ラストリロード   作:しばじゃが

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火の国に訪れた危機(前編)

 火山特有の地響き、そして轟音が響く。

 それは遠くのようで、しかしバルバレやドンドルマと比べれば、確実に近い。

 ここは火の国。

 火山の側に建ち、火山の恵みを十分に享受し、そして火山特有の危険に脅かされる、稀に見る前途多難な国だ。

 

「――わ、何これ。火薬草?」

「観葉植物か……? それとも食用?」

 

 石造りの建物に、赤い屋根が続く。

 そんな街並みが広がるこの火の国の大通りを歩く、二人のハンター。アルフレッドと、セレス。

 褐色の少女が気づいたそれは、緑色で平たい、火山などでよく見られる火薬草だ。サボテン状の体から、赤い花が静かに顔を出していた。

 それが鉢植えに入って、所狭しと並べられている。

 火薬草専門の露店、といった風貌だ。

 火薬草だけではない。燃石炭やズワロポスの油の入ったタル、ドラグライト鉱石の山など、火山由来の商品が並んだ露天市が、二人の目の前に広がっていた。

 

「わぁぁ、火山の街ってどんなとこだろうって思ってたけど、何だか賑わってるね」

「そうだな。火山の資源は貴重だからな。有用で、供給量も足りない。この国が潰れない所以だな」

 

 火山というのは危険地帯であるがゆえに、多くの資源が手付かずで残っている。それは人の手はもちろん、モンスターの手からも。

 そして、棲まうモンスターも危険度が高く、同時に価値が非常に高い。保有資源だけを見れば、火の国は有数の豊穣な国だろう。保有資源だけ、を見れば。

 

「潰れない、か……。何だか、イメージがね」

「そうだな。この国は正直、イメージがちょっと、な」

 

 火の国と聞けば、多くのハンターは苦い顔をするだろう。

 何故なら、クエストの依頼者の常連であるからだ。

 その立地上、危険なモンスターの影響を受けやすいこの国は、強靭なモンスターの狩猟依頼をギルドに出すことが多い。そして、そのクエスト難度も相まって、多くのハンターは火の国という言葉に苦手意識を持っているり

 そして、この国の、とある風習が、それに拍車を掛けている――。

 

「お二人とも、こちらです」

 

 アルフレッドとセレスを案内する、ラングロトラの鎧を纏ったハンター。

 この火の国の住人であり、二人に依頼を募った人物である。面のような防具を取れば、まだ年若い少年であった。

 

「行くか。生憎、観光に来たわけじゃないしな」

「う、うん」

 

 激しい音と地響きとともに、火山が唸り声を上げる。

 通りの奥へと足を踏み入れながら、アルフレッドは「荒れそうだ」と呟いた。

 

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 

「これ美味いな」

「ね! 美味しいでしょ!」

 

 タンジアの港。

 その屋外テーブルで食事をする男女。

 アルフレッドとセレス。

 火の国に旅立つ、数日前のこと。

 

 セレスの誘いでオープンテラスに訪れたアルフレッドは、彼女の勧める、茶葉を使った飲み物に舌鼓を打っていた。

 深緑に染まるそれは、砂糖の甘みと十分に溶け合って、苦味と渋みをまろやかにしていた。タンジア•グリーン•ラテと呼ばれる人気商品だ。

 セレスが飲むものは薄茶色に染まっているが、茶葉独特の喉を透き通すような深みが特徴的だ。こちらの名前はシンプルに、タンジア•ラテである。

 

「……平和だな」

「平和だね」

 

 賑わう市場の声が、雑踏に混じり、何とも言えない日常感を漂わせる。

 波の音が、海鳥の音が、柔らかく鼓膜をくすぐる。

 空は青く、灯台は静かな揺らめきを保っていた。

 タンジアの港は、今日も平和そのものだった。

 

「ここもいい稼ぎになるね。二人で山分けしても、十分な量だし!」

「しばらく四人で山分けすることが多かったからな……単純計算で、二倍の純利益だ。助かるぜ」

 

 そう言いながら、アルフレッドは黒い銃身を撫でた。

 新銃槍の、無視できない弾薬費。

 やや遠い目で、海の彼方を見る。

 

「あのモンスター、すごかったね! ドボル……ベルク? 尻尾を振り回して空を飛ぶのにはびっくりした!」

「でかい分、セレスのいい的になってたな。思わず同情したよ」

 

 先日二人で狩猟したそれを最後に、狩りはしていない。

 十分な報酬を得て、しばらくは港で休息をしていた。まさに、その最中なのである。

 

「おっさんとウルティナがいない分、報酬は二人で山分けできるし悪くないな。それにしてもあの二人、どこに旅立ったんだ? ここんとこ見てないし」

「あれ? 聞いてないの? なんでも、カムラの里に向かったみたいだよ」

「カムラ? 何でまた……」

 

 カムラの里。

 ユクモ地方の山岳を越えた、山深い隠れ里。たたら製鉄が有名で様々な武器を作る一方、モンスターが押し寄せる厄災に悩まされている。そのため、戦力となるハンターを募集したり、里の住人たちがハンターのように修行を積んだりしているという。

 

「お姉さんらしき人の目撃情報があったんだって。確かめに行くって言ってたよ」

「そうなのか……。見つかるといいな」

 

 ウルティナは、自らの家系の長女を探している。

 家督の証をうっかり持ったまま、ハンターとして家を飛び出した彼女を探すため、セバスチャンを連れてカムラの里へ向かったという。

 その事実を今知ったアルフレッドは、驚きつつも納得する。初めて彼女らに声を掛けられたのも、姉探しの一環だったことを、思い出しながら。

 

「カムラといえば、武器の発展が顕著でな。ガンランスも、バルバレやドンドルマのとは少し違うんだよ」

「そうなの?」

「シリンダーがさらに拡張されて、装填数が多いんだ。凄い技術だよ」

「そうなんだ……。すごいところなんだね」

「それでも残念ながら、拡散型のシリンダーは拡張できなかったようだが。惜しいな。まぁ、武器開発には金が掛かるし、難しいんだろうな」

 

 金が掛かる。

 膨らみつつある自身の弾薬費にも悩まされているアルフレッドは、どこか共感めいた声でそう呟いた。

 同時に、「そうそう」と話題を切り替える。

 金といえば。思い出したかのように、セレスに問い掛けるのだった。

 

「仕送りの方は、どうだ? ここ最近山分けが多くて、足りてないかが気になってさ」

「四人でやる分、純粋に報酬金の多い依頼が多かったから、大丈夫だよ。そろそろ村に行こうかなぁ」

「定期的に村に帰ってるのか?」

「うん! お金持って行きたいし、父さんや弟たちの顔も見たいしね」

「兄弟たくさんいるんだったな。どうやって村まで行ってるんだ?」

「交易路になってて、竜車が走ってるんだ。街の食糧を運んだり、村からの資源を運んだりするの。それにいつも乗せてもらってるんだ。護衛報酬も貰えるから、お得だよ」

「抜け目ないな」

 

 故郷を思い出しているのか、優しい表情で笑うセレス。

 潮風に、彼女の月色の髪が(なび)くその姿に、アルフレッドもまた、静かに微笑んだ。

 そんな時、港奥――ハンターズギルドが、慌ただしく賑わい始める。

 

「緊急クエスト! 緊急クエストの登録を!」

 

 ラングロトラの防具に身を包む少年が、カウンターに身を乗り出すように、ギルドマスターに何かを懇願している。

 その様子に、何だ何だとハンターたちが集まってきた。

 

「火の国! 火の国です、モンスターが、強いモンスターが!」

「火の国じゃと? またもやか……」

「現地のハンターでの対処の方は?」

「無理ですよ! 見てくださいこの装備。我々の限界はまだこのレベルです! でも現れたのは……!」

 

 ギルドガールの問いを全否定する彼は、状況証拠として二つのビンを取り出す。

 そこには、緑色の粉末状になった菌糸と、赤黒い光を放つ蝕龍蟲が詰められていた。

 

「……砕竜と、獄狼竜か。これは由々しき事態じゃ。奴らは、国の近くに?」

「徐々に火山の奥地から、麓の国の方へと近づいています。このままじゃ時間の問題です。国の老人たちは、また悪い癖を始めました。何とかして、止めなければ!」

「二頭はどんな感じじゃ?」

「縄張りを争っています。定期的に鉢合わせては激闘を繰り広げて……でも、二頭とも尋常じゃないほどに強くて、勝負もつかず、その分被害がより大きく……」

「縄張り争いか。ちと厄介じゃな」

「なぜ、なぜあのような強力なモンスターが我々の国の側まで来たのでしょうか。どうして、こんなことに!」

「火山の影響か、餌がなくなったか。それとも、何かに追われたからか。とにかく、状況は分かった。これは緊急クエスト発令じゃ! 銅鑼を!」

「はい!」

 

 ギルドマスターの声に、もう一人のギルドガールが、イカリのようなハンマーを掲げた。

 大きく振りかぶり、大銅鑼を叩く。青く澄んだ空に、銅鑼の多重音が響き渡る。

 

「……緊急クエスト、だって」

「へえ。何だろうな」

 

 その穏やかではない状況を見て、アルフレッドとセレスも吸い寄せられるように近づいていく。

 他のハンターも同様に、何事かと集まっていた。港のギルドカウンターは多くのハンターでごった返しの状態だ。

 誰も彼も、険しい顔をしているが――それを前にしたギルドマスターは、より険しい顔で大声を上げた。

 

「緊急クエストじゃ! これより、ブラキディオスとジンオウガ亜種の同時狩猟を発令する! 場所は火山、これは火の国の危機じゃ!」

「ブラキディオスと……ジンオウガの、亜種!?」

「おいおい、冗談じゃないぜ! 単体でもキツイのに、同時に!?」

「何かの間違いじゃないのか!?」

 

 周囲のハンターたちはその言葉に疑念を漏らすものの、マスターがカウンターに置いた二つのビンが、彼らを黙らすのだった。

 

「証拠はこの通りじゃ。知っての通り、火の国はその地理上、モンスターの被害に遭いやすい。が、今回ばかりはこれまでと段違いの危険度じゃ。これはG級相当のクエストとなるだろう……」

「誰か、誰かいらっしゃいませんか! このままじゃ俺の国は、姉は……!」

「いや、しかし……」

「これはとても……」

 

 砕竜、ブラキディオス。爆発する粘菌と共生し、あらゆるものを爆砕する脅威の獣竜種だ。

 そして獄狼竜、ジンオウガ亜種。あの無双の狩人の亜種にして、赤い龍雷を身に纏うという異色のモンスターである。

 どちらも指折りの危険度を誇り、生半可な装備のハンターなど、簡単に消し炭にしてしまうだろう。その事実を前に、多くのハンターは怯んでいた。

 ただ二人。ジョッキに注がれた茶葉飲料を飲み干す二人だけを除いては。

 

「――行くか、セレス」

「うん。行こう!」

 

 ベリオZシリーズを纏う銃槍使いと、スパイオSシリーズで身を包んだガンナー。

 二人が前へ、ギルドマスターの前へと歩み出た。

 

「やろう。任せてくれ」

「力になります!」

 

 二人の武器は、大型モンスターを狩猟した何よりの証。

 そう簡単には受注されないと、半ば諦めていたラングロ装備のその男は、縋るような顔で、頭を下げるのだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 時は戻り、火の国。

 依頼者の彼に導かれるまま、王宮前の広場まで、アルフレッドとセレスは歩いていた。

 その広場は、まるで祭りのように、それでいて厳かに、多くの人が列を成している。

 中央の、燃え盛る巨大な燭台。その炎の前に、白装束の女性を立たせながら。

 

「……何事だ?」

「この国の、悪しき風習です」

 

 司祭らしき人物が、杖を振るって何やら火に語りかけている。

 その声に合わせ人々は地に伏せ、額を石畳に擦り付けながら、念仏のような声を絞り出している。

 白装束の彼女は、陰鬱な表情でその群衆を見ていた。

 その瞳は、まるで世界を呪うような、そんな暗い色を帯びていた。

 

「……人身御供」

 

 セレスが、消え入りそうな声でそう呟いた。

 

「ああ……生贄って奴か。山を鎮めるための」

「はい。この国の老人たちは、こうした事態を山の怒りと信じています。生贄を捧げれば、こうした危機を遠ざけてくれると」

 

 必死に念仏を唱えながら、燃え盛る炎に平伏すその姿。

 この国特有の宗教観だった。アルフレッドとセレスには、異様な光景として映るのだった。

 

「お願いです。この儀式が終わる前に、砕竜と獄狼竜を討ち倒してくださいませんか。そうしないと、姉が……」

「……あの人、お前さんの姉なのか!」

 

 白装束は、神の所有物になるという証。

 よく見れば、ラングロ装備の彼と生贄の彼女の顔は、若干ではあるが似ている。

 彼があそこまで狼狽えながらタンジアギルドに駆け込んでいた理由を、二人はようやく理解するのだった。

 

「幸い、女王はこの風習をよく思ってません。今回のクエストにも、報酬金の支援をしてくださってます。でも、司祭や老人たちは……」

「そうか。女王はお前さんたちの肩を持ってくれてるんだな」

「本当は、俺たち……この国のハンターが強ければいいんですけど、この体たらくで。ラングロトラで、やっとなんです」

「今回の二頭は、あまりにも強すぎる。こればっかりは仕方がないさ。こういうのは、渡りの専門家に任せればいい」

 

 そう言いながら、アルフレッドは少年の頭を撫でた。

 根を詰めているを彼を、少しでも緩まそうと。

 大男の思わぬ気遣いに、少年は少し笑い、しかし表情を作り直す。

 

「この祭壇の奥には、神に贈るための籠があります。姉はそれに乗せられ、火口まで運ばれるのです。そして、生きたまま火口に投げ入れられる――タイムリミットは、四日……いや、三日でしょう」

「火山はここから近い。何とかする」

「お願いします。姉が生贄に捧げられるなんて、そんなことは絶対にさせたくない」

「うん……絶対に止めよう。あたしたちが、そうはさせないよ!」

「ああ。全くだ」

 

 セレスの声にアルフレッドは頷き、大きく息を吸い始めた。

 それは、大声を出す合図。

 何をするのかと、セレスは冷や汗をかく。

 

「――聞こえるか老人共ォッッ!! こんな意味のない儀式に時間や資源を使いやがって! 神の怒りだぁ? 馬鹿馬鹿しい! これは単なる生態現象だ! モンスターの生息域の拡大に巻き込まれてるだけだバーカ!!」

 

 大男の、猿叫の如き大声。

 厳かな儀式が掻き乱され、ところどころから漏れていた念仏が一斉に止んだ。

 その張り詰めた雰囲気に、流石のセレスも青ざめる。

 

「何じゃ……何じゃお前たちは! 何者だ!」

 

 信者の一人が、そう声を荒立てて――。

 アルフレッドは踵を返し、その背に背負う槍と盾を、見せつけるのだった。

 

「俺たちはハンターだ。モンスターによる被害は、俺たち専門家に任せな。お前さんたちは儀式なんか止めて、宴会の準備でもしといてくれよな」

 

 返事も待たずに、彼は歩き出す。

 火山へ。渦中の魔窟へと。

 儀式に横槍を入れられた老人たちは、言葉にならぬ罵詈雑言を上げ始めた。

 背後から響くその声に、セレスと少年は慌てるものの、アルフレッドは動じることなく歩みを止めなかった。

 

「ちょ、ちょっとアルフ! あんなこと言ったら、こうなるに決まってるじゃん……!」

「あー、言ってやったぜ」

「……で、でも、ちょっとスカッとしました……」

 

 青ざめるセレスとは対照的に、少年は少し興奮気味にそう笑う。

 その顔に、アルフレッドもまた、力強い笑顔で答えるのだった。

 

「あとは、有言実行するだけだ。行こう。セレス」

「も、もうどうにでもなれ! 行こう!」

 

 怒りの如く炎を吹き出す、神の山へ。

 二人のハンターは、その領域へと、足を踏み入れる。

 否、神などいない。

 そこにいるのは、ただ強靭な生き物だ。

 アルフレッドは、歯応えのある狩りになりそうだと、静かに笑みを浮かべるのだった。

 




火の国に訪れた危機!
どんだけ危機に陥ってんだあの国。
4Gの頃のキークエストが懐かしいですね。あの二体がかなり強烈な関門となっていた気がします。その時の記憶を呼び起こしながら、あの難関クエストを描写していきたいと思います。次回、後編です。新キャラ登場の予定です。
火の国についての描写は、公式のビジュアルがほとんどないため想像で書いてます。イメージとしてはポンペイが近いですね。火山によって暗雲に包まれる街ということで、どことない共通点を感じました。モンハン大辞典などで見てもらえたら分かりますが、ここは生贄文化の国なんですよね。そこに切り込むアルフレッドを書きたかった。まる!
それでは、次回の更新で。次回はブラキディオスとジンオウガ亜種の狩猟です。
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