流は甘いものは好きである。
それは決して小南が菓子類が好きだからという邪な理由ではない。ただ単純に好きだから。それだけだ。
ということで、今日も街に繰り出して菓子を買っていた。決して玉狛に持っていこうとかは考えていない。決して。恐らく。多分。いや、そうかも。
マドレーヌは以前持って行ったから、今度は別なのにしよう。そう考えた所で、警報が鳴り響いた。
「む、何だ」
流はB級隊員である為、訓練外でのトリガー仕様を許可されている。警報はトリオン兵出現のため、流は直様トリガーを発動した。
私服が換装され、藍色の隊服に変わる。腰には孤月を差し、何時でも抜刀できる様になっていた。
「ボーダーです。直ぐに避難して下さ──
刹那、空に飛んでいたトリオン兵から、何かが投下された。
「旋空孤月」
すぐに危険物であると判断した流は、空に向かって旋空を放った。伸びた斬撃は、瞬く間に切り裂かれ、そして空中で爆発して行った。
投下された物が爆弾であると分かり、直ぐにトリオン兵を落とそうと画作する。
だが、相手は空中。空を飛ぶトリオン兵に、流が出来ることはない。空中移動できるグラスホッパーもトリガーセットには入っておらず、自分の不器用さを呪った。
だが、呪っていても解決する訳ではない。流は爆弾を斬り落とす事だけに尽力する事にした。
だが、いかんせん数が多い。一撃では全て落とせず、街が徐々に破壊されてゆく。
観察するに、あのトリオン兵は旋回している事が分かった流は、直ぐに救護を開始。怪我人を瓦礫から運び出し、悲鳴の方向へ駆ける。
「あのっ!!!!」
「訓練生か? どうした」
走った先にいたのは、白い隊服に身を包んだボーダーの訓練生だった。C級とも呼ばれている彼を目の前にして、彼が救助活動に励んでいるのが分かった。
ただ、切羽詰まった声かけに、只ならぬ事が起きたのではないかと身構える。
「あのトリオン兵落とせませんか!!? 今、木虎が向かってるんですけど、僕じゃ戦力にならなくて」
「すまない。私でも戦力にはならない。だが、木虎が向かっているのならば、私達は此方でできる事をするべきだ」
そう言い、流は次の現場へと向かう。
残された眼鏡の訓練生は、一瞬ぽかんとしたが、直ぐにそうするべきだと判断し、助けを求める住民の元へ向かった。
ー
……思った以上に手数が多い。
あの爆撃は斬れない事はなかったが、それでも取りこぼしてしまう。悔やまれるが、悔やんでいて命が助かる訳ではない。今は目の前の事に集中すべきだ。
危険物を取り除き、避難経路を確保していく。お礼を言ってくれる人もいるが、只々逃げていくものもいる。
それでいい。私たちは貴方達の壁となり、盾となるのだから。
「おい!!!! 落ちてくるぞ!!!!」
その声に私の意識はトリオン兵へと向かう。
目の前に飛び込んできたのは、旋回していた筈のトリオン兵が、こちらに突っ込んでくる光景だった。
降りてきてくれるならば暁光。剣の届く範囲になれば、倒せるだろうと思ったのも束の間。何故、僅かながらに起動を変えながら街に落ちてくるかを考えた。
「……特攻か!」
あれだけ爆撃を主力に破壊活動を行なっていたトリオン兵だ。その体を爆発させたりしてもおかしくはない。あの巨体を全て爆弾として投下すれば、間違いなく街は吹き飛ぶ。
街の上で斬り落とすのは不味い。爆発の余波で一部吹き飛んでしまう可能性もなくはない。
思わず足が止まりそうになる。自分が行ってもできる事はない。いや、完全に落ちてしまうのならば、少しでも被害を抑える為に空中で斬るべきか。非常に悩ましいが、時間はない。最善ではないが、最良の選択をしよう。
そう思った瞬間、地上から射出された鎖が、空に舞うトリオン兵を引き摺り下ろした。
「成程ッ!!!」
全身全霊を込めて走る。川へと落ちて行くトリオン兵。
このまま川に落ちた後に爆発すれば、波が発生する。だったら、川の上ならば。何も建物のない川の上ならば、爆発しても被害は少ない筈だ。
落ちた後では爆発してしまう。出来るだけ空に近い場所で、切り刻まなければならない。
ボーダーの新作トリガーか分からないが、この鎖の主の意図を汲み取った所で、私の剣が抜かれた。
「旋空孤月」
空に飛ぶ一刀は、引き摺り落ちてきたトリオン兵を真っ二つに裂いた。
その直後、轟音と共に爆風と閃光が辺りに広がった。だが、派手な音とは裏腹に、多少川の水が舞った程度で、あまり被害は出ていない様だ。
安心するも、不満を抱えた様な住人が此方に押し寄せてきた。
これはきっと努力の足りない自分への戒めだ。怒る気持ちも分かる。何せ住居を奪われ、居場所を奪われ。きっと明日もこの家で、この場所で過ごせた筈だ。
だが、努力不足は言い訳にはならない。言い訳を言って解決するのではないのだから。
頭を下げ、損害関係はボーダーが支払う筈だと告げる。渋々といった感じだったが、ここで言い争っても仕方がないと判断されたのか下がって行った。
「む?」
「おっ、これはこれはボーダーの人」
土手を歩いていると、白髪の少年が此方に気が付いたのか、声をかけてきた。
彼も家を破壊でもされたのだろうか。それは済まないと頭を下げようとする。
「いやいや、おれの家は別な場所にあったし」
「そうか。それでも危険な目に合わせたのは確かだ」
私が彼に頭を下げていると、赤い隊服が目に入った。
嵐山隊の隊服、そして先程眼鏡の訓練生の発言から考えるにきっと木虎だろう。彼女が私が斬れる範囲内まで運んでくれた功労者に違いない。それならば感謝すべきだ。
「木虎」
「流さん!? もしかしてあれって」
「そうだ、私が斬ったが、済まなかった」
頭を下げると、寧ろ私のおかげで被害が少なくなっていると言われた。そうだと有難いのだが、見つけてから斬るまでに大分時間がかかってしまったのは確かだ。
僅かに顔が赤いのもきっと怒りで高揚しているのだろう。きっと周りの目もあるから怒りを抑えて対応してくれているのだろう。申し訳ない気持ちが募る。
「ありがとうございました。流さんがいなかったら……」
「いやいや、木虎がいたからここまで抑えられたのだ」
「いえっ、そんな!」
「それはそうと木虎、あのトリガーは──
あの鎖が一体何なのか聞こうとした所で、不満を持った住人の対応に駆られてしまった。
むむ、気になるから聞こうと思っていたが、仕方がない。きっと新開発のトリガーだったのだろう。後で誰かに聞いてみるか。
木虎の方へ目を向けると、先程の眼鏡の訓練生の姿も見受けられる。彼も今回の功労者だ。後で感謝しなければ。
一先ずトリオン兵を撃破した事を本部に伝えなければならない。あまり、こういう事は得意ではないのだが、木虎の方が忙しい筈だ。ならば私がやるべきだ。
ふむ、本部の連絡先は何処へ……?
「いえっ、そんな!」の時、自分の手柄ではないから慌てて否定しているのか。それとも、褒められて嬉しくなって顔を赤くしているのかは読者様次第です。因みに、流の顔はかなり良い方です。