ラストリロード   作:しばじゃが

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第二章 交叉する二丁の銃身
作戦会議と砲弾装填


「じいさん、あれどうなった?」

 

 玄関に入るなり、アルフレッドはそう口にする。

 爺さん、と呼ばれた白髪の老人──『火薬庫』は、ぽかんと口を開けた。

 

「……お、おおぉ、おおお! アルフレッド! 何じゃお主、もう体はいいのか!」

「治った」

「何じゃい何じゃい、この温暖期が終わるまでは完治しないと医者から聞いとったが……まさか、こんなに早く治すとは!」

「体の頑丈さだけが取り柄なんでね。で、あれできたか?」

 

 がッはッは、と景気よく笑う火薬庫の男に肩を叩かれながらも、アルフレッドは『あれ』と呼ぶものを催促する。

 その言葉に、老人はにやりと口角を上げた。

 

「いやはや、まさかあの怪我をこんな短期間で治すとは、お主はまさに不死身じゃわい。さて、例の奴じゃな。もちろんできとるぞ」

「なんだ。俺が早く治り過ぎて、まだできてないとさえ思ったぞ」

「素材と金をたんまりもらったからには、わしだってちゃんと依頼に応えるわい。ちょっと待っとれよ……」

 

 そう言いながら、奥の倉庫へと老人は潜る。店内のカウンター越しにしか見えないが、薄暗いその倉は数々の砲身やパーツ、工具などが所狭しと並んでいた。

 まるでガラクタの山のようだ、とアルフレッドは思う。同時に、お目当てのものを探し出すにも、時間が掛かりそうだった。

 

「お、お邪魔します……!」

 

 おずおずと、店内に入る影がもう一つ。

 アルフレッドよりも、随分小さい影だった。声もまた、可憐な少女のもので、この油臭い工房とは何とも似つかない。

 そんな影に向けて、赤髪の大男は声を掛ける。少しだけ、優しい声色で。

 

「セレス、そんなに畏まらなくていい。汚いけど良い店だ」

「いや~、ガンランス専門の工房なんて、入る機会なかったし……なんていうか、その、す、すごいね……?」

「なんで疑問形なんだ」

 

 壁に立てかけられたいくつもの砲身。

 並べられたシリンダーと、そこに収める砲弾の数々。

 加工屋の腕の見せ所、と言わんばかりに装飾がなされた盾の群れ。

 アルフレッドは、満足そうに鼻を鳴らす。いつまでも、この空気を吸っていたい。そんな感情さえ抱きそうな様子で。

 一方のセレスは、どこか所在なさげに店の中を見る。見慣れない物ばかりの上、彼女は武器防具を買い物するという行為自体に疎かった。理由は簡単、決して少なくない費用が掛かるからである。

 彼女の装備は常に必要最低限。獣の爪は避け、高威力の弾をぶつけることだけを考えている。また、弾の材料となる植物は、狩猟区にも群生していることが多いため、その場で収集して調合することが可能だ。

 故に彼女は、ボウガンを選んでいた。刃の摩耗や毎回の手入れと、何かとお金が掛かる刀剣類よりも、ボウガン類は意外と安上がりなのである。

 

「うわぁ~……」

 

 並べられたガンランスの値札を見て、感嘆の声を上げるセレス。

 想像より桁が一つ二つも多く、言葉を失っているようだった。

 

「それはアドミラルパルドにプリンセスバーストだな。どれも一線級の逸品だ。強いぞ。……高いけどな」

「が、ガンランスってお金掛かるんだね……」

「スラッシュアックス、チャージアックス、ガンランス。どれも機構が複雑で難解。三大金食い虫の武器だな」

「……もしかして、アルフの家ってお金持ちなの?」

「まさか。俺んちだって貧乏だよ。ハンターになったばかりの頃は金がなくてな、ずっと片手剣使ってた」

「……そんなに体おっきいのに?」

「体格は関係ないだろ。まぁ、大剣や太刀も触ったことはあるけど……あくまでも修練場の中だけだな」

 

 アルフレッドの槍捌きは、大剣や太刀の動きを参考にしているものがある。とはいっても、ハンター養成所にいた頃に、訓練として数回使用した程度。

 それよりも、穂先を外して片手剣として扱うように、彼は片手剣の扱いの方が手慣れていた。駆け出しの頃の記憶を、彼はしみじみと噛み締める。

 

「稼げるようになってからは、ずっと銃槍(これ)だな。俺はこれを使いたくて、ハンターになったようなもんだ」

「……ちょっと気になってきたんだけど」

「ん? 何がだ?」

 

 小さく呟いた彼女の言葉に、アルフレッドは首を傾げる。

 

「えっとね、何て言うかな。どうしてアルフは──」

 

 しかしそれより先は、けたたましく戻ってきた火薬庫の声に遮られた。

 

「待たせたなぁアルフレッド! こいつもお主を待っておったぞ……って、新しいお客さんか! ようこそ火薬庫へ!」

「えっ、あ、ど、どうも……!」

「セレス、このじいさんがここの店主だ。まぁ、やばい奴と思ってくれていい」

「何じゃいアルフ、この子お前のコレか? 隅に置けんのう! こんなめんこい子、よく見つけたのう!」

「寝言言ってんじゃねぇよ。手紙で伝えただろ? 組んだ奴がいるって」

「あの単独専門がのぅ、冗談じゃなかったんじゃなぁ」

 

 しみじみと涙を浮かべる火薬庫に、アルフレッドはたじろぐ。

 大型専門は名乗ったが、単独専門とは名乗っていない。そう弁明するものの、老人の耳に届くことはなかった。

 一方のセレスは、勝手に話が進んでいくことに戸惑い、口を開く機会を逃し続けていたが──意を決して、ようやく声を上げるのだった。

 

「はっ、はじめまして、セレスです! この度あの、その、アルフレッドさんと一緒に狩りをすることになりまして、えっとあの、よ、よろしくお願いします!」

「うむ。うちのアルフレッドを、よろしく頼んます……」

「じいさんは俺の何なんだ。いいから早くその銃槍をくれよ」

 

 苛立ちを隠さないアルフレッドの言葉に、火薬庫の老人は「そうじゃったそうじゃった」と両手を塞ぐ黄土色の縞模様に目をやった。

 砂漠を思わせる真鍮(しんちゅう)色のフレーム。武骨な拡散型のシリンダーと、穂先に備えられた三本の刃。

 アルフレッドが、セレスと狩りに行くことを決めた後に発注した、特注のガンランス。ドスゲネポスの素材を用い、麻痺毒を刀身に含ませたその一品は、彼の心を躍らせるには十分な代物だった。

 

「お主の注文通り、麻痺毒と拡散型砲弾を備えた特注品じゃ。銘は、『V・ガルランド』──銃槍技師会は、相変わらず略称を使うのがブームじゃ」

「技師会というより、じいさんのなかでのブームなんじゃないか?」

「ほれ、持ってみろ。割と軽めじゃ」

 

 もっともな疑問を無視して、老人は彼にその銃槍を手渡した。

 オルトリンデやレッドルークに比べると、随分と軽い。比較的軽かったロドレギオンよりもさらに軽い。拡散型の砲弾が込められているというのに、この軽さはまさに掟破りと言えるだろう。

 

「凄いなこれ。軽い。扱いやすそうだ」

「お主も病み上がりだからな。比較的軽い素材で補強した。その分、予備弾倉の内蔵数も控えめじゃ。五発程度が関の山じゃろうな」

「助かるね。ありがたい。注文通り、拡散型に規格を合わせてくれたんだな」

「通常型からの設計し直しは大変じゃった……。が、その分出来はいいぞ」

 

 片手で銃槍を持ち上げてみると、まるで太刀を想起させるほど軽かった。その感覚に、アルフレッドはにやりと笑う。

 

「穂先は完全に刺突を前提に作ってある。フレームはゲネポス素材じゃから、耐久性に優れているわけでもない。叩き付けや薙ぎ払いは控えるんじゃぞ」

「分かってる。で、これって竜杭砲はどうなってる?」

「もちろん砲弾内蔵型、つまり竜杭砲弾じゃ。さらに、この盾を見てくれ。盾の裏に竜杭砲弾の予備弾倉を備えておる。ガードしながらシリンダーに放り込むことも可能じゃぞ」

「おお、凄ぇ。ガードリロード、って奴か」

「ちなみに特許申請中じゃ」

「……通るといいな」

 

 そんな二人の会話に、きょろきょろとした様子でついていこうとする少女が一人。

 しかし内容が内容だけに、彼女が入り込む余地は全くと言っていいほどなかった。

 

「竜杭砲弾はもちろん炸裂式じゃ。頭部に当てれば、眩暈(スタン)を狙えるじゃろう」

「たまらんね。麻痺毒の充填は?」

「ゲネポスの麻痺液を浸すビンを用意してある。研いだ後にさっと浸けるのがいいじゃろう」

「オーケー。ついでに、この穂先は何だ? 三本あるし、長さもバラバラだ」

「ドスゲネポスの爪や牙を加工したものじゃ。素材が素材だけに、耐久性はあまり良くなくてのぅ。深く刺さり過ぎると刀身が折れると思ってな、短い刃は深く刺さらないようにするための工夫じゃよ」

「なるほど……。斬撃や刺突の威力としては、他の武器よりは劣るんだな」

「どちらかというと、効率的に麻痺毒を塗り込む設計になっておる。深く刺さらない分、連続で刺突するにはピッタリじゃ。ま、サポート向きって奴じゃな」

「分かった。流石だじいさん。注文通りの、最高の仕上がりだ」

「がッはッは。まぁのぅまぁのぅ! 今度ともご贔屓にのぅ!」

 

 満足そうに高笑いする火薬庫と、同じく満足そうに口角を上げるアルフレッド。

 銃槍を折り畳んでは背中のマグネットに接着させ、ゲネポス模様の盾を右腕に装着する。折れた右腕は、今では強固に繋がっていた。大柄の盾だったが、彼はまるで何も着けていないかのように軽々と持ち上げる。

 

「悪いな、長話しちまった。じゃ、修練場行こうか」

「うん……。アルフレッドってさ」

「あん?」

 

 歩き出そうとした大男。

 そんな彼に反して、歩みを止める小柄な少女。

 

「アルフって、ほんとに銃槍が好きなんだね」

 

 ちょっと呆れたように、それでいて新しいものを見つけたように。

 彼女は、少し複雑な、それでいて優しい微笑みを浮かべるのだった。

 

 

 ○◎●

 

 

「じゃ、整理していこう」

「うん!」

 

 ドンドルマの修練場で、土に小枝で何かを描く影が二つ。

 月明かりが、二人をそっと照らしていた。

 

「前衛は俺。盾役だ。ついでに麻痺と眩暈を狙ってみる」

「うんうん」

「後衛にセレス。武器は──」

「妃竜砲【遠撃】だよ。狙撃は任せて」

 

 彼女が掲げるその武器は、細いロングバレルと、フレームの後部に備えられた弩の部分が印象的なヘビィボウガン。リオレイアの素材を用いたこの重弩は、通常弾や遠撃弾、火炎弾などの扱いに優れている。

 地面に接着させて安定させるための(バイポッド)と、長いスコープが取り付けられたその姿は、彼女の言うように、まさに狙撃を想定した仕上がりだった。

 

「あたしは、アルフの後ろから狙撃するね。遠撃弾と通常弾と、火炎弾! あとは、とっておきの……」

 

 そう言いながら取り出すのは、一際長く重い弾丸だった。

 この弾丸に、アルフレッドは見覚えがあった。新大陸調査団の加工班が開発した、ヘビィボウガン用の特殊弾。それをこちらの大陸に輸入したものだった。

 

「これこれ。狙撃竜弾があるよ。たくさんは撃てないけど、かなりの高威力だから期待してて!」

「それは頼もしいな。よーし、隙づくりは任せてくれ」

 

 頷き合いながら、彼は土に小枝を走らせ続けた。

 描くのは、不格好な形をした棒状の人間の絵。それぞれ自身と彼女の姿を当てはめ、立ち回りを図として示すのだった。

 

「俺はモンスターの傍で近接戦闘をする。で、もしセレスに向けてブレスや棘を飛ばすなどしても、俺が盾で防ぐ」

「うん。アルフの後ろで立ち回ればいいんだね」

「そういうことになるな。となると、セレスの射線上に俺がいることにもなる。くれぐれも、俺を撃たないでくれよ」

「狙いには自信があるよ! アルフこそ、ちゃんと守ってね」

「もちろん努力するが……場合によってはお前さんの方へ突進を始めることもある。その点は気を付けてくれ」

「うん。突進か……」

「閃光玉は多めに持って行くことにしよう。もちろん、俺も止められるように最大限努力するよ」

「う、うん」

 

 突進という言葉を聞いて、表情を少し曇らせるセレス。

 そんな彼女を元気付けるように、アルフレッドは銃槍を構えた。

 

「まぁ見ててくれ。今回は完全に壁役を務めるためのこの武器だ。絶対にお前さんを守ってみせる」

 

 ゲネポス模様のフレームが、月光を映す。

 彼の血染めのような髪も、仄かな光を灯していた。

 

「だから、モンスターを仕留めるのはセレス、お前さんだ」

「え……?」

「お前さんの火力が、一番の頼りだ。頼むぜ」

 

 彼の言葉に、セレスは思わず自身が背負う妃竜砲を見る。

 これまで、この重弩と共に狩猟区を駆け抜けてきた。

 モンスターの猛攻を掻い潜り、闇夜に溶け込んで、標的を冷徹に撃ち抜いてきた。

 この前味わった敗北と恐怖は拭えていない。しかし、目の前の大男の瞳を見ていると、どこか根拠のない、しかし何故か安心してしまうような、そんな自信を胸に抱くのだった。

 

「あたしが、仕留める……」

「あぁ。だってお前さんは──」

 

 ──ハンターなんだろ? 

 そう言って屈託なく笑う彼の表情が、まるで子どものように無邪気で温かくて。

 

 セレスは、少しだけ胸の高鳴りを覚えていた。

 それは狩りに対する強い思いの再燃か、それとも──。

 

 静まり返る風の中、月明かりだけが二人を照らしている。

 ほんのりと、セレスの頬が赤いのは──月明かりの仕業では、なさそうだ。

 




この作品の世界観で、武器の維持費を安い順に並べるとですね。
①大剣やハンマーなど重量が物を言う武器は維持費が安い(細かな整備が不要だから)
②低品質な太刀や双剣、片手剣やランス(ここでは下位相当、それも鉱石武器などが該当する。ゲーム的に言うならば、斬れ味は緑以下、もしくは未満)。斬れ味が鈍く、手入れの必要はあまりなく維持費も安い。しかし質も相応で、小型モンスターならばともかく飛竜などを相手にする場合は太刀打ちできないことが多い。
③ボウガン類は構造への理解があれば個人の技量で整備可能。弾コストも、狩猟区採取を含めればあまり高くはない(拡散弾などを運用する場合は話が異なる)。
④弓は弦や矢の微調整が欠かせないが、コストは低い。ただし個々人の技量が強く要求される
⑤操虫棍は、構造自体はボウガンと大差なく整備はしやすい。しかし猟虫の飼育代と、飼育に関する特殊な知識が求められる。また、高品質な武器ほど、穂先の研磨も念入りにする必要がある。難点として、虫寄せの香が強く臭う。
⑥高品質な太刀や双剣、片手剣にランス(飛竜などのモンスター素材を使って作られるもの。ゲーム的に言うならば斬れ味は青以上)。これらは斬れ味が要であるため、丁寧な研磨が必要。そのため多額の維持費が掛かる。また、修繕には素材元のモンスターの素材が要求されることも、維持費の向上をより一層促進させる。
⑦狩猟笛は楽器の専門家の知見が必要。良い音色にするにはそれ相応の技術があるため、希少なものであれば最も高価になる可能性がある。一般的な加工屋で作られる分には安いが、音色も粗雑なものが多い。
⑧剣斧、盾斧、銃槍は独自機構に関する整備が必要。火薬や薬液を扱う機構武器三種は、維持費が群を抜いて高い。

……という風になっています。
一番維持費が安いのは大剣とハンマーですが、セレスの体格では使いこなすことができない、という背景があります。弓も良いのですが、彼女には弓を扱う適性があまりなかったのです。ソロも視野に入れ、大型モンスターとの戦闘を考えれば、安くて火力を出せ、距離を取って戦えるヘビィが最適ってことですね。弾薬を現地で調合する手間も増えますが、収入を思えば彼女はそちらの道を選んだのでしょう。

さてさて、話変わって拡散型の麻痺ガンス。全人類の憧れですよね。砲撃で火力を出すのに、麻痺とスタンで拘束もできてしまう。こんな旨いガンランス、そうそうお目にかかることなんてでき――おぉっとォ!?なんとライズでは、百竜武器を使って自由にカスタマイズできてしまうんですよね!!スタンと麻痺でサポートもこなす…何とも格好良いです。次回は、そんなパーティーを支えるガンランスを描写できたらなと思います。
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