とても嬉しいです。
「おやっさん、こんにちは!」
「おう、若いのいらっしゃい。今日は何の用だい?」
雪深い辺境の集落、トタン村。
その大通りにやってきた若いハンターが、丸い石造りの店の中へ声を掛ける。
身に纏うのは、いずれも雪兎獣の素材からできた装備だった。その様から、まだまだ駆け出しの下位ハンターであることが窺える。
彼が話し掛けたのは、加工屋の親方。
氷海近くのこの小さな村を支える、小さな工房だった。
「ちょっと新しい武器に手を出してみたくて、作れるかどうか聞きたいんだけど」
「おう、良い心がけだな! 今使ってるのは……弓だったな。なんだ? ライトボウガンか?」
背に括り付けられた弓を見て、そう尋ねる加工屋に向けて。
若者は、おずおずと尋ねるのだった。
「いや、その、剣士目指したくて。その、ガンランスって、作れるかい?」
その一言に、加工屋の男の表情が曇った。
「……らん」
「え?」
聞き逃した言葉を、若者が聞き返す。
しかし加工屋は、彼を見ることもなく奥の棚へと踵を返してしまう。
「あ、あの……?」
あのにこやかな表情から一変、こちらを見ることすらもしない。
そんな、突然の態度の変化に若者が不審を感じた頃──。
「俺は、あんなもの作らん」
加工屋の男は、はっきりとそう言った。
「え、な、なんで?」
どうして突然、と若者は言葉を繋げる。
それに加工屋は、背を向けながら答えるのだった。
「あんなもの、武器と呼べるか。重い、扱いにくい、使える者は少ない。そして何よりも、素材を強く痛ませる」
「え……」
「若いの、ガンランスが火薬を使うのはもちろん知ってるよな?」
そう言いながら、加工屋は若者に向けて、拳大の何かを投げた。
慌てた様子で、彼はそれを手に収める。
円柱状のそれは、金属で包まれたもの。そう、まるで弾丸のようだった。ただし大きさは、ボウガンのそれとは大きく異なる。
「そいつが、ガンランス用の砲弾さ」
「こ、これが……!」
「こいつとボウガンの弾の違い、分かるか。若いの。もちろん、規格以外でな」
「え? え、えっと……」
彼は、弓を普段使いとしていた。故に、ボウガンの弾に関する見識も薄い。
彼が言い淀むのも、もっともだった。
「……弾頭だよ。ボウガンには弾頭のある弾が使われる。反面こいつは──」
「弾頭が、ない……」
そう、ボウガンの弾の先には、鋭い弾頭がついている。
火薬と、金属でできた弾頭をカラの実やツラヌキの実に収めることで、ボウガンの弾薬は作られているのだ。火薬の衝撃を利用して、鋭い弾頭を超速度で放つのである。
一方で、銃槍の弾はどうか。
こちらは金属でできた薬莢を携え、しかし弾頭はない。中には、加工の段階で生まれた鉄屑や金属片が、火薬岩と共に込められているという、全く仕様の異なる性質をしていた。
つまり、要は爆破だ。火薬の炸裂による炎、衝撃波、そして混ぜられた金属片による裂傷。それこそが、ガンランスの砲弾の真髄なのである。
「この弾はな、実に危険なんだ。そこらの小型モンスター相手に使うとどうなると思う? ジャギィなんて、一発で頭が木っ端微塵になる」
「え……」
「ドスジャギィなんていう中型のモンスターでさえ、簡単にズタボロにしちまう。あの襟巻も、間違いなく焼き焦がしちまうだろうな」
「そ、そんな」
「ガンランスは、強力だ。だからこそ、素材を必要以上に焼いてしまう。加工屋としては、鼻につく武器なんだよ」
そう語る加工屋は、どこか悲しそうな顔をしていた。
「そして何より、使える奴が少なすぎる。片手で大砲を携帯するようなもんだ。若いの、アンタじゃ使えねぇぜ。そんな細身じゃあな」
「うっ……」
厳しい現実を突き付けられ、彼は唇を噛んだ。
身体を鍛える、と意気込んで修行する日々。成長期とはいえ、すぐに体が変化するわけではない。
まだまだ先は長い、と彼は歯がゆさを感じるのだった。
「まぁ、中にはガンランスを専門的に扱う加工屋もあるようだがな。酔狂なもんだよ、全く」
「えっ! そ、そんなところがあるんですか! 一体、どんな……!?」
寝耳に水、と言わんばかりに表情を輝かせる若者。
彼を前に、加工屋の男は困ったように頭を掻いた。しかしその視線をやり過ごすことはできず、彼は続きの言葉を白い息に混ぜて吐くのだった。
「そいつは、ドンドルマにある。確か、名前は──」
○◎●
「──"火薬庫"へようこそ! ん、おおぉ! アルフレッド! 何じゃお主、元気にやっとるか!」
「よう、じいさん。相変わらず煤だらけだな」
「そりゃあもう、わしの可愛い子どもたちのためならな! この煤も悪くないもんじゃ」
そう語るのは、かつて白衣だったものを黒と灰色に染めた男。白髪の皺の深い老人だが、その赤い瞳は爛々と輝いていた。
そんな彼が語る子どもたち──それは全て、彼の背後に陳列したガンランスたちである。
ドンドルマの片隅で常に蒸気を噴かすこの店は、『火薬庫』と呼ばれている。ガンランスを専門的に取り扱う、異色の加工屋だ。
「で、どうしたね。新作? 新作か? 新作が欲しいのか!!??」
「いや、こいつを直してもらいたくて」
子どものように目を輝かせる老人を前に、アルフレッドは淡々と答えた。
そして同時に、アルフレッドは先日破損してしまった『叛逆銃槍ロドレギオン』──だったものをカウンターに置く。
「……おおぉ……わしの、わしの可愛いロドレギオンンンンッッ!! 何ということじゃあっっ!! お、お、おおぉぉ~~ッッ!!」
「うわ、きたねぇ」
鼻水と涙を撒き散らしながら泣き喚く老人に、アルフレッドは一歩距離を置いた。
この老人こそ、『火薬庫』と呼ばれてきた男。火薬の専門的知識を有し、戦闘街や砦等の大砲の開発に関わってきた第一人者。
彼が語るは、槍と火薬の親和性。ガンランスの先駆けと言える、『工房試作品ガンランス』──まだランスのカテゴリだったその武器の、開発に携わった男の一人である。
「火薬庫……感情の起伏が激し過ぎる男、ねぇ」
呆れたように、アルフレッドはぼやいた。
火薬庫というのは、すぐに怒ったり泣いたりするこの老人を揶揄した言葉だった。
それがいつしか定着し、この加工屋の呼び名になっているのである。
「うぐっ、ひぐうぅぅ……そうか、砲弾排出の接合部か。千刃竜素材は耐久性に優れている、わけではないからな……おお、おぉぉぉ」
「そうそう。損傷が嵩んだみたいでな。叩き付けで、ポッキリと」
「この……この阿呆が!! ロドレギオンは繊細な子じゃろうが!! それを、それを叩き付けだと!? お主なんぞもう客じゃないわい! ぬがああぁぁぁぁ!!」
泣き喚いていたのから一変、今度は怒鳴り散らし始めた。
この感情の起伏の激しさから、彼は開発の前線から外され、このような路地の片隅に追いやられている。それを、彼が自覚しているかは、誰も知らない。
アルフレッドは、この店に足しげく通っている身だ。毎回起こるこのやりとりに溜息を吐きつつ、いつもの返しをするのだった。
「悪かったって。いつもみたいに、新作の試運転に付き合ってやるから」
「何ッ!? 何をそんな……そんなことでわしが、わしが……!!」
肩をわなわなと震わせながら、呪詛のようにそう漏らす老人だったが──背後から赤い一本の槍を取り出した。
その表情は、泣いたり怒ったりしていた、あのしわくちゃな表情ではない。
まるで幼子のように、好奇心を抑えられないといった嬉々とした表情だった。
「じゃあのぅじゃあのぅ、こいつを試してみてくれんかのう!!」
それは、赤く鋭い一振りの槍。
まさに、槍だった。ガンランスの多くは、砲身に刃が取り付けられた、言うなれば銃剣のような見た目をしている。しかしこれは、外付けの剣がない。鋭く、猛々しい一本の槍。
「凄い。刀身にでかい銃口が掘られてる。それにこれは、この装填機構は……」
「これはレッドルーク。先日、おぬしが寄付してくれた火竜の素材を使った一振りじゃ。何と言ってもこれは、ヘッド独立型じゃない。言うなれば、銃身一体型じゃ」
「銃身一体型……」
「見た目は一本の槍に! 内部にシリンダーと砲撃機関を搭載し、穂先に掘られた複数の銃口から爆炎を吐き出す! わしの妙技の詰まった至高の一品じゃ!」
レッドルーク自体は、以前から武器登録がされ、加工屋組合の中では図面も共有されている。
そのため、もちろんアルフレッドもこの武器のことは知っていた。
知っているはずだが、このレッドルークはどこか違った。
「これって、もしかして中折れ式じゃないのか?」
「そうじゃ! どの銃槍も、組合が共有しているのは中折れ式ばかりじゃ。しかし、当たり前に縛られていては何も生まれん。だからわしは、新しい機構を採用した。これを見よ」
「お、シリンダー後方にハッチがついてる」
「そうよ、ここから装填、排莢をするのじゃ。シリンダーは固定式、中折れ機構はなし。取り扱いはし辛いじゃろうが、お主のように真っ二つに折る危険性は少ない。何よりも、頑丈さを目指したんじゃ」
「確かに、これは一発ずつ装填や排莢するんだな。……ってことは、フルバーストすると……」
「えらく時間がかかるじゃろうな、排出に。だからこいつは、フルバーストに不向きな拡散型のシリンダーにしてみた。装填数は三発。大事に使うんじゃぞ」
「なるほど……」
「名付けて、ソリッド・エアー・アクション式。頑丈さと、空飛ぶ火竜を組み合わせた名前じゃ。略して、SAA式レッドルーク」
「SAA、ねぇ」
「AAフレアといい、昨今の銃槍技師会では略称を使うのが流行りじゃ」
「アンチ・エアー・システムね……」
「ただ上に撃つだけとか、言うんじゃないぞ」
アルフレッドは、このSAAと名付けられた銃槍を手に取った。
重く、ずっしりと腕に
鋭い刀身は、一見はランスのようだ。シリンダーから一発ずつ装填、排莢する。取り回しを犠牲にした分、随分と頑丈な手触りだ。
「これって、予備弾倉はあるのか?」
「もちろんあるぞ。ほれ、ここのカバーを外せば確認できる」
「ほんとだ……」
老人が外したカバーの下には、砲弾を押し込める渦巻き状のマガジンがあった。
槍の内部に装着されたマガジンゆえに、この部分の耐久力には注意が必要だ、とアルフレッドは分析する。
「何分拡散型は砲弾がでかくてな、それに見合う砲口、シリンダー、そして弾倉が必要でな。だからなんじゃ、お主がよく使う通常型や放射型に比べると、予備弾倉にあんまり砲弾は詰めれん。大体七発ってとこじゃ」
「ってことは、全部で十発か。随分少なく感じるな」
「その分、空圧調整機能は優秀じゃ。圧をかけた炸裂の威力は計り知れんぞ。ドスジャギィの頭も、一撃で吹き飛ばしかねん」
「マジかよ。威力重視ってことだな」
それは頼もしい、と彼はシリンダーを撫でた。
確かに、そこに掘られた三つの穴は、他のシリンダーに比べると随分と大きかった。
「そしてこれじゃ! 見てくれこれを! 新たに開発したんじゃ、竜杭砲弾じゃ!」
「竜杭砲って、砲口の下に仕込む爆薬じゃなかったか? 杭型の」
「あれじゃと、仕様が異なり過ぎてクイックリロードじゃとても装填できんじゃろ。じゃがこれならどうじゃ。予備弾倉に仕込んでおくことによって、いつでも装填ができる。なんじゃったら、盾を構えながらでも装填できるぞ!」
「なるほど……つまり、竜杭砲のあの杭を仕込んだ砲弾ってことか。すげぇな」
「しかもしかも、拡散型の竜杭砲弾は薬莢内に余裕があったからな、ある特殊な仕様にしてある。ま、使ってみてのお楽しみじゃ。いっひっひ」
「ふーん……いいね。いつものように、使ってみて、その感想をまた伝えにこればいいんだな?」
「うむ、頼むぞ。そうすれば、いずれ製品化もできるじゃろう」
背中のベルトにレッドルーク──もといSAA式を括り付け、同規格の盾を受け取るアルフレッド。
赤と黒の甲殻であしらわれたその盾は大きく、随分と逞しかった。
「さて、じゃあ修理費と貸し出し代の方じゃが」
「げ、試運転してやるのに金取るのかよ」
「わしだって生活がかかっとる! ガンランスは何かと金が掛かるもんなんじゃ。それにほら、お主は儲かっとるじゃろ。大型モンスターの素材や報酬を独り占め……のう、単独専門さんよ?」
「大型専門、だ」
「どっちだっていいわい。さ、金を出すんじゃ金を」
「ちっ。こっちだって、維持費すげぇんだぞ。全くよ」
「まぁそう言うなそう言うな。今度、酒を奢っちゃるよ。砲モロコシバーボンの拡散酒! たまらんじゃろ!」
「む……。なら、まぁ、やぶさかでは、ない……」
「いーひっひ! 毎度あり!」
渋々出した革袋の、中身を確かめては悪そうに笑う老人。
その浅ましい姿にアルフレッドは溜息を吐きつつも、脳裏に思い浮かぶ琥珀色の酒と、背中に伸びる銃槍を見て心を落ち着かせるのだった。
完全なる槍型の、さらに新仕様を搭載したガンランス。
果たしてこれが、どのような強さをもっているのか。それを想像するだけで、彼の心は踊るように跳びはねていた。
「じゃ、行ってくる」
「おう、気をつけてな!」
颯爽と踵を返し、店を後にするべく歩き出すアルフレッド。
彼を待つ次の狩りがもたらすのは、素晴らしい砲撃の快感か。それとも、苦戦を強いる使い勝手の悪さか。
それは、このガンランスのみが知る────。
ガンっ!
唐突に鳴り響く、荒っぽい音。
店の出入り口の天井部分が、荒く削れた。
「…………これは」
「しまった。中折れ式じゃないから、高すぎて玄関を超えとったわい……」
まっすぐ伸びるレッドルークが、玄関上部の格子を、荒く砕いている。
多くのガンランスは中折れ式のため、半分に折り畳むことができる。故に、意外と嵩張らないものだ。しかしこれは。折り畳むことができないため、高く高く上に伸びるしかないのである。その穂先が今、木製の格子を破壊していた。
パラパラと舞う、木の粉。砕けた木片が、アルフレッドの血染めのような髪を彩っていく。
「……使い勝手、悪そうだな」
「んのっ、人聞きの悪い奴じゃ! 玄関の修理代も追加!」
「はぁ!? これ俺が悪いのかよ!」
「玄関壊したのはお主じゃよーだっ! ツケにしといたるからな!」
「このジジイ! ぶっ飛ばしてやるッ!」
火薬庫は、今日もまた爆発する。
老人と大柄なハンターの喧噪は、それはそれは竜撃砲のように、路地の奥まで轟くのだった。
ゲーム本編では、砲撃の威力は大変しょぼいのが哀しいです。この作品では、砲撃は回数に限りがあるからこそ、必殺的な威力が伴っているものとして記述しています。その分素材を強く痛めてしまうため、加工屋からは好ましく思われていないのです。
というわけで、いろんなガンランスの考察も含めた工房回でした。オリジナル武器、と言えばいいのかは分かりませんが、オリジナルの機構も登場させつつ、砲撃タイプやガードリロード等の自分なりの回答を入れたお話でした。百竜銃槍を使えば、擬似的に拡散型のレッドルークを体感できますね。ライズのそういう細かな気配りたまりません。
みなさんはどんな砲撃タイプが好きですか。私はやはりフルバーストが好きなので、通常型かしら。
それでは、次の更新で。閲覧ありがとうございました。