(ガンランスを両手で持つ、銃剣のように穂先を分離するなど)
その者の名は。
潮風が頬を撫でる。
それを振り払うかのように、大男は銃槍を叩き付けた。
「おおおぉぉぉッ!」
その強烈な一撃に、海竜──ラギアクルスは悲鳴を上げる。
ここは孤島。
ロックラックギルド、タンジアギルド等が管轄するこの狩猟場で、今命のぶつかり合いが行われている。
一匹、大海の王者にして食物連鎖の上位者、ラギアクルス。
一匹、剛腕をもってして、片手で巨大な槍を振るうハンター。
血濡れのように赤い髪をひとまとめにし、並み以上の体躯をもって銃槍を叩き付ける大男。
赤褐色の鎧は、彼の大柄な体を包んでいる。
その腰回りはさながらコートのようで、所々からスパイクを思わせる黒い棘が立ち並ぶ。
風牙竜、と呼ばれる飛竜──ベリオロス亜種の素材を用いた防具。それをもって、彼は溢れる電流から身を守っていた。
頭部に強烈な叩き付けを受けて、悲鳴を上げたラギアクルス。
しかし、彼は大海の王者にして、強靭無比な大型モンスターである。人間の一撃には、怯むことこそすれど、命を絶たれるまでには至らない。
王者としての矜持を見せ、悲鳴から一転、牙を振りかざす。小さな人の身を軽々と噛み潰す、あまりにも大きな牙を。
「……ッ!」
その人間が持つのは、槍である。
だが、ただの槍ではない。軽く、それを構えて走り回れるようなものではない。彼が持つ槍には、銃身と四連装のシリンダー、そして重い砲弾が込められていた。
「口を開けると────」
振り下ろしていた槍の持ち手、そこに備え付けられた引き金に指を掛ける。
「火傷するぜ!」
直後、穂先から火薬の炸裂する音が、四連続で響き渡った。
引き金を引き続けることでシリンダーを猛回転させ、込められた砲弾をほぼ同時に放つ技。通称、フルバースト。
それが、ラギアクルスの喉を焼く。堅牢な鱗で身を包む海竜だったが、生憎口の中だけは、防ぎようがない。
身を焼く砲炎を受け、ラギアクルスはたまらなく倒れ込んだ。その隙に、大男は『装填』を行う。
「ほっ!」
シリンダーが剥き出しになったことにより、砲弾を押し込めておく蓋が取り外される。中身の薬莢が、鮮魚のように弾け飛んだ。
「あと三発……それと」
大男は呟くようにそう言って、残りの弾をシリンダーに押し込めた。
銃槍には、近接武器にして珍しく、残弾数という概念がある。その弾はボウガンの弾とは比べ物にならないほど重く、大量に携帯することが不可能だ。彼の体格をもってしても、二十発ほどが限度である。
そしてそのうちのほとんどを、既に撃ち放っていた。
「しぶといな。流石はラギアクルスだ」
蒼き甲殻は、見れば火傷だらけである。銃槍の穂先による切り傷と、火薬による火傷。長い戦いの痕が、そこには刻まれている。
構え直した銃槍の穂先をもって、横転する海竜の胸を突く。割れて、血肉が剥き出しになったその胸を。
「ちっ、もう起き上がったか!」
しかし、ラギアクルスとてやられるばかりではない。
太い手足を器用に使い、体勢を整え直した。
同時に、背中の電殻から、紫色の光を灯し始める──。
「蓄電量が、これまでの比じゃないな!」
青白い光だったはずが、今では不気味な紫色を放っている。
それに気付いた銃槍使いは、刺突の手を休め、右手に力を込めた。
右手を包むは、金色の鱗が折り重なったような盾。力強く構え、来たる衝撃に備える。
同時に、ラギアクルスは吠えた。吠えて、全てを解き放った。
「うおッ……!!」
銃槍は巨大でかつ重いため、動作が鈍重になりがちである。そんな弱点をカバーするため、堅牢で重厚な盾が付属する。避けるのではなく、防ぐのだ。
モンスターの牙を捌きながら、的確に穂先を当て、砲撃を浴びせる。ガンランスとは、そんなスタイルが想定されている。。ゆえにその盾は、非常に強固に作られていた。
しかし、それをもってしても、ラギアクルスの蓄積した電力は、簡単に捌けるものではなかった。
「ぐっ、右手がいてぇっ!」
あまりある衝撃に、耐え切れなかったように彼は弾き飛ばされた。
盾は黒く焦げ、硝煙のようなものを吹き出している。
右腕の痺れを感じながら、放電の衝撃によって宙に弾かれながら、それでも彼は、銃槍を構えた。
──ラギアクルスに向けて?
いや、彼の、反対側に向けて。
「はッ!」
引き金を巧みに操って、彼は砲身の絞りを操作する。
まるで、ガスバーナーを扱うかのように。砲身から溢れる熱量と反動を調整するのだ。
銃槍は、内部に空気を大量に送り込む設計がなされている。それを用いて、彼は砲撃の瞬間に熱を閉じ込めた。
そう、さながら"溜めて"いるかのように。
直後、砲口は火を噴いた。その火は、重力に逆らうかのように、彼に超加速をもたらすのだった。
「うっ……!」
ブラストダッシュ、と呼ばれる狩りの技術がある。
彼が放ったのはまさにそれで、溜め砲撃を背後に向けて放ち、反動を利用して前へ跳ぶという荒技だ。
宙を裂く速度に思わず歯を食い縛る大男。
そして、突然目の前に飛来したハンターに、驚きを隠せないラギアクルス。
「お返しだッ!」
その一撃は、先ほどと同じような叩き付け。
それも、重力を上乗せした一撃だ。苛烈な一撃に胸を砕かれ、海竜は思わず仰け反った。
「おおおッ!」
まさに、絶好のチャンスというものだろう。
銃槍使いは左手を奮わせ、連続で刺突を放つ。ラギアクルスの胸からは、赤い奔流が加速した。
それに色を加えるように、彼は引き金を引く。ブラストダッシュに続き、二発目。激しい炎が身を焦がす。
「……残りは……っ」
荒い息で、残弾数を思い返す大男。武器を握る左腕は、鉛のように重い。
ラギアクルスもまた、息も絶え絶えの様子だった。長い戦闘に加え、先ほどの大放電。渾身の力を込めていたのだろう。
それでも、目の前の小さな人間は倒れなかった。今もなお、自身の傷を抉り続ける。
ラギアクルスは、確実に弱っていた。
しかし彼もまた、まだ倒れてはいない。その全身を使って、外敵を打ちのめすのだ。
「……尻尾ッ!?」
翻した身。上から迫る牙を躱すものの、流れるような動作で横から尻尾が飛んでくる。
鞭のようにしなるそれは、人の身にはあまりにも大きかった。
銃槍使いは、左手で刺突をしながら──右手を掲げる。側面から飛んでくる鞭を、大盾で受け流す。
「流石にダメか!」
盾は、割れた。耐え切れず、砕け散った。
それでも、あの巨大な鞭を逸らすことができたのだ。
同時に、彼はシリンダーを回転させる。残った砲弾を、砲身に装填させたのだ。
「はっ!」
再び、溜め。そして今度は、地面に向けて撃ち放った。
その様は、アイルーたちがよく使うドングリ型のロケットを思わせる。火薬の燃焼を起こし、作用反作用の法則を用いて空を飛ぶものだ。
彼が行ったのも、それだった。
彼はブラストダッシュを使い、真上に跳んだのだ。
「食らいな……ッ!」
跳んで、すぐに重力に捕まって。
自身の体重と、鎧、そして銃槍の重みが重なり、みるみる加速する大男。
彼は落下しながら、むしろ重力すら上乗せして、穂先を突き立てた。
真下の、敵を見失って辺りを見渡すラギアクルスの、その頭部に向けて。
轟く、叫び声。頭蓋を貫通して、鮮血やら透明な汁やらを間欠泉のように吹き出すラギアクルス。
突然頭を割られたことによって、恐ろしいまでに暴れ狂う。蛇のように錐揉み回転する頭に、彼はしがみ続けた。
「──漁師の船を襲う生活も、これで終わりだな」
再び、彼は銃口の絞りを操作する。
銃口が絞られ、青い光が溢れ出した。鮮血に混じって、ラギアクルスの頭部が淡く発光する。
残った三発の砲弾は撃ち尽くした。
しかし彼は、最後の一発を装填する。
通常の砲弾、ではない。この時のために温存していた、重量が明らかに異なる、暗く焦げ付いた薬莢。
正真正銘の、
──それは、火竜の骨髄を用いて作られた特殊な砲弾。
──飛竜のブレスを模した、ガンランスの真骨頂。
「あばよ、ラギアクルス」
人はそれを、『竜撃砲』と呼ぶ。
通常の砲弾より数倍、数十倍に膨らんだその弾は、大量の空気を送られることによって、大規模のブレスを巻き起こす。
頭蓋に穴を空けられたラギアクルスの脳は、灼熱の吐息を直に浴びて、一瞬で融解、沸騰した。
巨体が、倒れ込む。
人の味を覚え、漁船を積極的に襲うようになったラギアクルス。
それを退治して欲しいという依頼は、誰もが受注するのをためらった。人を狙うということは、それだけ人のことを知り尽くしている証。並の個体より、狩るのに苦戦するのは明らかだ。
それでも彼は、単身で依頼に応え、見事海竜の討伐を果たしたのだった。
その者の名は、アルフレッド。
彼は、『大型専門』を謳う。
大型モンスターの狩猟のみを行う、奇特なハンターである。
ガンランスの描写をしてみたくて、投稿してみました。とにかくガンランスの戦闘描写をかっこよく書きたいという思いだけで生み出された作品です。
ガンランス、格好良いですよね。ロマン溢れる狩猟描写を書いていこうと思います。不定期更新ではありますが、よろしければお付き合いください。