ラストリロード   作:しばじゃが

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起源にして、頂点 -対覇竜戦其ノ弐-

「アルフレッド、覇竜に会うんか?」

 

 対覇竜討伐作戦始動の、数日前に。

 ドンドルマの路地で、最後の調整をと火薬庫を訪ねたアルフレッド。

 その店主である老人は、彼にそう尋ねるのだった。

 

「耳が早いな。そうだよ」

「これまでにない、危険な仕事になりそうじゃな」

「まぁな。大物さで言えば、ダレン•モーランの方が上だろうが……今回は討伐作戦だからな。どうなるか分からん。安定性重視で、こいつと一緒に行くつもりだ。調整を頼む」

 

 そう言って、カウンターに置くのは、金色の鱗が幾重にも折り重なったガンランス。叛逆銃槍ロドレギオンだ。

 

「前、セルレギオスを狩ったと言っとったな? 獰猛化千刃竜斬鱗はあるか?」

「え? まあ、あるけど」

「よし、出せ。この子を、さらに輝かせるぞ!」

「間に合うのか?」

「間に合わせる。大事な顧客を、失いたくないからの」

 

 武器と素材を受け取って、早速作業に取り掛かる火薬庫。

 その目はギラギラと輝いており、彼もまたこの戦いの一員であることを、アルフレッドは感じ取った。

 

「悪いな爺さん。助かる」

「生きて帰って、報酬金から払うんじゃよ。今回のカスタマイズは高くつくぞぃ」

「嫌な叱咤激励だな……」

 

 少し眉を(ひそ)める彼を前に、火薬庫は「そうじゃ」と、何かを思い出したようにカウンターの下へと潜った。

 数秒間何かを漁り、顔を出す。

 モグラのようだと、アルフレッドは思った。

 

「お主に、見せたいものがあるんじゃった」

 

 老モグラが取り出したのは、黒光りするシリンダー。

 ロドレギオンと同規格のもの。

 

「何だ、このシリンダー」

「こいつは正真正銘、奥の手用のものじゃ」

 

 唯一違う点は、詰められている砲弾が全く異なること――。

 黒く、重々しい弾が五発、シリンダーの中で眠っている。

 

「ここに込められている弾は、通常の砲弾とは比べ物にならんほど強力な奴じゃ。竜撃砲と同等か、それ以上か……」

「この弾が? マジで?」

「前、連れの嬢ちゃんの銃にカスタマイズしたじゃろ? あの発想を利用して作ったんじゃ。火薬装填の、ガンランス版。中身はまるっきり別物じゃがな」

「へえ……」

「でものぅ。強力な分、砲身が持たんかもしれん。故に奥の手じゃ。これを使うのは、どうしようもなくなった時。特別な時――」

「これって、シリンダーごと取り替えるってことか?」

「そうじゃ」

「こんなでかいシリンダーを携帯するのは、ちょっと無理がないか? この前のスピードローダーとは、厚みが違うし」

「ふん。それも対策済みじゃ。これを使え」

 

 渡されたのは、小型の銃。

 装填数は一発のみ。信号弾を放つ、ハンターがよく使っているものである。

 

「今回、龍識船が関わっておるんじゃろ? なら、『アイテムお届け隊』を使わない手はないじゃろ!」

 

 アイテムお届け隊。

 それは龍識船の研究室が管轄する、猟区に追加で支給品を届けるサービスである。

 その内容は、アイルーお手製のロケットにアイテムを詰め、タイミングを見計らい、猟区に届けるというもの。多くのハンターから使いづらいと不評であり、近年信号弾を合図に発送するシステムへと変わったのだった。

 

「ロケットに詰めるんだろ? 着弾と同時に炸裂、とはならないか?」

「薬莢はかなり丈夫に作られておる。リオレウスに踏まれても暴発せんぞ。撃鉄でのみ炸裂するように調整した。確実に、とは言い切れんが、頼りにしてよい精度じゃと自負しておる」

「そうか……分かった」

 

 そのシリンダーを、受け取って。

 ずっしりとした重さが、腕に伝わってきた。

 

「ブラストダッシュ、竜の息吹、AAフレア、そして覇山竜撃砲……。これは、それらに続く『第五の狩技』と言えるじゃろう」

(たぎ)るね。んで? その名前は?」

「そうじゃな。正真正銘、最終手段。無謀とも言える量の火種を装填するからな。うーむ、その名は……その名は――――」

 

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 

「おっさん!」

「おぉッ!」

 

 迫る牙を、弾いて躱す。

 続く刺突を、その目頭へと叩き込む。

 しかし分厚い鱗がそれを弾き、アカムトルムは両目を爛々とさせてセバスチャンを見た。

 目の前の槍使い。顎を振るっても倒れない。

 先程のガーディアンたちとは違う。覇竜は、その事実を感じ取るのだった。

 

「どっせい!!」

 

 叩き付け。からの、フルバースト。横槍を入れる、銃槍使い。

 装填数が増えたことにより、その破壊力も増している。計五発の放射型砲弾が、一点に叩き込まれるのだった。

 血がこびり付く左前足を、砲火によって傷付けるものの、アカムトルムは動じない。

 

「タフだな! ビクともしねぇ!」

 

 前足が振りかざされ、アルフレッドは背後に跳ぶ。

 前方左方向、二人の槍使いに気を取られた隙に、ウルティナは黒緑のレイピアで尻尾の付け根を狙うのだった。

 

「お嬢様、ご無理なさらず!」

「ほどほどに致しますわ!」

 

 電光走るその連撃は、嫌な痛みをもたらすのだろう。

 アカムトルムは背後を見て、その太い尾を振り回すのだ。

 しかし、ウルティナは踏み込まない。後ろに避けて、回避に徹する。

 そして、空振りに終わった彼の胴体を穿つように、貫通弾の嵐が吹き荒ぶのだった。

 

「……でかいから、よく刺さるな」

「アルフレッド殿も、思う存分撃つとよいでしょう! 奴の体躯は大きく、ゆえに我々に砲炎も届きませんからな!」

「ああ! すまねぇな!」

 

 駆け出して、その懐に潜り込む。

 盾をかざしながら、腹に向けて突きを繰り返し、その確かな手応えを感じ取る。

 腹なら、柔らかい。

 二度、三度と突いて、クイックリロード。装填しながら、声を張り上げる。

 

「腹は柔らかいぞ! 狙い目だ!」

「いえ、アルフレッド殿、ご注意を! 押し潰されれば、即死ですぞ!」

「あ? ――って、やべ!」

 

 持ち上がった体。

 そこらの飛竜より、あの時のゴア•マガラよりも遥かに大きいその体が、迫る。

 腹下の外敵を押し潰さんと、巨岩の如きそれが迫る。

 

「――っはぁ! 危ねぇ!」

 

 砲撃の反動で背後に跳び、間一髪でそのボディプレスを躱すアルフレッド。

 火山の暑さではない。命の危機による冷や汗が、額から滴るのだった。

 

「危ないですわね、もう!」

 

 ウルティナは胸を撫で下ろしつつ、跳躍。

 腹下が危険ならばと、その背に駆け上った。

 

「お嬢様!」

「背中は確かに硬そうですけど、堅殻が割れているところがありますわ! そこを狙います!」

 

 振り下ろしたレイピアを起点にして、真上へと跳躍。

 空中で武器を逆手に持ち換え、重力を乗せた下突きへと変える。電光を帯びたそれは、さながら落雷のようであった。

 

「きゃっ――」

 

 痛みのあまり、その身を(よじ)るアカムトルム。

 まさに会心の一撃だったのだろう。

 しかし、その激しい動きにレイピアはあっさりと抜け、ウルティナの体は宙に投げ出されるのだった。

 

「よくやったお嬢!」

 

 小柄な体を、大男が受け止める。

 彼女の無事を確認し、セバスチャンはほっと息を吐くのも束の間――大きく息を吸った。

 そして、螺旋の如き刺突(スクリュースラスト)を放つのだった。

 

「怯んでる! 効いてますわ!」

「左目が潰れた! いいぞおっさん!」

 

 老体に鞭を打つようなその一撃。

 しかしそれは、今度こそ確実に覇竜の顔を穿った。硬い鱗も貫いて、その左目を抉ったのだ。

 怒り心頭に発する。

 覇竜は巨体を持ち上げ、吠えた。

 

「ぬん!」

 

 その音圧を、セバスチャンは大盾を地面に埋め込むようにして耐える。

 一方、咆哮が衝撃波になることなど、予想もしていなかった二人。

 放射状に広がる音圧に巻き込まれ、大きく吹き飛んだ。

 

「ぬがっ……!」

「きゃあーっ!」

「お嬢様!」

 

 守るべき主人の危機に、老紳士は駆け付けんとするものの――覇竜がそれを、許しはしない。

 

「むっ!」

 

 振りかざされる前足を盾で弾き、顎下を突く。

 続く牙を、下から打ち上げるように盾で叩き、今度は右目を狙う。

 鼻息荒げる覇竜は、頭を捩って目を守った。

 覇王と老騎士の攻防が続く。

 その隙に、目の前の槍使いを倒すことに夢中な覇竜の胴体に向けて。

 セレスは、狙撃竜弾を放つのだった。

 

「うっ――伏せろ!」

「ぎゃん!」

 

 起き上がろうとしたウルティナを、再び地面へ押し付けるアルフレッド。

 直後、弾道が炸裂。

 覇竜が悲鳴を上げて仰け反った。

 

「……ふぅ!」

 

 盾弾きの痛みと、それでも防ぎきれない傷。

 セバスチャンは大きく息を吐いて、生まれた隙に何とか呼吸を整えるのだった。

 見れば、桜色の防具のところどころに穴が空いている。

 覇竜の唾液は強酸性。硬い防具を溶かすほどの腐食力。盾で直撃は防げど、舞い散る唾液は防げなかった。

 

「ウルティナ! 粉塵を!」

「分かりましたわ!」

 

 生命の粉塵。

 それは、代謝を上昇させる回復効能をもった粉末。そして鎮痛作用もあるため、複数人の狩りで、応急的に使われる回復薬の一つである。

 火山の大気に紛れるそれが、呼吸によって取り込まれる。セバスチャンは、節々の痛みが和らぐのを感じた。

 

「――おい、これは!」

「潜航行動! 潜ります! お気をつけて!」

 

 太い顎を大きく振り上げ、硬い地盤を捲り上げる。

 前足でその穴をさらに広げ、山のような巨体がみるみる地面へ埋まっていく――。

 アカムトルムが、大地へと消えた。

 同時に、地響きが鳴り始める。

 押し上げられるように、ところどころから溶岩が噴出し始めるのだった。

 

「ど、どこから……!?」

「お嬢様、私めの傍に!」

「――後ろだ!」

 

 慌てふためく少女を、老騎士が庇う。

 アルフレッドは周囲を見渡し、二人の背後の地盤が盛り上がるのを見る。

 そして砲口を噴かせ、猛進。

 後ろから襲わんと、顔を出したアカムトルム。

 その頭に向けて、千の刃を束ねたような砲身を、叩き付けた。

 

「喰らいやがれ!」

 

 残り三発の弾を一度に放ち、爆炎を放射。

 さらに、叩き付けた砲身を蹴り上げては、静かに青い炎を灯した。

 顔だけ出した覇竜に向け、竜の吐息を解き放つ。

 瞬く、竜撃砲。

 噴火の如き衝撃を、この地に刻んだ。

 

「……ぐっ!」

 

 反動で後退するアルフレッド。

 凄まじい爆炎を受け、仰反るアカムトルム。痛みに狂いながら、再び顎を地面へと擦り付ける。

 ――その太い牙の一つが、耐えられなくなったように零れ落ちた。

 

「いい感じですわ!」

「お見事です!」

「だが、それでも潜るか……!」

 

 片側の牙でも構うことなく、アカムトルムは再び潜航する。

 押し出される溶岩は少なく、それは今彼が足元にいないことを意味する――。

 セバスチャンは、思い出した。

 かつて交戦した個体も、潜航して距離を取り、ハンターを一網打尽にしようとしたことを。

 

「お嬢様! 二時の方向です! 音爆弾を!」

「分かりましたわ!」

 

 言われるがままにウルティナは走り、ポーチから小振りな玉を取り出した。

 砲丸のようなそれを、構えながら走ること数秒。

 彼女の視線の先に、大地の盛り上がりが映るのだった。

 覇王が、獄炎に座すが如く現れる。

 そして、その大口を開け、火山の熱気を、全てを吸い上げ始めた。

 

「おいおい、これが話に聞く――」

「ソニックブラストです!」

「お嬢! 頼むぞ!」

「お任せあれ! さぁ、音にも聞くがいいですわ!」

 

 勢いよく投擲。

 覇竜の目の前で、まさに吐息を吐かんとする彼の目前で、弾け飛ぶ音響弾。

 直後、耳障りな音が響き渡る。翼竜が出す、反響するような不協和音。

 流石の覇竜も、予想だにしていないその音には驚いた。

 溜めた吐息も、儚く霧散。その体勢を大きく崩し、隙を晒す。

 

「チャンスだ! 行くぞ!」

「お嬢様! 天晴れです!」

 

 二人の槍使いが走る。

 ひと足先に辿り着いたウルティナは、大きく穴が空いた左前足を狙って刺突を放っていた。

 隙だらけの右前足を、セレスはスコープ越しに狙う。

 腰溜めの射撃から転じ、しゃがみの体勢へ。反動を抑え、貫通弾を撒き散らした。

 その爆発的な連射は、凄まじいまでの刺突を生む。それが黒い堅殻を撃ち砕き、中の血肉を次々と裂いていくのだった。

 

「効いてる、効いてますわ!」

 

 両手を激しく削られ、アカムトルムは悲鳴を上げる。

 今だ。そう判断したセバスチャンは、走るその身に槍を乗せた。

 

「おおおおぉぉッ!」

 

 盾を構えて、槍を前へと突き出して。

 低い体勢を維持したまま、前に前に踏み出して。

 鋭い切先を押し付けるように、足を動かし続けた。

 ランスの奥義、突進。

 アカムトルムの頭部を、荒々しく削っていく。

 セバスチャンの猛攻に、もう一つの牙にヒビが走った。

 

「オオオォォォ!!」

 

 猿叫の如き掛け声と共に、叩き付ける銃槍。

 アルフレッドは全身を捻り、大きく振り回して。同時に装填する。予備弾倉に残った、全ての弾を。

 そしてとどめと言わんばかりに、振り回した勢いをそのままに袈裟斬りを繰り出し、その軌跡と同時に爆炎を塗りたくるのだった。

 連装フルバースト。対象を灼き斬る大技である。

 これでもかと言わんばかりに、最後に叩き込まれた竜杭弾。黒く堅牢な右腕甲も、大きく砕けるのだった。

 

 先程までの人間たちとは、比べ物にならない動き。

 思うように蹴散らすことができない。

 そのストレスに、アカムトルムの怒りは頂点に達する。

 再び、上半身を持ち上げた。

 怒りの咆哮を放つ。誰しもそう思った。

 だが――。

 

「この感じ――みんな! 咆哮じゃない!」

 

 遠くから狙撃していたセレスだけがそれに気付き、大声を張り上げるが――時すでに、遅し。

 アカムトルムは、その猛烈な呼吸を、前へ、足元へ、地を這う矮小な外敵たちに向けて、解き放つのだった。

 

「なっ……!」

 

 薙ぎ払うように迫るそれは、まさに螺旋。赤黒い光を帯びた吐息の螺旋が、地表を捲り上げながら迫る。

 その轟音は鼓膜を大きく震わして、平衡感覚すらも狂わせた。

 大盾がある者ならいざ知らず、小盾しか持たぬ少女はといえば。

 迫り来る嵐に思考が止まり、ただ飲み込まれる時を待つばかりとなっていた。

 

「お嬢様ああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 守るべき主人が、霧散する。

 それを何とか食い止めんと、セバスチャンは走った。

 本来なら、盾があっても無事では済まない攻撃だ。普段の彼なら、回避に徹するだろう。

 しかし今は、今だけは。

 体よ、もってくれと願いながら、彼はそのか細い体で、盾を構えるのだった。

 孫娘のように愛した彼女を守るために、その全身を差し出すのだった。

 

 

 

「――ス……」

 

 静寂。

 嵐が過ぎ去った。

 そして、悲鳴に近い声が、鳴り響くのだった。

 

「セバスーっ!!」

 

 血塗れの枯れ木が、辛うじて立つ。

 盾は砕け、右腕はあらぬ方向へ、幾重にも曲がっている。

 槍も折れ、鎧のほとんどが剥がれ落ちていた。

 それでも、立ち続けている。

 主人を守るために、立ち続けている――。

 

「おっさん……!」

 

 アルフレッドが、駆け寄る。

 しかし、その声に応えることはない。

 立ったまま、意識を失っている。

 

「セバス……セバス! 返事をして! 返事を……っ!」

 

 大粒の涙を溢しながら、ウルティナはそう泣きつくが――その主人の声にも、従者が応えることはなかった。

 

「セバスチャンさん……」

 

 セレスもまた、駆け寄るものの――目の前の光景を前に、最悪の事態を考える。

 命が、まさに尽きかける瞬間。

 そんな状態だった。

 

「……ウルティナ」

 

 アルフレッドは、小さく名を呼ぶ。

 泣き続ける少女の名を。

 

「うっ、うぅ……セバス……」

 

 アカムトルムは、猛烈な吐息を吐き終えて、呼吸を整えていた。

 彼らの元へ迫り来るのは、時間の問題だった。

 

「……おっさんを連れて、逃げろ」

「う、ううぅぅ……」

「セレス、ウルティナと一緒におっさんを頼む」

「……アルフ……」

殿(しんがり)は、俺がやる」

 

 懐から取り出した、信号弾。空に向けて、撃ち放つ。

 同時に迫り始める、アカムトルム。

 

「くぅ……ああぁぁっ!」

 

 泣きながら、それでも閃光玉を投げる。

 ウルティナのその一閃で、覇竜は残った右目を潰され、混乱の声を上げるのだった。

 

「アルフレッド様……セバスのために、ありがとうございますわ」

「気にするな。傍にいてやってくれ」

「アルフ……」

「セレス、一人でおっさんを連れていくのはキツいだろうから、一緒に行ってやってくれ」

「でも……」

「頼むよ」

 

 真っ直ぐ、セレスを見て。

 アルフレッドは屈託なく笑って、そういうのだった。

 絶望的な状況ではあるが、不思議と勇気が出る。そう感じたセレスは静かに頷き、セバスチャンの腕を肩に回した。

 

「セレスちゃん……ありがとう」

「ううん。早く、キャンプに帰ろう」

 

 キャンプに向けて、セバスチャンを担ぐ二人。

 その後ろ姿から、空に向けて視線を滑らすアルフレッド。

 龍識船から光が瞬き、徐々に大きくなる。

 光の正体は、どんぐりを加工して作られたロケットだ。火を吹きながら落ちるそれは、音を立てて溶岩峡谷に突き刺さるのだった。

 

「よし……」

 

 音を立ててどんぐりは割れるものの、中身は無事だ。

 衝撃に強い豪山龍の皮や甲殻を加工して作られた、梱包材。それをナイフで切り裂き、眩く光る五連装のシリンダーを取り出した。

 

「火薬庫の爺さんが言ってた奴だな。こいつを……」

 

 叛逆銃槍ロドレギオン――特殊なカスタムを施され、銘を改めた『叛逆ノ覇銃槍レギオン』を折り畳み、剥き出しになったシリンダーの留め具を外す。

 鈍重な音を立てて、それは落ちた。そして、その(うろ)を埋めるように、新たなシリンダーを装着する。

 

 同時に響く、怒号。

 光に眩んだ目が戻り、アカムトルムは怒り心頭で叫ぶ。

 そしてその目を、アルフレッドへと向けた。

 

 ――残りの弾は、この五発のみ。

 この五発で、勝負を決めなければならない。

 アルフレッドの頭に、このシリンダーを見せた火薬庫の言葉が鳴り響く。

 

 ――ブラストダッシュ、竜の息吹、AAフレア、そして覇山竜撃砲……。これは、それらに続く『第五の狩技』と言えるじゃろう。

 

 ――(たぎ)るね。んで? その名前は?

 

 ――そうじゃな。正真正銘、最終手段。無謀とも言える量の火種を装填するからな。うーむ、その名は……その名は――――。

 

 折り畳んだ砲身を戻し、一振りの銃槍を振り抜いて。

 シリンダーが回り、最後の装填が行われたのだった。

 

 ――『ラストリロード』、なんてどうじゃ?

 

 火薬庫の老人は、この技のことを、そう呼んだ。

 第一発目を、アルフレッドは即座に放った。

 迫り来るアカムトルムの、脳天に向けて放つのだった。

 

「ぐっ……!」

 

 轟音。

 続く、炸裂音。

 腕に掛かる反動は強く、竜撃砲のように重い。連射の難しい一撃だったが、その威力たるや。

 まるで、銀火竜の吐息だ。青白い炎が一瞬で膨らみ、熱線のように解き放たれる。放射型らしい長射程のそれが、青白い光となって覇竜の頭を照射、着弾と同時に炸裂する。内包された熱量は凄まじく、溶岩を潜るアカムトルムの堅殻さえ、灼き溶かしていた。

 

「すげぇ……!」

 

 覇竜は、甲高い悲鳴を上げて大きく仰け反った。

 火竜の煌液と、銀火竜の秘髄を用いたこの砲弾は、一発一発が竜撃砲をも上回る。

 まさに、獄龍炎ブレスの再現。

 射程、爆発力、反動、全てにおいて最高品質のそれは、アルフレッドの心を強く昂らせるのだった。

 

「らああアァァァッ!!」

 

 振り上げられる前足。

 それを、盾で弾く。弾いて生んだ隙を穿つように、砲身を叩き付ける。

 その穂先の刃もまた、青白く光っていた。赤熱化(せきねつか)ならぬ、碧熱化(へきねつか)である。銀火竜の劫火を浴び、青白くなった刀身は、強烈な熱で覇竜の堅殻を灼き斬っていく。

 斬れ味の概念を超えるような斬撃だ。覇竜の顔を、顎を、大きく斬り裂いた。

 

 悲鳴。

 顔を大きく裂かれ、想像を絶する痛みが襲い来る。

 鮮血が舞い、溶岩に落ちて、音を立てて蒸発する。

 血の匂いが立ち込め、それを嗅ぐアルフレッドは、獣のように笑うのだった。

 

「オオオォォォ!!」

 

 大きく振りかぶり、首筋を斬り裂く。

 鱗をものともしない一撃だ。

 流石の覇竜も脅威を感じたのか、牙を振るって仕留めに掛かる。

 それを、アルフレッドは後ろに跳んで避け――しかし、今度はあまりにも太い尾が迫るのだった。

 牙を振るう勢いのままに、全身を右回転。遠心力で、荒々しい尾を薙ぎ払う。

 流石のアルフレッドも、避けきれない――。

 

「ぐっ!」

 

 盾弾きでは、どうしようもない一撃だった。

 盾は割れ、それでもその衝撃は衰えることなく、アルフレッドを襲う。

 鈍重な尾に弾き飛ばされ、宙を舞う大男。

 そこへ迫る、アカムトルムの大顎。丸呑みにせんと、その大きな深淵が顔を覗かせる。

 

「食らいな!」

 

 しかしアルフレッドは、冷静にポーチへと手を伸ばした。

 投げつけるは、手の平サイズの小振りな玉だ。

 直後、炸裂。眩い閃光を、この溶岩峡谷に塗りたくった。

 アカムトルムは悲鳴を上げた。視界を潰され、半狂乱になって暴れ回る。白い視界を振り払うように、何度も頭を振り回す。

 しかし、粗雑な乱撃は無意味というもの。冷静に牙を避けたアルフレッドは、前へと駆け出した。

 

 刀身の熱が冷め始め、元の金色に戻りつつある。

 その刀身を地に滑らせながら、火花を散らして彼は走る。

 

「オオオォォォッ!!」

 

 全身全霊の斬り上げ。

 顎下から斬り上げるそれと共に、引き金を引く。

 再び熱線の如き青い光が瞬き、覇竜の顎下を焼いた。

 ただの砲弾とは、比べ物にならないほどの衝撃だ。体格に優れる覇竜といえど、思わず仰け反りかける。

 しかし、それでも覇王は倒れない。顎下から打ち上げられた体を、ボディプレスへと変える。

 

「ぐっ……!」

 

 後ろに跳んで、それを回避。

 砲熱を帯びて鋭さを増す穂先を、お返しと言わんばかりに振り下ろす。

 牙が砕け、顔がさらに裂けていった。

 しかしアカムトルムもまた黙ってはいない。目の前の人間を轢き潰さんと、その巨体を猛進させる。

 

「おおおぉぉッ!」

 

 振り上げられる前足の下を、潜るように避けて、覇竜の左側面へと抜け出たアルフレッド。

 避け様に、その左脇腹を斬り裂いた。

 

「やはり、腹だ! 腹が柔らかい!」

 

 鮮血が、アルフレッドの髪を濡らす。

 血塗れの髪が、さらに赤く染まっていく。

 龍識船の観測隊員は、望遠鏡越しに鬼神の如き彼の姿を見るのだった。

 

「こう見ると、デカい亀みたいだなお前さん! ひっくり返してやるぜ!」

 

 背中の分厚い堅殻を、威嚇と共に開く覇竜。

 大きく吠え、その身を回転させる。

 太く重い、壁のような尾が迫る。

 ――アルフレッドは、前に出た。

 

「ナルガクルガに比べれば、止まって見える……ッ!」

 

 あまりにも大きすぎるため、尾の回転が加速するには時間がかかる。

 彼は、まだ回りきっていないそれを踏み台にして、跳び越えた。

 標的を見失った尾は、虚しく空回りする。薙ぎ払ったはずの相手が目の前に迫ることに、アカムトルムは驚きを禁じ得なかった。

 全力の踏み込み。砕けた地面は音を立てて割れ、アルフレッドを前へと押しやる。

 低く構えた体勢で、顎下からの全力の殴打。まさに踏み込み斬り上げとでもいうべきその動きは、覇竜の顎を下から上へと勢いよく弾き上げるのだった。

 

「これなら――」

 

 その、振り上げた刀身を。

 嫌な音を立てる、砲身を。

 空圧レバーによって、砲口部分で圧を掛けられる砲弾を。

 アルフレッドは、解き放つ。

 より速度を増したそれが、撃ち出された。その動きは、さながら"溜め"て砲撃を放つかのよう。

 照射の範囲はさらに広がり、顎下に着弾するや否や、青い炎を過剰なまでに膨張させる。その爆発力は、リオレウス希少種のチャージブレスそのものだ。

 

「どうだ……っ!」

 

 爆風を受け、頬を焼きながら。

 砲身が、音を立ててヒビを入れるのを感じながら。

 アルフレッドは念を押すように、そう唱える。

 覇竜の体が、後ろへと倒れていく――。

 

「倒れろおおおぉぉぉぉっっ!!」

 

 頂点まで達した頭が、後ろへ、後ろへと傾いていく。

 二足歩行状態にまで達した体が、重力に負けたように下がり始めて。

 ――しかし、あの太い尾が大地を踏み鳴らす。

 倒れ込む寸前で、覇竜は止まった。尾を支えにして、その身を留めたのだった。

 

「――はぁっ……クソ……へへ、これじゃ足りねぇか……」

 

 アルフレッドの真上、その遥か頭上から。

 覇竜は、大口を開けた。

 赤黒い吐息が、漏れ始める。

 大きく息を吸い上げ、喉袋を極限まで膨らませるのだった。

 ギルドの連合艦隊を、そして歴戦の猛者である槍使いをも屠ったあの一撃を。

 アカムトルムは、真下の銃槍使いへ放とうとしていた。

 

「――あー、ここまで、か。疲れた……けど、楽しかったな」

 

 逃げ場のないその吐息に、アルフレッドは静かに目を伏せる。

 構えることもなく、ただ立ち尽くした。

 どこか達成感に満ちた笑みで、全てを受け入れようと、するのだった――。

 

 

 

 

 

 一瞬の閃光。

 続く、小さな風切り音。

 細く儚い弾道は、しかし確かに、アカムトルムの顎下から喉に向けて貫いた。

 そして、一拍を置いて炸裂する。

 体の内側から焼き尽くす痛みに、口内に溜めたエネルギーが霧散。アカムトルムは、悲鳴を上げて怯むのだった。

 

「……セレス」

 

 アルフレッドは気付く。

 硝煙を湛える相棒の姿に。

 セレスが、再びここへ駆け付けてくれたことを。

 

「アルフ! 一緒に帰るよ!」

「……ああ、分かったよ!」

 

 セレスの、どこか上擦った声に、アルフレッドの目は正気を取り戻す。

 大男が無事なことを確認するや否や、彼女は弾倉を切り替えた。あの火薬庫で特注した、火薬を大量に添加した弾倉を。

 

「行くよ! 火薬装填っ!」

 

 過剰なまでに詰められた火薬は、射出される弾丸の速度、威力を加速的に上昇させる。

 その弾丸を、連続で放った。

 しゃがみの体勢で反動を殺し、引き金を連続で引き続ける。撃つ度に青白い火花が走り、射出間隔が短くなっていく。

 それは、(いなな)きのような射撃音だった。

 強烈な炎の螺旋のように、アカムトルムの頭を穿つ。

 あまりの熱量に、覇竜の巨体は崩れ始めた。

 

「うあああぁぁぁぁっっ!!」

 

 少女の絶叫と共に、次々と弾かれる火薬弾。

 着弾と共に炸裂し、アカムトルムを押す。

 背後へ、押し倒すが如く。

 覇竜といえど、今や大きな傷を負っており、呼吸も荒い。火薬を大量に注ぎ込んだ青い嵐を前にして、流石の彼も耐えられなかったのだろう。

 巨体が、音を立てて倒れ込んだ。

 

「おお……っ! やった! やりやがった! ちくしょう! すげぇよセレス! ガンランスみたいに、輝いて見えるぜ!」

「はぁ、はぁ……っ!」

 

 弾を撃ち切って、銃口から硝煙を漏らす。

 荒い息で酸素を取り込むセレス。

 夢中に撃ち続けた反動で、彼女もまた、その場に倒れ込むのだった。

 

「アルフ……っ! 今、だよ……っ!」

「ああ――任せろ!」

 

 眼前に広がるは、大の字になったアカムトルム。

 柔らかい腹を大きく晒し、痛みにもがき苦しんでいる。

 大男の狙った、ひっくり返して腹を露わにする作戦が、奇しくもセレスによって果たされていた。

 

「行くぜ、レギオン! 思いっきり吹け!」

 

 砲口を絞り、青白い光を溜めて。残り二発のうちの一つを解き放つ。

 それを、大地に向けて。

 アルフレッドは、砲撃の反動で空高く飛び上がった。

 二度目の溜めを受け、砲身が耐えきれなくなったように割れるのだった。

 

「オオラアアァァァァッッ!!!!」

 

 通常のブラストダッシュより、さらにさらに高いそこから。

 青白く光るその刀身が、重力によって真っ直ぐ、アカムトルムの腹へと迫る。

 ――その様は、きっと彼の目には、恐ろしき火山雷のように映っただろう。

 

 碧熱化した刀身はいとも容易く、覇竜の血肉を裂いていく。

 首元へと深々と刺さったそれは、太い血管にまで達したのか、噴火のように大量の鮮血を放つのだった。

 

「ぐっ……!」

 

 落下の衝撃が、アルフレッドの身体中に走る。

 全力のその刺突は、まさに慈悲なき獄門。

 獄炎の覇王をその帝座から引き摺り落とす、革命的刺突。

 しかしアカムトルムは、それでも命の炎を燃やし続けた。

 転がるように飛び起きて、首元を穿つ"天敵"を剥がそうと暴れ始める。獄門は、まだ獄門となり得ていない。

 

「……レギオン! 最後の一発を頼む!」

 

 砲身は既に割れている。

 このままでは、弾は放てず暴発するだろう。

 だから、アルフレッドは、ガンランスを折り畳んだ。

 納刀状態のように半分に折れる、叛逆ノ覇銃槍レギオン。

 その穂先は鎌のように、はたまた釣り針のように、アカムトルムの体内に深く食い込む。

 そして、剥き出しになったシリンダーの、そこに詰められた最後の砲弾を露わにした。

 アルフレッドは、迷いなく引き金を引いた。

 撃鉄が勢いよく弾け、込められた弾を解放する。

 

「いっけええぇぇぇぇッッ!!」

 

 青白い光はそのまま、破壊的な加速力へ。

 深く食い込んだ刃を、それを飲み込む覇竜の肉を巻き込み、彗星の如き一閃へと変貌する。

 砲身なき今、光の指向性は失われ、ただ猛烈に広がる青い炎と化した。

 そして、その炎に押された刃は、とうとう獄門たり得た。視認が難しいほどに加速して、覇竜の体を一瞬で斬り裂く。

 青白い炎は、直後に吹き出す鮮血によって、赤く赤く染め上げられていくのだった。

 

 

 

「――がっ!」

 

 砲撃の勢いに、とうとう中折れ機構が砕け散る。

 穂先の刃を失い、持ち手とシリンダーだけを持ったアルフレッドが、勢いよく地面へと転がった。

 

「アルフーっ!!」

 

 セレスが駆け寄り、倒れた大男を抱き上げる。

 まさに満身創痍という姿だったが、それでも、それでも彼は笑っていた。

 

「……へっ。やってやったぜ」

 

 首元から、脇腹へ。

 大きく斬り裂かれ、鮮やかな内臓を溢すアカムトルム。

 喉を震わせながら空を仰ぎ、両手で何かを掴むように伸ばして――しかし、何も掴むことなく、倒れ込んだ。

 倒れてもなお、その体は微かに震えていたが、それも次第に消えていく。

 残った右目は、何も映すこともなく、ただ黒く、黒く染まっていくのだった。

 

「――仇は討ったぜ、おっさん」

 

 事切れる獄炎の覇王を前に、アルフレッドはただそう溢し――。

 そして彼もまた、意識を失うのであった。

 




タイトル回収!なんだこれ、最終回か?

それにしてもアルフレッド、戦闘後毎回倒れすぎ問題。それだけ全力で戦っているということですね。
今回はアカムトルムとの戦闘に終始しました。やはり、アカムトルムは本当に格好いいです。世界観的には、かなり脅威な存在でしょう。これを狩るとなれば、多くの犠牲が伴うはず。まさにゴジラのような…。本当にアカム大好きです。
次回は第四章のラストです。ある意味、区切りの回でもあります。
そしてラストリロードは、続く第五章で完結となりますので、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。
閲覧ありがとうございました。
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