ラストリロード   作:しばりんぐ

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ガンランスへの挑戦者

「ここだッ!」

 

 噴き出る熱風。

 舞い上がる可燃性ガス。

 甲殻の隙間からガスを撒き散らしながら暴れる、岩竜バサルモス。

 その猛攻を掻い潜っては、懐に潜り込んだ男。血濡れのような赤髪をひとまとめにしたその大男は、左手の巨槍を突き出すのだった。

 

 鈍い音が響く。

 岩竜の固い甲殻に、穂先の刃が削られる音。

 しかし、彼はそれを気にすることはなかった。ただ迷わず、引き金を引いた。

 

 ドォンッ!! 

 

 彼の持つ武器は、ガンランス。

 大型の槍に、砲撃機能を搭載した人類の猛き爪である。

 刺突と共に、爆風と砲炎、熱した金属片をばらまくその一撃。刺突の威力を遥かに上回る衝撃波は、バサルモスの甲殻を捲り上げるのだった。

 

「セレスッ!」

 

 背後に跳んで、岩竜との距離を空けたその大男。

 彼が、声を張り上げる。女性の名を呼ぶ、声。

 

 まるで、返事の代わりでもするかのように、銃弾が飛んできた。

 十数発詰まった弾倉を瞬く間に空にするかのような、そんな怒涛の連射だった。

 

「いいね、流石だ!」

 

 砲炎によって剥がされた甲殻。

 剥き出しにされた肉を削る、大量の弾。

 痛みのあまり身を仰け反らせるバサルモスだったが、それだけでは終わらなかった。

 アルフレッドの持つ槍の切っ先が、その顔に向けて放たれたのだから。

 

「アルフ! 気を付けて! 尻尾が来るよ!」

 

 セレスと呼ばれた、銀髪の少女がそう叫んだ。

 遠目から狙撃していた彼女は、巨体の足元で戦うアルフレッドと異なり、バサルモスの全貌を視認できる。

 故にその竜が何をしようとしているか、手に取るように分かるのだった。

 

「ふんっ!」

 

 巨体とはいえ、バサルモスはまだ子ども。成長途中の、幼き竜だった。

 故にその尾もまだ短く、振り回してもそれほどの威力は伴わない。盾を構えるだけで、彼の体格ならば捌くことも可能なのである。

 尾の振り回しを防がれたことによって、隙を晒したバサルモス。その脳点に狙い澄ました杭を、躱す手段は残されていなかった。

 

「らァッ!」

 

 刺突と共に放たれるのは、炸裂弾と杭を仕込まれた特殊な弾。

 その杭が連続で弾け、バサルモスは脳を強く揺さぶられる。思わず、その巨体を投げ出してしまいそうになるが──。

 

「いや、まだか……ッ!」

 

 バサルモスは、依然として鼻息を強く噴き、アルフレッドを睨んだ。

 まだ効いていない。意識ははっきりしている。もつれた体をそのままボディプレスに変え、目の前の小さな人間を踏み潰そうとする。

 

「させないよ!」

 

 地に伏せて、ヘビィボウガンを低く構えていたセレス。

 スコープ越しに、岩竜の翼に照準を合わせていた彼女は、狙い澄ました一閃を撃ち放った。

 狙撃竜弾。

 超速度で貫通したその弾は、弾道にばら撒いた火薬の粉塵を超速度で着火させる。翼を射抜いて胴体へと刺さったその一閃は、激しい炎の軌跡を生み出した。

 痛みのあまり、怯んだバサルモス。アルフレッドを潰すことも忘れ、横転してはのたうち回る。

 

「助かった! ありがとな!」

「えへへ、どういたしまして!」

 

 伏せの体勢から前転、新たな弾倉を銃身へはめ込むセレスは、しゃがんだまま再び照準を岩竜へと合わせた。

 撃ち放たれるは、通常弾の弾幕。しかし、それも岩竜の甲殻に当たると同時に、弱々しく弾かれてしまう。

 

「ダメだっ、固すぎるよ!」

「今度は俺に任せろ!」

 

 穂先を地面に擦るように、銃槍を振り回すアルフレッド。

 砲炎の余熱でうっすら赤みを灯すその切っ先を、身をよじらす岩竜へと向けた。

 装填されるは、火竜の息吹を留めた特殊弾。

 人は、その灼熱の吐息を、竜撃砲と呼ぶ──。

 

 地鳴り、振動。

 砲炎、衝撃波。

 弾け飛ぶ、岩竜の甲殻。

 溶けだした皮膚。

 

「甲殻は剥がした! そこを狙え!」

「うわー、すっごい!! よーし!」

 

 撃ち切った弾倉を外し、新たな弾倉を取り付けたセレスは、再び通常弾の弾幕を張るのだった。

 弱点を的確に撃ち抜くその腕に感嘆しながら、アルフレッドも負けじと槍を振るう。

 彼が振るうのは、ドスゲネポスの素材を使って作られた銃槍『V・ガルランド』。刀身に浸しておいた麻痺毒が、刺突の度に傷口に塗り込まれていく。如何にバサルモスが巨体といえど、何度も毒を注入されていれば、それが全身に回りきるのも時間の問題と言えるだろう。

 

 突いて、突いて、引き金を引いて砲撃。そしてまた、突く。

 染み渡っていた麻痺毒が、とうとうバサルモスの全身を覆い尽くす。

 

「麻痺したな! 畳みかけるぞ!」

「うん!」

 

 全身を痙攣させて隙を晒す岩竜に、二人の狩人が怒涛の猛攻を仕掛ける。

 露わになった皮膚に撃ち込まれる弾は、鮮血と肉片を溢れさせた。

 頭部に当てられる衝撃波と砲炎は、岩竜の意識を、少しずつ削ぎ落としていった。

 そして、とどめと言わんばかりに撃ち放たれたのは、あの炸裂と衝撃で脳を揺さぶる杭──拡散型竜杭砲だった。

 

「眩暈を起こしたな……!」

「すごいよアルフ! もうあたし、手持ちの弾がなくなっちゃいそう!」

 

 転倒と、麻痺毒と、眩暈(スタン)

 巧みな搦め手をもって、バサルモスの自由を奪ったアルフレッド。

 動けない巨体は、ただの的である。セレスは全ての弾をもってバサルモスに臨み、ひたすら引き金を引き続けるのだった。

 

 撃ち放った最後の一弾が、とうとう血肉と繊維を突き破って、岩竜の臓器へと届く。

 眩暈によって意識を失っていたバサルモスは、そのまま少しだけ体を痙攣させ、動かなくなった。

 

「……仕留めたか」

「……うん」

 

 なるべく、苦しませずに仕留められただろうか。

 セレスはそんなことを考えながら、立ち上がってボウガンを折り畳む。

 アルフレッドもまた、構えていた槍を降ろした。

 空いた左手で、静かに横たわる巨体を撫でながら、静かに呟くのだった。

 

「楽しかったぜ」

 

 そう言って、ポーチから信号灯を取り出しては、着火する。

 狩猟完了の証である。

 

 

 ○◎●

 

 

「おつかれ」

「おつかれさま!」

 

 小タルのジョッキをぶつけ合って、二人は狩りの成功を祝っていた。

 バルバレの集会所。喧噪で満たされた、雑多な酒場だった。

 

 キャラバンと、多種多様の商品や人間で埋め尽くされるこの街は、今日もにぎやかだ。集会酒場においても、様々な防具を見に纏ったハンターたちでごった返しをしている。

 クエストボードに貼られた依頼を見比べて、何を狩ろうか悩んでいる者。

 腕相撲をして自身の力量を比べ合っている者。

 そして、アルフレッドとセレスのように、狩りを終え、祝杯を挙げている者、など。

 

「狩りの後の酒はいつも旨い。……狩りの後じゃなくても、いつでも旨いけど」

「ぷはーっ、やっぱり冷えた達人ビールはたまんないよね!」

 

 氷結晶を仕込んだボックスによって、いつでも冷えた達人ビールが飲める。集会酒場に人が集まる由縁の一つである。

 そんな爽やかな喉越しにうっとりするアルフレッドと、力強く飲み干すセレス。

 

「酒、飲むんだな。何か意外だ」

「よく未成年に間違われるんだよね。でも、達人ビールは好きだよ!」

 

 空になったジョッキを掲げ、追加でもう一本注文する彼女だが、その見た目はやはり十代前半ほどの少女のように見える。

 それでも、彼女はいくつもの修羅場を乗り越えてきているのだ。見た目で判断するのは無粋だろう。アルフレッドはそう思いながら、さらに一口ビールを流し込んだ。

 冷えた感覚が、喉に流れ込む。パチパチと弾ける炭酸と、鼻孔から抜けるビール特有のホップが効いた苦味。彼の心は、静かに沸き踊るのだった。

 

「いつもごめんね。何だかんだ、ずっとお世話になっちゃってるね」

「うん?」

「この前のバサルモスで、何度目になるかな? 一緒に狩りに行ってもらうの」

「あー……数えてないから分かんねぇけど、もう五回目くらいじゃないか?」

「そんなに? そんなにやってたんだ」

「俺もセレスといると、狩りが結構楽にできるからな。謝らなくていい」

 

 当初、あのディアブロスの狩猟の後に。

 一緒に狩りに行こうという約束はしたものの、アルフレッドとしてはそれも一回きりのつもりだった。一度一緒に狩りをしてみて、彼女が自信を取り戻してくれたらそれでいい。そんな算段だったはずなのだが。

 気付けば、一緒に狩りに行くことが増えていた。先日の我らの団で行った賭け事の分──というだけではない。

 示し合わせることもなく、集会所に行けばそこで会い、獲物を選んで同じクエストを受注する。

 そんな日々が続いていた。

 

「……あたし、お荷物になってない?」

「んなアホな。お前さんの射撃術は、本当にすごいよ。むしろ俺の方が助けられてるくらいだ」

「いや~、それはアルフがモンスターをいつも足止めして、守ってくれてるからだよ。いつもありがとう、へへ」

「……おう」

 

 改まって、照れくさそうにそう言うセレス。

 アルフレッドも、感情がつられそうになる。だからそっけない相槌を返すのだった。

 

「ところで、報酬の方は大丈夫か? 二人で分けてる分、収入は減ったんじゃないか」

「それはまぁ、そうだけど……。でもあたし、今ハンターが楽しいって感じ始めてるんだ」

 

 セレスは、笑う。

 その表情には、あのディアブロスの影に怯えていた色が、霞のように消え去っていた。

 

「一人でやってた時は、いつも宿で縮こまってた。次の狩りが、怖かったの。自分がいつ、どうなってしまうか分からなくて。ずっとずっと、不安だった」

 

 懐かしむように、過去を語る彼女。

 しかしその口振りには芯が詰まっており、事実であることはアルフレッドにも分かった。

 

「でも今は、今はね、楽しいんだ。アルフと一緒に狩りをしてると、楽しいの。安心できる。大丈夫なんだって、思えるの」

 

 そう言って、彼女は笑った。

 花が咲いたような笑顔だった。

 

「楽しい……か」

「うん、楽しい。アルフは、狩りを楽しんでる……でしょ?」

「まぁな」

「まだ、あたしはアルフほどは行きつけてない……けど! 前ほど、怖くない。不安じゃなくなってきてるんだ」

 

 アルフと一緒だから。

 大切なものを包むようにそう言う彼女の言葉に、アルフは目を丸くする。

 

「……だから、その、アルフさえ迷惑じゃかったらでいいんだけど」

 

 おずおずと、それでいて丁寧に。

 何とか言葉を形にしようとたどたどしく繋げる彼女の、その先の言葉は。

 

「これからも、あたしと一緒に狩りに────」

 

 酒場によく響く大声によって、掻き消されるのだった。

 

「ああぁ──っ!! セレスちゃん! セレスちゃんじゃん!!」

 

 どかどかと歩いてくる、二人組の男。

 大声を上げたのは、桃色の鱗と黒い毛皮で飾った鎧を纏う男だった。兜は取り外しては小脇に抱え、もう片方の手でセレスに向けて手を振って近づいてくる。

 もう一人は、ライトボウガンを背負った軽装を纏った男だった。ゴーグル越しに様子を窺うその姿は、表情一つ分からない。分かることといえば、その装備がドスマッカォの素材を加工したものであること、くらいだろうか。

 

「セレスちゃん、久しぶり! バルバレ戻ってたんだ! 前大怪我したって聞いて、心配してたんだよ? も~!」

 

 黒色の短髪、口元と顎に整えられた髭でまくし立てるその男。

 快活で気の良さそうな雰囲気に見えるが、どこか軽そうな男にも見えると、アルフレッドは感じていた。

 

「あはは……えと、お久しぶりです、セシルさん……」

「そんな『さん』なんて、むず痒いな~。セシルでいいよ、セシルで!」

 

 セシル、と呼ばれた男は高らかに笑い声を上げる。

 

「いや~元気そうで良かったよ。怪我、もう大丈夫なの?」

「えぇ、お、おかげさまで」

「見舞いにも、助けにも行ってあげられなくてごめんね! タイミングが悪いことに長期間の狩りに行ってたもんでさ。ユクモ村だよユクモ村!」

「は、はぁ……」

「向こうにいるメンツじゃ手が足りないって呼ばれてさ~。するとどうよ、水没林に新種のモンスターがいるって!」

「新種……?」

「そう、それも新大陸で確認されてた獣竜種! アンジャナフっていうのよ。それが水没林にまで生息域を広げてたんだってさ! 驚きだよね!」

「アンジャナフ……。それって、もしかしてアンジャナフの装備なのか?」

 

 困ったように相槌を打つセレスに対して、話に食い付いてきたアルフレッド。

 にこやかに話していたセシルと呼ばれた男から、笑みが消える。突然の大男の介入に、語りを止めるのだった。

 

「……何? セレスちゃん誰よこいつ。急に入ってきたんだけど」

「アルフレッド、っていうハンターさんです。銃槍使いの」

「げ、銃槍使いかよ……」

「……関わらない方がいい御仁ですかねぇ」

 

 あからさまに嫌な顔をするセシルと、ようやく口を開いた跳狗竜装備の男。

 しばらくセレスと狩りをしていた分、すっかり忘れていたが、これがいつもの反応だったな。と、アルフレッドは他人事のように思い出しては、少し浮かせた腰を椅子に戻すのだった。

 

「……悪かったよ。黙ってる」

「……でね、セレスちゃん! これ、そのアンジャナフの素材使って作ったのよ! カッコいいでしょ!」

「い、いいと思います」

「いやー、強かった! 俺の双剣が久しぶりに頑張っちゃった! しかも新種の狩猟ってことで報酬金がたくさんもらえてさ、うはうはって感じ。今俺たちすげーあったまってるよ。どう? そろそろこの前の返事をもらってもいい時期だと思うけど」

 

 セレスの腰掛ける椅子の、背もたれに手をかけながら。

 セシルというその男はずいっと近付いてくる。それに、彼女は困ったようにアルフを見るのだった。

 

「え、えっと」

「俺たちの猟団、今羽振りがいいよ! お金のこと気にしてたでしょ? 今ならばっちり儲かるよ!」

「セレス嬢は大変腕がいいと聞きまして。こちらとしても、是非貴女のお力を借りたいところです」

「お互い、良い話だと思うんだけど! 一緒に楽しく狩り行こうぜ!」

 

 要は、勧誘だった。

 セレスの実力か、はたまたその可憐な姿か。もしくはその両方か。

 彼らの猟団は彼女をスカウトするために、以前から声を掛けていたのだった。

 あの医療棟で、猟団という言葉を出したのはこいつらに誘われていたからか。アルフレッドは、目の前で繰り広げられる勧誘劇を見ながら納得するのだった。

 

「あたし、その」

「三人がかりなら、もっとでかいモンスターを狩りに行けるぜ! リオレウスとか、ティガレックスとか! きっともっと儲かるよ~」

「何でしたら、今度バルバレで開催される腕試し大会に参加するというのも、さらに稼げていいかもしれ──」

「ご、ごめんなさい!」

 

 並べられた勧誘文句を、ばっさり断る。

 え、と小さな声が男から漏れたが、すぐに喧噪に飲まれていった。

 

「えっと、あたし今この人と組んでるんです。だからお返事は、前と一緒ということで……」

「え、えぇ……、えぇ~! そりゃないよ~!」

「く、組んでいる……!? じゅ、銃槍使いとですか……!?」

 

 超狗竜装備の男と、ゴーグル越しに目が合うアルフレッド。

 見えないその目だが、狼狽えていることだけは明らかだった。

 

「いいのかセレス。そいつら、今めっちゃ羽振りがいいらしいぞ」

「羽振りがよくても、あたしはもうちょっとリハビリしたいかな……。轟竜は怖いよ」

「……まぁ、バサルモスやザボアザギルくらいがちょうどいいかもな」

 

 話は終わった、と言わんばかりにアルフレッドは達人ビールを口にする。

 目を閉じて、その爽やかな苦味を堪能するが──目を開けると、目の前に不満そうな男の顔があった。爽やかな旨みが、すっと消えゆく。

 

「……何だよ」

「ちょっとお前さ、俺たちのセレスちゃんを取らないでくれる?」

「我々が先に勧誘していた故、そこを通さずに話を進めるというのは些か筋が通っていないと感じざるを得ませんが」

「何だコイツら……」

 

 露骨に不満を口にする二人に、アルフレッドもまた本音の声が漏れ出るのだった。

 純粋に、面倒臭い。そんな思いがたっぷりと乗った言葉だった。

 

「セレス、お前さんモテモテだな」

「いやぁ……」

 

 褒められているのか、皮肉られているのか分からないその言葉に、セレスも困ったように笑うのだった。

 

「俺が誰と組もうが勝手だろ。お前さんたちの事情なんて知ったことか。セレスが組みたい奴を選ぶんだから、それでいいだろ」

「いや! 俺たちは断じて許せないね! セレスちゃんがガンランス使いと組むなんて、危険すぎる!」

「危険?」

「銃槍使いは、ハンター殺傷の危険性があります。過去の事例が根拠となりますね。故に貴方がセレス嬢を傷つける可能性が十分にある。我々が口を挿むのも致し方ないと」

「そんな! そんなの言いがかりだよ!」

「セレスちゃん、ガンランス使う奴なんて、よっぽど頭がおかしいか人を殺したい奴だけだよ! なぁカイン!」

「そうですとも」

「めちゃくちゃだな……」

 

 セシルと、跳狗竜装備のカインという男。

 二人が同調しながら迫ると、流石のアルフレッドも溜息をつくのだった。

 

「俺は別に人殺しがしたいわけでもないし、狂人というわけでもない。ガンランスが好き、ただそれだけだ」

「いーや! 信じられないね! お前みたいに理屈っぽいことを並べる奴が一番腹ン中で何考えてるか分かんないっつーの!」

「いや理屈っぽいか俺?」

「……セシルの感性はともかくとして、我々は貴殿とセレス嬢が組んでいることを、おいそれと見過ごすことはできません」

 

 随分と学がなさそうな男だ、とアルフレッドはセシルを見ながら思うのだった。

 少しだけシンパシーを感じつつ、しかし教養がありそうなカインという男には、やはり親近感を抱くことは難しそうな様子である。

 

「もうこれで五回目になるの、アルフと一緒の狩り。でもこの人はそんな危ないことはしないよ! それよりもいつも危険から守ってくれて、すごく頼りになるんだから!」

「いいかいセレスちゃん、男はみんな腹ン中でジンオウガを飼ってるもんなのさ。こいつの本性がどうかは、俺たちが見定める!」

「……というと?」

 

 セシルの口走ることに、アルフレッドやセレスはおろか、カインですら首を傾げた。

 相方がそう尋ねると、セシルは大いに自信を孕んだ口調で、行き過ぎた要求を突き付けるのだった。

 

「俺とカインが、お前を見定めてやるぜ! 俺たちと四人パーティーで狩りにいくこと! そこでお前に危険がないと分かればお前のことは認めてやる! けどもしもお前が砲炎の一つを味方に向けるんだったら……!」

「そん時は俺が危険人物ってわけね……」

 

 過度な要求に辟易するアルフレッドだったが、セシルとカインの同調圧力の前に言い返す言葉は浮かばなかった。

 元々口下手で、コミュニケーションに秀でているわけでもない。次の言葉を選びかねている彼の代わりに、セレスが口を開くのだった。

 

「だったら、大丈夫! きっとアルフの強さにびっくりするよ! ね、アルフ」

「それで俺が『おうそうだな』って言うと思うか? どんだけ自信過剰なんだよ」

「えぇ~……だって、アルフは強いもん……。あたしが保証するもん……」

「……はぁ~」

 

 目に見えて落ち込む彼女を前にして、それを無下にもできないのがこの大男だった。

 ガシガシと頭を掻きながら、その行き過ぎた要求を呑み込む。それだけが、彼に残された道だったのだろう。

 

「わーったよ……。やりゃあいいんだろやりゃあ」

「よし決まり! クエストは俺たちで選定するからな! 俺と、カインと、セレスちゃんとお前! 時間は……そうだな。三日後の朝にバルバレの集会所で落ち合おう。決まり!」

「強引な奴だな」

「三日後……。入念な準備を推奨する」

「お前さん、案外優しいな」

 

 強引なセシルと、紳士的な言葉掛けをするカイン。

 離席する二人を見送るアルフレッドの顔は、ある種の疲労の色を帯びていた。通常の狩りよりも、彼に精神的な負担を強いていたのだろう。

 

「逃げんなよ! 無実を証明したいなら、誠実にやれよ!」

「ふふ、優しいと言われてしまったな……。存外、嬉しいものです……ふふ」

 

 小物のように声を荒げ、一方で少しにやにやと笑みを溢しながら去る二人の背中を見ながら、セレスは大きな溜息を吐き出した。

 二人が雑踏の影に消えたのを見て、ようやく胸の内を言葉に変化させる。

 

「うぅ~、ごめんねアルフ……。猟団の人たち、まだ諦めてなかったんだぁ……」

「アレか、以前から勧誘されてた的な」

「うん、そんな感じ。取り分が減るから断ったんだけどね。なんかその、軽そうな感じでなんかやだったし」

「分かる気がする。変な奴らだったな」

「巻き込んじゃったね。ごめん……」

「……ま、気にするなよ。四人で狩れるなら、楽でいい」

「むー、でも即興で組むんだもん。連携とかは取りづらそうだよ。アルフとは、上手く連携できるようになってきたんだけどなー」

「難しいことを考えるのは得意じゃない。そう構えなくても、なるようになるだろ」

「……アルフ、気を付けてね。味方を撃たないようにね」

「任せろ。剣士同士で組んでも問題ないってことを、証明してやるぜ」

 

 そう言いながら、アルフレッドはガンランスを背負った。

 

 ハンター殺しの武器、とさえ言われる銃槍である。

 味方すら焼きかねないと、敬遠されている銃槍である。

 しかしアルフレッドは、好んでこの武器を手に取るのである。

 

 理由は明快。

 ガンランスを愛して、やまないから。

 ただ、それだけである。

 

 




次回は、四人組で狩りに行く描写を書こうと思います。
ワールドからガンランスの砲撃にあった味方を吹き飛ばす仕様は撤廃され、剣士が混み合う中でも気にせず撃てるようになりました。しかしXXまでは通常の砲撃すら味方を吹き飛ばすため、マルチで狩りに行く時は最新の注意を払わねばなりません。ヒートゲージの存在もあり、気にすることの多い複雑な武器でした。しかしそれをこなしてこそ、ガンランスを使いこなしているという実感も得られ、あれはあれで良かったと今は思います。そんな気持ちを思い出しつつ、あの頃のガンランスのマルチ狩りを、現実的な描写ができればいいな。追い付け、自分の文章力!!
あ、それとお気に入りや評価ありがとうございます。とうとうこの作品も評価者が五人を超え、赤色作品になったやったー!!と喜んでいたら速攻で低評価食らって色落ちしてました。出る竜杭砲は打たれるということか!
閲覧ありがとうございました。

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