ラストリロード   作:しばじゃが

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狩りの後の宴で

「はっ、はっ……」

 

 金色の野原を、少女は走っていた。

 金とも銀とも取れる、月色の髪を棚引かせ、黒い外套を風に靡かせる。

 その肌はよく日に灼けた色に染まり、どこか艶やかに汗ばんでいた。

 細身で華奢なその出で立ちだが、背中には重弩を、そして両手にはまるまるとした大きな卵を抱えている。

 

 少女は、走る。

 飛竜の卵を抱えながら、この遺跡平原を走り続けていた。

 

「……ジャギィ……っ」

 

 そんな彼女の行く先を阻む、複数の影。

 橙色の体表に、大きな耳をぶら下げた鳥竜種。ここら一体に生息している捕食者である彼らは、周辺住民から『ジャギィ』と呼ばれている。

 小型のものは雄、そしてやや大柄なものが雌。雌の方は、ジャギィノスという別名が与えられるほど、その大きさの差異は一目瞭然である。

 

「これは君たちのご飯じゃないよ! 依頼者が、欲しがってるんだから!」

 

 もうじき還暦を迎える旦那は、卵料理が好き。そんな彼の誕生日のために、飛竜の卵でご馳走を作ってあげたい。

 依頼者の女性がそう語るのを、卵の運び人──セレスはうんうんと頷きながら聞き、この依頼を快諾したのはつい先日のこと。

 そして今彼女は、卵を大事そうに抱えながら、ジャギィの群れに対峙するのだった。

 

「あっちいって! もう……!」

 

 一方のジャギィたちも、簡単に道を開けることはない。

 目の前の人間も、彼女が抱える卵も。彼らにとっては、立派なご馳走だ。涎を垂らしながら、隙を窺おうと彼女の周囲を歩き回る。

 卵を置いて重弩を抜けば、こんな事態どうということはない。しかし置けば、卵の安全は保証されない。そんなジレンマに、彼女が眉をへの字に曲げた時──それは来た。

 

「オオオォォォォッッ!!」

 

 まるで猿叫のような叫び声。

 同時に振り下ろされる砲身が、一頭のジャギィノスを叩き伏せる。

 赤い髪を低い位置で一纏めにしたその男は、かなりの大柄だった。突然の乱入者に、そして自分たちより大きな人間に、ジャギィらは警戒の唸り声を漏らす。

 

「アルフ!」

「随分早かったな、セレス」

 

 乱入者、もといアルフレッド。

 大型モンスターの狩猟のみを行うと謳う、『大型専門』のハンターだ。しかし今日は珍しいことに、セレスに同行し、この卵運搬クエストを受注していたのだった。

 

「ピンチだったみたいだな。流石ジャギィだ。よく鼻が効きやがる」

「狗竜って名前も、伊達じゃないね」

「だな」

 

 彼が持ち上げるのは、ガンランス。巨大な砲身に刀剣を付けた、大型の武器だ。

 それを左手一本で持ち上げる筋力には感嘆するが、その大柄な刀身は巨大な獲物にこそ真価を発揮する。

 彼らを取り囲むのは、小型の鳥竜種だ。このような状況では、ガンランスはただ取り回しの悪い重しとしか働かない。

 

「さ、こいつらの相手は任してくれ」

「だ、大丈夫? 相性悪いよ、武器」

 

 小型モンスターといえど、彼らの牙は鋭い。

 大型モンスターをも下す熟練のハンターが、数に圧され鳥竜の群れに食われた、なんて事例はいくらでもある。

 しかしアルフレッドは、ただ不敵に笑うのだった。

 

「まぁ心配すんな。道は、俺が開くからよ」

 

 そう言いながら、彼は左手の銃槍──アドミラルパルドの穂先に手を掛けた。

 砲身に備えられたベルトと金具を外し、穂先部分である刀剣を手に握る。

 そう、それはまるで片手剣のように。

 片手で軽々と振るうそれに、ジャギィは返事をする間もなく斬り伏せられた。

 

「ガンランスは、こういう時にも強いもんだ」

「なるほど……」

 

 彼が担いだガンランスは、ヘッド独立型。穂先(ヘッド)に別途刀身を備え付けられたものであるため、それを取り外して片手剣のように振るうことも可能である。

 故に、小型モンスターに囲まれたこのような状況でも、素早い対処ができるのだ。

 

「はっ!」

 

 懐に飛び込み、喉元に一閃を叩き込む。

 か細い断末魔とともに崩れる同胞を死角にして、別の個体が牙を剥いた。

 アルフレッドは冷静に躱し、側面から心臓を一突きにする。一際大柄だったそのジャギィノスは、苦しそうな呻き声を上げながら地に伏せた。

 

「さて、次はどいつだ?」

 

 瞬く間に三頭もの仲間が(ほふ)られ、取り巻きたちは悔しそうに唸るのみ。

 それでも負けじと声を上げる若い個体もいたが、アルフレッドが刀剣を向けると、静かに頭を垂れるのだった。

 

「……今のうちだ。行こう、セレス」

「うん!」

 

 開いた道を歩き出すセレスと、彼女を庇うように立つアルフレッド。

 ジャギィたちの目には、もう既に戦意はない。

 そう思ったのも束の間、彼らが何かを見上げた。同時に、喉が震えるような雄叫びが響く。咆哮ではない。飛竜のものではなく、もう少し小柄な何かの、独特の号令のような声だった。

 

「……! ドスジャギィ!」

 

 崖の上から現れたそれは、まっすぐセレスを狙って飛び掛かりを繰り出した。

 アルフレッドは、反射的に動き出す。地面に転がった砲身を蹴り上げ、それを左手で掴んでは瞬時に照準を合わせ──。

 

「セレスっ、伏せろ!」

「えっ……うひゃっ!?」

 

 慌ててしゃがんだ彼女の真上を、爆炎が包む。

 それに弾き飛ばされ、一際大型の個体──ドスジャギィは、派手に横転した。

 

「あっぶね、拡散型担いどいてよかったぜ全く……!」

 

 拡散型の砲弾は、他のタイプに比べて一回り大きい。

 つまり内蔵される火薬の量も多く、爆炎の範囲も広いのだ。彼が先日使っていたオルトリンデ──こちらの銃槍は通常型──だった場合、爆炎がドスジャギィまで届かなかった可能性が高い。

 その事実に心の中で胸を撫で下ろしつつ、彼は武器を振るい続ける。

 

「ここは俺が食い止める! セレスは走れ!」

「わ、分かった!」

 

 親玉の登場で活気づいた取り巻きたちが飛び掛かるが、アルフレッドは冷静に撃ち落としながら声を張った。セレスはそれを聞き、振り返ることなく走り続けた。

 穂先を取り外されたガンランスは、重心がシリンダーに集中するため、幾分か取り回しがしやすくなる。それを証明するかのように、ジャギィという小さな目標を、彼は正確に撃ち抜いていた。

 

「ちっ……!」

 

 装填の隙を見抜いて、ドスジャギィが前に出た。

 大柄の襟巻が迫ってくる。しかしアルフレッドは身を翻してそれを躱す。続けざまに繰り出されたタックルをいなし、迫る牙を右手の剣で弾いて、隙だらけの頭に砲弾を叩き込む。

 ドスジャギィの自慢の襟巻が、一瞬のうちに焼け爛れた。

 

「もうやめとけよ。お前さんらに討伐依頼は出てないからな。俺も狩るつもりはない」

 

 その言葉の意味は伝わらないだろうが、覆し難い力量の差があることははっきりと伝わったようだった。

 親玉が踵を返して巣穴に逃げ込むと、取り巻きたちもいそいそとそれを追い始める。

 

「……ふぅ」

 

 一人残され、ようやく訪れた平穏に、彼は静かに息を吐くのだった。肺に溜まりに溜まった息が、静かに遺跡平原に溶け込んでいく。

 外していた穂先を、砲身に戻す。

 カチンと甲高い金属音を響かせながら、綺麗に収まったガンランスを見て。

 アルフレッドは、満足そうに微笑み、しみじみと心の声を溢すのだ。

 

「あー……やっぱり、この状態が一番格好良いよな……」

 

 穂先から砲身までが一直線に伸びるガンランスを、舐めるように見る大男。

 納品完了の信号弾が、ベースキャンプから伸びていることに気付くには、もう少し時間が掛かりそうだった。

 

 

 ○◎●

 

 

「セレスちゃん! アルフレッド!」

「お、二人とも」

「セシルさん。カインさんも! もう、大丈夫なんですか?」

「えぇ、お陰様で。お二人にはご迷惑をお掛けしましたな。今はもう、この通りです」

 

 バルバレの集会所に戻った二人を出迎えたのは、先日のネルスキュラ捕獲クエストに同行した二人組の男。

 蛮顎竜装備の双剣使いはセシル、跳狗竜装備のガンナーがカイン。以前からセレスを勧誘していた猟団の構成員である。

 

「災難だったな。でも、毒の後遺症がなくて良かったよ」

「なんてったって、俺が丹精込めて治療してやったからなァ~」

「……ギルドの職員が丁寧に治療してくれたと、後ほどセレス嬢から聞きましたぞ」

「うげっ、セレスちゃん、何で言うんだよ~!」

「あ、あはは……」

 

 先日の狩りで、ネルスキュラの毒牙に倒れたカインだったが、今はこうして健在である。彼を運んだセシルと、対処に当たったギルドの職員のおかげだろう。

 そんな彼が、二人にジョッキを手渡す。

 中には、達人ビールが並々と注がれていた。

 

「とりあえず、どうですか。今日は奢りますよ」

「……俺もいいのか?」

「もちろんです。貴方は私の命の恩人だ。是非礼をさせてください」

「じゃ、お言葉に甘えて……」

 

 狩りに行く前の、冷たい対応を覚えていたアルフレッドは、ジョッキを受け取るのを躊躇(ためら)ったが──真摯(しんし)なカインの瞳を見て、それを無下にするわけにはいかなかった。

 カインは二つのジョッキを手渡すと、セシルが持っていたものを受け取って。全員にジョッキが回ったところで、猟団のお調子者が嬉しそうに声を張り上げた。

 

「それでは! 相棒の復帰と、この前の狩りの成功を祝って……乾杯ィ!!」

 

 乾杯、とそれぞれジョッキを突き出して。

 小タルのジョッキがぶつかり合い、心地のよい音が響く。

 事前に二人が取っておいた丸テーブルには、リュウノテールのスープやカジキマグロのステーキ、砲丸レタスとシモフリトマトのサラダなど、豪勢な食事が運ばれてくる。その光景に、セレスは目を輝かせた。

 

「すごい……っ、すごいご馳走!」

「セレスちゃん、たくさん食べなよ!」

「い、いいんですか……!?」

「勿論ですとも。セレス嬢にも多大なご迷惑と、そして大きな借りを掛けておりますから。たんと召し上がってください」

 

 金銭の悩みを常に抱えていた彼女にとっては、このような豪勢な食事はまさに非日常なのだろう。

 震えるスプーンでスープを掬う彼女を見れば、ハンターとなってからも食事にあまり金を掛けてこなかったことがよく分かる。

 その味わいは、彼女にとって想像以上のもの。

 あまりの美味しさに、両掌を握り締めてしまうほどのようだ。

 

「……美味しい~~……っ!」

「はは、大げさだなぁ。さ、アルフレッドも。たくさん食ってくれ」

「いいのか? 俺、かなり食うぞ」

「その体格を見れば、でしょうなぁと言うしか。が、構いません。たくさん食べて、お互い完治させましょう」

 

 そう言うカインの腹には、まだ分厚い包帯は取り外せないでいて。

 カジキマグロを頬張るアルフレッドの頬にも、未だに白い布が貼られているのだった。

 

「いやはや、セシルから聞きました。あの後、イビルジョーが現れたと」

「あぁ。出たよ」

「あれを相手に、ネルスキュラを守り切るとはね~。正直、脱帽だよ全くさァ」

「その傷は、奴に?」

「そうだよ。火傷みたいなもんだな。俺もセシルみたいに、兜被っとけば良かった」

「頭を守れるのはいいけどよ、その分視界も狭まるからさ。この前みたいに引き際を見誤ることもあるし、何とも言えねぇんだな」

「まぁ……それは確かに、そうか」

 

 一長一短だな、と付け加えながら、彼はセレスに目をやる。

 話すことも忘れ、美味しそうに食事を堪能する彼女だったが、幸いなことに彼女には目立った外傷はなかった。ブレスの残滓(ざんし)を、掠った程度だろうか。

 あの戦闘をほぼ無傷でくぐり抜けるのだから、彼女の戦闘能力にはやはり目を見張るものがある。彼は改めてそう感じながらも、にへらと頬を緩ませて肉を頬張る彼女を見ては、いまいち確信をもてないでいた。

 

「何にせよ、無事依頼は達成できたんです。おかげで我が猟団の株は上がりました。そしてお二人には、ギルドが今特に注目しているそうですよ」

「あん? そうなのか?」

「だってよ、恐暴竜相手に捕獲体を守り抜いたんだぜ? そりゃあもう、すごいことなんだってよ」

「近いうち、ギルドからいい話が来るかもしれませんね。緊急クエストの斡旋か、ハンターランクの引き上げか」

「ふーん……」

「ふーんっておま、嬉しくないのかよ?」

「別に、何でもいいかなって感じだ。俺はガンランスさえ担げれば、それで」

「無欲というか、むしろ欲に真っ直ぐというか。相変わらず、不思議な御仁だ」

 

 ハンターランクが上がる。

 ギルドから注目される。

 さらなる高報酬のクエストが斡旋される。

 どれも、ハンターであるなら喉から手が出るほど求めるような功績だが、アルフレッドにとっては、さほど魅力が大きいわけではないようだ。ただ真っ直ぐ、ガンランスだけを見ている。

 一種の狂人だと、二人は思った。

 

「……ま、何だ。あんたがそれでいいなら別にいいんだけどさ」

「そうですね。ところでなんですが、どうでしょう、アルフレッド殿。セレス嬢と一緒に、是非、我が猟団に」

「は?」

「あ、え、おい! カインお前何勝手に……!」

「私は先日の狩りで、彼が信用に足る人物であると分かりました。腕前も申し分なく、そして何より私の命の恩人。お二人揃って、我々に加わってもらえたらと思いましたが」

「いや、それは、そうかもしんねぇけどよ! でも俺は――」

「お前さんの目的は最初からセレスだけなんだろ?」

「う、うぐぐ……そ、そうだけどよ!」

 

 唐突な勧誘だったが、それは二人の合意ではなかったらしい。

 カインは真摯な眼差しでアルフレッドを見て、セシルは赤面しながら唸っている。

 一方のセレスといえば、男衆の話などにまるで意を介さず、おかわりの達人ビールを飲み干していた。

 

「セレス、どうする?」

「んー?」

「猟団、俺まで勧誘されちゃった」

「そ、そうなの?」

 

 ガンランス使いの彼に、ここまで懇意に話をする者は珍しい。

 クエストの同行を拒否され、集会所にいれば疎まれる。そんな生活を送ってきた彼にとって、猟団に誘われるというのは不慣れな経験だった。

 そのため彼は少し心が踊り、つい彼女にも話題を振ってしまうのだ。

 

「お、俺は別にあんたは誘ってないぞ! セレスちゃんに来てほしいだけで!」

「でもセシル、アルフレッド殿に礼をしたいと言っていたではないか。今こそ、その時ですぞ」

「そ、それとこれとは話が違うだろうよ!」

 

 察するに、カインは猟団の発展を思ってセレスを勧誘し。

 そしてセシルは、彼女の可憐さに惚れたために勧誘していたというところだろうか。

 二人のやり取りを見ながら、アルフレッドはそう分析した。

 

「愛されてんなぁ、セレス」

「い、いやぁ……」

 

 彼の言葉を皮肉と受け取り、セレスは引き攣った笑みを返す。

 それを見て、アルフレッドも自身の答えを決めるのだった。

 

「カイン、誘ってくれてありがとうな。嬉しいよ。でも、悪い。俺は自由が好きなんだ。集団に所属するのは、息苦しくてな」

「そうですか……残念ですが、そうであれば仕方ありませんね。……でも、時々狩りにお誘いしても?」

「それは大いに歓迎するよ」

「でしたらギルドカードも交換しましょうぞ!」

「おう」

 

 随分と打ち解けた二人は互いのギルドカードを交換する。

 アルフレッドが勧誘を断ったことに安堵するセシルだったが、こっそりと彼のカードを覗き見して、目をまんまると開いた。

 

「武器使用の記録……すげぇな。本当にガンランス、好きなんだな」

「まぁな」

 

 

 

「──さて、そろそろお暇することにするよ」

 

 夜も更けて、酒も食事も十分に済んだ頃。

 アルフレッドはそう言った。

 テーブルには、「そうですね」と相槌を打つカイン。酒が回って酔い潰れたセシル。最後のデザート、ベルナプリンを頬張るセレス。

 

「楽しい時間でした。今日はありがとうございました」

「こちらこそ。御馳走になった」

「ご馳走様でした! とってもおいしかったです」

「いえいえ。喜んでいただけて何よりです。また、一緒に狩りや食事をしましょうぞ」

 

 先日の狩りとは真逆に、今度はカインがセシルを担ぐ。

 セシルは幸せそうに、「もう飲めねぇよぉ」と漏らしていた。

 

「我々猟団は、いつでも歓迎します。気が変わったら是非」

「その時が来るかは知らねえけど、参考にしとくよ」

「あ、ありがとうございました!」

 

 二人の言葉に、静かに微笑んで。

 カインは歩き出す。深夜となっても賑わう集会所の雑踏に向けて。

 

「ほら、セシル。行きますよ」

「んんん……カイン、すまねぇな……」

「何を言う。これくらい何でもありません」

 

 喧噪の隙間に消えていく二人を見ながら、アルフレッドは小さく尋ねた。

 

「良かったのか? 今日の飯といい、羽振りがいいのは本当みたいだぞ」

「うん。こんなに食べたのは本当に久しぶり!」

「ずっと食べてたもんな……すごいな」

 

 細身で華奢な彼女の、一体どこにあれだけの食料が入るのだろうか。

 アルフレッドは少し疑問に思ったが、喉奥に留めることにした。代わりに、夜風を求めて歩き出す。集会所を抜け、バルバレの大通りへと。

 

「ね、アルフ」

「なんだ?」

「あたしは今、ハンターやるのがすごく楽しいよ」

 

 彼女の言葉に、アルフレッドは振り向く。

 そこには、花が咲くように笑うセレスの姿。

 

「今日、依頼者の女の人がね、嬉しそうに言ってたの。『これで、旦那の好きなオムレツを作ってあげられる』って。お金を稼ぐことに躍起になってた頃は、依頼者の都合なんて考えたことなかったんだ」

「……今は、違うか?」

「うん! 誰かに感謝されるって、嬉しいんだなって。人と喜びを共有できるのって、すごいことなんだなって」

 

 そう言いながら、彼女は両手を胸の前で包む。

 まるで、大切なものを静かに掬うように。

 

「──だからあたしは、今のままが、いいかな。今がとっても、楽しいから」

 

 屈託のないその微笑みは、深夜とは不釣り合いなほど無邪気で、眩しい。

 そんな彼女の笑顔に当てられて、アルフレッドも少し頬を緩ませるのだった。

 

「……そっか」

 

 彼女の言葉を聞いて、彼も「そうだ」と言葉を繋げ始める。

 

「俺も、もっと楽しい狩りを求めてさ。次の便で、ドンドルマに行こうと思うんだ」

「ドンドルマって、火薬庫のある、あそこ?」

「あぁ。ガンランスの調整も、したいしな」

 

 ガタガタと音を立てる、通りすがりのキャラバン。

 その竜車に吊り下げられたランタンが、揺れながら二人の顔をそっと照らした。セレスの大きな瞳に、アルフレッドの顔が映っていた。

 

「良かったら、どうだ。一緒に来るか?」

 

 その言葉に、セレスはより一層笑顔を輝かせて。

 純真無垢な子どものように、「うんっ!」と返事をするのだった。

 夜のバルバレに、彼女の返事が柔らかく響く。

 砂丘の奥からは、少しずつ朝日が顔を出そうとしていた。

 




キャラクターの数が多くて、大丈夫だろうかと不安になることがあります。文字だけで表現されるので、脳内映像化が難しいと思います。たくさん登場させてすみません。
ガンランスは、穂先を外して使うのも格好いいなと思います。銃剣のように使うイメージです。穂先がないと、その分先端が軽くなるので、砲としては取り回しやすくなるかもしれませんね。
猟団の二人と、ちょっと打ち解けた感じの部分を描写したかった。セシルは、最初に言っていた条件なんてもう忘れてるんでしょうね。そしてセレスとお近づきになりたくて頑張っているのでしょうが、きっと彼女の心は……。
次の更新で、第二章は終わりです。
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