「うおおおぉぉッ!!」
突き上げ、からの連射。
重い引き金を続けざまに引き、紅蓮の花が五つ、咲き乱れる。
ガンランスは、引き金を引くことによって発砲、そしてシリンダーの回転と撃鉄の再準備が行われるダブルアクション式だ。
放射型のガンランスの装填数は、五発。装填拡張を行ったこのシリンダーは、瞬く間に抱えた弾を撃ち果たした。
「……へっ。効いたみたいだな」
鼻先に、立て続けに爆破を受けた目の前の牙獣種──ビシュテンゴは、苦しそうに顔を手で覆う。
長く伸びた鼻に、青い体毛に覆われた体。その腕からは皮膜が伸びるが、様相としてはババコンガ等に近い獣の姿をしていた。
近年になってこの狩猟区──水没林で生息が確認されるようになった、新種のモンスター。その長い鼻から、遠方の古里カムラでは、『天狗』と呼ばれている。
アルフレッドは、痺れる左手に顔を顰めながらも背後に跳んだ。
ガンランスの弾は重く、その反動も強烈だ。彼は恵まれた体躯を有しているが、それでも五連射を片手で放つのは、相応の痛みを伴うのだろう。
一方のビシュテンゴもまた、黙ってはいない。体毛と皮膜に隠し持っていたものを、皺だらけの手で曝け出す。
「柿……?」
黄色だったり、緑だったり、はたまた毒々しい紫色のものまでも。
天狗が見せたそれは、まごうことなき柿だった。
「うおっ!」
その柿を、奴は投げつけた。
両腕に収まらんと言わんばかりに抱えた柿を、器用に投球し続ける。目の前の赤毛の男、アルフレッドに向かって。
「ほっ、よっ、おっと!」
半身翻して避け、ステップで躱し、柿の猛攻を捌く。
最後に投げつけられた、毒々しい色の柿。それを、アルフレッドは盾で防いだ。
防ぐ瞬間、盾の先端で穂先を擦る。
彼が持つのは、『叛逆銃槍ロドレギオン』。鋭い刃鱗で身を覆う飛竜、セルレギオスの素材で作られたガンランスだ。
ガンランスの穂先であるヘッド部分は勿論のこと、この金色に輝く盾にも刃が連なっている。その刃を擦り合わせることで、ヘッドの刃を研ぎ、同時に付着した煤を削ぎ落とす。
防御の衝撃を利用した、研ぎ払いの妙技。
──ガンランス使いの間では、『ガードエッジ』と呼ばれている。
「食らいな!」
隙のない動きで全ての柿を捌いたアルフレッドは、ビシュテンゴの鼻先に向けて、金色の穂先を突き出した。
煤を払われたヘッドと、銃口の隙間から。
鋭く細い"杭"が、顔を出す。
思わぬ刺突が鼻先を穿ち、怯むビシュテンゴ。
しかしそれも束の間。噴煙を漏らす杭は、直後に破裂した。
「どうよ、竜杭砲の味はよ!」
爆破の衝撃と、それによってさらに埋め込まれた鉄片。
鼻先という急所を射抜かれた痛みにより、ビシュテンゴはのたうち回る。その度に舞い散る浅黒い血飛沫が、水没林の沼を染めた。
痛みに全てが見えなくなった牙獣。そんな隙だらけの様子を見て、アルフレッドは新たな弾を装填する。銃槍を半分に折り畳み、剥き出しになったシリンダーからは空になった薬莢が飛び出した。
砲身を再び展開させると、シリンダー後方の予備弾倉から新たな弾が装填される。
「……ん?」
ガンランス使いとして、何度も行ってきたその動作。
しかしアルフレッドには、奇妙な違和感が掌を、腕を、肩を、そして脳裏にまで駆け抜けたのだった。
砲身も、シリンダーも、一見何の異常もない。
弾も、問題なく装填されている。
しかし、何かが違う。
装填される音が、伸ばした砲身に噛み合わせが、力を込める際に感じる重さが、どこかいつもと違うのだった。
「……うおッ!?」
しかし、ゆっくりとそんなことを考えている余裕はない。
死に物狂いな様子で、天狗はその爪を振るうのだった。
尾で体を支え、まるでドスマッカォのように立ちあがったかと思ったら。何とそのまま錐揉み回転。皮膜も爪も、全身を全て使ってアルフレッドを仕留めようと襲い掛かってくる。
「ぐっ……! 盾じゃ、防ぎきれねぇか!」
基本的に、モンスターの
それは盾の耐久力か。はたまた、それを操る人間の体力か。はたまた、どちらもかもしれない。
そのため、多くのハンターは盾で防ぐより、攻撃を躱すことに重点を置いている。
ビシュテンゴは、巨大なモンスターというわけではなく、むしろ大型モンスターとしては小柄な部類だ。そうであっても、やはり彼らの力に対して、人間はあまりにも脆すぎるのだった。
「連撃……!」
過ぎ去った嵐のように動きを止めるビシュテンゴ。
しかし束の間、尾で器用に方向転換しては、再び乱回転を開始する。
迫る旋風。
鎌鼬のように空を裂く爪。
命を削ぎ落とす暴力の嵐。
それを目の前に、アルフレッドは盾を捨てた。
「──来いよ」
盾を捨てたのは、戦いを諦めたからか?
────否。
彼は、銃槍を構えた。
空気抵抗を減らし、持ち手にある絞りを回して砲口の空気調節を行う。
圧をかけた火薬が放つのは、まるで自らの限界点を主張するような青白い光。
溜め砲撃の反動を利用して飛ぶガンランスの妙技、ブラストダッシュだ。
「おおぉぉッッ!」
横に飛んで、獣の暴風を躱した矢先、アルフレッドは砲口を地面へと向けた。
そのまま、着地する前に引き金を引く。
圧をかけられた爆風が、彼を真上へと押し上げた。
「とどめだ……!」
真上をとって、隙だらけの奴の脳天へ。
渾身の一撃、刃鱗溢れるガンランスを叩き付ける。
それはまるで、千の刃が生み出す突風のように。
重量系武器の特徴を生かした、全身全霊の叩き付け。
様々な機能をもつガンランスにとっては、それは地味な格闘技術の一つかもしれない。
しかし、フルバーストや薙ぎ払いといった豪快な必殺技を放つ足掛けとなる。
まさに、ガンランスにとっての、影の主役と言える奥義の一つなのである。
その一撃が、ビシュテンゴの脳髄を砕く──なんてことは、なかった。
バキッっと、軽快な音が響いた。
「……あ?」
ガンランスが、折れた。
金色の砲身が粉々に崩れ、シリンダーを剥き出しにしながら折れていた。
「……マジかよッッ!!」
先ほど感じた違和感。
中折れ式という、利便性のために耐久力を犠牲にした構造は、今積み重ねた歪みに負けたのだった。
真ん中で真っ二つに砕けたガンランス。頼りない一撃は、ビシュテンゴの頭皮を少々削っただけだった。
「チッ!」
思わぬ好機に気付いたビシュテンゴは、速かった。
すかさず尾を振るい、隙だらけのアルフレッドを薙ぎ払おうとする。
「だが……!」
地に這うことで、それを躱したアルフレッド。同時に、彼は銃槍の持ち手を離した。
支えを失って、ガラガラと転がる金色の砲身。それを掴み、ヘッドに備え付けられた穂先──セルレギオスの象徴とも言える刀角を加工した刃を、彼は剥ぎ取った。
「どうした天狗野郎、俺はまだ戦えるぞ……!」
砲身から離れた穂先には、片手剣風の柄が伸びる。
このロドレギオンと呼ばれるガンランスは、穂先として片手剣サイズの刃物を備え付けられたもの。つまり別添えの刃を、穂先として砲身に装着させているのだ。加工屋には、『ヘッド独立型』と呼称されている。
故にそれは、後付けの刃。取り外すことも可能。
「うおおお!!」
逆手に握ったその刃をもって、彼はビシュテンゴの懐に潜り、その青々しい毛並みの奥を切り裂いた。
ビシュテンゴは、悲鳴を上げる。
或いは、殺意を込めた雄叫びだろうか。
武器を失ったというのに、それでも襲い掛かってくる小さな敵に、獣は抗い続けた。
「遅いッ!」
弱っているが故、反撃の爪も弱く、狙いも定まっていない。
アルフレッドは舞うようにステップでそれを避け、再び奴の懐に潜る。
「あばよ。楽しかったぜ」
ただそう言うと、彼はとどめの一撃を放つ。
突き出した刃が、獣の内臓を巻き込みながら引き抜かれた。
鮮血が、この水没林を染めた。
○◎●
「……これで、依頼完了か」
水没林に住み着く天狗獣。
行商人の交易ルートだが、本獣の悪戯好きな性格もあってか、商売を妨害され、積み荷を荒らされる事件が頻発した。
小柄だとはいえ、大型モンスターだ。
アルフレッドはその討伐に向かった。竜車を守るでも、誰かを救援するでも、毛皮を外套にするといった依頼でもない。
ただ、モンスターを狩ること。それが彼には、性に合っていた。
「……はぁ、しかしまさか、壊れるとは」
彼が落とす視線は、暗い色を帯びている。
その先にあるのは、沈黙したガンランス。
金色の鱗が砕け、真ん中で二つに分かれてしまった憐れな砲身。
「
手入れはしてきたつもりだったが、結局のところ今回が寿命だった。
アルフレッドは自分にそう言い聞かせながら、ポーチからロープを取り出して、バラバラの部品を括りつける。
それを背負いながら、小さく呟いた。
「今日はビールが飲みたくなる日だ……」
そして、もう一言付け加える。
「……帰ったら、工房行くかぁ」
彼の行きつけの工房、『火薬庫』。
ガンランスを専門的に取り扱う、ドンドルマの路地の裏にある小さな工房だ。
クエスト完了を示す信号灯に火をつけながら、彼は相棒の修理を固く誓うのだった。
中折れ式は耐久性に難がありますよね。かのコルト・シングルアクションアーミーは、その頑丈さからS&Wスコフィールドを打ち破って軍の正式採用を勝ち取っているので、まさに歴史が物語っている……。
次回は狩りに出ず、工房でガンランスのお話編です。
お楽しみに。
それと、ガンランスの妄想イラスト第二弾です。
今回は、装填数(砲撃タイプ)編!
【挿絵表示】
これを描いた頃と比べ、今は装填数がさらに+1されましたね。拡散型が悲しそうにこっちを見ている!