ラストリロード   作:しばじゃが

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第三章 覇をも唱えるガンランス
迫り寄る轟刃


「速度上げろ! もっと!! 速く!!」

 

 ガーグァが二羽、走る。

 未舗装の道、ではない。

 舗装された街道を走り続ける。

 ただのガーグァではない。装飾が為され、車輪の付いた箱を牽引している。

 その箱──俗に言う竜車──の背には、一人の男が声を荒げていた。

 見た目から察するに、商人だろうか。あまり景気は良くなさそうだが、それなりに身なりを整えている。しかしその身なりも顧みず、ひたすら背後と前方を交互に見るのみ。時々、手綱を持つアイルーの肩を揺さぶっている。

 

「なぁ! もっとスピードは出ないのか! なぁ!!」

「ガーグァたちも、これが限界ニャ! 旦那! とにかく掴まってくれニャ!」

 

 彼らの走る街道は広く、山中や河川など自然の深層にあるものではない。

 雄大な山脈の、切り立った隙間。その谷間に出来た大通りだ。

 目指す先には、巨大な城壁が聳え立っている。城壁の向こうには、堅牢な作りの家々と、荘厳な建物が立ち並んでいた。

 ドンドルマ。ハンターズギルドの、まさに総本山と言える大都市である。

 

「追い付かれる! 追い付かれちまう!」

「何でニャ! 何でこんなとこに、ティガレックスが徘徊してるんだニャ!」

 

 竜車を追うのは、青縞模様の飛竜。

 野性味溢れた頭蓋は、まさに捕食者の象徴と言えるほど、鋭い牙が立ち並んでいる。大地を掻く爪は太く、そしてその速度も、異様なほど速い。

 しかしギラついた瞳は、まるで正気を失ったかのように爛々と輝いていた。走る足取りもどこか不安定で、体中からは黒紫の(もや)のようなものが浮かんでいる。

 

「何だよ! 何だよコイツ!!」

「走れニャ! とにかく走ってくれニャ!」

 

 手綱の先のガーグァに、懇願するように。

 二人は竜車にしがみ付きながら、とにかく二頭を走らせ続けた。

 

 一方で、ドンドルマの城壁では。

 警備に当たっていた守護兵が、街道から迫り寄る脅威に気付く。

 

「あれを見ろ!」

「ティガレックスだ! 竜車が追われている!」

「緊急事態だ、鐘を!」

 

 その言葉に、別の兵が走り出した。

 城壁の上に建てられた鐘を、強く叩く。けたたましい音が響き渡り、それと共に多数の兵が顔を出した。

 

「何事だ!」

 

 隊長格の男がそう尋ね、しかし部下の説明を聞く前に状況を察する。

 

「ティガレックスか……。ここまで近付いてくるなど、一体何事か」

「普段であれば、ここまで来ることはないのですが、よっぽど腹を空かせているのでしょうか」

「とにかく! あの竜車を保護せねばならん! 城門を閉める準備を進めよ! 竜車がくぐった直後に閉めるのだ!」

「はっ!」

「貴様らは轟竜を足止めせよ! バリスタの配備!」

「はっ!」

 

 数名の守護兵が二手に分かれ、城門上部の端に配置する。

 そこに備えられた歯車と、噛み合うように伸びるハンドルに手を掛けた。

 直後、耳障りな金属音を立てながら鎖と歯車が走り出す。その悲鳴と共に、城門が動き出した。

 

「も、門を閉める気じゃあ……そんな! 待ってくれ!」

「旦那! 上を見てくださいニャ!」

 

 動き始める門に、絶望の表情で顔を満たす男だったが、アイルーは小さな肉球で城門を上を指差した。

 そこには、レールを走るバリスタが、数台門上に集まる光景が描かれていた。

 光る(やじり)

 引き絞られる弦。

 守護兵たちが、飛竜を睨んだ。

 鈍い音を立て、太く重い矢が射出される。

 迫り来る、ティガレックスに向かって。

 

「うわぁ!」

 

 思わず身を伏せる商人の、真上を駆け抜ける風切り音。

 その刺突の雨を前に、ティガレックスは前脚に力を込めた。巨体を急停止させ、続けざまに放たれる矢を背後に跳んで躱す。

 そして、咆哮。並のティガレックスではない、重く耳を引き裂くような、非常に奇妙な衝撃波だった。

 

「……ぐっ……!」

「何だこの音……っ!」

 

 怒りとも、不満とも、感情が読めない叫び声。

 いや、例えるならば──慟哭、だろうか。

 

「関係ねぇ! 前脚が隙だらけだ!」

 

 両前脚で大地を抉り、上半身を持ち上げる。

 そんな姿勢で吠え続ける轟竜は、自分の視界が狭まるほどの大咆哮を吐き続けていた。

 故に、前脚が大きく曝け出されている。避ける素振りもない。迫るバリスタの雨にも、気付かない。

 だからその数多の矢が、彼の前脚に穴を空けるのは、誰もが予想できたこと。

 ──その筈だった。

 

「な……」

 

 弾かれる。

 まるで分厚い鉄板に撃ち込んだかのようだ。

 爪どころか、皮膚や鱗であっても、バリスタの弾を軽々と弾いていた。金属を思わせるほどの硬度。並の轟竜でないことを、誰もが実感させられる。

 

「隊長! あれは……!」

「弾いた……? そんな、馬鹿な」

「ええい怯むな! 銅鑼を鳴らせ! ハンターが必要だ! 対轟竜防衛作戦を始動させよ!」

「は、はい!」

 

 ゴオォン! 

 思わず耳を塞ぐほどの、重苦しい音が鳴り響く。

 その銅鑼の音は、緊急事態を告げる報せ。

 即ち、強大な存在に街が脅かされている証。

 城門程度では、その存在を防ぐことは不可能に近いという事実──。

 

「隊長! 奴が!」

 

 降り注ぐバリスタもまるで気に留めず、走り出す。

 前脚、首、尻尾の付け根と、あらゆる部位に矢は吸い込まれていくが、彼は一向に気に留めない。

 頭部には、深々と刺さる。しかし、それさえも気にしていなかった。

 その表情は狂気そのもので、動くもの全てを撃滅する、暴虐の悪魔と成り果てていた。

 

「門を閉めろ!」

 

 ギリギリギリ! 

 歯車と歯車が擦れ合い、その度に鎖が呻いている。

 

「うおおおお!! 間に合う……か!?」

「ギリギリっ、いける、ニャー!」

 

 全速力で走るガーグァに、引き摺られる竜車。

 車輪が悲鳴を上げ、石飛礫と共に火花を巻き上げる。

 それでも、走る。脅威から逃れる為に、走り続ける。

 

「頼むーっ!!」

「頼むニャーっ!!」

 

 唸る門。

 閉じ終える前に、その狭まった口で竜車を呑み込んだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ──俺たちッ!」

「逃げ切れたニャー!」

 

 転がり込むようにガーグァが急停止し、城門の内側で止まった竜車。

 乗っていた商人の男とアイルーは、抱き合うようにしてお互いを讃え合った。

 その向こうでは、猛進を続けるティガレックス。

 

「う、うわああ! 門を、門を早くぅ!」

「し、閉めてくれニャ―!!」

 

 ガラガラガラ、と耳障りな音を立てながら、歯車が猛回転する。

 上下に開閉する重い門は、まるで断頭台のように恐ろしい勢いで口を閉じた。その衝撃と、舞い上がる埃を浴びせられ、二人は思わず顔を覆うが──。

 その視線の先は、鉄と木材で仕立てられた堅牢な壁が映るのみ。

 

「……助かった?」

「た、助かった……ニャ」

 

 外の明るさとは一転、石積みの城壁の暗がりに包まれ、しんと静まり返った空気に二人は現実感を見失ってしまう。

 が、木製の階段が軋む音に気付き、かと思えば振り返って。

 その先に映る鎧の兵士を前に、二人はようやく安堵する。

 

「しゅっ、守護兵さん……!」

「ご無事ですか!? 怪我は!」

「だ、大丈夫ですニャ~! 怖かったですニャ~!!」

 

 守護兵に保護され、二人の腰は抜け落ちたようだった。

 ただ子どものように泣きじゃくり、しかし頬が緩むのを抑え切れないようで。

 

 ドン! 

 そんな二人を脅すように、門の向こうから鈍い音が響く。

 かと思えば、耳が割れそうなほどのつんざく声。

 門の向こうで唸る、ティガレックス。姿こそ見えないが、確かに彼はそこにいる。その事実に、商人とアイルーは再び体を震え上がらせるのだった。

 

「お二人は地下壕へ! 案内いたします」

「しょ、商業区には……?」

「先程、防衛作戦の銅鑼を鳴らしました。おそらく、市街地はこれから狩猟区となります。今は待ってください」

「そ、そんな! あ、あれが中に……!?」

「この城壁があるから、リオレウスじゃあるまいし! ティガレックスが乗り込んでくるニャんて──」

 

 岩が割れるような、轟音。

 それが少しずつ、上へ上へと伸びていく。

 ガリガリと削るような音が響く度に、パラパラと木の粉や石の破片が落ちてくる。

 軋むような音は、少しずつ上から聞こえるようになった。どんどん、上へ登っていく。

 

「……まさか」

「やはり、壁を登ったか……!」

「そ、そんニャア!」

 

 城門すぐ横には、守護兵の詰め所へと続く扉がある。

 二人はそこへ誘導されると、その人口密度に驚くばかりだった。

 人、人、人。

 買い物途中の親子連れ、給仕係のアイルー、商品を持ったままの運び屋、そして彼らを連れる守備兵。

 狭い空間を満たす人々に、二人はただ圧倒されるばかりだった。

 

「慌てないでください! 地下壕はこちらです! 押さないで!」

「ちょっとこれ、どうなってんのよ!」

「押すな、押すな! 商品が壊れるだろ!」

「やばい、やばいよ。ティガレックスが来るなんて……っ」

「お母さん! お母さん、どこ!?」

 

 まるで大鍋で民衆を煮込んだような光景に、二人は今まさに非常事態であることを実感する。

 城門まで逃げ切れたところで、脅威はまるで去っていない。

 むしろ自分たちが、その脅威を連れて来てしまった。

 そんな自責の念の下、彼らもまた、大鍋の中へと身を投じるのだった。

 

 

 

「──轟竜、ですの?」

「えぇ、お嬢様。ティガレックス、というものでございます」

「書物で読んだことがありますわ! とても野性的で、グルメなんでしょう?」

「はて、グルメとは」

「何でも元々は乾燥地帯に住んでるのに、寒冷地での目撃情報も多い……それは、大好きなポポの肉を食べに行くに他ならない! これをグルメと言わずして何と言えば! 面白いモンスターですのよ!」

「ほほう。なるほど。それは確かにグルメですな」

「えぇ、まさかこんなところで出会えるなんて!」

「行きますかな?」

「勿論! 街を守るのも、(わたくし)達ハンターの務めですわ」

 

 雪崩れ込むような人の波に、あえて逆らう二つの影。

 両者とも、桃色の鎧で身を包んでいる。

 一人は、同じく桃色の髪を肩まで伸ばした、品の良さそうな少女。まるでドレスのような鎧を靡かせながら、両掌に力を込める。

 片や、初老の紳士然とした男。彼女とお揃いの桃色の鎧を纏うその姿は、さながら執事や、爺やといったところか。ただその背から伸びる一本の鋭い槍は、彼をただの老人でいることを許しはしなかった。その足取りは、歴戦のハンターのそれである。

 

「どうも、通常の個体ではないようですが」

「それでも、飛竜の討伐は何度かさせてもらいましたもの。あとは実戦で色々覚えますわ」

「お嬢様……」

「何より、貴方がいてくれますから。頼りにしてますわ、セバスチャン」

「……この命に代えても、貴女は守りましょう」

 

 老体を感じさせない手付きで武器を構え、研ぐ。

 鋭く尖ったその先端が、ドンドルマを照らす光を映し出した。

 

「──こんなところで、逃げる訳にはいかないですわ。私にも、使命がありますから」

 

 少女もまた武器を構え、ドンドルマ市街の大通りへと足を踏み入れた。

 通常ならば、市街地の中心となっているこの場所は、今は閑静なベースキャンプとなっている。

 守護兵が民衆を避難誘導しながら、その片手間に建てたテント。横に備えられたアイテムボックスには、支給用の応急薬グレートと秘薬がいくつか入っている。

 二人はそれを手に取って、自身のポーチに入れるのだった。

 

「貰えるものなら、貰っておきませんと」

「お嬢様、お待ちください」

 

 あるだけ全て取ろうと、手を伸ばす。

 そんな彼女を、セバスチャンと呼ばれた老ハンターは制止した。

 

「……今回は防衛作戦。すぐに動けたハンターは我々だけでしたが、今後応援が来るかもしれません。その方々の分を残しておくのが、礼儀というもの」

「そう、ですわね。いつものように、狩猟区に出る訳じゃないですものね。増援、確かに来てほしいですわ」

 

 彼の言葉に、彼女は伸ばした手を下ろして。

 踵を返し、門を目指す。ティガレックスが居座る通りへ。

 ドンドルマは今、『戦闘街』へと姿を変えた。

 

「この先ですな。腐肉の香りで、轟竜を誘導したと聞きました」

「何でも、防衛ラインとして様々な設備があるらしいですわね。楽しみですわ」

「対大型古龍を想定されてますから、轟竜相手では使いにくいでしょうなぁ」

「そうですの? 巨龍砲、見れると思ってたのに残念ですわ」

 

 進む先は、戦闘街の第一エリア。

 レールとバリスタ、移動式大砲が立ち並ぶ防衛ライン。

 

「さぁ! 剣の錆にして差し上げましょう!」

 

 その高台から、ドレスの少女は宙を舞う。

 轟竜に向け、その鋭い切っ先を大きく振り被るのだった。

 

 

 ○◎●

 

 

「……あ? 何だ、この音」

「こりゃあ、城門を突破された際の銅鑼の音じゃな。よくあることじゃ」

 

 ドンドルマの路地、その片隅で営まれる工房、『火薬庫』。

 そこでアルフレッドは、けたたましい銅鑼の音を聞いた。

 

「……何か、来たのか?」

「そういうことになるな! なぁに、ドンドルマでは日常茶飯事じゃ」

 

 火薬庫のオーナーである老人は、そう言って親指を掲げるものの、アルフレッドは静かに立ち上がる。

 壁に立てかけていた、自身の獲物を手に取りながら。

 

「なんじゃ、行くのか?」

「よく分かんねぇけど、とりあえず、な」

 

 大柄な男が、歩き出す。

 その後ろ姿に、老人は「そんな慌てることじゃない」と言うのだが。

 それでも彼は、振り返らずに店を出た。

 

 外に出れば、鐘が鳴り続けている。

 逃げ惑う人々で、息の荒い雑踏が描かれている。

 

「……狩り、か。まさかこんなところで」

 

 思わぬ舞台に、彼は口角を上げた。

 棚から牡丹餅だ。そう付け加えた。

 




4Gの頃にあった対○○防衛作戦のクエストが、どのように起こるのかなと妄想したお話でした。あのクエスト群、街を守ってる感じがしてとても好きでした。
今回から第三章です。一章の際に出てきた、あのキャラたちにとうとう焦点が当てられます。覚えている人の方が少なそうな気がします。詳しくは第一章「怪物と銃槍」をご照覧あれ!
それはそうと、モンハンライズ発売1周年ですね。めでたい!サンブレイクも楽しみです。サンブレイクの要素も取り入れつつ、これからもちまちま更新して参ります。

…え? 更新が遅かったって? 全てはエルデンリングの仕業なんだ。許して欲しい…。
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