ラストリロード   作:しばじゃが

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鏖魔ディアブロス

 龍識船の医務室で、包帯に巻かれた大男。

 船を総括する隊長であるハイメルは、心の底から安堵の吐息を漏らすのだった。

 

「本当に、無事でよかったです。アルフレッドさん……!」

「無事か? 俺こんなんだぞ」

 

 角の猛攻に耐えきれず、破れた箇所は多くある。

 しかし、骨折などの大怪我はなかったのが幸いか。

 最後の一打は脳震盪となり、彼の自由を奪っていたものの――療養している今は、大きな影響はなさそうだ。

 

「命あっての物種です。レクスさんを派遣してよかった」

「そういえば、救難が何とかって言ってたな」

「彼、元々凄腕のハンターなんですが、今は救難支援に注力してくれているんです。彼の救難成功率は非常に高く、ギルドも高評価なんですよ」

「……初対面も、救援だったな。俺には当たりがきついけど」

「そうなんですか?」

「大方、武器のことで思うとこがあるんだろうな」

 

 ガンランスを見る目に、どこか異質な光が灯る。

 立ち入れない、彼の心の深い部分に、因縁めいたものがあるのだろう。

 アルフレッドはそう考えながらも、それ以上追求することなくベッドの上に転がった。

 半裸の、包帯だらけの大男が転がる姿は、それはそれは圧巻だった。

 

「三日後に、当艦の研究室にて、例の存在についての対策会議をします。アルフレッドさんにも、是非参加していただきたいのですが……」

「こんな状態なのにか?」

「貴方なら、三日もあれば治すでしょう?」

「……まぁな」

「だって、その目は全然消えてませんから」

 

 戦う意志が。

 そう付け加え、ハイメルは笑った。

 相変わらず人を見透かす奴だと、アルフレッドもまた、目を伏せながら笑うのだった。

 

「では、僕は会議の準備に回ります。アルフレッドさんは、しっかり休むこと!」

「ああ。飯は、多めに出してくれるか?」

「まぁ、いいでしょう。食糧班に掛け合ってみます。だから、早く治してくださいね」

 

 そう言って、ハイメルは医務室を後にした。

 ねだれば、酒も出してくれそうだとアルフレッドは思うものの、それ以上の要求は控えるのだった。

 右手の指は、今はよく動く。

 あの青い空とは打って変わり、木目の見える天井に、彼の大きな右手はよく映えた。

 

「二回目は、お前さんの勝ちか……」

 

 ここにはいない、あのディアブロスに向けて語り掛ける。

 一度目は勝った。

 しかし、二度目は手痛くやられてしまった。

 アルフレッドは、うっすらと笑みを浮かべる。

 

「面白い。三度目は、どうだろうな」

 

 心の中で、次の狩りの算段を立てる。

 身体中の血肉が湧き踊る感覚を、彼は覚えていた。

 悠長に寝られなさそうだ。そう思いながら、ゆっくりと身を起こす。

 ――ちょうどその時、セレスが医務室のドアを勢いよく開けるのだった。

 

「アルフ!!」

「……セレス」

 

 包帯だらけの相棒の姿に、セレスは大粒の涙を浮かべ始める。

 

「アルフ……アルフぅ……!」

 

 そのまま、彼に抱きついた。

 

「いっ……!」

「無事でよかった……! 生きてて、良かったよぅ……!!」

「いっ、いだ、いだだだ……ッ! いてぇよセレス!」

「やだ! 離したくない!」

 

 さらに力を込めて抱きしめ、大男はさらに呻く。

 その応酬はしばらく続き、解放される頃には、アルフレッドは精魂尽き果てた表情で崩れ落ちるのだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「……満足したか?」

「……してない」

 

 正面からでは飽きたのか、ベッドに座る大男を背後から羽交締めるセレス。その目は未だに涙を湛えているが、幾分か落ち着いたようだった。

 ただ、もう離すまいと彼の体に手を回し、背中にぴったりとくっついている。

 アルフレッドは妙な居心地の悪さと、鈍い痛みに眉間を歪めていた。

 

「アルフが死んじゃうかと思った。大怪我したって聞いて、びっくりしたんだから……!」

「悪かったよ。ちょっと突っ走っちまったな」

「もう……あたしがいない時に限って、こんなことに……」

「俺とは反対のエリアに調査に行ってたんだって? 俺の方が運が良かったな。いや、悪かったのか」

「もう!」

「い"っ……」

 

 腕に力を込められ、鈍い悲鳴が漏れる。

 

「……怪我は、どんな感じ?」

「折れてはない。内臓も無事だ」

「でも、包帯だらけだよ」

「ところどころ裂けてな。あと、頭も打った」

「うぅ……痛かったよね。辛かったよね」

「現在進行形で痛いんだが」

 

 羽交締めにされる痛みにアルフレッドは苦言を漏らすが、セレスはそれをあえて無視した。

 ぎゅっと、再び腕に力を込める。

 

「……死んじゃうかと思ったんだよ」

「悪かったよ」

「前の、アルフの言葉がずっと残っててね。不安なの」

「あん?」

 

 おずおずと、セレスが口にするのは、あの覇竜を倒した後の会話だった。

 アルフレッドからすれば、何気ない身の上話。しかしセレスにとっては、そうではなかった。

 そんな思いを乗せながら、彼女は広い背中に顔を埋める。

 

「……楽しかったって言って、死ぬのが夢だって。その時が来たんじゃないかって」

「ああ……」

「あたしがいない時に限って、そうなるんじゃないか、怖くて、不安で……」

「……軽率な発言だったな。悪かったよ」

 

 アルフレッドは困ったように頰を掻きながら、小さなため息をつく。

 そして、改めるように言葉を連ねた。

 

「死ぬもんかよ。死にかけたけど、セレスの顔が浮かんだんだ」

「え?」

 

 緩まる腕。

 アルフレッドは背中の彼女へと顔を向けながら、言葉を紡ぎ出す。

 

「このままあいつを逃したら、セレスが、エスト村が危ないってな。やりきったと思ったけど、死ぬに死にきれなかった」

「あたし……?」

「ああ。そこからは死に物狂いだ。それでも、レクスが来なければ死んでただろうけど。嫌な奴だが、感謝しないとな」

「レクスって、あの火山の時の、太刀使いの?」

「そうそう。あいつ、救難支援をよくやってるんだとよ。そういえば、なんか意味深なこと言ってたな……」

 

 遠い目で、考えに耽るアルフレッド。

 一方で、セレスは不安そうに目を泳がせる。

 彼の体を、ぎゅっと締めて体を近づけるのだった。

 

「……どうした?」

「あたしを、エスト村を思い出すって……なんだか嫌な予感がして」

「隠してもしょうがないから、言うぞ。俺をこうしたのはあのディアブロスだ」

「……嘘って、言ってよ」

「こればっかしはな」

 

 抱き締める腕が、震えている。

 

「どうしよう。あれが生きてたなんて、考えたくないよ」

「どころか、前よりも遥かに強くなってやがる。俺もこんなザマだ。参ったな」

「やっぱり、縄張りを奪い返しにきてるの?」

「足取りは、まさにそんな感じだ。追い込まれた火山地帯から、砂漠の方へと戻ってる。明らかに、前の生息地を目指している」

「そんな……」

 

 セレスにとっては、まさにトラウマの象徴だ。

 かつて彼女を完膚なきまで叩きのめし、彼女の故郷を脅かした存在である。

 そして彼女に、狩りに対する恐怖を根付かせた原因でもある。

 

「あたしの故郷は、もう終わりなの? 守れないの……?」

「いや、守るさ」

 

 アルフレッドは、自身の胸に回った手をそっと握った。

 小さく、柔らかな感触が彼の手の平に走る。

 

「三日後に、対策会議がある。俺はそれに出る。あいつを何とかしたい気持ちは、俺も同じだ」

「え……」

「お前さんの故郷に行って、村の空気やお前さんの家族を肌で感じて、今は他人のつもりはないからな。エスト村を救うぞ」

「アルフ……」

 

 セレスの、翡翠色の瞳には、今もなお大粒の涙が浮かんでいる。

 それは、不安さか、畏れか、それとも相棒に対する畏敬の念か。

 

「それに、一回負かした相手に負かされたんだ。今度は俺の番だ」

 

 そう言って笑う彼の表情は、獰猛な獣のそれだ。

 セレスはあまりある不安を感じながらも、それでもそこに、アルフレッドらしさを見出すのだった。

 

「相変わらずだね、アルフは」

「そうか?」

「怖く、ないの?」

「……まぁ、全くと言ったら嘘になる。でも、それ以上に血が騒ぐんだ。セレスは、どうだ?」

 

 アルフレッドの仰ぎには、セレスは強い抱擁で応えた。

 

「……怖いよな。不躾な質問だったな」

「うん、怖いよ。あのディアブロスも、故郷を失うのも、それに、君を失うのも」

 

 腕に、さらに力を込める。

 

「あたしたちのために、アルフに傷ついてほしくない。故郷のみんなも、無事でいて欲しい。それに、あのディアブロスには二度と会いたくない。これが、あたしの本音」

「……うん」

「でも、みんなを守るために、できることはある」

「……ああ」

 

 そう言いながら、彼女は腕の力を少しずつ緩めた。

 ようやく拘束から逃れたアルフレッドは、ゆっくりと振り返る。

 肩が震える少女だったが――その翡翠色の瞳には、覚悟の炎が灯っていた。

 

「だって、あたしはハンターだから」

「……そうだな」

 

 アルフレッドは、静かに笑う。

 こちら側へようこそ、と。言わんばかりの表情で。

 

「やるか、俺たちで。今度こそ、あいつを仕留めるぞ」

「……うん」

 

 不安と恐怖で満ち溢れそうなセレスだったが、不敵に笑うアルフレッドを前にすると、不思議とその波は消えていくのだった。

 こてんと、彼の胸に額を寄せる。

 アルフレッドはそれを引き剥がすこともなく、静かに受け入れた。

 

「……アルフは、大きいね」

「まぁな」

「体が……じゃなくて。いや、体も大きいんだけど」

 

 分厚い胸板に頬を擦らせながら、セレスは静かに呟く。

 彼の耳に届かないほど、か細い声量で。

 ――ありがとう、と。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「お集まりいただきありがとうございます、みなさん」

 

 龍識船、研究室。

 そこに集められた関係者たちに向けて、調査隊の長であるハイメルが頭を下げた。

 

「この度集まっていただいたのは他でもありません。砂漠に著しい影響を与えている、あるモンスターについてです」

 

 そう言いながら、広げる羊皮紙。

 描かれるは、角竜ディアブロスの図。

 いや、それは元の体色とは掛け離れた、紺色で塗りたくられた異質なもの。事情の知らぬ者は、首を傾げた。

 

「ディアブロス? 何故、こんな色を?」

「いや、そもそもディアブロスに爪はないだろう。砂漠にあった死体にはどれも、爪痕が刻まれていたのではなかったのか?」

「爪、という認識が、そもそもの誤りだったのです」

 

 研究者たちの問いを、ハイメルは一蹴する。

 そして、酒場のマスターであるラヴァンダは、扇をぴしゃりと閉じて、その名を口にした。

 

「――私たちが過去に追っていた個体。それと同じような変異を辿った者。三叉に裂けた角で、目に映る全てを鏖殺する悪魔。準えて、同じように呼ぶことにするわね。あれは、『鏖魔(おうま)ディアブロス』よ」

「……鏖魔……って、ことは」

「ええ。我々を廃業に追い込んだ、あの個体と同様――もしくはそれ以上に危険な個体となりますね」

「鏖魔ディアブロス様症状(ようしょうじょう)のディアブロス……長いので、ここは鏖魔ディアブロスと呼ばせていただきましょう。かの個体は、かつて砂漠で猛威を振るい、ここにいるハンターが撃退しました。アルフレッドさん、セレスさん」

 

 ハイメルの招きを受け、呼ばれた二人は前に出る。

 一人、包帯だらけの大柄な男。

 一人、彼とは対照的に小柄な少女。

 

「彼らは砂漠であれと戦い、縄張りから追い出しました。そこから、バルバレギルドの観測隊が足取りを追ったそうです」

 

 取り出した巻紙は、その行動履歴を書き込んだ地図。

 縄張りを追われ、砂漠にひしめく強豪たちから逃げるように、ディアブロスは火山地帯へと潜り込んだ。

 足取りは、そこで途絶えている。

 

「……残念ながら、火山に入り込んだところで、それ以上の観測は行われませんでした。理由は二つ。一つは、火山地帯の活性化です。思えば、先のアカムトルムの出現が、その原因かもしれませんね。そして二つ目は、ディアブロスは火山で長くは生き延びられないだろうという結論に至ったからです」

 

 ハイメルは、そう言葉を繋げたのちに、静かに目を伏せた。

 

「……ところが、火山には火薬草があります。我々ガンナーなら、よくお世話になったもの。そうですよね、セレス様」

 

 ウェーナーの問い掛けに、頷くセレス。

 ラヴァンダは、扇を勢いよく開きながら、その先を口にした。

 

「そう、あのディアブロスは火薬草で食い繋いだと考えられるわ。何故なら、あれもサボテンの一種だから」

「なんと!」

「そんなことが、可能なのですか」

 

 研究員たちにどよめきが走る。

 無理もない。

 ディアブロスは、砂漠にしか生息しない。それが彼らの認識だったから。

 

「あれが鏖魔ディアブロスと同様の変異をしているとしたら、おそらく熱に対する強い耐性を持っているでしょう。ねぇ、アルフレッドさん」

「ああ。実際、ガンランスの砲弾も、熱を帯びた斬撃も、大して効かなかった。背中の甲殻は特に厚い。腹側はそれなりに通るが、極めて危険だ。無理に狙うと、こうなる」

 

 包帯だらけの、自身の体を指差す大男の姿に、研究員たちは生唾を飲んだ。

 

「……あれを野放しにするのは、危険です。現に、元々の縄張りを奪い返しにきている。となると、付近にある村々が危ない。エスト村、マデュラ村など、小村がいくつもあります」

「それに、バルバレもね。砂漠の商隊なんて、真っ先に目をつけられかねないわ」

 

 ラヴァンダの付け加えに、ハイメルは頷き――静かに、しかし力強い声で宣言するのだった。

 かの竜を仕留めるための、作戦を。

 

「鏖魔討伐作戦。その始動をさせていただきます。龍識船、龍歴院の全力をもって、あの竜を止めなければなりません」

「とはいっても……どうするね? あれと戦う者が要る。あれを倒せるとなると、一体誰を」

 

 研究員の、もっともな疑問だった。

 しかしラヴァンダとウェーナーは、頷き合う。

 意見は一致している。そう言わんばかりに、ふっと微笑むのだった。

 

「私たちは、この二人を推薦するわ」

「アルフレッド様とセレス様。お二人なら、きっと」

 

 その推薦は、誰もが納得するものではなかった。

 同調する者もいれば、眉を潜ませる者もいる。研究員の中でも、意見が分かれている。

 

「二人とも、一度やられているんですよね? そんな二人に任せるというのは」

「ガンランスでも、効果は薄かったのでしょう?」

「彼はどうです? あの銃槍使いを救援したという男……」

「いやでも、彼らは経験値がある。一度戦ったという経験が」

「知っているからこそ、対策を練れるのではないでしょうか。一任する価値はある」

 

 賑わう研究員たちを見て、アルフレッドは静かにセレスに耳打ちする。

 困ったように、呆れたように。

 そんな言葉が似合う、辟易とした声だった。

 

「狩りに行かねぇ奴らが、一番声がでかいんだな」

「う、うん……」

「大丈夫か? 今から、まだ降りれると思うぞ」

「……ううん。降りない。あたしは、君の隣にいたい」

「そうか、分かった」

 

 真紅の瞳と翡翠の瞳が、交差する。

 揺るぎないセレスの瞳に、アルフレッドは応えるように頷いた。

 

「僕も、二人を推薦します」

 

 研究員たちの議論を諌める、声。

 切り出したのは、ハイメルだった。

 

「覇竜から我々を守ったのも、彼らです。僕は、彼らの力を信じます」

 

 迷いのないその声は、反論をも抑え込む。

 

「それに、僕や酒場の二人だけではありません。他にも推薦者がいます」

「そうなのか?」

「だ、誰が……?」

 

 当のアルフレッドとセレスも、疑問に思うその答え。

 ハイメルはにこっと微笑み、その名を語った。

 

「バルバレギルドのマスター。そして、元筆頭リーダーのジュリアス。お二人からの推薦です。アルフレッドさんとセレスさんに、託したいと。そう窺っております」

 

 それ以上の反論は無意味だと、誰もが納得する。

 二人が本作戦の要であるという、事実上の通告となった。

 

「……みなさんも、よろしいですかね。それでは、アルフレッドさん、セレスさん。よろしくお願いします」

「ああ。任せろ」

「が、頑張ります!」

 

 ハイメルは深々と頭を下げ、ラヴァンダとウェーナーは静かに頷き、互いの拳を打ちつけ合った。

 アルフレッドとセレスもまた、お互いを見合って小さく笑う。迷いを断ったわけではない。しかし、覚悟は決めた顔だった。

 

「あのー、ところで」

 

 一人の研究員が、口を挟む。

 

「どうしました?」

「いえ、あの、ガンランスの砲弾でも効果が薄いモンスター相手に、どう戦うのですか?」

 

 もっともな問いである。

 破壊力に優れるガンランス。それが通用しにくい相手となると、取れる手段が限られる。

 しかしアルフレッドの目には、迷いはなかった。

 獣のように、歯を見せながら笑う。

 

「策はある。あの、アカムトルムにも使った弾があるんだ――」

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「――で、わしの出番というわけか」

「ああ。頼むぜ、爺さん」

 

 ドンドルマの路地、火薬庫。

 白羽の矢が立ったのは、この煤に塗れた老人であった。

 

「鏖魔ディアブロス。アームオブティランでも歯が立たない相手、か」

「前はオルトリンデでやったが、それでもキツかった。あいつを倒すには、特別な兵装がいる」

「……つまり、なんじゃ?」

「前、爺さんがくれた特殊弾。あれを使える砲身は、ないか」

 

 あのアカムトルムをも仕留めた特殊弾。

 火竜の煌液を用いたその砲弾は、青い吐息のような砲炎を弾き出す。

 リオレウス希少種の撃ち出す炎――獄龍炎ブレスのようなそれは、通常の砲弾と比較にならない威力をもっていた。

 

「砲身、か」

「レギオンですら、耐えられなかった。あの弾を多用するには、特殊な砲身が必要だと思う。でもあれを使えれば、奴の外殻を砕けるはず」

「多用はできんぞ。在庫も少ない。何せ、素材が素材だからな」

「分かってる。砲弾頼りにならないようにする」

「斬るにも硬い相手なんじゃろ? 竜の息吹でも、外殻は斬れんかったと」

 

 調査レポートを読みながら、火薬庫は頭を掻いた。

 それは鏖魔ディアブロスの厄介な特性ゆえか、それともアルフレッドの拙い文字のせいか。

 

「……熱を帯びて、斬れ味を研ぎ澄ませるモンスターが、いたよな」

「なぬ?」

「そしてそれを、爺さんは仕上げただろ。覇山竜撃砲にも耐えうる武器として」

「……ああ。会心の出来じゃったな」

「そして今、ここにその特殊個体の素材がある」

 

 カウンターに、勢いよく置いた革袋。

 中に押し込まれているのは、赤と青と、橙色を混ぜ込んだような甲殻。中には、氷結袋に包まれる特殊な燼粉が異彩を放っている。

 

「……こいつは」

「燼滅刃ディノバルドの素材だ。これで、ブルアノヴァを強化できないか?」

「ほう、そうかそうか……。なるほどのう」

 

 大斬銃槍ブルアノヴァ。

 かつてゴア•マガラに対する決戦兵器として運用されたガンランス。

 大剣の如き尾を加工した、大振りの穂先が目を惹く業物である。込められた弾は拡散型のものだったが、アルフレッドはそこに切り込むのだった。

 担いできたその武器を、彼はカウンターに静かに寝かせ、火薬庫に向けて問い掛けた。

 

「今回は、通常型にカスタマイズしてくれないか」

「何? 砲撃タイプごと変えるのか?」

「あいつは隙が少ない。その少ない隙に、大きな一打を入れなきゃいけない。通常型なら、最も都合がいい」

「ふむ。ま、規格が小さい分、弾も多く作れるか。やれるかもしれんな」

「どれくらい準備できる?」

「まぁ、シリンダーにして三個分かの。ラストリロード、なんて名付けたが……これじゃ名前詐欺じゃな」

「でも、多い方がありがたい。頼む」

「あいわかった! 作ってやろう、最高の品を。大斬銃槍を超える、真なる銃槍を!」

 

 火薬庫が、黄ばんだ歯を見せながら笑う。

 狂った科学者の如きその笑みで、彼は早々と設計図に着手し始めた。

 

「真の大斬銃槍か、いいね。名前は?」

「大を斬る、改め真を斬る……いや、真をも滅する一振りを。"真滅銃槍ブルアノヴァ"じゃ!」

 

 カウンターに寝かされたブルアノヴァが、ランタンの光を浴びては静かに明滅する。

 それは新たな進化の予兆のようだと、アルフレッドは感じるのだった。

 




さあ、ここからが反撃開始だ!
第五章は丸々鏖魔ディアブロスに使います。もちろん準備のために他のモンスターが出ることはありますが、大筋は鏖魔ディアブロスです。
ブルアノヴァのデザイン、本当に好きなんですよね。なぜアイスボーンでは採用しなかったのか…。チャージアックスは固有デザインがあるだけに、悲しみを感じます。ワイルズでの参戦、待ってるからな!グラビモスの復活も見えたし、がんばってくれ!
それでは、閲覧ありがとうございました。
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