかの策を講じなければ、こちらが返り討ちになる危険性がある。

「(一体どうする……?)」

 異常な発達を遂げたディアルと対峙する中、冷静に思考を巡らせているヴレイブ。人間を上回る身体能力を宿している上、規格外な姿をしているディアル。

 戦いが長期化した場合、人間とモンスターとの体力差もあり、こちらの方が不利になるであろう。そうであるならば、短期決戦で決める必要がある。今までに集めた情報を基にして、ヴレイブは頭をフル回転させながら、結論を一気にまとめる。

 ティアルと対峙する中、今一度、剣を垂直に構えるヴレイブ。今のヴレイブの構えであるが、戦いを一気に決めようとする覚悟の表れでもあった。

 互いに攻撃の姿勢を見せた後、睨み合っているヴレイブとディアル。一方、戦いの成り行きについて、固唾を呑んで見守っている村人達。今の村人達には、ヴレイブの勝利を祈ることしかできなかった。

 緊張感が徐々に高まる中、ヴレイブの意思を察知したのか、自慢の角を前方に向け、突撃を仕掛けるディアル。その様は槍を構えたまま突撃する騎士のようだ。

 攻め手になることで勝負を決めようとするティアル、守り手になることで迎え撃とうとするヴレイブ、まさしく対照的と言っても過言ではない両者。

 そして、ヴレイブとティアルの緊張が極限まで達した時であった。運命の歯車は一気に動き始める。

 最初に行動を起こしたのはティアルであった。自慢の角を前面に突き立て、全速力で突進を仕掛けてくる。そのまま、角の先端がヴレイブを捉えた時であった。

「でやあっ!!」

 ギリギリのタイミングを見計らい、電光石火の速さで剣を振り下ろすヴレイブ。それと同時に何かが勢いよく宙を舞う。

 宙を舞うものの正体。それは猛々しく肥大化したディアルの角であった。そう、ヴレイブはディアルの角を根元から切断したのだ。

「!!?」

 ヴレイブの手で自慢の角を切り落とされ、急に動きを止めてしまうディアル。何故ならば、角の根元はディアルの急所であったからだ。

 確かに猛々しい角はディアルの武器である。だが、一方で根元に攻撃を加えられた場合、極端に力が低下してしまうという弱点があった。

 但し、ヴレイブのティアルは環境の影響で変異している。このため、必ずしも定石が通じるとは限らない。従って、一種の賭けでもあった。

 弱点を突かれたことにより、身体の動きが麻痺しているディアル。当然、角が切り落とされたことにより、戦闘能力の全面的な弱体化は免れない。

 だが、逆を言えば、ディアルの弱体化という自体、ヴレイブにとって絶好の機会であった。当然、この好機を見逃すはずもない。

「うおおおおおおおっ!!」

 一気に勝負を決するべく、間髪入れずに剣を突き立てるヴレイブ。次の瞬間、鉄の剣の切っ先がディアルの喉元を貫通する。

「!!!!?」

 ヴレイブの剣が突き立てられた後、ディアルの喉元からは毒々しいまでに黒い液体が噴き出す。勢いよく噴き出た不気味な液体の正体、それはディアルの血液であった。

 人間の流す血液は赤色であるのに対して、モンスターの流す血液は黒色をしている。何故、黒色であるのか、一説には呪いの類とも言われているが、真相は定かではない。

 その場にどっと倒れ込み、しばしの間、痙攣していたものの、やがては生命活動を停止するディアル。そう、ヴレイブはディアルを倒すことに成功したのだ。

「やった!やったぞ!」

 ティアルが倒れたことを見届け、歓喜の声を上げる中年の男性。同じく他の村の男衆も後に続いて、次々と歓声を上げ始めている。

「……」

 無言で物言わぬ骸となったティアルを見つめているヴレイブ。やがて、ヴレイブは無言のまま鉄の剣を鞘に納めるのであった。

 

 ティアル退治から数日後、冒険者ギルドの受付。ここに受付の女性と対面しているヴレイブの姿があった。

「こちらが報酬になります」

「ありがとう」

 受付の女性から報酬の銅貨5枚を受け取るヴレイブ。その後、ヴレイブは書類に受領のサインをする。

「でも、どうして依頼を引き受けたんですか?どう考えても、魅力的な依頼ではないのに……」

「ま、色々とだ……」

 受付の女性からの素朴な疑問にお茶を濁すヴレイブ。これ以上、追求されても面倒であるので、ヴレイブは冒険者ギルドの建物から出る。

 冒険者ギルドの建物から出たヴレイブ。その視界には、いつもと変わらぬ街の人々の生活の営みがある。

「ふう……」

 大きく一呼吸置いているヴレイブ。厄介なモンスターと少ない報酬。結論から言えば、今回の依頼は割に合わないのが正直なところである。

 だが、どういう訳だろうか、こういう依頼も悪くはない。不思議な充実感がヴレイブを満たしていた。

 この時、ヴレイブの脳裏には、遠い昔の出来事が思い出される。何か嫌なことが起こっているのだろうか、困って泣いている女の子。何かに立ち向かっているヴレイブ。

 だが、記憶の内容をはっきりと思い出すことができない。それと同時に何か自分自身の根幹に関わるような気がしていた。

 果たして、自分はどこに向かって進んでいるのだろうか。未来のビジョン、自分のあり方を見通せないまま、ヴレイブは街の人達を眺めているのであった。

 

                                    つづく




皆さん、こんにちは。疾風のナイトです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
久しぶりのオリジナルのファンタジー小説になります。
今回の作品では、これまでの創作活動で培った知識や経験を積極的に取り入れています。
特にデジモン関係や「嵐虎騎士ブイツー」にて、ファンタジー小説に関する知識や経験を蓄積することができました。
今後とも、ゆっくりですが、更新していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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