アルフレッドは、酒場でクエストボードを眺めていた。
「大型モンスターのクエストは、なさそうだな」
並べられている依頼は、商人の護衛から鉱石の採掘依頼、卵運搬等様々。しかしそこには、大型モンスターの狩猟依頼はない。
アルフレッドは、興味なさげに視線を移し、酒場の一席へと腰掛けた。
「うわ、銃槍使いだ」
そんな彼の姿を見て、嫌味な声色を灯す者が一人。
「やだなぁ。一緒に戦えたもんじゃないぜ、あの武器」
「砲撃って迷惑なんだよ。巻き込まれたら危ないし」
「何でギルドはあんな武器を正式登録してるんだろ」
「損傷力なら、大剣やヘビィボウガンで事足りるのになぁ」
飛び火するように、口々に囁く声が彼の鼓膜をノックする。
彼に向けて向けられた言葉ではなく、仲間内で囁き合う声だった。しかし、それが指すのは間違いなくアルフレッド自身。
とはいえそれも、彼にとっては聞き飽きたもの。特に気にすることもなく、厨房に向けて食事を注文する。女帝エビのローストと、ヘブンブレッド。ブレスワインに幻獣バターアイス。
「良さそうな依頼もないし、今日は飲もう」
背負っていたガンランスをテーブルに寝かせ、気ままに待つ。
彼は、他のハンターとつるむことはしなかった。
何故なら彼は、銃槍使いだから。銃槍の問題点は、もちろん彼も把握しているのだから。
食事を待つ間、彼は武器の手入れをする。
銃槍の穂先に取り付けられた刃に、彼は手を掛けた。留め具を外し、本体から刃を分離させる。
片手剣ほどの刃と、片手用の柄。その刀身に向けて、彼は油を差して布でぬぐった。
「あー……
ガンランスは、砲口から炎を放つ。装填される砲弾には、ボウガンの弾のような弾頭はなく、工房で排出される鉄屑の破片や、火薬岩の欠片が収められている。それが火薬によって燃焼され、燃える粉塵となってばら撒かれるのだ。
そのため、砲口真下に備えられた刀身は煤で汚れやすい。砲撃の度に斬れ味が劣化するのは、それが主な理由である。
「ま、頑張った証だな。ラギアクルス、強かったもんな」
油で浮いた煤を布で拭き取り、輝く刀身を取り戻すアルフレッド。
満足気に頷いているところで、注文した食事が届いた。
「さてさて、いただくか」
女帝エビのローストにかぶりつく。ヘブンブレッドをちぎって食べ、ブレスワインを一気に飲み干す。
一般的なハンターの体躯より一回り、二回り大きな大男が、並べられた食事を荒々しく呑み込んでいく。
その様は、どこか圧巻だった。同じように、一人で食事をしていた別のハンターが、思わず見入ってしまうほど。
「……ね、君。ガンランス使いなの?」
見入っていた少女が、彼に声を掛ける。
「そうだよ。だからなんだ?」
「単純に興味があって。前、座ってもいい?」
そう尋ねる彼女は、銀とも金とも取れる月色の髪が美しい、黒い外套を身に纏ったハンターだった。ツーサイドアップにした長い髪は、寒冷期の月のようだと、アルフレッドは感じていた。
しかしその髪とは対照的に、褐色に染まった肌。砂漠の生まれを感じさせる姿は、どこか艶やかだ。
特に断る理由もない。彼は、潮風薫るローストを頬張りながら頷いた。
「あたし、セレス。君は?」
「アルフレッド」
「アルフレッドね。よろしく」
セレスと名乗った少女は、アルフレッドに手を差し出した。
彼の体格よりもかなり小柄ゆえに、より一層小さく見えるか細い手。
握手を求めたものだったのだろうが、彼はその手には応じなかった。伸ばした手で、ヘブンブレッドを掴む。
セレスは、少し残念そうに、伸ばした手を引き戻した。
「……で、最初の質問に戻るけど。君、ガンランスを使ってるんだね。珍しい」
「珍しいのは否定しない。事実使用者は少ないからな」
「使う人が少ないっていうか、使える人が少ないのよね。単純に考えて、人間が使う設計がされてないもん」
長大な砲身。
圧倒的反動力の砲弾。
火薬の取り扱い方に、複雑な操作方法。
どれをとっても、ガンランスは使用する者を拒む、難儀な武器だった。
「……君って、
「見れば分かるだろ」
「だよね。ガンランス使いで組んでる人って、あまり見ないから」
そう言いながら、セレスは彼の装備をじっと見た。
アイスを頬張る大男の、厳しい鎧を。
「……ベリオロスの鎧?」
「その亜種だ」
「亜種? 一人でも、それだけ狩れるってこと? すごいなぁ」
ハンターの装備は、実力の何よりの証明だ。
それだけ強力なモンスターを狩ることができるという証拠。
ギルドカードを提示するよりも分かりやすい、実力を誇示する方法である。
「実際、ガンランスの反動ってどうなの? あたし扱える気がしないよ」
「人より体格に恵まれていることに感謝するな」
「……やっぱり、すごいんだ」
「お前さんは、重弩使いだろ? それも大概じゃないか?」
「あたしのは、反動軽減パーツを施してるから」
そう言いながら、彼女は背中のヘビィボウガンを愛おしそうに撫でる。
黄色と緋色を重ね合わせたような装備に、雌火竜を思わせる武骨な意匠のヘビィボウガン。どこか、既存のものよりは小さく見えるが、それは間違いなくヘビィボウガンだった。
身に纏うのは、毒クモリの皮をなめした防具、スパイオシリーズ。黒い外套と、うなじに丸めた黒いフードは、彼女の銀髪を対称的なまでに際立たせている。
この軽装は、一人であってもモンスターの猛攻を掻い潜り、重い銃撃を叩き込むためのものだろう。彼女もまた、大型モンスターを下す実力者であることの証明だ。
「てか、そっちも一人なのか?」
「あたしは……テキトーって感じ。組んだり、組まなかったり」
「ふーん……」
「……一緒に組んでみる?」
試すような口振りでそう言うセレスに対して、アルフレッドは鼻で笑った。
注ぎ直したブレスワインを飲み干して、グラスをテーブルへ強く置く。
「やめとけよ。丸焼きにされても知らないぜ」
そう言って、アルフレッドは立ち上がった。
「そんなの、あくまでも噂でしょ?」
「どうだろうな」
ガンランス使いは、端的に言えば嫌われている。
ハンターとモンスターが混在する狩場の中で、火薬を炸裂させるガンランス使いは危険な存在だ。飛び交う砲炎が同胞を焼き、下手をすれば死に追いやることもある。
特に、小柄な相手を前にしては、モンスターよりも邪魔になることすらあるのだ。
「組んでロクなことはない。俺にとっても、お前さんにとってもな」
実際に、ガンランス使いによる砲弾の暴発によって、パーティーメンバーが死傷した事例がアルフレッドの脳裏をよぎる。
ガンランスを使うならば、一人で。
ガンランスで戦うならば、大型相手を。
それ故に、彼は『大型専門』なのだ。
「じゃあ……!」
セレスも立ち上がる。
酒場を立ち去ろうとする銃槍使いに向けて、もっともな疑問を投げかけるために。
「じゃあ、なんで君は……ガンランスを使うの?」
彼女の問いに、大男は振り返った。
少しだけ口角を上げながら、彼ははっきりと言った。
「そんなの、決まってんだろ」
外の光を浴びて、ガンランスが光る。
眩しい輝きに、鉄の香り。
硝煙漂うシリンダーに、重くたくましい砲身。
「ガンランスが、好きだから」
疑問の答えは、その一言に尽きた。
なんでガンランスを使うかって、やっぱり好きだからなんですよね。
ただ、現実的に考えるとガンランスってどういう立ち位置なんだろ、というお話。次は狩りに出ます。
アルフレッドのキャライメージ(↓)
古い絵なので、衣装がベリオZじゃなく、初期設定のアスリスタコートになってること、若干ガタイが緩めな点にご注意を。
今のアルフレッドさんはもう少しこう、餓狼伝説のテリーみたいにガタイいい感じにイメージを補完していただければ幸いです。
【挿絵表示】