ラストリロード   作:しばじゃが

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叩き付けよその砲身

 慟哭のような風が唸る。

 天空山では、今日も不気味な鳴き声が吹き荒れていた。

 風か、咆哮か。それとも、両方か。

 

「うぉらァッ!!」

 

 それに負けじと、アルフレッドは砲口を向けた。

 目の前で羽ばたきながら、雷鳴のような声を上げる飛竜に向けて。

 

「食らえ……ッ!」

 

 砲口が、青い光を灯す。

 絞られ、空気量を調節されて。装填されたのは、火竜の骨髄を利用した特殊弾。砲身に備えられたハッチが開くことで、空気の通り道が生まれ、大量の空気が流れ込んだ。

 火竜の骨髄は、空気に触れると自然発火する特性がある。目の前を飛翔する赤き竜──リオレウスが、『火竜』と呼ばれる由縁。火竜の如き息吹(りゅうげきほう)が、語源たる火竜に叩き込まれた。

 

 ドン、と轟く音が響き、同時に赤い甲殻が焼け落ちる。

 しかしリオレウスは墜ちることなく、さらに高度を上げた。超高密度の砲炎を直に浴びたというのに、その動きは痛みを感じさせなかった。

 

「ちっ、これくらいじゃ沈まないか!」

 

 リオレウスが高度を上げる時は、上空からブレスをお見舞いする時か、足の毒爪を振りかざす時。

 山脈の如き歯茎から、眩い炎が溢れ出る。今回は、ブレスのようだ。

 

「ぐぁ……ッ!」

 

 構えた盾で、業炎を防ぐ。

 しかしそれは、直撃を避けられるだけであって、衝撃と熱は防げない。頬が焼け、体の芯は悲鳴を上げる。

 

「……連続ッ!」

 

 二度、三度と連続で叩き付けられる火球。

 アルフレッドの持つ盾を、着実に焦がしていった。

 

「そう何度も喰らってはいられないな!」

 

 武器を背中のマグネットへと貼り付け、収納する。

 盾で防ぎ続けるのは、ジリ貧になるのがオチだ。彼はそう判断して、回避に徹した。

 そんなアルフレッドに向けて、リオレウスは爪を構える。毒汁滴る鋭い爪が、びゅんと風を切った。

 

「ちっ!」

 

 その動きを察知した彼は、岩と岩の隙間に飛び込んだ。

 天空山は、まるで岩が宙吊りになったような不安定な山脈地帯だ。それゆえに、土台となる岩場も崩落寸前状態で、どこもかしこも隙間だらけ。タル爆弾を置いたり、地面に向けて竜撃砲を撃ったりしようものなら、地盤崩壊は避けられないだろう。

 言い換えれば、岩の隙間から下層に逃げることも、容易だということだ。

 アルフレッドは毒爪を回避しつつ、麓のキャンプへとツタづたいに降りていく。

 

「砲弾、足りねぇや」

 

 ガンランスの砲弾は、重く、そして大きい。

 アルフレッドの体格をもってしても、二十発程度しか携行できないのが現実だ。

 故に彼は、補充へ向かう。予備弾薬をいくつか備えておいた、キャンプに向けて。

 

 

 ○◎●

 

 

「んー、あと十五発かぁ」

 

 キャンプで回復薬を飲みながら、アルフレッドはボックスの中を漁る。

 彼が準備してきた弾も、手持ちと予備で合わせて十五発。あのリオレウスを仕留めるには、心許ない数であった。

 

「一点集中して砲撃を叩き込めば、いけるかな」

 

 全身にくまなく撃つのではなく、ただ一点に向けて砲弾を叩き込む。弾数に余裕がない時の、苦肉の策であった。

 ガンランスという武器は、『(ガン)』を冠するものの、実際の仕様としては銃というより爆弾に近い。実弾ではなく、爆風と熱を放つのだから。タル爆弾を刀身に詰め、いつでも発射できるようにしたもの、と言ってもいいだろう。

 放たれる砲炎は、モンスターの甲殻も物ともしない。

 特に固いモンスターに対して、効果を発揮する。全身を叩き焼くことで、着実に弱らせるのが主な運用法だ。

 

「……よし」

 

 現実的には、重い砲身で狙いを定めるのが難しい、という理由もあるが。

 しかしアルフレッドは、恵まれた体格をもってその問題をカバーする。

 

「行くか」

 

 ガンランスのシリンダー後部、そこには砲身を渦状に纏うような形をした予備の弾倉が備え付けられている。彼はそこに、残りの弾薬を詰め込んだ。

 準備万端と言わんばかりに、彼は笑う。

 そのまま、キャンプの外へ向けて踏み出した。

 

 

 ○◎●

 

 

「──オオオオォォォォォッッ!!」

 

 上空からの、渾身の叩き付け。

 麓へと食事に降りていたリオレウスの上を取り、彼は砲身を叩き付けた。

 突然真上から重いものを叩き付けられて、火竜は悲鳴を上げる。同時に、アルフレッドはその隙に背中へ跳び付いた。

 

「落ちろ……このッ!!」

 

 ガンランスの先端、穂先の剣を、瞬時に取り外す。

 片手剣と相違ないそれをもって、彼は火竜の背中に切っ先を突き立てた。

 

「らァッ!!」

 

 引き摺るように走らせた斬撃に、火竜は堪らずバランスを崩した。

 落ちる巨体。その背中を蹴って、アルフレッドは脆い地盤へと跳び移る。

 瞬時に穂先をガンランスへと取り付け、駆け出した。同時に、盾は背中のマグネットへと収納する。

 構える、銃槍。

 それも両手で。さながら、太刀のように。

 

「行くぜ!」

 

 狙うは首筋。砲炎が深部まで焦がせるように、まずは切り込みを入れる。

 足を開き、腰を捻り、肩を引く。

 続けざまに三回、槍を走らせた。

 

「はぁッ!」

 

 三度目の突きを奥まで刺し込んだところで、柄に添えられた右手。

 砲撃の反動に備えるため。そして穂先を、奥へ押し込むため。

 

 ドン、と天空山を揺らす音が、空を打った。

 砲弾に込められた鉄屑が高熱を帯び、衝撃波となって火竜の喉を襲う。「カッ……」と咽るような声が飛び出した。

 

「まだまだ!」

 

 アルフレッドは、連続で引き金を引く。

 シリンダー後方のハッチの一部が開き、空になった薬莢を吐き出した。同時にシリンダーが回転し、新たな弾が装填される。

 ガンランス後部に備えられた、予備弾倉を利用した機構。連続射撃をすることにより、即座に排莢、装填を行う高等技術。人はその技を、クイックリロードと呼ぶ。

 クイックリロードによって、続けざまに五発撃ち放ったアルフレッド。喉が焼けたリオレウスは苦しそうに、しかし彼を薙ぎ払うように起き上がった。

 喉元からは、どす黒い血が溢れ返っている。如何に火に強い火竜といえど、喉の内部を焼かれるのはひとたまりもないのだろう。

 

「……ガノトトスならこれで終わってただろうに。流石はリオレウスだ」

 

 しかしその傷も、決定打には至っていない。

 驚異的な修復能力で、彼の喉元は致命的なダメージに抗っている。

 喉を焼きながらブレスを吐く、空の王者リオレウス。熱への耐性は噂以上だ。

 

「あと十発……!」

 

 ガンランスを抱えながら、振りかざされる牙をくぐり抜ける。

 噛み付きという手段は、モンスターならではの野性的な攻撃方法だ。それ故に多くのモンスターの常套手段でもあり、動きもある程度予想しやすい。

 

「はッ!」

 

 両手で握った銃槍を、大剣のように振り下ろすアルフレッド。先程突いて焼いた傷口を、大きく抉った。

 ──斬る瞬間に、引き金を引く。紅蓮の軌跡が、傷を焼く。

 

 当然、リオレウスも黙ってはいない。

 自慢の尾を振り回して、外敵を遠ざけた。

 

「ふっ……!」

 

 その一薙ぎを、彼は半身反らして躱す。地面と平行線になるように極限まで上半身を逸らし、しかし両脚は開いたまま次の動きへと繋げる。

 気刃突き、という技がある。練った太刀筋を突きへと変える、太刀の奥義だ。アルフレッドもまた、同様の構えを描く。無論、握るのはガンランスだが。

 深々と突き刺さる刺突に、彼は連続で三回、砲撃を加える。重い引き金を任された人差し指は、鈍い悲鳴を上げた。

 

「ぐッ!」

 

 火竜へ踏み込んでいただけあって、舞い上がる粉塵と火薬の香りが大男を突く。鼻を塞ぎ、そのまま背後へと跳んだ。

 一方、リオレウスは満身創痍だ。首筋からはどくどくと血が溢れている。顎は痙攣するように震え、足取りはとても重たそうだ。

 しかし、それでも彼は空の王者だった。目の前のハンターを掴み、ひしょうすることなど、朝飯前だった。

 

「あぐっ……!?」

 

 傷も顧みずに羽ばたいたリオレウス。

 その姿に呆気を取られた瞬間、アルフレッドの両肩が鋭い爪に咥えられる。

 

「離せこのッ!」

 

 振り払おうと力を入れるものの、飛竜の力には到底敵わなかった。防具がミシミシと悲鳴を上げ、両肩の肉が嫌な呻き声を漏らす。

 流れるように、真上に飛び上がったリオレウス。勢いのまま、アルフレッドを宙へ放り投げる。

 

「──ブレスッ!」

 

 翼をもたないものは、自由に飛ぶことができない。それが分かっているのだろう。リオレウスは、空中でもがくアルフレッドに向けて火を噴いた。

 掴むものも、蹴る地面もない。

 重力に掴まれて、落下するだけの瞬間。アルフレッドは、避けることも叶わずブレスの餌食になる────。

 

「なめんな……ッ!」

 

 なんてことは、なかった。

 彼は、空中であってもガンランスを構える。先程撃った分を瞬く間に排莢し、残り六発を装填した。

 そして、砲口を向ける。火竜の方へ──では、ない。

 右へ。何もない、右の虚空へ向けて。

 

「ぐっ……!」

 

 砲撃の反動で、彼の体は左へ飛ぶ。

 その勢いで、彼は火球から逃れた。

 

「お返しだッ!」

 

 続けざまに、背後へ砲撃。それも連射だ。

 リオレウスの真上に向けて、彼は飛ぶ。連続で引き金を引くことで、空中であるというのに彼は加速した。

 翼のないはずの人間が、奇妙な棒を使って空を飛ぶ。まさに異様とも言える光景に、リオレウスはさぞかし驚いただろう。

 しかし、それも束の間。上を取られた獲物ができることはただ一つ。

 自分を殺す者を見ること、それだけだった。

 

「ウオオッ!!」

 

 アルフレッドは、吠える。高所から落ちる急激な落下感が、彼の肝を引き締める。

 振るうは、全弾を撃ち尽くしたガンランス。弾が無くなった分軽くなったその砲身だが、今は重力が上乗せされていた。

 まさに、全身全霊を賭けた叩き付け。リオレウスを叩き落とすには、十分だった。

 

 鈍い音が響く。大地に薄い(ひび)が走る。

 叩き付けられた頭部と、首の甲殻にまで、鋭い罅が刻まれた。大地を鮮血が覆う。火竜の血飛沫が、灰色の世界を赤く染め上げる。

 同時に、ガンランスの排熱ハッチから、白い蒸気が噴き出した。そして、パタンと音を立てて閉まる。高所からの落下によって、砲身が急激に冷やされたのだった。

 ──それはつまり、排熱が終わったという合図。

 

「楽しかったぜ、リオレウス」

 

 とどめの一撃は、お前のものだ。

 アルフレッドは心の中で、そんな皮肉めいたことを思いながらも、最後の竜撃砲弾を装填する。

 天空山に響く、地鳴りのような爆発音。

 今日もまた、火竜の吐息が、大地を照らすのだった。

 




改めて言っておきますが、この作品は作者がガンランスのかっこいい描写を書いて、「むふふ」と楽しむだけの自己満作品です。でもガンランス好きが集まってくれたら、やはりそれは嬉しい。とても嬉しい。
そんなガンランスの構造を絵にしてみました。名付けて、「ガンランス構造解釈妄想」。純度100%の妄想ですが。良かったらご覧ください。全4枚、少しずつ公開していきます。今回は構造編です。

【挿絵表示】

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