ラストリロード   作:しばじゃが

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柔能、剛能、泡を制す

 ――素材がめちゃくちゃじゃねぇか! これじゃ報酬もらえねぇよ!

 ――おいおいなんだよこれ。俺の欲しかった尖爪が……。

 ――甲殻も、鱗もな。俺、これで防具作るつもりだったのによ。

 ――ガンランス使いになんか、声掛けるんじゃなかったぜ! こんな野郎によ!

 

 ――狩り、行きませんか!? 何だか素敵なご依頼が、ありましてよ!!

 

 

 

「――らアァぁぁ!」

 

 黒く、それでいて緑に燐光する砲身を、叩き付ける。

 鈍い音が響き渡る――かと思えたが、響いたのは鋭い斬裂音。その砲身に付いた刃が、泡立つ鱗を切り裂いていた。

 

「効いてる! いけますわ!」

「援護するよ!」

 

 斬撃と、その刃に宿る電撃に、悲鳴を上げるタマミツネ。今回の狩りのメインターゲットである。

 月夜の渓流で、泡狐竜狩りに挑む狩人が、三人。

 振り下ろした銃槍を回転させ、砲弾を装填するアルフレッド。

 隙を狙って後ろ足へ刺突を放つ、ウルティナ。

 そして後方から、火炎弾を放つセレス。今回は、ゲェラーラ•エスピノをチューンダウンさせ、妃竜砲【遠撃】に戻していた。

 

「ほっ!」

 

 空になった薬莢を散らせながら、アルフレッドは前に出る。先程斬り付けた頭の下、さらに懐に飛び込んで、胸元を斬り上げた。

 そのまま、引き金を引く。

 竜杭砲――では、ない。引き金と同時に放たれた杭は、即座に炸裂した。その炎が穂先へ移り、青白い刃となってタマミツネを襲うのだった。

 

「いい感じだな、『爆杭砲』!」

 

 火薬庫印の新製品。

 モンスターに突き刺して炸裂させる竜杭砲と打って変わり、爆杭砲は刺さる間もなく炸裂する。それによって穂先に熱を灯し、対象を灼き斬るという――。

 例の新竜撃砲開発の一環で、斬竜ディノバルドを研究している火薬庫の男が、その生態を参考に生み出した副産物。

 しかし、その威力たるや。

 

「相性が良い! 鱗が豆腐のように斬れやがる!」

 

 胸元の鱗が大きく裂けたことで、タマミツネはハンターたちをあしらうことを止める。彼らの脅威を感じ取り、背後に飛び退いた。

 大型の海竜種であれど、爆杭砲の威力はひとたまりもないらしい。大きく息を吸い込んで、咆哮。

 怒り状態。反撃の狼煙が上げるのだった。

 

「……なんだ!?」

「水――水ですわ! お口の中に、水が!」

「アルフ! ウルちゃん! ブレスが来るよ! 気をつけて!」

 

 蛇の如き大口で、上顎の袋に水を貯めるタマミツネ。

 その予兆に、セレスがいち早く察知する。

 

「ちっ!」

「ごめんあそばせ!」

 

 大盾を構えるアルフレッド。そしてその後ろに退避するウルティナ。

 直後、ブレスが放たれる。蛇の如き、とぐろを巻くような勢いで。

 

「――セレス! お前さんも気をつけろ! 薙ぎ払うぞ」

「分かった!」

 

 鋭い水流は、さながら連続する針の刺突のようであった。

 生半可では防げない。大きな衝撃を感じ、アルフレッドはそう確信する。

 一方、彼の声を聞いてすばやく岩の裏へと身を隠したセレスは、この難から何事もなく逃れていた。

 ふう、と息を吐きながら弾倉を取り換える。そして岩に登って、水流の威力を目の当たりにするのだった。

 

「うわぁ……岩が裂けてる。すっごいなぁ……」

 

 表面に線を描いたように、横一文字で割れている。

 驚くセレスだったが、それでもすぐに、スコープを覗くのだった。

 

「ここ!」

 

 遠撃弾による狙撃。

 それが的確に、頭部の花弁のようなヒレを射抜く。

 

「良かったですわ! セレスちゃん、無事みたいですわ」

「……なんかお前さんたち、仲良くなった?」

「あら! わたくしたちは前から仲がよろしくてよ!」

 

 ウルティナが足元に飛び込み、三連続の刺突を放った。アルフレッドの物と同様、黒緑色の鋭いレイピアで。

 あのライゼクスの素材で作ったことは、火を見るよりも明らかだ。

 悲鳴を上げるタマミツネ。雷属性は、その身を覆う滑液によく通るため、大きな痛みが伴うようだった。

 相性の良さを確信し、大男は笑う。

 獣のような笑みと共に、前に出る。

 

「お忘れないように! 今回は砲撃は、控えてくださいまし!」

「分かってる!」

 

 いつもなら、その勢いで引き金を引いていただろう。

 しかし今は、踏み込み斬り上げからの叩き付けをし――ガンランスを、薙ぎ払った。

 

「やりにくいったら、ありゃしねぇぜ……!」

 

 いつもの狩りは、主に駆除依頼だった。

 街道を塞いだもの。

 村を襲ったもの。

 人の味を覚えたもの。

 どれも、危険や困難となるモンスターを、ただ討伐するだけの仕事だ。どれだけモンスターの素材が傷もうと、駆除さえできれば問題ない。まぁ、多少例外はあるものの――それがアルフレッドの仕事だった。

 だが、今回は。

 

「素材を傷ませずに狩るなんてよ!」

 

 タマミツネの素材を欲する依頼者がいる。

 故に彼は、満足に砲撃をすることができないでいたのだった。

 事の始まりは、二日ほど前に遡る――。

 

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 

「ずるいですわ、ずるいですわ!」

「何だ藪から棒に」

 

 ――アグナコトルの素材が欲しいんじゃ。爆砕しても大丈夫じゃぞ! どうせ擦り潰して粉末にするからな! じゃあ頼むぞ!

 そんな、破天荒な火薬庫からの依頼に応え、火山での狩りを終えてユクモ村に帰還したアルフレッド。

 彼を迎えたのは、頬を膨らませたウルティナの抗議の声だった。

 

「ウルちゃん、退屈なんだって。狩りに行きたかったんだって」

「なんだそれ……」

 

 補足するようなセレスの声に、疲れた表情の大男は呆れ果てる。

 

「わたくしも狩りがしたいですわ! セバスも会議でいませんし、終わる気配もないし!」

「ランサーのおっさん、今は忙しいのか」

「秘密の会合ですわ。ギルドの人たちと話し合いとか何とか。聞き耳を立てたら何か聞こえましたけど、詳しい話は分かりませんでしたわ」

「なんて聞こえたんだ?」

「確か……ようがん、きょう……? よく分かんなかったですわ!」

「ふーん……?」

 

 不明瞭な彼女の言葉に、アルフレッドは間の抜けた返事をした。

 しかし、そんな彼を他所に、ウルティナは叫ぶ。

 ただひたすらに叫ぶ。

 

「とにもかくにも、つまんないですわー!」

「まだ五日しか経ってないし、あたしは観光楽しいんだけどな」

「飽きましたわ! 温泉しかない! 刺激が足りないですわ!」

 

 ウルティナの大きな声に、セレスは他人から睨まれないかと周囲を窺う。

 一方のアルフレッドは、疲れた様子で出店のベンチに腰掛けつつ、何食わぬ顔でこう提案するのだった。

 

「じゃあ狩りに行けばいいんじゃないか?」

「え?」

 

 間の抜けた返事をする少女たちに、そのまま話を繋げていく。

 

「武器や防具は持ってきてるんだろ? 近場の猟場なら、狩りに行っても良いんじゃないか? ほら、渓流ってあるじゃん。あそこなら日帰りで行けそうだし」

 

 何に悩んでるんだと、心底不思議そうだったアルフレッド。ある意味で、配慮も何もない提案だった。

 その提案に、セレスは青い顔をするものの――。

 ウルティナは、目を輝かせる。

 

「……そ」

「そ?」

「それですわー!!」

 

 大歓喜。

 法の抜け穴を射抜く。

 まさに、そんな表情だ。嬉しさ溢れる満面の笑みと、強かな薄ら笑いを同居させる、極めて独特な表情で笑う。

 

「渓流でしたら近いですわね。セバスにも怒られない、下位のクエストを受ければいいんですわ! そういえば、さっきクエストボードに何か良さげなものが……少々お待ちくださいまし!」

 

 そうと決まれば、と彼女は翔ける。

 さながらドスファンゴのような猪突猛進ぶりで、村のクエストボード目掛けて走り去っていくのだった。

 残されたのはアルフレッドと、セレス。

 彼はやっと静かになったと言わんばかりに肩の力を抜くが、彼女は困ったように語り掛ける。

 

「いいの? そんなこと言って」

「いいんじゃねぇの? はー、ようやく落ち着ける」

「……ウルちゃん、絶対あたしたちもクエスト参加者に加えるよ」

「あ? マジ?」

「たぶん、いや、絶対。巻き込まれる前提で話してたんじゃないの?」

「んなわけ……いや、俺参加に同意しねぇし。依頼書に押印さえしなきゃ受理されないから、俺が参加することはない! 行くなら嬢ちゃんが勝手に行けばいいだろ。俺は休みたい」

 

 セレスの震え声も他所に、アルフレッドは温泉に向けて歩こうとするのだが――。

 それも、彼女の不穏な一言で遮られるのだった。

 

「あの子が一人で狩りに行ったら、セバスチャンさんはなんて言うだろう……」

 

 大男の足が、止まる。

 

「お嬢様を危険に晒して――って怒られないかな。ましてや、それをけしかけたとなったら……!」

 

 静かに、それでいて激しく怒りの炎を灯す。

 そんな老紳士の姿を、二人は想起した。

 

「下位だからといって、言い訳にはならないよね。何が起こるか分かんないし、そこに向かうあの子を止めなかったとなると、あたしたちはどうなるか……! 貴族の女の子に、怪我させたとなったら……!!」

 

 慌てふためく彼女の言葉に、冷や汗が垂れる。

 とんでもないことを口走ってしまったかもしれない。アルフレッドがそう後悔する頃には、時すでに遅し。

 ウルティナは、依頼書に握りしめて二人の元へ走ってきたのだった。

 

「ステキな依頼がありましたわー! さぁ、お二人とも! 一狩り行きますわよーっ!!」

 

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 

「……しかしまさか、タマミツネの素材を集める依頼、なんて」

「どうしました? 手が止まってますわよ!」

「お前さんの持ってきた依頼が、気に入らねぇんだよ!」

 

 砲弾の代わりに、不満を爆発させるアルフレッド。

 目の前のタマミツネを前にしても、そう口を叩くだけの余裕はある。

 その泡狐竜の姿は小さく、まだ目に見えて幼かった。下位個体相当である、戦闘経験も浅い若い個体。

 彼の滑液を使って、洗髪剤を作りたい。それが、ウルティナの受注した依頼だった。

 アグナコトルの依頼とは、(わけ)が違う。

 タマミツネは水棲の海竜種であり、火は苦手とする。砲弾など、もってのほかだ。

 つまり、砲弾を特に苦手とするモンスターを、素材を痛ませずに狩らねばならない。それが、今回の依頼なのである。

 

「まるで雁字搦(がんじがら)めにされてる気分だぜ……」

 

 砲弾を直接当てることができず、アルフレッドは肩を振るわせる。

 そんな姿も気にすることなく、ウルティナは興奮気味に言葉を並べ立てた。

 

「でも、すごくいいですわこのレイピア! ライゼクスは素材も優秀ですわね!」

 

 お揃いの武器を並べるように、彼の横から前に出る彼女は、その鋭い刺突をタマミツネに放つ。

 電光。

 その刺突は、まさに電光そのものだ。

 触れた滑液が衝撃と熱を帯び、同時に甲高い悲鳴が響き渡る。

 

「二人とも! 下位個体でも、海竜種だよ! 油断しないで!」

 

 冷静なセレスの声が響き渡り、同時に火炎弾が雨あられの如く降り注いだ。

 しかしタマミツネは、舞うようにそれを避ける。同時に、体を左右にくねらせて地面を滑り出した。

 

「セレス! そっちに行ったぞ!」

 

 途端に距離を離された二人。

 若き泡狐が、狙撃者へと肉薄する。

 

「いけませんわ……って、アルフレッド様!」

「あん?」

 

 慌てて追いかけようと、足を前に踏み込んだウルティナだったが、砲口に火を吹かす大男を見ては、その足を止めざるを得なかった。

 

「約束をお忘れでして! 砲弾は――」

「分かってる……っつーの!」

 

 反転。

 砲身を背後に反転させ、吹かした炎を解放する。

 直後、それは爆発的な衝撃をもたらした。その衝撃を推進力に換え、アルフレッドは飛ぶ。

 大男が、爆炎をもって空を舞った。

 

「ええぇぇー!! やっぱりその技、ずるいですわー!!」

 

 背後から、驚き吠える少女の声が響き渡るが、空を駆け抜ける彼の耳には届かなかった。

 ただその勢いを振り下ろしに換え、タマミツネへと叩きつける。狙撃手を狙った牙は、砕かれて渓流に散るのだった。

 

「アルフ!」

「セレス! 伏せろよ!」

 

 乱入した大男を前に、セレスはしゃがみながら交代する。

 それを確認するや否や、銃槍を勢いのまま薙ぎ払う。顔のヒレを、伸びる髭を、荒々しく斬り裂くその一撃。たまらず、悲鳴を上げるタマミツネ。

 基本的には、頭を狙う。

 なるべく素材が傷まないように、滑液を十分に採れるように。それが今回の作戦だった。

 

「火炎弾、いくよ!」

 

 大振りの銃槍を振り抜き、遠心力によって隙を晒すアルフレッド。

 その隙を埋めるように、セレスは火炎弾を放つ。数発、燃えるような弾が頭のヒレに穴を開ける。

 しかし、タマミツネも黙っていない。前足を振り上げ、鋭い爪を振りかざす。

 

「なんの!」

 

 滑るように割り込んだアルフレッドが、盾を振り払い、爪を弾く。

 思わぬ反動をもらい、体勢を崩すタマミツネ。鉤爪の如き切先が、セレスに届くことはなかった。

 その隙を逃さず、豪快な動きで槍を叩きつける。普段ならすかさず引き金を引き、全弾斉射しているところだが――アルフレッドはそれを堪えた。

 

「アルフ! 尻尾!」

 

 爪では倒せない。そう感じたのか、タマミツネは尾を丸めるように縮める。

 尾を薙ぎ払う合図。セレスはそれを察知した。

 流石に、振り回される尾は弾けない。アルフレッドは、素直に背後に跳ぶ。

 

「二人とも! 振り向いちゃダメですわよ!」

 

 そんな二人の背後から響く、声。

 走る来るウルティナに対して、ようやく追い付いたのか――なんてアルフレッドは思うも、振り返りたくなる思いを、先程の言葉が阻むのだった。

 それと同時に、走る光。

 弾けた閃光玉によって、渓流がまばゆく照らされる。

 振り向いていたら、その光に目をやられていただろう。二人は、そう感じるのだった。

 そして、閃光玉を投げた張本人――ウルティナは、大地を蹴って跳躍し、タマミツネへと肉薄する。突然目を潰され、思考を停止させるその頭へと。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

 一閃。

 電光を帯びたその一閃が頭を穿つ。

 そしてその衝撃を起点に、体を捻ってさらに跳躍。ウルティナは、タマミツネの上へ出た。

 

「行きますわよ……!!」

 

 逆手に持ち替えたレイピアを両手で握り、重力のままに落ちる。

 電光を帯びたその一撃は、落雷のよう。

 そしてそれが、タマミツネの頭へと襲い掛かるのだった。

 

「……どうかしら!?」

「いや……」

「ちょっと浅い……かも!」

 

 当たった。

 しかしそれは刺さりきらず、鱗を剥がしながら横に逸れるのだった。

 その一撃が、発破となったのか。

 タマミツネははっと我に帰り、背後に跳ぶ。跳びながら、大きなシャボン玉を吐き出した。

 それに直撃する、三人。

 途端に、泡まみれになる。

 

「うわ……っ! 何だこれ!」

「うぇっ、ぬるぬるする〜!」

「ひえ! なんて野蛮な――いえ、何かしらこれ……」

 

 滑液まみれ、泡まみれ。

 驚く二人の一方で、ウルティナは自身を纏う粘液の匂いを嗅ぐ。

 

「……!! とても良い香りですわ! 花のような、フローラルな……これが石鹸に!? ぜひ欲しいですわ〜!」

「……なんか、生命力の塊だなこのお嬢さん」

「う、うん……」

 

 思わず気が抜けそうになる二人。

 しかし、タマミツネがそれを許さない。紫色の泡を、荒々しく立てるのだった。

 

「……! 何か来る! すごく、すごく危険な……!」

「奥の手って奴か!」

「退避ですわ! ――って、あら? あららら!?」

 

 我先にと走り出したウルティナが、滑る。

 走った勢いが、摩擦もなしに彼女を押し続けるのだ。目を疑うような速度で滑り去っていく彼女の姿に、二人は唖然とした。

 

「と、止めてくださいましー!!」

「ウルちゃん! ――って、と、ととと!?」

 

 それを止めようとセレスも走り出し――同様に滑り出す。

 

「セレス!」

「ア、アルフ〜!!」

 

 滑りゆくパートナーを前に、アルフレッドも走り出す。

 走り出し――同様に滑ってしまうのだった。

 

「う……な、何だこれ……!!」

 

 走るよりもさらに速く、滑るように地を這う三人。

 ウルティナに至っては、もはや体勢を崩して、尻餅をついてしまっている。それでも止まらず、滑り続けるのだ。

 三人のハンターが滑りゆく光景は、何とも滑稽に、いや喜劇的に映っていただろう。

 

「やべ……!」

 

 そんな三人に向けて、タマミツネは跳んだ。

 紫色の泡を撒き散らしながら、空中で錐揉み回転しながら、その太い尾を振りかぶる。

 

「そのまま滑れよ!」

 

 アルフレッドは、あえて抵抗せず流れに身を任せた。

 走るよりも速く、地面を滑る。ならば、滑ったままの方が回避しやすい。

 その言葉を聞いて、少女二人も抵抗する足を閉じた。

 体をまっすぐ、泳ぐように伸ばす。

 

 一瞬の着地、その直後、紫の奔流が渓流を襲った。

 草花を薙ぎ、小石を弾き飛ばしながら、さながら渦潮のように舞うその一撃。まさに、タマミツネの渾身の一撃だった。

 ――竜巻のようなそれが過ぎ去り、三人のハンターの安否は如何に――。

 

「……っぶねぇ」

 

 泡が尽き、地面を転がる三人。

 滑る勢いのままに、何とか躱しきれた。

 運が良かった。その一言に尽きる。

 

「び、びっくりしましたわ……」

「うぇ〜、まだぬるぬるする〜……」

 

 大の字で転がるウルティナと、手足の粘液に鈍い悲鳴を上げるセレス。

 アルフレッドは、二人の無事を確認してほっと息を吐く。

 そして、立ち上がった。

 もう滑ることはない。

 足を地面に擦らせて、そう確信する。

 タマミツネは、大きな隙を晒していた。当たり前だ。全力で跳んで回転する。呼吸も惜しむ大技だろう。体の節々が痛んでいるようだった。

 

「今度こそ……!」

 

 先程ウルティナがやったこと。

 それを、アルフレッドは再現する。

 いつかの孤島で、ラギアクルスを狩った時のことを思い出しながら――。

 

「とどめは任せろ!」

 

 砲撃を圧縮させ、地面に向けて放出。

 その瞬間に小さく跳んだアルフレッドを、上へ上へと押しやる。

 

「きゃっ……!」

「アルフ……!」

 

 ブラストダッシュで真上に飛ぶ。

 そしてタマミツネの上を取った彼は、空中で砲身を振り、下へと向けるのだった。

 直後、重力が彼を掴む。徐々に、徐々に加速する。

 

「行っけぇ!」

 

 真上からの急襲。

 重く鋭い刃が、タマミツネの頭に突き刺さった。

 レイピアとは違う。

 砲弾が詰まった銃槍が、ずぶりと、その頭蓋骨を潰すのだった。

 

「刺さった……」

 

 セレスが息を呑む。

 血潮が吹き、悲鳴を上げて体をくねらすタマミツネ。蛇のようにとぐろを巻いて、大男を振り落とそうとする。

 しかし、突き刺さった銃槍を支えに、彼は離れない。しっかりと柄を握りながら、叫んだ。

 その光景を固唾を飲んで見守る、ウルティナに向けて。

 

「ウルティナ! 頭なら、問題ないよな!?」

「えっ――?」

「竜撃砲、撃ってもさ!」

 

 必要なのは滑液と、脂身などの素材。つまり、頭は関係ない。

 そんな思考の元、アルフレッドは、引き金を引く。

 大量の空気が砲身に送られ、青白い光が頭部を照らす。

 

「ま、待っ――――」

 

 竜撃砲が、鳴り響いた。

 竜の怒号のようなそれが、衝撃と炎となって弾け飛ぶ。

 渓流を、青白い光が照らすのだった。

 

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 

「えへへ〜。報酬たんまり貰っちゃいましたわ〜!」

「依頼人さん、喜んでたね。これでいい石鹸が作れるって。良かった」

 

 時が過ぎ、ユクモ村。

 ギルドに報告し、同席していた依頼人が、納品された素材を受け取る。花の香りがするそれに、大層満足し、報酬に色を付けた。

 それゆえに、セレスとウルティナはご満悦な様子で、集会所を後にするのだった。

 

「お疲れさん。嬉しそうだな」

「割り増ししていただきましたのよ、報酬。はい、セレスちゃん」

「ありがとう!」

「アルフレッド様も」

「どうも」

 

 集会所前で待っていた大男は、ご機嫌な二人を見て小さな吐息と共に笑う。ほっと、やっと終わったとでも言うように。

 そんな彼をよそに、ウルティナは受け取ったゼニーを確認し、二人に分配した。満面の笑みで受け取るセレスと、淡々と受け取るアルフレッド。

 

「ふふ、今回は三人! 一人当たりの報酬額も多めですわ〜!」

 

 ずっしりとした革袋に、ウルティナは頬擦りしながら嬉しそうに笑うのだった。

 

「意外だな。報酬の上下で喜ぶなんて。興味ないかと思ってた」

「お金を稼ぐことを覚えてこいと、お父様から言われてまして。いわば修行なのですわ。家財の力に頼ることはできませんの」

「そうなんだ……」

 

 守銭奴のようだ、と言おうとしたアルフレッドだったが、取りやめる。

 彼女なりの理由があるらしい。そう納得するのだった。

 

「セバスも厳しいですし、結構カツカツですわ! だからボーナスは嬉しいですわ」

「貴族の世界って奴は、やっぱりよく分からんな……」

「でも、装備ってお金掛かるもんね。一人でやってけるようになったら、すごいもんね」

「きっと、それが狙いなのでしょうね。一人でやってのけてこそ一人前、と。そう言いたいのでしょう……」

「……ん? でもお前さん、前その辺の屋台の食べ物は大人買いしてなかったか?」

「何分、成長期ですので! 食べ物は別ですわ!」

 

 食費だけは別。セバスチャンの握る財布により、それは家庭の支援がある。

 ウルティナ曰く、体づくりの基本は食事のため、そこを怠る者は生き残れない――とのことだが。いまいち感覚を掴めない家庭の方針に、庶民の二人は首を傾げるばかりだった。

 

「……変わってんな」

「うん、変わってる」

「そうですなぁ。不思議でございますよね」

 

 突然入り込む、しゃがれた声。

 振り返れば、細身の老騎士がそこに立っていた。

 いつからいたのか。まるで気配がなかった彼を前に、アルフレッドとセレスは目を丸くさせる。

 

「セ、セバス!? い、いつ戻って――」

「つい先程ですが。それよりもお嬢様」

「な、何かしら……?」

 

 鋭い眼光が、彼女を射抜く。

 

「何やら……良い匂いがしますな、お三方。まるで泡狐竜のような、華やかな香り。さて、一体、何をされてましたかな?」

 

 全てお見通し。

 そう言いたげな、鋭い視線。

 それを前にして、ウルティナは固まる。まるでガララアジャラを前にしたテツカブラのように、体が凍りついた。

 

「……アルフレッド殿、セレス殿」

「な、何だ?」

 

 顔を向けることもせず、しかし確かに名前を呼ぶ老紳士を前に、背筋が強張る二人。

 ゆっくりと顔を向ける彼は、確かに笑っていた。にこやかに、柔らかく。

 しかしその目は、全く笑っていなかった。

 

「これよりお嬢様と大事な、大事なお話を致しますので、ごゆるりとお休みくださいませ」

 

 明らかに、怒っている。

 村で安全に過ごさず、独断で断りなく狩りに出かけたウルティナに対して、怒っている。

 そんな彼の気配を察知して、二人はただ頷くことしかできなかった。

 当のお嬢様は、死んだサシミウオのような目で、ただ一言、「終わりですわ……」と呟くのだった。

 その日の説教は長く続いたことを、湯煙が、静かに物語る――。

 




タマミツネは大変いいモンスターですよね。まさかの、亜種を飛ばして希少種が実装される稀有なモンスターですし、その人気が伺えます。
今回は殴りガンスをする回でした。砲撃縛りをするというのは、やはりとても息苦しい…でも、片手でガンランスを振り回して戦う姿はかっこいい。私は片手大剣って呼んでました。本作では砲撃の威力をかなり高めに描写してますが、実際のゲームでは、終盤になると砲弾の威力より斬撃の方が強くなる作品も多くて、案外殴りガンスってありふれた戦法だったりするのかも。アイスボーン、サンブレイクは砲撃偏重環境な感じもしますがね!(真黒龍銃槍は除く)
ワイルズはどうなるか…楽しみですね。仕様が大きく変わった溜め砲撃がどうなるか、気になるところ。

それはさておき、先日主要メンバー四人の顔を、金曜ロードショー観ながら描いてました。落書き程度のアナログですが、折角ですしここで上げとこうと思います。みなさんの好きなキャラはどの子でしょうか。

アルフレッド↓
【挿絵表示】

セレス↓
【挿絵表示】

ウルティナ↓
【挿絵表示】

セバスチャン↓
【挿絵表示】


それでは、次回の更新で!
閲覧ありがとうございました。
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