カインをベッドに寝かし、改めて包帯を巻き直すセシル。
その表情は脂汗に、そして苦悶に満ちていた。カインも、そしてセシルも。
「くそ、カイン……どうりゃいいんだ、俺はよォ……!」
絞り出すようなその声に、当然彼は答えない。彼はただ荒い息のまま、深い意識の底で自分自身と戦っている。
セシルももちろん分かってはいるが、問い掛けずにはいられないようだった。それはまるで、一種の自問自答のようだ。
「はぁ、はぁ……俺は、俺は……」
テント内の囲炉裏に薪を置き、火種となる火薬草を仕込む。
火打石を剥ぎ取りナイフで叩き、生まれた小さな火を火薬草へと移し、薪に移るまで丁寧に育てる。
「こんなことをしてる場合じゃ、いやでもカインが、くそっ、くそぅ……」
時間の掛かる火付け作業だったが、体温が下がりゆく相棒を救うためには、火の暖かみは欠かせなかった。
どうしようもないやるせなさが、彼を襲う。
「セレスちゃん……」
彼が勧誘し、今回の狩りを計画することになった一人の少女。
可憐な容姿と、正確無比な射撃の腕前に惚れ込んで、このような機会を設けたものの──その彼女が、今命の危険に晒されている。
進んでその渦中に飛び込んだ彼女を、セシルは止めることができなかった。それがどうしようもなく、彼の心を蝕むのだった。
そんな時に、テントの幕を荒く掻く者。
はっと、セシルは武器を手に取る。
「誰だ!?」
モンスターか、放浪者か。
それとも、セレスが戻ってきたのだろうか。
様々な可能性が、乱雑にかき混ぜられながら彼の思考を埋め尽くす。
しかし返ってきたのは、予想外の声だった。
「あぁ良かった、人がいた! ギルドの職員です、一体何があったのですか?」
現れたのは、淡い茶色の髪を短くも長くもなく揃えた小柄な男性。表情の読み取りにくい、糸目とでも表現すべき細い視線が印象的だ。
身を包むのは、ギルドの正規職員の者。原生林の異常を察知し、飛行船から降りてきたのだった。
「あ……い、イビルジョーだ、イビルジョーが出たんだ!」
「え、あの恐暴竜ですか!? それは早く退散しなければ! すぐ手配しましょう……あれ? 二人だけ、ですか? 他の方々は……」
「俺がコイツを運ぶために、囮になってんだ! まだ、まだあの中に……!」
「何ということだ……」
その言葉を聞いて、彼は青ざめる。
非常にマズい事態だ、と右親指の爪をガリッと噛んだ。
「俺たち、俺たちネルスキュラをちゃんと捕獲したんだ! だけど、だけどアイツがいきなり現れて!」
「なるほど。大方、捕獲体の保護のために、ってことでしょうか。普段なら即時撤退させるのですが、今回ばかりは救出が最優先ですね」
「救出……? ど、どうやって……」
思わぬ言葉に、嘆いていたセシルは顔を上げる。
そんな彼の肩に、ギルドの職員は優しく手を置いた。
「この方は、私が診ます。貴方にはぜひやっていただきたいことがある」
「俺に……?」
「原生林なら、ズワロポスか。大きな草食種の、新鮮な肉を用意していただけないでしょうか」
そう言って、彼はセシルの右手をそっと包む。武器を持つ、その右手を。
彼の思わぬ持ちかけに、困惑する猟団のお調子者だったが──今回ばかりは、覚悟を決めたように立ち上がった。
そして、ベッドサイドに置いていた兜を、静かに被るのだった。
○◎●
恐暴竜が、悲鳴を上げた。
超速度で駆け抜けた何かに撃ち抜かれ、かと思えばその軌跡が炸裂する。
流れ星のような一閃。アルフレッドには、見覚えがあった。
「……あ……?」
赤く染まった視界の向こうで、巨体が横転する。
血の臭いと、漂う腐臭に紛れるように、硝煙のような香りが届いた。
「この、臭い……」
彼の使う砲弾とは違う。
ボウガンに使用される火薬によるもの。特有のツンとする硝煙の香りに誘われ、彼の意識は次第に鮮明になっていく。
アルフレッドは、顔を上げた。
狙撃された恐暴竜がもがく姿と、木々の向こうで銃口を掲げる少女の姿が目に入った。
「セレス……!」
「アルフ!!」
駆け寄ってきた彼女が、狩りの相棒の惨状を目のあたりにする。
とても戦える状態じゃない。皮膚のところどころが焼け爛れ、防具は既に意味を為さないほどボロボロだ。それでもなお握り続ける
「ひどい怪我……! ごめんね、あたし来るのが遅くて……!」
「……笑ってくれよ。情けないったらありゃしねぇや」
「ううん、アルフは成し遂げたんだよ」
「あ……?」
「君がイビルジョーを食い止めてくれたから、カインさんは無事キャンプまで戻れたんだよ……!」
「そう、か……」
その言葉に、アルフレッドは口元を和らげた。
自分のやったことに意味はあった。そう実感したのだろう。そして、立ち上がろうと体に力を入れる。
「だめだよ、動いたら……!」
「どの道こんなとこで転がってたら、俺はすぐ食われる」
「そ、それは……そうだけど」
イビルジョーは、未だに苦しんでいた。
大量に出血している。失血死してもおかしくないと思うほどの量だ。そう、それはまるで滝のように。
幸いにも、奴がもがいているおかげで、アルフレッドには身を起こす時間の猶予が与えられていた。
そんな彼に、セレスは回復薬グレートを手渡す。彼の右手を支えながら、飲む手助けをするのだった。
「──っぷはぁ! あー、浸みる……セレス、ビールも飲みたい」
「それは帰ってから、だよ! あとこれ、ちゃんと噛んで呑み込んでね」
懐の小袋から取り出したのは、マンドラゴラの滋養強壮成分を栄養剤で底上げした丸薬。その名も秘薬だった。体力を強く回復させるが、その分反動も大きい。故に彼女は、まず彼に回復薬グレートを飲ませて基礎代謝を促進させたのだった。
ガリッと飲んで呑み込むと、体が跳ね上がるような感覚に襲われる。それに顔を顰めながらも、アルフレッドは何とか立ち上がるのだった。
「……急ぐよ、アルフ」
「ああ、起き上がりやがった」
重い足音が響く。
イビルジョーもまた、立ち上がっていた。獲物が増えた、そう言わんばかりに涎を溢している。
「セレス、俺は砲撃で飛べる。だから俺のことはいい。ちゃんと避けろよ」
「う、うん……」
「最悪、アイツの視界から抜け出せれば何とかなるか……? ネルスキュラは、ダメになるだろうが」
「仕方ないよ。生きてる方が大事だもん」
「……だな」
アルフレッドは歩く。
イビルジョーもまた、歩き出す。
セレスは横に跳び、重弩を構えた。
「おい……!」
「大丈夫、気を逸らすだけ!」
そのまま木々の隙間に入り込んで、通常弾を撃ち放つ。それが恐暴竜の表皮を、荒く削った。
目の前の、歩くこともままならない獲物──それを食らおうとしても、横から小さな衝撃が当たり続ける。
一発一発は、大したことはない。しかし傷口を射抜くように連続で抉られるため、流石の恐暴竜も気にせずにはいられないようだった。
「セレスっ、走れ!!」
掲げた首から、赤黒い靄が漏れる。
まるで踊るように、両脚でバランスを取る。その姿は些か滑稽だが、溢れ出る黒い煙を見ては、アルフレッドは冷や汗を垂らすのだった。
「わぁっ!!」
直後、それが薙ぎ払われる。下から掬い上げるように放たれた吐息は、木々を一瞬で焼き尽くし、あっさりと腐食させた。
葉の一つ一つが黒く染まり、生命を失ったように朽ちていく。
「龍属性……」
全てを遮断する、高密度のエネルギー。龍の血がもたらす、未知の力。
分かっていることは、赤黒い光を放つこと。そして、全ての属性を遮断するほど強いエネルギーであること。さらに奴──イビルジョーの場合は、自身の持つ強酸性の唾液を、同時に撒き散らしていること。
それによって木々は生命力を奪われ、溶けて朽ちてしまう。まるで枯葉のように、森が死んでいく。
「うわうわうわ!」
セレスは、木々を走り抜けながらそれを避けていた。
木に隠れながら撃つ、なんていう彼女の当初の目論見は、あっさりと砕け散った。その木ごと溶かされるのであれば、彼女の命もまた枯葉同然である。
彼女は走る。とにかく走る。飛散した唾液に肌を焼きながら、それでも彼女は走った。
「のやろォ!」
アルフレッドは、ポーチから何かを取り出した。
彼の手に収まるほどの、小さな砲丸。彼は、それを投げつける。視界が狭まるほど黒い吐息を吐き続ける、イビルジョーの目の前に。
直後、それは爆ぜた。原生林に、目が眩むほどの強烈な光が迸る。
「セレス、大丈夫か!」
「閃光玉っ、助かったよー!」
走るセレスの視界には入らない、まさに賭けの一投であった閃光玉。満身創痍の彼に、あらかじめ注意喚起する余裕はなかったのだった。
それでも彼は賭けに勝ち、見事イビルジョーの視界を奪った。目の前の獲物を再び失った恐暴竜は、その場で尾を振り回して暴れている。半狂乱に、とにかく獲物を仕留めんと必死な様子だった。
アルフレッドは歩き続ける。
気付けば蜘蛛の巣は抜け、中央の高台のエリアに踏み入っていた。
この高台を抜け、森を抜ければベースキャンプである。もう少しで抜けれる、そんな思いが焦燥感となって、彼の歩調をより早めるのだった。
「もう目が慣れたみたい! 早すぎるよー!」
「二回目だからか。勘付かれてるな……!」
木々を薙ぎ倒し、再び悪魔が現れた。その血走った眼は、強い怒りを孕んでいる。
何とか食い止めようと、セレスは再び弾幕を張るが、それでも奴は止まらなかった。ただ一心に、死にかけの獲物を喰らおうとしている。もはや、最初に食べようとした蜘蛛のことなど、とうに忘れているようだった。
「アルフ……!」
「舐めんなよッ!」
全身に鞭を打ち、アルフレッドは背中の盾を再び右手に装着させた。
「無茶だっ、無茶だよアルフ!」
セレスの声も耳に入らず、大盾を構える大男。
そして左手のガンランスを、強く大地に突き刺すのだった。
「耐えろよ……!」
その衝撃は、強烈極まりない。恐暴竜の突進だ。あまりある巨体が、一度に襲い掛かってくるのだから。
しかしアルフレッドは、耐えた。
反動で、銃槍の穂先が地面に一文字を刻んでいる。それだけ強い反動だったが、彼は何とか踏みとどまったのだ。
ガンランスで、何とか自身を大地に縫い付けた。恐暴竜の前に、立ち続けていた。
「お返しだ……!!」
穂先を跳ね上げるようにして、彼は斬り上げを繰り出した。地面との摩擦に、内蔵された火竜の骨髄に、砲身がうっすら熱を帯びる。まさに、地裂の一撃と言えよう。
その砲口が、青白く輝く。
彼の渾身の竜撃砲が、火を吹こうとしていた。
「食らいやがれ!!」
ドン、と強く鈍い音が響き渡る。それが大地を叩き鳴らし、木々に留まっていた鳥たちを追い出した。
イビルジョーは、溢れ返るような炎を浴びて、思わず顔を仰け反らした。焼けた口内から、鮮血をさらに吹き溢す。
「行くよ! アルフ、できるだけ下がって!」
セレスは、銃口を高く上げる。それはまるで、弓の技法である曲射のように。はたまた、遠方を撃ち抜くための迫撃砲のように。
彼女が撃ったのは、拡散弾。弧を描きながら恐暴竜へと吸い込まれていくそれは、着弾と同時に簡単に砕けた。砕けて、中に込められた無数の爆薬を転がすのだった。
一斉に弾けたそれらに、イビルジョーは脚を取られる。派手に横転し、再び地響きが大地を襲った。
「ナイスだ! すごいぞセレス!」
「もう! 無茶ばっかりするんだから!」
秘薬の効果が回ってきて、アルフレッドの足取りは幾分か軽くなってきた。
そんな彼の手を引いて、セレスはとにかく前に走り出す。このままなら、何とか逃げられそうだ。そんな希望を、胸に抱きながら。
「……やべぇ!」
後ろで引っ張っていたはずのアルフレッドが、跳ぶ。
同時に彼に抱えられ、セレスは自身の視界が急旋回するのを認識できないでいた。
転がった先で見えたのは、大地を牙で穿つ魔物の姿。イビルジョーは、あっという間に起き上がっては、二人まとめて喰らおうとしていたのだった。
「……タフすぎんだろ……」
「もう、死んでてもおかしくないのに……」
セレスがそう溢すほど、イビルジョーもまた満身創痍に見えた。
体中の傷口は開き、腹からは滝のように鮮血を放つ。それでも奴は、目の前の人間二人を食べることだけを考えていた。
その表情は、もはや意識だとか性格だとか、そんなものが見えるものではない。ただ本能だけが脚を生やして走っている。そんな状態だった。
「セレス」
「……アルフ?」
アルフレッドは、彼女の名を小さく呼んだ。同時に、盾を捨てた右腕で、彼女の小さな肩を抱きかかえる。
「ひゃっ……えっ、え?」
予想外の行為に彼女が少し驚いて、目を見開いたところで──彼は銃槍を構えるのだった。
「舌、噛むなよ」
「え────」
彼女が返事をする前に、暴食の毒牙が迫る。
牙に覆われた深淵が、視界いっぱいに広がってくる。そんな光景に彼女が息を呑む、まさにその瞬間だった。
青白い砲炎が、瞬いた。
「────わああぁぁぁっ!!??」
次の瞬間、空が近くなる。
大地が、浮かび上がる。
猛烈な勢いで閉じられた両顎が、爆炎の轟音によって掻き消されていた。
宙を舞う、二人のハンター。
自身が飛んでいることに、ようやく気付いたセレス。
「と、飛んで……!?」
「もう二発、行くぞ!」
土台を底上げされるような、腹の下から持ち上げられるような。
そんな慣れない感覚と共に、彼女の体は二度持ち上がった。
それはつまり、二度急加速した証。アルフレッドが、空中でさらに二回砲撃したのだった。
立て続けに三回行われたブラストダッシュは、二人の体を前に、そして上へと撃ち上げた。高台下の水辺を越え、二人はベースキャンプのある丘へと転がり込む。
「きゃあ!」
「ぐぁ……ッ」
木々に飛び込んだところで、アルフレッドは銃槍を手放した。
空いた両腕で、自身にしがみつくセレスを包み込む。簡単に折れてしまいそうだ、と思わず考えてしまうほど華奢な肢体だったが、今はとにかく庇うのみ。
木の弾かれる音と、水が跳ねる音。全身の感覚が、激しく跳ね回る。
「──っはぁ!」
それが収まった頃には、二人は浅い水辺の中に転がっていた。
べースキャンプが備えられた、小さな水源。目指していた目的の地に、とうとう到着したのだった。
「セレス、大丈夫か!」
「……あ、あたし、生きてる……?」
「……何とか、な」
ぱしゃっと水の跳ねる音が響く。
淡い銀髪は水を滴らせ、陽の光を優しく映していた。腕の中の彼女が、瞼を何度か開閉させながら、自分がどこにいるかを模索する。
「……ここって、ベースキャンプ?」
「あぁ」
「飛んで、きたの?」
「そうだな」
「この下の、水辺のところを?」
「そういうことになるな」
このベースキャンプから、原生林に向かうには二つのルートがある。
一つは、森の外に繋がる平坦なルート。セシルがカインを担いできた、起伏の少ない道だ。
もう一つは、ベースキャンプから谷底の水辺へまっすぐ降りるルート。ここは高低差が激しく、キャンプから飛び降りるだけの一方通行のルートである。
アルフレッドが選んだのは、後者の谷底を飛び越える道。ガンランスの反動で飛び上がり、谷の上を文字通り飛んで抜けたのだった。
「……めちゃくちゃだよ、もう」
「でもま、悪くなかっただろ?」
そう言って、薄く笑うアルフレッド。
前髪から垂れる水滴が、セレスの頬で小さく弾ける。
その時、自身が彼の腕の中にいることに、彼女はようやく気付いた。
「……わあああぁぁっっ! ご、ごめんあたし……っ!」
跳ねるように飛び抜け、顔を紅潮させるが──響く怒号を前に、それ以上の言葉は掻き消されるのだった。
「い、イビルジョー……」
「あそこだ」
木々の向こうで、吠え続ける悪魔の姿がある。
先ほどまで二人がいた高台で、奴は吠え続けている。それはまるで、「逃げるな」と怒っているかのようだった。
しかし翼をもたない彼には、谷を飛び越える手段はない。ただそこで、悔しそうに吠えている。
「危なかったな」
「ほんとだよ……生きた心地、しなかった」
「それでも、随分果敢に戦ってたじゃんか。あの、医療棟の時とは大違いだ」
「え、そ、そうかな……」
「あぁ。とても頼もしかった。助けてくれて、ありがとな」
アルフレッドの言葉に、セレスは目をまんまると見開いて──そしてにへらと頬を緩ませる。
かつての、モンスターが怖いと嘆いていた彼女の姿はそこにはない。一人のハンターとして武器を取り、戦い抜いた英雄の姿、そのものだった。
「……俺も、強くならなきゃな」
「アルフは、十分強いと思うけど……」
「いや、あの時のディアブロスより、あれは強かった。正直、セレスが来てくれなきゃ、俺は死んでた」
淡々と話す彼の言葉に、セレスは喉を震わすが。
しかし彼女の返事を待たずとも、彼は言葉を紡ぎ出す。それはまるで、決意のように。
「もっともっと、腕を磨かねぇと。まずは盾だな。ガードが下手だ、俺は」
「確かにアルフって、避ける方が多いよね」
「あんまり得意じゃないんだよな。でも、格上相手には防ぐ技術を磨かないと、どうしようもないことがよく分かった」
アルフレッドは、拳を差し出した。
優しく笑う彼を見て、セレスもまた拳を突き出す。
「強くなろうぜ。イビルジョーが何体来たって、負けねぇように」
「それは怖いけど……でも、あたしも頑張る!」
打ち合う拳。大きな拳と小さな拳が、小気味良い音を打ち鳴らした。
同時に、風を掻くような重い音が響く。
それは、大きな飛行船の音。ギルドが管理する、ハンターや物資を輸送するための飛行船だった。
「こいつは……」
「あ、あそこ!」
突然の登場に、靡く髪を抑えるセレスは、甲板の方へと指差した。
そこには、セシルが大きく手を振っている。桃色の蛮顎竜の鎧が、青い空の中で一際目立っていた。
「セシルじゃないか。一体何事だ?」
「アルフ見て! 船の下!」
「……ズワロポスが、吊るされている?」
飛行船の底には、鎖とロープで垂皮竜が吊り下げられていた。
すでに狩猟されており、ところどころ皮が剥がされている。故意に損傷させられているのだろう。香り立つような血の臭いに、吠え続けていた恐暴竜は振り向いた。
飛行船は、進行を続ける。原生林の向こう、遠くの峡谷まで、まっすぐと進路を取っている。
「まさか、あれでイビルジョーを誘い出す作戦か」
「お肉で釣って、狩猟区の外へ誘導するんだね」
「……セシル、俺たちを助けてくれたんだな」
「そうだね。あとで、礼を言わなきゃね」
イビルジョーは歩き出す。
鼻息を立てながら、涎を垂らしながら、原生林の奥へと消えていく。
肉を追い求めて歩くその足取りに、疲れや弱りは全く表れていなかった。軽快な足取りを前に、アルフレッドは頭を抱えるばかりである。
「あれだけ撃ち込んだのに……どれだけタフなんだよ」
ただただ、甲板で無邪気に手を振るセシルと、未だに健在な恐暴竜が、ひたすらに眩しく映るのだった。
イビルジョーは古龍級生物。とっても強いです。
今回はほとんど逃げに徹しています。同じく満身創痍でしたが、何とか戦い抜いたディアブロスと、ほとんど撤退状態のイビルジョー。格の違いを表現したつもりです。しかもイビルジョー、弱ってもない。血がたくさん出ているのに、というのは、あくまでも二人の希望的観測なんでしょうね。
ギルド職員の采配により、イビルジョーは狩猟区外に無事誘導されたので、ネルスキュラの捕獲体も無事です。とりあえず、捕獲クエストはこれで達成ですね。
通常、クエストをクリアしたらそのまま帰還して素材ゲット、というのがゲーム中の描写ですが、実際には仕留めた遺骸や捕獲体は回収まで保護する必要があると思うんですよね。他のモンスターが跋扈する中、それを守り続けるのは、むしろ狩猟以上に大変だと思います。そこにイビルなんてやってきたら、そりゃ泣きたくもなりますよね。アルフレッドたちの苦労が読者の皆さんに伝わったら、それだけで私は十分です。
それと、なんとこの作品が日刊に載りました!!皆様、お気に入り登録や評価ありがとうございます!とても励みになります。同じくガンランス愛を抱く同志が多いことを知り、とても頼もしく感じております。共に行きましょう!俺たちのガンランスロード!!