ラストリロード   作:しばじゃが

59 / 60
白き孤影

「――はぁ、はぁ」

 

 頭を焼かれ、土手っ腹を撃ち抜かれた飛竜。

 しかしその息は未だ残り、忌々しげに二人のハンターを睨んでいた。

 

「タフな奴だな……」

 

 銃身を折って、新たな弾を装填するアルフレッド。

 倒れても、未だ息のある飛竜に対し、彼は感嘆の念すら覚えるのだった。

 

「アルフ……」

「セレス、大丈夫か?」

 

 覚束ない足取りで、セレスは彼の元に近づく。直撃は免れたとはいえ、あの衝撃は彼女の心身を大きく削ったようだ。

 表情に覇気はなく、これ以上の戦闘は難しいと彼は思った。

 

「無事で良かった。もう少し、スマートに助けられたら良かったんだが」

「ううん。アルフが逸らしてなかったら、どうなってたか……考えたくないよ。助けてくれて、ありがとう」

「気を抜くのはまだ早い。もうちょっとだ」

 

 ただ小さく、仕留めるぞ、と告げて。

 アルフレッドは武器を構える。盾を失った銃槍だが、その砲身はまだ燻っていない。雷を反射して光る穂先は、より深く、澄んだ青色に染まっていた。

 ゆっくりと、大男が歩み寄る。

 未だ息のある、しかし動くこともできない飛竜へと。

 

「……捕獲、できないかな?」

「未知のモンスターだ。捕獲はできても、持ち返るリスクがでかい。麻酔薬がどれほど効くのか、前例がないしな。船の乗組員を、いたずらに危険に晒すことになりかねない」

「そっか……」

「遺骸とはいえ、そこから得られる情報はたくさんある。今回は、仕留めるぞ」

 

 飛ぶことも、翼を振るうことも叶わない。

 飛竜は静かに、アルフレッドが迫るのを待った。潔く負けを認めるような、そんな雰囲気すら感じられる。

 さながら、王者の風格だと、セレスは改めて思うのだった。

 

「――悪いな、お前さん」

 

 地に伏せる飛竜の、その頭蓋に向けて。

 アルフレッドは槍を構えた。

 

「恨みはないが、狩らせてもらう」

 

 振りかぶり、槍をくるりと回して。

 切先が、真下を指す。

 

「強かったよ。文句なしに、な」

 

 脚、腰、背、腕。

 全身に力を込め、その槍を振り下ろす。

 

「――楽しかったぜ」

 

 心からの一言と共に、引導を渡す。

 ――その、つもりだった。

 

 

 

 

 

「……ッッ!?」

 

 突如、舞い降りる影。

 荒れ果てた砂漠と、吹き荒ぶ風の中、白い影が現れる。

 それが、どこからか鎖を放ち、アルフレッドを弾き飛ばすのだった。

 

「アルフ!」

 

 突然の不意打ちに、しかし銃槍を盾にして対応する大男。

 宙を舞うも、足腰をバネのように曲げて着地する。そして、自身に襲い掛かった乱入者を見るのだった。

 

「――何だ、お前さん……」

 

 鎖を弾いたような感覚に、人間の犯行、密猟者とすら考えた彼だったが――視界の先にある犯人の姿は、想像を遥かに超えていた。

 顔を覆うように発達した外殻と、大きく湾曲した角。

 一対の翼、一対の後ろ脚。飛竜の骨格だ。

 そして、その翼から伸びる、異質な骨。先程アルフレッドを狙った凶器は、鎖のように発達した、悍ましい翼骨だった。

 

 乱入者、吠える。

 その咆哮は獣竜種のように深く、低く響き――しかし飛竜らしく、大気を激しく振るわせる。

 思わず二人は、武器を構えた。

 

「おいおい! 何だこいつ!」

「アルフ……これって、やばい!?」

「ああ! かなりやべーな!」

 

 跳躍し、襲い掛かる影。

 しかし、翼爪を振るうのではない。薙ぐようにして、翼から伸びた鎖を振るった。

 曲線を描くようなその猛撃を、二人は躱す。躱すが、読めない挙動を前にして、躱し切ることができない。肩や胴を掠り、砂地を転がった。

 

「この状況は、まずいな!」

「アルフ! あ、あたし……」

「セレス、もう体が限界に近いだろ! 下がってろ!」

「アルフ、これを……!」

 

 何とか立ち上がるアルフレッド。

 そんな彼に向け、セレスは何かを投げた。

 それは、ヘビィボウガンに備え付けられたシールド。ゲリョスの皮で覆われた、小ぶりな盾である。

 

「あたしは、後ろから狙撃するから……! 役に立たないかもしれないけど、それ使って!」

「いや、十分だ! 助かる!」

 

 セレスはヘビィボウガンを構えながら、少しずつ下がる。

 アルフレッドは、彼女から託された盾を右腕に括り付け、改めて乱入者に相対するのだった。

 

「……その鎖……」

 

 鎖のような部位。

 翼から伸びた、骨。

 ノコギリのような甲殻であしらわれた、細長い突起。

 薙ぐようにして砂を散らすそれを前に、アルフレッドは何となく事態を察するのだった。

 

「あの雷野郎を襲ったのは、お前さんか。だからあれはあんなに傷だらけで、気が立ってたわけか」

 

 金の飛竜を襲った存在。

 夥しい傷をつけた主。

 ――目の前で吠える、白い影。

 

「こんな、生息域の外へ流れる嵐に乗ったのは、お前さんから逃げるためだったってことか? 冗談じゃねぇ……」

 

 それはつまり、目の前のモンスターが、先程やっとの思いで下した飛竜より格上だということ。

 応援のハンターが来ることもない僻地で、装備も人員も潤沢ではないこの状況で、相手にしたくない存在だ。アルフレッドは、嫌な汗を吹き出させるのだった。

 

「だが、やるっきゃねぇよな!」

 

 迫り来る鎖。

 それを、右手の盾で弾き返す。

 小ぶりだから、十分な厚みがある。盾として、文句のない性能だ。

 大男は勢いに乗り、前に出た。

 

「オオオォォォ!!」

 

 突き出した槍が、白き影の胸を突く。

 厚い毛並みに阻まれ、思うように刺さらない。

 

「ちっ……!」

 

 鋭い牙が迫る。

 背後に跳んで躱し、兜のような頭に向けて槍を振り下ろした。

 硬い角とぶつかり合い、鈍い感触が大男の両手を襲う。

 

「ぐっ、かてぇ!」

 

 続け様に、頭を振る白き飛竜。

 湾曲した角は重く、しかし鋭い。さながら鎌のような動きで、対峙する人間の命を刈り取ろうとする。

 アルフレッドは、柄を両手で握り直し、その脳天に向けて槍を刺した。

 

「ウラァッ!!」

 

 刺突を起点にして、跳躍。

 飛竜の真上を取り、全力の兜割へと繋げる。

 硬い甲殻はさながら、本物の兜のよう。太く重い銃身と擦れ、火花が散る。

 ――いや、火花ではない。猛烈な火炎だ。

 

「吹っ飛べ!」

 

 太刀の兜割ならば、鋭利な切り口により血飛沫が舞うだろう。

 しかしアルフレッドが振るうのは、銃槍だ。銃槍が舞わせるのは、フルバーストによる火炎。頭に直接ぶつけるような、爆炎の渦だ。

 白き影、悲鳴を上げる。取るに足らないはずの小さな存在が、火を吹いたのだ。その事実を前に、驚愕と警戒で全身を染め、それは強い怒りへと変貌した。大地を踏み締める前足に、力がこもる。

 

「……な……」

 

 アルフレッドから、間の抜けた声が漏れた。

 それほど、目の前の光景は異様だった。

 

「鎖が、増えた……!?」

 

 遠方からスコープを覗いていたセレスも、様相の変わる飛竜を前に驚きを禁じ得ない。

 うねる鎖が、音を立てて割れる。

 無理矢理引き裂いたように、二又に割れたそれは、さながら命が分裂するかのようだ。全く別の生き物のように、それぞれ蠢く鎖。脈動し、光を生み出すもの。

 白い影が、走り出す。

 

「うおっ!!」

 

 その動きは、さながら逆手に持った剣を振るうかのようだ。薙いだ二本の鎖は、荒々しい動きで砂を削り取る。

 アルフレッドは跳んで躱し、側面へと避ける。しかし飛竜もまた、全身を旋回させて大男に喰らいつく。

 

「危ねえ!」

 

 押し出すような動きで盾を構え、牙を弾く。

 右手に、痺れるような痛みが走った。

 だが、彼はそれを堪え、むしろ鋭い刺突に変える。甲殻に覆われた頭部だが、目元や口元は黒い鱗が剥き出しだ。その目元に向けて、ブルーチャリオットの先端を打ち付けたのだ。

 貫くようなその一撃に、飛竜は怯む。

 

「ここだ!」

 

 切先が捲り上げた、鱗。

 剥き出しになった、肉。

 ――それは、鮮血に彩られた"傷口"だ。

 狙ってくれと言わんばかりに、赤く染まるその部位へ。

 アルフレッドは銃槍を折り畳み、傷を抉るための牙を用意する。

 

「食らいやがれ!」

 

 ブルーチャリオットの、回転機構。

 空冷式として複数の銃身を備えたこの武器は、それらを回転させて連射性能を高めている。

 そして今、その回転機構は、ドリルのように傷口を掘削する刃と化した。機構に直接植え付けられた牙――竜杭弾によって。

 

 頭を削り取るような乱撃に、飛竜は呻く。

 後退して逃げようとするも、アルフレッドは追随する。前に体を押しやり、ついには杭を射出した。突き出された杭は回転しながら頭部を抉り続け、ついには炸裂する。

 巨体が転げ、大きな隙を晒した。

 そしてアルフレッドは、その隙を見逃さない。

 

「いいぜ。出し惜しみはなしだ! ブレイヴ弾、装填!」

 

 火薬庫が用意した、改良型ラストリロード弾。

 出力と費用を抑えて、大量に生産されたそれは、通常の砲弾より高い威力をもつ。そして何より、碧く煌めくような砲炎が特徴的だ。

 前に出て、銃槍を薙ぐ。

 十字を刻むような斬撃と共に、砲撃。碧い炎が舞う。

 セレスが放つ遠撃弾も、うねる鎖を射抜いた。白い光が漏れ、割れ目に大きな亀裂が入る。

 

「……こんなもんじゃ、ないはずだ。お前さんはきっと――」

 

 あまりにも拍子抜けするような、手応えの無さ。

 金の飛竜を下したであろう、この白き影は、鎖こそ厄介ではあるものの、これといって大きな脅威は感じない。

 何かからくりがある。

 アルフレッドがそう考えたのも束の間――。

 どくんと、心臓が跳ねた。

 嫌な気配を、白い影から感じたからだ。

 

「この感じ……」

 

 いつかの原生林で対峙した、あの恐ろしいモンスターの姿が脳裏をよぎる。

 触れる全てを爛れさしてしまう、黒い瘴気。

 赤と黒を混ぜ合わしたような液状の光。

 白い影が、赤黒く染まる。あの時感じた恐怖が、蘇る。

 

「おいおい! 嘘だろ!!」

 

 咆哮と共に溢れ出したそれは、イビルジョーのものと同等か、もしくはそれ以上に高純度な光だった。

 それが鎖に纏わり付き、大地を激しく穿つ。赤黒い閃光が、この砂嵐を瞬いた。

 

「ぐあ!」

 

 叩き付けられた鎖が、砂地を焼いた。

 その砂が赤いエネルギーによって凝縮、そして膨張を起こす。

 ガンランスの砲炎を塗り替えるような、濃密な爆発だった。アルフレッドは吹き飛ばされ、背中で砂煙を上げる。

 

「やべ……!」

 

 そこを狙うように、迫る鎖。

 白い飛竜は跳躍と同時に身を翻し、振り上げた鎖で砂ごと大男を巻き上げる。

 一方の彼は、慌てて横に転がってそれを紙一重で躱した。その勢いのまま走り出し、飛竜の着地する隙を狙う。突き出すような突進は、虚空を穿った。

 

「速いな!」

 

 サイドステップで躱した飛竜。

 再び、薙ぐようにして鎖を振るう。二又に裂けたことにより、リーチも攻撃範囲も伸びている。

 アルフレッドは盾と武器でそれをいなし、再び懐に潜り込んだ。

 

「オオオォォォ!!」

 

 渾身の力で斬り上げる。

 腹下からの斬撃。しかし、分厚い毛並みがそれを押し殺す。

 

「腹下も駄目か……!」

 

 全身を覆う甲殻は剣を弾き、腹下の剛毛は槍を止める。

 そして並外れた運動性能で動きが速く、鎖のような部位で広範囲を薙ぐ。さらに、未知の赤黒いエネルギーのおまけ付き。

 

「あの飛竜がやられるわけだ!」

 

 かなりの実力を誇ることを、ひしひしと感じ取る。

 アルフレッドの頬に、冷や汗が線を為すのだが――。

 その後方からスコープを構える相棒を感じ、アルフレッドはニヤリと笑う。

 

「だが、狙撃はどうだ……!」

 

 一筋の光。

 それが瞬いたと同時に、毛並みの鎧を貫通する。

 そして放たれるは、爆薬を湛えた細長いワイヤー。それが弾道を描き、軌跡を炸裂させる。セレスの放つ、狙撃竜弾だ。

 流石の白き影も、痛みのあまり転倒した。

 アルフレッドは、その隙を見逃さない。

 

「オオォラァッ!!」

 

 斬り込むような薙ぎ払い。

 そして、それを回転斬りへと変貌させる。腰を使った、叩き付けるようなその一撃は、分厚い甲殻を物ともしなかった。

 彼が振るうは、槍ではあるが、ただの槍ではない。

 蒼火竜の如き息吹を、斬撃に上乗せする。薙ぎ払いの軌跡を彩る、爆炎の花。碧い光が、砂嵐を照らす。

 

「斬撃や刺突には強くとも、爆破は効くらしいな!」

 

 セレスの放った狙撃竜弾。

 そしてブルーチャリオットのフルバースト。

 どちらも、目の前の竜に大きな傷を負わせていた。確かな手応えを、アルフレッドは感じる。

 

「ちっ、しまった。竜杭弾が……!」

 

 全弾を撃ち切った後、竜杭弾を放つ姿勢に入ったものの、装填を怠っていた。

 空撃ちされたそれは、生半可な刺突に終わる。

 ならば、と。アルフレッドはすかさず銃槍を振り、再装填。手早い動きで砲弾、杭のどちらも弾倉に押し込んだ。そして、袈裟斬りのような動きとともにその全てを放出する。

 装填と斬撃、そして砲撃と杭打ちを連続で行う大技。連装竜杭フルバーストである。

 が、そのような大技が易々と決まる相手ではない。

 白き影は起き上がり、その鎖を薙いだ。大業の締め、竜杭弾を放たんとするアルフレッドに向けて。

 

「ぬがっ……!」

 

 放つ瞬間に、すかさず盾を構えた。

 その衝撃に、空圧レバーを押す手が弱まる。竜杭弾を射出するまでには至らなかった。

 それどころか、ニ撃目が迫る。

 

「連撃……ッ!」

 

 防がれた鎖に、早々と見切りを付けた白き影は、反対の腕を振るったのだった。

 二振りのそれは荒く空間を削りながら、アルフレッドに迫る。彼は軋む体に鞭を打ち、もう一度盾でそれを押し除けた。

 

「アルフ……!!」

 

 両者、一歩も引かずぶつかり合う。まさに、人と竜の鍔迫り合いだ。

 薙ぎ払わんとする鎖。それを止める小ぶりな盾。

 大男の足が、砂に埋まる。白き影が、その全身に力を込める。目の前の人間を弾き飛ばすこと。ただそれだけに注力する――。

 だから、彼の左手が、銃槍をくるりと回して構え直していることに、気付くのが遅れた。

 その回転は、再装填の動作そのもの。

 空になっていたシリンダーに、新たな息吹が注ぎ込まれれる。

 

「オラァッ!!」

 

 放たれた、碧き砲弾。脳天を揺さぶる超振動。

 ブルーチャリオットの回転機構は、弾倉に込められた全ての弾を、瞬く間に放つことができる。鍔迫り合いに終わりを告げる、強烈無比な砲弾を。

 

「やったか!」

 

 決定的な一撃だと、思わず歓喜するアルフレッドだったが――。

 その笑みが、一瞬で崩れ去る。

 

「……おいおい」

 

 倒れんばかりに仰け反った体を、鎖で無理矢理繋ぎ止めた。

 どころか、その鎖に凄まじいまでのエネルギーを纏わせる。白い光は赤黒い煙と化し、砂嵐を舞う雷すら吸収していく。

 

「コイツは……ッッ!!」

 

 四本の鎖を振るい、それを前方に向ける。

 集めたエネルギーを凝縮し、解き放つ。あの鏖魔ディアブロスの爆発を思わせるような、空気が静まり返る圧縮率。

 想像を超える爆発がくる。アルフレッドはそう思った。

 

「間に合ってくれ!」

 

 すかさず、一発だけクイックリロード。

 そしてその砲弾を、前方に放つ。同時に盾で自分の身を守りながら、とにかく背後に跳ぶ。

 それはつまり、ブラストダッシュを利用した後方離脱。俗に言う、リバースブラストだ。

 が、彼を追うように大気は弾ける。圧縮された黒い光が、瞬時に膨張した。

 

「ぐあっ……!!」

「アルフ!」

 

 直撃は避けた。

 が、爆破の衝撃からは逃れられず、空中でさらに吹き飛ばされる。

 大男が軽々と飛び、後方の狙撃手のところまで転がった。それはそれは、圧巻の光景だっただろう。

 

「アルフ! 大丈夫!?」

「いってぇ……な、何とか」

 

 ゴロゴロと転がるものの、五体は無事だ。

 ボロボロの婚約者の姿に、セレスは涙を浮かべてしまう。

 

「泣くなセレス。俺は無事……っ、いつつ……」

「許さないんだから! アルフの仇!」

「勝手に殺すな――ぐっ! ……いっでぇ〜……!」

 

 迫り来る、白き影。

 セレスはヘビィボウガンの側面に、特殊なパーツを押し付けては迎え撃つ。

 強烈な熱と煙を放つそれは、竜熱機関と呼ばれている。破壊力抜群の特殊弾を放つ専用パーツ。その特殊弾とは、今回のように獲物に接近された時に使うもの。

 

「セレス!」

「アルフは体勢を立て直して! 相殺するから!」

 

 相殺する。

 その言葉を体現する、相殺弾。

 特殊パーツによって展開された銃身から、白い煙が吹き上がる。

 竜熱機関はさらなる熱を帯び、激しい炎を漏らし始める。そう、それはさながら、エネルギーを溜めるかのように。

 迫る竜は、鎖を撒き散らしながらセレスを狙う。

 あの狙撃の痛みを忘れやしない。そう言わんばかりに、怒りを込めた目で彼女を睨む。

 しかしその反撃の一打は、彼女の放つ相殺弾に飲み込まれた。

 

「あう……!」

「ぐっ!」

 

 超反動に、彼女は大きく吹き飛ぶ。

 が、同時に白き影も大きく後ろに倒れ込んだ。

 直撃を避け、反撃の一打を叩き込む。ヘビィボウガンらしい、豪快な一撃だった。

 

「今だよ! アルフ!」

「ありがとよセレス! 愛してるぜ!」

「えっ、あっ、……あ、あたしも!!」

 

 新型竜撃砲。

 火薬庫の知己、ヴェルナーが開発したそれは、火竜の骨髄を使わない。カクサンデメキンをはじめとした、入手のしやすい素材で作る。火薬の配合に秘密があり、既存の竜撃砲弾に劣らない威力を発揮する優れものだ。

 その分、着火に時間が掛かる。すぐには放てない。だから、セレスは自らを盾に時間を稼いだのだった。

 そして今、チャージが終わった。碧い煙が、ブルーチャリオットから溢れ出る。

 

「いっけぇッ!!」

 

 放たれる炎。前方に伸びる爆炎が、衝撃と高熱を叩き付ける。その威力は、堅牢な獣をも怯ませる、地獄の業火そのものだ。

 だが、獣もただでは終わらない。痛みに苦しみながらも、再び鎖を振るう。発射の反動でしゃがみ込む、大男を叩き潰さんと。

 ――だが。

 

「二発目が、あるんだぜ」

 

 新型竜撃砲は、二連装式。

 十分に加熱された砲身は、二発目を即座に解き放った。

 先程のような、長時間のチャージはない。間髪入れず放たれたそれは、二本の鎖にぶつかり、そしてそれを焼き溶かす。根本から、内側の芯まで、全てを灼いて一つにした。否、飲み込んで、噛みちぎるのだ。

 

「……焼き切った」

 

 呆然と、セレスが口にする。

 その言葉を現実にするように、何かが砂に落ちた。虫のように這うそれは、あの鎖だったもの――。

 

「どんなもんだ」

 

 撃ち切ったアルフレッドは、砲身を振っては熱を逃す。

 未だ健在の大男を前に、白き影は驚くばかり。右翼の鎖は、その片割れが焼きちぎられてしまった。残った一本も頼りなく、これ以上の戦闘は望ましくない。白き影は、そう判断する。

 ただ、確かな敵意を育むのだ。

 二本足で立つ、奇妙な生き物。しかし、小さな体に反して、恐ろしい牙を持つ。自身の体に穴を開け、自慢の鎖を斬るほどの高熱を。

 この生き物は、油断ならない。彼が知っていた二本足の生き物とは、明らかに違う存在。自らを脅かす何かである。そんな敵対心を抱きながら、その場を後にするのだった。

 

「あ、飛んだ! 逃げた!」

「……何とか、撃退成功か……」

 

 鎖が斬られたというのに、簡単に空を舞う姿。

 大した痛手ではないということを実感して、アルフレッドは辟易とする。

 こんなモンスターがいるのか。

 こんな、未知の脅威が砂漠の向こうに存在するのか。

 そんな、途方のない思いに満たされ、それは重さとなり、彼の腰を大地に引き寄せた。

 

「あー、もう立てねぇや……」

 

 どっしりと座り込む大男。

 セレスが駆け寄り、お互いの無事に安堵する。

 砂嵐は未だ砂漠に鎮座しており、青い光が空を走っている。白き影の乱入によって、事切れた金の飛竜が、静かに横たわるのだった。

 放った回収信号が砂上船に届くまで、まだしばらく時間が掛かりそうだ。




アルシュベルドオンラインと揶揄されていた頃が懐かしいですね。一辺倒かと思いきや、アルシュベルドの完成度が高すぎて、どの武器で挑んでも楽しい素晴らしいモンスターだと思った記憶があります。飽きずに連戦してました。ワイルズは、私にしては珍しく、クリア後もしっかりハマるタイトルでした。おまもり2個ずつくれるようにしてあげてください。
後日談も次がいよいよ最後です。タイトルアップデート第四弾前には終わる予定です。ゴグマジオスに早く会いたいね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。