ラストリロード   作:しばじゃが

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嵐の前の静けさ

「ふう……」

 

 携帯焚き火セットで、火を起こすアルフレッド。

 スキレットには、川で取れた魚を三匹、川の字にして並べる。

 内臓は既に抜いており、開かれた腹が油を吸っては香ばしい匂いを漂わすのだった。

 

 夜の砂漠。

 そのベースキャンプで、狩りの準備をする男女。

 焼ける魚を見守り、涎を拭う大柄な男――アルフレッド。

 その横で薬莢を並べ、氷結貫通弾の調合に勤しむ小柄な少女――セレス。

 

「ヨダレダケにマッドシュリンプを加えて、と」

 

 油が跳ねるスキレットへ、切り身のキノコと剥いたエビを並べていく。

 そして、蓋を閉めて香りを押し込めた。代わりのように、白い煙が漏れ溢れる。砂漠の冷えた空を、淡く彩っていく。

 

「……良い星空だな」

「うん。綺麗でしょ、砂漠の夜って」

「ああ。綺麗だ」

 

 見上げれば、満点の星空が二人を迎えていた。

 これから始まる恐ろしい死闘をも、忘れさせるほどの圧巻な光景。

 自然と、二人の口元は綻ぶのだった。

 

「いよいよ、明日か。早いもんだな」

「お金、何とかなって良かったね。間に合ったね」

「ああ。おかげで、武器と防具をどちらも新調できた。準備は万端だ」

「こっちも、音響弾や閃光玉をたくさん準備したよ。罠もあるけど……効くかな?」

「古龍並みに強いかもしれないが、古龍じゃない。きっと効くさ。それに、龍歴院の見解ではラージャンの方が強いとのことだ。その点では、自信が持てるな」

「う、うん……」

 

 その言葉に、セレスの肩は微かに震えた。

 

「……怖いか?」

「……うん、怖いよ」

 

 翡翠色の瞳が、揺れる。

 

「あたし、あれに勝てるかな……今でも時々、夢に見るの。あれが迫ってくる光景が、頭から離れない」

「ああ……」

「あたし、怖いよ。立ち向かうのが怖い。できることなら、会いたくない」

「うん」

「でも、故郷を失うのはもっと怖い。生息域が、どんどん広がってる。このままじゃ、故郷が縄張りに入るのも時間の問題だもん。父さんや弟たちを、守らなきゃ」

「そうだな……」

「それに、何よりね」

「ん?」

 

 揺れていた瞳が、定まった。

 まっすぐアルフレッドを見るその瞳。

 覚悟の決まった、その瞳。

 

「アルフを失うのが、怖いの」

「俺を?」

「うん。あたしがこのまま逃げても、アルフはきっと、一人でもあいつを狩りに行くでしょ? それが、怖い」

 

 真っ直ぐ、射抜くような視線に、彼はたじろいだ。

 考えていることがバレている。そんな、バツの悪そうな表情で。

 

「あたし、ハンターになって良かったって思えてる。アルフと一緒にいられるから、楽しいの。生きてるのが、楽しい」

 

 張り詰めた空気を抜くように、セレスは小さく笑った。

 

「……あのディアブロスと会った時は、こんな風に思えなかったな。でも、あたしをこうやって引き上げてくれたのは、間違いなくアルフだよ」

「俺が?」

「うん、君がずっと側にいてくれたから、あたしはここにいるんだ」

 

 そう言いながら、最後の氷結貫通弾を作り終える。

 全てを弾倉に込め、その弾倉をヘビィボウガンに嵌め込んだ。

 

「アルフ……改めて、ありがとう」

 

 月の光を映す髪が、より一層淡い輝きを灯す。

 少女のぎこちない、それでいて感情のこもったその笑顔に、アルフレッドは火加減を忘れてしまう。

 

「アルフ?」

「あ、ああ……いや、そう気にすんな。俺はやりたいようにやってきただけだから」

「もしかして、照れてる?」

「……照れてない」

 

 珍しい相棒の様子に、身を乗り出すセレス。

 アルフレッドは、そんな相棒と目を合わすのを避け、スキレットの蓋の方を見た。

 赤らんだ頬が一転、青ざめる。

 

「やべ、何か焦げ臭いような……あ! 焼き過ぎちまった!」

「あー……レッドペッパーかけて、誤魔化す?」

「仕方ねぇ、そうするか。ありがとな」

 

 懐から出した小さなビン。

 中には、赤い粉末が詰められている。ハンターたちが愛用する、トウガラシを粉にしたもの。

 セレスから受け取ったアルフレッドは、それを全体にまぶした。

 少々焼け過ぎてしまったが、魚とキノコ、そしてエビが赤い模様を描く姿は、彼らの食欲を刺激した。醸し出すは、トウガラシ特有のつんとする香り。

 その出来栄えに、大男は満足そうに頷いた。

 

「ま、食べようぜ」

「うん!」

「いただきますわ!」

 

 さも最初からいたかのように、両手を合わせる少女。

 付近に哨戒に出ていたウルティナが、早くもフォークを握っていた。

 

「ウルちゃん! いつの間に!」

「戻ってたのか」

「ええ。お二人が何だか話し込んでいたので、タイミングを決めかねてまして」

「そこの嬢ちゃんがすぐに輪に入ろうとしてよぉ〜。止めるの大変だったんだぜ? 褒めてくれよ、アルフレッド」

「レクス……お前さんも、戻ってたんだな」

 

 岩陰からは、太刀を背負った無精髭の男が現れる。

 大方、構わず戻ろうとするウルティナを抑えるのに尽力したのだろう。その表情には、疲れが見えた。

 

「付近の調査、終わったぜぇ。ディアブロスは、ゆっくりではあるが、砂漠中央のサボテン地帯を目指してる。明日の午後には、そこに到達すると思うぜ」

「……エスト村の近くだ」

「俺が前に戦った場所あたりかな。まさしく、あいつの元の縄張りに帰るつもりだろう」

「スタートがゴールというわけですわね。それでは、いただきますわ!」

 

 空気を読まずに魚を食べ始めるウルティナに、三人は文句を言おうとするのだが――どこか張り詰めた空気が崩れて、小さく笑った。

 

「……そうだな。食おう。腹が減った!」

「うん、だね! お肉も焼こう!」

「オレは酒を持ってきたぜぇ〜! 英気を養わなきゃな!」

 

 それぞれ持ち寄った食材を並べ、焚き火の周りを彩っていく。

 小さな宴会場ができたところで、それぞれのグラスを打ちつけ合うのだった。

 

「それでは、狩りの成功を祈って――」

「乾杯!」

 

 月夜が照らす、赤い酒。

 砂漠に育つ竜舌蘭(りゅうぜつらん)を使った酒を、それぞれ飲み交わす。

 

「げふっ! 何ですのこれ!」

「うぷ……やっぱり強いよね、このお酒」

「アルコール度数、高いねぇ」

「酒には、度数が高いほど旨くなるって法則がある。強かでドライで、良い酒だな。旨い……」

 

 琥珀色よりも、さらに濃いその酒。

 グラスの中を少量満たしたそれは、竜舌蘭を原料とした蒸留酒。セレスもよく知る酒である。

 その名も、エストボトル。

 

「こんな旨い酒が作れる村を、壊されるわけにはいかねぇな」

「これ、もしかしてセレスちゃんの村で……?」

「うん。テキーラっていうの。あたしはあんまり得意じゃないけどね」

「この前飲んだエメラルド•サンセットだって、度数は高かっただろ?」

「あれは甘かったから……」

 

 集会酒場で飲んだ酒の味を思い出しながら、セレスはグラスに口をつける。

 しかし、痺れるようなアルコールの香りに、眉をへの字に曲げるのだった。

 

「わたくしも、これはちょっと……グラスワインが欲しいですわ」

「贅沢なお嬢さんだなぁ。オレは、好きだぜ。この味」

「酒に慣れた奴向けかもな。親父さんも、これは飲むのか?」

「うん。毎晩、美味しそうにちびちび飲んでたよ」

「そうか……」

「今度、アルフとも飲みたいって言ってたよ」

「それなら尚更、明日は頑張らなきゃな」

 

 グラスを愛おしそうに見ながら、アルフレッドはぐいっと飲み干す。

 喉を通るそれが、熱く、辛く、身体中の血液を湧き上がらせる。強い酒特有の香りを勢いよく吐き出し、大男は満足そうに鼻を鳴らした。

 

「さ、そのためにもしっかり食べませんと! お肉焼きますわよ!」

「う、ウルちゃん。あたしが焼くから、ゆっくりしてて……?」

「何ですの? あたしもやりますわよ?」

「いや、いいんだ。お嬢はゆっくりしてくれ。俺たちで焼くから。ほら、これでも食ってさ」

「……なら、お言葉に甘えまして」

 

 渡されたモスジャーキーを齧りながら、ウルティナは浮かせた腰を戻す。折り畳み椅子に座り直し、ゆっくりと背もたれに身を預けた。

 その傍で、肉を焼き始めるセレスとアルフレッド。

 一連の会話を目の当たりにし、レクスは不思議そうに尋ねるのだった。

 

「……どうしたんだぁ?」

「あのお嬢さんに肉を焼かせるとな、何故か燃石炭ができるんだ」

「ああ……そう……」

 

 少し悲哀を込めた目で、くつろぐお嬢様を見るものの――それ以上追及することはなかった。

 一方で、アルフレッドは彼に問い掛ける。

 

「なぁ、レクスやウルティナの他にも、ハンターたちは動員されてるんだろ? 他の奴らはどうしてるんだ?」

「周辺を哨戒しながら、明日の朝、ここのベースキャンプに集まる予定さぁ。随分多く来てるみたいだぜ。みんな、アンタらを助けるためにってよ」

「そうか……ありがたいな」

「この砂漠を囲うように待機するらしいですわ。ディアブロスの逃走を防ぐために、ね」

「エスト村の方面にも、来てくれるかな?」

「そこは、集会酒場の二人が請け負うとさ。頼もしいねぇ」

「ラヴァンダ、ウェーナー……」

 

 ディアブロスに対して、並々ならぬ感情を抱いていた二人。集会酒場のオーナーである彼らは、セレスの故郷を守る最後の砦となっていた。

 

「あの二人なら安心だな。俺たちは狩りに集中できる」

「うん……」

「オレとお嬢さんは、アンタらのサポートさぁ。狩りの中心は、アンタら。ディアブロスと戦う。オレたちは、乱入するモンスターを捌いたり、緊急時は手助けに行ったりするってわけ」

「そんなことがないことを、祈ってますわ」

「善処する」

「が、がんばるね」

 

 冷えた砂漠の澄んだ空気に、肉の焼ける香りが溶け込んでいく。

 命のやり取りによる緊迫感。

 その嵐の前の、静けさである。

 四人は、静けさを――その恵みを、存分に享受するのだった。

 

「焼けたな。さ、食べようぜ」

「ウルちゃん、お待たせ」

「ありがとうですわ! いただきますわ!」

 

 砂漠の夜は、更けていく。

 彼らの談笑する声が、星空を彩るのだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「おお……随分集まったな」

 

 静けさを生んだあの夜とは打って変わり、瞼を突き刺すような光が駆け抜ける。

 夜明け。

 それと同時に、動員されたハンターたちがベースキャンプに訪れた。

 最初に到着したのは、玉虫色に光る鎧を着た女性。妃蜘蛛の鎧を着たガルクに跨りながら、颯爽と現れる。

 

「ウル、アルフレッド様、セレス様。みんないるわね」

「お、ベアトリス」

「お姉様! いらしたのですか!」

「みんなが頑張るって聞いて、私も少し力になれたらってね。いざという時は、頼ってね」

「頼もしいです、ベアトリスさん!」

 

 次に現れたのは、六人組の大所帯だった。

 

「セレスちゃん! 助けに来たよ!」

「セシルさん! カインさんも!」

「ご無沙汰してます。お二人とも、お元気そうで」

 

 新調した武器を背負う、セシルとカイン。

 かつてセレスを勧誘していた、猟団の二人である。

 

「今回は裏方だけど、ぜってえディアブロスを食い止めっから! 俺頑張るからね!」

「猟団メンバー、全員出動です。全力でサポートいたしますよ」

「おお……ほんとに猟団なんだな。実は、お前さんたち二人しかメンバーがいないんじゃないかって、思ってた」

「失礼な奴だな〜相変わらず! なぁ、カイン!」

「まぁ、しょうがないでしょう。メンバーも六人で、中途半端ですし。だからこそ、お二人を勧誘したんですがね」

「ちょうど八人になれれば、フルメンバーで二団体になれるもんな〜。今からでもどう? セレスちゃん!」

「あ、あはは……」

 

 諦めることなく勧誘を続けるセシルに苦笑いしつつ、セレスは二人の奥に控えるハンターたちを見た。

 そこにいるのは、狩猟笛を持った男に、弓使いの女性。珍しい、チャージアックスを背負う男と、大剣を担いだ男。似た顔付きから、双子のようだった。

 

「我々も砂漠を見張り、ディアブロスの逃走を阻止します。お二人は狩りに集中してください」

「ああ。頼りにしてるぜ」

 

 アルフレッドは頷き、カインと固い握手を交わした。

 彼の目に、ガンランスを忌避する色はもう無い。

 確かな信頼を帯びた瞳に、大男は少しむず痒く感じるのだった。

 

 そして、その後合流したのは、アルフレッドと寸分違わぬ体躯を持った人物。

 

「はぁ〜い、アルフ! アタシも来ちゃったわ!」

「……マスター?」

 

 バルバレの路地で営んでいる、バー•ラージャンハート。

 そのマスターが、ここにいた。

 いつもの正装とは打って変わり、厳しい鎧に身を包んでいた。

 

「何だその装備……誰だか分からなかったよ」

「ガンキンシリーズよ。この色味がセクシーでしょ? カッコいいでしょ?」

「ハンターライセンス、まだ有効なのか?」

「更新したわよ勿論。間が空いちゃって、簡単な試験をさせられたけどね」

 

 そう言いながら、背負うランスをすらりと構えた。

 並外れた体躯を覆うほどの、大きな盾。

 マスターによく似合う、逞しい出立ちだった。

 

「アタシも力になるわ。ディアブロスを、アタシの槍で掘ってやるわよ!」

「やめろ」

 

 マスターに続き、集会酒場の面々も辿り着いた。

 ラヴァンダ、ウェーナーのオーナー二人に、ハンターが数人。

 ディノバルド一式の、ハンマーを担いだ女性。

 タマミツネの防具を着込んだ、ライトボウガン使い。

 ライゼクスの鎧を纏う大剣使いに、ガムートの毛皮をあしらったコートを着たアイルー。

 集会酒場の精鋭たちだ。

 

「アルフレッド、セレス。応援に来たわ」

「ラヴァンダさん! ウェーナーさん!」

「本作戦の指揮する者として、手助けいたします」

「わざわざ現場まで来なくてもいいのによ」

「鏖魔となれば、出ずにはいられないってウェーナーがね。もう張り切ってるのよ、この人」

「血が騒ぎまして……」

 

 困ったように笑いながら、相方を肘打ちするラヴァンダ。

 その相方は、控えめに笑いながらも、シャドウアイ越しの眼光を鋭く光らせていた。

 そんな二人に向けて、奥に控えるハンターたちにも、セレスは頭を下げる。

 

「エスト村を、守っていただけると聞きました。ありがとうございます、みなさん」

「お顔を上げてください。こちらこそ、討伐の首魁を請け負っていただき、感謝しています」

「水臭いわよ、セレス。これはアタシたちみんなの戦い。守るための戦いよ」

「頼もしいぜ。安心して、狩りができるな!」

「うん……何だか、勇気が湧いてきたよ」

 

 名だたるメンバーを前に、セレスも少し前向きに笑うのだった。

 そんな相棒の姿に、アルフレッドも優しく笑う。

 一方で、反対側からはフルフルの装備を着た二人組が辿り着く。

 

「アルフレッドさん! レクスさん!」

「お、氷海の!」

「アズール! それにミュアンじゃねぇか!」

 

 ウルクススの鎧を纏っていた二人は、フルフルの鎧へと新調していた。

 氷海付近の村で狩りを営む、若きハンター。

 アズールとミュアンである。

 

「レクス師匠。お久しぶりです」

「二人とも、また立派になったなぁ。今回の作戦に志願したのか?」

「はい。お二人が出るとなれば、力になりたくて!」

 

 装備を見れば、腕を上げていることが分かる。

 アルフレッドは嬉しそうに頷いた。

 

「ありがとな。助けに来てくれて」

「いえいえ。少しでも、恩返しになれたらと思いまして。片手剣の特訓も、頑張ってます!」

「私とアズールも、周辺の哨戒に尽力します。皆さん、頑張ってください!」

 

 そして、最後に着いたのは、他のギルドからの応援隊だった。

 火の国からは、ラングロトラ装備の彼と、その仲間たち。イーオスの装備を纏っている。

 

「お久しぶりです。アルフレッドさん、セレスさん」

「おう、また会えたな」

「久しぶり! お姉さんは、元気?」

「ええ。とても」

 

 あの火の国の一件の時は、余裕のない表情に満たされていた彼だったが――。

 今は、憑き物が落ちたように朗らかに笑うのだった。

 

「貴方がたが前例を作ってくれたおかげで、女王の発言権も増しました。モンスターによる災害は、ハンターに。そんな風に、国が変わりつつある気がします」

「そいつは良かった。あの時啖呵を切った甲斐があった」

「まぁ、頭の固い人が多いので、すぐにとは行きませんが……でも、我々も頑張ります!」

「うん、頑張って!」

 

 バルバレからは、グラビドシリーズのランサーと、バサルシリーズの弓使いがいた。

 また、タンジアやドンドルマからも、数名のハンターが派遣されている。ベースキャンプには、二十人を超えるハンターたちが集まっていた。

 

「すげえ。こんなに」

「すごいね。みんな、ディアブロスを倒すために来てくれたんだね」

 

 それぞれ武器を研いだり、肉を焼きながら、これから始まる戦いに備えている。

 早くも、自分の持ち場に向かった者さえいる。

 

「……みんな、アルフのために来てくれたんじゃないかな」

「……俺?」

 

 その様子を見ていたセレスは、嬉しそうに笑い、アルフレッドに向けて振り返るのだった。

 地面に座りながら銃槍の手入れをしていた彼は、手を止めて相棒を見た。

 

「アルフが助けた人たち、一緒に戦った人たち……そんな集まりなんじゃないかな」

「そうかな……」

「ガンランス使いだからって、避けられてたのが懐かしいね」

「そういや、セシルやカインとも、始めはそんな感じだったな」

「アルフが、逆風に負けずにずっと戦ってきたから、今こうしてみんな、あたしの故郷を守るために立ち上がってくれたんだね」

「……戦ってきた甲斐が、あったんだな」

「うん」

 

 ごった返していたベースキャンプも、少しずつ静けさに移ろっていく。

 多くのハンターが、持ち場に移動し始めたのだ。

 未だに、入念に準備をするのは、本隊であるアルフレッドとセレスのみ。

 雑踏に飲まれていた会話が、少しずつ鮮明になっていく。

 

「……あたしたちも、そろそろ行かなきゃね」

「ああ。武器の手入れを、忘れんなよ」

 

 

 

 穂先を取り外し、シリンダー前方のロックスイッチを押す。

 留め具が飛び出して、砲身(バレル)が分離した。

 さらに、撃鉄をハーフコック状態にすることで、シリンダー後方のロックが外れる。すると、シリンダーそのものが抜け落ちるのだった。

 ガンランスが、バラバラになる。

 そして、その隙間についた煤を、シリンダーに空いた穴の一つ一つを、アルフレッドは入念に掃除するのだった。

 

 完成した、真滅銃槍ブルアノヴァ。

 赤と橙に明滅する甲殻で覆ったフレームは、見るものの心を踊らせる。時折顔を見せる黒曜石は、ブラキディオスの特殊個体のもの。ブラキウムと呼ばれるそれは、"ラストリロード"の熱にも耐えうるだろう。

 掃除し終えたそれらのパーツを、逆の手順で組み戻していく。

 穂先の刃は、火薬庫によって丁寧に研磨されてきたが――。

 最後の仕上げは、自らの手で。

 砥石を取り出して、アルフレッドは入念に刃を研いだ。

 こればかりは、他の手には任せられない。

 彼のこだわりである。

 

 握りの具合を確かめて、螺子をしっかりと締め切って。

 穂先を固定する蝶番(ちょうつがい)と、中折れ式の接合部に種子油を塗り、繰り返し動作を確認する。

 穂先を外し、片手剣のように振るっては、素早くフレームに嵌め直す。

 銃身の展開と折り畳みを繰り返し、リロードの具合を確かめる。

 

「……うん」

 

 空圧レバーを何度か押しては、その配管に細い棒と、その先に結った白い布を押し込んだ。

 汚れを拭き取り、竜杭弾を当てがって。

 黒色火薬を丁寧に込め、獣毛の蓋をする。三叉の刃を一本に折り畳んでから、砲口下部の竜杭弾用装填口に押し込んだ。

 

「よし!」

 

 手に馴染む、甲殻の重み。

 シリンダーと、そこに込められた砲弾の擦れる音。

 ずっしりと腕を包み込む、盾の厚さ。

 銃槍がもたらすその感覚は、アルフレッドに魂の昂揚を与えるのだった。

 自然と、頬が綻んだ。

 

「いくか、セレス」

「うん!」

 

 ヘビィボウガンを折り畳み、それを背負う相棒。

 アルフレッドもまた、もう一つの相棒(ガンランス)を折り畳み、背中のマグネットに貼り付けた。

 

 朝日が、砂漠を覆う。

 二人のハンターを、激しく照らす。

 ケチャワチャ亜種の、厚手の防具を纏った少女。そして、黒く重い鎧を纏った大男を、荒々しい世界へと誘うのだった。

 

「ディアブロス、狩猟開始だ!」

 

 覇竜の甲殻を用いたヘッドギアの奥から、大男が吠える。

 鏖魔ディアブロス討伐作戦。

 始動である。

 




いよいよ最終決戦です。
これまで出てきたキャラクターたちがどんどん出てきて目まぐるしい!皆さんは彼らを覚えておいでですか?私は思い出すために読み直しました。ええ。
狩りの前に銃槍をバラバラにして、整備し直す描写が書きたかった!そこを書けて満足…。ちなみにアルフレッドの新装備ですが、ビジュアルはMHXのアカムトRシリーズをイメージしていただけると幸いです。ヘッドギアがかっこいい。
閲覧ありがとうございました。
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