ようこそ姉弟至上主義の教室へ   作:ピト

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 初めましての方は初めまして、また会ったなという方はまた会いましたね。

 魔法科二次小説も連載してますが、こちらも書いてみたかったので書きました。楽しんでいただけると嬉しいです。
 主人公の名前は、3話で出てきます。
 三日間連続更新します。その後は未定です。詳しくは活動報告をお読みいただけると察してもらえるのではないかと思います。

 一つだけお願いします。読者様の趣向に合わなければ、ブラウザバックすることをお勧め致します。表現の仕方のアドバイスや原作の知識間違いが有りましたら、ご報告していただけると作者としても成長できるので嬉しいです。

 長文失礼致しました。では、本編どうぞ。


第1話 こーこーにゅーがくっ!

 うっすら意識が浮上してきた。目蓋越しでもまだ暗い時間帯なのが分かった。頭はまだ働いていない。ポアポアと胸の中から込み上げてくる幸福感と優越感が夢現のようで、はっきりとした意識には至っていない。早春の時期であったはずだが、まだ暖かくなる兆しはなく、今も掛けてある毛布がなければ寒さに凍えていただろう。それに、毛布の暖かさに加えて、体は所々が別の理由で温かかった。

 息を吸い込むと、いい香りが鼻腔をくすぐった。いつもの嗅ぎ慣れた匂いだった。モゾモゾと人が動く気配が目の前からした。視線を感じた。瞳は閉じたまま、開けてはならないと必死に寝ているふりをした。目を開けたが最後、目が醒める気がしたから。まだ夢の中にいたかった。人の気配が近付いてきた。ちょっと動けば触れてしまいそうなほど近い。顔にかかる吐息は、甘味のように甘かった。

 軽く啄むキスをされた。二度三度と繰り返される度に、接吻の時間は長くなった。最後が一番長かった。どれ程の長さだったかは正確には分からない。途中、閉じていた唇が相手の舌でノックされたが、寝たふりをしていたし、今は応える気にはなれなかった。体の奥から湧き出てくる欲求に、この状況で飲まれてしまえば、もう夢ではなくなるからだ。相手は最後におでこにキスを落として、こちらに身を寄せた。

 再びやって来たまどろみは、すばやくおぼろげな意識を刈り取っていった。

 

 

 

 小鳥のさえずりが聞こえた。目蓋越しに外が白澄んでいるのが分かった。段々と覚醒してきた意識とともに目を開けた。見慣れた室内で、一人、ベッドで横になっている。いつもより体は怠かった。いつもより嗅覚が敏感だった。それらを無視して起き上がった。赤い印を見つけた。アレはやはり夢ではなかった。

 

 

 

 

 

 ──────初日

 

 この世に生を受けて十五年、俺は今日から高校生になる。三年間通うつもりでいる学園に向けてのバスの中でユラユラと揺られている最中だ。周囲には俺と同じ学園だろう制服の男女が多数見受けられた。

 ちなみに驚くことなかれ、俺は人生を一度経験している。これが二度目なのだ。………、うん。分かってるよ。みなまで言うな。ほらっ!そこっ!119番しかけた携帯をしまいなさい。110番はもっとダメだからっ!

 一人でボケて、一人でツッコむのはなかなか寂しい。

 それはそうと、二度目の人生というのは真である。といっても前の人格は分からないし、あらゆる知識だけは明確に覚えてる状態なのだ。それによると、俺の今世の人生舞台は、前世に流行したファンタジー世界の一つであることが分かった。『ようこそ実力至上主義の教室へ』、略して『よう実』。これが俺の今生きている世界らしい。何故確信を持っているのかというと、うん、これはまた追々にしよう。話せば長い、…こともないんだが、少々面倒くさいんだ。とりあえず、初めて違和感を覚えたのはある人物に出会ったからとだけ言っておこう。

 チートはないんだ。いや、原作知識?がある時点で大概チートだけれども、神を目の前にしたりといったようなことはなかった。あっ、でも自然の摂理で言えばチートかもしれない。俺の一族はとてつもなく優秀だし、自分にもその遺伝子が脈々と受け継がれているからだ。もうね、この体はヤバい。運動神経は上の上だし、記憶力や思考力は桁外れ、体格も180センチ前半(確か183だったかな?)はあるし、ゴリゴリは嫌だからちゃんと締まった筋肉にしている。それに加えて、目的の為に努力して自分を追い込むことが大好物。チートじゃないとか嘘つきました。どう考えてもチートです。………はい、ごめんなさい。

 記憶力がいいから、十五年たった今でも原作知識ははっきり思い出せますね。このことはこれから通う「高度育成高等学校」には絶大なアドバンテージ。ニヤケが止まらないね。………周囲は気にしなくていい。だって内心でニヤケるだけだもの。俺のポーカーフェイスはこれしきの事では崩せない。ドヤァ。………と、自分語りもこのあたりにして、周囲を見渡した。このバスの中には、クール系ツンデレ女子も理解不能変人も、天使になれなかった悪魔も、そして化け物も乗っていなかった。彼らが同学年であることは、前から分かってた。この理由も後々分かるから割愛。

 まあ、原作を知ってても、彼らが乗るバスの時刻までは知らないからしょうがない。あー、でも見たかったなぁ。超人の道徳観のおかしさ満点の主張。あそこまで堂々とバァさんに席を譲らないなんて、俺の知る限り一人しかできない。ほら、俺は道徳観がしっかりあるからさ。今、乗車してきた妊婦さんに真っ先に席を譲ったよ。俺はあの変人とは違うんだ!身重さんだから、彼女が持っている荷物を引き受けて、席に座る補助をした。もの凄く頭を下げられた。「元気な子を産んでくださいね」と微笑みかけると、涙ながらに笑ってくれた。ちょっと気分が良くなった。

 バスが学園前に着いた。妊婦さんに軽く会釈をして、バスを降りた。バス停の前にある門をくぐれば、三年間外界から切り離される。改めて考えるとすごい学校だよね。未成年なのに親にも会えないって。皆納得の上で来てるんだろうけどさ。

 そう言えば、俺ってどうして合格出来たんだろう?中学の担任からものすごく勧められた、いや、既に出願されていたから受けただけなんだけどね。まあ、来たくなかった訳じゃないし、むしろ喜んで来たけど、原作にはいないはずの俺はいったい誰を犠牲にしたのだろうか?とりあえず、犠牲になってくれた子はごめんね。あと、ありがと。君の分まで気ままに生きるよ。………グスンッ。そんなどうでもいいことを考えながら門をくぐっていく。

 学校の敷地内では、案内役の上級生(男子)が誘導してくれた。上級生は俺の顔を見て、少しの間硬直していた。案内に従って、学校の内庭らしきところで受け付けを行った。受け付けしている上級生(女子)は俺を見ずに受験番号と名前を確認してきたので答えると、急にバッと顔を上げなさった。その直後、先ほどの上級生(男子)よりも固まっていた。ピシッという効果音が聞こえそうなくらい、見事な石像に成り果てなさった。あー、うん、アレが原因かな?

 上級生たちが俺を見て固まる理由を推測しつつ、クラスを言い渡された。Bクラスでした。んー、でもBクラスかぁ。試験は全部満点のはずだし、面接もヘマした覚えはないんだけどなー。まあ、まずは原作のBクラスの誰か、南無阿弥陀仏。安らかに浄土に召されんことを。クスクス。

 Bクラスの教室に辿り着いた。ガラッと扉を開けると、先に来ていた同じクラスの生徒の視線が突き刺さった。うっ、皆の視線が眩しい。若さにあふれてる(同い年)。

 黒板に貼ってあった紙に席と受験番号が書かれていたから、その席に座った。とりあえず、最初はなめられてはいけないと思ったので、話しかけんなオーラを出しつつ、読書に耽った。

 席がほとんど埋まった頃、ある女子生徒が姿を現した。その女の子は俺と同じように黒板で自分の席を確認してこちらへ歩いて来た。

 

「私、一之瀬帆波って言うの。よろしくね」

 

 ………そして、俺の隣の席に腰掛けた。マイナスイオンを感じるとびきりの笑顔で自己紹介を繰り出したピンクの髪色の彼女。どうやら俺の話しかけんなオーラは彼女にはノーダメージのようだった。印象が悪くなる前に無難な挨拶を返した。対抗心を含んだとびきりの笑顔を添えて。

 俺の名前と軽い挨拶を返した直後、扉から一人の女教師がクラスに入って来た。クラスの視線がその教師に集中する。

 

「はーい。みんな、席に着いてねー」

 

 高校の教員というより保母さんとかが似合いそうな雰囲気を持った教師。我らが担任になる御人である。かわいい系の見た目の彼女はその見た目とは裏腹に、見てビックリ非常に愉快な内面をしていらっしゃることを現状において誰も思ってはいないだろう。その証拠に男子は鼻を伸ばして明らかに喜んでいるし。………まあ、この学校カワイイ子とかカッコイイ子って多いもんね。心躍らせる男子たちは健全なんだよ!でも、男子たちよ、女子を見てごらん?ついさっきまで中坊だったのは分かるけど、隠さないとそういう目線に女の子は敏感らしいよ?おおっぴらな今は特にね?だから俺はただ外の景色を見てボーっとして知らんぷり。

 

「私はこのクラスの担任をすることになった星之宮知恵って言いまーす。よろしくねっ!あっ、ちなみにこの学校にはクラス替えがないシステムで、大体の場合三年間の付き合いになると思うから仲良くしてね!」

 

 星之宮先生は元気いっぱいに自己紹介を始めた。

 

「早速なんだけど、今から大事な大事な学校の仕組みを説明するから聞き逃さないようにねー」

 

 学校の仕組みが順々に説明されていく。原作知識がある俺には聞く必要もないため、なあなあで聞き流していた。しばらくすると説明が終わった。すると、星之宮先生が笑顔のまま俺に近付いて来た。それでも俺は外を見続けていた。右肩を優しく叩かれた。顔を星之宮先先に向けると、彼女は頬を膨らませてプリプリ怒っていた。あざとカワイイ。でもそれより、皆の目が集中することが居心地悪いです。何?俺悪いことした?原作知識があるから別に聞かなくていいやーって思っただけなんですけど?もしかして、もう審査は始まってた感じ?だとしたらBクラスのみんな、ごめん、謝っとくわ。

 

「こ~らっ。初日から先生の話をちゃんと聞かないなんて悪い子!私、大事なことを説明してたんだよ?」

 

 子供を諭すように言われた。あ~、これで隣席の一之瀬みたいにお腹の中も善だったら素直に聞いてたんだけどなぁ………。この先生お腹真っ黒クロスケだし。まあ、でも、クラスに全然話を聞いてない奴がいれば、普通の教師なら注意するわな。てか、初日から話を聞かない奴の方が珍しいか。なんだ!俺、思いっきり不良じゃん?まずくね?このままじゃ、クラスで浮いちゃわないか?………どうしよう?何かしゃべらないと。まずは先生に詫びを入れなきゃ!

 

「でしたら今ので、どのくらい懐に影響がありましたか?」

 

 ………う~ん。濁し過ぎたかな?聞いてました、かつ、理解しましたよアピールにしちゃちょっと効果が薄かったかな?周囲はキョトンとしてる。星之宮先生はっと、ヒェっ!?この先生の目が一瞬、獲物を狙う鷹の目だった。すぐに元に戻ったけど、めっちゃ怖かった。絶対俺のことを獲る気だった。気づいてくれたの?それとも、ちゃんと会話の受け答えもできないのかコラッ!ってこと?どっち?

 

「うん。説教兼ねてもう一度説明するから、今から一緒に職員室に行こっか?」

 

 ずっご~く満面の笑顔で言ってきた。入学初日から説教悲しい。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないから、席を立って先生についていく。クラスの皆の視線が痛い。グスン。俺、このクラスでやっていけるかな。ドナドナが背中から流れて聞こえてきそう。

 

「他の皆は今日はもう自由にしてもらって構わないからね~。入学初日ではしゃいじゃうのは分かるけど、問題は起こさないようにね。じゃあ、君は私に付いて来ること!」

 

 星之宮先生はそう言い残して俺を伴って教室を出た。

 

 星之宮先生の後ろを無言で敗残兵のように連れられていく。足取りは重い。かわいい先生からの説教がご褒美だと思っているそこのあなた。変わってください。今から胃が重くなるのは分かってる人だからね!この先生がただの説教で終わるわけないでしょ!

 星之宮先生の本性からしたら先程のあの返答は悪手だったか、と今更ながら後悔しつつ、俺たちは廊下でスーツの女教師と遭遇した。キツい印象を与える目つきに肩甲骨辺りにまで伸ばした茶色がかった髪。女性としては大きめの身長は星之宮先生より頭ひとつくらい高い。Dクラスの担任、茶柱先生だった。

 

「サエちゃ~ん」

 

 星之宮先生が茶柱先生に手を振りながら駆け寄った。茶柱先生は嫌そうに顔を顰めていた。分かる!その気持ち!

 

「星之宮先生。サエちゃんは止せと言っているだろう」

「いいじゃない。知らない仲じゃないんだし」

「せめて公私の区別はしてくれ」

 

 茶柱先生は呆れ、期待はしていない感じの口調だった。

 

「ねえねえ、サエちゃん。進路指導室って今空いてるかな?」

「空いているとは思うが………どうしたんだ?」

「うん。ちょっとね………」

 

 星之宮先生が俺の方に向いた。茶柱先生が初めて俺を視認して訝しげな眼で見てくる。目つきが元々悪いからめちゃんこ怖い。だから、会釈して誤魔化した。

 

「この子ね、初日から私の話を聞かずに外の景色をずっと見てたんだよ!ヒドイと思わない?だから、お説教してからもう一度説明してあげようと思って」

「ああ、なるほどな」

 

 茶柱先生は星之宮先生の言い分を聞いて納得したように頷いた。同時に、俺へ憐みの籠った視線も向けてきた。彼女の目が語っていた。「厄介な奴に目をつけられたな」と。

 

「ならば申請はしておいてやろう。だから早く行ってこい」

 

 茶柱先生が俺のことを憐れんでくれたのは一瞬で、次の瞬間には自分には関係ないと早々に俺たちの行動を促してきた。

 

「サエちゃん、ありがとー!」

 

 星之宮先先が茶柱先生に抱き着いて、その後鬱陶しそうに引き剝がされた。

 ルンルンで茶柱先生と別れた星之宮先生の背中を追って行った。しばらく歩くと進路指導室とプレートに書かれた場所に着いた。その進路指導室に入って、ソファに座らせられた。星之宮先生がお茶を入れようとしていたので、変わろうとしたら断られました。グスン。善意なのに………。打ちひしがれて無言で待っていると、星之宮先生が目の前にお茶と茶請けを置いてくれた。うん、お説教って雰囲気じゃないね。長い話になりそう。だがしかし、そんなことは分からない俺は素直に頭を下げた。空気を読まない俺はクールに去るぜ!

 

「先程は先生の御説明を聞き流して申し訳ございませんでした。以後、このようなことはしないと約束します。それでは失礼」 

 

 グイッと漢らしくお茶を一気飲みした俺は、勢いよく立ち上がって扉へと向かう。教室では皆の目が痛かったから従順だったけど、二人っきりの今なら周りを気にすることはない。星之宮先生にどう思われようが、学校生活に支障は無い、はず…。

 

 ガシッ!

 

 そんなことを思っていた時期が俺にもありました。教室でのホンワカした雰囲気からは想像もできないような力で掴まれた俺の右腕。あれー?おかしいなー?結構鍛えてるはずなのに、ミシミシ骨が鳴っている気がする。…ホラ、雰囲気ってあるじゃん…?振り払うこともできるけど、信念的に女性に手荒なマネはしたくない。

 

「座って、ね?」

 

 コテンと首を傾げて、笑顔を向けてくる星之宮先生。おいおい。いったいその演技で何人の男を泣かせてきたんだ?そう思いながらスゴスゴと俺は座り直した。俺の様子を見て、満足そうな星之宮先生。

 

「それで何ですか?先生が教室でおっしゃっていた学校の説明でしたら、ちゃんと理解してますし、お説教ならもう十分反省しましたよ?」

「まーまー、もうちょっと肩の力を抜こうよ。せっかちな子はモテないゾ!」

 

 星之宮先生は俺が逃げないように隣に移動して、コチラをあざとく人差し指で突いてくる。ふぇ、健全な男子だったら好きそう。

 

「あいにく、この室内には俺と先生しかいないので…」

「えー、私可愛くない?自分で言うのも何なんだけど、自負してるんだよ」

 

 心外だ!とばかりに驚かれた。

 

「生徒と教師ですから」

「禁断の関係だね。どう?そそられない?」

「お互いに好意を持ってない状況では興味もありません。現実、そんなことはほとんどないでしょう?夢は夢で語るからこそおもしろいんですよ」

「君、夢がないって言われない?カッコイイのに枯れてるの?」

 

 今日初めて会ったのに失礼な星之宮先生。枯れてるとか心外なんだけど。

 

「極論すぎません?というかいつまでこの茶番続けるんですか?」

「もう!ちょっとくらいいいじゃない。そんなに私と話すのが嫌?」

 

 はい、嫌です。腹黒は味方につければ心強いけど、それまでは油断ならないから。対処はできるけど、疲れる。精神的に。

 

「先生のような美人と話すのが嫌なわけありませんよ。恐れ多くて、早くこの場から帰りたいだけです」

 

 遠回しに(案外直球に)言ってやった。

 

「やっぱり君は私のことをそんなに想ってくれてたんだね。でも、ごめんね。私と貴方は教師と生徒。君の気持ちに応えることはできないの」

 

 一を返すと十が返ってくるとはこのことか………。星之宮先生は俺の言葉をものすごくポジティブに翻訳するらしい。さっきまで俺は、教師と生徒なんてあり得ないって言ってたんだけど!?

 

「あー、はいはい。分かりましたよ。もう先に進めてもらっていいですか?」

 

 めんどくさくなってきた俺は、ちゃんと答えるのがバカに思えてきた。

 

「もーっ!めんどくさいと思ったでしょ!女の子はそういうのに敏感なんだからね!」

「貴女以外ならちゃんと聞きますよ。さっきまでなら貴女の話もちゃんと受け答えしてました。というか、先生は女の子って歳でも、………い、いえっ!先生は可愛らしい女の子です!」

 

 後半、星之宮先生の目がマジだった。女性の年齢に関わることはタブー。これ常識。身に染みた。

 

「まっ、今日は不問にしてあげる。それに、説教とか再度説明とかなんて全部建て前。本題は君の発言について」

「はて?何か問題ある発言だったでしょうか?」

「……君って隠す気あるのかないのか分かんない。だから、単刀直入に聞くね。どこまで気づいたの?」

 

 あら、星之宮先生ってそんな真剣な表情ってできたのね。やだ、そんなに熱い視線を向けられたら照れちゃう。…コホン。

 

「気付いた、ですか。聞いた、とは思わないんですか?」

「君の答えがもう解を得てると思うけど。ウチの学校は、外部と接触できないし、例年通り上級生には箝口令が敷かれている。それに、君が僅かながらも会ったはずの案内役の上級生の中に君の親族はいなかったでしょ?」

「………まぁ聞いたら案外単純ですよ。計算しただけですから」

「計算?」

「もし1学年全員が毎月10万円お小遣いとしてもらえるとします。そうなれば、1学年が卒業するまでに5億7600万円を必要とします。たかが一介の高校生にお小遣いだけで年間1億9200万円。本当にこの歳出をするなら、その政府は無能すぎますね。頭がお花畑です。そんなのに使う必要があるんだったら、恵まれない大学生に学費の無償出費でもしろって話です」

「よくあの場ですぐに計算できたわね」

「暗算が得意でして」

「…いや、そういうことじゃなくて、ポンッと十万渡されてすぐ計算する?」

「逆にポンッと十万を渡されたら怖くないですか?」

「他の子たちはそう思わなかったようだけど?」

「遅かれ早かれ、誰かは気付きますよ」

「君の場合、その早さが異常なのよ」

 

 星之宮先生に呆れた表情をされた。心外だっ!ただの原作知識ですぅ!

 

「他が気付くかどうかはともかく、お金が疑問のきっかけです。お金を減らすには学校側としてどうするか。考えられるのは、何かしらの理由で毎月生徒に与える額を減らすということです。テストの成績、生活態度、はたまた別の何かか。詳細は分かりませんが、確実に何かある。だから教室で聞いたんですよ。どのくらい懐に影響しましたか?ってね」

 

 最後、一気に捲し立てた。星之宮先生は可愛い容姿からは想像できないくらいの邪悪な笑みを浮かべていました。ダースベイダーもドン引きでしょう。悪の帝国の女傑って言われてもしっくりくると思う。

 

「その質問の答えだけど、今は答えることができないって言っておくわね。それと、君がこの学校のシステムをほぼほぼ完全に理解してるってことは私のクラスにとって素晴らしい収穫だわ。優秀な生徒を持てて先生嬉しい」

 

 星之宮先生は、言葉と共に一枚の紙をこちらに滑らせた。訝しげに受け取ってみると、100の数字が5つ並んでいた。

 

「ウチの入試の筆記はね、すごーく簡単な問題からすごーく難しい問題まであるの。全教科満点は史上初らしいわ。おめでとう!」

「はぁ…」

「にえきらない返事だね。でも、私、気になるのよねぇ」

「何がですか?」

「ううん、こっちの話」

「俺がAクラスにいない理由ですか?」

 

 星之宮先生が、目を見開いた。

 

「…君、本当にどこまで気付いたの?初日でその思考力とか、軽く引くんだけど…。本当に新入生?年齢詐称とかしてない?」

「俺は憶測しか語ってませんよ。まだ確証も得ていない。ところで星之宮先生、色々と言葉の節々に情報が見え隠れしてますけど、大丈夫ですか?」

「私が完全に黙秘をしたとして、君はどう受け止める?ここまで見抜く力があるのなら、沈黙は肯定と取るでしょ?だから隠したって無駄なの。それに、私たちの関係は三年以上も続くのよ?明言できないだけで、ギリギリのリップサービスはできるわ」

「一生徒に肩入れしていいんですか?」

「担任をしてる子だもの。他の先生たちも多少のことはしてるわ」

 

 それは理解できる。原作によれば、教師間でもおそらく給料面か何かでA~Dクラスの差が出ている。自分のクラスが上に行く手助けをするのは当たり前か。

 

「ねぇ、君さ、私のモノにならない?」

「は?俺はそういう性癖は持ち合わせてないんですけど?」

 

 唐突にぶっこんで来た星之宮先生に思わずマジで拒否してしまった。多分、星之宮先生の意図とは別方向で捉えてしまった。案の定、星之宮先生はゲラゲラ笑い出した。

 

「アハハハハハッ。この流れでソッチで捉えたの?クククッ、ちょっと待って、ごめん、君ならちゃんと理解できると思ってたのに。フフフ、君もコーコーセーなんだね」

 

 腹を抱える星之宮先生。彼女の本性を知っているが故に、全力で拒否反応が出てしまった。失態失態。まだ全力拒否しただけマシと考えよう。うん、そうしよう。心、平安、これ大事。

 

「ヒーッ、ヒーッ。あー、笑ったよ。う~ん、そうだね、私としたらソッチの意味でも君は気になってきたかなー?」

 

 小悪魔的に微笑む星之宮先生。てかこの人、今の時期って彼氏いなかったっけ?まぁ、無人島試験前にポイされるらしいけど。

 

「先生なら他に引く手数多でしょう?別の人に目を向けてみたらどうですか?」

「うん。今の彼氏も飽きてきたから、そろそろお別れかなーって。だから、今度は君に手を出してみようと思うんだけど、どうかな?」

 

 おいおい、この人、本当に悪女だな。今現在、彼氏がいるのに平然と、別れて他に手を出すって言いやがった。てかもう、この人やりたい放題だな。

 

「俺が録音してなくて良かったですね。下手すれば懲戒処分レベルの発言ですよ?危機管理能力が低過ぎません?」

「私と君の仲じゃない」

「初対面の相手に何言ってんですか。からかわないでください」

「えっ?マジだったらいいの?」

「今、背筋に寒気が………」

「ふふふ、君のそういうところ、好きだよ」

「言葉に含みを持たせるのはやめません?第一、出会って一日も経ってないのにどうしてこんな問答しなきゃならないんですか」

「君って一目惚れとか信じてないの?愛の前には時間なんて関係ないんだよ?」

「とんだ尻軽の言葉ですね」

 

 『時間』が『障害』なら何度も聞いたことあるのに…。

 

「あれ?君は重い娘の方が好み?なら安心して。私、すっごく重いから」

 

 うわー、いらない情報をカミングアウトされた。でも事実、星之宮先生はそうなんだろうとは思う。腹黒の人って独占欲強そうだしな。いや、まあ、軽い娘より断然重い娘の方が好みだけどね。………って、いかんいかん。あぶない。星之宮先生に思考を誘導されかけた。

 

「とりあえず、先生は遠慮しておきます。禁忌を犯すほどの魅力がまだありません」

「ふーん。言ってくれるわね。まっ、三年間あるし、着実に君を見極めるとするよ」

「眼中になくていいんですけど………」

 

 この人を味方にできれば、有能だし良さそうではあるけれど、色々しんどそうだからほどほどで役に立ってほしいのが本音。担任だし、これからものすごく関わるんだろうけどな………トホホ……。

 

「最後に聞かせて。君はこれからどうするの?クラスを引っ張って行くつもり?」

 

 これまでと一転、星之宮先生は一番鋭い目をしていた。聞いてきた内容はこれからの俺の行動指針。この人は俺が完全に学校を理解していると確信がある。ゆえに、俺がこの問いにどう答えるかで、星之宮先生の中で俺の立ち位置が変わるだろう。

 

「まぁ、いずれはそうすると思いますよ」

「………含んだ言い方だね。まるで最初はリーダーにならないって聞こえる」

「はい。そう言ったんですよ」

 

 星之宮先生は俺を計りあぐねているような様子で眉をひそめた。

 

「どうして?君ほどの能力があるなら最初からクラスの統括なんてたやすいと思うんだけど?むしろ、クラスの地位が固定する前に動かないとややこしいことになるんじゃない?」

 

 星之宮先生の意見はごもっともだ。確かに最初から統治してしまった方が一般的にはやりやすいだろう。だが、原作知識を持つ俺はBクラスの場合それが悪手だと考えている。最大の理由は、リーダーたる一之瀬帆波だ。原作において、良くも悪くもBクラスの鍵を握っているのは彼女で間違いない。彼女は、彼女自身非常に優秀で性善説を地で行くタイプだ。誰かさんのように腹に悪魔は抱えておらず、純粋なる天使である。孟子の思想をその身で体現している彼女はBクラスにとって支える『柱』であり、なくてはならない存在。同時に、時として、いや、恒常的に彼女はBクラスの『毒』となる。慈悲の女神の包容力は、クラスを傀儡にしてしまう。つまり、各個人の成長を止めてしまうのである。善意識によってなされる傀儡ほどタチの悪いものはない。更に、彼女はトップとしての素質を持ってはいるが、本質はリーダーを支える参謀タイプであると推測している。古来の日本人妻の理想像のように三歩下がって付き従い、主人の考えを誰よりも理解して周りを鼓舞しながらクラスを主人の思惑通りにコントロールする。そんな能力が一之瀬には備わっているのではないかと思う。その為、俺がトップに立つとすれば必ず一之瀬を横に侍らせる。しかし、最初から俺が先頭に立ったとして、Bクラスが傀儡にならないかと言われたら断言できない程一之瀬の力は強大だと思う。彼女は原作知識すら凌駕するのである。一番効く薬は原作同様に、Bクラスの面々が一之瀬におんぶに抱っこ状態なのを危険視して自ら成長しようとすること。だから、俺はその時まで地を固める方針でいくつもりだ。Bクラスを、ひいては一之瀬を裏から支配し、盤石の体制を整える。その過程でクラスが落ちても問題ない。理想の体制が準備できたなら、Dクラスからだってはい上がる自信がある。…点数差によるけど。ヘ、ヘタレって言うなぁ!そうならないようにはするけどさぁ。万が一ってあるやん?保険、これ大事。みんなも入ろうね。…いかん、話がそれた。うわ、長考してたせいで星之宮先生が不思議そうにコチラを見ている。仲間にはしません。腹黒だもの。何言ってんだ、俺は?ゲフン、ゲフン。

 

「言うなれば、勘………ですかね」

「長考した割に不確かな根拠なんだね」

「圧倒的に情報が不足してますから勘に頼らざるを得ませんよ。クラス、学年、上級生からの情報や動きを見てから動き出しても遅くはないと思います」

「………それもそうね。君が異常すぎてまだ初日だったってことを忘れてたよ」

 

 なんとか星之宮先生は納得してくれたようだ。原作知識込みの計画は誰にも話せないから、今は勘っていうしかないんだよな。時間が経てば色々理由付けもできるんだけど。

 

「まっ、君に任せるわよ。その内君がクラスのために動いてくれるなら私も安心できるもん。私の期待以上の子がクラスにいてくれて嬉しいよ」

「どうでしょうね。気ままな血筋ですから、気が変わるかもしれませんよ」

「それはないと思うなー」

「………どうしてそう言い切れます?」

「だって君、内側が全然違うから」

 

 …。

 

「はい。お話おーわり!初日に結構時間取らせちゃってごめんね。寮に帰ったら色々やることあると思うから、またしばらくしてお話ししようねー」

 

 星之宮先生は二つのカップを洗面台に置いて部屋の扉を開いてくれた。

 

「明日から青春、謳歌してね!君、カッコイイから人気出ると思うよ!恋愛相談はいつでも乗るからね!あっ、なんなら私でもいいよ?」

 

 ハハ、何言ってんのこの人?もう無視でいいかな?

 

「さようなら」

 

 軽く挨拶に会釈を添えて星之宮先生に背を向けた。

 フリフリと星之宮先生が背中越しに手を振っているのが分かった。

 カバンを取りに教室に戻ると生徒はもちろん誰もおらず、寮に帰る道中でも新入生とは出会わさなかった。

 高校デビューの初日、神は俺を見捨てたのか…。俺はこの思いを筋肉トレーニングにぶつけた。

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