ラストリロード   作:しばじゃが

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闇をも破る竜撃砲

 焼け爛れたように、ウイルスの染み付いた痕が続く。

 遺跡平原に、確かにゴア•マガラが棲まう痕跡である。

 

 マガラ種は、標高の高い場所を巣篭もりの地とし、その高台からウイルスを撒き散らす。そして同種同士でその場所を争い、最も早くそこに辿り着けたのみ個体が成体となる。

 成体――シャガルマガラは、そこで生殖細胞をばら撒き、同時に含まれる成分を辿り着けなかった同種に吸わすのだ。

 すなわち、成長阻害の成分。

 早く辿り着けた個体――その、一番優秀な遺伝子を残すため。

 

 

 

 

「――ウルティナ、避けろ!」

 

 上半身を大きく掲げ、叩きつけるように牙を剥く。

 そんな挙動を前にアルフレッドが叫び、狙われていた少女――ウルティナは横に跳んだ。

 受け身が取れず地面を転がるものの、その牙自体は躱すことができた。セバスチャンは、ほっと小さく息を吐き、静かに槍を構える。

 

「とうっ!」

 

 そこから、突進。

 猛烈な勢いで地面を蹴り、重い槍と盾を持ってゴア•マガラへと肉薄。金色混じりの顔を、鋭く穿った。

 薄く柔らかい甲殻が、硬い鱗混じりの感触へと変わりつつある。セバスチャンは、槍を引きながら背後に跳び、戦局を仕切り直すのだった。

 

「脱皮の兆候がありますな。現状は、まだ通常のゴア•マガラでしょうが……このまま放置すれば成体となるでしょう」

「今ここで仕留めるぞ。このままじゃ遺跡平原が不毛地帯になっちまう」

 

 アルフレッドもまた、ガンランスを装填しながら彼の横に並び立った。

 その隙にウルティナは体勢を立て直して回復薬を口にする。一方で、高台を陣取っていたセレスは、静かに火炎弾を装填するのだった。

 

「それにしても、ゴア•マガラ討伐の任を請け負えるなんて。わたくしたちはラッキーですわ!」

「実力が認められた、ってことか。光栄なこった」

「お嬢様を思えば、危険なためにできれば取り巻きがよかったのですが……」

「あら! 今回はアルフレッド様やセレスちゃんがいてくれてますわ! だからきっと、大丈夫ですわ!」

 

 全身を覆い尽くさんとする翼を目一杯広げ、大きく咆哮するゴア•マガラ。

 バルバレ周辺地域一帯に発生した個体。

 そして、今まさに脱皮の時を迎えようとした、種の勝者。

 ――それゆえに、その危険度は計り知れない。

 生き残るのために手段を選ばない。そういう存在だ。

 

「正面は、俺がやる。引き付け役は任せろ」

「わたくしは――」

「後ろ足を狙ってくれ。今回は、毒が塗り込まれたレイピアなんだろ?」

「……ですわ! レイア亜種の毒をしっかり吸った、クイーンローズですわ! これで弱らせますわ」

「頼むぜ。おっさんは、嬢ちゃんの護衛を。その方が動きやすいだろ?」

「配慮いただき感謝します。お嬢様を守りつつ、隙を狙って槍を入れましょう」

「ああ。んで、セレス! いつものように、高火力の狙撃を頼む!」

 

 張った声に応えるように、彼女は右手を小さく上げて、銃を構え直した。

 ゴア•マガラは、炎に弱い。

 筆頭ハンターたちが集めた情報を頼りに、対策を練ってきたアルフレッドチーム。

 主な決め手は、二つある。

 その一つが、セレスの火炎弾だ。

 

「良い焼き加減! 効いてますわ!」

 

 発砲音。同時に届く、火炎弾。

 甲殻が音を立てて焼け溶けていく。

 悲鳴を上げてのたうち回り、高台のセレスを感知した。

 目がないゆえに見えていないはずが、位置に気づいて反撃しようとするその姿。フルフルよりも機敏で、正確だ。

 

「させるかよ!」

 

 それを邪魔するように、アルフレッドは刺突を放った。

 青黒い穂先は、爆杭砲の影響で赤く染まっている。それが頭を深く斬りつけるのだから、黒蝕竜は無視せずにはいられない。

 うねるように、突進。二回続けて繰り出して、赤髪の男を弾き飛ばそうとする。

 

「ぐっ……」

「ご無事ですか!」

「な、何とかな!」

 

 しかしそれを耐え抜いた。

 盾で受けきり、返礼として砲身を叩きつける。灼熱の兜割りに、ゴア•マガラは悲鳴を上げて仰け反った。

 翼から、堰が切れたように漆黒の鱗粉が溢れ出る。

 

「すごい効き目ですわ! アルフレッド様、それって?」

「ディノバルドのガンランス――ブルアノヴァだ。今回のために火薬庫が用意した、特注品だ!」

 

 青と赤の甲殻が、うねる焔のように絡まった砲身。

 穂先から伸びるは、かつての断剣尾を思わせる鋭く大きな刀身。

 詰められた拡散型の砲弾は、放たれる時を今か今かと待ち侘びている――。

 火薬庫が、ゴア•マガラを仕留めるためにと急遽開発したガンランスだった。そして、これにもある秘策が込められている。

 

「肉質が思ったより柔らかいですわね! それに動きもそこまで早くない! 噂ほど強くは感じませんわ!」

 

 巨槍の影に隠れるように、ウルティナは死角から刺突を放つ。

 連続で鱗を穿ち、舞うように身を翻しては距離を取った。

 まさに、蝶のように舞い、蜂のように刺す剣技だ。ゴア•マガラは捉えきることができず、その全身を振り回して追い払おうとする。

 

「牙が来る!」

「分かってますわ!」

「……いや、待て!」

 

 荒々しい噛みつきは、空を削り取るが――なんとゴア•マガラは、その勢いを生かして旋回し、太い尾を薙ぎ払うのだった。

 牙だけ躱して油断するウルティナに、黒く重い尾が迫る。しかしそれは、セバスチャンの持つ堅牢な盾によって阻まれた。

 

「セバス!」

「お嬢様、お怪我は!」

「大丈夫ですわ。ありがとう!」

 

 二人の槍使いは、大きな盾を持ってその尾を防ぎ――そのお返しとして、鋭い突きを、そして劫火を放つのだった。

 脇腹には出血を、頭部には火傷を強いられ、黒蝕竜はたまらず羽ばたいた。

 対空し、口元を黒く染める。

 剣や槍が届かぬ位置から、ブレスを放つ。

 それはまさに、決め手になりえたかもしれないが、ここには狙撃者がいる。黒い吐息を溜めることに夢中なその姿は、的でしかなかった。

 

「みんな! 体勢を整えて!」

「狙撃竜弾だ! 離れろ!」

 

 セレスの合図が届き、三人はその場に伏せて待つ。

 ブレスの格好の餌食だと、黒蝕竜が笑う。顔のない顔で、笑っている。ウルティナは、見上げながらそう感じていた。

 が、それも束の間。

 空を裂く弾道が、黒い翼を、胴体を貫いて――どころか激しく炸裂させ、巨体を大地へ叩き落とすのだった。

 

「好機!」

「チャンスですわ!」

「おう!」

 

 立ち上がり、武器を抜く。

 ウルティナは連続で刺突を放ち、跳躍からの全体重を乗せた突きを放つ。

 セバスチャンは前足の付け根を、その関節を砕くように槍で突いた。重い感触が、骨に伝わる。

 アルフレッドは、腰溜めの姿勢で空圧レバーに手を掛ける。青い刀身より、さらに青く、澄んだ光を讃え――灼熱の吐息として撃ち放つのだった。

 

 元々の黒さか、炎によって焦げたものか。

 それすらも判別がつかない姿へ、ゴア•マガラは変わり果てる。体がふらつき、毒で意識も覚束ない。

 苦しそうな様子で立ち上がり、しかし踏ん張りが効かず、体が左右へ傾いている。

 

「……かなり効いてますわ。いけそうですわね」

「いや、待て。これは――」

 

 とうとう糸が切れたように、傾きが最大まで振り切った。

 倒れ込む。四人の誰もが、そう思った――のだが。

 あまりにも大きなその翼が、大地についた。

 翼か、もしくは、腕か。前足よりもさらに立派なそれが、荒々しく大地を削る。同時に凄まじい量の鱗粉を撒き散らして、咆哮。

 焼けた頭からは、まるで角のように赤紫色の何かがせせり立つのだった。

 

「な、なんですのー!!?」

「来ましたな……!」

「こいつが噂の……」

「……『狂竜化』状態!」

 

 翼を新たな前脚として展開する、その姿。

 報告にあった、黒蝕竜の狂竜化である。

 感知能力が最大まで引き出され、大量の鱗粉で猟区を覆い尽くす。まるで、ここが自分の縄張りと主張するかのように。

 一転、攻勢に出たゴア•マガラ。その六本の足で大地を粗く削り、三人の剣士を引き潰さんとする。

 

「ちっ……!」

「お嬢様!」

 

 アルフレッドは右へ、セバスチャンはウルティナの手を引いて左へ避ける。

 掻き均されたその先で、身を翻すその影は、あまりにも太いその両腕を――いや、翼腕を振りかざすのだった。

 鉄柱の如きそれが、少女と老人へと落とされる。

 衝撃のあまり、二人が立っていた赤い遺跡が、音を立てて崩れ落ちた。

 

「二人とも!」

「無事か、お前さんたち!」

 

 倒壊によって粉塵が舞い、視界が失われる。

 仲間の無事を確認しようとするアルフレッドに向けて、黒い吐息が放たれた。

 

「うっ……!」

 

 それはまるで、地を這う毒虫のよう。黒い痕を残しながら、アルフレッドへと襲い掛かる。

 盾を構え、吐息を弾く。

 しかし、二度目、三度目が放たれる。

 

「そう何度も、喰らうかよ!」

 

 二度目の吐息を振り払い、三度目は回避した。

 ――砲口からの、炎の奔流。それを反動にして前へ飛び、すれ違うように躱したのだった。

 

「っらあぁぁっ!!」

 

 空中からの、叩き付け。

 まるでディノバルドの、大剣の如き尾の縦斬りを思わせる。その一撃をもって、赤紫色の触覚にヒビを入れた。

 しかしゴア•マガラは怯まなかった。

 腰溜めとも言うべきか、半身引くように体を持ち上げ、さらに深い深い吐息を灯す。

 直後、それを解放した。

 薙ぎ払うようにして吐き出し、瞬時に炸裂させる。炎とも火薬とも違う、その未知の爆破は、アルフレッドを容易く吹き飛ばしたのだった。

 

「アルフ!」

 

 紫色の爆炎はすぐに空気に溶け、しかし埃を舞い上げて視界を奪ってしまう。

 火炎弾を放つ手を止め、セレスは銃を背負う。

 

「アルフ! ウルちゃん! セバスチャンさん!」

 

 三人の安否が分からない状況だ。とにかく、彼らの元へ駆け寄ろうとした。

 しかし黒蝕竜は、それを許さない。

 羽ばたいて、強烈な風圧を起こす。

 猛烈な風を前に、セレスは前に進むことができず、ただ舞い上がる黒い影を睨んだ。

 

「うっ……! 飛んできた!」

 

 高く舞い上がったところで、その翼の爪を開いて滑空。

 セレス目掛けて、巨体が落ちてくる。

 彼女は走ってそれを躱し、しかしその風圧に吹き飛ばされた。

 

「いっ……! いたた……み、みんな……!」

 

 何とか受け身を取って、赤い残骸の元へと辿り着く。

 そこには、鎧を血染めにした大男の姿があった。

 

「アルフ! その怪我……!」

 

 怪我、というよりも深刻だった。

 目元が、首筋が、血管が黒く染まっている。

 呼吸が荒く、平衡感覚を失っている。

 アルフレッドは、感染していた。間近で鱗粉の膨張を浴び、そのウイルスを大量に吸い込んでしまったのだった。

 

「セレス……俺、は」

「大変……狂竜ウイルスが、そんなに……!」

 

 銃槍を杖代わりに歩いていた彼だったが、耐えきれなくなったように倒れ込んだ。

 どくん、どくんと脈が疼く。その感覚に襲われ、目を覆ってしまう。相棒のその姿に、セレスは悲鳴に似た声をあげて駆け寄るのだった。

 

「アルフ! アルフ……! どうしよう……!」

「うぐ……う、うるせ……頭に響く……!」

 

 彼女の甲高い声が、彼の頭痛を悪化させた。

 それを抑えようと耳を手で庇い、その触れる感触に痛みを覚えて悶絶する。

 アルフレッドのその姿に、セレスは耐えきれなくなったように涙を浮かべ始めた。

 

「――ウチケシの実、です」

「え……」

 

 ガラガラと、音を立てながら赤い石の山が崩れ落ちる。

 かと思えば、そこから顔を出す老人と少女。

 盾を傘代わりにして、崩れるレンガから身を守っていたセバスチャンとウルティナ。二人が姿を現したのだった。

 

「アルフレッド様……! セバス、これは!」

「狂竜症です。ウチケシの実で症状を緩和できます。これを」

「あ……」

 

 小さな袋に詰められた、青い木の実。

 それを渡すや否や、二人は立ち上がった。

 

「回復の時間は稼ぎます。どうか、アルフレッド殿を頼みましたぞ」

「セレスちゃん、大丈夫ですわ。この大男は、そう簡単に死にませんわ、きっと!」

 

 青黒い瘴気を撒き散らす黒蝕竜へ。

 二人は返事も待たずに走り出す。回復のための陽動を仕掛けるために。

 

「アルフ……これだよ、ウチケシの実だよ。これを食べて」

「ぐあっ……何だこれ、視界が真っ赤だ。おかしいな……」

 

 充血した目で、会話にならない様子の大男。

 セレスはウチケシの実を渡そうとするものの――彼がそれに気付く様子はない。

 視覚、聴覚、触覚、嗅覚。どれも過剰なまでに反応し、アルフレッドはただ、痛みを逃すように悶え苦しんでいた。

 

「ごめん、ごめんねアルフ。いつも最前線で戦わせて、こんな怪我させて……これ、呑み込んで!」

「ぐっ!?」

 

 空いた口に、突然入れられた木の実。

 苦味とえぐみが普段以上に感じられ、それを吐き出そうとするのだが――抱え込むように頭部を包まれて、アルフレッドは吐き出せずにいた。

 強い苦味と臭みに、全身を暴れさせる。何度も何度も、地面を蹴って、頭を抱える存在を引き剥がそうとする。

 だが、自分の頭を包み込む、自分よりも小さな彼女の存在に――その胸の鼓動を感じ取って、彼は気づいた。

 

「…………っ」

 

 小さな吐息とともに、喉が鳴る。

 苦味はまだ残るものの、舌の上の不快な感触は消えたらしい。

 アルフレッドは、小さく、本当に小さく、声を漏らすのだった。

 

「セレス……い、痛ぇ」

「え、ご、ごめん!」

 

 ぱっと腕を離して、解放される大男。

 離された頭はすぐに重力に捕まり、石畳に激突する。

 

「いっ〜〜っ! おまっ、お前さんなぁ!!」

「わああぁ! ごめん! ほんとごめん!」

 

 慌てるセレスを他所に、それでもアルフレッドは起き上がった。

 相変わらず顔や首筋の血管は黒かったが、目元はやや症状が落ち着いたようだった。

 

「狂竜症、か。とんでもないな。五感の異常過敏だ。動くだけでも、っつ……あー、喋るのすら痛い」

「え、え、えぇ……」

 

 どうしよう、と慌てるセレスに、アルフレッドは静かに微笑む。

 

「大丈夫だ。ありがとうな。ウチケシの実、まだ苦いけど、即効性が強いみたいだ。さっきより良くなってる」

「ほ、ほんと!? 良かった……」

 

 その言葉に彼女は花が咲くように笑い、すぐに枯れたかのように脱力する。

 相変わらず面白いやつだと、アルフレッドは思った。

 

「なぁ、ポーチから秘薬出してくれるか?」

「え?」

「手で探すのは痛そうでさ。頼む……」

「う、うん!」

 

 普段よりやや弱々しい彼の姿に戸惑いつつも、セレスは彼のポーチを漁り、秘薬を手に取るのだった。

 

「はい! アルフ、口を開けて! あーん!」

「いや、食べるのは自分でやるから……」

 

 差し出されたそれを受け取って、ガリガリと噛み砕く。

 噛むごとに痛みが走るようだったが、アルフレッドは厭わなかった。

 一方のセレスは、無意識に自分が食べさせようとしてしまったことに気付き、赤面する。「つい、弟にやるみたいに……」と溢しながら両手で顔を覆い、小さな悲鳴を漏らしていた。

 

「――ふう! ありがとな。助かったよ」

「え……ま、まだ立っちゃダメだよ!」

「いや、大丈夫だ。それに何だか、戦いたくてしょうがないんだ……!」

 

 うずうずと、抑えられない様子で笑う。

 武器を手に取り、足を踏み出すその姿。セレスの目には、幼い頃に物語で読んだ、死してなお動き続ける騎士のように映った。

 

 狂竜ウイルスは、感染者の闘争本能を刺激し、好戦的にする。

 そしてそれは、モンスターだけではない。

 人間も例外ではなく、アルフレッドは今その症状に踊らされるまま、再び戦線に復帰しようとしていた。

 

「ダメだよ! これ以上やったら、死んじゃうよ……!」

「死ぬもんか。確かに体は痛いけど、いつも以上によく見えるんだよ」

 

 視線の先で、死闘を演じる者たちがいる。

 盾に数々の爪痕を描きながら、槍を振るう老紳士。

 少ない隙を何とか探し、細い切先を埋める少女。

 二人を薙ぎ払うように、翼腕で大地を捲り立てる黒蝕竜。

 ――アルフレッドは、砲炎を湛えて、そこに突っ込むのだった。

 

「アルフ!」

「セレス! 戦えよ! 戦わなきゃ、食われるぞ!」

 

 空からの急襲。

 槍を突き立てながら、アルフレッドはそう叫ぶ。

 その言葉に、セレスも静かに頷いて、再びヘビィボウガンを展開させた。

 

「もう大丈夫ですの!?」

「何とかな!」

「ご無理なさらず、いやしかし、頼もしい……!」

 

 二人の立ち回りは堅実で、安全性が高く、それゆえに決定打に欠けていた。

 そこへ割り込んだ、アルフレッドとセレス。

 ガンランスとヘビィボウガン。

 決定打の塊のような存在だ。

 

「オオオォォォ!!」

 

 両手で持ったガンランスを、重力のまま振り下ろす。

 そのまま斬り上げ、刃を返し、クロスするように二連斬りを繰り出して――。切先をくるりと回し、腰を低く、足を引く。

 そして放つは、跳躍とともに銃槍を袈裟斬りし、その重さをもって回転、遠心力を乗せて再び叩き斬る大技。

 それらをもって、アルフレッドは畳み掛ける。突然の猛攻にゴア•マガラは悲鳴を上げた。触覚は無惨に折れ、破片が宙を舞う。

 

 アルフレッドは、口角を上げた。

 血管の黒ずみはもうなく、いや、いつも以上の脈動とともに血流を増幅させる姿がそこにあった。

 

「……狂撃化、というのは本当だったんだ」

 

 セレスは、資料にあった文言を思い出す。

 ――狂竜ウイルスは、幸いなことに人が感染しても、命の危機に陥ることは少ない。多くの健康被害をもたらすが、同時に感染者の闘争本能を刺激する。

 ――そして、それは、攻撃を重ねて脳刺激を与え続けることで、全身の血流を激化させ、普段以上の筋力を発揮させる。

 今、スコープ越しに映る、鬼神の如き大男の姿。

 砲弾が詰まって重いはずのガンランスを、太刀のように、いやさながら剣斧のような速度で振るうその姿。

 まさに、その資料の通りだった。

 

「らぁッ!」

 

 頭の傷を、さらに抉るように剣を立てる。

 まさに会心の一撃。猛烈な痛みに黒蝕竜は悲鳴を上げるが――アルフレッドは止まらない。

 

「まだだ……!」

 

 その剣を引いて、肉を抉る。

 そして、その斬撃に合わせるように、引き金を引くのだった。

 

 遺跡平原を包む黒い霧が、薄れていく。

 焼け爛れた頭部から硝煙を漂わせながら、ゴア•マガラは翼を震わせた。しかし鱗粉も尽きかけ、思うように振るわない。

 狩人四人は、畳み掛ける。

 

「たぁ!」

 

 片手剣の連撃と刺突は、体を蝕む毒をさらに塗りたくる。

 

「ひょおッ!」

 

 間接を的確に狙う大槍は、黒蝕竜の動きを阻害し、避けることさえ許さない。

 

「弾薬費が嵩むけど、今は!」

 

 遠距離から降り注ぐ火の弾は、身体中の鱗を、肉を、凄まじい勢いで焼いていく。

 

「そろそろ、仕舞いにしようぜ」

 

 そして、先ほど力尽きかけた大男は、火を吹く剣をもって、とどめを刺しに掛かる。

 

 ゴア•マガラは吠えた。

 吠えて、凄まじい勢いで黒い吐息を凝縮する。

 先ほどアルフレッドを吹き飛ばした、あの紫色の炸裂を。いや、さらなる強い膨張を。

 全身全霊をもって、目の前の狩人を打ち倒そうとする。まさに、決意の表れのようなその行為。

 ――いや、祈るような仰ぎだった。

 

「アルフ! あれが来るよ……!」

「むむ、さらに大きそうですな」

「避けれるかしら……!」

 

 あまりに膨らむその粉塵の塊に、三人は冷や汗を垂らすのだが――。

 アルフレッドは、静かに口角を上げた。

 

「お前さんたち、一緒にガンランスを持ってくれないか」

「え?」

 

 そう言いながら、彼は懐から、あまりにも太い砲弾を取り出した。

 返事も待たずに、装填。そして空圧レバーに手を掛け、砲身の内部を循環させる。砲弾に込められた『滅龍炭』に、火が付いた。

 火薬庫が開発している、特殊な竜撃砲。

 その、試作型二号弾。

 完成したわけではない。しかし前回よりも精度を上げてきた逸品だ。

 そして、それを放つためのガンランス。

 斬竜、ディノバルドは、火に非常に強い性質を持つ。その甲殻に、先日発注したアグナコトルの素材をコーティングした、今回の獲物――大斬銃槍ブルアノヴァ。覇山竜撃砲に耐えうる、強靭な砲身を有していた。

 ――いわばこれらは、アルフレッドチームの、もう一つの決め手。砲身が、怒れる斬竜の如く、赤熱化する。

 

「こいつは覇山竜撃弾、あの巨龍砲を模した弾だ。これなら、きっとあの粉塵爆発を撃ち返せる。でも、反動があまりにも大きい。だから、一緒に柄を持ってほしい」

「巨龍……え?」

「巨龍砲って、ティガレックスの時に撃ったあれですの!?」

「それとおっさん、隣で盾を構えてくれないか。防ぎきれるとも、限らないし、そもそもこいつの火力が高すぎて俺たちが燃えるかもしれない」

「……承知」

 

 その誘いに、セバスチャンはすぐに応じた。

 銃槍の横に並び立ち、盾を構える。

 

「さぁ来るぞ! セレス! ウルティナ! 早く!」

 

 同様に盾を構え、さらに圧をかけるアルフレッド。

 目の前には、集めきった鱗粉をまさに解き放たんとするゴア•マガラ。

 少女二人に、選択の余地はなかった。

 

「わ、わかった!」

「ああもう! なるようになれ! ですわ!」

 

 アルフレッドは、盾を構え、引き金に指を掛ける。

 セバスチャンは、彼の横をカバーするように盾を持つ腕に力を入れて、衝撃に備えた。

 そしてセレスとウルティナは、ガンランスの長い柄を握り締め、大男と共に銃槍を構えるのだった。

 

「来る――」

 

 青黒かったそれが、赤白く変色する。

 その様に、思わず目を奪われるセレス。

 その瞬間に、アルフレッドは引き金を引いた。

 

「いっけぇッッ!!」

 

 一瞬の凝縮。

 青白い光の玉が、ガンランスの穂先で小さく萎んだ。

 それが萎みきり、とうとう尽き果てる――そう思った瞬間に、一瞬で膨張した。

 

「うっ……!」

「きゃあ!」

 

 光の玉は、巨大な火球へ。

 地獄のような劫火は、連続で爆発し続ける火炎の塊へと昇華した。

 そしてそれは、炸裂する粉塵などまるで無かったかのように全てを飲み込み、ただ膨大な熱と光を撒き散らす。

 光と熱が迸り、遺跡平原を、二つ目の太陽として照らすのだった。そしてその炎はさらに膨張し、粉塵を放つゴア•マガラをも飲み込む。

 あの黒く巨大な影を、容易く覆い尽くし、光と影の境界線を焼き溶かしていく――。

 

 太陽が、沈んだ。

 焼き焦げた平原と、ボロボロになった盾。

 その向こうで、頭を失い、神経が焼き焦げた黒蝕竜の亡骸が、静かに事切れるのだった。

 

 

 

「……めちゃくちゃ、ですわ」

「びっくりした……目、目が……チカチカする」

「驚きですな……。まさに、あの巨龍砲の炸裂が目の前で起こったような」

「……ブルアノヴァ、すげぇぜ。砲身が保ってやがる!」

 

 未だ健在のまま、硝煙を溢す銃槍。

 盾は高熱のあまり黒く焦げているものの、四人のハンターは無事だった。

 黒蝕竜の渾身の一撃を掻き消し、彼らは勝利を掴んだのだ。

 

「……ま、まぁ、何にせよ私たちの勝利ですわ! 生き残りましたわー!」

「安心です。お嬢様が無事で何より」

「アルフ、やったね! あの竜撃砲、すごいよ!」

「だな。流石火薬庫の爺さんだ」

 

 アルフレッドは、ガンランスを高く、高く掲げる。

 勝利宣言の如きその振る舞いに、大斬銃槍ブルアノヴァは太陽の光を存分に浴び、遺跡平原を静かに照らすのだった。

 

「ありがとよ、ブルアノヴァ。お前さんのおかげだぜ」

 

 穂先の刃が、ゴア•マガラを映す。

 まさに、生態系の勝者。

 堂々たる砲身が、この狩場を支配したことを証明するのだった。

 

 

 

 

 

 ――黒蝕竜ゴア•マガラ及び狂竜症個体同時討伐作戦。

 遺跡平原でのゴア•マガラ及び狂竜症感染個体を、少数精鋭の上位ハンターで討伐する作戦である。

 本作戦の核であるアルフレッドチームは、見事ゴア•マガラを討伐することに成功した。

 また、他のエリアにおいても、感染個体を無事仕留め、以後新たな感染個体は確認されてないという。

 これにて、本作戦は終了し、バルバレ地域の生態系は守られたのだった。

 

 本作戦を指揮した元•筆頭リーダーの男は、報告書を見ながら呟いた。

 

「ガンランス使いか、珍しいな……。ここまでの使い手だとは。それも、仲間に恵まれているという点も極めて異例だ」

 

 参加したハンターの、ギルドカードの写しに手を伸ばす。

 当該の者のそれを手に取り、静かに笑うのだった。

 

「アルフレッド、か。なかなか、面白いハンターだ」

 

 武器使用履歴のほとんどが、ガンランス。

 生粋の銃槍使いに、形容し難い興味を抱きながら。

 




ゴア•マガラ戦でした。
MH4が懐かしい。あの頃はすごく強く感じました。特に形態変化してからは動きが分からず、苦戦したことが記憶に新しいです。サンブレイクでも復活してくれて嬉しいですね。やっぱり良いモンスターだと思います。でも今となっては、傀異レベル上げで混沌ゴアを狩りまくっているというね…人は変わるものです。
それはそうと、覇山竜撃砲がとどめを決める回となりました。より強力な竜撃砲としての描写にこだわりました。始めは戦闘街の巨龍砲から始まり、ダイミョウザザミでの試運転を経て、今回決め手となる。これを書きたいがための第三章です。XXではしっかり強化されているので、たまには使ってあげたいですね。宝纏主任ガンスはまさにこれのためにあるようなもの。あらゆる敵を焼き尽くしましょう!
次回からは、第四章です。
次章も読んでいただければ嬉しく思います。
感想や評価、お待ちしております。
ちなみに私の推しガンスの一つにブルアノヴァが挙げられます。デザインが良すぎる!アイスボーンに参戦できなかったことが悔やまれる…。
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