密林、潮風薫る砂原で。
紅色の甲殻が美しい巨蟹と、踊るように武器を交える大男。
槍と盾が、激しく擦れ火花が舞う。
それは、うねるような刺突だった。
アルフレッドが振るう、アドミラルパルド。黒い光沢が美しい、鉱石でできたガンランス。基本中の基本とも言える、真っ当な銃槍の姿をしているもの。
すなわち、長い柄と重厚なシリンダー、金属製の銃身、シンプルな砲口と備え付けられた金属製の穂先。
最も基本的とも言えるデザインのガンランスである。
「ふっ……!」
小刻みな呼吸と共に、突き刺す。
その穂先を。
大きな呼吸と共に、叩き付ける。
穂先と呼ぶにはあまりにも広い刀身を。
「いい手応えだ!」
脚を勢いよく叩き割られ、悲鳴を上げるダイミョウザザミ。
商人の交易ルートに縄張りを作ってしまい、商売にならないという依頼が舞い込んだ。
門番の如き盾蟹を狩猟してほしい。そんな依頼を、アルフレッドは単身受けていたのであった。
「しっかし……硬ぇな!」
叩き付けた左手が、痺れる。
ダイミョウザザミは、盾の名の通り頑強で、どの部位も非常に硬い。
中でも背負った竜の頭蓋骨と、盾の如き太い爪。それらがもっとも硬く、危険である。
「おおっと!」
その爪が、振るわれる。
慌てて、アルフレッドは盾でそれを防いだ。
しかし今度は、反対の爪が高く掲げられた。
「……あ」
ふと、脳裏に浮かぶ、セバスチャンの技。
モンスターの牙や爪を、直前まで引き付けたところで、側面から受け流すように弾く技。
盾の妙技。巷では、ジャストガードと呼ばれる高等技術である。
「よーし……来いよ!」
先日、彼に習ってそれをやってみた大男は、今ここで、果敢にもそれに挑むのだった。
引き付ける、迫る爪。
密林の日差しが、彼の視界をやたら鮮明に照らし出す。
まさに、爪がアルフレッドに触れる瞬間だった。
思い切り、その盾を爪の側面へ――。
「――ぐっはぁ!」
全く逸れることなく、爪が彼の右半身を殴り付けた。
堅牢な防具のおかげで、肉や骨は無事なものの、その衝撃のあまり砂浜を荒々しく人型に削るのだった。
「くっそ! そう簡単にはいかねぇか!」
あのライゼクスの腕を退けれたのは、自分じゃなくてセバスチャンの技術によるもの。
その事実を、アルフレッドは痛感する。
「俺もまだまだだな――って」
砂煙を上げながら、身を起こす。
頭を振って視界を取り戻す。
そんな彼の視界いっぱいに広がる、真っ白な液体。
螺旋状に迫るそれは、ダイミョウザザミが吐き出したもの。
「やべっ!」
すかさず引き金を引き、砲撃。
その反動で横へ横へと体をずらす。
追い縋るように旋回する水ブレス。
アルフレッドは、さらに砲撃することで横に避ける。
「今だ!」
二度目の砲撃回避をしたところで、盾蟹のブレスの勢いが衰えていく。
出し尽くした。大きく息を吐きすぎたかのように、ダイミョウザザミは体勢を崩す。視界が狭まるように、隙を晒していた。
アルフレッドは、それを見逃さない。
砲撃回避の勢いをそのままに、前へ出る。
「はぁっ!」
左手の銃槍を、大きく右に振りかぶり、一閃。
横一文字に薙ぎ払ったその切先は、盾蟹の顔を荒々しく斬るのだった。
「おっ……深く入ったな」
目元を思い切り薙いだのだ。
その視界への影響は、想像するのも憚られる。
ダイミョウザザミは、突如光を失ったことに驚きを隠せない様子だった。アルフレッドを見失い、あらぬ方向を爪で擦る。
そんな、隙だらけの脚に――。
「吹っ飛べ!」
瞬時に排莢し、予備弾倉から新たな砲弾を装填。
即座に、二連射。
砲炎によって甲殻が焼け、ひび割れた。
そのひびに向けて、突き出される銃槍。その穂先から、竜杭砲弾が射出された。
「へっ……弾けろ!」
甲殻を穿ち、中の肉にまで食い込んだ杭が展開される。
杭の中に詰められた、三発の榴弾。それが、続け様に炸裂し、小気味良いリズムで足が弾け飛んだ。
「――ふう」
脚を失い、その場に倒れ込むダイミョウザザミ。
全砲弾を失い、その身を軽くさせるガンランス。
いや、一発だけ残っている。
この試供品のガンランスに詰められた、唯一の竜撃砲弾。
火薬庫から提供された、試作品。
いつもの火竜の骨髄を利用したものではない。
かのドンドルマの巨龍砲をも稼働させる滅龍炭。そのあまりあるエネルギーを活用した、恐るべき劫火。
それを、アルフレッドは苦しそうに呻く蟹の頭部へと押し当てる。
「悪いな……これも仕事だ」
空圧レバーを開く。
大量の空気が機構を通り、滅龍炭の燻りに鞭を打つ。
その熱は爆発的に広がり、即座に銃身が赤熱化した。
これが合図。
火薬庫の男の言う、発射準備完了の合図。
――試してくれんか、これを。巨龍砲のあの威力を、ガンランスで再現する。この夢のような計画を。試してみてくれんか。のう、アルフレッド。
彼の言葉がこだまする。
それを掻き消すように、アルフレッドは引き金を引いた。
炎が、堰が切れたように溢れ出る。
しかしそれは砲口で収束し、青白い光の玉となって凝縮。
それも束の間、一瞬で膨張した。
「うおっ……!!」
あらかじめ、足に力を入れていた。
しかし、それでも予想以上の反動が彼を襲う。普段の竜撃砲とは比べもののにならない火球、その反動が。
そう、さながら火球だった。赤黒い炎が渦巻いて、ダイミョウザザミを包みかねないほどの爆炎と化す。しかもそれは断続的に、まるで複数のタル爆弾が連続で起爆されるが如く、火球の状態を維持するように炸裂し続けるのだ。
地獄の劫火が燃え続けたのは、一体どれくらいの時間だっただろうか。気付けば、アルフレッドの持つ盾すら燃えていた。
「……なんて威力だ」
本家の砲弾は、あの極限状態ティガレックスを仕留めたのだから。
試作品とはいえ、その威力は絶大である。
爆炎が収まった頃、アルフレッドは燃え尽きそうな盾越しに、ダイミョウザザミを見た。
劫火の中心となった彼の者の姿はなく、ただひび割れて崩れる頭蓋骨と、炭のように折れる手足が砂地を抉るように落ちるだけだった。
⚪︎◎⚫︎
時は経ち、ドンドルマ。
アルフレッドは、その路地裏の加工屋――『火薬庫』の椅子に腰掛けていた。
カウンター越しに映る、一人の男。
白い髭を蓄えた彼は、笑みが止まらない様子で砲身が砕けたアドミラルパルドを撫でていた。
「いやはやまさか、こいつの砲身がもたんとは! 予想外の事態じゃ! 困ったもんじゃ!」
「その割に嬉しそうだな、じいさん」
「まぁのう。まさかあの砲弾がここまで強力だとは。まさにこれは、伝説の邪龍の如きブレスじゃ! 山をも破る地獄の劫火とも言うべきか……」
「盾も燃えたぞ。どんだけ燃焼剤入れたんだ?」
「全ては滅龍炭の力じゃ。おっそろしいのぅ……たまらんのぅ」
あのダイミョウザザミの狩りに用いたアドミラルパルド。
それは今や、無惨に砲身が割れてしまっている。
原因は言うまでもないだろう。
あの時放った特殊な竜撃砲。そのあまりの威力に、砲身が耐えられなかったのだ。
「あんなに凄いんなら、言ってくれよ。下手したら俺も吹っ飛ばされてたかもしれねぇし」
「アルフレッドなら、これを使いこなせると信じとったからな。お主でもなきゃ、こんな試作品は頼めんよ」
「……まぁ、悪い気はしないけど」
アルフレッドが受けた、狩りの依頼。
その対象が、防御力に定評があるダイミョウザザミと聞きつけた火薬庫は、彼にこの試供品を託したのだった。
新作の竜撃砲の威力を、試すために。
予想のできないこの砲弾は、街中で試射するにはリスクが大きすぎる。アルフレッドは、まさにこの老人にとっての光明だったのだ。
「製品化には、もう少し時間が掛かりそうじゃな。火薬量の調整をしなければ」
「あれはめちゃくちゃだぜ。ダイミョウザザミの胴体が丸々焼失してた。回収班の連中、狼狽えてたし」
「日々の狩猟では、まず運用できんな。素材が一切活用できん。だが、街を守るなど、緊急時においては――」
「最終兵器となりうる、か」
「うむ。いわばこれは、持って歩ける巨龍砲じゃ。それも取り回しのかなり良い」
「それだけ聞くと、いいんだけどな」
アルフレッドは、少し悲しそうにアドミラルパルドを見た。
試供品といえど、ガンランス。彼が最も好むものが、無惨に割れる姿を見るのは心が痛むのだろう。
如何に強力な砲弾であろうと、砲身ごと砕いてしまっては意味がないのだから。
「火薬量もだが、そもそも専用の砲身がいるのう。つまり、この竜撃砲の対応品を作らねばならん」
「砲身を耐えれるものにってことか?」
「そうなるな。まだまだ研究が必要じゃ。悪いが、これはまだ使わせられんぞ」
「楽しみに待っとくよ。次は撃っても壊れない、頑丈な奴がいいな」
「任せい! 当てはある……。さぁ、忙しくなるぞぃ!」
ゴーグルを付けて、機械いじりを始める火薬庫の男。
興奮冷めやまぬ様子で細かな機械を触る姿は、まるで餌を漁る鼠のようでもあるが――その唯ならぬ雰囲気は、大型牙獣種のそれである。
その気迫にアルフレッドは息を飲みつつ、報酬の話を切り出した。
「あー……ところで、あれはどうなった? 今回の試運転の報酬。頼んどいた新作はさ」
「おお! すまんかったすまんかった! ちゃんとできとるぞ!」
思い出したかのようにゴーグルを外し、カウンター奥の武器棚に手を伸ばす火薬庫。
取り出されるは、黒いフレームと、緑色に明滅する燐光。太い砲身に、あの鶏冠を模したような刃。
美しい。彼がそう感じるほど、鋭くまとまった一品だった。
先日狩った飛竜、ライゼクス。その素材を用いて作ったガンランスである。
「……これは、言葉を失うな」
「珍しい素材じゃったからな、それを生かした造りにしてあるぞ。何よりも、見よこの砲身! 美しいじゃろ?」
「ああ……これはもう、芸術品だ!」
手に取ると、驚くまでに軽い。
自分の力であれば、片手でも易々と振り回せるだろう。
アルフレッドはそう確信し、堪えられなくなったように笑みを溢すのだった。
「拡散型の砲身とシリンダーにしてあるから、弾持ちはあまり良くはないがのう……じゃが鋭い切先と、雷属性が特徴じゃ。斬ってよし、殴ってよし。溜め砲撃して良しの逸品じゃ! まぁ、流石に新作竜撃砲には未対応じゃが」
「問題ない。この振りやすさ……格闘戦が楽しくなりそうだ。盾も軽い」
「軽いが頑丈じゃぞ。しかも見てみぃ、そのへこみ」
「ほんとだ、盾の左側がへこんでる。何だこれ?」
「これは意図的に角を丸くくり抜いたんじゃ。ほれ、そこに砲身を当ててみぃ。ガードする時をイメージしてな」
「おっ! なんだこれ! 砲身とぴったりハマる!」
「その通り! 安定性重視! そしてデザイン重視! わしすげーじゃろ!」
自慢げに胸を張る火薬庫の老人に、アルフレッドは尊敬の眼差しを送った。
盾のへこみは、ガード姿勢を補強する仕様だったのだ。
まるで砲身と盾が一体化するその姿は、シールド付きのヘビィボウガンか、それをも上回るロマンがある。
アルフレッドはそう考えながら、愛おしそうに砲身を撫でた。
その姿に思わず頷く火薬庫は、感慨深そうに語る。
「なかなかどうして、ライゼクスというのは面白いモンスターじゃな。虫のように軽くしなやかで、それでいて頑強じゃ。生き物の理想ともいえるボディじゃ」
「こいつを、半額で受け取っていいのか? 格安だろこんなの」
「そういう契約じゃからな。おかげでわしは、この新作竜撃砲の実験データを得ることができた。礼が足らんくらいじゃい」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
気前のいい火薬庫の言葉に、アルフレッドも遠慮なく新銃槍を受け取るのだった。
盾を右手に括り付ける。驚くほどに軽い。
折り畳んだ銃身を、背負う。まるで片手剣を背負っているかのようだ。彼はそう思った。
「銘は、エムロードルークじゃ。黒き反逆者……前お主に渡したレッドルークの対じゃな。格好いいじゃろ?」
「ああ、たまんねぇよ。ありがとな、爺さん。次の狩りが楽しみだ」
「おう! また顔を出すんじゃよ。あー、でもわし新作開発に忙しいしな……歓迎はしてやれんぞ」
「どっちだよ。全く……」
そう言いながら、少し屈んで玄関を抜ける。
火薬庫の加工屋を後にする――その瞬間に、アルフレッドは思い出したかのように尋ねるのだった。
「あ、そうだ」
「なんじゃ? はよ行けい」
「その新作の竜撃砲って、なんて名前にするんだ?」
目を輝かせる若者――それも同好の士――を前に、流石の火薬庫も手を止めた。
悩ましそうに腕を組みつつ、しかし嬉しそうに答える。
「うーむ、巨龍砲っていうのも名前が被るし、滅龍炭を使うから滅龍砲っていうのも格好いいと思ったんじゃが、もう少し気を
「へぇ。どんな名前だ?」
火薬庫が、歯を見せて笑う。
歯抜けの歯茎のその奥から、まるで子どものように興奮した声が、アルフレッドに届くのだった。
「山をも破る竜撃砲……名付けて、『
ということで、出ました狩技、覇山竜撃砲。
たこ焼きなんて言うんじゃないぞ。
第三章のテーマは、ずばりこの特異な竜撃砲です。ゲームでは狩技ゲージだけで使える特殊技ですが、本作では巨龍砲と絡めながら描写していきたいと考えています。相も変わらずの独自解釈ですが。第三章のラストには、目覚ましい活躍をさせたいと画策しておりますので、楽しみに更新を待っていただけたら幸いです。
ワイルズのガンランスもいろんな情報が出てきましたね。ブラストダッシュに頼らない、硬派なガンランスが帰ってきた感じですね。砲撃回避からの切り払いがかっこよすぎるので、つい今回その描写を入れてしまいました。体験版が待ち遠しい!
閲覧ありがとうございました。