ラストリロード   作:しばじゃが

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レウスボトルの謎

「あん? レクスに、ミュアン?」

 

 ドンドルマの路地を歩いていたアルフレッド。

 その視界に映る、二人の人物。彼のよく知る二人だった。

 レクス。放浪のハンターであり、凄腕の太刀使い。無精髭でやや清潔感がないが、アルフレッドも認める実力の持ち主である。

 一方のミュアンは、彼に師事する若いハンターの一人。若いながらも芯のある少女だ。

 

「アルフレッド……ちょっと、助けてくんねぇか」

「何? 助けるって、何が――」

 

 そう言いかけたところで、ミュアンの赤く腫れた目に気付く。

 泣いている。いや、正確には、ひとしきり泣いた後といったところか。

 

「す、すみません。お見苦しいところを……」

「いや、いいんだ。気にすんな。何があった」

「何て言うかなぁ。痴情のもつれっつうか、人生の苦難っつうか」

「何だそりゃ」

 

 普段のレクス相手なら、軽くあしらっていただろう。

 しかし、鼻を鳴らしながら目を伏せるミュアンを前に、はぐらかすのも憚れる。

 フルフルシリーズのフードに掛かる、セミロングの茶髪がゆるりとカーブを描く。装備も新調し、実力も出会った頃とは比べ物にならない。

 それでも、琥珀色の瞳には未だ大粒の涙が滲んでいる。

 そんな彼女の姿に、アルフレッドは頭を掻きつつ親指で通りの奥を指差した。

 

「……ま、何だ。こんなところで話すのもアレだし、酒場でも行こうぜ。詳しいことはそこで聞かせてくれ」

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

「――なるほど」

 

 喧騒溢れる酒場の角席を、三人は陣取った。ジョッキとナッツの入った皿を並べながら。

 そこで事情を聞いたアルフレッドは、大きくため息をつく。

 思った以上に些細な話だった。安堵と、若干の肩透かしの思いを乗せたため息だ。

 とはいえ、ミュアンにとっては大きな問題であることには変わりない。大男は気を引き締め直し、本題に入った。

 

「つまり、どうしたらアズールとよりを戻せるかってことだな」

「はい……」

 

 事態を簡潔に表せば、アズールとミュアンは恋仲に発展したのが数ヶ月前のこと。しかし些細なことで喧嘩してしまい、半ば別れ文句のような形で彼女が暴言を吐き、その場を去ってしまったのがつい先日。もう一週間近く顔を合わせていない、といったところか。

 すらすらとそうまとめる大男の言葉にミュアンは頷き、レクスは弟子たちの事情に頭を抱えるのだった。

 

「……まぁ、とにかく謝るのが一番じゃないのか」

「それがよぉ、アルフレッド。ちと話がややこしいものがあってなぁ」

「ややこしい?」

「これです。これが、昨日届いたんです」

 

 ミュアンが取り出すは、分厚い紙に包まれたもの。サイズにして両手の平に収まるか、収まらないかといったところ。

 紙に刻まれた印は、郵便アイルーの肉球スタンプだ。つまりこれは、郵送されたものであることの何よりの証明である。

 

「何だこれ?」

「オレも何が何だか、よ。とりあえず見てくれよぉ」

 

 ミュアンが包み紙をめくっていくと、次第にその中身が露わになった。

 赤と黒の甲殻。青い瞳に、猛々しい翼。並べられた牙は、今にも火を吹き出しそうだ。

 まさに、空の王者。火竜リオレウス――を模した、陶器のボトルがそこにあった。

 

「……へぇ、ファンシーボトルだ」

「ファンシー……?」

「こういう気を(てら)ったボトルを作る工房があるんだよ。そこの奴だな」

 

 リオレウスの形をしたそれは、重く、表面は滑らかだ。

 今にも動き出しそうなほど生き生きした作りである。アルフレッドは少し嬉しそうに、目を細めながらそれを見た。

 

「これと一緒に、手紙が入ってたんです」

「何で書いてあったんだ?」

「『これが僕の気持ちです』、とだけ」

「ふーん……」

「全然わかんねぇよぉ〜」

 

 名刺とも取れるほど小さなその手紙には、ミュアンが読み上げた通りの言葉が短く刻まれていた。

 この難解な贈り物と手紙に、ミュアンは首を傾げ、レクスは酒を仰いで無理矢理流し込む。

 

「――っはぁ! リオレウスに、気持ち……ねぇ。アズール、何考えてんだよぉ」

「わたしも、全然分からなくて。どうしよう……」

「リオレウス、飛竜、火竜……ダメだ! 考えてもわかんねぇよぉ! 頼むぜアルフレッド!」

「ドルトン工房の奴かな……へぇ……」

 

 頭を捻り、何とか答えを出そうとするも、出口の見えない迷路へと入り込んでしまうミュアンとレクス。

 一方でアルフレッドは、そのボトルの出来栄えについ見惚れるのだった。彼とて、陶器に詳しいわけでもなければ、趣味で集めているわけでもない。

 しかし、ここに入っているものは大好物の一つ。

 ゆえに彼は、この陶器のことを知っていた。

 

「大体、何が入ってんだぁ? ちゃぽちゃぽ言ってらぁ」

「水……? それとも、薬かな」

「酒だな。この中には酒が入ってる」

 

 ひょいと持ち上げたアルフレッドは、耳元でその音色を確かめた。

 特有の粘度が生み出すその奏でに、うっとりと目を細める。

 

「ドルトン工房はモンスターを(かたど)ったボトルを作るんだ。アプトノス、メラルー、イャンクック。そして、リオレウス」

 

 アルフレッドの語りを聞いて、レクスは目を見開いた。

 

「頼んでみるもんだなぁ。まさかこれをアルフレッドが知ってるたぁ……にしても、そんな多種多様なボトルの中で、何でアズールはリオレウスを選んだんだろうな」

「アズール、特にリオレウスが好きってわけでもなかったと思うんだけどな」

 

 悩むミュアンの姿を見て、レクスは不意に顔を青ざめさせる。

 

「まさか、怒ってる……とか」

「え――」

 

 その青さが、ミュアンにも移り飛ぶ。

 

「暴言じみた別れ文句を言ったんだろぉ? それにあまりにキレて、このボトルを買ってよぉ」

「そ、そんなに酷いことは……言ってない……と思います……たぶん」

「アイツがどう思ったんか、オレらにはわかんねぇ! でも、これはもしかして、ミュアンを焼き殺したいほど怒ってるっていう意思表示なんじゃねぇか……!」

「え、えっ……ええぇ……」

 

 わなわなと震えるレクスの言葉に、さらに涙ぐむミュアン。

 その光景を見ていたアルフレッドは、ジョッキの酒を一気に流し込んでから、重い腰を上げた。

 

「ミュアン、安心しろ。レクスの考えは過度な思い込みだ」

「えっ……」

 

 浮かんだ涙を拭いながら、ミュアンは縋るように目を向けた。優しく笑う、大男へと。

 

「二人はリオス種の生態を知ってるか?」

「え? えっと、それはどういう……?」

「リオスといえば、飛竜の代表格だろ? 空飛んで、肉食で、森や砂漠、火山にも出没する……」

 

 首を傾げるミュアンと、知っていることを羅列するレクス。

 一方のアルフレッドは、せっかちにも先に答えを言ってしまうのだった。

 

「リオス種は一夫一婦制の生き物だ」

「うん? いっぷいっぷ?」

「雄と雌が、一生を添い遂げるってことだよ。選んだパートナーと離れることなく、その相手とだけ生きていく。死ぬまで、な」

「一生を、添い遂げる……」

 

 反芻するように唱えるミュアン。

 赤く腫れた目で、虚空を見る。

 思考に囚われ、視界の何もかもが脳に届かない。

 

「ま、詰まるところよりを戻したいってことなんだろうな」

「それってよぉ、つまり仲直りしたいって意味か?」

「そういうことだな」

 

 視界に、色が戻る。

 灰色だった世界が色付く。

 ミュアンの瞳に、光が差した。

 

「え、えっと、これが、その……そういう意味になるんですか?」

「信じられないか?」

「え、えぇ……ちょっと」

「じゃ、今度はこの中に入ってる酒の話でもするか」

 

 そう言いながら、アルフレッドは火竜のボトルを持ち、反転させる。見えなかった底の部分が、露わになった。

 そこには、小ぶりな蓋が備えられている。

 ここを開ければ、酒が出る。二人もそれを、何となく感じるのだった。

 

「ドルトン工房が提携してる蒸留所があってな、これはそこのウイスキーが入ってる。銘柄は、ホワイトマッカォ」

「マッカォって、あれか? 古代林に生息してる鳥竜種のよぉ」

「そうだな。って、別にマッカォの肉が入ってるとかじゃなくて、その蒸留所がベルナ村にあるから、ちなんでそう名付けたらしいんだが」

「そのお酒が、どんな風に関係するんですか……?」

 

 ミュアンも、レクスも酒については明るくない。

 ただ、アルフレッドの語りを待つのみ。

 彼はナッツをつまみながら頭の中で文脈を整理し、少しずつ紡ぎ出した。

 

「ホワイトマッカォは、ブレンデッドウイスキー、まろやかでコクのある味が特徴的だが……何よりの特徴は、その製法だ」

「製法?」

「ああ、その名も、ダブルマリッジ製法って言ってな」

 

 その言葉に、ミュアンの肩がぴくりと跳ねる。

 

「作り方をかいつまんで言うとな、まずは蒸留樽でウォーミル麦のみのモルトウイスキーを熟成させるんだ。これだけだとクセが強くて重く、ドライな味でな。ま、あえてこれを好むって奴もいるけど」

「味とかいいからよぉ、もったいぶらず話してくれよ」

 

 レクスの横槍にアルフレッドは少し苛立ちを覚えるが、彼の言い分にも納得する。

 生憎、酒の味に興味があるのは自分だけだと、痛感。同時に、二人が答えを待っていることを自分に言い聞かせた。

 

「ま、なんだ。その工程がファーストマリッジって言われている。んで、そこに今度はグレーンウイスキーを加えるんだ。グレーンウイスキーってのは、芋やコーンなどの穀物を使ったウイスキーでな」

「加えるって……混ぜるってことですか?」

「まぁ、そんな感じだ。二つの酒を、一つの樽に注いでさらに熟成。そうやって作るんだ。で、この工程をセカンドマリッジという」

「だから、ダブルマリッジっつーのか……」

 

 語りに納得するレクス。

 一方のミュアンは、その語りの意味することに、必死に思考を張り巡らせていた。

 アルフレッドは優しく笑い、その意味することを口にする。

 

「つまり、もう一度やり直したい、今度はもう離したくない。そういう意味なんじゃないか。ホワイトマッカォは、二度の熟成を経てこそ旨くなる。今度こそ、より良い恋人になろうって。アズールは、そう言いたいんだと思うぜ」

「アズール……」

 

 リオレウスのボトルを手に取り、その輝きを瞳に満たす。

 ただ、静かに滑らかな表面を撫で、愛おしそうに眺めるミュアンを前に、男二人はそれ以上の言葉は不要だと感じるのだった。

 

 

 ⚪︎◎⚫︎

 

 

 数日後の、ラージャンハートにて。

 あえてファーストマリッジ段階のホワイトマッカォ――それも限定ボトル――を注文したアルフレッドは、マスターの言葉を前に乾いたため息をついた。

 

「じゃあやっぱり、あれはマスターの入れ知恵だったんだな。おかしいとは思ったんだよ。アズールがそんなに酒に詳しいとは思えないからな」

「本当は貴方を探してこの店に来たんだと思うわ。でも生憎不在でね。ならアタシが力になるっきゃない! ってね」

「ややこしすぎるんだよ……」

 

 アズールとミュアンが無事復縁できたと聞いたのは、つい昨日のこと。

 ミュアンからは、リオレイアボトルのホワイトマッカォを贈ったのだった。二人で酒を呑み交わし、復縁の契りを交わしたのだとか。

 アルフレッドは呆れながらも、それでも少しだけ、二人の助けになれたことを嬉しく感じていた。

 

「あんなアドバイスしてさ。俺が介入してなかったら、破局してたかもしれないんだぜ」

「あら。それなら、その程度の愛ってことよ。本当に相手を想うなら、必死になってその意味を調べるべきだわ」

「おっそろしいな……」

「それにね。きっと、アルフレッドが力を貸してくれると思ったからね」

「あん?」

 

 真意が分からず眉を曲げる大男。

 しかしマスターは、目を細めて微笑んだ。

 

「だって貴方は、二人の恩人なんでしょ? きっと、二人のために橋渡ししてくれるって、アタシ信じてたんだから」

「買い被りすぎだろ」

「あら? アタシ、人を見る目は確かなのよ。先見の名っていうか。ほら、エストボトルの大ヒットだって、アタシの審美眼があったからこそだと思わない?」

「それはまぁ、否定しないけどよ」

 

 マスターの言葉に、反論を失うアルフレッド。

 ただ誤魔化すように、酒を煽る。

 荒削りで、喉を削るようなアルコールの香り。重く、険しいファーストマリッジの味わいに、思わず瞼を閉じてしまう。

 

「それにしても」

「あん?」

「それにしても、レウスとレイアって、さ。何だか、貴方たちみたいね」

「……というと?」

 

 リオレウスと、リオレイア。

 アルフレッドが着込む、リオソウルZシリーズ。構えるは、ブルーチャリオット。

 そして彼の婚約者であるセレスは、妃竜砲にレイアXシリーズを身に纏っている。

 マスターの意図することを何となく察して、アルフレッドは小さく笑った。

 

「何だぁ、そりゃ」

「照れてる?」

「照れてない」

 

 ショットグラスに残った僅かな酒を、一気に飲み切る。

 喉が焼けるような感覚――まさに火竜のブレスのようなそれが、アルフレッドを襲った。

 くぅ、と小さな声が漏れる。小さな嘘を、酒で濁すのだ。

 

「貴方たちは、喧嘩しないでね」

「……善処するよ」

 

 ショットグラスを差し出して。

 注がれる、ホワイトマッカォのおかわりを眺めながら、アルフレッドはそう答えるのだった。

 今度は、嘘偽りのないその言葉を。




今回はとあるお酒蘊蓄漫画のパロ
モンハン世界でやってみたかった。
中の人は思いつきで酒断ち生活数ヶ月。意外となんとかなってるけど、時々無性に喉の渇きを覚えます。何を飲んでも、満たされない。これが禁断症状か…!!酒専門のイビルジョーです。
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