ラストリロード   作:しばじゃが

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毒怪鳥、大砂漠を舞う

「それにしても、珍しいね」

 

 砂上船の甲板で、新武器――ブルーチャリオットの手入れをするアルフレッド。

 その傍らで地平線を眺めていたセレスは、彼にそう語り掛けた。

 

「どうしたんだ?」

「ゲリョスが、この砂漠で確認されたっていう話!」

 

 風に棚びく月色の髪。

 以前の彼女なら、肩甲骨を超える髪を優美に舞わせていたが、今は肩に掛かる程度。

 それでも、その煌めく髪が砂漠の光を浴びる姿は、ついつい目で追ってしまうのだと、アルフレッドは自覚するのだった。

 

「……聞いてる?」

「……悪い、何だったっけ」

「もう〜」

 

 セレスは頬を膨らませながら、大男の隣に座った。

 不満を表すように、その頭を彼の肩に押し付ける。アルフレッドはアイルーをあやすように、月色の髪を撫でた。

 

「ゲリョス! 湿地や洞窟みたいな、じめっとしたところが好きなモンスターが、砂漠で確認されたんだよ」

「あー、今回の依頼の話だったな。行商の船が襲われたんだって? ここ最近頻発してるらしいな」

「死傷者も出てるっていうし、危険な個体みたいだね。身体中傷だらけで、すごく攻撃的だって」

「住処を追われたのかもな……。同情はするが」

 

 銃槍に油を差し終え、フレームを抑えるネジを締める。

 弾薬を予備弾倉まで全て詰め込み、折り畳んでは背中にしまう。かつてのレッドルークSAAとは異なり、今回のブルーチャリオットは中折れ式が採用されていた。

 

「それにしても、ゲリョスか。そこまで強いモンスターではないが、今回のは気になるな」

「傷だらけってこと?」

「ああ。歴戦の個体ってやつかもしれない。いずれにせよ、それだけ生き延びてる証だ。強いだろうよ」

「しっかり準備しておかなきゃね」

「いつ来るか分かんねぇしな。よーし、見張り交代だ」

「ん、あたしも武器の手入れさせてもらうね」

 

 セレスと交代するように、甲板に立つアルフレッド。

 せっせと武器を分解して手入れをする婚約者を横目にしつつ、アルフレッドは周囲を見渡した。

 ロックラックから発った砂上船。

 眼前に広がるは、大砂漠。大陸を覆う遥か広大な砂漠であり、地平線の向こうにはハンターズギルドも把握していない領域が広がっている。

 ギルドの記録にはない、砂漠に現れたゲリョス。それも商船を襲うという、好戦的な個体である。これまでの常識が通じない狩りになりそうだと、アルフレッドは思う。

 大きく風を受ける帆の上では、乗組員が力強く旗を振っていた。それも、よく光が反射する素材の旗を。

 

「さて。来るかな。ここまですれば、俺たちも奴の獲物になれるだろう」

 

 今回のゲリョスは、船を襲う。それも、光る鉱石などを積んだ商船を。

 ゆえに今回は、砂上船を使って狩りに出ている。奴の狙う商船に扮して、(おび)き出すために。

 

「準備完了! いつでも来いっ!」

 

 セレスも武器の手入れを終え、妃竜砲を構えていた。

 ちょうどその時、風向きが変わる。

 不意に、どこか刺激臭のある風が、二人の鼻腔をくすぐった。

 

「……来た!」

 

 太陽を塞ぐ影。

 毒怪鳥が、空を舞う。

 新たな獲物を見つけ、唸り声をあげている。

 

「こいつが噂のゲリョスか!」

 

 傷を湛えたゴム質の皮膚。

 槌のような、独特な形状の鶏冠。

 長く伸びた、鞭のような尾。

 噂通りの存在が、真上で羽ばたいていた。

 

「来やがる……!」

 

 とりわけ発達しているのは、その後脚。

 ゲリョスは狂走エキスと呼ばれる体液をもち、その影響で無尽蔵のスタミナを有する。そのスタミナに物を言わせ、どこまでも走り続けるのだ。

 ゆえに後脚は太く、大きく、力強い。

 今まさに、真上から船を潰さんと力を込めている――。

 

「そこ!」

 

 しかし、セレスが放った拘束用バリスタが、毒怪鳥の思惑を叩き落とす――いや、毒怪鳥そのものを引き摺り落とした。

 奇声とともに甲板に落ちるゲリョス。その頭に向けて、走る大男。

 

「うらぁッ!」

 

 走りながら、抜き放つ槍。

 抜刀と同時に展開し、二つ折りだった姿が一振りの槍となる。

 それがゲリョスの頭を穿ち、激しい火花を散らした。

 

「セレス! ゲリョスは火に弱い! 火炎弾を頼む!」

「任せて!」

 

 激しい金属音とともに、妃竜砲に火炎弾を装填する。

 転がるようにバリスタ台から抜け、その照準をゲリョスの首へと向けた。

 しかし直後、その灰色の怪鳥は、スコープから消えるのだった。

 

「うお……っ!」

 

 甲板を走り出す。木の板を激しく捲りながら、毒怪鳥が駆け回る。

 この船は貨物船にも採用されたことがある、大型の砂上船だ。峯山龍を相手取る撃龍船よりもさらに大きく、反面大銅鑼のような設備はない。せいぜい、バリスタが二門ある程度だ。

 とはいえ、この甲板はゲリョスが走り回るには、十分な広さがある。毒怪鳥、けたたましい声を上げながら旋回し、アルフレッドへと迫る。

 

「ぐっ!」

 

 大男、横に滑るようなサイドステップで回避。

 そして、重ねるように、砲撃。その反動で進行方向を修正する。一転してゲリョスに迫るように前進し、ガンランスを振りかぶる。

 

「うおぉりゃッ!!」

 

 一閃。

 横一文字でゴム皮を薙ぐ。斬撃に弱い皮膚は容易く裂け、鮮血を吹き出させた。

 

「アルフ、ナイス!」

 

 怯むゲリョスのその頭を、セレスが撃つ。

 火炎弾の激しい燃焼が鶏冠を包み、さらなる悲鳴が響く。

 

「うおおお!」

 

 刺突を重ね、砲撃を上塗りする。

 斬撃と砲炎。ゲリョスが苦手とする属性の畳み掛け。

 いつもの狩りのはずが、思わぬ反撃を受けている事実に、ゲリョスの心は荒れた。荒れに荒れ、激しく跳ねては怒りを表現する。鶏冠は瞬き、目は血走り始める。

 

「怒ったな……!」

 

 怒りに満ちた表情で、ゲリョスは鶏冠を立てた。

 こつん、こつんと音が響く。

 

「アルフ! 閃光が来る!」

「分かった!」

 

 いち早く気付いたセレスは、急いで柱の影に隠れた。

 アルフレッドは自慢の盾をドンと置き、それを眼前に構える。

 直後、閃光が大砂漠を照らした。勢いよく、鶏冠に打ち付けた嘴。その衝撃が、鶏冠内部に蓄積した発光物質を刺激して、閃光玉のような効果をもたらしたのだ。

 しかし、熟練のハンターである二人には通用しない。あっさりと閃光を防がれ、ゲリョスはただ隙を晒しただけ。

 

「食らいな!」

 

 その鼻先に、砲炎が飛ぶ。

 放射型特有の、前に伸びるような炎。それが鶏冠を激しく燃やす。慌てて飛ぼうとすれば、その翼を火炎弾で撃ち抜かれる。

 仕方なく、鞭のようにしなる尾を振り回して対処しよう。そう言わんばかりのゲリョスだったが、上半身を逸らすようにして滑り込む大男には、一切通用しなかった。

 ならば、と。

 ゲリョスはその喉袋を、大きく膨らませる。

 

「何か来る! 吐き出すよ! たぶん毒!」

「げっ、嫌になるぜ全く!」

 

 先日のギギネブラ同様、ゲリョスは毒を用いるモンスターである。

 吹き出された毒液は、どろりとした弧を描きながら甲板へと降り注ぐ。塗りたくった塗料のようなそれは、独特の臭気を漂わせた。

 アルフレッドは後方へとステップすることでそれを躱し、迫り来る毒怪鳥を前に盾を構えた。

 

「とうッ!」

 

 ゲリョスによる、渾身の頭突き。それを横から殴り付ける大盾。

 軌道をずらされ、甲板を抉る。

 その真横には、銃槍を振りかぶるハンターがいる。

 

「隙だらけだ!」

 

 渾身の叩き付け。そして、竜杭砲。

 悲鳴を上げて仰け反るゲリョスの、その頭に。抉るように食い込む竜杭弾が、血飛沫を絞り出す。

 それは最後に、激しく炸裂した。鮮血と共に、鶏冠だったものを、あたり一面に撒き散らすのだった。

 

「すごいよアルフ! よーし、あたしも――」

 

 マガジンに詰まった弾を撃ち尽くし、新たな火炎弾を装填するセレス。

 スコープに映るのは、尾をその場で振るゲリョス。

 まさに的。そう言わんばかりに、彼女は口角を上げた。

 しかし、その笑みはすぐに消える。

 

「セレス! お前さんを狙ってるぞ!」

「――えっ、わっ!」

 

 振り切った尾が伸び、豪快な縦斬りとなった。

 断頭台の如きその一撃は、容易く甲板を割り、遠方にいたセレスにまで迫る。慌てて回避行動をとった彼女は直撃こそ免れたものの、防御態勢に追い込まれた。

 

「のやろォ! 俺を見ろ!」

 

 一発の砲弾に圧を掛けることで、高威力の砲炎とした技。さながら"溜め砲撃"とでも形容するべきその一撃は、もはや過去の技術となっていた。

 このブルーチャリオットは、シリンダーと、複数ある銃身の回転速度を操作できる。それがもたらすのは、予備動作なしの全弾斉射。シリンダーに残った弾を、"溜め"るように押し留め、即座に機構を猛回転させることで解き放つ。火薬庫曰く、ヴェルナー印の新しい加圧放射法である。これが、新しい"溜め砲撃"だ。

 放たれた炎に、ゲリョスはたまらず倒れ込んだ。

 大きな隙が晒された今、アルフレッドは猛追する。クイックリロードで再びシリンダーを満たし、砲撃の反動で前に出る。その勢いに乗ったまま、大きく薙ぎ払い。焼け痕を力任せに断ち切り、それすら次の動きの前座とする。

 

「おおぉぉらあァッ!!」

 

 全身を回転させるように、再び銃槍を薙ぐ。

 しかし今度は、その軌跡に砲弾を上乗せした。斬りながら撃つ。フルバーストを乗せた薙ぎ払い。青い炎が瞬き、皮膚を激しく炭化させていった。

 斬って焼くその一撃に、ゲリョスは声にならない叫びを漏らす。

 しかしアルフレッドは、止まらない。

 激しい金属音を奏でながら、装填する。砲弾を、竜杭弾をも。

 

「おおおぉぉぉぉッッ!!」

 

 雄叫びと共に、袈裟斬りを放つ。

 そしてその袈裟斬りに、再びフルバーストを乗せ、とどめと言わんばかりに竜杭弾を打ち込んだ。

 灰色の皮膚が黒く焦げ、それが止血となって鮮血すら止まる。想像を絶する痛みがゲリョスを襲う。

 それに耐えきれず、この大砂漠を騒がせた犯人は、力尽きたように倒れ込んだ。

 

「――ふう」

 

 一息つくアルフレッド。

 猛回転した砲身は、カラカラと音を立てながらゆっくり静まる。赤熱化する様子もない。火薬庫特製の空冷式構造は、十分に効果があると、大男は満足げに頷いた。

 

「狩猟完了だ! セレス、終わったぞ!」

「あ、あれ? もう? 思ったより呆気なかったな……」

 

 早い幕引きに、セレスは困惑しながらも武器を背に戻した。

 歩いて近づく頃には、アルフレッドは早くも剥ぎ取りを開始する。ナイフでゴム質の皮膚を切り裂き、ゆっくりと引き延ばした。

 

「おお、よく伸びる……すげーなぁ」

 

 みるみる伸びていく皮膚にアルフレッドが感嘆する頃、その足元で微かに身動(みじろ)ぎする姿を、セレスは見逃さなかった。

 

「――死んだふりっ!! アルフ、危ない!!」

「あ? ――ぐっはぁッッ!!」

 

 突然起き上がった毒怪鳥の頭突きに、大男は宙を舞う。

 ゲリョスは擬死を得意とする、極めてトリッキーなモンスターだ。アルフレッドはそのことに失念していた。渾身の頭突きを食らい、砂の海に埋もれてしまう。

 

「アルフー! 大丈夫!?」

 

 返事はなく、足だけが砂から生えている状態だった。

 心配するセレスだったが、砂上船の乗組員が救出に向かう姿を見ては、目の前の相手に集中する。

 

「ふぅ……とどめ、刺してあげる!」

 

 装填し直したマガジンは、火薬を多く取り込まれた特殊なもの。それも、アルフレッドの放つ青い炎と、同様の素材が盛り込まれている。

 火薬装填。そう呼ばれている、ヘビィボウガンの奥義の一つ。

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

 引き金を引く度、火薬は甲高い音を立てて弾頭を撃ち放つ。

 撃つたびにその熱は銃身に伝わり、射出力をさらに加速させていく。結果、発射レートはどんどん高まり、激しい弾幕を生み出した。

 しかし、追い込まれたゲリョスも黙ってはいない。狂ったように走り出し、体が焼けることも気にすることなく、セレスへと迫る。

 

「うっ……!」

 

 その股座(またぐら)をくぐり抜けるように、彼女は身を躱した。

 そして、再び照準をゲリョスに向ける。

 襲い来る弾幕。今度ばかりは、毒怪鳥も足を取られる。明らかに足を引き摺りながら走るその姿に、セレスはあとひと押しを確信する。

 

「よーし……!」

 

 撃ち尽くしたマガジンを外し、銃身を折り畳む。

 それはさながら、脅威を眼前にしながらあえて武器をしまうようにも見えた。

 何とか砂の中から這い出たアルフレッドは、その光景に思わず叫んでしまう。

 

「セレスーッ!!」

 

 しかしセレスは、彼に向けて静かに笑みを浮かべる。心配しないで、と言うように。

 そして仕込むは、鋭い槍。いや、槍さながらの弾頭。

 あまりに大きく、銃身も通らぬそれは、折り畳んで剥き出しになった発射機関に直接あてがうのだ。

 

「――ごめんね。君の命、無駄にはしないからね」

 

 迫るゲリョスのその胸に、鋭き槍が放たれた。

 射突型裂孔弾。ヘビィボウガンの、まさに奥の手である。

 引き金を引くことで、槍の末部が炸裂する。爆発的な射出は、超速度の刺突となり、ゲリョスの胸を易々と貫くのだった。

 あまりの威力に、毒怪鳥の体躯が後方に飛ぶ。

 今度ばかりは、流石のゲリョスも沈黙した。

 

 

 

「大丈夫か、セレス」

「うん、大丈夫」

 

 返り血を拭きながら、セレスはにこっと微笑む。

 件のゲリョスは、無事討伐を果たした。ハンターズギルドが確認していた従来の個体より、やや尾が長いような。アルフレッドは、横たわる体を見ながらそう思うのだった。

 大砂漠の遠方、地平線では、砂嵐による暗雲が立ち込める。

 ところどころ、青い光が瞬いている。

 それは、雷を孕んだ砂嵐だと――。

 アルフレッドは、ゲリョスの出現と接近する奇妙な砂嵐に、どこか言葉にしにくい違和感を覚えるのだった。




ゲリョス復活おめでとう!!
イャンクックと並んで初期メンがいるのは嬉しいですね。
ワイルズに護石ガチャが追加されてますますやり応えが増えた。また盛り上がってくれるといいなぁ。ワイルズのガンランスと片手剣、個人的にかなり楽しい仕上がりなので遊ぶのが楽しい。この二つを使い分けてアルフレッドごっこしてます。護石ガチャクエでもし鉢合わせたら、よろしくね!乙らないように頑張ります!笑
それはそうと感想…作品にも感想もらえると嬉しいです。射突型裂孔弾なんて、なんて懐かしい!狩技も楽しかったですからね。こういう要素もちょいちょい出していきたいと思います。…ほんとは相殺弾を使うべきなんでしょうけど。ロマンには勝てなかったぜ…。
感想評価よかったらぜひ!お待ちしております。
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