ラストリロード   作:しばじゃが

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金獅子を狩って参れ!

「あ、そうじゃ」

 

 真滅銃槍ブルアノヴァの開発に着手する火薬庫。

 設計図のために筆を走らせていた彼が、思いついたように言った。

 

「あの砲弾に耐えれるものとなると、素材が限られてくるぞ」

 

 新たな銃槍の姿を思い描いては、気の抜けた笑みが止まらない。

 そんなアルフレッドだったが、彼の言葉に誘われるまま、現実に引き戻される。

 

「……え? なんだって?」

「何じゃ、聞こえんかったのか? 特殊な素材がいるから、高くつくぞと言ったんじゃ」

「あん? 燼滅刃じゃ足りないのか? あれも、かなり爆発に強いと思うが」

「足りんとは言わんが、十分ではないな。獄龍炎の爆発力に耐えれるもの……それ相応の準備がいる」

 

 そう言いながら、彼はユクモ式の計算機を弾く。

 パチパチと音を立てるそれは、木の弾ける小気味良い音を奏でた。

 

「どんぶり勘定だが、これくらいは掛かるな」

「は?」

 

 思わず見開く目。

 想像以上の値段が、そこにある。

 

「……何……桁間違ってねぇか?」

「いや、あの砲弾に耐えれるものじゃ。これくらいはする。払えるかの?」

 

 値段が釣り上がる大きな原因は、その素材元――ブラキディオスの特殊個体、その甲殻を要するという。

 しかし、そもそも確認自体が稀であるため、今は流通している素材を仕入れるしかない。そしてそれが、非常に高価なのだ。

 その結果、提示された額は、金のたまごにして何十個分に相当するのだろうか。

 想定外の値段に、アルフレッドは思わず口が開いてしまう。

 否、開いた口が塞がらないのだった。

 

「ディアブロスを倒すために、金がいる……ってことか」

 

 新たな難題に、大男は悩む。

 狩りをするにも、金が掛かる。駆け出しの頃以来、久方ぶりに現れた金欠という悩み。

 アルフレッドに、残された手段とは――。

 

「稼ぐしかない。何とかして、金を捻出するしか――」

 

 

 

 

 それからの彼は、血走った目でクエストボードを見る、不審な大男となる他なかった。

 街を回り、酒場を回り、血眼になって高額依頼を探す。

 しかし、そんな時に限って、大きな依頼は訪れない。労力の割に実入の少ない仕事ばかり。

 アルフレッドは、大いに頭を悩ませた。

 

「受付嬢さんよ! なんかいい依頼はないか!」

「卵運搬が入ってますよ。どうでしょう」

「やらねぇ! 大型モンスターはないか!」

「ないですねぇ……なりを潜めているのか、大きな依頼は来てないみたいです」

「クソ……次だ次!」

 

 

 

「隊長! 龍歴院の調査でもなんでもいい! 実入りのいい依頼はないか!」

「あるにはありますけど……超遠方ですよ。フォンロン地方の塔近辺の探索。季節二つは跨いでしまいます」

「それは流石に無理だ! くっそ……!」

 

 

 

「ドンドルマの酒場なら、あるいは……! セレスにも頼れねぇ。単身で、儲かる仕事をしねぇと……!」

「小型モンスターキャンペーンだよ! ランポス、ゲネポス、イーオス! 小型モンスターの駆除にご協力を!」

「……っ! ほ、報酬は!」

「日当たり3000ゼニーから! 小型モンスターにこの値段はなかなかないよ!」

「や、安すぎる……!!」

 

 

 

「ちくしょう……これじゃ、あいつを、倒せねぇ……!!」

  

 どのクエストボードを見ても、芳しい依頼はない。

 アルフレッドは大きな困難に直面していた。

 報酬を多く得るために、一人でできる、時間のかからない、単価の多い大型モンスターの狩猟依頼。

 しかし、その条件を満たすものはない。

 ドンドルマの路地で、大男が膝をつく。

 それはそれは、異様な光景だっただろう。

 

「どうすんだ、俺。このままじゃ、ディアブロスに会うのすら夢のまた夢。金、金……どうすれば、稼げる?」

 

 かき集めた依頼書も、今の彼を満たす者はない。

 このまま時間を無駄にすれば、鏖魔ディアブロスによる被害はますます大きくなる。

 かといって、龍歴院やギルドは、基本的には資金援助は行わない。あくまでも依頼の仲介者であり、武具の整備はハンターの自己責任だ。

 

「クソ……こんなことしてる場合じゃねぇのに。推薦しといて、その後はお好きにどうぞって、冷たすぎやしねぇか……!」

 

 頭を抱える大男に、往来の人々は首を傾げながらも関わらないように通り過ぎていく。

 

「てか、相手に合わせて武器作ってりゃそりゃそうなるだろ! でも、手持ちの武器を売ろうったって、レギオンもティランも壊しちまってるし……しかも、防具も新調しようと思ったら、どうなっちまうんだ!」

 

 ディアブロスと相対する時以上に、絶望に染まるアルフレッド。

 そんな大男の背後から、まっすぐ歩く人影が、一つ。

 

「あの咆哮を防ぐためにも、防具の作成に強化……金が、金が足りねぇ……! くっそ……!」

 

 大男の肩に、その人影はそっと手を置いた。

 色白で華奢なその手が、大柄な肩を撫でる。

 

「――お金、必要なんですの?」

「あ、あ……お前、さんは……」

 

 振り返るアルフレッド。

 背後に立っていたのは、予想だにしていない相手だった。

 

「お久しぶりですわ。そして、話を聞きましたわ。セレスちゃんの故郷を守るための戦いなんですって?」

「なんでここに……だって、お前さん……」

「それ相応の、準備が必要なんでしょう? 資金援助……は、まだ当主になりきれてないのでできませんが、良い仕事は斡旋できましてよ」

「良い、依頼……?」

 

 桃色の髪を揺らしながら、少女が気高く笑う。

 手の甲を口元に当てながら笑う、形式ばった仕草で取り出すは、高級な羊皮紙に記された一枚の依頼書だった。

 

「グレイビアード家は、王家の遠縁! その人脈を行使する時が来ましたわ。さぁ、狩りに行きますわよ! アルフレッド様!」

 

 高飛車な態度でそう言う少女――ウルティナは、彼の手を引く。

 彼の求める狩りへと、誘うのだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「……で、急に遺跡平原に集合ってなったんだね」

「ひさしぶりですわ! セレスちゃん!」

「ウルちゃん! 元気そうで何よりだよ!」

「ええ! わたくし、また一緒に狩りに行けて嬉しいですわ!」

「もう、大丈夫なの? ハンター業に復帰?」

「いつまでも、立ち止まっていてはいけませんもの。ウルティナ、完全復活ですわ!」

「そっか……また一緒に頑張ろうね!」

 

 突然召集をかけられ、遺跡平原にて現地集合をしたセレス。

 友人との再会に喜びつつも、彼女が持ってきた依頼書には、奇妙な違和感を抱くのだった。

 

「……だけど、何? この依頼」

「……『金獅子を狩って参れ』……何言ってんだこいつ」

「ちょっと! 相手は第三王女ですわ! そんな物言い、不敬でございますわよ!」

 

 ウルティナが持ってきた依頼書は、ギルドが発行する一般的な羊皮紙ではない。

 刻まれしは、王族の印。

 その材質も最高品質のもの。

 正真正銘、王家からの依頼書である。

 

「……王女って、この国のか?」

「そうですわ!」

「ウルちゃんの遠縁っていう、あの?」

「はい。昔から親交がありまして、王女とも仲良しなんですの。そんな彼女から、金獅子素材の外套が欲しいという依頼が来ましたわ」

「金獅子って、超危険なモンスターだよね。そんな、ガウシカみたいにあっさりと……」

「王族の考えることは、よく分からんな」

 

 依頼文を要約すると、金獅子素材で外套や手袋を作ってきたが、まだ寒い。もっと毛皮を持ってこい。そんなところである。

 あまりにも突飛なその依頼に驚きつつも、アルフレッドは銃槍に弾を込め直した。セレスも同様に、通常弾のマガジンを装填する。

 

「ラージャンを仕留めるって、そんなことできるかな」

「そうですわね。とても強い生き物というので、わたくしとアルフレッド様だけでは難しいと思いまして。だから、セレスちゃんにも救援を送らせていただきましたの」

「あ、あたしで足りるかな? ちょっと買い被りすぎじゃ――」

 

 不安そうに二人を見上げるセレス。

 そんな彼女に、励ましの声を掛けようとした瞬間に、別の人物の声が響いた。

 

「あ、みんないたわね。ラージャン、確かにこの先の遺跡地帯にいるわよ」

 

 そう言いながら歩いてくるのは、ゲネル•セルタスの鎧に身を包んだ女性。

 真紅の髪をウェーブさせるその姿は、髪色こそ違えど、ウルティナとよく似ていた。

 アルフレッドとセレスは一度脳内の記憶を手探りに辿り、目の前の女性の正体に気付くのだった。

 

「――あ、お前さん、ウルティナの……!」

「お、お姉さん!?」

「はい。ベアトリスです。お二人とも、ご無沙汰しております〜」

 

 そう言いながら優雅な所作でお辞儀する女性は、かつてベルナ村でウルティナとセバスチャンを迎えにきた、グレイビアード家の長女、ベアトリスであった。

 思わぬ再会に驚く二人。

 一方で、ウルティナは照れくさそうに笑った。

 

「今回のことを話したら、お姉様も協力を申し出てくださって……! 同伴してくださいましたわ。言っておきますが、強いですわよ」

「そんなに期待しないで頂戴ね。ウル、大口を叩かないの」

「でも、エルガドで傀……異? なんかよく分かんないですけど、変異モンスターの対処に当たってるんでしょう? かなり凄腕って、評判と聞いてますわ!」

「提督や教官も言い過ぎなのよ。ま、やるからにはしっかり働きますけど」

 

 そう言いながら、しゃらんと操虫棍を鳴らす。

 彼女の右腕には、赤い甲殻の甲虫が一匹。その華奢な腕にしがみつき、甲高い声で呼応する。

 その所作は、間違いなくマスターランクのハンターのそれである。アルフレッドは、何となくではあるが、彼女の実力を察するのだった。

 

「……お前さんとこは、本当に狩人一族なんだな。ま、人手が多いのはありがたい。それに、ラージャンに勝てないようじゃ、あのディアブロスにも勝てやしない」

 

 両拳をぶつけ、気合を入れ直す。

 

「受け流しの技を、確かなものにする。ラージャンか、相手にとって不足はない……!」

 

 ラージャン。

 古龍級生物。

 かつて、同じく古龍級生物であるイビルジョーと相対した時は、手も足も出なかった。

 今はどうだ。

 己の実力を確かめるには、十分な相手。

 何より、依頼者は王家だ。大金を得るまたとないチャンスである。

 そう言い聞かせ、震える体に鞭を打つ。アルフレッドも、そしてセレスも。

 遺跡の向こうから響く、恐ろしい猿叫に立ち向かうように。力強く大地を踏み締め、遺跡の奥へと足を踏み入れた。

 

 ――キャンプで待つように、と指示されたガルク。

 ベアトリスの相棒である、妃蜘蛛の鎧を纏った彼が、甲高い声で吠える。

 狩りの始まりを告げる笛のようだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 振り下ろされる、両腕。

 あまりにも肥大した前足が、赤い遺跡を簡単に打ち砕いた。

 

「うおおおぉっ!! あぶねぇ!」

「大丈夫ですの!?」

「半端ねぇな! これがラージャン……!」

 

 金の毛並みに身を湛えたそれは、ババコンガやドドブランゴと大差の無い体躯である。

 しかし、その剛腕から繰り出される破壊力は、比べものにならなかった。

 そして、その口から解き放たれる光も、牙獣種のそれとは思えぬものであった。

 

「セレス! 伏せろ!」

「わっ、わわわ!」

 

 狙撃をするセレスを、狙撃し返すその一撃。

 気光と呼ばれる体内エネルギーを放出したそれは、黄金の輝きを放つ光の帯となって遺跡平原を照らした。

 セレスの真上を穿ち、石壁を容易く溶かしていく。

 

「なんて生き物だ……やべぇな」

「でも、これを狩らねば明日はないですわよ!」

 

 鬼人の粉塵、硬化の粉塵を撒きながら、ウルティナは前に出る。

 ラージャンは、超攻撃的生物とも呼ばれている。

 目につく者を破壊し尽くさんとする様子は、まさに破壊の申し子。数々の生態系を渡り歩き、著しい影響を及ぼすのだ。そしてその危険度から、研究もあまり進んでいない未知の生き物と言える。

 今回の依頼は第三王女の個人的欲求を満たすものであると同時に、必要のない毛皮以外の部位はギルドが研究のため利用するという契約になっている。さらに、環境への影響を抑えるという観点から特別手当も加算されているため、王家、ギルド双方から多額の報奨金が発生しているという状態なのだ。

 ハイリスク、ハイリターン。

 アルフレッドにとっては、背に腹を替えられない状況である。

 

「オオオォォォ!!」

 

 踏み込み、渾身の叩き付け。

 牙獣種とは思えぬ一対の角に向けて、オルトリンデを振り下ろす。

 雌火竜の甲殻と棘をふんだんに使ったそれが、ラージャンの頭部を砕く――なんてことはなく。

 何とも身軽な動作で、横に避けるのであった。

 

「なっ……」

 

 お返しと言わんばかりの、拳。

 あまりに大きなそれが、アルフレッドに迫る。

 

「ちっ!」

 

 すかさず盾を振り上げ、その拳を上へと逸らした。

 かつてジャストガードの伝授のために、セバスチャンがやってみせた、拳の軌道を逸らす技。

 それを、ラージャン相手にやってみせたアルフレッド。

 確かな手応えが、彼を満たす。

 が、それも束の間。

 何事もなかったかのように、反対の拳が振り下ろされる。

 

「がっ……!!」

 

 それに打ち付けられ、吹き飛ぶアルフレッド。

 セレスはその隙をカバーするように、氷結弾を乱射する。

 

「アルフ! 大丈夫!?」

「わたくしが回復しますわ!」

 

 生命の大粉塵を撒き散らすウルティナ。

 セレスは少しほっとするも、引き金は緩めない。

 ラージャンの頭部に向けて、正確に氷結弾を射抜いていく。

 

「効いてますわ!」

 

 こめかみを撃たれて仰け反る金獅子に、ウルティナは斬り掛かる。

 ラージャンは、甲殻を持たない。毛皮と筋肉だけの、牙獣種らしい体付きである。

 彼女のレイピアは軽くその毛皮を貫き、鮮血を撒き散らした。確かな手応え。ウルティナもまた、好戦的に笑う。

 

「いける……いけるかもしれませんわ! わたくしにも!」

 

 何度も放った突きを、折り畳むが如く。瞬時にレイピアを引き、逆手に持ち替える。

 屈ませた体をバネのようにし、金獅子の真上へと跳び上がった。

 空中からの落下突き。それはさながら。猛禽類の強襲だ。鋭い一閃が、金獅子に襲い掛かる。

 ――しかしその切先は、あっさりと弾かれた。

 甲殻もないのに、太い腕を覆う筋肉に、あっさりと弾かれた。

 

「えっ……」

 

 見れば、その腕はさらに肥大化し、赤く湧き上がっている。

 体毛を満たす水分は瞬く間に蒸発し、白い湯気を立ち昇らせた。身体中から溢れる闘気が、蒸気となって空を染める。ラージャンの怒気が、大気を揺るがした。

 振りかざす、巨腕。

 桃毛の少女を、叩き潰さんとする。

 

「――前に出過ぎよ、ウル」

 

 空中から、狙い澄ましたような突き。

 それが脳天を射抜き、流石の金獅子も痛みに怯んだ。

 しかしそれも一瞬。想定外の方向からの攻撃に冷静さを取り戻し、背後に跳ぶ。強かなこの獣を前に、ハンターたちも改めて武器を構え直した。

 その中の、片手剣使いを諌めるように。

 操虫棍を巧みに振るって着地する女性は、しゃらんと武器を鳴らすのだった。

 

「あくまでサポートに徹すること。金獅子は危険よ。貴女は、当主になるんでしょう?」

「で、ですが、一緒に狩りをするからには、わたくしだって!」

「無理は禁物。それに、今回は彼――アルフレッド様の、死に物狂いの修行なんだから。見せ場を奪っちゃダメよ」

 

 その言葉に押されたように、アルフレッドは前に出る。

 銃槍を構え直し、金獅子の注意を引いた。

 無謀とも言えるその所作。

 ラージャンは鼻を鳴らしながら、両腕を大きく広げる。

 

「アルフ、盾はダメ! 手が開いてる! 掴まれるよ!」

「おいおい、マジか……防がせろよ!」

 

 セレスの声に、反射的にスライディングしたアルフレッド。

 彼の真上が、握り潰されんばかりに掴まれた。

 しかし、狙いの男は股の下。

 その臀部に向けて、放たれるは竜杭弾。

 反撃の一撃に、ラージャンは跳び上がるのだった。

 

「……ドカン!」

 

 掛け声と共に、杭に仕込まれた火薬が炸裂する。

 股下というガードの薄い急所を撃たれ、金獅子の体勢は大きく傾いた。

 

「オオオオオォォ!!」

 

 砲撃と同時に、その反動を推進力にするように前に出て。

 勢いを斬撃に乗せて、薙ぎ払い。

 さらに、それを袈裟斬りに変える。

 引き金を連続で引きながら。つまりその斬撃は、フルバーストを孕んだ連撃となる。

 

「まだまだ!」

 

 再装填。

 続け様に竜杭弾とフルバーストを叩き込む。

 連装フルバーストと呼ばれる一連の動作だったが――金獅子の素早い反撃が止める。

 装填中に構えた盾が、辛うじて直撃を防いだ。

 

「ぐっ……!」

 

 体勢を低め、角を前に出す。

 シンプルな突進だった。

 アルフレッドを襲う、その一撃。

 しかし彼は、盾を前に出す。

 同時に、背後に跳んだ。

 

「アルフ!」

 

 セレスの、悲鳴じみた声が響くが――。

 アルフレッドは、空中で受け切り、突進の勢いを殺す。

 同時に、途中だった装填をこなし、着地。獅子の猛攻を、いなし切った。

 反撃と言わんばかりの突きを、頭部に返す。

 

「来い……!」

 

 怒りに満ちたラージャンは、再び拳を振り上げる。

 両手で眼前の敵を連打する、金獅子らしい猛攻だ。

 しかしアルフレッドは、盾と槍を構え直す。

 

「正面から受ける気なのね……!」

「無茶ですわ!」

「もしもの時はあたしがカバーするよ!」

 

 迫る右腕。

 ガンランスの斬り上げで、軌道を逸らす。

 振るう左腕。

 盾を殴り付け、虚空を打たせる。

 右腕、左腕、右手、左手、右、左、右、左――。

 何度も叩き付けられるそれを、アルフレッドは冷静に捌く。

 最後の右腕は、何度も振られて熱が逃げたのか、硬化がかなり和らいでいた。

 そのため、斬り上げた穂先が簡単に埋まった。

 

「これだ……!」

 

 その穂先を起点にアルフレッドは跳び、右腕へと張り付く。

 そして、足を振り上げ、ラージャンの目を蹴る。

 息切れに似た状態の彼は、その思わぬ攻撃に怯み、思わず仰け反ってしまう。

 ――その先には、壁。

 アルフレッドは、視界を失った彼のこめかみへと、砲口を向けた。

 

「吹っ飛べ!」

 

 放たれたフルバースト。

 金獅子は驚きのあまり走り出し、壁へ激突する。

 角は勢いよく折れ、たまらずに転倒した。

 

「今だ!」

「分かりましたわ!」

「すごいよアルフ!」

「本当にお見事!」

 

 隙を晒すラージャンに、姉妹が斬り掛かる。

 姉の流れるような斬撃は、頭部を刻む。操る甲虫は足の腱を狙って角を振るう。

 妹の刺突は腕にいくつもの穴を開け、確実に弱らせていく。

 遠方からは、セレスの氷結貫通弾が弾幕となって降り注いだ。

 ラージャンの体力が、確実に削られていく。

 廃莢と装填をこなしながら前へと駆け出すアルフレッドは、そんな実感を抱いた。

 

「みんな、起き上がるよ! 気をつけて!」

 

 しかしラージャンとて、されるがままを受け入れる筈がない。

 セレスの声を受け、みな一旦距離を取る。

 間髪入れず獅子は跳び上がり、空中でその身を丸めるのだった。

 

「やばい! 横に跳べ!」

 

 アルフレッドの声に、剣士の三人は武器を慌てて背負う。

 そのまま、真横へ緊急回避。

 全身を投げ出しながら、とにかく横へ。

 直後、アルフレッドの真横が勢いよく陥没した。

 否、ラージャンが全力でぶつかってきたのだった。その全身を砲丸のようにして。

 しかしそれも束の間。再び跳躍し、全身を覆う気光をさらに瞬かせる。

 

「なんか、やばそうですわ!」

「アルフレッド様! 狙いは貴方です!」

「……ちっ! 来いよラージャン!」

 

 もはや電流に近い光を焚かせながら、金獅子は空を舞う。

 今度は、両腕を高く振り上げていた。

 まさにそれは、ハンマーのよう。

 

「……これは、死ぬんじゃ……ッ!!」

 

 いなしの構えを取るアルフレッド。

 同時に瞬く、電光。

 大地を砕き、光を解き放ち、遺跡を軽々と倒壊させる一撃だった。

 金色の平原が、さらに眩い光を走らせた。

 

 

 

「――はぁ!」

 

 渾身の殴打と、あまりある衝撃波。

 背後に跳ぶことで殴打を躱し、盾で衝撃波を防ぎながら距離を取る。

 アルフレッドは、ラージャンの全力の一撃を、見事いなしたのだった。

 

「食らいやがれ!」

 

 空中で砲身を切り返し、背後に向けて高圧砲撃。

 その反動で前へと飛び、脳天に向けて槍を振り下ろす。

 お返しと言わんばかりの、渾身の叩き付け。意趣返しとも言えるそれが、太い角を折った。

 両角が折れ、悲鳴を上げるラージャン。

 追い込んでいる。金獅子を討伐目前まで追い込んでいる。

 アルフレッドは、自分の成長を実感していた。

 死と隣り合わせの連撃をいなし切り、今金獅子を追い込んでいるという事実。

 自然と、口角が上がる。

 獣のような笑みを浮かべる。

 

「――アルフ! 危ない!」

 

 収束する光に、彼は気付かなかった。

 口元に集まる気光。

 解き放つは、岩をも溶かす金色の雷光。

 斬りかからんとする彼に、それを躱す手は残されていない。

 獣のような笑みが、消える。

 

「慌てちゃダメ、よ」

 

 稲妻のように穿つ閃光。

 否、操虫棍による急襲突き。またの名を、降竜。

 竜が墜ちるが如きその一撃は、光を放つ獣の背中を鋭く穿った。

 ベアトリスによる横槍に、金獅子は収束した光を手放してしまう。しかし彼女は、それだけには留まらない。

 

「行くわよ!」

 

 突き刺さった棍をポールに見立てるように、腕の力で全身を支える。

 いや、支えるどころか全身を振り回すのだ。腕を起点に根の周囲を激しく回る。さながら舞のような動きで回転し、その度に棍を激しく食い込ませた。

 ラージャンは悲鳴を上げてのたうち回り、ついには倒れ込んだ。

 

「さぁ、今よ! アルフレッド様!」

「助かった!」

 

 銃槍を構え直し、両手で握ったそれを解き放って。

 角を失い、露わになった頭頂部を穿ち、爆ぜさせる。

 金獅子はびくりと全身を震わせるものの、それを最後に沈黙した。

 金の毛並みは瞬く間に霧散し、黒い体毛へと変わっていく。

 金色の平原が枯れるように、静かに事切れるのだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「油断しないことです。お分かりで? アルフレッド様」

「……ああ」

 

 報奨金を受け取るアルフレッドに、静かに諌めるはベアトリス。

 狩り自体は成功したが、危うい時があった。

 それを、彼女は指摘するのだった。

 

「狩れそうだからと、観察を怠る者は散りやすい。お忘れにならないでくださいね」

「気をつける。少し、調子に乗った」

 

 彼女の横槍がなければ、今は遺跡平原の塵の一つだったかもしれない。

 大男はそう感じながら、静かに頭を下げる。

 

「それでも、獅子の拳をいなすのは見事でした。貴方ならきっと、鏖魔ディアブロスを倒せます。今日の感覚を、忘れないでくださいね」

「……お前さんこそ、一体何者なんだ? 俺が見てきた中でも飛び切りの実力者じゃ……」

「グレイビアード家の嗜みですので、狩りは」

「嗜みってレベルじゃなかった気がするけど……うーん」

 

 さらりとそう言うベアトリスに、アルフレッドとセレスは首を傾げる。

 とはいえ、何はともあれ依頼はこなすことができた。

 ずっしりと腕に重くのし掛かる金貨袋を感じては、彼はそれ以上の詮索を取りやめるのだった。

 

「ま、いいや。これでとりあえずは武器を何とかできそうだ。我らの団の竜人商人に掛け合ってみるか……あの人なら、砕竜の特殊個体の素材を仕入れてくれそうだ」

「バルバレに来てるかな? 前、サイコロのゲームを一緒にした人だよね?」

「そうだな。バルバレに行ってみるか。お前さんたちはどうするんだ? ベアトリス」

「大掛かりな作戦みたいだし、もうしばらくは在留しようかしら。助けになりたいしね、貴方たちの」

 

 そう言いながら、静かに笑う。

 妹とは対照的に、落ち着いた大人らしい雰囲気で。

 そんな彼女の様子にアルフレッドは少し驚き、セレスは見惚れるのだった。

 ――けたたましい声を上げる、妹が戻ってくるまでは。

 

「王女は大喜びですわー! これに気を良くして、新しい依頼を送ってくれてますわよ! 何でも、今度は金獅子の毛皮でできた帽子が欲しいそうですわ! さぁ、再び王女のクエストを――」

「二度とやるかッ!」

 

 アルフレッドは駆け寄るウルティナを、背負うように放り投げる。

 人使いの荒い王女の依頼はもうこりごりだ。

 そう静かに、吐き捨てるのだった。

 




金策! 君はゴールデントロフィー!!

モンハンの古き良きネタキャラ、わがままな第3王女の依頼でした。
ウルティナを王家の遠縁としたのは、このネタが書きたかったからです。とはいえラージャンは古龍級生物。おいそれとは出せません。こんな軽いノリで書いていいのか、と悩みつつも、やっぱり書きたかったので書きました。同じく古龍級のイビルジョーにひたすらボコボコにされた第二章の頃より、強くなってることも書けますし。何より、四人パーティーで連携できているから強いんですね。
ウルティナとベアトリスも再登場です。このまま本編ラストまでいてもらう予定です。ちなみにベアトリスですが、彼女の元ネタは以前匿名で書いた短編「玉虫色のメスバッタ」という作品の主人公です。あの時はどちらかというとウルティナのような古典的なお嬢様キャラとして書きましたので、キャラは些か違いますが…それでも上手くまとまった、仕上がりのいい短編だと自負しています。もしよかったら探してみてください。
それでは、閲覧ありがとうございました。
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