「あー、旨い」
ココット地方で作られた蒸留酒、ココッチウイスキーを楽しむアルフレッド。
冷えた風が通るバルバレで、その風を避けるように、彼はバー•ラージャンハートに逃げ込んでいた。
「聞いたわよ。ラージャンを討伐したんですって?」
「まぁな……紆余曲折はあったが、何とか」
「凄いわね。古龍級生物よ、彼。この前のアカムトルムといい、戦果がとんでもないわね、最近」
「一人じゃないからな。俺一人じゃ、とても敵わないけど、四人掛かりなら何とかな」
「そっか。仲間って良いわね」
そう言いながら、マスターである巨漢の彼、いや彼女はどこか遠い目で「ラージャンか……」と呟いていた。
店名になっているだけあり、彼女にとっても思い入れがあるモンスターなのかとアルフレッドは考えるものの、それを口にするほど興味もなかった。
「とりあえず、かなり金が入ったが……もう少しだな。武器は新調できそうだ。商人とも話は纏まった」
「それでも、まだいるの?」
「防具を替えたい。今のままじゃ、あのディアブロスの咆哮は防げない。あいつを仕留めるための、それなりの備えがいる」
「ディアブロス、ね。物凄いタフな個体よね。びっくりだわ。火山に逃げ延びて帰ってくるなんて」
「縄張りを奪い返しにくるなんて、そんなことあるのか? よくあること……なわけ、ないよな?」
「滅多にないわね。大抵は、その前に死ぬからね。でもあのディアブロスは、やってのけたのね……」
元王立古生物書士隊員を名乗るだけあり、モンスターに対する造詣の深さを覗かせるマスター。
アルフレッドは興味深そうに問いを重ねようとした時、バーの扉が勢いよく開かれた。
「マスターこんばんは! 今日も一杯……って、貴方は! 銃槍使いの!」
「あん? ……って、お前さんは……!!」
いつか以来の、邂逅。
赤髪の大男に驚くは、黒髪に眼鏡をかけた華奢な優男。
それでいて彼を脚色して記事にした、豪胆な男。
――月刊誌『狩りに生きる』の編集者、ミスルである。
アルフレッドは、立ち上がるや否や、彼の襟首を勢いよく持ち上げるのだった。
「よくもまぁ、俺の前に現れることができたもんだな、ええ? あの記事は何なんだよお前さんよ!」
「わっ、わわわ! 力すごっ……!! じゃなくて、助けて! マスター!」
「自業自得よ。アタシ止めたわよね。殺されても知らないわよって」
「本当に殺してやろうか……!」
「す、すみません! この方がインパクトがあって面白いって思いまして! 実際、部数もかなり伸びてるんですよ! みんなガンランサーに興味があるんですよ!」
「……何? 興味?」
その言葉に、アルフレッドは手を緩めた。
離されて、足がようやく地に届く。ミスルは大きく息を吐きながら、椅子に腰掛けた。
「ふう……ちょうど良かった! アルフレッドさん、貴方に依頼があるんです」
「依頼? 俺に?」
「あの記事の続きを読みたいと反響が大きくてですね……今度は、貴方が戦ってる様子を見て、記事にしたいんです」
「……というと?」
「闘技大会、どうですか?」
そう言いながら彼が出したのは、闘技大会の出場チケット。
闘技大会とは、街が抱える娯楽施設にて、ハンターが狩りをする様子を大衆が楽しむものである。
普段、危険極まりない猟区を一般人が訪れることは滅多にない。つまり、ハンターが戦っている様子を知らない人間がほとんどである。
一方で、闘技場であれば、安全な観客席から命と命のぶつかり合いを見ることができる。
そんな、非日常的な光景を見るために、日夜観客の絶えることのない、大衆から非常に人気を博したイベントなのだ。
「出場、してみません? 刺激的なモンスターを保有しているらしくて、多くの人が注目してるんです。そこに、挑戦者としてガンランサーが出てきたら……もうこれはとんでもないことになりますよ!」
「とんでもないこと? どんな風にだ?」
「それはもちろん、まず収益がとんでもないことになる! ギルドも潤う! 私も記事を書ける! 大衆が喜ぶ! そして貴方は、大金を手にするだけでなく、ガンランスの魅力を大衆に届けることができる!」
「魅力を……」
ミスルの言葉に、アルフレッドの目に何か光のようなものが灯る。
その光を見逃さず、彼はさらに言葉を重ねた。
「チャンスですよ。これはまたとないチャンス! 大衆は、ガンランスを危険なものとして見ている。でも、貴方が証明すればいいんです。この武器には、光るものがあると!」
「そんなまた、都合のいいことをほいほい言って……。アナタ、責任取れるの?」
「私は責任は取れません……ですが、きっかけを作ることはできます。大衆を動かすきっかけを! ペンは大剣より強し! です!」
呆れるマスターを他所に、ミスルは熱く語り続ける。
アルフレッドは考え込むが――ただ一言、彼に問い掛けるのだった。
「……報酬は?」
その言葉に、ミスルは汗を滲ませながら、にやりと笑みを浮かべた。
⚪︎◎⚫︎
「……はぁ、やっちまったかな」
控え室で、専用の防具を着込む大男。
支給されたのは、レウスシリーズの防具とベリオロスのガンランス――アンバーマーチ。
最近あまり使ってこなかった、拡散型ガンランスである。
外からは、熱狂的な声が響いている。
観客が開戦を待ち望む声。
それに、アルフレッドは辟易としていた。
「報酬の高さに思わず首を縦に振っちまったけど……失敗だったかも。見せ物じゃねぇかこんなの」
そう思いながらも立ち上がるが、レウスシリーズが想像以上に馴染むらしく、頬を少しだけ綻ばせた。
「それにしても、闘技大会なんて久しぶりだな。増弾のピアスのために一時期何度も出場して……それ以来かな。装備が指定されるから窮屈だけど、アンバーマーチは悪くない」
白い砲身に、太いシリンダー。
穂先には琥珀色の牙が、二本揃えて備え付けられている。
まさに、ベリオロスを体現したようなガンランス。
アルフレッドはそれを静かに掲げ、心を鎮めるのだった。
見せ物だろうと、関係ない。
また誇張された記事が書かれようと、どうでもいい。
今はとにかく、金がいる。
金さえあれば、あのディアブロスに挑むことができる。
そう自分に言い聞かせて、出撃エリアへと歩み出そうとした――その時だった。
「よう、アルフレッド」
「……レクス」
いつもと異なる、レックスシリーズに身を包んだ太刀使いが、そこにいた。
風に棚引かせる黒髪に、無精髭。顔の半分を占める火傷痕。
救難支援を生業とする、なんて名乗っていたレクスが、アルフレッドを待つかのように、壁に背を預けている。
「何で、ここに」
「実はオレも、出るんだよ。この試合にさ」
「あん? まさか、ペア狩りってことか?」
「そんな
「物申した?」
そこはかとない不満感を湛える物言いに、アルフレッドは首を傾げた。
レクスは、小さな吐息を漏らすように笑い、言葉を繋げ続ける。
「あのディアブロスの狩猟を推薦されるのが、ほんとにアンタで良いのかってな。オレの方が適してるじゃねぇのってな」
「すっこんでろ、って言いたいのか?」
「ガンランスは……危険だ。そんな奴を、推薦組……ギルドの花形なんかにするなんて、あっちゃいけねぇ。良いはずがねぇ」
「お前さん……」
暗い色を帯びるその瞳を前に、アルフレッドは生唾を飲んだ。
何故、ここまでガンランスを目の敵にするのだろう。
そんな疑問を抱くも、顔を覆う火傷痕を見ては、それを口から吐くことはなかった。
「……ま、そんなわけで。今回は技量審査となりましたとさ。オレとアンタ、どちらがディアブロスを狩猟できるか。力自慢と行こうぜ」
「二人で狩りながら、より貢献した方が、ディアブロスの狩猟権を得られるってことか?」
「そういうこと。話が早いねぇ」
技量審査。
あまり聞き馴染みのない言葉ではあるが、彼の言いたいは何となく理解したアルフレッドだった。
「……ま、辞退するのもアリだぜ。オレとしては、一人で狩る方がやりやすいからなぁ」
「やめときな。あれは、一人じゃ絶対敵わない相手だ。それに、俺だって背負ってるもんがある。お前さんには譲れないね」
「背負うもの? ガンランスだろ?」
「もちろんそうだが、それだけじゃない」
瞼の裏で、浮かび上がるは相棒の姿。
傷付き、心が折れ、それでも立ち上がり、銃を握り続けるセレスの姿。
彼女を迎える、その家族の顔。
守りたいものがある。アルフレッドは、心の中でだけ、彼にそう答えるのだった。
「……やろうぜ。ガンランスが、如何に優れてるかを見せてやる」
「そいつぁ、楽しみだ」
出撃エリアから、外へ。
日の光を凝縮し、四角く切り取られた白い光の中へ、二人は歩き出す。
より大きな歓声が、彼らを迎えるのだった。
「――で、何を狩ればいいんだ?」
「嘘だろ? 聞かずに出場したっつーわけ?」
闘技場は、四方を鉄製の壁で囲まれた空間である。
その壁の上には、防護柵に覆われた観客席が広がっており、満席に近い数の人々が歓声を上げていた。
そして、壁の一部には大きな扉が備えられている。
何かが、その扉を叩いているらしく、金属が擦れるような異音が鳴り響いていた。
「さあ、いよいよ始まります! 本日の闘技大会、目玉の対戦カードの発表だぁ!!」
轟くは、拡声器に押し出された女性の声。
観客席の奥で、実況を務めるギルドガールが、この試合を盛り上げていた。
「挑戦者はこの二人! レウスシリーズに身を包んだ大男は、なんと希少なガンランサーだぁ! 危険、悪質、害悪……様々な不穏な噂が絶えない銃槍の狩りとはどのようなものか! 注目が止まらない〜!!」
舞い上がる歓声は色とりどり。
純粋な歓喜の声もあれば、ブーイングのような不満げな声も響く。
客によっては、良い感情を抱けない。それが如実に現れる光景だった。
「もう一人は、レックスシリーズに身を包むこの男! 長い太刀を軽々と振るう、流れるような剣技が魅力的! 今日は、どんな技で我々を魅せてくれるのか!? 楽しみで夜も眠れない〜!!」
歓声が響き渡る。
太刀使いを歓迎する声は、非常に多かった。
大衆から愛される武器であることが、はっきりと分かる。まさに民意の表れだ。
「そして、彼らが挑むはこの闘技場の常連! 連戦連勝を重ね、今日まで生き延びたあのモンスター! 傷付き、ボロボロになり、もはやその翼は長距離飛行もできやしない……でも、残った隻眼は未だに闘志を衰えさせない! 出でよ、バトルジャンキー! イャンガルルガ〜!!」
その声と共に、大扉が開け放たれる。
現れるは、紫色の甲殻に身を包んだ鳥竜種。
飛竜に比べれば、小柄ではある――が、そこに刻まれた
それはつまり、何度も何度も戦い続けたということ。その戦いを全て勝ち抜き、今日まで生き延びてきた証。
俗にいう、傷ついたイャンガルルガ。
それが、鼻息を荒げながら走り出した。
「うおおおぉ……ッ!? とんでもねぇ奴が出てきたな!」
「コイツはずーっとここで勝ち抜いてきた奴さぁ。多くの客が、今日もコイツが勝つと賭けている。それだけ、強い個体ってワケ」
「へぇ、腕が鳴るぜ!」
振り下ろされる嘴を、盾を押し付けるようにして逸らす。
狙ったはずの大男の、手前。穿ったのは、ただの砂利。
隙だらけの頭部へと、アルフレッドは槍を押し付けた。
「食らいな!」
砲撃。
片側の耳も目も失った頭部を、火薬が激しく燃やす。
「おおっと! これは凄いぞ! イャンガルルガの突進を簡単に防ぎ、手痛いカウンターだぁ! こんなゴングは見たことないぞ〜! さぁ、試合開始だぁ!」
ギルドガールの声に合わせ、大銅鑼が打ち鳴らされる。
大気が反響し、より大きな歓声が響き渡った。
同時に、狩猟笛を担いだ男たちがそれぞれの楽器を奏で始める。試合を彩る、雄々しい曲が挑戦者を鼓舞した。
「オレを焼いてくれるなよぉ!」
「任せな……!」
アンバーマーチは拡散型である。
拡散型は砲弾が大きく、炸裂範囲が広い。そのため安易に撃てば、周りを巻き込む可能性がある。
――そしてそんなことは、アルフレッドにとって百も承知だ。
今は引き金から指を離し、刺突を繰り返す。鋭い牙が、黒狼鳥の頭を鋭く穿つ。
「尻尾に気を付けろよ! 毒になるといてぇぞ〜!」
「お前さんこそな! こっちは盾がある! 正面は任せろ!」
振り回される尾を、盾で弾く。
鋭い棘を湛えたそれは、衝撃によって毒液を漏らし、独特の異臭を漂わせた。
しかし銃槍使いの彼は、涼しい顔でそれをいなし、お返しと言わんばかりに竜杭砲を放つのだった。
「爆ぜな!」
連爆する榴弾のようなそれは、確かな衝撃を黒狼鳥に与えた。
しかし、そんなものでは止まらない。
その場で駄々をこねるように飛び跳ね、鼻息をさらに荒げさせた。
「お怒りか!」
レクスは背後に回り、太刀を振るう。
生半可な刃を通さない堅牢な甲殻を、彼は造作もなく切り抜いた。優美な動作で、鮮血を花弁のように散らす。
「ほいっとな!」
イャンガルルガの、急旋回。
百八十度回転し、背後のレクスへと嘴を振るうものの、彼はそれを斬り上げによって弾く。そして真下へと潜り込み、翼膜を勢いよく切り裂いた。
甲殻とは打って変わって、柔らかな感触。
黒狼鳥、悲鳴を上げる。
「やっぱ、狙うなら頭か翼だよなぁ。飛べると思うなよ?」
「やるな! そのまま、頭を斬りに行け!」
「……っつーことは!」
「ああ! 俺はこのまま、尻を焼く!」
背後を晒して、隙だらけのイャンガルルガ。
レクスはちょうど、翼の下から頭に向けて駆け出している。
砲炎は届かない。アルフレッドは、静かに引き金を引いた。
「食らいな!」
二発続けて、圧を掛けた砲弾を解き放つ。
あまりの熱量に、表面の棘は溶け、イャンガルルガの下半身は焦げ臭い風を棚引かせた。
「ひゅう! あぶねぇ〜!」
「当てはしねぇよ……! って、今度は俺か!」
怒りのあまり体を振り回し、そのまま跳躍。
ボロボロになった翼膜で、無理矢理体を持ち上げては、空中で体勢をくるりと変えた。
下を向くは、嘴。
牙を剥くは、黒き影。
黒狼鳥が、黒い
「うおっ!」
防ぐには、あまりある威力だ。
そのため彼は、背後に跳んだ。構えた盾で衝撃を受け、後ろに跳ぶことでそれをいなす。
合気とも呼ばれるその技で、彼は渾身の一撃をやり過ごした。再装填し、次の攻勢へと備える。
「へぇ! 見切り斬りのような、なんていうか。やるねぇ」
「お前さんの技から色々学ばせてもらったよ」
「学んだ、ね。勉強熱心だねぇ」
呆れたように、いや、感心したように。
複雑な面持ちでそう言いながら、レクスはため息を吐いた。
「やるせねぇなぁ」
「何?」
「アイツも、そうであったかもしんねぇのによ」
「……アイツ?」
意味深な言葉と共に、レクスは刃を収める。
一瞬の静寂と共に、解き放つように放ったそれは、袈裟斬り、左袈裟斬りを瞬く間に繰り出した。
甲殻が火花を散らす。肉までは届いていない。
「かってぇなぁ。オイ! 頭はオレに斬らせろ! アンタの武器なら、甲殻も何も関係ねぇだろ!?」
「分かったよ! 気を付けろよ!」
回り込み、傷付いた頭部へと踏み込み斬りを仕掛けて。
舞い上がる鮮血に、レクスは手応えを感じるのだった。
一方のアルフレッドもまた、背後へと回り込む。突き、突き、そして斬り上げ。
砲口を真上に向けることで、射線上からレクスを外すのだった。
「どうだ!」
そのまま、砲撃。
傷んだ翼が、さらに焼ける。
瞬時に立ち位置を入れ替えた連携に、観客は驚きの声を上げるのだった。
「おおっとー! 引き付け役を入れ替えたのでしょうか! 大盾を持つガンランサーは背後へ! 太刀使いは前へ! 流れるような連携です! しかし、彼は捌き切れるのか!」
啄むような連撃。
その初段を、レクスは背後に飛ぶように身を引いて躱す。
それも一瞬、続け様に懐へ潜り込み、鋭い一閃を放つ。
アルフレッドもまた、突いては撃ち、突いては撃ちを繰り返した。
確実に、イャンガルルガの体力を削っている。
観客の誰もが、行方の分からない勝負を、固唾を飲んで見守った。
「やるねぇ、アルフレッド!」
「お前さんもな!」
激しい尾の、乱回転。
涼しい顔で、捌く二人。
「跳んで叩き斬るぜぇ! 砲撃を控えろよ!」
「了解した!」
嘴を、渾身の力で叩き付ける。
しかしそれは宙を穿ち、大地に吸われるだけ。
そしてその隙を射抜くように、レクスは太刀を引いた。
引いて――渾身の突きを放つ。
「おお……!」
その刺突を起点にし、跳躍。
真上から、太刀を振り下ろす。
その斬撃は遅れたようにやってきて、イャンガルルガの残った耳を両断したのだった。
「お見事……! やるなお前さん!」
「アンタも、いい動きするねぇ! 思ったよりも、やりやすいぜ!」
お互い、楽しそうに狩りをしている。
観客たちは、即席のコンビとは思えない連携ぶりに、ただ驚くのだった。
「この二人、凄いぞ〜! 長年の友のような動きだぁ! これはもしかすると、もしかするかもしれないぞ〜!!」
手に汗握る展開に、ギルドガールの実況も熱を帯びていく。
イャンガルルガは、その熱に負けじと、口元に炎を湛え始めた。
「イャンクックみたいな――いや、火炎液じゃない!」
「コイツは純然なブレスを放つぞ! 気を付けろよぉ!」
驚くアルフレッドに、刀を収めるレクス。
そんな二人を嘲笑うように、飛び上がる黒い影。
「……何……ッ!?」
長距離飛行はできなくとも、一時的に舞い上がることは可能。
そして、上を取った黒狼鳥が選んだのは、湛えた炎を連続で
闘技場が、轟音に包まれた。
「で、出たぁ! 戦いの中で覚えた、ブレスの乱射ぁ! 何人ものパーティーやモンスターを沈めてきた、イャンガルルガの奥義だぁ!」
砂利と煙が舞い上がり、演舞が見えなくなる。
その土煙を取り払ったのは、青白い火竜の息吹だった。
「こ、これはーっ!? 一体何だー!!」
着地の隙を狙った、竜撃砲。
イャンガルルガは悲鳴を上げる。
身体中を焼かれながらも、アルフレッドは立っていた。
「レクス! 無事か!」
「……何とか。驚いたぜぇ……」
直撃は免れつつも、ダメージを受けていたレクス。
すかさず、回復薬を口にする。
「すげえ奴だな。連戦連勝してきたってだけはある」
「こういう時は、盾が羨ましくなるぜ。でも重そうだからやっぱりいらねぇや」
「お前さんな……まぁいいや。それにしても、随分連携が上手いな。いや、なんていうか」
「何だぁ? 褒めてくれんのか?」
「……ガンランスとの立ち回り方を、知ってるのか?」
その言葉に、レクスの肩がぴくりと震えた。
「お前さん、ガンランス使いと組んでたのか?」
「……はぁ。誤魔化せないよな〜」
無駄話をするな。
そう言わんばかりに、イャンガルルガは走り出す。
嘴を地面に突き立て、足場を砕きながら突進。砂利を撒き散らしながら、黒い影が迫り来る。
「ちっ……!」
「おぉっと!」
アルフレッドはその頭を踏んで跳躍し、背後に跳ぶ。繰り出すは、叩き付け――からの、薙ぎ払い。
一方のレクスもまた、すれ違うように居合い抜きを放つ。二人の横一文字が、鮮血を描き出した。
「さっき言ってた、アイツってのが」
「そうだよ。オレの……弟さ」
左頬の火傷痕に触れながら、レクスは頷いた。
その表情は、お世辞にも嬉しそうとは言い難い。悔やまれるような、そんな思いを孕んでいた。
「オレと弟は、駆け出しの頃から一緒に狩りをしてたんだ。オレは太刀を、アイツはガンランスを。あの頃は良かったなぁ……」
太刀を構え直しながら、そう言う声はどこか上擦っていて。
アルフレッドは盾のベルトを締め直しながら、彼の言葉に耳を傾けた。
「一緒に何度も狩りに行ったもんさぁ。イャンクック、ゲリョス、ババコンガ……色んな奴を狩って、腕を上げていったよ」
振るわれる尾を返しながら、レクスは語り続ける。
「でも、腕を上げれたのは、オレだけだったんさ」
「……どういうことだ?」
盾で尾を弾き、その意味深な言葉にアルフレッドは問い掛けた。
レクスは、猛烈な回転斬りを放ちながら、イャンガルルガを怯ませる。
しかしその太刀筋には、鈍りが見えた。
「……アイツは、てんで狩りの才能がなかったんだ。オレのハンターランクがどんどん上がる中、アイツはずっと下位止まり。いつの間にか、受けれる仕事も変わっていった」
「上位と下位ってことか?」
「ああ。んで、オレはさらに仕事に邁進したもんだが、アイツは……おかしくなっちまってな」
「おかしく……?」
「出来損ないの弟、なんて陰口を叩かれてよぉ。オレはアイツの気持ちなんて考えず、結果を出し続けていたから……」
そう言いながら、左頬の傷痕を撫でる。
感傷めいた思いが、溢れていた。
「お前さんの弟は、どうなったんだ?」
突き砲撃で翼を穿ちながら、アルフレッドは尋ねる。
レクスは気を練った真向斬りを放ちつつ、斬り下がって距離を取った。
「アイツは――」
その時、イャンガルルガが吠える。
嘴を振るっていたのを突如止め、即座に張り上げたその声は、容易に二人の動きを止めたのだった。
「なっ……!」
「うるせ……っ!」
そして、跳躍。
再び、二人の真上を取る。
発達した舌を唸らせ、喉元の火炎袋に火を付けた。
炸裂。
機関竜弾の如く放たれたそれが、闘技場を振るわせた。
凄まじいまでの熱気と炎に、観客は悲鳴を上げる。
「こ、これは……! 二人は無事なのでしょうか……! 救護班! 準備を!」
流石のギルドガールも、これには試合中止を考えた。
しかし、粉塵が掠れて消える頃、形を保っている二つの影を確認し、救護のアイルーに待ったを掛ける。
「い、生きている! 何ということでしょう! 素晴らしい二人だぁー!」
「――アルフレッド……オレを、庇ったのか」
「あちち……これで、ディアブロスの時の借りはチャラでいいか?」
盾から煙を吹かせながら、アルフレッドはそう言って笑った。
背後には、防具を焦がしながらも五体を残したレクス。
彼の前に割って入り、あの炸裂を受けきったのだった。
「止めを刺すぞ! 立てよ! レクス!」
「お――おっ、応ともよ!」
駆け出すアルフレッドの、地を裂くような斬り上げ。
続け様に放つ、竜杭弾。
そこに込められた連爆する榴弾は、ついにイャンガルルガの脳を揺さぶった。
滞空していた巨体が落ちる。
柔らかい頭部が、隙だらけになった。
「ふう――」
レクスは、静かに太刀を鞘に戻す。
それを水平に構え、静かに腰を溜めながら構え直し。
そして放った、三日月の如き烈閃は、黒狼鳥の沈黙をもたらした。
闘技場に、歓声が響き渡る。
ついに黒星に喫したイャンガルルガに、敬意を示した拍手すら、湧き起こるのだった。
⚪︎◎⚫︎
「技量審査の結果は……俺か。悪いなレクス。あのディアブロスは、俺が取らせてもらう」
「まぁ、そうなるよなぁ……でも、ま、良いや。今は、それで良いって思えるよ」
闘技場の控え室で、ギルドからの通知を見ながら。
二人はそう言葉を交わすものの、その表情はどこか晴々としていた。
「何だか、お前さんが俺に突っかかってきた理由が分かった気がするよ」
「……喋りすぎたな。悪い癖だぁ、オレの」
椅子に座りながら、火傷に包帯を巻くレクス。
その横に、大男は腰掛けた。
「弟さんは、どうなったんだ」
「……死んだ。いつしか、同行者を撃つようになってなぁ。モンスターにやられたか、それとも同業者に返り討ちに遭ったのか。もしくは、噂のギルドナイト様によるものか。いずれにせよ、弟は猟区で死んだ。遺体はまともに残ってなかった」
その言葉に、アルフレッドは掛けるべき言葉を失う。
レクスは彼の表情に気付き、「昔のことだから気にすんな」と声を掛けた。
「……アイツは、いつしか人の足を引っ張ることを楽しむようになった。ガンランスを、同行者に向けたんだ」
「集会所でよく聞く、人を撃った銃槍使いってのは、もしかして」
「ああ。オレの、弟なんだ」
そう言いながら、彼は手癖のように火傷痕を手で覆う。
その仕草を見ながら、アルフレッドは思う。
ああ、彼はきっと弟を止めようとした、と。
そして、その時に顔の半分を焼かれたんだ、と。
「……オレは、ガンランスのせいだって思うことにした。あんな武器を持ったから、弟はおかしくなっちまったと。そう思いたかったんだ」
「……そうか」
「アンタには、辛く当たったな。謝るよ。結局は、心が弱かったってだけだ。オレも、弟も」
そう言いながら、レクスはアルフレッドを見た。
やや潤んだ瞳で、上擦った声で、しかし屈託のない笑みを浮かべるのだった。
「ディアブロス、必ず討てよ」
「ああ。任せろ」
そう言いながら、互いの拳を打ちつけ合う。
「アンタは、弟とは違う。アンタみたいな奴なら、きっと」
「どうかな……俺だって、褒められるような奴じゃない。それこそ、あのイャンガルルガと一緒だ。戦うことが好きなだけ」
「でも、アンタには……背負うものがあるんだろ?」
その言葉に、アルフレッドは――静かに頷いた。
そして、立ち上がる。
大男の背中。
ガンランスを背負うその背中を見ながら、レクスは思う。
弟にも、こんな未来があったのか、と。
弟にもあったはずの道を、アルフレッドの背中に見るのだった。
レクスの過去に触れる回でした。
第一章から言われていた、ガンランスの悪い噂の原因になった人は、彼の身内なのでした…というお話。でも、今回で彼なりに、区切りになったんだと思います。
それはそうと、評価数がとうとう50を突破!!評価バーも真っ赤になりました!!本当にありがとうございます。早いもので、完結まで残り4話です。最後までどうぞよろしくお願いします。
さて、今回もミスル繋がりで狩りに生きるの記事を書いたんですけど、本編に付けるのは少し空気が読めなかったので後書に載せますね。
以下、ガンランス特集その2
読者諸君、我々は今回、あの希少なハンターであるガンランサーに二度目の邂逅を果たすことができた!
そして今回は、なんとその狩りの様子を実録することに成功した!
ガンランサーは、どのようにして獲物を狩るか……その様子を、まとめてみようと思う。
まず彼は、槍と盾をもってモンスターに真正面から挑んでいた。よく見かけられる槍使いと大きな差はない。堅牢な盾でモンスターを受け止め、鋭い切先を返す。ここだけ聞けば、至ってありふれた戦い方だ。読者の皆様が肩を落とすのももっともだ。
だが、ガンランサーは、ランサーにあらず。
奴は、引き金を引いた。
するとどうだ! 穂先から溢れるは、激しい炎! 火薬の燃焼する香りに、黒色火薬特有の間延びした発砲音が響き渡る! 人間でありながら、火を吹いていると言っても過言ではない。モンスターの驚く顔が、皆様の目にも浮かんでいるとありがたい。
砲撃と一口に言っても、彼らが放つのは単発のものから、まるでチャージブレスのような高威力の砲弾、炸裂する杭のようなもの、さらには、視界を覆い尽くすほど青白い光を放つものまで多岐に渡る。
そう、その青白い炎こそ、まさに火竜の吐息。リオレウスがその場にいるとすら、我々取材班は感じていた。あの腹の底から震わせるような、恐ろしいまでの重低音。あれが噂に聞く、竜撃砲というものなのだろうか――。
ここまで書いたことで、読者の皆様も、何となく察しているのではないかと思う。我々も同じ思いだ。ここで我々は、ある一つの考察を書かせていただこう。
ガンランサーは、銃槍使いは――リオレウスの生まれ変わりなのではないだろうか? 炎を吐き、執拗に獲物を襲い、狩りを何よりの楽しみとする。周りを意に介さない姿勢も、孤独で気高い空の王者そのものだ。返り血に塗れる姿は、あの赤い甲殻にすら見えてくる。そして、リオレウスであるとするならば、近付くだけでも危険なことに説明が付く。
間違いない。ガンランサーは、リオレウスである。
そう確信めいた仮定の下、今後もその生態を追っていきたいと思う。
続報を待て。
月刊狩りに生きる 武器ロマン紀行編集部