ラストリロード   作:しばじゃが

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追憶の砲炎

「あー、旨い」

 

 ココット地方で作られた蒸留酒、ココッチウイスキーを楽しむアルフレッド。

 冷えた風が通るバルバレで、その風を避けるように、彼はバー•ラージャンハートに逃げ込んでいた。

 

「聞いたわよ。ラージャンを討伐したんですって?」

「まぁな……紆余曲折はあったが、何とか」

「凄いわね。古龍級生物よ、彼。この前のアカムトルムといい、戦果がとんでもないわね、最近」

「一人じゃないからな。俺一人じゃ、とても敵わないけど、四人掛かりなら何とかな」

「そっか。仲間って良いわね」

 

 そう言いながら、マスターである巨漢の彼、いや彼女はどこか遠い目で「ラージャンか……」と呟いていた。

 店名になっているだけあり、彼女にとっても思い入れがあるモンスターなのかとアルフレッドは考えるものの、それを口にするほど興味もなかった。

 

「とりあえず、かなり金が入ったが……もう少しだな。武器は新調できそうだ。商人とも話は纏まった」

「それでも、まだいるの?」

「防具を替えたい。今のままじゃ、あのディアブロスの咆哮は防げない。あいつを仕留めるための、それなりの備えがいる」

「ディアブロス、ね。物凄いタフな個体よね。びっくりだわ。火山に逃げ延びて帰ってくるなんて」

「縄張りを奪い返しにくるなんて、そんなことあるのか? よくあること……なわけ、ないよな?」

「滅多にないわね。大抵は、その前に死ぬからね。でもあのディアブロスは、やってのけたのね……」

 

 元王立古生物書士隊員を名乗るだけあり、モンスターに対する造詣の深さを覗かせるマスター。

 アルフレッドは興味深そうに問いを重ねようとした時、バーの扉が勢いよく開かれた。

 

「マスターこんばんは! 今日も一杯……って、貴方は! 銃槍使いの!」

「あん? ……って、お前さんは……!!」

 

 いつか以来の、邂逅。

 赤髪の大男に驚くは、黒髪に眼鏡をかけた華奢な優男。

 それでいて彼を脚色して記事にした、豪胆な男。

 ――月刊誌『狩りに生きる』の編集者、ミスルである。

 アルフレッドは、立ち上がるや否や、彼の襟首を勢いよく持ち上げるのだった。

 

「よくもまぁ、俺の前に現れることができたもんだな、ええ? あの記事は何なんだよお前さんよ!」

「わっ、わわわ! 力すごっ……!! じゃなくて、助けて! マスター!」

「自業自得よ。アタシ止めたわよね。殺されても知らないわよって」

「本当に殺してやろうか……!」

「す、すみません! この方がインパクトがあって面白いって思いまして! 実際、部数もかなり伸びてるんですよ! みんなガンランサーに興味があるんですよ!」

「……何? 興味?」

 

 その言葉に、アルフレッドは手を緩めた。

 離されて、足がようやく地に届く。ミスルは大きく息を吐きながら、椅子に腰掛けた。

 

「ふう……ちょうど良かった! アルフレッドさん、貴方に依頼があるんです」

「依頼? 俺に?」

「あの記事の続きを読みたいと反響が大きくてですね……今度は、貴方が戦ってる様子を見て、記事にしたいんです」

「……というと?」

「闘技大会、どうですか?」

 

 そう言いながら彼が出したのは、闘技大会の出場チケット。

 闘技大会とは、街が抱える娯楽施設にて、ハンターが狩りをする様子を大衆が楽しむものである。

 普段、危険極まりない猟区を一般人が訪れることは滅多にない。つまり、ハンターが戦っている様子を知らない人間がほとんどである。

 一方で、闘技場であれば、安全な観客席から命と命のぶつかり合いを見ることができる。

 そんな、非日常的な光景を見るために、日夜観客の絶えることのない、大衆から非常に人気を博したイベントなのだ。

 

「出場、してみません? 刺激的なモンスターを保有しているらしくて、多くの人が注目してるんです。そこに、挑戦者としてガンランサーが出てきたら……もうこれはとんでもないことになりますよ!」

「とんでもないこと? どんな風にだ?」

「それはもちろん、まず収益がとんでもないことになる! ギルドも潤う! 私も記事を書ける! 大衆が喜ぶ! そして貴方は、大金を手にするだけでなく、ガンランスの魅力を大衆に届けることができる!」

「魅力を……」

 

 ミスルの言葉に、アルフレッドの目に何か光のようなものが灯る。

 その光を見逃さず、彼はさらに言葉を重ねた。

 

「チャンスですよ。これはまたとないチャンス! 大衆は、ガンランスを危険なものとして見ている。でも、貴方が証明すればいいんです。この武器には、光るものがあると!」

「そんなまた、都合のいいことをほいほい言って……。アナタ、責任取れるの?」

「私は責任は取れません……ですが、きっかけを作ることはできます。大衆を動かすきっかけを! ペンは大剣より強し! です!」

 

 呆れるマスターを他所に、ミスルは熱く語り続ける。

 アルフレッドは考え込むが――ただ一言、彼に問い掛けるのだった。

 

「……報酬は?」

 

 その言葉に、ミスルは汗を滲ませながら、にやりと笑みを浮かべた。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「……はぁ、やっちまったかな」

 

 控え室で、専用の防具を着込む大男。

 支給されたのは、レウスシリーズの防具とベリオロスのガンランス――アンバーマーチ。

 最近あまり使ってこなかった、拡散型ガンランスである。

 

 外からは、熱狂的な声が響いている。

 観客が開戦を待ち望む声。

 それに、アルフレッドは辟易としていた。

 

「報酬の高さに思わず首を縦に振っちまったけど……失敗だったかも。見せ物じゃねぇかこんなの」

 

 そう思いながらも立ち上がるが、レウスシリーズが想像以上に馴染むらしく、頬を少しだけ綻ばせた。

 

「それにしても、闘技大会なんて久しぶりだな。増弾のピアスのために一時期何度も出場して……それ以来かな。装備が指定されるから窮屈だけど、アンバーマーチは悪くない」

 

 白い砲身に、太いシリンダー。

 穂先には琥珀色の牙が、二本揃えて備え付けられている。

 まさに、ベリオロスを体現したようなガンランス。

 アルフレッドはそれを静かに掲げ、心を鎮めるのだった。

 

 見せ物だろうと、関係ない。

 また誇張された記事が書かれようと、どうでもいい。

 今はとにかく、金がいる。

 金さえあれば、あのディアブロスに挑むことができる。

 そう自分に言い聞かせて、出撃エリアへと歩み出そうとした――その時だった。

 

「よう、アルフレッド」

「……レクス」

 

 いつもと異なる、レックスシリーズに身を包んだ太刀使いが、そこにいた。

 風に棚引かせる黒髪に、無精髭。顔の半分を占める火傷痕。

 救難支援を生業とする、なんて名乗っていたレクスが、アルフレッドを待つかのように、壁に背を預けている。

 

「何で、ここに」

「実はオレも、出るんだよ。この試合にさ」

「あん? まさか、ペア狩りってことか?」

「そんな和気藹々(わきあいあい)としたもんじゃないけどね。オレは、ギルドに物申したんさ」

「物申した?」

 

 そこはかとない不満感を湛える物言いに、アルフレッドは首を傾げた。

 レクスは、小さな吐息を漏らすように笑い、言葉を繋げ続ける。

 

「あのディアブロスの狩猟を推薦されるのが、ほんとにアンタで良いのかってな。オレの方が適してるじゃねぇのってな」

「すっこんでろ、って言いたいのか?」

「ガンランスは……危険だ。そんな奴を、推薦組……ギルドの花形なんかにするなんて、あっちゃいけねぇ。良いはずがねぇ」

「お前さん……」

 

 暗い色を帯びるその瞳を前に、アルフレッドは生唾を飲んだ。

 何故、ここまでガンランスを目の敵にするのだろう。

 そんな疑問を抱くも、顔を覆う火傷痕を見ては、それを口から吐くことはなかった。

 

「……ま、そんなわけで。今回は技量審査となりましたとさ。オレとアンタ、どちらがディアブロスを狩猟できるか。力自慢と行こうぜ」

「二人で狩りながら、より貢献した方が、ディアブロスの狩猟権を得られるってことか?」

「そういうこと。話が早いねぇ」

 

 技量審査。

 あまり聞き馴染みのない言葉ではあるが、彼の言いたいは何となく理解したアルフレッドだった。

 

「……ま、辞退するのもアリだぜ。オレとしては、一人で狩る方がやりやすいからなぁ」

「やめときな。あれは、一人じゃ絶対敵わない相手だ。それに、俺だって背負ってるもんがある。お前さんには譲れないね」

「背負うもの? ガンランスだろ?」

「もちろんそうだが、それだけじゃない」

 

 瞼の裏で、浮かび上がるは相棒の姿。

 傷付き、心が折れ、それでも立ち上がり、銃を握り続けるセレスの姿。

 彼女を迎える、その家族の顔。

 守りたいものがある。アルフレッドは、心の中でだけ、彼にそう答えるのだった。

 

「……やろうぜ。ガンランスが、如何に優れてるかを見せてやる」

「そいつぁ、楽しみだ」

 

 出撃エリアから、外へ。

 日の光を凝縮し、四角く切り取られた白い光の中へ、二人は歩き出す。

 より大きな歓声が、彼らを迎えるのだった。

 

 

 

「――で、何を狩ればいいんだ?」

「嘘だろ? 聞かずに出場したっつーわけ?」

 

 闘技場は、四方を鉄製の壁で囲まれた空間である。

 その壁の上には、防護柵に覆われた観客席が広がっており、満席に近い数の人々が歓声を上げていた。

 そして、壁の一部には大きな扉が備えられている。

 何かが、その扉を叩いているらしく、金属が擦れるような異音が鳴り響いていた。

 

「さあ、いよいよ始まります! 本日の闘技大会、目玉の対戦カードの発表だぁ!!」

 

 轟くは、拡声器に押し出された女性の声。

 観客席の奥で、実況を務めるギルドガールが、この試合を盛り上げていた。

 

「挑戦者はこの二人! レウスシリーズに身を包んだ大男は、なんと希少なガンランサーだぁ! 危険、悪質、害悪……様々な不穏な噂が絶えない銃槍の狩りとはどのようなものか! 注目が止まらない〜!!」

 

 舞い上がる歓声は色とりどり。

 純粋な歓喜の声もあれば、ブーイングのような不満げな声も響く。

 客によっては、良い感情を抱けない。それが如実に現れる光景だった。

 

「もう一人は、レックスシリーズに身を包むこの男! 長い太刀を軽々と振るう、流れるような剣技が魅力的! 今日は、どんな技で我々を魅せてくれるのか!? 楽しみで夜も眠れない〜!!」

 

 歓声が響き渡る。

 太刀使いを歓迎する声は、非常に多かった。

 大衆から愛される武器であることが、はっきりと分かる。まさに民意の表れだ。

 

「そして、彼らが挑むはこの闘技場の常連! 連戦連勝を重ね、今日まで生き延びたあのモンスター! 傷付き、ボロボロになり、もはやその翼は長距離飛行もできやしない……でも、残った隻眼は未だに闘志を衰えさせない! 出でよ、バトルジャンキー! イャンガルルガ〜!!」

 

 その声と共に、大扉が開け放たれる。

 現れるは、紫色の甲殻に身を包んだ鳥竜種。

 飛竜に比べれば、小柄ではある――が、そこに刻まれた(おびただ)しい傷痕は、誰もが戦慄する。

 それはつまり、何度も何度も戦い続けたということ。その戦いを全て勝ち抜き、今日まで生き延びてきた証。

 俗にいう、傷ついたイャンガルルガ。

 それが、鼻息を荒げながら走り出した。

 

「うおおおぉ……ッ!? とんでもねぇ奴が出てきたな!」

「コイツはずーっとここで勝ち抜いてきた奴さぁ。多くの客が、今日もコイツが勝つと賭けている。それだけ、強い個体ってワケ」

「へぇ、腕が鳴るぜ!」

 

 振り下ろされる嘴を、盾を押し付けるようにして逸らす。

 狙ったはずの大男の、手前。穿ったのは、ただの砂利。

 隙だらけの頭部へと、アルフレッドは槍を押し付けた。

 

「食らいな!」

 

 砲撃。

 片側の耳も目も失った頭部を、火薬が激しく燃やす。

 

「おおっと! これは凄いぞ! イャンガルルガの突進を簡単に防ぎ、手痛いカウンターだぁ! こんなゴングは見たことないぞ〜! さぁ、試合開始だぁ!」

 

 ギルドガールの声に合わせ、大銅鑼が打ち鳴らされる。

 大気が反響し、より大きな歓声が響き渡った。

 同時に、狩猟笛を担いだ男たちがそれぞれの楽器を奏で始める。試合を彩る、雄々しい曲が挑戦者を鼓舞した。

 

「オレを焼いてくれるなよぉ!」

「任せな……!」

 

 アンバーマーチは拡散型である。

 拡散型は砲弾が大きく、炸裂範囲が広い。そのため安易に撃てば、周りを巻き込む可能性がある。

 ――そしてそんなことは、アルフレッドにとって百も承知だ。

 今は引き金から指を離し、刺突を繰り返す。鋭い牙が、黒狼鳥の頭を鋭く穿つ。

 

「尻尾に気を付けろよ! 毒になるといてぇぞ〜!」

「お前さんこそな! こっちは盾がある! 正面は任せろ!」

 

 振り回される尾を、盾で弾く。

 鋭い棘を湛えたそれは、衝撃によって毒液を漏らし、独特の異臭を漂わせた。

 しかし銃槍使いの彼は、涼しい顔でそれをいなし、お返しと言わんばかりに竜杭砲を放つのだった。

 

「爆ぜな!」

 

 連爆する榴弾のようなそれは、確かな衝撃を黒狼鳥に与えた。

 しかし、そんなものでは止まらない。

 その場で駄々をこねるように飛び跳ね、鼻息をさらに荒げさせた。

 

「お怒りか!」

 

 レクスは背後に回り、太刀を振るう。

 生半可な刃を通さない堅牢な甲殻を、彼は造作もなく切り抜いた。優美な動作で、鮮血を花弁のように散らす。

 

「ほいっとな!」

 

 イャンガルルガの、急旋回。

 百八十度回転し、背後のレクスへと嘴を振るうものの、彼はそれを斬り上げによって弾く。そして真下へと潜り込み、翼膜を勢いよく切り裂いた。

 甲殻とは打って変わって、柔らかな感触。

 黒狼鳥、悲鳴を上げる。

 

「やっぱ、狙うなら頭か翼だよなぁ。飛べると思うなよ?」

「やるな! そのまま、頭を斬りに行け!」

「……っつーことは!」

「ああ! 俺はこのまま、尻を焼く!」

 

 背後を晒して、隙だらけのイャンガルルガ。

 レクスはちょうど、翼の下から頭に向けて駆け出している。

 砲炎は届かない。アルフレッドは、静かに引き金を引いた。

 

「食らいな!」

 

 二発続けて、圧を掛けた砲弾を解き放つ。

 あまりの熱量に、表面の棘は溶け、イャンガルルガの下半身は焦げ臭い風を棚引かせた。

 

「ひゅう! あぶねぇ〜!」

「当てはしねぇよ……! って、今度は俺か!」

 

 怒りのあまり体を振り回し、そのまま跳躍。

 ボロボロになった翼膜で、無理矢理体を持ち上げては、空中で体勢をくるりと変えた。

 下を向くは、嘴。

 牙を剥くは、黒き影。

 黒狼鳥が、黒い(やじり)となり、大男へと襲い掛かる。

 

「うおっ!」

 

 防ぐには、あまりある威力だ。

 そのため彼は、背後に跳んだ。構えた盾で衝撃を受け、後ろに跳ぶことでそれをいなす。

 合気とも呼ばれるその技で、彼は渾身の一撃をやり過ごした。再装填し、次の攻勢へと備える。

 

「へぇ! 見切り斬りのような、なんていうか。やるねぇ」

「お前さんの技から色々学ばせてもらったよ」

「学んだ、ね。勉強熱心だねぇ」

 

 呆れたように、いや、感心したように。

 複雑な面持ちでそう言いながら、レクスはため息を吐いた。

 

「やるせねぇなぁ」

「何?」

「アイツも、そうであったかもしんねぇのによ」

「……アイツ?」

 

 意味深な言葉と共に、レクスは刃を収める。

 一瞬の静寂と共に、解き放つように放ったそれは、袈裟斬り、左袈裟斬りを瞬く間に繰り出した。

 甲殻が火花を散らす。肉までは届いていない。

 

「かってぇなぁ。オイ! 頭はオレに斬らせろ! アンタの武器なら、甲殻も何も関係ねぇだろ!?」

「分かったよ! 気を付けろよ!」

 

 回り込み、傷付いた頭部へと踏み込み斬りを仕掛けて。

 舞い上がる鮮血に、レクスは手応えを感じるのだった。

 一方のアルフレッドもまた、背後へと回り込む。突き、突き、そして斬り上げ。

 砲口を真上に向けることで、射線上からレクスを外すのだった。

 

「どうだ!」

 

 そのまま、砲撃。

 傷んだ翼が、さらに焼ける。

 瞬時に立ち位置を入れ替えた連携に、観客は驚きの声を上げるのだった。

 

「おおっとー! 引き付け役を入れ替えたのでしょうか! 大盾を持つガンランサーは背後へ! 太刀使いは前へ! 流れるような連携です! しかし、彼は捌き切れるのか!」

 

 啄むような連撃。

 その初段を、レクスは背後に飛ぶように身を引いて躱す。

 それも一瞬、続け様に懐へ潜り込み、鋭い一閃を放つ。

 アルフレッドもまた、突いては撃ち、突いては撃ちを繰り返した。

 確実に、イャンガルルガの体力を削っている。

 観客の誰もが、行方の分からない勝負を、固唾を飲んで見守った。

 

「やるねぇ、アルフレッド!」

「お前さんもな!」

 

 激しい尾の、乱回転。

 涼しい顔で、捌く二人。

 

「跳んで叩き斬るぜぇ! 砲撃を控えろよ!」

「了解した!」

 

 嘴を、渾身の力で叩き付ける。

 しかしそれは宙を穿ち、大地に吸われるだけ。

 そしてその隙を射抜くように、レクスは太刀を引いた。

 引いて――渾身の突きを放つ。

 

「おお……!」

 

 その刺突を起点にし、跳躍。

 真上から、太刀を振り下ろす。

 その斬撃は遅れたようにやってきて、イャンガルルガの残った耳を両断したのだった。

 

「お見事……! やるなお前さん!」

「アンタも、いい動きするねぇ! 思ったよりも、やりやすいぜ!」

 

 お互い、楽しそうに狩りをしている。

 観客たちは、即席のコンビとは思えない連携ぶりに、ただ驚くのだった。

 

「この二人、凄いぞ〜! 長年の友のような動きだぁ! これはもしかすると、もしかするかもしれないぞ〜!!」

 

 手に汗握る展開に、ギルドガールの実況も熱を帯びていく。

 イャンガルルガは、その熱に負けじと、口元に炎を湛え始めた。

 

「イャンクックみたいな――いや、火炎液じゃない!」

「コイツは純然なブレスを放つぞ! 気を付けろよぉ!」

 

 驚くアルフレッドに、刀を収めるレクス。

 そんな二人を嘲笑うように、飛び上がる黒い影。

 

「……何……ッ!?」

 

 長距離飛行はできなくとも、一時的に舞い上がることは可能。

 そして、上を取った黒狼鳥が選んだのは、湛えた炎を連続で舌打ち(タンギング)し、連射するように放つこと。

 闘技場が、轟音に包まれた。

 

「で、出たぁ! 戦いの中で覚えた、ブレスの乱射ぁ! 何人ものパーティーやモンスターを沈めてきた、イャンガルルガの奥義だぁ!」

 

 砂利と煙が舞い上がり、演舞が見えなくなる。

 その土煙を取り払ったのは、青白い火竜の息吹だった。

 

「こ、これはーっ!? 一体何だー!!」

 

 着地の隙を狙った、竜撃砲。

 イャンガルルガは悲鳴を上げる。

 身体中を焼かれながらも、アルフレッドは立っていた。

 

「レクス! 無事か!」

「……何とか。驚いたぜぇ……」

 

 直撃は免れつつも、ダメージを受けていたレクス。

 すかさず、回復薬を口にする。

 

「すげえ奴だな。連戦連勝してきたってだけはある」

「こういう時は、盾が羨ましくなるぜ。でも重そうだからやっぱりいらねぇや」

「お前さんな……まぁいいや。それにしても、随分連携が上手いな。いや、なんていうか」

「何だぁ? 褒めてくれんのか?」

「……ガンランスとの立ち回り方を、知ってるのか?」

 

 その言葉に、レクスの肩がぴくりと震えた。

 

「お前さん、ガンランス使いと組んでたのか?」

「……はぁ。誤魔化せないよな〜」

 

 無駄話をするな。

 そう言わんばかりに、イャンガルルガは走り出す。

 嘴を地面に突き立て、足場を砕きながら突進。砂利を撒き散らしながら、黒い影が迫り来る。

 

「ちっ……!」

「おぉっと!」

 

 アルフレッドはその頭を踏んで跳躍し、背後に跳ぶ。繰り出すは、叩き付け――からの、薙ぎ払い。

 一方のレクスもまた、すれ違うように居合い抜きを放つ。二人の横一文字が、鮮血を描き出した。

 

「さっき言ってた、アイツってのが」

「そうだよ。オレの……弟さ」

 

 左頬の火傷痕に触れながら、レクスは頷いた。

 その表情は、お世辞にも嬉しそうとは言い難い。悔やまれるような、そんな思いを孕んでいた。

 

「オレと弟は、駆け出しの頃から一緒に狩りをしてたんだ。オレは太刀を、アイツはガンランスを。あの頃は良かったなぁ……」

 

 太刀を構え直しながら、そう言う声はどこか上擦っていて。

 アルフレッドは盾のベルトを締め直しながら、彼の言葉に耳を傾けた。

 

「一緒に何度も狩りに行ったもんさぁ。イャンクック、ゲリョス、ババコンガ……色んな奴を狩って、腕を上げていったよ」

 

 振るわれる尾を返しながら、レクスは語り続ける。

 

「でも、腕を上げれたのは、オレだけだったんさ」

「……どういうことだ?」

 

 盾で尾を弾き、その意味深な言葉にアルフレッドは問い掛けた。

 レクスは、猛烈な回転斬りを放ちながら、イャンガルルガを怯ませる。

 しかしその太刀筋には、鈍りが見えた。

 

「……アイツは、てんで狩りの才能がなかったんだ。オレのハンターランクがどんどん上がる中、アイツはずっと下位止まり。いつの間にか、受けれる仕事も変わっていった」

「上位と下位ってことか?」

「ああ。んで、オレはさらに仕事に邁進したもんだが、アイツは……おかしくなっちまってな」

「おかしく……?」

「出来損ないの弟、なんて陰口を叩かれてよぉ。オレはアイツの気持ちなんて考えず、結果を出し続けていたから……」

 

 そう言いながら、左頬の傷痕を撫でる。

 感傷めいた思いが、溢れていた。

 

「お前さんの弟は、どうなったんだ?」

 

 突き砲撃で翼を穿ちながら、アルフレッドは尋ねる。

 レクスは気を練った真向斬りを放ちつつ、斬り下がって距離を取った。

 

「アイツは――」

 

 その時、イャンガルルガが吠える。

 嘴を振るっていたのを突如止め、即座に張り上げたその声は、容易に二人の動きを止めたのだった。

 

「なっ……!」

「うるせ……っ!」

 

 そして、跳躍。

 再び、二人の真上を取る。

 発達した舌を唸らせ、喉元の火炎袋に火を付けた。

 

 炸裂。

 機関竜弾の如く放たれたそれが、闘技場を振るわせた。

 凄まじいまでの熱気と炎に、観客は悲鳴を上げる。

 

「こ、これは……! 二人は無事なのでしょうか……! 救護班! 準備を!」

 

 流石のギルドガールも、これには試合中止を考えた。

 しかし、粉塵が掠れて消える頃、形を保っている二つの影を確認し、救護のアイルーに待ったを掛ける。

 

「い、生きている! 何ということでしょう! 素晴らしい二人だぁー!」

 

 

 

「――アルフレッド……オレを、庇ったのか」

「あちち……これで、ディアブロスの時の借りはチャラでいいか?」

 

 盾から煙を吹かせながら、アルフレッドはそう言って笑った。

 背後には、防具を焦がしながらも五体を残したレクス。

 彼の前に割って入り、あの炸裂を受けきったのだった。

 

「止めを刺すぞ! 立てよ! レクス!」

「お――おっ、応ともよ!」

 

 駆け出すアルフレッドの、地を裂くような斬り上げ。

 続け様に放つ、竜杭弾。

 そこに込められた連爆する榴弾は、ついにイャンガルルガの脳を揺さぶった。

 滞空していた巨体が落ちる。

 柔らかい頭部が、隙だらけになった。

 

「ふう――」

 

 レクスは、静かに太刀を鞘に戻す。

 それを水平に構え、静かに腰を溜めながら構え直し。

 そして放った、三日月の如き烈閃は、黒狼鳥の沈黙をもたらした。

 闘技場に、歓声が響き渡る。

 ついに黒星に喫したイャンガルルガに、敬意を示した拍手すら、湧き起こるのだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「技量審査の結果は……俺か。悪いなレクス。あのディアブロスは、俺が取らせてもらう」

「まぁ、そうなるよなぁ……でも、ま、良いや。今は、それで良いって思えるよ」

 

 闘技場の控え室で、ギルドからの通知を見ながら。

 二人はそう言葉を交わすものの、その表情はどこか晴々としていた。

 

「何だか、お前さんが俺に突っかかってきた理由が分かった気がするよ」

「……喋りすぎたな。悪い癖だぁ、オレの」

 

 椅子に座りながら、火傷に包帯を巻くレクス。

 その横に、大男は腰掛けた。

 

「弟さんは、どうなったんだ」

「……死んだ。いつしか、同行者を撃つようになってなぁ。モンスターにやられたか、それとも同業者に返り討ちに遭ったのか。もしくは、噂のギルドナイト様によるものか。いずれにせよ、弟は猟区で死んだ。遺体はまともに残ってなかった」

 

 その言葉に、アルフレッドは掛けるべき言葉を失う。

 レクスは彼の表情に気付き、「昔のことだから気にすんな」と声を掛けた。

 

「……アイツは、いつしか人の足を引っ張ることを楽しむようになった。ガンランスを、同行者に向けたんだ」

「集会所でよく聞く、人を撃った銃槍使いってのは、もしかして」

「ああ。オレの、弟なんだ」

 

 そう言いながら、彼は手癖のように火傷痕を手で覆う。

 その仕草を見ながら、アルフレッドは思う。

 ああ、彼はきっと弟を止めようとした、と。

 そして、その時に顔の半分を焼かれたんだ、と。

 

「……オレは、ガンランスのせいだって思うことにした。あんな武器を持ったから、弟はおかしくなっちまったと。そう思いたかったんだ」

「……そうか」

「アンタには、辛く当たったな。謝るよ。結局は、心が弱かったってだけだ。オレも、弟も」

 

 そう言いながら、レクスはアルフレッドを見た。

 やや潤んだ瞳で、上擦った声で、しかし屈託のない笑みを浮かべるのだった。

 

「ディアブロス、必ず討てよ」

「ああ。任せろ」

 

 そう言いながら、互いの拳を打ちつけ合う。

 

「アンタは、弟とは違う。アンタみたいな奴なら、きっと」

「どうかな……俺だって、褒められるような奴じゃない。それこそ、あのイャンガルルガと一緒だ。戦うことが好きなだけ」

「でも、アンタには……背負うものがあるんだろ?」

 

 その言葉に、アルフレッドは――静かに頷いた。

 そして、立ち上がる。

 大男の背中。

 ガンランスを背負うその背中を見ながら、レクスは思う。

 弟にも、こんな未来があったのか、と。

 弟にもあったはずの道を、アルフレッドの背中に見るのだった。

 




レクスの過去に触れる回でした。
第一章から言われていた、ガンランスの悪い噂の原因になった人は、彼の身内なのでした…というお話。でも、今回で彼なりに、区切りになったんだと思います。
それはそうと、評価数がとうとう50を突破!!評価バーも真っ赤になりました!!本当にありがとうございます。早いもので、完結まで残り4話です。最後までどうぞよろしくお願いします。
さて、今回もミスル繋がりで狩りに生きるの記事を書いたんですけど、本編に付けるのは少し空気が読めなかったので後書に載せますね。

以下、ガンランス特集その2

 読者諸君、我々は今回、あの希少なハンターであるガンランサーに二度目の邂逅を果たすことができた!
 そして今回は、なんとその狩りの様子を実録することに成功した!
 ガンランサーは、どのようにして獲物を狩るか……その様子を、まとめてみようと思う。
 まず彼は、槍と盾をもってモンスターに真正面から挑んでいた。よく見かけられる槍使いと大きな差はない。堅牢な盾でモンスターを受け止め、鋭い切先を返す。ここだけ聞けば、至ってありふれた戦い方だ。読者の皆様が肩を落とすのももっともだ。
 だが、ガンランサーは、ランサーにあらず。
 奴は、引き金を引いた。
 するとどうだ! 穂先から溢れるは、激しい炎! 火薬の燃焼する香りに、黒色火薬特有の間延びした発砲音が響き渡る! 人間でありながら、火を吹いていると言っても過言ではない。モンスターの驚く顔が、皆様の目にも浮かんでいるとありがたい。
 砲撃と一口に言っても、彼らが放つのは単発のものから、まるでチャージブレスのような高威力の砲弾、炸裂する杭のようなもの、さらには、視界を覆い尽くすほど青白い光を放つものまで多岐に渡る。
 そう、その青白い炎こそ、まさに火竜の吐息。リオレウスがその場にいるとすら、我々取材班は感じていた。あの腹の底から震わせるような、恐ろしいまでの重低音。あれが噂に聞く、竜撃砲というものなのだろうか――。
 ここまで書いたことで、読者の皆様も、何となく察しているのではないかと思う。我々も同じ思いだ。ここで我々は、ある一つの考察を書かせていただこう。
 ガンランサーは、銃槍使いは――リオレウスの生まれ変わりなのではないだろうか? 炎を吐き、執拗に獲物を襲い、狩りを何よりの楽しみとする。周りを意に介さない姿勢も、孤独で気高い空の王者そのものだ。返り血に塗れる姿は、あの赤い甲殻にすら見えてくる。そして、リオレウスであるとするならば、近付くだけでも危険なことに説明が付く。
 間違いない。ガンランサーは、リオレウスである。
 そう確信めいた仮定の下、今後もその生態を追っていきたいと思う。
 続報を待て。

 月刊狩りに生きる 武器ロマン紀行編集部
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