――あの火の国の狩りから、早くも二十日ほど経っていた。
傷も癒え、報酬を受け取って。
バルバレに戻り、新たな依頼に邁進する毎日。
今日もまた、アルフレッドとセレスは、新たな依頼に――いや、極めて個人的な事情も含む仕事に、臨んでいるのだった。
「あー……暑いな」
照りつける光を反射させるように、砂漠の砂はきらきらとした光を灯していた。
そんな荒地を、走る竜車。
アプトノスの引くそれが、まさに鈍行という名を欲しいままに、この砂漠を横断している。
その荷車で、横になる大男。彼が、先日届いた手紙を開く。
竜車に揺られながら、その中身をゆっくり読み上げた。
「"アルフレッド様、セレス様、お元気でしょうか……あれから、姉は生贄の任を解かれ、今は平和に過ごしています。二頭のモンスターの遺骸を並べられ、司祭も老人たちも、何も言えない様子でした。宣言通り狩猟していただいて、国を――姉を守ってくださり、ありがとうございました。お二人の姿を胸に、自分も精進していきたいと思います。それでは、また会う日まで"……だってさ」
同じく竜車に乗っていたセレスは、嬉しそうに微笑んだ。
この砂漠の太陽のように、眩しい笑顔だった。
「良かった! お姉さん、元気に過ごしてるんだね。それが一番だよ」
「だな。これを機に、生贄なんてやめればいいのにな」
「きっと大丈夫だよ。だってあたしたちが証明したもん! モンスターには、打ち勝てるって! 受注してよかったね、あの依頼」
「……まぁ、なんか気に入らない奴と鉢合わせることにもなったけど」
幸い怪我も大したことなく、早くも狩りに復帰したアルフレッド。
しかし、その心はどこか釈然としない様子だった。
あの狩りで出会った太刀使いの言葉が、どうも気になっているようだ。
「あいつの言ってた知り合いって、誰なんだろうな。知ってる奴かな」
「どうかな……アルフって交友関係広いの?」
「そう見えるか?」
「見えない」
「だよな。俺もそう思う。分かんねぇなー」
思うところはあるが、考えてもどうしようもない。
手紙を畳んでポーチに入れ、竜車の上で立ち上がる。
竜車の護衛に、今回の依頼に、本腰を入れるのだった。
考えることが不得意な彼らしい、さっぱりとした切り替えである。
吹き荒ぶ乾いた風が、頬を撫でた。
アプトノスはゆっくりと砂漠を歩き、竜車を目的地まで運ぶ。
そのアプトノスに手綱を掛け、ゆったりと走らせる商人――本依頼の護衛対象――に向け、アルフレッドは話し掛けた。
「なぁ、目的地までどれくらい掛かるんだ?」
「このペースで行ければ、夕方には着くと思いますぜ、旦那」
「今は日が真上だから……まだまだ掛かるな」
「大丈夫、あっという間だよ」
「こんな距離を、定期的にいつも帰ってたんだな、セレス」
竜車の中には、多種多様の食材や薬品。その他、生活必需品。そして、大量の水。
目指すは、セレスの故郷。
砂漠の奥のオアシスに位置する、貧しい小村だ。
セレスは定期的に、仕送りを持って竜車に乗っていた。道中護衛を兼ねて、故郷に、親と兄弟たちに、食糧や物資を運ぶのだ。
「今回は、一緒に来てくれてありがとう。嬉しいよ」
「ま、たまにはこういう依頼も悪くないな。慣れないけど……それに、お前さんの村で作ってるっていう、砂漠の酒が気になるし」
「えへへ。良かった。でもあのお酒、かなり強いよ? あたしは得意じゃないなぁ」
今回、アルフレッドはセレスの旅に同行した。
彼女の故郷に向けての、小さな旅行。
仕事を兼ねた羽伸ばしに、彼も付き添っていた。
「とりあえず、無事に着けるように仕事に集中するか。ほら、噂をすれば何か来たぞ」
「ゲネポスの群れだね」
竜車の上で、立ち上がるアルフレッド。
視線の先には、茶色と黄色を縞模様に浮かべた鳥竜種の群れ。砂漠に生息する小さき捕食者、ゲネポスだ。
アプトノスと人間が群れを成している。恰好の獲物だ。そう言わんばかりに声を張り上げた。
「恨みはないけど……ごめんね!」
その先頭の個体を、まっすぐ撃ち抜くセレス。
頭蓋を、脳を貫かれ、糸が切れたように倒れ込む。そんな群れの筆頭を前に、後続の個体たちは怯むものの、それでも牙は剥いたまま。
迫る群れ。
迫る、麻痺毒の牙。
「ほっ!」
セレスの弾幕を掻い潜り、荷車へと辿り着いた個体を迎える、ガンランスの砲撃。
頭そのものを失って落ちる同胞に、流石のゲネポスも怯み始めた。
「そこ!」
その隙を、セレスは見逃さない。
鋭い狙撃は、五、六匹いた残りの頭部を正確無比に射抜くのだった。
「凄いな。よくそんな綺麗に当てられるな」
「えへへ……」
感心するアルフレッドに、セレスは嬉しそうに微笑む。
砂漠の日はまだ高い。
彼らの護衛任務は、まだまだ続くが、それが安定した旅路になることは疑いようがない。
二つの硝煙が、それを物語っていた。
⚪︎◎⚫︎
「でっかいー!」
「何これ! 人間!?」
「でっかい! もんすたーみたい!」
「……何だこれ」
よく日に焼けた褐色肌に、眩しくきらめく月色の髪。
そして砂漠育ちらしい、長く、豊かに伸びたまつ毛。
そんな幼子たちが、アルフレッドに群がっていた。
膝に、腕に、肩に、纏わりつく彼らにされるがままに、大男は遠い目でそう呟くのだった。
「いやぁ、この村は行商人以外に、そう訪れる者がいなくてね。物珍しいんだよ。すまないね、アルフレッド君」
「いやまぁ、構わないけども」
束ねた髪を触ったり、頬を引っ張ったり。そんな無邪気な少年たちに、アルフレッドは全身を任せる。
話に聞いていた、セレスの弟、妹たち。その数人に好きにされるものの、相棒と似た顔付きを前に、若干頬を綻ばせていた。
「それにしても、まさかセレスが客人を連れてくるとはな。大したもてなしができずすまないね」
「気にしないでくれ。こちらこそ勝手に押し掛けて悪いな」
一人だけ、理知的に語り掛ける壮年の男がいる。
彼こそセレスの父親――同じ髪色、褐色肌を持つ、細身の男だった。
「セレス、連れてくるなら先に言ってくれ。お父さん、何も準備も覚悟もできてないぞ」
「ごめんって……覚悟?」
「ねーねー、姉ちゃん! この人でっかいねー!」
「うん、大きいねぇ」
「姉ちゃんの倍はおっきいよ!」
「そんなに大きくはないよー」
アルフレッドの広い膝には、弟たちが四、五人屯っている。
その一人一人の頭を撫でながら、彼は微笑むのだった。
「何だか、いい姉ちゃんって感じだな。懐かれてんな」
「そ、そうかな」
「てか、本当に兄弟多いんだな」
「でしょ。大変なんだから」
小さな家屋の中で、小さな台風たちが暴れ回る。
セレスに歳近い兄弟たちは家事をしたり、村で仕事をしたりしている一方、まだ幼い弟、妹は部屋で好きに遊んでいる。そしてそこに訪れたアルフレッドは、恰好のおもちゃだったのだ。
「おらー! ぼうがんだ! どんどん!」
「ぼくはジンオウガですー! そんなのきかないもん!」
「リオレウス! リオレウス!」
「うわぁん! にいたんがぶったー!!」
ハンターごっこ、モンスターごっこ、そして起こる、暴力沙汰。
子どもらしいその光景に、アルフレッドはふと自分の幼い頃を思い返すのだった。
「……モンスターごっこ、懐かしいなぁ。俺はグラビモスをよくやってたな」
「アルフらしくていいね。でっかくて強いし」
「セレスはそういうのしたか?」
「うーん……あたしは、弟たちの付き合いで、よくアプトノスやってたかな」
「……いい姉ちゃんだな、ほんとに」
その言葉に、弟たちのために生きる彼女の人生を、アルフレッドは感じるのだった。
「しかしみんな、セレスによく似てるな」
「うん。髪も肌も、みんな同じ色だからね」
「それに人懐っこい感じなのもさ。可愛いな、お前さんたち」
「そ、そうかな……」
頭に、肩に、腹に、背中に、そして膝に。
収まる子どもたちの頭を一人ずつ撫でていくと、みな嬉しそうに目を細めるのだった。へにゃりと長いまつ毛を動かして笑うその姿は、セレスとよく似ている、と。
アルフレッドは、そう感じていた。
「それにしても、アルフレッド君。あの砂漠のディアブロスの件、セレスから聞いたよ」
「ああ……懐かしい話だな」
唐突に切り出した父親の言葉に、アルフレッドは少し考え込んでから、その過去の出来事を思い出すのだった。
「傷ついた娘の頼みを聞いて、代わりに撃退をしてくれたのだね。言うなれば、君は私たち一家の恩人だ。そのような人を、今日お迎えすることができて嬉しい」
「大袈裟だな。俺は仕事をしただけだよ」
「驕らずにそう言えるところに好感が持てる。流石は娘の選んだ人だ」
「……? お父さん、何か……」
父親の発言が引っ掛かり、セレスは首を傾げるものの、彼はそれを気に留める様子もない。
「あのディアブロスは、強かったかね?」
「あれは強すぎるな。自分が言うのも何だが、一人で挑むべき相手じゃない」
「……娘は無茶をした。しかし、それは村を守るためにその身を盾にしてくれたのだ。私は、そんな娘の選択に感謝しているし、尊重したい」
「ああ。俺もそう思う」
「あのディアブロスは、砂漠の果てまで逃げ、そのまま消息を絶ったそうだ。しかし、もしこのようなことがまたあったらと思うと、心苦しくてな……」
「大丈夫だ。あの頃とは違う。な、セレス」
そう言って笑うアルフレッドに、セレスは少し頬を染めながら、同じく笑うのだった。
「それにしても、『また』ってのはどういうことなんだ?」
「うむ……行商人の話だから、眉唾物だとは思うが、不穏な動きが砂漠にあるのだ」
その表情は険しく、眉間は深い谷を描く。
「ディアブロス亡き今、砂漠の主には様々なモンスターが現れた。ボルボロス、リオレイア、ティガレックス……この村に直接被害が出ることはなかったが、目まぐるしい政権交代が起きていた」
「ほんとに過酷な村だね、ここ。小さい頃からそう思ってたけど」
「しかし、新たな存在が、この砂漠に現れたと、行商人は語るんだ」
意味深な口ぶりに、アルフレッドは耳を傾ける。
その耳を、子どもたちに引っ張られながら。
「その正体は不明だが、大型モンスターであることは確かだ。執拗に獲物を痛めつけている、極めて危険な奴ってことも」
「具体的にはどんな風に?」
「動かなくなった獲物を、何度も抉った痕があったそうだ。それも、鋭い爪か、角かで。何重にもなった切り傷といった様相で、行商は爪と見ていたな」
「異常な加虐性と、爪か。……何だろうな」
「角にしては傷の間隔が狭くて、複数の切先がある爪じゃないかと言っていた。どう思う? セレス」
「え? えー……セルレギオスとか? 足の爪、鋭いし」
「ああ、あるかもな。条件は当てはまるし」
セルレギオスは、砂漠にも出没する飛竜種だ。
鳥のように鋭い爪を使い、獲物を掴んで捕食する。肉食性故に、攻撃性も高い。
セレスの考察に、アルフレッドも納得するのだった。
「……まぁ、今の話はあくまでも噂程度のものだ。それも、その痕跡が見つかったのはこの村から遠い砂漠の端でな。地続きの、火山地帯の方になる。この村への影響は今のところないから、そう気にしないでくれ」
「うーん……心配だよ。何かあったら、すぐに手紙で知らせてね」
「ああ、ありがとう。だが、私も安心だよ。セレスがこんないい人を見つけてきてくれたんだからな」
「……いい人?」
その言葉に、セレスは再び首を傾げ――。
はっと、何かに気づいた。
「も、もしかしてお父さん……この状況を勘違いしてる!?」
「ん? 勘違いって?」
顔を真っ赤にして声を荒げるセレスと、状況が掴めず間の抜けた声を漏らすアルフレッド。
ただ、一番幼い弟は、彼の膝の中で、小さく呟くのだった。「ねえたんのかれち、にぶちん」と。
そのか細い声が、二人に届くことはなかった。
ワールドのストーリーであった、大蟻塚を走る車両を護衛するシーン。
あれ懐かしいですね。モンハンといえば、きっとこんな仕事もたくさんあるんだろうなと思い、それを膨らましたのが今回の冒頭です。
今まで話だけ出ていたセレスの故郷、エスト村のお話でした。勘違いお父様の暴走回。砂漠の村ってどんな感じなんでしょう。中東の人ってなんかすごいまつ毛がバシバシなので、きっとセレス一家もまつ毛めっちゃ長いんでしょう…!!
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