ラストリロード   作:しばじゃが

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起源にして、原点 -対覇竜戦其ノ壱-

「緊急の事案です。皆さん、お集まりいただきありがとうございます」

 

 そう挨拶するは、大型飛行船――龍識船の隊長を務める竜人族。

 淡い色の髪を短く切り揃えた、まだ年若い少年だ。少年といっても、人間の大半よりも、実年齢は上なのだろうが。

 

 龍識船の甲板に、多くの要人、そしてハンターが集まっている。

 バルバレギルドのギルドマスター。

 大老殿の補佐官。

 龍歴院の研究者に、空に浮かぶ集会酒場のオーナー二人。

 そして、以前歴戦の槍使いを召喚した、ユクモ村の村長。

 

「今回のあらましを、他でもないユクモ村村長に説明していただきます。お願いします」

「はい。皆様、お集まりいただきありがとうございます」

 

 ユクモ村らしい、奥ゆかしさのある化粧や衣装が特徴的なその女性。

 このような状況であっても、落ち着いて説明し始める。

 

「今回、皆様をこのような大空へ招いたのは、他でもありません。我がユクモ村のギルドが管轄する火山地帯――溶岩峡谷と呼ばれる場所で、あのモンスターが確認されたのです」

 

 語る口調は、厳かなもの。

 その者、黒い闇を身に覆う者。

 その者、獄炎に座し、この世に覇を唱えん。

 ――その名は覇竜。黒き神、アカムトルム。

 

「アカムトルムじゃと!?」

 

 バルバレのギルドマスターが、思わず声を出した。

 

「始めは、火山活動の活発化でした。しかしそれと比例するように、峡谷に謎の掘削跡が見られるようになったのです」

「……アカムトルムは、その二本の太い牙で、硬い岩も易々と掘りますからね」

「それで、火山が刺激されて活発化したというわけか」

「思えば、先日の火の国の危機、あれもその影響なのでは」

「可能性はあるな……」

 

 研究員たちが、口々にそう話す。

 その表情は、どれも強張っていた。

 

「その兆候が見られた頃、原因を確かめるため、私たちはある方を召喚させていただきました。かつて交戦経験のあるハンター……セバスチャン様です」

 

 ユクモ村村長の言葉に、桜火竜装備の彼は上品にお辞儀する。

 彼女の紹介を受け、同席していたアルフレッド一向は、ようやくあのユクモ村遠征の理由を知るのだった。

 

「……おっさん! それであの時ユクモ村に!」

「びっくりですわ! アカムトルム!? 御伽話(おとぎばなし)みたいですわ!」

「セバスチャンさんって、凄い人なんだね……!」

「まぁまぁ、皆様落ち着きください。まだ会合の途中でありますので」

 

 驚くアルフレッド。ウルティナは目を見開き、セレスは目を輝かせる。

 が、周囲の目線を感じ、口を閉じ直した。

 それを確認するや、ユクモ村の村長は語りを続ける。

 

「……彼に意見をいただき、今回このように召集させていただいたのです。覇竜は、あまりにも強大です。ハンター四人体制では、とても倒せる相手ではありません。そのため、今回に関してはギルドの規定である人数制限を撤廃し、総力を持って討伐作戦を決行したいと考えています」

 

 その言葉に、誰もが固唾を飲んだ。

 ただごとではない。

 そんな雰囲気が、この大空を包み込む。

 

「具体的には、どうするね?」

 

 バルバレのギルドマスターがそう尋ねると、村長は静かに頷きながら、龍歴院の職員に向けて扇を向ける。

 それは、合図。

 本作戦の概要を示した一枚の大布を開く、合図だった。

 

「作戦はこうです。覇竜は峡谷を進み、沿岸部へと進出しています。恐らく、まだ火山地帯から外に出たことがない、若い個体だと思われます。このまま外洋に向かえば、どのような被害が(もたら)されるか――。それを防ぐためにも、まずここで食い止めます」

 

 布団の如き大きな布に刻まれるは、海に浮かぶ船と、その空を覆う飛行船の図。

 艦隊砲撃と、空中からのバリスタ射撃。

 それが、第一陣としてまとめられていた。

 

「確かに、以前バルバレ管轄で確認された個体も、船を大破させる被害を起こした。覇竜の海洋進出は、危険だ。止めないとね」

「そのため、バルバレギルドの持つ艦隊の力をお借りしたいのです。また、龍歴院の持つ飛行船技術も必要です」

「その後は、どうするね?」

「……おそらく、艦隊砲撃程度では、覇竜は止まらないでしょう。撃沈される恐れも大いにあります。第二陣は、大老殿のガーディアンズと、各ギルドのガンナーのお力をお借りしたい」

 

 第二陣。

 図に描かれるは、槍と盾で堅牢に固めた騎士たちが、覇竜の足元を囲む姿。

 彼らが壁となって道を遮り、その後方から遠距離狙撃部隊が狙う。そんな構図となっている。

 

「艦隊が第一陣なのは、まず覇竜を弱らせるためです。その後白兵戦を仕掛けます。これで仕留められれば、良いのですが……」

「相手はあの覇竜だ。こうはならない可能性も、十分ある」

「そこで、我々龍識船が動きます」

 

 待ってましたと言わんばかりに、この大型船の隊長が口を開いた。

 若くとも、自信のある、含みのある笑い。

 

「この龍識船の船首には、二門の撃龍槍が備えられています。これは以前、天彗龍を追うために用意したものですが――今回、エルガドとの連携を経て、新たな武装へと換装しました!」

 

 エルガド、という聞き慣れない響きで、会場はざわつく。

 多くの者が首を捻る中、ウルティナは小さく頷き、口を開いた。

 

「遠方の王国が管轄する観測拠点ですわ。そこは騎士たちが管理し、その王国を脅かすモンスターから、国民を守っている。海の上にあり、高い航海技術が目立つ拠点でしたわ」

「はい、そうなんです。その提督であるガレアス殿も、今回の事態に協力を申し出てくださいました。そして、彼らの武装の技術提供をいただいたんです」

 

 第三陣。

 それは、彼らが立つこの龍識船であった。

 

「これでとどめを刺すつもりです。しかし、そうはならないかもしれません。その時のために――」

「私めたち、というわけですな」

 

 村長の言葉に、セバスチャンは頷いた。

 彼女もまた、頷く。

 頷いて、高らかに宣言した。

 

「あなた方は、最後の砦! 寝床へと逃げ帰ったアカムトルムを叩き、とどめを指していただきたい! 覇竜狩猟の経験者、セバスチャン様。そして黒蝕竜討伐、豪山龍撃退に貢献したウルティナ様、アルフレッド様、セレス様! 名声も、実力も、まさに相応しい。最後の締めは、あなた方四名に託します!」

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 海洋に浮かぶ艦隊で、乗組員たちが絶句した。

 山を穿ち、溶岩を纏いながら現れる、黒い神を目の前にして。

 そのあまりある脅威に、不安の声が、零れ落ちる。

 

「あれが、アカムトルムか……」

「大きいな。倒せるかな」

 

 あまりにも太い、二本の牙。

 巨体を支える手足は太く、爪もまた大樹のように分厚い。

 その体躯は船と同等か、それ以上だろう。

 迫り来る黒き神は、圧倒的な存在として、矮小な人間たちを震えさせるのだった。

 

「こんなの、勝てるわけが……!」

「やる前から諦めんな! この海域には、たくさん村があるんだよ!」

「家族を守るんだろ! 信号弾準備!」

「やるしかねぇ! 砲弾を詰めるぞ!」

「構えろ!」

 

 火山地帯の沿岸部。

 青黒い海に浮かぶ艦隊が、それぞれの砲身に弾を込める。

 狙うは、その沿岸部まで歩み出るアカムトルム。

 上空の飛行船隊と、信号弾を撃ち合って、砲撃の合図とする。

 直後、積んだ全ての砲弾を、解き放った。

 巨大な顎を開けて、轟音を響かせる巨体に向けて。

 その轟音を掻き消すほどの、猛烈な爆発音を上書きした。

 

 顔を、背中を、腕を。

 全身を爆風で包み込み、それでも次から次へと新たな弾を重ねていく。

 凄まじい爆音と硝煙が、覇竜の巨体を覆い尽くすが――艦隊からは爆炎しか見えずとも、飛行船団からは、その巨体が未だ立ち続けていることが分かった。

 そのため、バリスタを撃ち続けるのだ。

 槍の如き矢の雨を、その黒い体へと撃ち込んでいく。

 

「こんなに撃ち込めば……」

 

 飛行船ゆえに、積載量は少ない。

 詰めた分のバリスタは、全て撃ち尽くした。

 艦隊の砲弾は、まだ余りがあるが――爆炎に包まれる対象を前に、隊長はその左手をすっと振るうのだった。

 

「砲撃、やめ!」

 

 その合図で、乗組員たちは砲撃の手を止める。

 爆音が鳴り止み、この沿岸が静けさに包まれた。

 

 白と黒を混ぜたような、重い煙が空と大地を埋め尽くす。

 覇竜の姿は、それに遮られて映らない。

 ただ不気味なほどの静けさが、そこにあった。

 

「……やったか?」

 

 誰かが、そう呟いて。

 次の瞬間、全てが旋風に包まれたのだった。

 

 阿鼻叫喚。

 断末魔。

 それらを全て呑み込む、凄まじいまでの風。

 薙ぎ払うように、この海を吹き(なら)すその吐息は、艦隊を海の藻屑と変えた。

 

「なんてことだ……」

 

 飛行船団は、その光景の全てを見た。

 アカムトルムは、文字通り息を吐いたのだ。

 ただ大きく息を吸い込み、それを薙ぎ払う。

 しかしそれこそ、かつてバルバレギルド管轄内の個体が船舶を破壊した一撃。

 覇竜の代名詞。

 ソニックブラストと呼ばれる、猛烈な吐息なのだ。

 

「退避! 退避ー!」

 

 飛行船団長の声に、面舵を取って退避する飛行船たち。

 しかし、アカムトルムは逃しはしない。

 その口を再び大きく開き、旋風を巻き起こす。

 多くの団員は、船から身を投げた。

 下の海へ向けて、迫り来る吐息から身を守ろうとするものの――。

 それらをも巻き込んで、旋風は全てを塵と変える。

 バラバラになった木材と血肉の塊は、赤い雨となってこの海を濡らすのだった。

 

「第二陣、突撃イィィィ!!」

 

 誰が叫んだか。

 野太い声が、その一声を覆うように湧き上がる。

 覇竜の足元へ、大勢の騎士たちが槍を構えて突撃した。

 ドンドルマを守る、槍と盾を持った騎士たち。俗に言う、ガーディアンである。

 彼らの刺突は、覇竜の黒い堅殻を前にしてあっさりと弾かれる。

 しかし彼らは、怯まなかった。

 己が身を盾にし、必死に覇竜の気を引くのだ。

 

「我らは騎士団! どんな相手にも怯まない!」

「街を、人々を守ることこそ、我らが使命!」

「声を張れ! 覇竜を討て!」

「うおおおぉぉぉぉぉッ!!」

 

 口々にそう唱えるのは、力強くもあり、どこか祈るようでもあった。

 そんな、最前線で命を張る彼らのために、後方狙撃部隊はボウガンを構えるのだった。

 放つは、雷撃弾。

 交戦経験のあるセバスチャンからの助言を参考に、大量に発注したもの。

 覇竜は、雷を苦手とする。過去に対峙した個体が、火山雷によって致命傷を受けていたことを、彼は見逃さなかったのである。

 

 飛来するその雷の雨は、確実に黒い体を斬り裂いていった。

 それには、流石の覇竜も悲鳴を上げる。

 

「効いてるぞ! 続け!」

 

 騎士団も流れに乗り、全力で槍を差し向ける。

 背中や腕の堅殻は分厚いが、その裏は柔らかい。仰け反って(あらわ)になった腹は、槍が深々と刺さるのだった。

 

「腹だ! 腹を狙え!」

「覇竜を討ち取るのだ! 行け! 行けぇーっ!!」

 

 次々と騎士たちが腹下に潜り込み、槍を振るう。

 効いているかのように見えた。

 しかしその実、覇竜は鼻息を荒立てているだけ。ゆっくりと、その身を持ち上げる。

 

「刺せ! 刺せ! 刺――あっ……」

 

 声が潰れる。

 いや、鎧が潰れる。

 腹下に潜り込んだ、多くの騎士団員が潰れる。

 その全身を、地面へと叩き付けるボディプレス。堅牢な鎧も盾も、薄紙同様であった。

 物言わぬ肉の塊と化した仲間を前に、騎士たちの士気が鈍る。

 

「ひ、怯むな……ッ! 戦え!」

「いや、待て、これは――」

「尾だ! 尾が来るぞ! 構え――がぁッ!」

 

 周囲を薙ぎ払うように、その太い尾が駆け巡る。

 取り囲んでいたガーディアンたちは、一瞬で叩き召され、みな火山の床と同化した。

 あの野太い声が一切なくなり、覇竜の鼻息と足音だけが響き渡る。

 

「騎士団が……全滅!?」

「くそ、そんな馬鹿な!」

「いや、我々の弾は効いている! 撃ち続けろ!」

 

 続く雷撃の豪雨に、覇竜はその尾を地面へと、強く叩きつけた。

 雷撃の痛みに、耐える。

 耐えるようにして、歩み始める。

 より鼻息を荒立たせ、狙撃隊のいる高台を、睨んでいた。

 

「ソニックブラストが来るでしょうか……!?」

「予兆が見えたら、高台から急いで降りるぞ! だが、今のところ歩き続けているだけだ! 撃ち続けろ!」

「は、はい!」

 

 十人体制のヘビィボウガン部隊。

 雷撃弾を撃ち尽くし、次なるマガジン――貫通雷撃弾を装填する。

 先程よりも、距離が近づいた。

 この距離なら、貫通性の雷撃弾は堅殻を貫き、肉の中を焼くことができる。そういう、手筈だった。

 アカムトルムの行動を、目前にするまでは。

 

「……な、何だ!?」

「アカムトルムが、一体……何が起きている!?」

「奴が……掘ってます! 地面を! 太い牙で!」

 

 あまりにも巨大な牙を、地面へと擦り付けて。

 覇竜はその巨体を、大地の下へと滑り込ませる。

 望遠鏡で目測を図っていた隊員は、黒き覇王を見失い、思わず望遠鏡を落とすのだった。

 

「消えた……? そ、そんな馬鹿な」

 

 火山の岩石を砕くという、考えるだけでも恐ろしいまでの膂力(りょりょく)

 そして目標を――あの巨体を見失うという事実に、全隊員が狼狽える中。火山だけが、大きく唸り上げるのだった。

 

「な、何だ……地面が、揺れている」

「ま、まさか――」

 

 いや、それは火山ではない。火山によるものではない。

 その唸り声は、震動は、徐々に大きくなっていく。

 高台の周囲では、まるで地面から押し出されるように、溶岩が所々から噴き出すのだった。

 

「――いかん、退避! 退……ッ!!」

 

 直後、大地を割って現れる、黒い山。

 その剣山のような背中が、ボウガン隊の体を砕いていく。逃げ遅れた者を弾き飛ばし、早々と退避したものには、太い前足を叩き付けるのだった。

 誰一人、引き金を引く者は残っていない。

 第二陣もまた、全滅したのだった。

 

 覇竜は、咆哮を上げる。

 勝ち誇ったような咆哮だ。生態系における、自分の立ち位置を確信するかのような。力強い声だった。

 あまりの音圧に、周囲に散らばっていた肉塊や銃の残骸が舞い上がる。凄惨な光景が、この火山に刻まれるのだった。

 

「…………ッ……」

 

 声にならない声と共に、龍識船の隊長は目を瞑る。

 犠牲者に小さな黙祷を挟みつつ、しかしその目を見開き、右手を振り(かざ)した。

 

「連装式撃龍槍、用意!」

 

 ガーディアンズとボウガン隊を蹴散らす。

 そのことに夢中になっていたアカムトルムは、迫り寄る飛行船に気付いていなかったのだ。

 龍識船は、彼の近く、そしてより高度を下げた位置へと迫っていた。

 乗組員がレバーを引き、撃龍槍の安全装置が外れる音を奏で立てる。

 その音をもって、覇竜はようやく空の刺客に気付いた。

 

「圧力良好、滑液問題なし。回転指数七十、八十……百! 突破しました! 撃龍槍、撃てます!」

 

 技師の声を掻き消すまでに、槍が回転する。

 その轟音が、火花を散らす摩擦音が、覇竜の闘争心を刺激した。

 

「――右門、発射準備」

 

 隊長の声に、乗組員が発射用レバーに手を掛けて。

 覇竜は大口を開け、空の大将を藻屑に変えんと喉を震わせる。

 

「発射ッ!!」

 

 しかしそれよりも早く、撃龍槍は放たれた。

 エルガドの提督から技術提供を受けた、連装式撃龍槍。

 それは撃龍槍の構造を根本から覆す、革命的な発想だった。

 回転によって射出力を高めたそれは、固定具をあえて外すことで、前方へと射出する構造となっている。龍識船から放たれたそれは、真っ直ぐに、大口を開けるアカムトルムの左肩へと突き刺さるのだった。

 

 悲鳴。

 堅殻が割れ、中の血潮が溢れ出る。

 重傷を負った悲鳴が、響く。

 

「総員、衝撃に備えよ!」

 

 そう言って、誰もが身を伏せ――。

 次の瞬間、落雷の如き轟音が響き渡る。

 槍の内部に詰められた火薬が、炸裂したのだ。

 これこそが、連装式の真髄である。飛ばし、刺して、炸裂させる。一説には、ガンランスの竜杭砲が原型という噂もあると、かのエルガドの教官は語るという。

 

 アカムトルムは、ボタボタと血を吹きこぼしながら、その痛みに悶えていた。

 明らかに、手痛い一撃を受けている。

 これなら、と隊長は息を呑む。再び、右手を掲げるのだった。

 

「左門、発射準備!」

 

 連装式というだけあり、龍識船の撃龍槍は二丁ある。

 残りの一門を回転させ、覇竜へのとどめとした。

 しかし、覇竜もまたそれに気づく。

 後退し、その一撃を避けんとし――。

 

「発射!」

 

 その槍は、大きく、そして鈍重である。

 如何に覇竜といえど、二撃目はそうそうに当たらない。右肩を狙ったそれは、後退する動きに追い付けず、地面へとめり込んだ。

 

「外れました!」

「いや、炸裂の余波は当たります! みな、伏せて!」

 

 覇竜の、右顔面の、すぐそばで。

 撃龍槍は、轟音を立てて弾け飛んだ。

 その炎が、衝撃波が、そして身を裂く鉄の破片が。アカムトルムへと襲い掛かるのだった。

 

 甲高い悲鳴が響く。

 右半身も血塗れにし、覇竜は初めてその歩みを止めた。

 動くたびに血が溢れ、堅殻が音を立てて割れていく。

 目の前には、未だ空に留まり続ける大型の飛行船。

 自らの身を、この堅牢な黒鱗を裂く一撃を、二度も放った張本人。

 覇竜は、恐怖したのだった。

 

「隊長! 覇竜が後退します! 進路を変えました!」

「どうなりました!?」

「出現地点に向かっています。恐らく、寝ぐらに向けて帰るものかと!」

「分かりました。本船の作戦は……以上となります。あとは、現地のハンターに託すしか」

 

 そう言って、彼は人差し指と中指を揃え、右へ振るようにして合図を出す。

 信号弾の合図である。

 溶岩峡谷で待ち伏せする、ハンターたちに向けて。

 

「頼みましたよ、皆さん……!」

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「見えた……。紫色の信号弾。覇竜が、こっちに向かってる……」

 

 スコープ越しに状況を観察していたセレスが、そう呟く。

 

「複数のギルドの連合隊をもってしても、とどめはさせなかったのか。凄いもんだな、覇竜って」

「ええ。あのゴア•マガラ以上の脅威となるでしょう。ですが、やるしかありません」

「前回やった時はどうやって倒したんだ?」

「時季を狙ったんですよ。火山雷が活発な時を。今回は、その手が使えませんが――今、ギルドが全力を持って傷を付け、アルフレッド殿とセレス殿……二人という強い戦力がいる。きっと、何とかなりますよ」

 

 そう言って、セバスチャンは柔らかく笑うのだった。

 

「ちょっと! わたくしもいましてよ!」

「お嬢様は、無理をなさらず。私めの後ろで、援助を中心にお願いします」

「……まぁ、相手があの覇竜ですしね。今回はサポートに徹しますわ」

「まさか、おっさんがウルティナの同行を頼むまでとはなぁ。覇竜か……ワクワクしてきたぜ」

「生命の粉塵に、その他各種粉塵! 閃光玉も音爆弾もたくさん! 任せてくださいな!」

 

 いつもなら、同行を許可しないとセバスチャンは言うだろう。

 しかし今回は、ウルティナへ同行を頼むという真逆の行動に出たのだった。それはつまり、サポートに徹する要員が欲しいということ。

 彼女の命の危険を鑑みても、この方が生存率が高い、と。作戦の失敗まで視野に入れて、彼はそう判断したのだった。

 

「みんな、凄いね……あたし、手が震えてるよ」

 

 一方のセレスは、覇気のない笑顔でそう言った。

 見れば、黒紫色のグローブに包まれた手が、小刻みに震えている。

 その様子に、アルフレッドは少し考え――そっと、彼女に近づいた。

 

「セレス」

「え、何?」

 

 彼女の前でしゃがみ、その両手を握る。

 突然の行動に、彼女の体がぴょんと跳ね上がった。

 

「な、ななな何急に!」

「大丈夫だ。この時のために、たくさん準備したろ。防具だって、新調したじゃんか」

 

 黒紫色のグローブを、ぎゅっと包み込む。

 絹のような、柔らかな感触がアルフレッドの大きな手の平に、染み込んでいく。

 

「今のお前さんは、間違いなくG級……マスターランク相当のハンターだよ。俺が保証する。だから、大丈夫だ」

 

 白いマフラーのような飾りに、黒紫のショートコート。

 内側はショートパンツで機動力を確保しつつ、手足には柔軟ながらも強靭な毛皮と繊維で防御を堅める。

 そして彼女の両耳には、丸いイヤーマフが可愛らしく押し当てられていた。これなら、どんな銃声にも、どんな轟音にも耐えられるだろう。

 ケチャZシリーズ。牙獣種ながらも堅固な防御力と攻撃性を持つ、ケチャワチャ亜種の素材を使った防具。

 あの日アルフレッドが提案した、セレスの新装備である。

 

「……あたしなら、大丈夫……」

「ああ、大丈夫だ。それに、言ったろ? いつかの、医療棟でさ」

 

 ――モンスターが怖いなら、俺が守ってやる。

 ディアブロスと相対した後、心が折れ掛けた彼女を支えた、あの言葉。

 忘れるはずもない。そんな思いでセレスは目を閉じ、そしてもう一度アルフレッドを見るのだった。

 翡翠色の瞳に、熱が戻っている。

 彼は、そう確信して、静かに頷くのだった。

 

「さぁ、そろそろ賓客(ひんきゃく)が来ますぞ。皆様、準備は宜しいか」

「は、はい!」

「どんとこいですわ!」

「ああ。バッチリだ」

 

 セレスはゲェレーラ•エスピノを展開し、ウルティナは鬼人の粉塵を散らす。

 そしてアルフレッドは、叛逆銃槍ロドレギオン――改め、『叛逆ノ覇銃槍レギオン』を勢いよく折り、砲弾を詰め込んで元に戻した。

 装填完了。

 狩りの開始である。

 

「さぁ、行くぜ! アカムトルム!」

 

 四人が駆ける。

 キャンプから飛び出し、荒い大地を踏み締める。

 血飛沫を上げながら迫り来る覇竜に向けて、その自慢の武器を、振るうのだった。

 決戦の火蓋が、今落とされた。

 




超大型モンスターと、艦隊の戦い。
いやもう、これはロマンが溢れて止みませんね。
イメージは、もうゴジラです。ゴジラそのものです。怪獣プロレスの側面が強いあのシリーズですが、個人的には超強力な存在を前に人間がどうやって対抗するかというテーマが好きなので、今回はそのあたりをリスペクトして書きました。艦隊が次々と轟沈していく様子は、もうたまりませんね。ちなみにアカムトルムは、モンハンモンスターの中で二番目の推しです。ワイルズで復活してくれないかな。
自分語りですが、ゴジラシリーズでは上記の理由により-0.1やシン・ゴジラ、あとアニメ映画三部作なんかが好みですね。新作も楽しみです。
そしてセレス!彼女の新防具はケチャZシリーズのガンナー版です。今のところMH4Gのみの登場なので、マイナーかもしれない…。でもデザインはすごく可愛いので、良かったら調べてみてくださいね!
それでは、閲覧ありがとうございました。
次は通常の狩り、アカムトルムの狩猟となります。
お楽しみに!
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