ラストリロード   作:しばじゃが

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火の国に訪れた危機(後編)

 火山のキャンプには、少ない支給品が顔を覗かせていた。

 火の国の経済事情を知れる、少ない機会である。

 いや、経済事情ではなく、ハンター制度そのものへの理解の低さかもしれない。

 

「……応急薬、か。グレートですらない」

「数も少ないね。あたしたち二人分なら、何とか……」

「でもあの少年、言ってたよな」

 

 ――お二人の腕を疑ってるわけではありませんが、タンジアに依頼書は貼らせていただいたままにしています。少しでも、可能性を上げたくて。できればあと二人、ハンターが集まってくれたらいいんですけど。

 

 申し訳なさそうにそう語る姿が、アルフレッドの瞼の裏に浮かび上がる。

 彼が言うことから察するに、四人のハンターが訪れることを理想としているのだろう。しかしこの支給品は、とてもじゃないが足りていない。

 そう感じながら、大男は溜息を吐く。

 それを代弁するように、セレスが口を開いた。

 

「……国があんな感じじゃ、予算がつきにくいのかも。世知辛いね」

「追加の支給品が届いてないかと、少し期待してたんだけどな」

「アルフがあんな風に啖呵切ったからじゃない? もしかして」

「だとしたら陰湿なジジイどもだよ、全く」

 

 吐き捨てるように言いながら、アルフレッドは地図を広げる。

 火山の麓、小規模の原生林に建てられたこのキャンプは、火の国からもさほど遠くない。静かで、穏やかな空間だ。轟く山にさえ、目を瞑れば。

 ただ、原生林といえど、火山の麓。その熱気は、火山と大して変わらない。

 

「……それにしても、暑いよね。たくさん火山の中歩いたから、余計に。もっとキャンプは涼しいと思ったんだけどなー」

「まぁちょっと休憩しようぜ。あらかた奴らの寝床や、徘徊ルートは分かったし」

 

 広げた地図には、二人が下調べしたメモが刻まれている。

 砕竜ブラキディオスの生息域。狩場から、寝床の目処。

 一方、獄狼竜の徘徊ルートは、砕竜の生息域に入ったり出たりと、様子を伺っているようでもあった。

 それらを地図に書き込むと、待ち伏せるべきポイントが自ずと浮かび上がってくる。

 

「ブラキディオスは、溶岩の大河があるところで迎え撃とう。そこで傷を負わせ、一旦退避する。そうすると怒った奴は俺たちを追ってくるから――」

「ジンオウガ亜種の徘徊ルートへ、誘導するんだね」

「おう。二頭にはお互いの体力を削り合ってもらおう。で、勝ち残った方へ不意打ちをする」

「負けた方は、寝ぐらで休むところを仕掛ける……そんな感じかな?」

「うん、いいんじゃないか? それで行こう。タル爆弾はあるか?」

「うん。大タル爆弾Gがあるよ! それに、下調べしながら採取もできたから、弾薬もたっぷり作れるし!」

 

 そう言いながら、セレスは風呂敷を広げる。

 すり鉢と乳棒を並べ、火薬草やカラの実など、弾薬の調合を始めるのだった。

 

「……それにしても、アルフはあんまり汗かいてないね」

「そうか?」

「火山の暑さに、あたしは参ってるのに……なんかずるい」

「そんなこと言われてもな。ほら、クーラードリンク」

「わぁ、ありがとう!」

 

 小さな手で受け取って、こくこくと、喉を小さく鳴らす相棒。飲みきって、景気の良い吐息を上げるのだった。

 

「砂漠育ちでも、この暑さは苦手なんだな」

「暑さは暑さでも、ここのはもはや熱いの方だよ。アルフは、なんでそんなに平気そうなの?」

「まぁ、生まれが火山地帯に近かったからなぁ」

「え?」

 

 思いがけない彼の言葉に、セレスは小さく首を傾げる。

 

「実家は炭鉱を営んでてな。火山が近いこともあって、そこそこ売れてる炭鉱だったんだよ。俺も手伝ってたし、それで体が慣れたのかな」

「そうだったんだ……」

 

 意外な生い立ちを聞き、セレスは目を輝かせた。

 

「ね、もっと聞きたい。アルフの小さい時って、どんなの?」

「そうだな。そん時は――」

 

 なんて、語り始めるその時に。

 翼竜の鳴き声と共に、一人の男が舞い降りた。

 白い外殻――ラギアZシリーズの鎧を着込み、身の丈を超える刀を背負うその姿。

 明らかに、ハンターだ。少年が言っていた、クエストボードに貼り続けた依頼書。それを見て参入した、増援だろう。

 

「……ありゃ? まだキャンプにいてらぁ……アンタ方、先に受注したっていう二人組だろ?」

「そういうお前さんは、増援か?」

 

 浅黒い髪を真ん中分けにし、無造作に伸ばしたその男。無精髭を称えた顎を撫でながら、小さく笑う。

 年齢は、アルフレッドより上だろう。どこか飄々とした、掴みどころのない男だった。

 ――その顔の左半分を、火傷が覆う。

 特徴的なそれを全く感じさせないほど、気さくな様子で名乗り始める。

 

「オレはレクスっつーもんだ。よろしくな、お若い二人」

「……アルフレッドだ」

「せ、セレスです。よろしくお願いします……!」

 

 クーラードリンクを二本取り出しながら、名乗るアルフレッドと、調合の手を止めてお辞儀するセレス。

 思わぬ増援だった。正直、港の様子を見ていた二人は、増援が来ることを想定もしていなかっただろう。

 しかし今、レクスと名乗る男が来た。

 思いがけない、三人パーティーとなったのだ。

 

「……もしかして、まだ何も狩ってない感じ?」

「まぁな。生息域の下調べをし終えたところだ。ほら」

 

 右手のクーラードリンクを投げ渡しながら、アルフレッドは地図を見せる。

 レクスはそれを受け取って流し込みつつ、その地図を覗き込んだ。

 

「へー、ほーん……字、汚いねぇ」

「ほっとけよ」

「……よし、じゃあオレ、ジンオウガ亜種狩るわ〜」

「え?」

「見たところ、アンタたちは二人組だろ? いきなり組んでもお互いやりづらいっしょ? 二手に分かれてスピード対応って感じでやっちゃおうぜ」

「ま、待ってください! いきなりそんな!」

 

 セレスは止めるものの、レクスと名乗るこの男は、聞く耳も持たず猟区へと足を踏み入れる。

 ただ、ただ一瞬だけ。

 アルフレッドの背負う銃槍を、見る。

 二人には聞こえないほど、本当に小さな音で舌打ちをしながら。レクスは、原生林の中へと消えた。

 よく分からない奴が来た。それが、彼に対する二人が抱いた印象だった。

 

「……行っちゃった」

「なんだ、あれ」

「どうしよう、アルフ」

「まぁ、向こうが向こうのペースでやるなら、俺たちもそうさせてもらおうぜ。セレスも、まだ弾薬調合したいだろ?」

「う、うん……」

 

 その場で居合わせた人間が、そう簡単に協働できるわけではない。

 アルフレッドはさして深く考えることもなく、その事実を再認識する。

 そして二人はゆっくり準備を進め、消去法のように、ブラキディオスが潜む溶岩の大河を目指すのだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「オオオオオォォォッッ!!」

 

 野太い声と共に、砲身が――いや、極太の刀身が叩き付けられる。

 それが砕竜、ブラキディオスの丸い拳を叩き割った。薪割りの薪のように音を立てて割れ、隠れた爪が(あらわ)になる。

 砕竜は悲鳴を上げるものの、負けじとその頭を叩きつけた。

 まるで砲弾がそのまま巨大化したかのような、丸みを帯びた頭部が、勢いよく地盤を砕く。

 同時に、その頭にまとわりついた緑色の何かを、地面へと塗りたくるのだった。

 

「アルフ! 粘菌の塊だよ! 離れて!」

「分かった!」

 

 追撃の手を緩め、背後へ跳ぶ。

 一回跳ぶ程度では、広がる粘菌に追いつかれる。

 二回、三回と連続してバックステップすることで、ようやくその炸裂を躱すことができたのだった。

 彼の隙を埋めるように、セレスは引き金を引く。頭を打ちつけて、視界を自ら塞いでいた砕竜の、その黒曜石の如き甲殻を――鋭き狙撃で撃ち抜くのだ。

 弾道、炸裂。

 あまりの衝撃に、ブラキディオスは転倒する。

 ――そのはずが。

 

「……なっ!」

 

 引いた足で、押し留まった。

 倒れることを無理やり防ぎ、体勢を立て直す。

 どころか、興奮のあまり息を荒く立て、その熱気を浴びてか、体中の粘菌が活性化し始めた。

 藍色の甲殻が、緑色の模様へと変わっていく――。

 

「咆哮……ッ!」

 

 素早く、盾を構えるアルフレッド。

 怒りのあまり大声を上げる砕竜との間に、滑り込ませるように向けたその盾が、強烈な音圧を吸収する。

 それでも防ぎきれず、彼の体を少しだけ後ろに弾くのだった。

 

「砲弾を何発も浴びて、狙撃竜弾も受けてるっつーのに、なんてタフさだよ!」

 

 間髪入れず、拳を振り上げる。

 何度もやってきた、ジャストガード。その滑らかな拳を弾こうと、アルフレッドは右手に力を入れるものの――。

 その拳が、より緑に、いやもはや炸裂しそうなほど橙色に染まっていることに気づく。

 

「まずいか……ッ!?」

 

 彼は、弾くはずの腕を引き、全身を使って盾に力を込めるのだった。

 

「ぬがっ!!」

 

 殴打による衝撃。

 続け様に、爆発が襲う。

 盾との激突が引き金となり、腕が即座に炸裂したのだ。

 粘菌は、地熱をじっくり浴びて、時間をかけて破裂する。そんな認識を覆す、即爆発を伴う殴打。常識外の攻撃に、アルフレッドは冷や汗を垂らす。

 もし盾を振り払っていたらどうなっていたか――。

 その先を、彼は考えることをやめた。

 

「アルフ! また来るよ!」

「くそ! そうゆっくりはさせてくれねぇか!」

 

 二度、三度と振り下ろされる拳。

 割られたことを気にもとめず、ただアルフレッドを叩き伏せんと殴打を繰り返す。

 その度に拳は炸裂し、小石を散弾のように撒き散らすのだった。

 

「くっそ!」

 

 背後に跳んで、跳んで、それを躱して――。

 彼の背中に張り付く、何か。

 否、岩だ。巨岩が行き止まりのように、彼の背後に立ち塞がった。

 

「アルフ!」

「うおぉ……っ!」

 

 渾身の勢いで、その頭を振り下ろす。

 砕竜の、とどめと言わんばかりのその一撃。

 アルフレッドは、前に出た。

 

「あぶねぇ!」

 

 背後から響く、炸裂音を感じながらのスライディング。

 股下をくぐり抜けるように背後を取り、振り返って砲身を叩き付けるのだ。

 

「吹っ飛びな!」

 

 頭を埋め、隙を晒す竜の臀部へと。

 引き金を連続で引き、シリンダーを猛回転させる。

 ニ門の砲身。計十二発の砲弾が、一瞬の内に放たれた。

 暴君の名を冠するそれの、破壊的一撃。

 ガンランスの大技、フルバーストだ。

 

 ブラキディオスは、粘菌と共に育ち、寝食を共にする生態を持つ。爆破を用いて狩りをするため、その性質を十分に把握し、そしてそれに耐えうる甲殻を持っている。

 しかし、流石の彼も、一点集中の連射には堪えたようだった。

 

「すごい! 転んだよ!」

「畳みかけるぞ!」

 

 巨体が横転する。

 顕になったその腹を、セレスは貫通弾で荒く削った。

 一方のアルフレッドは、フルバーストの反動から何とか復帰し、無防備な竜へと追い迫る。

 

 ――ああ、そうそう。一つ、注意点があってな。

 

 脳裏によぎる、火薬庫の言葉。

 

 ――こいつはフルバーストが特に強力じゃ。単純に、そこらのガンランスの倍近い破壊力を誇るじゃろう。しかしな、装弾数が倍ということは、当然リロードの手間も倍ということになる。

 

 ガンランスの重さを用いて、その重心に誘われるように走るアルフレッド。

 走りながら、シリンダー後方部にあるストッパーを外すのだ。

 

 ――つまり、クイックリロードとの相性はいまいちじゃ。予備弾倉から装填はされるが、ちと時間が掛かる。短い隙を狙いたい、しかし弾がない、リロードする時間もない……そんな時が、きっとあるじゃろう。

 

 スイングアウト式と呼ばれる機構。

 シリンダーが横に外れ、十二発の空薬莢を吐き出した。

 

 ――そんな時は、これを使え。外付けスピードローダーじゃ。これを、シリンダーにピッタリと嵌め込むんじゃ。練習はいるじゃろうが、使いこなせば、すぐに再装填できるぞ! もちろん、回数は限られるがな……。

 

 右手の盾は、並のガンランスより大きく、そして厚い。

 なぜならここに、外付けスピードローダーが備えられているのだから。

 シリンダーと同規格のそれを、アルフレッドは取り出した。

 走りながら、器用にシリンダーへと嵌め込む。

 スピードローダーに付けられた十二個の突起は、全て砲弾である。空になったシリンダーに嵌め込まれ、その空虚を埋めるのだった。

 

「よっしゃあ!」

 

 手首のスナップでシリンダーを戻し、ガンランスを大きく薙ぎ払う。

 小気味良い音を立てながら戻るそれは、そこに込められた砲弾を、再び激しく解き放った。

 横一文字に薙ぐそれに、合わせるように放たれる砲弾。薙ぎ払いフルバーストと呼ぶべきか、連撃砲とでも言うべきか。

 焼いて斬るその一撃に、ブラキディオスが野太い悲鳴を上げる。

 

「まだまだァ!」

 

 振り切った銃槍を大きく旋回させ、一閃。鋭い刺突を放つ。同時に、空圧レバーへと手を掛けた。

 二門の砲口の間から放たれるは、鋭く重い竜杭弾。

 射出と同時に三叉に分かれるそれは、激しく旋回して鱗を引き裂きながら、藍色の血肉を弾き飛ばした。

 

「……起き上がるよ!」

「おう!」

 

 完全に撃ち尽くした砲身を振り払い、背後へ跳ぶアルフレッド。

 ブラキディオスは、尾を振り回しながら起き上がる。近づけば巻き込まれかねないため、彼はその時間を装填に費やした。

 スピードローダーは使い果たした。そのため、今は一発ずつ、手作業で丁寧に装填する。スイングアウト式は、中折れ式に比べて、手作業の装填はしやすい特徴がある。

 とはいえ、それを終えるより先に、ブラキディオスは動き出す。

 アルフレッドは、仕方なくその手を止めて武器を構え直した。

 

「ちっ……まぁいい! 来いよブラキディオス……って、あ?」

 

 踏み切った足。

 巨体が勢いを付けて、その頭を地面へと叩き付ける。

 いや、もはやそれは埋めるかのようだ。埋めるように大地を掘削し、緑――いや、橙色の光を一直線に伸ばす。

 

「な――」

 

 その光の広がりは、とても走って避けれる速さではなかった。瞬く間にアルフレッドを包み込み、その全身を覆い尽くす。

 直後、炸裂した。

 真っ直ぐ、地面を切り裂くように。その軌道にいたもの全てを、塵へと変える。

 

「アルフーっ!!」

 

 相棒の姿が、爆炎に消えた。

 セレスは大声を上げるものの、それを掻き消すかのように、両腕を舐める音が響く。

 ブラキディオスが十分にその(よだれ)を塗りたくり――そして、跳んだ。

 

「ひゃっ……!」

 

 跳躍と共に、その全身を叩き付ける。

 セレスは銃を抱えながら、慌てて駆け出した。

 横や後ろに走っていたら、爆風に巻き込まれていただろう。しかし彼女は、前へと駆けた。その足元をくぐり抜けるように避け、着地と同時に爆発する砕竜の背後を陣取った。

 

「くぅ……アルフの仇!」

 

 氷結貫通弾。

 彼女の奥の手にして、ブラキディオスのための決戦兵器。冷気を閉じ込めた貫通弾を斉射する。

 引き金を引く速度は徐々に、徐々に増し、射撃の雨は、豪雨へと勢いを増していった。

 

「まだまだ!」

 

 あのフルバーストのダメージもあってか、ブラキディオスは避けきれなかった。

 冷気を受け、表面の粘菌は沈静化する。

 貫通弾はいよいよ皮膚まで食い込み、多くの血飛沫を吹き上げた。

 しかしセレスは、まだ止まらない。次の弾倉を取り出して、再び斉射を始める。

 

「あああぁぁぁぁっ!」

 

 声にならない声で、その全力をぶつけるセレス。

 ブラキディオスもまた、己の全力を叩き込む。

 弾幕に真っ向から挑み、走りながら彼女へと迫るのだった。血飛沫を上げながら、ボロボロと甲殻を剥がしながら、それでも彼は、止まらない。

 黒曜石は、止まらない。

 

「うっ……!」

 

 限界まで撃ち続け、回避の猶予を失ったセレス。

 その銃身を盾にして、身構えるのだった。

 ――そこに割り込む、赤い影。

 

「ふんっ!」

 

 黒紫の盾で、炸裂する拳を防ぎきる。

 大男が、その反動に耐え、カウンターの叩きつけを繰り出すのだった。

 

「うらァ!」

 

 丸い頭部が、勢いよく割れた。

 たまらず、ブラキディオスは大きく仰反(のけぞ)る。

 そして、隙だらけのその頭へと、大男――アルフレッドは、引き金を引いた。

 

「吹っ飛びな!」

 

 二度目の、フルバースト。

 猛烈なその砲火は、ブラキディオスの巨体さえも吹き飛ばし、大きく横転させるのだった。

 

「無事か! セレス!」

「あ、アルフ……! 良かった無事で! もう、巻き込まれたと思ったよぅ!」

「ギリギリ、飛んで避けれたんだ……。引き付けてくれて、ありがとうな。おかげで装填できた。……さぁ、そろそろどうだ、ブラキディオス」

 

 赤黒い煙を上げながら、砕竜は起き上がる。

 そして、ゆっくりとした動きで、両手を地面に付けた。

 

「……何だ?」

「……アルフ! 地面!」

 

 両手と共に、擦り付けるように接地させる頭部。

 それを中心として、大地が、青白く光る。

 舞い散った、(まばら)の粘菌たちが、一気に活性化したのだった。

 アルフレッドを、セレスを取り囲むように、光が橙色に染まっていく。

 

「セレス! 後ろに走れ!」

「あ、アルフは!?」

「俺は飛ぶ!」

 

 背後に駆けるセレス。

 アルフレッドは、一発だけクイックリロードし、前へ飛んだ。

 前へ、地面に全身を擦り付けるブラキディオスの、その背中へと。

 砲撃の勢いを用いて、彼は前へと飛んだのだった。

 

 炸裂。

 大地が、この溶岩大河が、激しい炎に包まれる。

 活性化した粘菌は一瞬で炸裂し、砕竜を取り囲むように爆破の波を描き出す。

 そこへ単身突っ込んだ、アルフレッドはといえば――。

 

「取った!」

 

 青い甲殻へしがみついていた。

 爆破の中心の、その背中。ここはまさに、嵐の中心。ここだけは、風は吹かないのだった。

 

「行くぜ!」

 

 穂先の剣を取り外し、それを突き刺して手すりとする。

 左手で持った砲身の空圧レバーを引き、新たな竜杭弾を放とうと。

 隙だらけの砕竜と背中を焼き削ろうと、大男は獣のような笑みを浮かべた。

 だが、その砕竜はといえば、予想外の動きを始めたのだった。

 

「……って、なん……っ!? どこへ行く!?」

 

 走り出した。あらぬ方向へ。

 いや、むしろ彼らが下調べの際に、目星を付けた餌場の方角へ。

 ブラキディオスは、急遽走り出したのだった。

 

「アルフー!」

「ま、待てこの……ッ!」

 

 獣竜種ゆえに高さがあり、そしてその走る速さも尋常ではない。

 今手を離せば、無事では済まない。

 アルフレッドは手を離せず、砕竜の背中にしがみ続けていた。

 

「せ、セレス! 撃って止めれるか!?」

「む、無理だよ! アルフに当たっちゃう!」

「く、クソ……ッ!」

 

 相棒の狙撃は難しい。

 仕方なく、アルフレッドは穂先を握る手に、自身の命運を賭けるのだった。

 

「セレス! 何とかする! 体勢を立て直してから来てくれ!」

「う、うん! すぐに助けに行くから、待ってて!」

 

 セレスの声が、最後まで届くことはなかった。

 大きな足が描く一歩は、人よりも遥かに大きく、その巨体を驚くほどの速度で火山の麓へと押しやっていく。

 麓の原生林や河川には、多くの草食モンスターが集まっている。栄養を求め、ブラキディオスは走り続けた。

 

「水場……水場さえあれば!」

 

 砲撃の反動で抜け出ても、水場があれば怪我はしづらい。

 それに賭け、アルフレッドは機会を待った。

 待って、待って――気付けば、あの徘徊ルートへと入り込んでいたことに、気付いた。

 響く、咆哮。

 狼のように、高らかに響く声。

 一気に嫌な汗が、彼の額から吹き出すのだった。、

 

「おいおい、嘘だろ……!」

 

 黒い甲殻。白い体毛。そして、その体を覆う赤黒い龍雷。

 ジンオウガ亜種が、そこにいた。

 

 跳躍、そしてあまりにも太いその前足を、砕竜に向けて叩き付ける。

 ブラキディオスもそれに応じ、体を旋回させて向かい合った。

 

「どうすんだ、これ!」

 

 獄狼竜の一撃を受けても、致命傷は免れない。

 砕竜の猛攻に乗っていては、体がいくつあってももたない。

 このままでは自分が真っ先に死ぬ。そう思い、彼はとにかく、穂先に砲身を押し込んだ。

 いつでも飛べるように、予備弾倉の止め具を外し、シリンダーに弾を詰めようとする――。

 その瞬間に。

 

「うおっ!」

 

 二頭が、絡み合った。

 両手を相手に食い込ませるように、全身を持って覆い尽くす。しかし、両者は共に生態系の王者を演じる存在である。

 力はほぼ拮抗している――そんな状態だった。

 

「ここなら……ッ!」

 

 シリンダーを溢し、剥き出しになった砲身内部へ、竜撃砲弾を装填。

 二者がもつれ合うこの瞬間なら、両者を同時に焼くことができる。

 アルフレッドはそう考えて、空圧レバーを解放した。

 大量の空気を吸い込み、内蔵された火竜の骨髄は、瞬く間に発火する。それが青白い光となって両者を照らし――直後、猛烈な吐息となって目の前のもの全てを焼き尽くした。

 そしてその瞬間、爆炎に紛れるように斬り払われる、もう一つの一閃。

 

「……いでっ、いでで!」

 

 地面に転がるように着地し、しかし何とか立ち上がる。

 排熱ハッチが開き、硝煙を撒き散らしながら、その猛火の先を彼は見た。

 そこには――。

 

「ありゃ……? さっきの赤髪君じゃん……何だよ、ブラキディオスを抑えられなかったの?」

「あ? あの時の太刀使いか……」

 

 レクスと名乗ったあの男が、そこに立っていた。

 竜撃砲の影に隠れ、鋭い一閃を放った太刀を、静かに鞘に収めながら。

 

「良いとこに割り込ませちゃってさ〜。勘弁してくれよな」

「んだと……」

「ま、手間が省けたから良いか。さっさとやっちまおうぜ。アンタは砕竜を、オレは獄狼竜を。分けてやろうぜ。お互い、一緒に戦うには向かないだろうしさ」

 

 あまりにも長いその太刀の、柄に。

 レクスは静かに手を添えて、腰を低く構えるのだった。

 その気迫に、アルフレッドは生唾を飲んだ。

 

「ちっ、やりにくいな……」

 

 アルフレッドもまた、装填する。

 今、二頭の獣はお互いを見合って唸り合っている。

 人間より遥かに大きい彼らは、今人間など気にする余裕はない。自身を脅かすのは、同じ体格のモンスターのみ。

 吠え、その牙を、拳を振りかざした。

 

 絡み合う獣の尾を避け、砲を放つ。

 牙が舞い、尾が薙ぎ払われる。

 伏せるように避け、広い刀身を叩き付ける。

 草が焼け、岩が剥がれた。

 極限まで研ぎ澄まされたその空間で――男は、太刀を抜く。

 

 一瞬の静寂。

 直後、獄狼竜の尾が、勢いよく宙を舞った。

 

「……ふう」

 

 小さな吐息と共に、太刀を振る。

 刀身を滴る血が、勢いよく払われ、大地へと散らばった。

 太刀を、再び鞘へ戻す。

 異様とも言える狩猟法に、アルフレッドは目を丸くするのだった。

 

「何だ、この男……」

 

 その腕前は、おそらく彼が見てきた中で群を抜いているだろう。

 ブラキディオスや、ジンオウガ亜種にさえも怯まない、培われたであろう胆力。

 正確に刃を通す精神力。

 そして、何よりも研ぎ澄まされた技量。

 一閃で、彼の実力をアルフレッドは感じ取った。

 

「……負けてられねぇな!」

 

 大きく体勢を崩し、隙を晒すジンオウガ亜種へ。

 ブラキディオスは、全力の殴打を繰り返す。

 見れば、その体は傷だらけだった。

 片目は塞がり、爪は取れ、牙は砕け、尾すらない。

 ジンオウガ亜種は、まさに瀕死の状態だった。

 

 それでも、ただ殴られるだけではない。

 腰を低め、大きな肩を叩き付ける。俗に言うタックルで隙を作り、跳躍した。

 空中で、姿勢を反転させる。赤黒い放電を繰り返す、その背中を。

 ブラキディオスに向け、彼は落下した。

 

「ぐっ!」

 

 盾を構え、衝撃に耐えるアルフレッド。

 レクスもまた、走って距離を取る。

 ブラキディオスは倒れ込み、全身を覆う龍雷にもがき、苦しんでいた。

 その隙を逃さず、狼は牙を剥く。

 両手で青い甲殻を押さえ、鋭い牙を、砕竜の首元へ当てがった。嫌な音を立て、黒曜石が、割れていく――。

 

「……どっちが強いかねぇ?」

「あん?」

 

 獣の絡み合う姿を見ながら、レクスはそう呟いた。

 無精髭を撫でながら、ゆっくりと、アルフレッドの方へ歩み寄る。

 

「ジンオウガ亜種もブラキディオスも、その生態系の王者みたいな存在だろぉ? どっちが強いかな」

「そんなの、その時々で変わるだろ」

「まぁなー。この場合、どっちがどれだけ痛めつけてたかにも寄るだろうし」

「……まぁ、残った方を狩ればいいし」

「かぁ〜、打算的だなぁ。つまんねぇなぁ」

 

 レクスがため息をついた、その瞬間に。

 狼の牙を、ブラキディオスが弾き飛ばした。

 

「おお!?」

 

 全身を捩り、牙と爪から逃れた砕竜。転がる白い毛並みへ、燃え上がるような拳を振り上げる。

 それが肩へ――大きなその肩へ、吸い込まれた。

 嫌な音が響く。

 骨の折れる、嫌な音が。

 

「こいつは番狂せだ! ブラキディオス、やるねぇ〜!」

「言ってる場合か! 狩りを続けるぞ!」

「いや……もう勝負はつくだろうねぇ」

 

 受け身も取れず、立ち上がることもできず、這いつくばる。

 まさに、敗者の姿勢だった。

 ジンオウガ亜種は、負けたのだ。この縄張り争いに、負けたのだった。

 ブラキディオスは、拳を緩める――なんてこと、なく。

 ゆっくり歩み寄りながら、その割れた拳を、高く高く、振り上げるのだった。

 

 轟音。

 殴打の音をも飲み込むその爆発は、一瞬暴れた獄狼竜の体を、静かに沈黙させた。

 動かなくなった強敵を前に、ブラキディオスは雄叫びを上げる。自身の縄張りを主張する、力強い声だった。

 

「……動けなくなった相手にも容赦がないねぇ。ま、これがブラキディオスか……」

「そういうもんなのか?」

「知らない? アイツと縄張り争いして負けたヤツは、大体頭を殴り潰されてんだよ。アグナコトルとか、いい例だねぇ」

 

 楽しそうに、命のやり取りについて語る。

 稀有な人物。

 アルフレッドはそう思った。

 

「ま、アンタの言葉を借りるなら、残ったアイツを狩るとするか」

「……そうだな」

「でも、うーん……悪いが、ガンランスとは、やりたくないねぇ」

 

 アルフレッドを上から下までじっとりと見て、レクスはそう言った。

 その言葉は、何度も聞いたことがある。

 耳障りにすらならぬほど、大男にとっては聞き飽きた言葉だった。

 

「……だろうな。お前さんの担当はジンオウガ亜種だったろ? 休んでていいぞ」

「じゃ、そうさせてもらうよ。焼かれたくないしね〜」

 

 そんなことするわけがない。

 と、言いかけつつも、その言葉は飲み込んだ。

 次なる外敵を排除するため、拳を振り上げる砕竜が迫っていたからだ。

 

「ちっ!」

 

 振りかざされる拳。

 全身を盾にぶつけるようにして、その炸裂に耐える。

 しかし、二度目が来る。

 この防ぎ方は、そう何度もできるわけではない。このままでは、スタミナがもたない。

 

「くっ……!」

 

 彼は、苦肉の策に出た。

 防げないなら、せめて一矢報いよう。

 窮鼠猫を噛む。まさにそれを体現した、渾身の竜杭砲。

 吹き飛ぶ大男。

 火花を散らして、鼻先を穿つ杭。

 音を立てて、それが炸裂する。鼻先を吹き飛ばされる痛みに、流石のブラキディオスも大きく仰け反った。

 

「ぐっ……!」

 

 粘菌の炸裂に巻き込まれ、爆炎を掻き消すように転がるアルフレッド。

 その巨体を見ながら、レクスはゆっくり前に出た。

 

「全く、どうしてこうも、銃槍使いは見境がないのかねぇ」

「……ああ?」

「……だから、嫌いなんだよ、銃槍使いは。過去も未来も、前後も左右も見ない。銃槍使いは、厄介な火種そのもんだ」

 

 そうして、するりと太刀を抜く。

 

「オレがアンタを否定してやるよ。アンタの全てを、否定してやる」

 

 鋭く構えたその太刀を、もがくブラキディオスのその首筋へと、突く。

 まさに一閃。

 目にも止まらぬ踏み込みだった。

 鮮血が舞い、甲殻が大く零れ落ちる。

 だが、砕竜もまた、それを受け入れる器ではない。その巨鎚の如き尾を、レクスへと叩き付けるのだった。

 

「――ふっ」

 

 それを、小さく笑って。

 自身を弾き飛ばすその瞬間に、彼は太刀を振り上げた。

 返した刃を、その尾に、平行に沿わせるように。

 そうすることで衝撃を緩めながら、するりと受け流す。自身を弾き飛ばさんとするエネルギーも、背後に飛ぶことで受け流し、再び刃を向け直すのだった。

 

「そこっ!」

 

 尾を振り抜いて、隙を晒したその足に。

 レクスは太刀を振り抜いて、どころかその勢いを元に、跳ぶ。真上から、兜割りの如く太刀を振りかざし――。

 一閃。

 頭から足まで、長い刀身で斬り抜いた。

 あまりにも鋭利な太刀筋は、斬った直後では何も起きない。ブラキディオスが反撃に転じた瞬間、傷口が瞬時に開くのだった。

 

「おお……!」

 

 その技には、アルフレッドも感嘆を禁じ得ない。

 血潮を溢す砕竜と、太刀を振って血を散らす男。

 彼の実力を肌で感じる。

 言いようのない、瞬間だった。

 

「……タフだねぇ!」

 

 しかしブラキディオスは、怯まない。

 砲弾の如き頭をもって、レクスを叩き潰さんと振りかざす。

 表面は藍色ではなく、粘菌による緑色へと染まっていた。

 これは、受け流せるものではない。

 レクスは太刀を返しながら、新たな型へと移行するのだが――。

 その前に、流れ星の如き一閃が、この猟区を支配した。

 喉を貫き、炎の螺旋を生み出すような一閃。

 外側から――いや、内側からも急所を焼き貫かれ、ブラキディオスはごぽっと血を溢すのだった。

 拳を振るう。尾を薙ぐ。必死の抵抗も虚しく、その力は衰えていき、最後には立つこともできず倒れ込むのだった。

 見上げれば、高台で硝煙を蒸す少女が一人。

 ヘビィボウガンによる狙撃竜弾。

 この狩りを制した、まさに決め手だった。

 

「アルフ! 大丈夫!?」

「……ああ、何とかな」

 

 駆け寄る狙撃の主――セレスに、立ち上がって迎えるアルフレッド。

 救援に駆け付けた彼女を前に、安心感があったのだろうか。優しい笑みを浮かべるのだった。

 

「ありがとな、助かった」

「無事で良かったよ……ジンオウガ亜種も、倒せたんだね」

「あれはブラキディオスがやったんだ。正直、俺は何にもできてないね」

 

 倒れ伏すジンオウガ亜種。

 雄叫びを上げるブラキディオス。

 相対するは、レクスという救援のハンター。当の相棒は、火傷を負って倒れ込む。

 その光景を前に、セレスは焦りの狙撃に出たのだった。

 

「――珍しい、ねぇ」

 

 ホッと胸を撫で下ろす彼女を見ながら、レクスは呟いた。

 

「銃槍使いに、仲間がいるっていうのは……てっきり、単独で走るタイプと思ってたんだけどな〜」

「そういう奴もいるってことだよ。別にいいだろ?」

「人を傷付けることが取り柄なガンランスだぜ? ここに来た時から、不思議だとは思ってたけどさぁ」

「何だよ、やけに突っかかってくるな」

「いやまぁ、太刀を使ってるオレも、人のことは言えないんだけどね」

 

 剥き身の太刀を静かに鞘に戻し、レクスは歩く。

 テントへと、援助の終わりを告げるように。

 

「アンタは、オレの知ってる奴と同じ匂いがする。茨の道に突っ走るタイプだと、思ってたんだけどな……ま、何だっていいや」

 

 歩きながら、背を向けながら、彼は話し続けた。

 

「せっかくできた仲間なんだろ? 大事にしなよ〜。んじゃあな」

 

 その背に向けて、アルフレッドは問い掛ける。

 

「お前さん……一体何者だ?」

 

 レクスは、振り向くこともせず、ただ手を振りながら答えるのだった。

 

「ただの、救援が趣味のお節介もんさ。人は撃つなよな、若いの」

 

 そう言って、原生林へ消えていく。

 飄々とした、しかし意味深なことを言うその男に、アルフレッドは奇妙な感覚を覚える。

 人を撃つな。

 あえてそう言う、彼の心理とは――。

 しかし考える余裕もなく、体を蝕む怪我と疲労は、静かな眠りへと、彼を誘った。

 セレスの呼び掛ける声も霧散するように、彼は意識をゆっくりと手放したのだった。

 

 




ワイルズのベータテスト、楽しかったですね。
ガンランスの新しい調整が大変たまらん!足回りは軽く、後隙もかなり減り、フルバーストや竜撃砲にはさまざまなテコ入れがされている。楽しかったです。製品版では、ぜひ移動砲撃に回避距離が乗るようにしてほしい。後方移動砲撃とバックステップで距離を詰める姿は、どこかブラストダッシュみがあって嬉しかったです。回避距離乗ってくれたらかなり快適になって楽しそう!ぜひお願いしたい!
今回から新キャラ登場です。何やら、ガンランスに対する複雑な思いがある様子。第一章からちょいちょい出てたある伏線に関係するキャラクターなので、今後のストーリーとの絡みを楽しんでいただけたら幸いです。
太刀、かっこいいですよね。レクスは居合を主軸にしたキャラクターです。声は…そうですね。某野原家のお父さんですね。いつまでも愛してやまないです、あの方の声。こら、そこ主任とか言わない。
閲覧ありがとうございました。
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