今回は、新たな研究報告がある。
心して聞いてほしい。
皆が思う、革新的な部分だ。
果たして、ガンランサーの力はどれほどのものなのか。その強さについて、記しておこうと思う。
この記事作成のきっかけとなったのは、とあるモンスターの討伐報告だ。
砂漠を脅威に陥れた、鏖殺の暴君――ディアブロス。エスト村、マデュラ村、ルビコ村など、砂漠に点在する小村は、その猛威に晒されていた。
特にエスト村は、かの存在の縄張りに入りかけていたこともあり、廃村の危険が最も高かった。そして、その危機を救ったのが、何を隠そうガンランサーである。
ディアブロスを超えたその存在と、ガンランサーは真っ向から戦った。二メートルはあろうかという体躯で突進を防ぎ切り、角を砕き、封じ込めた炎を解き放つ。
角竜の猛撃を防ぎ、自身の放つ炎をも耐え凌ぐ姿は、さながら砕竜ブラキディオスのよう。
巨大な刀身を、砲撃の熱で変色したその刃を叩きつける姿は、さながら斬竜ディノバルドのよう。
そして、解き放つ劫火はまさにその持ち主――火竜リオレウス。いや、それすら凌駕していたかもしれない。
言うなれば、真を倒す贋作。
模したはずの大元すら超える豪炎。
その炎をもって、鏖魔ディアブロスと対等に渡り合ったそうだ。そのガンランサーを知る者に取材したところ、砲炎を利用して空を飛んだという、眉唾物の証言すらあった。そして彼は、その力を駆使してディアブロスと縄張り争いをし、ついに勝った。
聞けば、鏖魔ディアブロスは自身の縄張りを奪われて、下剋上をするために死の淵を乗り越えた個体だという。そしてその縄張りを奪ったのも、かのガンランサー本人という。
前回我々は、ガンランサーはリオレウスの生まれ変わりなのではないかと考察した。
だが、今回の戦いぶりを見るに、そんな生易しい存在ではないと考えるに至った。
――ここまで書いたところで、読者の皆様もお気付きのことと思う。
モンスターと対等に渡り合い、その縄張りすら奪い合う。
ここから導き出せる結論は。
そう、ガンランサーもまた、モンスターそのものなのではないか?
極めて大柄で、力も並のハンターを上回り、火竜をも超える火を吹く。
これをモンスターといわずして、何とするか。
ガンランサーこそ、モンスターである。略して、『モンスターガンサー』だ。
これ以上の調査は危険だと、編集部は判断した。
よって、この生態報告も今回が最終回だ。
ガンランサーは、まだまだ健在だ。
しかし、人々の危機には、危険なモンスターを前にしては、何よりも頼りになる存在とも言える。
我々は、その逆鱗に触れないように、縄張りを侵さないように、安全な位置での共存を模索していく必要がある。
月刊狩りに生きる 武器ロマン紀行編集部
「――よし」
エスト村を囲む岩山の、一際大きな谷間。
まさに大通りと言わんばかりのその空間に、ロープとフックで大きな頭蓋を吊り下げる。
それは、先日討伐された鏖魔ディアブロスの頭蓋骨。
砕けた角を補修し、装着し直したことにより、死してなお恐るべき威圧感を醸し出している。
龍歴院からの支援もあり、エスト村には数々の物資が届けられていた。この頭蓋も、とどめを刺したハンターの意向により、このように活用されたのだ。
村のランドマークとして。
そして、他のモンスターを遠ざける門として。
「……いい感じだな」
夕闇に染まる砂漠。
その光を浴びて、橙色に染まる頭蓋。
「随分、頼もしくなりやがって」
その取り付けに関わったアルフレッドは、満足そうに笑った。
村を恐怖に落とし込んだ悪魔が、今は村を守護する存在となっている。この威圧感を前に、ゲネポスはあからさまに村を避けていた。他の大型モンスターも、無視することはできないだろう。
「ありがとう、アルフレッド君」
その設置を指揮したセレスの父もまた、満足そうに頷いた。
「これなら、村もそう簡単には踏み入られないだろう。助かるよ」
「正直、俺もこれを見てると落ち着かない。モンスター避けに最適だな……」
「うむ。さ、村に戻ろう。宴会の準備はできている。主賓はもちろん、君と娘だ。さぁ、早く」
「おう。待ってました!」
父に誘われ、大男は頭蓋の下を通り抜けた。
荒涼とした風が抜ける道。その先には、石が積まれた家々が見えてくる。
そして、その側に停泊する龍識船からは、アイルーたちが物資を次々に降ろしていき、宴会の始まりを今か今かと待ち望んでいるようだった。
⚪︎◎⚫︎
「鏖魔ディアブロスの討伐を祝いまして――」
「かんぱーいっ!」
賑やかな宴会は、この村の平和が守られたことを祝うためのもの。
あの鏖魔討伐作戦に参加した人々と、エスト村の住人が酒を交わし、熱々の肉を頬張り、
船から降ろされた木製のテーブルには、さまざまな食材や酒が並ぶ。誰もが上機嫌に話し、笑い、どこかから酔った歌声が響いている。
「――にしても何だよこの記事。ガンランサーがモンスターだぁ?」
「インパクトあるでしょう? 実際、大砲に剣と柄が付いたような武器を振り回してる時点で化け物染みてますし、誇張じゃないと思いません?」
「いやいや……誇張でしょ……」
呆れるアルフレッドと、自慢げに笑う月刊誌・狩りに生きるの編集者、ミスル。その言葉を聞いて、さらに呆れるラージャンハートのマスター。
「でもここは気に入った! 砕竜とか斬竜とか、強いモンスターに例えて書いてるところ」
「ふふん。自信作です」
「それにこの……真を倒す贋作ってところだな。いい響きだ」
「やっぱりガンランスといえば炎よね。間違いないわ」
「光栄です! 書いた甲斐がありました!」
「……てかマスター。そういえば、だけどさ。本当に、ハンターだったんだな」
「何よ、疑ってたの?」
「疑うだろそりゃ。でも、ランスが様になってた」
「強いのよ、アタシ。惚れたかしら?」
「いいや、全く」
ウインクするマスターを、手の平で無理矢理別の方向へ向かせるアルフレッド。
そしてまた、酒を仰ぐ。わはは、と楽しげに笑う。
そんな酒飲み集団の横で、静かに酒を啜るは、セレスの父であった。
「……ここまで大きく祝ってもらえるとは、思ってなかったな」
「うん?」
ふと溢したその言葉は、喧騒の中に溶かすつもりだったのだろう。
しかし、奇しくもアルフレッドが聴き拾ったのだった。
「親父さん、どうしたんだ?」
「ああ……いやね、まさかこの村のことを、ここまで祝福してもらえるとは思わなくてね」
「良いじゃない。こういうのは、時の運と流れよ。流れに身を任せると、こういう巡り合わせもあるものよ」
「確かに、そうだ。そしてその流れを作ってくれたのは、君と娘だ。何よりも、感謝したい」
そう言いながら、彼はアルフレッドのジョッキにビールを注ぐ。
並々と溢れる金色の液体は、次第に白い気泡と化し、アルフレッドの手まで濡らしていた。
「おっとと……入れすぎだ親父さん」
「私からの感謝の気持ちだ。乾杯」
お互いのジョッキを打ち付け合い、その中身を仰ぐ。
爽やかな喉越しが、弾ける炭酸となって喉の渇きを潤した。
「――娘には、本当に苦労をかけた」
飲み切ってから、漏れ出たように溢す父の言葉。
それを遮らないように、アルフレッドは次の言葉を待った。
「……あの子が十五か、それくらいの頃に、妻を――あの子にとっては母を亡くしてね」
遠くを見るように、彼は語り続ける。
その視線の先には、当時の情景が浮かんでいるのだろうか。
「それでもあの子は気丈に、弟たちの面倒を見てくれた。そして村を守るためにハンターを志し、それ以来ずっと仕送りをしてくれている。弟たちにとっては、母親代わりだろう。セレスがいてくれたから、弟たちは今も元気に育っている」
「すげぇな、セレスは」
「ああ。本当に、自慢の娘だ。だからこそ、彼女を解放してやりたい。あの子の思う人生を、歩ませてやりたい。私はそう思う」
力強く語るその姿は、まさに娘を想う父親そのもの。
アルフレッドも頷いた。
彼の背中を押すように。
「そのための一手が、あの鏖魔の門だな」
「うむ。モンスターからの脅威は、あれである程度は防げるはず」
「資金面にもお悩みなんですって? ならちょうど良いわ。アタシからも、商談があるんだけど」
マスターもまた、自身の名刺を出しながら彼に語り掛ける。
風貌こそ独特なものだが、その丁寧な語りぶりには、セレスの父も耳を傾けるのだった。
「今回の訪問で驚きだったのが、貴方たちの村のお酒――エストボトルよ。あれ、本当に美味しいわ……」
「そう言っていただけるとありがたい。古い蒸留器で作っているため、品質はそこまで良くはないと思うのだが」
「その荒々しさが、まさに砂漠の風を体現してると、アタシは思うの。そこで提案! まとめて購入させていただきたいわ! そして売れ行き次第では、定期購入も契約したいの!」
「……と、いうのは。ええと……」
「親父さん。マスターは、バルバレのバーの店主なんだ。珍しい酒をよく仕入れててな。酒を見る目だけは確かだ。俺もその案に賛成するぜ」
「だけはって何よ。他がダメみたいじゃない、んもう!」
「……アルフレッド君がそういうなら、そうなのだろう。こちらからも是非、お願いしたい。鏖魔亡き今、材料の採集ももっと振るうはず。たくさん製造できるよう努力する」
「やった! 交渉成立ね!」
「俺も、何本か欲しいな。各地を渡り歩くから、行く先々の酒場で販促するよ」
「それも嬉しい。助かるよ」
思わぬ酒の売れ行きに、セレスの父は嬉しそうに頷いた。
娘の援助がなくとも、成り立っていく村にしたい。
そんな彼の思いが表れた、優しい微笑みだった。
「……大丈夫さ。熱帯イチゴや隕石の素材……砂漠の名産はたくさんある。セレスの弟たちも大きくなってるし、やってけるさ」
「ありがとう、アルフレッド君。君がいてくれて、本当に良かった」
賑わうエスト村。
日は完全に沈みきり、夜の闇に包まれる。
しかし、村の中央に作られた巨大な焚き火は、まるで昼のような輝きをもたらしていた。
エスト村は、眠らない。
宴会はまだまだ続いている。
「おお、銃槍使い!」
アルフレッドに声を掛けるのは、あの作戦に参加した二人組のハンター。
グラビドシリーズのランサーに、バサルシリーズの弓使い。
ベテランのハンター二人に手を振りながら、アルフレッドは歩く。
「アルフレッドさん!」
声を掛けるは、ラングロシリーズを着込む青年。
火の国の若きハンターである。
アルフレッドは片手を上げ、お互いの肘を打ち合った。互いの健闘を語るように。
そんな、対等な対応をする英雄の姿に、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「よっ! 悪魔殺し!」
そう囃し立てるのは、ラヴァンダとウェーナーが連れてきた龍識船の四人組。
ハンマー使い、大剣使い、ライトガンナーにアイルー。着込むは、四天王と呼ばれるモンスターたちの防具。
面識はないが、共に同じ作戦を担った者。
アルフレッドもまた、片手を上げて応える。
「アルフレッド」
その奥では、ラヴァンダとウェーナーが、ジョッキを手向けながら待っていた。
「おう、二人とも」
彼らを前にして、アルフレッドは足を止める。
「改めて、礼を言わせてもらうわ。ありがとう、アルフレッド」
「感謝致します。いやはや、素晴らしい腕前でした」
「何だよ急に。お前さんたちには、何もしてないぞ」
「鏖魔ディアブロス――アタシたちの、因縁の相手」
「個体は違えど、貴方が討伐を果たしたことで我々は、胸のつかえが取れたような気がします」
かつて現れた、『鏖魔』と呼ばれた存在に、ハンター業を引退に追い込まれた二人。
結局決着はつかず、しかしその鏖魔もまた、自然の荒波に飲まれて潰えてしまった。
不完全燃焼であった二人。彼らの中に燃え残った燻りを、アルフレッドは全て燃やし尽くしたのだった。
「……ま、二人の助けになれたならよかった」
「アタシたちだけじゃないわ。龍識船のみんなも喜んでるわ」
「村をいくつも守れたのです。喜びの数は計り知れません。ま、船の方々は作戦指揮が上手くいったことゆえの喜びかもしれませんが」
そう言っては、困ったように笑うウェーナー。
その奥から、近づいてくる集団の姿に気付いたラヴァンダは、「噂をすれば」と微笑んだ。
「アルフレッドさん!」
「お、ハイメル隊長」
研究員を引き連れる若い竜人族の男性――ハイメルは、嬉しそうにアルフレッドに駆け寄り、その両手を握った。
「鏖魔討伐、おめでとうございます! よかった無事で……本当に……っ!」
「大袈裟だなぁ」
「いやいや、あれはかなり危険な任務でしたので。……爆発、しました?」
「ああ、した。びっくりした」
「ですよね……自分も、後から文献漁って、その可能性に気付いたんですけど、伝えるにはもう遅くて。無事に帰還してくれて、本当に良かったです」
そう言って、涙ぐみながら笑うハイメルに、アルフレッドは頬を綻ばせるが――。
ふと、彼ら研究員の言葉を思い出した。
「……いや、ちょって待て。お前さんたち、あれよりラージャンの方が強いって言ったよな。でも、明らかに鏖魔の方が苦戦したぞ。どういうことだ」
「あ、ああ……あれは、鏖魔とラージャンが戦った場合を想定した答えです」
「あん?」
「つまり、生き物としてはラージャンの方が強いでしょうが……実際人間が戦ってみると、鏖魔の方がやりにくい、ということですかね」
「……何だそりゃ」
「地中潜航、咆哮、原理不明の水蒸気爆発。何より、人間のことをよく分かっている個体です。一度貴方に、手痛い目に遭わされていますからね」
「あー、なるほど……。確かに、あの硬さも人間には厄介だが、ラージャンなら大した問題じゃなさそうだしな。少し納得したかも――」
「いや、待ってください隊長! 私は別の見解があります!」
「私の見解も聞いてください!」
ハイメルの考えを前に、研究員たちが次々に口を開いた。
生物学者の
そして、その荒波から逃れるように隙間を掻い潜り、再び宴会の方へと足を踏み入れる。
辺りを見渡しながら、長い足で地面を蹴り続けた。
大男が早歩きをする様子は、さぞ目立つのだろう。
彼に気付いた別の団体が、声を掛ける。
「アルフレッド!」
「アルフレッドさーん!」
レクス、アズール、ミュアン。
トタン村の一団だ。
「お、三人とも楽しんでるな」
「おかげさんでな」
「楽しいです! ね、ミュアン」
「うん。アルフレッドさん、改めて狩猟完遂おめでとうございます」
ミュアンが深々とお辞儀すると、アズールも慌ててお辞儀する。
その様子に、流石のアルフレッドも足を止めざるを得なかった。
「ありがとう二人とも。それに、レクス。あの時は助かった」
「おうよ。間に合って良かったぜぇ」
「師匠、アルフレッドさんのカバーをしたんですよね?」
「鏖魔と交戦も……? どうでした?」
「ありゃ、骨が折れる相手だった……なぁアルフレッド。できればもう会いたくないね、あんなのとは」
「……だな」
そう言う二人の様子から、ミュアンは畏怖を、そしてアズールは憧れを抱く。
「それにしても、アルフレッドよ」
「ん?」
話を変えるように、ジョッキを渡すレクス。
並々と注がれた酒を受け取り、アルフレッドは話の続きを待つ。
「アンタがこの宴会の主役だとよ。ガンランスを、誰もが認めてんだ。鏖魔をも撃ち倒した、すげー存在だって。鼻が高ぇよな」
「お、おう」
「アンタの背負うそれを見ても、ここにいる奴らは眉をひそめねぇ。すげーよな!」
「そうだな」
「ガンランスが、英雄だぜ! すっげぇなこんなのよ……見たことがねぇ!」
「……嬉しそうだな、レクス」
「えっ……あー、そう? そう見える?」
「ああ」
「そっか〜……」
見れば、酒が回っているのか頬が紅潮している。
酔った彼の口は、いつも以上に軽かった。
ただ静かに、「重ねすぎたかな……」と呟いて。それを上書きするように、さらに酒を仰いだ。
「アルフレッドさん、もしかして、誰か探してます?」
そう切り出したのは、ミュアンだった。
「……よく見てるな」
「ずっと辺りを見渡しているので、もしかしてと思って」
「正解だ。相棒を探してるんだけど、姿が見えなくてな」
「……だって、アズール。引き止めたら悪いよ」
「うん……また後で話せますか?」
「ああ。ガンランスのこと、たくさん話してやるよ」
「わあ! 是非!」
再び雑踏に向けて歩き出すアルフレッド。
アズールは大きく手を振って、その大きな背中を見送った。
「……レクス師匠。ガンランスのことを学ぶの、許してもらえますか?」
ひとしきり手を振り終えた後、アズールはおずおずとそう尋ねた。
いつかの冷たい物言いを思い出し、レクスは静かに笑う。
「アイツの言い付けは、よく聞くんだぜ」
その言葉に、アズールは一際眩しい、満面の笑みを浮かべるのだった。
「――アルフレッド!」
大男を呼び止める、六人組。
彼を呼んだのは、そこで一番大きく騒ぐ、お調査者の男だった。
「猟団の……」
セシルと、その横で困ったように笑うカイン。
猟団のメンバーたちが、大男を招き寄せる。
「見事だった! 銃槍使い!」
「カインの話を聞いた時は、誇張された話だと思ってたけど……あれは凄かった!」
「あのディアブロスを討伐し切るなんて本当にすごいわ! あら……近くで見ると、結構イイ男ね」
「いつかの集会所で、雑に扱ったことあったよな。悪かった、謝るよ」
「え、えっと――」
アルフレッドにとっては面識のないメンバーが、次々と話し出す。
その取り留めない話に困っていると、カインが彼らを静止した。
「みな、アルフレッド殿が困っている。落ち着いて」
「カイン、悪いな。一気にこうも話しかけられることに、慣れてなくてさ」
「いえいえ。銃槍使いならではの、悩みでしょう。そしてその悩みも、時期に無くなることでしょう」
「狩りに生きるの特集、読んだぜ! あれは熱くなるな……ガンランサーこそモンスターである!」
興奮するセシルを前に、アルフレッドは心の中でミスルを殴るのだった。
近寄りがたい、から珍獣へと評価が変わりつつある。
そんな現実に、彼はため息をつく。
「まぁまぁ。危険な存在、とみんな思ってましたから。でも、あの記事のおかげで、どこか親近感が湧くのです。そして何より、貴殿の貢献が大きい。従来の銃槍のイメージは、払拭されつつあるのだと……私は思うのですよ」
カインは落ち着いた口ぶりで、そうまとめた。
その言葉に、アルフレッドは少し救われる。
心の中のミスルを殴るのを、そっとやめた。
「……ところでよ、アルフレッド」
唐突に、セシルが不思議がる。
しかし、彼らしい、もっともな疑問だった。
「セレスちゃん、どこ? 一緒にいないの?」
その言葉に、アルフレッドは困ったように腕を組んで。
改めて周囲を見渡すが、その表情はやや暗いものだった。
「それがよ、姿が見えないんだよ。ずっと探してるんだけどさ――」
⚪︎◎⚫︎
「――どうしよう」
食糧庫の片隅で、座り込む少女。
鏖魔討伐作戦の、もう一人の立役者――セレス。
彼女が、困ったように顔を伏し、かと思えば飛び起きて、その頭を抱えていた。
「どうしよう〜! 勢いであんなこと言っちゃったよ……! か、顔がまともに見れないよ〜!」
赤面し、両頬を押さえ、再び膝に顔を埋める。
忙しない様子だった。
「で、でもアルフだってあの時――いやでも、聞き間違いかもしれないし! あたしが口走っちゃったのは確実だし! どんな顔して会えばいいの……!」
あの砂漠で。
鏖魔を前にして。
二人で銃口を構えた時に、つい言ってしまったこと。
それがずっと、彼女の中で堂々巡りをしている。
「あたし、アルフに、あ、あ、あい、あい……わあああぁぁ!!」
ひとしきり巡ったところで、顔を真っ赤にして伏せる。
それを何度繰り返していたことだろう。
数刻前からそれに気付いていたウルティナは、流石に焦ったくなり、重い腰を上げるのだった。
「セレスちゃん、まだ悩んでますの?」
「う、ウルちゃん!?」
「ずっと独り言が聞こえてましたわ。アルフレッド様に、愛の告白をしたんでしょう?」
「わ、わああーっ!」
「それで照れちゃって、顔もまともに見れず、今ここでぐずぐずしてらっしゃるんでしょう?」
「わあーっ! わああぁーっっ!」
イャンクックのように赤くなっては慌てふためくセレスの様子に、ウルティナはやれやれとため息をついた。
「言っておきますが貴女――今とっても、焦ったいですわよ!」
「えっ……!」
「そんなぐずぐずしてると、他の女に先を越されてしまいますわ! 世間の銃槍使いの風当たりが弱まった今、どうなるかお分かり?」
「え……ど、どうなるの?」
「アルフレッド様の狩りの腕が、きっと物凄く評価されますわ! すると、集まってきますわよ〜。それを狙った女ハンターたちが……!」
「そ、そんなぁ……まさかそんな……」
「そのまさかですわ! こんなことでチンタラしてるまさに今、他の女に口説かれてるかもしれないんですわ!」
「……っ!」
その言葉に、セレスは青ざめる。
真っ赤から一転、真っ青になるその表情。
二人のやり取りを陰で見ていたベアトリスは、二人に届かない声量で、小さく笑うのだった。
「――何でしたら、わたくしが求婚しようかしら」
「えっ……」
「アルフレッド様の強さなら、文句なしですわ。体格も立派で、顔付きも男前ですし。グレイビアード家当主の伴侶として、申し分ないですわ!」
「ちょ、ちょっと待って……」
「式はどこで挙げようかしら? いやまずは、デートはどこがいいかしら。彼鈍そうだから、恋文でも、まずはしたためて――」
「そ、それはダメっ!」
「何でですの? お二人は、お付き合いなさってないんでしょう?」
「で、でも……でも!」
慌てるセレスを前に、ウルティナは微笑んで。
試すような口ぶりを、静かに収めた。
「……ね? それが、セレスちゃんの本心ですわ。手遅れになる前に、早く」
「――っ! ウ、ウルちゃん……」
「アルフレッド様は、中央の大焚き火の側――猟団の方々と飲んでらっしゃいました」
「ありがとうウルちゃん……! あたし、頑張るね!」
友人に背中を押されていたことに、ようやく気付くセレス。
覚悟を決めて立ち上がり、彼女の言う先へと走り出した。ウルティナもまた、ガッツポーズで彼女を見送るのだった。
「――ウル、いいの?」
セレスが去った後、ベアトリスは彼女に語り掛ける。
「さっきの言葉、きっと貴女の本心でしょう?」
「お姉様……」
ウルティナは、姉の言葉に振り返るが――それをけたたましい声で塗り替える。
「何のことかしら? わたくし、恋愛なんてさっぱり分かりませんわ! それよりも、飲みますわよー!!」
そう言って、ジョッキを掲げる妹を前に。
姉は困ったように笑うのだった。ただ一言、「優しい子になったわね」と添えながら。
「――アルフ!」
猟団の絡みから抜け出そうとしていたアルフレッドに、セレスのか細い、されど芯のある声が届く。
「セレス! 探したぞ。今までどこに――」
彼が言い切る前に、その小さな体が大男に収まった。
抱きついても、彼の胸あたりまでしか届かない。
アルフレッドは驚くものの、火を映す月色のつむじを見て、「どうしたんだ?」と優しく尋ねた。
一方のセレスは、分厚い胸板に顔を埋めながら、頭に浮かぶ言葉を必死に手繰り寄せる。
「あの、あの……アルフ、あのね……」
「……うん」
「あの、あたし、あたしね。アルフの、アルフのことが――」
焚き火が、ばちばちと夜を奏でる。
周囲の雑踏も耳に届かず、ただアルフレッドは、セレスの言葉に耳を傾け続けるのだった。
辿々しく、まとまりのない、しかしその胸のうちの想いを押し固めた、その言葉を。
⚪︎◎⚫︎
あれから月が何度か姿を変え、季節が移ろい始めた頃。
アルフレッドは、天を貫くような頂の山へと訪れていた。
遺群嶺。
水源と特徴的な峰、そして数多のモンスターが蔓延る豊かな生態系が特徴の猟区である。
その中腹まで、登り詰める。
岩山を乗り越えて、後続する相棒に手を差し伸べては、二人でその山を登り切るのだった。
「わあ……!」
眼下に広がる絶景に、相棒――セレスは感嘆の声を上げる。
「すごく綺麗……ここ、まだ中腹だよね?」
「ああ。頂上は、あれだな」
「あれは……登り切れる気がしないね」
さらに空高くまで貫くように伸びる山は、もはや塔のよう。雲すら貫いて、されど頂は影すら見えない。
その異様な光景に驚きながらも、セレスは嬉しそうに目を輝かせた。
「本当に綺麗。世界には、こんな場所があるんだね」
「俺たちが知らないだけで、まだまだ未知の世界がたくさんあるんだろうな」
「ハンターの特権だね! こんなところまで来れるのって」
眩しい笑顔でそう言う相棒に、アルフレッドは微笑んで。
――微笑みつつも、抱いていた疑問を投げかける。
「……セレスはさ」
「なぁに?」
「ハンターを続けるので、良かったのか?」
思い出すのは、いつかの医療棟での彼女の姿。
辞めたくても辞められない。
そう言った、悲痛な姿が彼の脳裏をよぎる。
「エスト村の経済は、かなり安定してきた。酒の注文も増え、ディアブロスがいないことでサボテンを題材にした商品や、観光業なんかにも着手してる」
「うん」
「それに、鏖魔の門のおかげで、モンスターに襲われることもかなり減ったとか。もう、お前さんが無理して頑張る必要も、ないんじゃないか」
「……うん。お父さんが、喜んでたよ。弟たちに、良いものを食わせられるって」
「それでも、セレスはハンターを続けるのか?」
「――あたしは……」
小さな両手が、大きな両手を握る。
包みきれないそれを、包み込むように。
セレスは愛おしそうにその手を寄せて、言葉を紡ぎ出す。
「ね、いつかの医療棟でさ。アルフ、あたしに言ったよね」
「あん?」
「“自分の人生、やりたいことをやって生きるに限る“……って」
「……ああ。懐かしいな」
あのディアブロスと最初の邂逅を果たした後。
大怪我を負った二人が居合わせた、ギルドの医療棟で。
アルフレッドの放った言葉を、セレスは反芻する。そして、溢れる思いを彼に優しく贈るのだった。
「だから、あたしは。だからあたしは、ハンターを続けるの。君とずっと、同じ景色を見たいから」
そう言って、照れくさそうに微笑む相棒を前に。
アルフレッドもまた、少し照れながら笑った。
「……そうか」
これが、セレスの選んだ道になったんだ、と。
アルフレッドは彼女の父の言葉を思い返しながら、それでも彼女の選択を尊重するのだった。
舗装された道を歩むのではなく、歩いてきた場所が道になる。
そういう人生なのだと、彼は感じた。
波瀾万丈、冷嘲熱罵だったガンランス使いの道。それも、切り拓くように作った道だったと思い返し、彼女の人生に共感を覚えるのだった。
「……あ、アルフ! あそこ!」
岩山から、遥か下に見える水源。
そこで動く影に、セレスが気付く。
「あれじゃないかな、今回のターゲット!」
「……あの背ビレ、鱗……間違いない! ガノトトスだ!」
二人がここまで登ったのは、上から目標を探すため。
そして、その目論見の通り、見事発見へと至った。
「よーし、やるか!」
「うん。もう何人もの調査隊員が、犠牲になってるんだよね。気合いを入れないと」
「ここの安全を取り戻すぞ! 砲弾良し、砲身良好……行くか!」
銃槍に手を掛け、走り出す。
セレスもまたマガジンを詰め込んだ愛銃を担いで、彼の後に続く。
二人のハンター生活は、まだまだこれからだ。
これからも、さまざまな難敵に出会い、困難に当たることもあるだろう。
それでも、頼りになる
そして、力強い
アルフレッドは静かに、それでいて嬉しそうに、口角を上げるのだった。
遺群嶺に、火薬の炸裂音が響く。
今日もまた、銃槍は火を吹いた。
燃え盛る太陽のように、激しい炎だった。
ラストリロード、完!
長らくお付き合いいただきありがとうございました。
書き始めた当初は、自分が満足できる戦闘描写が書ければ良いと、惰性で書き始め…一通り書いたところで熱が冷め、2年ほど放置するなどひどいものでしたね。その時はモンハンからも離れ、ゼルダやフロムゲー、スカイリムにウィッチャー3などにどハマりしておりました。
しかしワイルズのガンランス紹介動画を見た時に衝撃が走り、再びモンハン熱が到来!止めてた傀異研究レベルを一気に上げたり、ミラボレアスまでガンスでソロ攻略するくらいアイスボーンをやり始めたりして、気付いたらこの小説も完結していました。
ガンランスって、足が遅くて動きももっさりしてて、弾の射程も短いしスタイリッシュさにも乏しいかもしれません。でも、火器を搭載した槍という、溢れんばかりのロマンがあります。撃鉄の重さ、火薬の焼け付くような臭い、そして破壊的な一撃は、ガンランスからしか得られない栄養だと思います。その魅力が、読者の方に少しでも届いていたら嬉しいな。ガンランス、使ってみようかなと思ってもらえたら、書いた甲斐があるってもんです。すでにガンランスの魅力を熟知されてる人には、そのかっこよさを改めて噛み締めてもらえたら嬉しいです。
それでは改めまして、これにてラストリロード完結です!
感想や評価、お待ちしています。ぜひぜひお声を聞かせてください。鏖魔との最終決戦でも、感想や評価が盛り上がることがほとんどなかったので、今回こそは!今回こそは…っ!!
最後まで閲覧いただき、本当にありがとうございました。
そして、いざ行きましょう、禁足地へ。
モンスターハンターワイルズ、狩猟解禁!!!!