「──以上が、今回の報酬になります」
「うわぁ……!」
カウンターに並べられた素材の数々。
鱗や甲殻、さらには氷結袋に肉厚なヒレなど。
集会所に戻ったアルフレッドとセレスを迎える報酬の数々に、彼女は目を輝かせるのだった。
「いいのか? こんなに貰っても」
「依頼主はあくまでも駆除願いでしたので、自然に還す分は残しつつ、ギルドの方で市場に流通させる分も確保させていただきました。また、大柄な個体ではあったので、鱗や甲殻は相応に大きくて、多くて」
「確かにでっかかったよね。ザボアザギル」
「あれが膨らんだ時は本当に、見上げるほどだったな」
二人が狩猟したのは、氷海に住まう両生種、ザボアザギルだった。
化け鮫とも称されるそのモンスターは、まさに四肢が生えた鮫である。温度を急激に下げる体液を分泌して氷を身に纏ったり、体液を気化させて風船のように膨らんだりと、形態を変化させるのが特徴的だ。とにかく目まぐるしく変身するため、文字通り"化け"鮫なのである。
「……しかし、焼け爛れて使い物にならなくなっている素材が多いのも、また事実です」
「うん?」
「今回は単純な狩猟クエストでしたので、さして問題はありませんが……」
「ガンランスは素材を痛ませるから使うなってか?」
「そういう意図はございません。しかし、捕獲の場合や、モンスターの器官を採取したいという依頼だった場合は、注意していただきたいと……」
そんな、やや歯切れの悪い受付嬢の言葉に、アルフレッドはふんと鼻を鳴らした。
「そんなの、タル爆弾を多用する連中も一緒だろ」
「まぁ、はい」
「確かにガンランスは、素材を痛めすぎるところはあるからな。だから俺は基本的に、単純な狩猟クエストを受注することにしてんだ」
「そ、それにあたしも火炎弾をたくさん撃ったので、あたしのせいでもあると思います」
「あ、そ、そうですか……」
セレスもまた、申し訳なさそうにそう言うと、受付嬢もこれ以上言及することはなかった。
アルフレッドは聞こえないように小さく舌打ちをし、素材を革袋に詰め始める。
「……ね、アルフ。怒ってる?」
詰め終わって、歩き出して。
集会所と外を隔てる
「別に……」
「だって、ムスッとしてるもん。あーいうこと、よく言われるの?」
ガンランスを使っていることに、苦言を呈される。
柔らかな言葉遣いに包まれてはいたものの、あの受付嬢の物言いもそれに当たるだろう。
「集会所にいると他のハンターから嫌な顔をされることはあるけどな。受付嬢からわざわざ言われるのは初めてだ。ちょっとムカッとしたな」
「別に、捕獲クエストとかそういうんじゃなかったしね。単純に駆除するだけのクエストだったから、あえてそんなこと言わなくてもいいのにね」
「セレスもちょっと気になったのか?」
「うん。だからあたしも少し言っちゃった。アルフだけのせいじゃないですって」
「ま、言ってることは正しいんだけどな……」
ガンランスがもたらす不利益は、大きく二つある。
一つ目は、砲撃が非常に強力という点。
特にアルフレッドが担いでいる拡散型のガンランスは、砲弾一つ一つが大きく、込められている火薬量も多い。また、砲弾の中には、工房で余った金属片──武器製作の過程で生まれた金属の欠片や破片──も詰められている。ガンランスの砲撃は、ただ砲炎で焼くのではなく、熱した金属片をばら撒いて対象を焼き刻む性質もあるのだ。
そのため非常に威力は高いが、その分不利益も多く生んでしまう。
例えば、先ほど苦言を呈されたように、攻撃対象の素材を強く損傷してしまう。甲殻は砕け、毛皮は焼き爛れる。良質な素材を市場へと流通させ、街の経済を潤したいギルドからすれば、市場価値が下がるガンランスをよく思わない者も多い。
「結局お金稼ぎかぁ……。ちゃんとご飯食べてベッドで寝られれば、それで十分だと思うんだけどな」
「もっと稼ぎたい、もっといい暮らしをしたいっていうのが人の性だ。大きな街ほど、その傾向が強いぞ」
「ドンドルマとかは、みんなお金に厳しそうだね……」
「確かに。大都市だもんな」
ドンドルマ、タンジアの港、ロックラックなど。
大都市はどれも経済的な優位性が際立つ特殊な環境である。アルフレッドにとっては稼ぎやすいが、嫌な顔もされやすい拠点であった。
「バルバレはまだ寛容だと思ってたんだけどな」
「……あの竜人商人さんみたいに、キャラバンの人って儲けることに賭けてる人も多そうだから、そういうところから苦情があったのかもね」
「世知辛いな。人間、懐があったかくなると、心は冷たくなるもんなんかね」
「でも、アルフに当たりきつい人多いから、懐は案外関係ないかもね」
「……一言多いんだよ」
もう一つの不利益は、やはり多くの同業者から嫌な顔をされること。
ガンランスの砲炎は、モンスターや人間を区別することなく射線上にいる者を焼いてしまう。そのため、同じく近接武器を使う同業者からも嫌われやすい。巻き込まれれば無事には済まないため、特にリーチの短い双剣使い、片手剣使いなどからは親の仇のように嫌われている。
過去には、ガンランスを使ってわざと同行したハンターを殺傷したという事件も起こったという。使い方を誤れば危険なのはどの武器も同様だが、ガンランスはこうした事件の凶器に使われたこともあり、余計に冷やかな目で見られやすいのである。
「世知辛い世の中だよな。俺の好みが否定されてる気分だ」
「高威力な武器ってなると、大剣やハンマーの方が選ばれやすいし、確かに肩身が狭いと思う」
「そういうお前さんのへビィボウガンだって、火力武器の筆頭だろ」
アルフレッドの言葉に、セレスは「いやぁ……」と照れくさそうに笑った。
荒れた心が、彼女の柔和な雰囲気を前にすると、少しだけ荒波が静まるのだった。
「まぁいいや。報酬は確かに貰ったし、しばらくは休める」
「だね。あたしも疲れちゃった。もう宿に戻るね」
「おう、またな」
「アルフはまだ帰らないの?」
「今日はもう少し、飲んでいきたい気分なんだ」
彼の言葉に、セレスは困ったように笑う。
「相変わらずお酒好きだね。ほどほどにしてね」
「分かってる。じゃあな」
アルフレッドが片手を挙げると、彼女はピンと伸ばした右腕をブンブンと振った。
まるで尾を千切れんばかりに振るガルクのようだと彼は思った。
「よし……」
セレスに見送られながら、銃槍使いは路地の奥へと身を溶かす。
夕闇が照らすバルバレの路地は、停泊するキャラバンの竜車で構成された簡素なもの。しかし、彼の大柄な体を包むには、十分だった。
○◎●
「邪魔するよ」
「あらいらっしゃ~い……って、アルフじゃない」
「ようマスター。久しぶりだな」
「聞いたわよ大怪我したって。もう大丈夫なの?」
「いつの話してんだよ。もう何月か経ってるだろ」
「だってあれから全然来てくれないし、手紙くれたっていいじゃない?」
「別に、また店に行けばいいやって思ってたし」
「もう、冷たいんだから。まぁいいわ、とりあえず座って座って。いつものでいい?」
「あぁ。悪いな」
アルフレッドが足を踏み入れたのは、竜車を改造した移動式の酒場。いや、暖色の光源で彩られた、革の座椅子と木目調のテーブルで満たされたこの空間は、酒場という粗削りな言葉には似つかない。
そう、当てるならば、バーだ。ここはバーである。
そのバーのマスターを務める人物は、アルフレッドと随分親しげだ。それは、彼がこの店の常連であることの何よりの証だろう。『いつもの』なるものを頼みながら、彼は革素材の丸い椅子へと腰掛ける。
「はい、"ガンハンマ"。やっぱりこのお酒は、ストレートでグイッとね」
「おぉ……久しぶりだな。うんうん、この煙っぽい香りがたまんねぇ。やっぱり麦はいいな」
「ウォーミル麦を贅沢に使った良質なシングルモルトよ。さ、楽しんで」
テーブルに置かれた、小さなグラス。
それを満たす琥珀色のその酒は、ガンハンマという銘を与えられたナグリッシュ・ウイスキーだ。その名の通りナグリ村にある小さな醸造所で作られたこの酒は、スモーキーな香りと、ガツンと響く辛口が特徴的な一品である。まさに火薬を仕込まれたハンマーで殴られたような、そんな喉を焼き付ける旨みと辛み。一口飲んで虜になったアルフレッドは、このバーに来る度に、まずこの酒を注文するようになっていた。
「くううぅぅぅ……たまらん……っ」
「うふふ、相変わらず美味しそうに飲んでくれちゃって。あたしもマスターとして嬉しいわ」
「うまいッ! もう一杯くれ!」
「ハイハイ、お待ちどう」
アルフレッドが握るにはあまりに小さいそのグラスを、マスターは受け取った。
そんなマスターの手であっても、そのグラスはあまりに小さく見えた。
それほど小さいグラスなのか?
いや、蒸留酒をストレートで飲むには十分すぎる、標準的な大きさだ。
理由は明白である。マスターの手が、アルフレッドとさほど違わぬほど大きいのだ。
その体躯が、銃槍使いの彼と遜色ないほど、大きいのである。
「やっぱり、そんな強い酒をグイッと飲んじゃうアルフ……ステキね。どう、そろそろアタシの物になっても」
「冗談はその見た目だけにしてくれ」
冷ややかな言葉に「失礼しちゃう」と頬を膨らませるマスター。
さて、肝心なその出で立ちだが──やや後退しかけている黒い髪に、厚化粧が何よりも特徴的だ。紫色のアイシャドウが、彼女の──いや、彼の──いや彼女の目元をより色濃く鮮明なものにしている。
胸元が開いたその衣装は随分と派手だが、そこから顔を見せるのは豊満な胸──についた逞しい筋肉。そしてその筋肉量は、アルフレッドと同等かそれ以上である。
「やだアタシったら……ダメね、ついつい若い子をたぶらかしちゃう」
「勝手に言ってろ。あ、ガンハンマもう一杯くれ」
上擦った声で「はぁい」と返事をするものの、やはりそれは男性の声そのもの。
これが、バー・『ラージャンハート』のマスターだ。男性と女性の両方を併せ持つ、この独特な人物像が不思議と人の心を掴み、客足を途絶えさせることはない。多くの客の人生相談にも乗っている、まさに客たちの母親的存在なのである。
「お母さんって呼んでもいいのよ」
「誰が呼ぶか。我らの団の料理長といい、なんでこうみんな母親面するんだろ」
「そりゃもう、アタシの経験豊富さの表れってやつよ。うっふん」
「マジでキツいからやめろ」
ある語りでは、元ハンター。
ある語りでは、元王立古生物書士隊員。
ある語りでは、新大陸調査団の第四期団員。
ある語りでは、新大陸の編纂者。
またある語りでは、凄腕のランサーだった──などなど。
今ではしがない、流浪のバーのマスター。彼女──ここでは、マスターのことを彼女と呼称しよう──はいつも、そう締め括る。
謎の多い経歴だが、その語り口は妙に真実味を帯びていた。そして客の誰もが、彼女の名前を知らないでいる。みな一様に、彼女を『マスター』と呼ぶのだ。
「マスター、聞いてくれよ」
「なになに、聞かせてちょうだい」
「今日ギルドの受付嬢に文句言われたんだよ」
「あら、一体何があったの?」
「ただの駆除のクエストでさ、モンスターを狩猟さえすれば良かったんだけどさ。ガンランスは素材痛ませるってわざわざ苦言を言ってきたんだよ」
「捕獲でも、素材目当ての狩猟でもないのに? そりゃ失礼しちゃうわねぇ」
「大方、回収した分の素材に粗悪なものが多かったんだろうな」
「アルフが焼き過ぎちゃったってわけ? でも、要はそのモンスターを駆除して欲しいって依頼だったわけでしょ? それでそんなこと言われるのも、何か筋違いっていうか」
「だよな。分かってくれるか」
酒が回ってきたアルフレッドは、日中の不満を口にする。
マスターはそれを聞いて、うんうんと頷いた。
「言ってることは分かるけど、わざわざその場で言うことはない。そういうことよね」
「あぁ……」
「ギルドとしてはお金をより多く稼ぎたいんでしょうけど、無事依頼をこなしたハンターに言うのは違うと思うわ」
アルフレッドの不満を言語化して、共感する。
マスターの言葉に、彼もまたうんうんと頷いた。
「連れは、商人がお金欲しさにギルドに文句を言ってるんじゃないかって考えてたが……」
「なるほどね……。確かに、それもあるかも」
「やっぱそうなのか?」
「商人ってのはね、五千ゼニー手にして、悔しがる生き物なの。ほんとは一万ゼニー手にできたはずなのに、むしろ五千ゼニーの損益だ……ってね。得られた分より、最大限の利益との差に一喜一憂する生き物なのよ。だから、確かに粗悪な素材が多いと、声を荒げる者も多いかも。特にバルバレなんかは、キャラバンの街だからね。商人連中の巣窟よ」
「そうか……だからか」
「もしかしたらその受付嬢も、そんな商人たちの文句に板挟みにあってるのかもしれないわよ。あんまり強く当たらないであげてね」
「……そうするよ」
彼女の言葉に、アルフレッドはそれ以上の愚痴を飲み込んだ。
喉から出掛けていたそれを飲み込むのは些か苦しかったが、あの受付嬢の困った顔を思い出すと、どうにもこうにも糾弾しにくい。そう、自分に言い聞かせるのだった。
そんな彼の目の前に、マスターは一本のビンを置く。
『メーカーズキャノン』──砲モロコシバーボンの拡散酒と呼ばれるもの。
「ガンランスだって、誰もがキツく当たるわけじゃないわ」
「これは……」
「そう、立場は違えど、ガンランスを愛する者はいるのよ……!」
それは、とある農家が爆発的な想いで生み出した一本の酒。
トウモロコシの弾ける様子から生まれた銃槍、『砲モロコシ』。その存在はまさにガンランス界の革命的存在で、今でも伝説的存在として崇められている。昨今の技術革新でさらに優れた銃槍は開発されているが、それでも砲モロコシを愛する銃槍使いは一定数存在する。
そんな砲モロコシの生みの親である農家が、全ての銃槍使いに贈りたい思いで自作の蒸留所まで用意して生み出したのがこの逸品。トウモロコシの蒸留酒、砲モロコシバーボンである。
「拡散酒……口に、喉に、拡散していく旨みと甘み……こいつが、ここで飲めるとは……!」
「たまたま持ってる荷車に会ってね、無理言って譲ってもらったの。飲む?」
「もちろん! 飲み方は? 何が美味い?」
「これはダブル……そしてロックね。それでいいかしら?」
「マスターがそう言うなら間違いない。それで頼む」
カランと、丸氷が音を立てる。
先ほどのガンハンマよりもさらに濃いこの色は、もはや琥珀色という範疇を超えかねないほど。
あちらは麦の深い香りが鼻を撫でたが、こちらはトウモロコシの甘い香りが鼻腔を埋め尽くした。
「あぁ……すげぇ。何だこれ……」
「蒸留酒特有のツンとする感じが、あんまりないでしょ? 豪快なのにどこか繊細で、とてもいい酒よ」
「香りだけでも、いくらでも嗅げそうだ……」
「でも味も、格別よ……?」
「くううぅぅ……いただきますっ!」
縁についた唇から、微量の琥珀液が流れ込む。
瞬間、口に広がる香り。トウモロコシの甘さと深さを詰め込んだそれが、一瞬で味に変わる。香りにさえ味がある。そう錯覚するほどの濃い香り。
そしてその甘い口どけは、アルフレッドの冷えた心を一瞬で溶かした。
「あぁ……」
口に含んで、舌で転がしてよく味わって。
飲み込んだあとの吐息とともに、潤いを含んだ声が漏れるのだった。
「お前さんはまさに、ガンランスみたいな酒だぁ……っ!」
目頭が熱くなる彼は、ただ静かにそう言って──。
もう一度、その酒を口にするのだった。
連続で狩猟描写がなくてすみません。
ガンランスの世界観補足の回。ゲーム中ではどんな倒し方をしても素材の価値は変わりませんが、実際にはきっと素材の損傷具合で価値が変動するのだと思います。特にガンランスのような、広範囲を激しく焼く武器は、きっとかなり値踏みされるでしょうね。そう思うと的確に部位を狙えるランスは素材の損傷が少なく、逆に拡散弾なんかで狩りをした暁には、恐ろしいことに……。まさに赤字覚悟の総力戦といった感じですね。
同時に、アルフレッドの酒好きな部分を書きたかったのもあります。洒落たバーでお酒を決め込む。たまりませんね。バーボンはトウモロコシが主原料なので、砲モロコシを見た時これはきっと美味しいお酒にもなるぞと思いました。そのうち、コーンウイスキーの方も書いてみたいですね。プラットバレーみたいな、粗削りで豪快な味もいいものです。
ちなみにマスターは、こんな人。濃いです。
【挿絵表示】
それでは、次の更新で。次回こそちゃんと狩猟描写入れます!