ラストリロード   作:しばじゃが

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アンチ・エアー・フレア

 闇を刺すような光は、目が眩むかのようだ。

 しかし、目を瞑っている余裕はない。

 叩き付けられる翼殻。金の翼を、その主骨を覆うように展開したそれは、砂の山をあっさりと更地に変えた。

 青い雷光、迸る。

 

「ぐっ……!」

 

 身を伏せて躱しつつ、舞い上がる砂を盾で防ぐアルフレッド。

 しかし、油断はできない。金の飛竜はその体を翻し、(いかめ)しい尾を薙ぐのだった。

 

「なんのっ!」

 

 アルフレッドは、盾を振り払う。

 かつてセバスチャンから受け継いだ、ジャストガードの極意。そしてレクスから見て学んだ、受け流しの奥義。

 それらを自分の中で噛み砕いた結果、彼の防御法は確固たるものとなっていた。かつてイビルジョーに相対した時、何一つ防げなかった姿は、今や見る影もない。

 振った盾で尾を弾き、同時に武器を折り畳んでは廃莢する。そのまま、流れるように再装填。ガードとクイックリロードを両立。防御と同時に、牙を研ぐ。

 そして、研いだ牙を叩き付けた。

 

「アルフ、凄い!」

 

 瞬く砲炎。

 大地を揺るがすフルバースト。

 新たなマガジンを装填しながらその光景を見ていたセレスは、思わず感嘆の声を上げた。

 

「だが……!」

 

 それでも、まるで堪えた様子はない。

 舞い降りた金の飛竜は、反響した金属音のような、独特な咆哮を上げる。

 鼻息を荒げ、翼を広げて。大気が、強い敵意に包まれた。

 

「これが、この砂嵐の原因なのかな?」

「いや、きっとこいつは一介の飛竜だ。嵐を操るわけじゃない。嵐に適応して、この砂嵐に乗ってきただけだ」

「それでも、こんな環境で生きてきたっていうことは、凄く強い生き物だよね!」

「ああ。これが、このままロックラックまで近付くのは見過ごせないな。こいつは外来種だ。罪はないが、狩らせてもらう!」

 

 全く見たことのないモンスター。

 リストにも載っていないその姿に、二人は改めて警戒を強める。

 

「……に、しても」

 

 アルフレッドは、竜の体を覆う(おびただ)しい傷の数々が気になった。

 

「何かと、交戦したのか? 一体何だ、その体は。なぁ、お前さんよ」

 

 語り掛けるも、返事はない。

 何かに引き剥がされたような、ノコギリで削られたかのような。

 そんな惨たらしい傷痕が、全身を覆っている。

 明らかに、手負い。

 そして、手負いの獣が一番恐ろしい。

 

「ま、何にせよ狩らせてもらうがな!」

 

 改めて意気込んで、駆け出すアルフレッド。

 彼が接近するまでの間、セレスは通常弾で牽制する。

 引き金を引けば、三発ずつ放たれた。バースト射撃機能が施されたヘビィボウガン。今回のための特注品である。

 それが荒く、鱗を削る。金の飛竜は、忌々しそうに唸り声を上げ――その角を、折り畳んだ。

 

「いっ!?」

 

 左右に開いていたはずのそれが、前方に向けて閉じる。

 角の間に集約する、光。青く弾けるそれは、間違いなく、この空を走るものと同じもの。

 

「放電……!?」

 

 慌てて盾を構えるアルフレッド。

 直後、眩い光とともに電流が走る。小規模の放電は、砂漠を焼き、二人へと迫った。

 彼らの防具はリオス種のもの。生来的に雷に弱く、相性はすこぶる悪いと言わざるを得ない。ゆえに、策を練った。

 今回の対策は、それぞれ盾や銃身にゲリョスの皮を纏わせたこと。あのゴム皮は、雷をも弾く絶縁体だ。

 

「ぐっ、何とか防げるな!」

 

 盾で受ければ、小さな反動で済む。大男の歩みは、止まらなかった。

 放たれる光は、小規模なもの。ベテランハンターである二人には、さしたる脅威でもなかったようだ。

 

「落雷みたいなものだと困るが、この程度の放電なら大したことないな!」

 

 足元に潜り込み、斬り上げる。

 同時に届く、通常弾の雨。

 金の飛竜は、忌々しそうに舞い上がった。

 

「うおっ……!?」

「アルフ! 気をつけて! 落ちてくる!」

「マジかよッ!」

 

 空中で反転。

 青い翼殻を、勢いよく叩き付ける。

 全体重を乗せたその一撃は、さながら断頭台のようだった。

 

「――ふう!」

 

 砲撃の反動で、横へと回避。

 流れるような動作で、大男は銃槍を薙ぎ払った。

 鋭い切先が鱗を剥がし、中の肉を削ぎ落とす。鮮血が舞い、飛竜の悲鳴が響く。

 だが、彼の反撃は止まらない。

 

「オオオォォォ!!」

 

 薙ぎ払った勢いのまま、全身を反転させる。

 振りかぶり、横から叩き付けるように再び薙いだ。

 ――引き金を引き、装填された全ての弾を上乗せしながら。

 

「凄い! 効いてるよ!」

 

 袈裟斬りに、フルバースト。

 激しい砲炎が皮膚を焼く。焼け爛れた内皮に、アルフレッドは竜杭弾を上乗せした。

 肉を、荒く削り取る猛回転。血飛沫に、彼の髪がさらに赤く染まる。

 

「まだまだ!」

 

 続け様に、再装填。

 銃身を追って廃莢し、どころか竜杭弾も差し込んで。

 今度は逆袈裟斬りを放つ。連装竜杭フルバースト――再装填した弾を同時にばら撒く荒技だ。

 金の飛竜の甲殻は勢いよく弾け、さらなる鮮血が舞った。

 

「目の色が変わった! 気をつけて!」

「流石にキレたか……!!」

 

 大きく息を吸い込んだ、この嵐の主は――。

 盛大な咆哮と共に、再び角を縦に折った。

 壊れた機械のような反響音。それに悩まされる二人は、初動に遅れる。

 

「アルフ! 放電が……さっきより大きそう!」

「ぐっ、防げるか!?」

 

 集約する光。

 先ほどよりもさらに密度を増したそれは、瞬時に放たれ、大気を駆けた。まっすぐ、アルフレッドへと襲い掛かる。

 

「うおっ!!」

 

 ゲリョスの皮が直撃を弾くものの、その反動は大きなもの。

 先程の放電が小規模なものとすれば、こちらは中規模といったところか。大男の体が、反動で宙に浮く。

 

「――だが、俺に夢中になりすぎたな!」

 

 鈍く軋む右腕の痛みに耐えながら、それでも彼は笑った。

 その奥では、砂の山に身を伏せて、スコープに全てを注ぐセレスの姿。

 雷鳴にも負けぬ、鋭い(いなな)きが響き渡る。

 

 ――なぁ、狙撃竜弾ってどういう構造なんだ?

 

 かつてアルフレッドが抱いた疑問。

 高威力、高貫通力の狙撃弾。それならまだしも、その弾道が炸裂する。その不可思議な構造を、多くのハンターは知りもしなかった。

 

 ――爆導索(ばくどうさく)っていうんだよ。

 

 セレスが語る、その原理。

 狙撃竜弾の薬莢は、貫通弾の二、三倍は誇る長さをもつ。それは、鋭い弾頭と高威力の薬室、そして内部にワイヤーを詰め込んだ中間部という構造によるためだ。

 爆導索とは、そのワイヤーのことである。平たく言えば、細長く加工された火薬。それが束ねられ、詰められている。

 狙撃竜弾は、ワイヤーを放ちながら対象を貫通し、その衝撃を受けて炸裂する。結果、弾道が炸裂しているように見えるのだ。

 

「そこ!」

 

 ――金の飛竜を穿つ、狙撃竜弾。

 その左肩から右の背に掛けて、鋭い風穴が開けられる。同時に体の内側が大きく焼け、甲高い悲鳴が轟いた。

 

「流石だな」

 

 思わず、アルフレッドも感嘆する。

 それほどまでに、見事な狙撃だった。

 

「負けてられねぇぜ!」

 

 肉薄する銃槍使い。

 リロードし、ブラストダッシュで距離を詰める。首から腹下に掛けて、左手の槍を大きく振り下ろした。

 しかし、飛竜は飛んで躱す。

 狙撃の痛みに、その飛び方はどこかぎこちない。しかし確かに、紙一重で、大男の一撃を躱したのだった。

 

「やべ!」

 

 血飛沫を上げながらも、巨体を制御する。舞い上がり、加速力を得た体を、大きく傾ける。

 下げた右翼。剥き出しにする、青い翼殻。

 それを大地に擦り付けながら、大男に迫る。青い破片が舞い、眩い雷光が弾け飛んだ。

 

「ぐあっ……!!」

「アルフ!」

 

 盾で防ぐも、その威力はかなりのもの。

 ゲリョスの皮が破れ、集約した光に盾が焼ける。蒼火竜の鱗も、薄い紙のようだった。

 

「アルフ! 大丈夫!?」

 

 あっさりと砕けた盾は、アルフレッドへの直撃を許す。

 大男は吹き飛ばされ、砂地を激しく転がった。衝撃は火花となり、舞い散ったそれが枯れ草を焼く。小さな炎が生まれ、しかし砂嵐の強風で儚く消えていった。

 

「こっちを見て! こっち!」

 

 セレスは飛竜の気を引くために、懐から別のマガジンを取り出した。

 装填するは、薄く切り揃えられた刃が詰まった特殊弾。それを、飛竜の鼻先へと放つ。

 アルフレッドに追撃せんと、大きく翼殻を振りかぶるその竜だったが――突如鼻を穿つそれを、無視することはできなかった。

 着弾し、突き刺さる。破裂も、爆発もない。

 不発弾か。いや、違う。この弾は二段式の炸裂構造をもっている。一段目は、射出。そして二段目は、着弾の衝撃によって内部の火薬に火を付けて、詰められた刃を解き放つのだ。

 

「斬裂弾だよ! さぁ、こっち!」

 

 鼻先から弾け飛んだ刃は、鼻は勿論のこと、目や口など、様々な急所に襲い掛かる。

 飛竜は悲鳴を上げて仰け反って、追撃の手を緩めてしまう。

 

「……怒った、かな」

 

 片目が潰され、怒りが頂点に達した。

 落雷の如く、震える大気。全ての雑音を押し除ける、圧倒的なまでの振動。

 怒りの矛先が、セレスへと向けられた。

 

「わ、こっち来た!」

 

 痛みも忘れ、その翼を羽ばたかせる。

 セレス目掛けて飛翔し、肉薄したところで真上に反転。翻した体を――あの青い翼殻を真下に向ける。まるで断頭台の如く、彼女目掛けて落下した。

 

「きゃっ……!」

 

 真横に走ってそれを躱す。

 弾け飛ぶ砂を背後で感じながら、セレスは前転して体勢を立て直した。通常弾を装填して、絶え間ない三連射の雨を降らす。

 傷口を正確に抉るそれは、飛竜に確かな痛みと、重い怒りを蓄積させた。

 世界が、黒く染まったかのような――。

 そんな、生唾を飲むような感覚を引き起こす。

 

「な、なに、これっ……!?」

 

 いや、違う。

 砂嵐で包まれた世界が、暗闇に包まれたと。そう錯覚してしまうほどの激しい光が、飛竜の背を走るのだ。

 そしてそれは、まっすぐ角へ。折り畳まれた角の間へと集約していく。先程の放電とは段違いなほど高圧のそれが、セレスに向けられる。

 

「あ、あ……これ、やばいかも……!!」

 

 銃身に纏わせたゲリョスの皮。それを盾にするように、ヘビィボウガンを構え直すが、その電圧は到底耐えられるものではなさそうだ。セレスの頬を、冷えた汗が伝う。

 それでも無慈悲に、飛竜は光を集め続けた。その姿は、夜空を支配する一番星のよう――。

 

「お願い、耐えて……っ!」

 

 風が止む。

 音が消える。

 光が、一点に集まり切る。

 その光は、全てを置き去りにした。

 

「――――オオオオオォォォォォッッッ!!」

 

 火を吹かす槍に乗る、大男のみを除いて。

 ブラストダッシュで勢いを増した銃槍。それを、畳まれた角へと叩き付ける。飛竜の前では大したことのない一撃ではあるが、それは僅かに、角の照準をずらすことに成功した。

 ほぼ同時に放たれた光は、セレスの横五歩分あたりの砂を焼き溶かした。

 全てを弾けさせ、分け隔てる何もかもを壊す。その空間を満たしていたはずの空気は押し除けられ、砂は青く煌めく結晶へと変貌した。衝撃は波となり、音は振動へ変わり、横にいたセレスを弾き飛ばす。

 

「あぐっ……!!」

 

 小さな体が跳ね、砂に文字を描いた。

 アルフレッドはその光景に目を見開くが、受け身を取った彼女の姿に安堵を得る。

 そして、再び飛竜を睨むのだった。

 

「やってくれたなぁ、お前さんよ!」

 

 一方の、雷の主もまた、大男を睨む。

 自らの渾身の一撃を、無為なものにした人間。排除せんと、翼殻を振るう。

 

「来いよ雷野郎! 盾がなくても捌いてやる!」

 

 両手に持った銃槍。自身の右側へ、その背に回すように大きく引く。

 そして、迫る翼殻に勢いよく振り上げた。下から上へ、相手の射線を逸らすように。相手の猛攻を、相殺するかのように。

 渾身の力で斬り上げるのだ。

 

「ハッ! 食らいやがれ!」

 

 予想だにしない攻撃で、翼殻を弾かれ体勢を崩す飛竜。

 無防備になった頭部に向け、大男は槍を勢いよく振り下ろす。

 両手で持ったブルーチャリオット。突きでなくとも、その硬い砲身を使った叩き付けは、飛竜の脳を大きく揺さぶった。

 ならばと、雷雲の主は、反対の翼を擦り付けて薙ぐ。

 そんな飛竜の抵抗を、アルフレッドは砲撃の反動で背後に下がって躱した。そして、再び隙だらけになった頭を――今度は突いた。正斬裂弾に潰された左の眼孔を、正確に。

 

「アルフ……!!」

 

 起き上がったセレスが、加勢に入る。

 二人の攻撃によって、左の眼孔は肉の深い部分が露わになった。

 そこに狙って、セレスは特殊弾を装填した。さながら竜撃弾のように、火薬を燃焼させる機構を使って、大きく威力を高めていく。

 暴れる竜の、その目の奥に。

 一筋の光が放たれた。

 傷口を射抜く、炸裂弾。巷では、『集中特攻弾【竜吼】』と呼ばれている――。

 

 大きな炸裂が、いよいよ飛竜の息を荒げさせた。

 この砂嵐の主が、今二人の人間に大きく追い込まれている。

 砂嵐に乗ったまま、生息地から大きく離れてしまった個体。罪はないが、生態系に大きな影響を及ぼす災いの種。

 狩られるべくして狩られるのかもしれないが――彼はそう易々と、その運命を受け入れるような器ではなかった。

 再び飛翔し、翼殻を開く。

 空から大地を薙ぎ、二人を轢き潰さんと空を舞った。

 

「――その動き、さっきも見たぜ」

 

 一度見せた手の内を、再び曝け出してしまう。

 彼の敗因は、それに尽きた。

 

「行くぜ! アンチ・エアーシステム起動!」

 

 安全装置を解除する。空圧レバーを押し続け、内部に空気を満たす。

 今回用いる竜撃砲弾は、火竜の骨髄ではなく、カクサンデメキンや火薬草、ニトロダケなどを使った新型薬莢。ゆえに、空気が入り込んでも着火する心配はない。

 むしろ、ブルーチャリオットの先端から吸い込まれた空気が、持ち手付近から噴出される。重い銃身を押し上げるようなその空圧は、銃槍を真上に向ける後押しとなった。

 

「食らいやがれッ!!」

 

 迫る飛竜の、その頭に。

 宙を駆け、視界を狭め、腕を振るうことに夢中なその脳髄へと。

 装填された五発の弾を一度に放つ。フルバーストが、炸裂する。

 

「まだだッ!」

 

 突然の砲炎に体勢を崩す飛竜。

 だが、アルフレッドの猛追は止まらない。装填された竜撃砲弾に、火をつけるのだ。

 そしてそれは、バランスを失い墜ちる彼の腹を穿ち、その巨体を真横に押しやった。

 大気に絵の具を塗りたくるように、猛烈な炎の色が噴出する。その炎は、それはそれは金の世界によく映えるのだった。

 




AAフレア、アンチエアーフレア。
ダブルクロスで追加されたこの狩技、浪漫しかありませんね。ブラストダッシュ、竜の息吹、覇山竜撃砲からのこれ。全て描写することができて大満足。
レダウはオープンベータの時からお世話になった素晴らしいモンスターですよね。特にあの鳴き声が好き。機械感というか、異質な感じがすごくして今我々は新天地に降り立ったんだなぁという実感をこれ以上ないほど感じさせてくれるのがたまらなかったです。
とまぁ、思い出話はこのへんで。
後日章、残り2話です。ゆっくりお付き合いいただければ幸いです。
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