ようこそ姉弟至上主義の教室へ   作:ピト

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 やっと…。


第3話 おねえちゃんっ!

 入学してから五日目を迎えた。

 Bクラスは、思っていた通り真面目な人が多く、遅刻や欠席、授業中の私語や睡眠、スマホをいじるなんてことはまだほとんどない。まあ、一週間も経ってないから、緊張感が保ててるのかもしれない。クラスのメンバーがこの生活に慣れてきた時にどうなるかだな。

 今の時刻はお昼休み。学校の外れにあるベンチで一人、俺は手作り弁当を食べている。二日目に一之瀬と神崎のお誘いを断ってまで、寂しく食べているのには理由がある。ほっ、ほんとだよ!いい訳じゃないんだぞ!ちゃんと理由があるんだからね!その理由とは、ある人と会うためである。………うん、会ってねぇーじゃねぇかって?うっせーな。『待ち人 その内来る』って今年のおみくじでも書かれてたんだから、その内来るんだよ。いくら気まぐれのあの人でも、来るときには来るんだよ。………たぶんな。俺の勘だと今日だ。えっ?どこからその自信が来るのかだって?ハハッ、俺にも分からん!だけど、まあ、あの人のことに関しては自信がある。俺が一番会いたい人で、一番会いたくない人、一番好きな人で、一番嫌いな人だから。矛盾してるってことは分かってる。でも、この表現が適切なんだ。その中でも、会いたいや好きという感情の方が勝っている。あの人の場合は前者100%だと思うけど………。

 ………ホラ、俺の背後からあの人の気配がする。懐かしい気配だ。振り返らずに、そのまま前方を向いて座ったまま。………ごめん、ウソ。本当は振り向きたいけど、それができない。体をひねって首を回すだけなのに、自分でも驚くほど高い身体能力を持ったこの体が竦んでいる。例えるなら、活動限界に達したエヴァの中でシンジ君がガチャガチャと虚しく装置を動かしている感じ。でも、それにお決まりの暴走は伴わない。絶対に傷つけたくない存在だから。

 真後ろまで近付いた気配から二本の腕がゆっくり伸びてきた。俺の肩を越えて、胸の前でクロスした細い腕。指は細く長い。爪は形良く、綺麗だった。左の首筋側に重みが、彼女の頭が乗った。

 

「けーすけ」

 

 凛とした声は鼓膜を振動させた。耳小骨を揺れ動かし、聴神経を刺激した。名前を呼ばれただけで、体の奥底からゾクゾクした。もはや、影も形もない呼ばれた名前が記憶として脳内でずっとリピートされていた。記憶力が良いから、鮮明にいつまでも残る。それが嬉しくもあり、同時に苦しい。一年と少し前まで呼ばれ慣れていたはずなのに、久し振りに彼女の声で呼ばれるとむずがゆい。魔法じゃないかと疑ってしまう程、甘美な空気の振動だった。

 

「久し振り」

 

 やっと出たのがこの一言だった。不思議なことに、体が動かないこと以外は通常のように活動している。ああ、だからこんなにも冷静に客観視できるんだ、と今更ながらに気が付いた。

 

「久し振りだな、圭介。会いたかったぞ」

「俺もだよ」

 

 間髪入れず、努めて冷静に返事をした。が、それは彼女にとって気に入らない返答の様だった。

 

「ウソだな。お前が入学してきて五日も経つ。私に会いたかったのなら、捜すのが筋だろう?」

「それを言うならソッチだって。俺が落ちると思ってたの?」

「いいや。そもそも、そもそもここには来ないと思っていた。昨日の夜にたまたま情報が入ってな。何やらとびきり容姿が整った新入生が、何故か一人で寂しく昼食をこの場で取っているとな。特徴を聞けば聞くほどお前だった」

「なら、分かってるでしょ?わざわざクラスの人の誘いを蹴ってまでしたんだから」

「私がどう思うかが問題なのだよ」

「理不尽極まりない」

 

 暖かい風が吹いた。彼女の長い髪が数筋、俺の視界にチラリと入って来た。俺と同じ銀色だ。

 

「圭介に会えたのは、喜ばしいことだが、気にくわんな」

 

 そう呟かれた言葉は、ひどく冷たく感じた。彼女に心の内を見透かされていそうで冷や汗が出る。

 

「なにがンッッ!!??」

 

 疑問を提示する前に、彼女の右手が俺のアゴを捉え、左に無理矢理向けさせられた。そして、一瞬の内に唇を奪われた。俺の目の前に広がる彼女の端正な顔立ち。頭上には11個の小さなひし形があしらわれている光沢のある黒のカチューシャが、長い銀色の流し髪を引き立てている。俺と同じ淡く赤い色をした瞳は、ルビーのようで綺麗だった。抗うことはできなかった。脳が手が足が体が、硬直していた。心臓が激しく鼓動を繰り返した。さっきまでいつものように一定のペースで伸縮を繰り返していたのに、今は振動数が上がり続けている。………うるさい。心臓の高鳴りがうるさすぎて、周囲の音が聞こえなくなっていった。彼女の眼力で視線を外すこともできない。段々と彼女のことしか視界に写らなくなった。そんな俺の様子を見届けた彼女の表情には、喜色が現れていた。しばらく経って、合わされていた唇が離れた。二人の間に、透明な糸が一本伝っていた。彼女はそれを舌で搦め取って、満足そうに笑顔を見せた。

 

「ああ、それだよ、圭介。やっと私を見た。身体能力も、学力も、何もかもが私より遥か高みにいるのに、お前の瞳の奥には私がいる。私から離れられない。私に囚われている。なにより私に怯えている。本当に………愛しい、私の弟だ」

 

 恍惚として語る我が姉様。俺は荒い息遣いを強引に抑え込んだ。強引に立て直した俺は、鋭く姉様を見据えた。俺たちの距離は10センチにも満たない。

 

「………流石だな。もう取り戻したか」

 

 姉様は当然だとでも言うように頷くが、ちょっぴり残念そうにもしていた。

 

「伊達に鬼龍院楓花の弟をやってない」

「弟よ。当たり前のことを言って何になる?」

 

 姉様は一旦俺から体を離して、俺の左隣に腰かけた。身長が170センチは超えている姉様の足は長く、黒いタイツがそれをなまめかしく強調させていた。姉様は足を組み、両腕を広げ、優雅な所作で身を背もたれに預けた。その際、姉様の胸元は強調され、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる姉様のスタイルの良さが、なお一層際立った。おそらく、この学校で姉様以上にスタイルが良い女子生徒はいまい。

 俺は姉様に、自分が食べているのとは別の弁当箱を差し出した。

 

「お昼、まだなんでしょ?」

「私と話すことより、私の昼食の心配か?」

「今日、俺の部屋に来てよ。なんなら、姉弟だし泊って行っても問題ないでしょ?今は午後の英気を養おう?」

「………いいだろう」

 

 姉様は弁当を受け取り、少し顔を綻ばせた。箱を足の付け根に器用に置いて、蓋を開けた。

 

「見事だな。旨そうだ」

「ありがと」

「この四日間、毎日二つ作っていたのか?」

 

 姉様は箸を伸ばし始めながら問うてきた。

 

「ううん。姉様なら今日来ると思ってたから、今日だけ」

「ほう?何故、予測がついた?」

「別に根拠はないよ。ただの勘」

「………そうか」

 

 これ以降会話らしい会話はなく、上機嫌な姉様が「美味い」と独り呟きながら弁当を食すのを観察していた。姉様が食べ終わるのとほぼ同時に予冷が鳴った。俺たちは素早く連絡先を交換し終えて、それぞれの教室に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 自室のインターホンが鳴ったのは、午後六時を少し回った頃だった。鍋の火を止めて、玄関へと歩いて行き、扉を開くと予想通りの人物がまだ制服姿で荷物を抱え、立っていた。

 

「いらっしゃい。姉様」

「………」

 

 姉様が少し顔を顰めた。

 

「どうしたの?」

「………いや、何も」

 

 含んだ言い方の姉様を不思議に思いつつも、それは追求せずに、俺は姉様から荷物を受け取り、中へと誘った。

 

「ご飯、もうすぐできるけど、先に食べる?」

「ああ」

「勝手にすき焼きにしちゃった」

「お前が作るのなら何でも構わんよ」

 

 ベットの脇に姉様の荷物を下ろした。

 

「姉様の制服、俺の横に掛けておいて」

「分かった」

 

 姉様の返事を聞いて、俺は再度夕食の準備をするためにキッチンへ向かった。ほとんど、準備は終盤に入っている。もう一度、鍋に火を入れた。後から入れる具材を切っていく。先に鍋に入れておいた食材たちの様子を確認して、後から入れる具材を盛りつけながら丁寧に入れていく。あとは、具材に出汁が染みるのを待つだけだ。食材を入れ終わって空になったボールを置くと、背中から体重が軽くかけられた。胸元に手を回されている。

 

「姉様、今料理中」

 

 料理の工程をすべて終えたタイミングを狙ったように抱き着いて来た姉様に、俺は軽く注意した。

 

「終わったのだろう?あとは、私がこうしていても問題ないはずだ」

 

 推測通り、姉様はこのタイミングを狙っていたそうです。グリグリっと姉様の顔が、強く俺の背中に押し付けられる。同じくして背中に感じる彼女の小さくない胸。これが世に言う「当ててんのよ」を素でする我が姉様。世の中の男性陣にとって夢の空間に俺はいると言っても過言じゃない。というか、今のこの状況を姉様の同級生が見たら、どう思うだろうか?驚く?仰天する?偽物と疑う?どうなんだろうか?彼女は俺以外に対する態度が基本的に原作と同じだから、おそらく普段とのギャップに目を疑うことは避けられないだろうな。女性ならマスカラとアイラインが必要なくなるかもしれない。………これは言い過ぎたな。

 おっと、そろそろ一回目の味見しますか。てなわけで、俺は鍋の蓋を開けて後から入れた具材の染み具合を確認する。…うん、大丈夫かな。もうちょいだけ煮て終わろう。そうだ、姉様に出汁の濃さも聞かないと。俺は小さな味見用の小皿に出汁を少量くんだ。

 

「姉様、出汁加減確かめて」

 

 背中にくっつく姉様に声をかけると、俺の左脇の下からピョコッと綺麗な顔が出てきた。離れる気はないらしい。俺は姉様が火傷をしないように、ゆっくりと皿を姉様の口元に当てた。

 

「んっ…、良いと思うぞ」

 

 姉様から合格通知が届いたので、火を止めた。それじゃ、運ぶか。

 

「姉様、運ぶから離れてくれない?」

「……」

「姉様?」

 

 返事がない。ただの屍のようだ。屍にしては抱き締める力が強いような…。えっ、ちょまっ、待って、姉様、力が強くなってる!俺は離してって言ったの!力の作用が逆!耐えれなくはないけど、苦しい。

 

「どうしたの姉様?」

「私たちは…」

 

 背中からぐぐもった声が聞こえてきた。ぐぐもった声だからだろうか、今までの姉様からすれば力がないように思えた。本当にどうしたんだろう?

 

「………私たちは、他人か…?」

「…急にどうしたの?俺たちは姉弟だよ?」

 

 俺は持てる思考力をフル稼働させて、状況判断にかかった。候補を立てては切り捨てるのを繰り返した。やがて、一つセットした。部屋に迎え入れる時に少し違和感があった。あの時か?でも何が姉様をそうさせる?普通に迎え入れたけど…。他人?…わっ、分からん…。

 

「出迎えた時に、俺、何かした?」

「……その時の、お前の挨拶が…」

 

 うん?俺の挨拶が?普通に「いらっしゃい」だったな。

 

「なんとなく他人行儀に感じた」

 

 ………はあ!?そんだけ!?てか、姉様、貴女そんなことを気にするタマじゃないでしょうが!いや、確かに一年と少し前までは「いらっしゃい」じゃなくて「おかえり」だったけどもね。姉様の気にするところが独特なのはいつものことだけど、今回のは流石の俺でも予想できない。

 

「やり直しを要求する」

「いや、そもそも、ここ、俺の部屋だから」

「やり直しを要求する」

「いや、そもそ──」

「やり直しを要求する」

「………」

「やり直しを要求する」

 

 背後の姉様が、針の飛んだレコードみたいに同じセリフをリピートしてくる。頑固なのは相変わらずだが、こうなった理由をよくよく考えてみればカワイイとも思えてきた私はシスコンですか?まあ、シスコンでも全然いいんだけどね。俺は姉様にホールドされたまま反転した。姉様の顔は普段通り凛々しかった。頬のあたりが若干朱色に帯びているのは、俺の背中に顔を押し付けていたからか、それとも自分の発した言葉が恥ずかしくなった現れか。うん、姉様のことだから後者かな?今回のことは大真面目に言っているんだろう。原作でも高円寺に並ぶ変人とまで言われた我が姉の感覚は、他人には理解できないことが少なくない。だが、俺は高円寺を理解できないが、姉様なら今までの経験値からある程度理解できる。え?身内贔屓じゃないかって?ははは、なに当たり前なこと言ってんだよ。俺は常識人だから姉様を理解するので手一杯なんだよ。

 それはそうと、とりあえず。

 

「おかえり、姉様」

「ああ、ただいま」

 

 ……改めて言うと小っ恥ずかしい。しかも、よく考えたら俺は姉様の背に手を回してないけど、姉様は俺の背中に手を回している訳で、傍から見れば恋人の男女が仲睦まじく抱き合ってるように見えないかね。………ふむ。姉様、いったん離れようか?俺が姉様の肩を掴んで引き離すと、驚くほど従順になっていた。

 

「食べようか」

「そうだな」

 

 

 

 

 

 ──────

 

 午後11時前。就寝前の諸々を済ませた俺は、ベッドに腰かけてボーッとしている。姉様は入浴中。明日から週末休みなので、急ぎで何かをやる必要もなく、穏やかな心地で居られる。夕食の時、俺と姉様との会話は、姉様と俺が離れていた期間にあったことが主に話された。更には、「この学校はどう思う?」と姉様に聞かれたので、「なかなか面白そうな学校だね」と答えておいた。

 姉様がお風呂から出て来た。姉様はショーツとネグリジュを着ただけの格好で、まだ濡れている髪の毛をバスタオルで軽く拭きながら、俺の股の間に当然のように座った。俺は傍に用意してあったドライヤーで姉様の長い髪を乾かし始めた。まずは全体をある程度乾かしてから、次第に根元から毛先へゆっくり丁寧に、髪がダメージを受けないように注意を払った。姉様はその間、俺が用意したコップの水を「んくっんくっ」と飲みながら、ゆったりと気持ち良さそうに身を軽く俺に預けている。まだお風呂から上がって間もないために、姉様の白い肌は局所的に淡いピンク色になって、柔らかい肌を艶めかしく映えさせていた。ドライヤーを終えると、姉様は完全に俺へ体重を預けてきた。いくら姉様が華奢でも170センチ以上あるので、全体重をかけられては俺でもほとんど身動きが取れなくなった。

 

「姉様。悪いけど先に片付けさせてもらえる?1分で全部済ますから」

 

 グイッと姉様の体を起こして、俺は立ち上がった。ドライヤーのコンセントを抜いて所定の位置にしまった。ベッドの前にある机の上に置かれていたコップを台所に持って行き、素早く洗う。乾燥させる場所にコップを配置してベッドに戻った。

 

「十秒遅刻だぞ」

「ごめん」

 

 姉様の小言を受け流して、姉様の隣に腰を下ろした。それと同時に姉様は、這うように移動して、先程までと同じ体勢に落ち着いた。

 

「姉様。せめて隣にしてくれない?この体勢だと何かするにもしづらいんだけど………」

「弟よ。私は久し振りにお前をよく感じたいのだ。この体勢が一番お前を感じやすい。文句を言うな。何かしたいなら、私をこの手で包み込めばよかろう?………それでも、お前は私を拒否するのか?」

 

 ………はあ。姉様は、こうなったら頑固だもんな。俺は言われた通りに姉様を後ろから包み込んだ。今日の昼に姉様が俺にしたのと同じように。いわゆる、あすなろ抱きというやつ。二人でいる時の強者は姉様だ。身体能力も学力も、俺は姉様より優れていると自負しているし、姉様もそれを当たり前のように受け入れている。姉様は大体の場合は俺を立てて、従順だ。それでも自由人であるのは変わりないが、俺の不利益になることはほぼない。有ったと言えば一度だけ。それも二人っきりの時だし、範囲外か……。とにかく、姉様が俺に害をなすことは皆無と言っていい。しかし、その反動かは分からないが、二人っきりになると姉様は俺に対して強者でありたがる。尻に敷く、という表現の方が合っているかもしれない。俺の拒否をほとんど受け付けない。俺はそんな姉様を受け入れていた。あらゆる能力が上回るまでは無意識に、上回ってからは意識的に、だがある時からはそれに強制力が加わった。姉様は、安心できなかったのだと思う。歪んだ人だよ………ほんとに………。

 ゆったりと何をするでもなく、何を考えるのでもなく、時間が過ぎていく。原作でもそうだが、姉様は一日をゆったりと気ままに過ごすのが好きだし、それが日課だ。そしてその日課は俺にも当てはまる。やっぱりこういうところは姉弟だ。会話もないが、この空間が最上に気持ちいい。無意識に姉様の腰まで伸びている綺麗な髪を梳いてしまう。

 ところで思うんだが、俺と姉様は同じシャンプーとコンディショナーを使っているはずなのに、姉様からは特別に良い匂いがするのはどうしてだ?あれだよねー。男女の越えられない壁って言うのかな?それとも男女の性差は関係なくて、その人独特の匂いなのかな?そうなら俺と姉様の遺伝子は微々たる違いしかないはずなんだけどな………。まっ、姉様が良い匂いだと俺が嬉しいからモーマンタイ。逆に俺は大丈夫かなー?クンクン。………うん。自分の匂いは自分では分からないって理解した。

 

「んっ」

 

 姉様の頭を撫でることしばらく、俺の胸に頭を置いていた姉様が、俺を見上げて来た。いつもの凛とした表情が緩み、目はトロンとしていた。

 

「そろそろ寝ようか、姉様」

「ん」

 

 撫でていた手を放すと、姉様は四つん這いでベッドの奥へと移動した。姉様に掛け布団を掛けてやり、部屋の電気を落とした。姉様の隣にいそいそと入る。………狭いな。180前半と170ちょい越えがシングルで横になると幅が足りなくなる。仕方がないので、俺は横向きにならなくてはならない。なんか子供をあやす親みたいな格好だなぁ。ちょっと恥ずかしくなったので、姉様に背を向ける。すると、背中の服がチョイチョイっと引っ張られた。

 

「姉様?」

「ぎゃくだ」

 

 ぎゃく?逆?reverse?converse?contraryは違うか………。はいはい。体の向きね。ということで正面に姉様が戻って来た。姉様の端正な顔が暗闇の中でうっすら見える。姉様は早くも規則正しい寝息をたて始めた。姉様は昔から寝付きが良かった。昔から二人でよく同じベッドで寝てたから、俺たち二人は揃って寝相が良い。正しくは良くならざるを得なかったって言うのが本当のところだけどね。だって元から俺たちは幼少の頃から体が大きかったから、ベッドで一緒に寝るとなったらね………今みたいな体勢にならないといけない。

 あっ!大事なことを忘れてた!姉様の懐事情を聞いてない!姉様はあったら使ってしまう人だから、お小遣いの範疇でならいいけど、最悪食費まで何かに使いかねない。この一年生きてるってことは大丈夫だったのか?………いやいや、そもそもこの学校は無料でも暮らしていけるはずだから、生きてるのは関係ないか………。う~ん、どうしよう。とりあえず、毎月の食費に必要な額は俺が管理して、後は姉様の自由にさせるのがいいか………。明日、姉様に話さないと。

 幸せそうに眠る姉様。やっぱり綺麗だな………と思いつつ、俺の意識は落ちて行った。




〈高度育成高等学校生徒データベース〉

氏名    鬼龍院 圭介
クラス   1年B組
学生番号  まだ不明
部活動   無所属

学力    A +
知性    A
判断力   A −
身体能力  A +
協調性   B +

【面接官からのコメント】
 幼少時より非常に高い学力と身体能力を開花させ、今なお底が見えない。本校の学力試験においても首位の点数を取っており、さらに面接時での態度も問題無し。本生徒の能力を鑑みればAクラス行きは間違いないと思われたが、別途資料によると、中学3年の春頃、原因不明の欠席が一ヶ月以上あり、我々の面接でも窺い知れなかった。彼の不安性を留意し、Bクラスへ配属することに決定した。

【担任メモ】
 資料通りの優秀な子。学校のシステムにも初日から気付いたみたい。前年度入学したお姉さんと同じく容姿にも優れてて、お姉さんとは違って協調性が高いから女の子から人気が出るのも納得!私も狙っちゃおうかなっ。
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