一応補足として、機関銃の発展に準えさせています。「銃身取り替え」「マキシム機関銃(水冷式)」「ガトリングガン(空冷式)」などがテーマです。
「邪魔するぜ……って、何だ? 先客がいる?」
火薬庫の老人からの呼び出し。
その手紙に誘われるまま、店の扉を開けたところで、アルフレッドが立ち止まる。
彼以外の客は、滅多に訪れないこの店に、見知らぬ男が立っていた。
「じゃからわしは言っとるじゃろ。連射力が物を言う時代が来ると。その証拠に、カムラ製のガンランスの装弾数も増えとるじゃないか」
「それは正しいが、必ずしも正しいわけじゃない。砲撃タイプによってそれはメリットになり得るし、デメリットにもなり得る。今のギルドの見解では、放射型は以前の四発型に戻す案が主流なんだよ」
「何じゃと! 五発型、良いじゃないか! 何でじゃ!」
「放射の薬莢は竜杭弾との親和性が高い。その分、他のタイプより大きな竜杭弾を搭載できる。差別化だよ、差別化」
「ぬぬぬ……!」
鼻息を荒げる火薬庫の老人と、彼を諭すように冷静に話す男性。
黒髪を短く切り揃えたその男は、人差し指を顎に当てながら思索に耽る。その理知的な仕草は、どこか研究者然としたイメージをアルフレッドに抱かせた。
「ま、いい。アンタとそれを議論しに来たわけじゃない。次の大仕事の準備があるからな。もう行くよ」
「二度と来んでいいわい! さっさと
踵を返すその男と、目が合うものの――。
これといった声掛けも浮かばず、道を開ける大男。研究者らしき男もまた、
「……爺さん、ありゃ誰だ?」
「ん――おお! アルフレッド! 来とったんか!」
怒り心頭だった表情が、一転満面の笑顔になる。
相変わらず、感情の起伏が激しい老人だと、アルフレッドは苦笑した。
「手紙読んだか! 待ち侘びたぞ!」
「試運転だろ? 俺も楽しみだよ。でもそれより、さっきの男は何だったんだ?」
「ああ……昔馴染みじゃな。一緒にガンランスを開発、改良しとったんじゃ」
「え、それほんとかよ」
「その頃から話が合わんかったがな! わしの自信作を足蹴にしよってからに……いつかぶちのめしたるわ」
「物騒だな」
親指を噛みながらそうぼやく老人。
先程の理知的な男とは対極のようだと、アルフレッドは感じるのだった。
「あいつはヴェルナーと言ってな、どうもこれから編成される大規模な調査団に加わるらしい。そこで取り入れる武器加工の話をしに来てな。いやはや、久方ぶりの訪問だったわい」
「ガンランス作りの職人ってことか?」
「まぁ、そうなるな。調査団となれば、使える資源は限られるからのう。材料を節約しながら破壊力のある砲弾を作るだの、新機軸の竜撃砲を考案しただの、様々な素案を持ってきた。わしに意見を求めてきたってわけじゃな」
「そりゃ凄いな。頼られてんな、爺さん」
「まぁのう! 何てったって、わし凄いからの!」
「でも、結局は意見が分かれて揉めたのか?」
「……そうなるな。残念じゃが」
やれやれ、と老人は肩をすくめる。
「とはいえ、良い刺激になったわ。これからの開発に活かせそうな、良い話が多かったからな」
「そりゃいいね。楽しみだ」
「おう、楽しみにしとれよ! わしはパクリだとかどうとか、そんなことにこだわらん。良いところはしっかり吸収してやるわ! しかしあいつめ、わしの連射案を足蹴にしよって……」
「連射案?」
「おぬしを呼んだのは、まさにそれよ! さぁ、試射室へ来い!」
大雑把に話をまとめ、火薬庫は試射室――この店の中庭にある、銃槍の試験場――へ続く扉を開けた。
全面を鉄板で覆われ、剥き出しの地面は陥没だらけというこの異様な空間。アルフレッドが訪れるのは、黒蝕竜のガンランス、アームオブティランの解説を聞いた時以来となる。
「で、なんだ? 連射案って」
「わしは考えたんじゃ。罠や仲間の力を駆使すれば、ガンランスでも連射力が求められる状況が来るのではないか、とな」
考え込むように腕を組む火薬庫。
一方のアルフレッドは、言いたいことが分からずに首を傾げた。
「つまり、フルバーストを連発する……フルバースト特化戦法が輝く時が来る。わしはそう思ってな」
「何度も何度も、フルバーストをするってことか?」
フルバーストを放てば、多大な衝撃と隙が生まれる。
そう何度も放てるものではない。それが多くの加工屋、そして銃槍使いの見解である。
しかし火薬庫は、そこにメスを入れた。
フルバーストこそ、連発するべきではないか。フルバーストを放ち、武器を薙ぎ払って振りかぶり、再装填。そして再びフルバーストを放つ。
火薬庫はそれを、フルバーストコンボと呼んだ。
「まぁ、状況によってはありだなそれも」
「おぬしの体格があってできることじゃろうがな! で、わしはその連発の限界に挑戦したくてな。いくつか、試作品を作ったんじゃ。これをおぬしに試して欲しい!」
「そういうことか。任せろ!」
白い布に覆われた三振りの武器。
火薬庫は、自慢げにその布を引き抜いた。現れるは、太いフレームの銃槍、対比のように細いフレームのもう一振り。そして最後に、複数の銃身を付けた変わり種だ。
「……何だこりゃ」
「みな精鋭討伐隊銃槍じゃ。が、フレームを
老人が指差した、一番細い銃槍。
見慣れないのもそのはず。フレームがなく、銃身である筒部分が剥き出しなのである。
「これ、使えるのか?」
「試作品だから使えんな。連射用の機構を分かりやすく表現したと思えばよい。さ、使う弾はこれじゃ」
「……これって」
手渡されるのは、通常型規格の小ぶりな砲弾。
しかし、詰め込まれたその火薬には見覚えがあった。
「爺さん。これって、覇竜とか鏖魔に使ったあの弾なんじゃ……」
「あれの改良版じゃ。威力を落として、コストパフォーマンスも改善して、しかし通常の砲弾よりも大きな破壊力をもつ! 何より、碧い砲炎が美しい!」
「普段使いができるってことか?」
「普段使いをするにはちと贅沢じゃが、あれほどの奥の手というわけではなくなるな。ヴェルナーの知恵じゃ。資源の少ない地域をよく経験しているだけあって、コスパ重視のものづくりをしてきよる」
かつて、この老人が用意した奥の手、『ラストリロード』。
火竜の希少種のもつ煌液と呼ばれる物質を用いたその砲弾は、圧倒的な破壊力をもたらした。しかし素材が素材だけに、金銭的にも奥の手であったのだ。
しかし、先程火薬庫に訪れていたヴェルナーという男の知恵により、この老人は新たな砲弾を生み出した。コストパフォーマンスに優れる、この砲弾を。
「ま、威力は抑えたといえど、危険であることには変わりない。これを扱う者は、勇猛か、はたまた無謀なのかもしれんな。つまるところこいつは、ええと、うーむ……ブレイヴ砲弾と言ったところか」
「あん?」
「これを扱った戦法となると、何じゃ? 勇猛射法? いや、ブレイヴ戦法……否! スタイル! ブレイヴスタイルと呼ぶのはどうじゃ!」
「馬鹿なこと言ってないで早く使わせてくれよ、爺さん。俺は火薬の匂いを嗅ぎたくてうずうずしてるんだ」
「何じゃ、
待ちきれない様子のアルフレッドに呆れながらも、火薬庫は砲弾を手渡した。
アルフレッドは、慣れた手つきでシリンダーへ、そして予備弾倉へと全弾を装填する。
「行くぜ!」
思い切り振りかぶり、叩き付ける。
同時に引き金を引き、全弾斉射。続け様に武器を振り、クイックリロード。予備弾倉の弾を全てシリンダーに詰め込んだ。
「せいッ!」
再度叩き付け、からのフルバースト。
そこで、火薬庫からの待ったの声が掛かる。
「そこまでじゃ!」
「え、まだ二回目だろ」
「もう砲身がもたん!」
見れば、銃身は赤熱がしている。
銃槍技師会で言うところの、『ヒートゲージ』が振り切った状態である。このままでは銃身が割れる。耐久限界が訪れた瞬間だった。
「ここで、銃身を取り替える!」
「は?」
「ほれ、これを使え」
老人が渡したのは、新たな筒。
同規格のそれには、着脱用のレバーが備え付けられている。
つまりこの試作品は、砲身を交換して使い捨てにすることで耐久限界を引き伸ばすものなのだ。
しかしその銃身は、発射の摩擦により赤熱化している。手を近づけることすら、
「……熱すぎて取り外せねぇ」
「おお、そうじゃったか」
「それにこんな細い銃身で、大丈夫なのか? モンスターに叩きつけたら折れそうだが」
「交換を前提にしておるから、軽くて嵩張らない素材を使ったんじゃ。が、かえって悪手じゃな。何より、銃身も取り替えていては連発以前の問題じゃ」
「これは失敗作ってことか?」
「失敗ではあるが、失敗作ではない! より良い連射法を模索する上で、必要な道筋じゃった。こうやって失敗の芽を摘んでいくことが、成功を引き寄せる秘策なんじゃよ。さ、次じゃ」
銃身取り替え式の銃槍を置き、新たな獲物を手に取った。
それは、先程のものとは対比のように太く大きなフレームを持ったもの。精鋭討伐隊銃槍が、もはや原型を止めないほど肥大化している。さながら、ビッグスラッガーのように極太の砲身だった。
「なん……っだ、これ! おっも……!」
「おお、流石にこの重さはおぬしでも堪えるか!」
「これ、何入ってんだ……!?」
大柄で剛力が自慢のアルフレッドも、片手で持ち上げるには血管が浮かぶほどの重さだ。
何とか振り上げる頃には、顔は真っ赤になっていた。
「さぁ! 叩きつけよ、その砲身を!」
「うるせぇな! 今、やる……よッ!」
凄まじい速度で叩きつけられ、土を激しく削り取る銃身。
あまりある重さで地面を割ったそれが、火を吹いた。
巨大銃身のフルバースト。その威力、あまりある。
「次じゃ! 薙ぎ払うのじゃ!」
「ぐっ……いや、これ……ッ!」
肩に力を入れ、腕を切り返し――。
そんな普段の動きを、銃身は頑なに拒否をした。アルフレッドは、どっと汗を噴きながら振り切るのをやめた。
「む?」
「片手じゃ、無理だ……。でも、両手なら!」
両手で持ち直したそれを、思い切り振る。
鈍重な横薙ぎが大気を斬り、纏わり付いた土を撒き散らす。
そこから、クイックリロード。新たな弾を装填し直し、再び叩き付ける。大剣の縦一文字の如きその一撃は、土の深いところまで露わにした。
再度、フルバースト。砲身は、未だ熱を帯びることなく健在である。先程の取り替え式とは、雲泥の差だ。
「おお、すげえなこれ!」
「いけるぞ! もっとじゃ! 予備弾倉の全部を撃ちきれ!」
「おうよ!」
――そして、全てを撃ちきった頃。
未だ赤熱することなく健在なフレームと、あまりの重さに疲労困憊なアルフレッドが静かに地に伏せた。
「……はぁ、はぁ……これ、銃身は、もつけど、よ……」
「おぬしがもたんようじゃな」
息も絶え絶えな様子に、火薬庫はやれやれと首を振るのだった。
老人が懐から水の入ったビンを取り出すと、アルフレッドは奪い取るように受け取り、一気に飲み干す。
滝のようにかいた汗が、より一層煌めいて見えた。
「で、これ何が入ってんだ? あまりにも重いんだが」
「それじゃ」
「あ?」
「おぬしが今飲んだやつじゃ」
「……水ってことか?」
訝しむアルフレッド。しかし火薬庫の老人は、不敵な笑みを浮かべるのだった。
水冷式。彼は、この鈍重な銃槍をそう呼んだ。
理屈はシンプルだ。赤熱化してしまう銃身を水に浸せば熱が残りづらい。そうすれば、熱による破損を防げる。
しかし難点は、水による重さ。銃身を満たせるほどのタンクをフレームに備え付ければ、その総重量はあまりある。アルフレッドの剛腕をもってしても厳しいその重さ。実用化には、程遠い。
「おぬしでも扱えんのなら、これは設計限界を超えておるな。なるほどのう」
「となると、最後に残るのは……これか?」
残ったそれは、複数の銃身がついた異形な武器だった。
これには、流石のアルフレッドも怪訝な顔をする。
「言っちゃあなんだが、これが一番ゲテモノな感じがするぜ。大丈夫なのかよ?」
「分からん。だから今おぬしを頼っとる! さぁやってみよ! こいつは先程のとは別口、空冷式じゃ」
空冷式と、呼ばれたそれは六本の銃身が備わっていた。
持ち手、シリンダーは通常の銃身と同様である。
しかし、シリンダーからその先は、六本の銃身がカラカラと音を立てて回る構造になっている。先程の水冷式に比べれば遥かに軽いが、それでも並の銃槍より重い。
「ま、やってみるぜ。まずは一回目!」
叩き付け、からのフルバースト。
すると、銃槍が猛回転する。シリンダーだけではない。その複数ある銃身も、である。
「おお!?」
「とくと見よ! これぞわしの考えた新機構!」
「銃身が回転するのか! すげえなこれ!」
リング状の部品で束ねられた六本の銃身が回転し、次々と弾を射出する。確かに銃身は赤く熱を帯びるが、回転することで空気に冷やされ、一周する頃には元に戻っている。
重さも悪くなく、取り回しも申し分ない。何より、オーバーヒートの危険が少ない。奇抜な見た目にして、最も堅実。それが、この空冷式ガンランスであった。
「――ふう」
一通り試運転を終えて、一息つくアルフレッド。
火薬庫は彼に向けて、茶を入れた。茶柱の立つそれを、大男に手渡す。
「付き合ってくれて助かったわい。おかげで良いデータが取れた。さぁ、これから忙しくなるぞ!」
「随分たくさん撃っちまった。もったいないな」
「なぁに、構わんさ。こうやって試すことでより確実な武器が生まれ、それがおぬしを守ることに繋がる。無駄なんてないんじゃ。この世の物事は全て、意味があるんじゃよ」
「……そういう考え方も、あるのか」
達観した老人の言葉に、アルフレッドは感心する。
少し陰りの掛かった心に、光が差したような思いだった。
「空冷式、採用じゃ。ここぞというタイミングで猛追できる。素晴らしい一振りを作ってやるわい」
「そりゃ楽しみだ。どの銃槍をベースにするんだ?」
「おぬし、あの銃槍覚えとるか? ほれ、拡散型にカスタマイズした火竜の――えっと、何じゃったかの」
「レッドルークSAA」
「おお、それじゃそれ!」
かつてビシュテンゴを狩る際に、叩きつけて折った叛逆銃槍ロドレギオン。その修理の際に受け取った、新機軸の銃槍。リオレウスの素材をふんだんに使った、赤く猛々しい一振りである。
その名も、レッドルーク。火薬庫は、さらに『SAA』という銘を刻んだ。
「あれは拡散型にしたからのぅ、砲身に砲口をまばらに埋めるように配置してな。まさに拡散型……そう、撒き散らすように撃つ設計をしたんじゃが――それを応用しようと思う」
レッドルークは、さながら一振りの槍という見た目である。精鋭討伐隊銃槍のように、銃身に片手剣ほどの刃が取り付けられたものではなく、銃身と穂先が一体になっているのだ。
その側面に、リングのように並べた砲口から、砲炎を放つ。それが、拡散型という砲撃タイプとよくマッチしていた。
「今回は、あの複数の砲口の一つ一つに銃身を忍ばせるんじゃ。そして、穂先――もとい銃身自体が回転する。そうすることで熱を逃し、刺突を強め、フルバーストにも対応する。連射力に優れた、どんな状況にも対応できる放射型! そいつを作ってやるぞ!」
「いいね。たまらねぇよ」
「おぬし、その装備蒼火竜じゃな? 素材、余っとらんか?」
「勿論あるぜ。ってことは、レッドルークならぬ、ブルールークってか」
「いや、銘は改めよう。蒼き駆逐者、『ブルーチャリオット』じゃ!」
声高々と、新たな銘を口にする火薬庫。
多連装の銃身が、新たな進化を予兆するように、日の光を反射させた。
「――ちなみに、料金はざっとこれくらいじゃ」
算出されたその価格に、アルフレッドは目を見開いた。
先程までの希望の光はどこへやら。そして、どさくさに紛れ、あの試運転の弾薬費まで上乗せされている。
「高すぎだろ! てか、何ちゃっかり上乗せしてんだよ」
「それはもちろん、意味のある行為じゃからな! わしにとって! がッはッは!」
抜け目ない爺だ、とアルフレッドは悪態をつく。
火薬庫は悪びれる様子もなく、むしろ誇らしそうに笑うのだった。
この章のキーとなるガンランスが定まりました。
レッドルーク系のガンランス、いいですよね。槍の形をした、ある意味王道らしい存在です。イケメンデザインですが、この作品でよくやる穂先取り外しはできないので、ここからは縛りプレイですね…!!
ヴェルナーのキャラがいまいち掴めず、語り口もこんなので合ってるかと首を傾げながら書きました。なんなんだあの人…。
それでは次回の更新で会いましょう!感想や評価お待ちしております。