ようこそ姉弟至上主義の教室へ   作:ピト

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第2話 ともだちひゃくにんできるかな!

 入学して二日目の朝。昨日、友人ができなかった俺は一人寂しく学校に向かう。へんっ!別に寂しくなんてないんだからねっ!俺って一人でも平気だし、むしろ一人の方が気楽なまである。………いや、ホントだよ?

 

「おはよう!」

 

 学校への道のりをのっそりのっそりと歩いていると、背後からヒョコッと顔を出してきた人がいた。

 

「ああ、一之瀬か。おはよう。急に声を掛けられたからビックリした」

 

 その人物は昨日生徒で唯一会話をした一之瀬だった。太陽のような輝きを放っている笑顔。なんか、一之瀬には癒し機能みたいなものがついている気がしないでもない。アレだね。腹に抱えてるものが違うよ。俺たちの担任とはね。

 

「え~、全然驚いてるようには見えないよ?」

「スマン。実は誰かが近付いて来るのは気配で分かってたんだ」

「へぇ~、そうなんだ!すごいね!!」

「それで、どうしたんだ?何か用か?」

「えっ?ううん。君を見つけたから一緒に行こうと思ってね。ダメだったかな?」

 

 上目遣いに俺を窺う一之瀬。これ、素でしてんだぜ?あなどれんな。

 

「いや、ありがたい。俺は一之瀬以外、クラスの誰とも面識がないからな」

 

 俺の返事に、ホッとした表情をする一之瀬。

 

「そう言えば、あの後は大丈夫だった?」

「ん?…ああ、コッテリとしぼられたよ。初日から説教はキツかった」

「ニャハハハハ。お疲れ様。私たちはあの後皆で自己紹介したんだ。それで親睦会しようってなったんだけど、君がいなかったから今日の部活説明会が終わったらってなったの。参加してくれる?」

 

 優しいな、一之瀬は。マジ天使に見える。

 

「ありがとう。もちろん参加させてもらうよ」

「よかった」

 

 一之瀬が胸を撫で下ろした。そして、俺たちはその流れで連絡先を交換した。

 

「クラスのグループ、招待しとくね」

「助かる」

 

 招待を受け、入ったグループ。人数を確認すると40人と示されていた。Bクラスでよかったと思う点は編にこの統率が最初からとれていることだ。他のクラスだと初日から全員参加のグループなんぞ達成できない。

 学校まで話していると、ほとんどの話を先導しているのは一之瀬だそうだ。もう既にトップが確立されている。えっ?はやくない?まだ2日目ですよ?えっ?もう何人からかは「委員長」って呼ばれてる?…ほーん。これは原作にも書いてなかったから、想像以上だな。一之瀬の異常性がシミシミと伝わってきた。

 俺は内心唖然としながら一之瀬の話に相槌を打つ。

 

「そういえばさ、どうしてこの学校を選んだの?やっぱり希望進学就職率が100%だから?」

「う~ん。俺は別にそうでもないかな」

 

 一之瀬が意外そうな表情を浮かべる。まぁ、驚くのも普通だろう。八割方の入学者はそれを目当てで来ているからだ。今世の俺はありがたいことに、いわゆる天に二物も三物も与えられた。卒業時にAクラスでなくても、自力でどこでも行く力は現時点で既にある。俺がこの学校に来たのは原作世界に介入したかったことと、

 

「しがらみ、かな………」

「??………しがらみ?」

「いや、なんでもない。一之瀬はどうなんだ?」

「私はね、母子家庭で妹がいるの。だから、お母さんにはなるべく楽してほしくって………。ほら、この学校って学費免除だし生活費も出るでしょ?中学の担任の先生に勧められたの。それに、私、お母さんみたいな看護師になるのが夢なんだ。だからね、卒業特典も興味がないわけじゃないかなー」

 

 そう語る一之瀬は笑顔ではあるのだが、若干の憂いが感じられた。一之瀬を取り巻いてきた母子家庭という環境、その中で犯してしまった彼女の唯一のあやまち。それがまだ尾を引いているのだろう。完全なる善人は存在しないというように、善人たる一之瀬もまた人間なのだ。一之瀬は未だ自分を許せないでいる。そして、それでも一之瀬は極端なまでの善意識を捨てずに歩もうとしている。自責の念に駆られ、苦しみながら。………健気だな。

 

「………一之瀬はいい娘だな」

 

 久し振りに打算なく相手を称えた気がする。自分でも驚くほど、俺の声は優しい声音だった。

 

「ニャッ!?てっ、照れるな………。そんな真剣な顔して言わないでよぅ」

 

 一之瀬が頬を朱色に染めて照れた。会って分かった。俺の中にいる知識としての一之瀬とはまるで比べものにならない。彼女の真価は実際に相対して理解できるのだと。そして理解した。コイツは異常だと。

 

「そっ、そう言えば、お昼ってどうするの?」

 

 居心地が悪くなったのか、一之瀬は別の話題を出してきた。

 

「弁当だけど、どうした?」

「それなら、私たちと一緒に学食で食べない?何人か君と話したいって言ってる子たちがいてさ」

 

 お昼をご一緒にしないかのお誘いでした。普通ならここで誘いに乗っておくべきなんだろうが………。

 

「あー、悪い。誘ってもらえるのは嬉しいんだが、ちょっとしばらくは一人でお昼にやらなちゃならないことがあるから行けないな。一週間後くらいからなら大丈夫なんだが………」

「そっか………。用事があるなら仕方ないね。何かするの?」

「合図を送らないといけないんだ」

「合図?」

「まっ、その内分かるよ」

 

 一之瀬がキョトンとしている。新入生は知らなくて当たり前のことだしね。

 

 俺たちは学校に着いた。クラスに入ると、一之瀬が女子たちに囲まれた。その流れで一之瀬は俺のことを女子たちに紹介してくれた。昨日の一件があったからか、会話のとっかかりがあった俺は、スムーズにクラスの和(女子)に入ることができた。一之瀬さまさまです。放課後の親睦会では男子と仲良くならないとと思いつつ、星之宮先生が教室に来るまで女子たちとお話しした。

 

 

 

 

 

 ──────放課後

 

 ただ今の時間帯は放課後に入っております。俺たちBクラスはカラオケの大部屋にいます。昼休憩の時、神崎(俺が一方的に知っている)もお食事に誘ってくれたのだが、一之瀬のときと同じ理由で断った。謝罪しつつ、親睦会でまた話そうということで落ち着いた。放課後に入ってすぐのタイミングで部活動紹介があったのだが、興味をそそられることはなく、生徒会長の堀北学を見て「ほぇ~」と思ったくらいだ。それに、すぐに興味は失せた。向こうも俺に興味はないでしょう。

 てなわけで、親睦会に話を戻す。女子たちがノリに乗って歌ってる。みんな楽しそうだ。俺は今、ドリンクバーのジンジャエールを飲んでます。男子たちとも神崎や柴田を筆頭に仲良くなれたしバンバンザイ!ヘイ、ユー、飲んでるかぁー?………コホン。

 

「歌わないのか?」

 

 神崎がタブレットを差し出して来た。もう俺の番?どの曲歌おうかなー。

 

「完コピでいいか?」

「??」

 

 神崎の頭上に疑問符が浮かんだ。俺って歌は原曲本人に近付けたいんだよね。だって本人の声で歌っているからこそ、その曲の良さが最大限に出るじゃん?だからそういう理由で俺は声帯模写してます。皆さんはどう?カラオケの楽しみ方は人それぞれだよね。俺の楽しみ方も参考にしてね!

 

「一之瀬、何かリクエストしてくれないか?有名どころならなんでもいい」

 

 俺は出口付近に座っていたので、ドリンクバーからちょうど帰って来た一之瀬にこれ幸いと選曲を頼んだ。

 

「へ?私が選んでもいいの?」

 

 一之瀬は完コピの話は聞いていない。純粋に俺が歌うと思っているだろう。

 

「一之瀬が好きなアーティストの曲でいいぞ」

「そうなの?………んと、じゃあ、これは?」

「りょーかい」

 

 一之瀬が選んだ曲は、今話題の人気バンドのデビュー曲だった。俺は一之瀬に了承を返して、歌詞を思い出しながら喉の調子を確認する。そんなこんなで俺の番が回って来た。準備は万端。いっちょカマスぜ!

 

「行ってくる」

 

 隣にいる神崎にひと声かけた。バンドのヴォーカルの声で。

 神崎は信じられないものを見たかのように目を見開いていた。そんなに驚く神崎を楽しみつつ、皆の前に出てマイクを受け取った。ふぇ~、みんなの視線があるよ~。キンチョーしてきた………。

 前奏が流れてきた。有名な曲だから、クラスのほとんどが知っているようで盛り上がりをみせる。

 歌い始めた。

 みんな(神崎以外)が固まった。フハハハ、人が石像のようだ。

 サビに入ると、場は活気を取り戻した。クラス全員、一人残らずノリに乗っていた。

 歌い終わった。

 フィ~、疲れたよぉ。最後に飛び切りの笑顔を添えた。すると一人の女の子が駆け寄って来た。ん?なんだ?どうした?

 

「ファンです!ライブには!前から行ける限り行ってました!」

 

 うん?なに言ってんのこの子?目が完全にイッちゃってるよ。流石の俺もどうすればいいか分からん。俺が戸惑ってると、目の前の女の子がハタかれた。

 

「ちょっと、アンタ何言ってんのよ!戸惑わせてどうすんの!まったく、困らせないの!」

「でっ、でも、リンちゃん!○○様だよ!○○様がここにいるんだよ!」

「アンタ落ち着きなさい!○○はここにはいないの!確かにすっごく似てたけど別人なの!………だよね?」

 

 助けてくれるのはありがたいんだけど、どうして最後が疑問形なの?

 

「本人なわけないよ。声をちょっと似せてるだけで、容姿はあんまり似てないでしょ?」

 

 俺が否定すると、ハタいた女の子は頷き、ハタかれた女の子は悔しそうにする。

 

「俺は歌うときはなるべく本人にマネて歌いたいんだよね。なんなら別のアーティストでもイケルよ」

 

 大部屋にいた何人かが色めきだった。一番遠いところにいる神崎がドン引きした表情をしていた。一之瀬は素直に感心していた。

 

「でも、今日はクラスで楽しみたいし、順番が回ってきたらリクエストを聞くよ。俺のノドの事情もあるからね」

 

 みんなで楽しみたいプラスノドの調子が相乗効果を発揮して、その場は治まった。しばらく質問攻めという名のリクエストをかわして、ドリンクバーに休憩を兼ねて向かった。コップに少量のジンジャエールのお代わりを入れた。少し外の空気が吸いたくなったので、店員に確認を取って、外に涼みに出た。若さあふれるエネルギッシュな空間から解放され、新鮮な空気を肺の中に取り込む。

 

「ヤッホー」

 

 誰かに何かを叩かれた。………いや、肩を一之瀬に叩かれただけなんだけどね。

 

「どうした?」

「私も飲み物って思ったから来たんだけど、君が外に出るのが見えたからついて来ちゃった」

 

 ニシシッといたずらな笑みを浮かべる一之瀬。くぅ~、これは一之瀬がモテる理由が分かりますわ。

 

「そうか」

 

 無難に素っ気なくしか返事を返せない俺を許して欲しい。性格だよ、性格。

 

「スゴかったよ!まさか、あんなに似てるなんてビックリしたよ。好きなアーティストだったから生歌聞いてる感じだった。最初にリクエストできてよかったな~」

「ありがとう。そう言ってもらえると、歌った甲斐があった」

「むしろコッチがお礼言わなきゃいけない気がするけどね」

「やめてくれ。俺のはただのモノマネなんだから」

「クオリティーが高すぎて、お金を取れるレベルだよ」

「なら将来はソッチもアリか」

「ふふっ、そうなったら応援するね!」

「冗談だよ」

 

 俺たちはひとしきり笑いあった。その後、一之瀬は俺を窺う感じで問いかけてきた。

 

「あのさ………もしかしてなんだけど、みんなで集まってこうして騒ぐのって苦手かな?」

 

 ああ、これが俺を追いかけてきた理由か…、と思った。つくづく周りをよく見てるな。

 

「私の勘違いだったらごめんね?でも、ちょっとだけ無理をしているようにも見えたからさ。もし、そうだったら誘っちゃったのは悪かったかなって」

 

 はい?一之瀬さんの何が悪かったんだ?

 

「いや、みんなで騒ぐのは好きだし大丈夫だ。ただ、その中心にいるのはちょっとな。疲れるから」

 

 俺は根っからのウェイ系じゃない。血筋的には少数または単独でいることを好むはず。ただ、今の俺はそうならないようにもできるってだけだ。

 

「今日は一之瀬が誘ってくれてよかったと思ってるよ。友人もたくさんできたし、疲労よりも価値のあるものが得られた。一之瀬のおかげだ。ありがとう」

 

 俺は一之瀬に頭を下げた。一之瀬は俺の行動にギョッとして慌てた。

 

「いや、私の思い違いだったみたいだね………。アハハ、ちょこ~っとね、気になってたんだ。そう言ってもらえてつっかえが取れたよ」

 

 胸の前でブンブンと手を動かす一之瀬。もうそろそろ戻らないとな。

 

「じゃあ、戻ろうか」

「うん、そうだね」

 

 俺たちは再度入店して、飲み物とアイスクリームを取った。飲み物がこぼれないようにゆっくりとした足取りで向かう。

 

「なあ、一之瀬」

「ん?………なあに?」

 

 コップのギリギリまで飲み物を注いだ一之瀬は、腕をプルプルと震わせながら一歩ずつ懸命に歩いていた。

 

「この学校は、入学希望者たちが思っているのと同じような理想的な学校か?」

「………どういうこと?」

「理想化されているだけで、俺たちは置かれた環境を直視するべきなのかもな。ユートピアなんて所詮まやかしさ」

「???」

 

 一之瀬は飲み物に気を取られ、十分の注意を払えていない。

 

「まっ、独り言だ」

 

 俺は一之瀬のために扉を開けた。クラスの喧騒に飲み込まれる。

 まだ気づくのは後になるだろう。もしかすると、気付かないかもしれない。もしかすると、真面目が多いこのクラスには、必要のないことかもしれない。今年は地を固める。そのために今は、一之瀬だけに匂わしておいて損はないだろう。一之瀬、お前には他の誰にもできないことができる。Bクラスが既にまとまっているのがその証拠だ。お前の才能の一端だ。お前には時が来れば、俺のためにその才を十分に発揮してもらう。今日が、お前が俺に目を向けるべき最初の一日だ。一ヶ月後が楽しみだな。

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