ラストリロード   作:しばじゃが

40 / 60
起源にして、終点 -対覇竜戦其ノ参-

「――覇竜討伐作戦に、全てを捧げた者たちへ」

 

 ベルナ村の高台にて。

 あの討伐作戦を指揮していた龍識船の隊長が、唱えるように言葉を連ねる。

 

「あなた方への感謝の念と、ご冥福を祈りまして」

 

 大きな白帽を取り、それを胸の前で掲げるように持ち。

 目を伏せて、背後に並ぶ参列者(いきのこり)たちに向けてこう締め括った。

 

「――黙祷」

 

 その言葉に、参列者達も次々と帽子や兜を取り、静かに目を伏せる。

 静寂。

 誰も彼もが何も語らず、ただ風の吹き抜ける音と、火が薪を弾く音だけがそこにあった。

 

 龍歴院本部がある、ベルナ村の高台。

 そこには、先日の覇竜討伐作戦に参加した者たちが並んでいた。

 ハンター。

 飛行船の操縦士。

 艦隊の操舵手。

 龍識船乗組員。

 みな、誰もが険しい顔で口を紡いでいる。

 それは、この作戦を遂行する上で、なくてはならない存在だった彼らに向けて、哀悼の意を示しているのだった。

 

「……皆さん、ありがとう」

 

 幾重にも風が流れた後、ゆっくりと瞼を上げた隊長が、そう声を掛けて。

 参列者たちも、次々と顔を上げる。

 とはいえ、その表情はまだ曇ったままで、目の前の炎に燃やされる仲間たちに向け、複雑な思いを寄せていた。

 

「彼らの命は再び巡り、この世界に還り、そしてそれが、新たな命の礎になります。生命は循環する――。あなた方の旅路に、幸多からんことを」

 

 涙を讃えながら、隊長が英雄たちに語り掛ける。

 その言葉に、数人の参列者が、耐えきれなくなったように涙を溢し始めた。

 上擦ったすすり声や、鼻水を啜る音がところどころから響いてくる。

 

「……ありがとな」

 

 アルフレッドは、涙を溢すことなく、ただそう呟いた。

 古龍級生物――アカムトルム。その危険度はそこらの飛竜を遥かに超えており、その討伐は困難を極める。彼らハンターのみでは、とても手が届かない存在だ。

 彼らが今回、その討伐を成し得たのは――覇竜の命を削るために、多くの艦隊員やガーディアンたちがその身を犠牲にしたから。

 アルフレッドは、それを忘れない。

 静かに目を伏せ、感謝の念を送る彼の姿を、隣のセレスは静かに見上げるのだった。

 

 沈没した艦隊や、墜落した飛行船の乗組員たちは、原型を留めないほどその身を痛ませており、満足に回収された者はほとんどいない。

 ガーディアンたちも同様で、綺麗な姿を保っている者はいなかった。

 残った肉片を、その人として見送る。

 セレスは、痛ましさと、彼らを悼む気持ちに挟まれ涙を滲ませる。

 静かに、アルフレッドの防具の裾を掴むのだった。

 彼もまた、それを振り払うことはなかった。

 

「あなた方の遺灰は、僕たち龍歴院が責任を持って故郷へ送ります。だからどうか、どうか安らかに」

 

 龍識船隊長のその言葉に、全員が再び目を伏せて。

 死者への手向は、静かに高原の風に乗せられていった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「……ウルティナ」

 

 それから数日。

 遺灰や遺骨が分けられ、葬儀が行われてから、幾分が時間が経った頃。

 遥かな頂を望む丘で、茫然と佇む少女が一人。

 桃色の髪を風に乗せながら、焦点の合わない瞳で空を映す彼女に向けて、アルフレッドは語り掛けた。

 

「ウルちゃん……」

 

 同行するセレスも彼女の名を呼ぶが、それ以上はどう声を掛けたらいいのか、分からない様子だった。

 しかしウルティナは、何も答えない。

 ただ静かに、空を見続けている。

 

「飯、食ってないだろ。倒れるぞ。体が資本なんだろ。食えよ」

 

 ベルナ村のチーズフォンデュ。

 それを纏った肉やパンを、串に刺したもの。

 この村の名物料理を持ってきたアルフレッドだったが、ウルティナはそれを受け取ることはなかった。

 

「……あー。そうだ。村の南に行くと、アイルーやムーファがたくさんいる広場があったぞ。気分転換にいいんじゃないか? こんなところにずっといるよりさ」

「そ、そうだよ。あそこなら、ここほど風吹かないし。もっとあったかいよ」

 

 次の手と言わんばかりに、二人は畳み掛ける。

 ウルティナは、もう三日はこうして高台で空を見続けていた。

 あの葬儀の後から、ずっと。

 心を失ってしまったかのように、何も食べず。

 

「それとも、龍歴院本部はどうだ? 見たことないモンスターの素材や化石の標本とかあるぞ。俺、前属してたからある程度案内できるし」

「きっと、珍しいのいっぱいあるよ。だから、降りよう? このままじゃ、風邪ひいちゃうよ……ウルちゃん……」

 

 高原の風は鋭く、時に凍てつくように吹き荒ぶ。

 二人はウルティナを、何とか下山させようと手を尽くすのだが――。

 それでも彼女は、動こうとはしなかった。

 

「……心中察するよ。俺だって……辛い」

「……うん」

 

 誘うことをやめる。

 ただ静かに、彼女の心と同じ思いを、吐露するのだった。

 

「おっさん……良い人だったよ。一緒に狩りができて、誇らしいよ」

「強くて、芯のある人だったよね。それに何より、ウルちゃんを優しく見守る姿が、今でも目に焼き付いてる」

 

 ウルティナの両脇に座り、各々彼に――セバスチャンに対する思いを言葉にする。

 それを聞いて、ウルティナの肩が震え始めた。

 

「盾の技も教えてもらったんだ。まだおっさんほど上手くはないけど、でも、かけがえのないものを貰った気がする」

「きっといつも、いつもウルちゃんのことを見守ってくれてるよ。……これまでみたいに」

「……うぅ……っ」

 

 遺灰が入った骨壷を抱きながら、ウルティナは泣く。

 堪えきれなくなったように、瞳から大粒の涙を溢した。

 

「セバス……っ……うう、うあああぁぁぁ!」

 

 子どものように大声で泣く彼女を前にアルフレッドは悲しそうに目を伏せる。

 セレスはそっと彼女を抱き寄せた。

 温かな体温に抱かれ、少女は大きく泣いた。

 自らを庇って散った彼を悼み、泣き続けた。

 

 

 

 

「――失礼、しましたわ……」

 

 ひとしきり泣いた後、涙が枯れ果てたウルティナは、ようやく二人に向けて言葉を返した。

 憔悴したその顔は、いつもの快活な様子も見る影がない。この数日間ずっと彼を悼み続けてきたことがよく分かる、深い悲しみが刻まれた顔をしていた。

 

「二人とも、ごめんなさい……わたくし、すぐには切り替えられないですわ」

「無理すんな。さっきはあれこれ誘って悪かったな」

「……一緒にいるよ、ウルちゃん」

 

 アルフレッドは、持ってきた串を紙に包んでポーチにしまう。

 セレスは、ウルティナの肩を抱き寄せた。

 痛みを分かち合う。二人が取った選択である。

 それに、少女は静かに目を伏せ、胸の内を二人に分け合うのだった。

 

「……セバスは、わたくしの爺やでしたの」

 

 身の上話のように、ウルティナは切り出す。

 唐突な言葉だったが、二人は静かに次の言葉を待った。

 

「爺やというか、執事というか……物心ついた頃から、わたくしのお世話をずっとしてくれましたわ」

「それじゃあ、生まれた頃からずっと一緒だったんだね」

「ええ。両親や姉より、わたくしのことを分かってくれて……わたくしの好きなお菓子や好きなドレスを、すぐに当ててくれる。そんなセバスのことが、とても大好きで。まさに、おじいちゃんですわね。わたくしにとっての、おじいちゃん」

「おじいちゃん、か」

 

 懐かしむように、愛おしそうに。

 ウルティナはそう振り返る。

 

「わたくしがハンターになりたいと言っても、反対せずに稽古を付けてくれました。厳しくも優しく、いつも見守ってくれた……。姉を探して旅立つ時も、同行してくれて、世の中のことを教えてくれましたわ。ミナガルデ、ドンドルマ、バルバレ、そしてカムラの里……いろんなところを回りました」

「たくさんの街を、一緒に見て回ったんだね」

「ええ……楽しかったですわ。目に付くもの全部が、輝いていて……でもそうやって過ごせたのも、セバスがわたくしを守ってきてくれたから。本当にわたくしは、幸せ者ですわ」

「おっさんは、いつだってウルティナを第一にやってきてたもんな……」

 

 ウルティナを守るために、盾を構えるセバスチャンの姿。

 ドンドルマに入り込んだティガレックスの時も。

 森丘のライゼクスの時も。

 遺跡平原に現れたゴア•マガラの時も。

 そして、あのアカムトルムの前で――。

 いつでも、防ぎきれないと分かっていても、彼はウルティナを守ってきた。

 アルフレッドはその姿を思い出しながら、彼女を見る。

 彼が守り切った少女は、今ここにいる。

 

「おっさんは……やり遂げたんだな」

「え……?」

「いつだってお前さんのために生きてきたおっさんだ。最後まで、その信条に則って、やり遂げたんだなって。すげーよ」

「でも、そのせいで……そのせいで、セバスは……」

「セバスチャンさんは、いつだってウルちゃんの幸せを願ってたよ。いつもウルちゃんのためにって」

「……わたくしのために?」

「だから、きっと満足してると思うぜ。こうやって、お前さんはここに生きているんだから。ちゃんと息をして、飯を食って。元気に生きてるんだから」

 

 紙をめくって、くるんでいた串を取り出して。

 突き出されたそれを、ウルティナは受け取る。

 そして小さな、本当に小さな一口で、それを口に含んだ。

 

「……おいしい」

 

 チーズと肉が混ざり合う味が、彼女の感覚を呼び覚ます。

 彼女の瞳に、少しずつ光が戻っていくような。

 二人は何も言わずに、ただそう感じるのだった。

 

「……セバスにも、これを食べさせたかったですわ」

「そうだな……」

「この綺麗な山々も、一緒に見たかったですわ」

「うん……」

「わたくしがグレイビアードの当主になるところを、見てほしかった……」

 

 光が灯る瞳が、再び潤む。

 セレスは何も言わずに彼女をもう一度抱き寄せて、アルフレッドは静かにその頭を撫でる。

 三人は大事な仲間を、静かに悼んだ。

 

 

 

 

 

「――ここにいたのですね。ウル……」

 

 陽が落ち始めて、山が赤く染まる頃。

 背後から響く声に、三人は意識を呼び覚ます。

 聞き覚えのない声だと、アルフレッドは思う。

 セレスも同様だ。記憶を辿るように、瞳を瞼の裏側で上下左右させる。

 しかしウルティナは――彼女だけは、何かに気付いたように、はっと顔を上げるのだった。

 

「私を探していたと、里長から聞きました。だから、会いにきたけれど――道中で、全て聞いたわ」

 

 振り返った先には、燃えるように赤い髪の女性が立っていた。

 肩まで掛かる赤髪は、ウルティナ同様ウェーブが掛かり、優美に風に棚引いている。

 纏う防具は玉虫色に輝く装甲が眩しい、ゲネル•セルタスのもの。

 背負うは、影蜘蛛の甲殻を用いたスニークロッド。

 そして右腕には、赤い甲虫がしがみ付いていた。

 

「……お姉様」

 

 ウルティナが、そう呟いた。

 

「……えっ!?」

「ウルティナの……姉!?」

 

 二人がそう驚くと、目の前の彼女は、品の良い動作でお辞儀する。

 髪色こそ違えど、柔らかな髪とアメジスト色の瞳は、ウルティナとよく似ていた。

 間違いない。二人はそう確信した。

 

「お姉様、どうしてここに……」

「貴女とセバス、カムラの里に尋ねてくれたでしょう? その時はもう、私はエルガドにいてね。でも、ロンディーネ……カムラと行き来してる交易商から聞いたわ。二人組の男女が、私を探してたって。で、里に戻って里長から事情を聞いて、貴女たちを探し始めたの」

 

 カムラの里へ、姉を探しにいく。

 そう語っていたことを、セレスは思い出した。

 

「そこから、貴女たちを辿るのは簡単だったわ。だって、貴女たち、かなり名を上げてたんですもの。ゴア•マガラ、ダレン•モーラン、そして……覇竜。凄いわ。頑張ったのね……」

「う、うぅ……お姉様……お姉様ぁ!」

 

 ウルティナは幼子のように、涙を浮かべながら姉へと歩み寄る。

 それを優しく受け止める彼女は、桃色の髪を優しく撫でるのだった。

 

「それで、それで、セバスが……! セバスがわたくしを庇って……わたくしは、なんてことを……っ」

「自分を責めちゃダメ……貴女はずっと頑張ってきたんでしょう? セバスは、貴女が強くなって、こんなにも想ってくれて嬉しく感じてるわ、きっと」

「う、うぅ……」

「セバス……ウルを守ってくれて、ありがとう。しっかり休んでね、お疲れ様」

 

 ウルティナの腕の中にある骨壷を撫でながら、姉はそう語り掛ける。

 彼女を抱き寄せる傍ら、視線を寄せる二人に向けて、改めて挨拶をするのだった。

 

「申し遅れました。私、グレイビアード家の……っていっても、もう出てしまったのですけれど。そこの長女のベアトリスと申します。ウルティナとセバスチャンがお世話になっているそうで。えーと……」

「アルフレッドだ」

「セ、セレスです」

「アルフレッド様に、セレス様。貴方たちも、ウルを守ってくれたのですね。姉として、心から感謝致しますわ」

 

 改めて頭を下げる。

 その所作は、ウルティナとよく似ていた。

 育ちの良さを感じさせる佇まいは、彼女こそ探し求めていた姉その人であると、二人はひしひしと感じるのだった。

 

「……ね、ウル」

「……何ですの? お姉様」

 

 腕の中の妹に向けて、姉――ベアトリスは、優しく語り掛ける。

 

「ハンターとしていろんなことを経験して、悲しい別れをして……大冒険だったと思うわ。ね、貴女のハンター人生は、きっとこれからさらに深みを増すでしょう」

「……うん」

「このままおしまい、なんてことはないわよね。ううん、貴女が決めたなら、私はそれを尊重するけど……でもね」

 

 もったいないわ、と。

 それ以上は口にしなかったが、そう目で伝えた。

 ウルティナは、その目に応え、思いを口にする。

 

「……この世界の隅々まで知りたい。輝く大自然を感じたいですわ」

「うん」

「わたくし、ハンターを続けたいですわ。危険があるのは承知しています。でも、セバスが繋いでくれた命を、世界に……生命の循環に繋げていきたい」

 

 その言葉に、ベアトリスは嬉しそうに頷いた。

 そしてもう一度、妹を抱きしめる。桃色の髪に頬を寄せ、愛おしそうに撫でる。

 

「ウルの口からそう聞けて、良かった」

 

 姉の口ぶりも、ハンターのそれである。

 父も母も、姉もハンター。グレイビアード家はハンター一家であることを、アルフレッドは感じ取る。

 資産の基礎を築いたのも、ハンター稼業なのか、そもそもハンター制度ができる前から、それに準じる仕事をしてきたのか。

 いつか火薬庫が、古狩人と言っていたことを思い出す。

 そういった類のものかもしれない。彼はそう思った。

 

「あ、でもね」

 

 ベアトリスは、一度彼女を腕から解放する。

 息を整えさせるように、ウルティナに向けてある提案をするのだった。

 

「一度、お家に帰りましょう? ヴェルドに、父のところへ」

「え……」

「きっと、みんなセバスにお別れを言いたいでしょうし。何より、ウルの元気な姿を見せてあげなきゃ」

「……はい。セバスも、きっとお家に帰りたいですわよね」

 

 姉の言葉に、ウルティナは納得する。

 愛おしそうに壺を撫で、セバスチャンにそう語り掛けるのだった。

 返事はない。ただ、柔らかな風が吹いた。

 孫娘の如き主人の頬を、優しく撫でる風が。

 

「……うん。じゃ、ココット村行きの飛行船を取りましょう。そこから竜車で行けば、五日か、六日くらいで着けるでしょう」

「はい……お姉様も、帰っていただけるんですか?」

「ええ。一緒に行くわ」

「……!! わたくし、嬉しいですわ……!」

 

 まだ泣き腫らした顔ではあるが。

 それでもウルティナは、笑った。

 旅の念願が叶う、まさにその瞬間だった。

 

「……ウルちゃん良かったね。ずっと、お姉さんを探してたもんね」

「家督がどうとか言ってたが……今は野暮だな。とにかく、二人の再会を祝福するしかないぜ」

 

 セレスとアルフレッドも、二人に届かない声でそう言って、嬉しさを分かち合った。

 

「……アルフレッド様、セレス様」

 

 改めて、と言わんばかりの様子でウルティナが話し掛ける。

 姉の腕の中から抜け出て、セバスチャンの入った壺をしっかりと抱き上げながら。

 

「ありがとうございますわ。お二人のおかげで、今こうして姉と再会できました。セバスのことも、大変お世話になりました。主人として、お礼申し上げますわ」

「いや、こちらこそお役に立てて光栄だ。お嬢さん」

「再会おめでとう……! ずっと探してたもんね。良かった!」

「ありがとう……。わたくし、一度故郷へ帰ります。セバスを連れて……。でも、でもね」

 

 まだ頬も鼻も赤い。

 それでも、ウルティナは笑顔で高らかに宣言するのだった。

 

「わたくし、ハンターを続けますわ! だから、さようならじゃなくて……また。またねと言って、出発したいと思います。だから二人とも、また……ね」

「ああ。またな」

「元気でね! ウルちゃん!」

 

 

 

 

 

 ココット村へと飛び立つ飛行船。

 それに手を振りながら、アルフレッドとセレスは高原の風を静かに浴びていた。

 

「行っちゃった……」

「行っちまったな」

 

 ウルティナとセバスチャン、ベアトリスを乗せた飛行船が、どんどん小さくなっていく。

 そんな光景を見ながら、セレスは振る手をゆっくりと収める。

 収めて、ぽつりと呟いた。

 

「ウルちゃんは、すごいなぁ」

「どうしたんだ、急に」

 

 風に揺れる草原に腰掛け、両足を放り出すように伸ばして。

 セレスは、語り続ける。

 

「あたしみたいに、心が折れないんだもん。あの子はずっと強くて、ずっと広い世界を知ってる……すごいよ」

「セレスだって、折れなかっただろ。こうして今も狩りを続けてるし」

「それは……アルフがいてくれたから」

「なら、あの時声を掛けて良かったな。ディアブロスの時にさ」

 

 ハンターという仕事は、危険に満ち溢れている。

 いつだって死ぬ可能性がある。

 それに耐えきれず、職を辞す者も少なくない。

 ここは、そういう世界なのだ。

 

「……アルフは、怖くならないの?」

「うん?」

 

 あの覇竜のブレスを目の前にして、静かに笑っていた彼の姿を、セレスは思い出していた。

 それが心に引っ掛かり、彼に問い掛ける。

 胸を手で押さえながら。

 

「死ぬのが、アルフは怖くないの? 狩りをするのが、怖くないの?」

 

 不安そうな顔だった。

 大きな瞳が潤み、口元が微かに震えている。

 アルフレッドは、そんな彼女の横に腰掛けた。

 大きな体が舞い降り、草が舞う。

 

「俺はな、狩りが好きなんだ。命のやり取りが好きなんだよ」

「え……?」

「これまでに、たくさん殺してきた。だから、自分だけは穏やかに死のうなんてつもりも、毛頭ない」

「……それって」

「だから精一杯戦って、全力で命をぶつけて――その上で、死ぬなら本望さ。『あー、面白かった。疲れたー』……なんつってな。そう言って死ぬのが夢だな」

 

 屈託のない笑みでそう言うアルフレッド。

 セレスは、その笑みを前に胸が酷く痛むのを感じた。

 知らない間に、知らないところで、この人が死んでしまう。そんな恐怖を覚えるのだった。

 

「……とは言っても、その夢が果たされるのは、しばらくなさそうだけど」

「……え?」

 

 そう言いながら、アルフレッドは立ち上がる。

 太陽を背に振り返る彼は、歯を見せて笑った。

 まさに、少年のような笑顔だった。

 

「セレスが一緒に、いてくれるからな。あのアカムトルムの時みたいに、俺を守ってくれるから――だろ?」

 

 立ち上がるために、手を差し伸べる大男。

 普段は大人びて見える彼の、その屈託のない表情にセレスは目を丸くする。

 そんな顔をするんだ、という驚きと、普段の姿とは違う反面性に胸の高鳴りを感じていた。

 

「……うん!!」

 

 その手を掴み、引き上げられるように立ち上がる。

 セレスもまた、子どものような満面の笑顔で、彼に応えるのだった。 

 




これにてアカムトルム編はおしまいです。
そしてある意味、ウルティナとセバスチャンの旅の終わりでもあります。
別れというのは、いつだって悲しいですね。筋書きを作る時にこのように書いたものの、いざ本文に着手すると、辛くてなかなか筆が進みませんでした。
どうか安らかに。セバスチャン、お疲れ様。
ウルティナの姉、ベアトリスといいます。新キャラを増やしすぎるのもなと思いましたが、姉が未発見のままなのもどうかなと思って登場しました。次章でも出てくると思います。折角なので、操虫棍の描写もしたい!
それでは、次回の更新で。
次からは、いよいよ最終章です。
閲覧ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。