ラストリロード   作:しばじゃが

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怪物と銃槍

「はぁッ!」

 

 鋭い切っ先が、青熊獣の頭髪を薙ぐ。

 紅く猛々しいこのレッドルークは、アオアシラ程度の頭皮など、易々と貫いた。

 

 振り払うのは、重く鋭い銃槍。

 一見、ただのランスにすら見える一振りだ。随分とスタンダードで、しかしスタンダード故の武骨さを孕んでいる。

 

「ふん、こりゃまた随分と振りやすい」

 

 振り払う勢いに乗って再装填。空になった薬莢が飛び出し、新たな砲弾が装填された。

 そのまま、アルフレッドは再び槍を高く掲げる。

 

「おおおォォォッ!!」

 

 掲げた槍を、振り下ろす。

 砲弾の詰まったこの重量武器を、アオアシラの頭頂部に向けて振り下ろす。

 その技は、ガンランス使いから『叩き付け』と呼ばれているもの。様々な型に派生できる、シンプル故に柔軟な技なのである。

 

 ある者は、叩き伏せて作った隙に、詰められた全弾を叩き込む。

 またある者は、その隙を生かして竜杭砲を放つために空圧レバーに手を掛ける。

 アルフレッドは、引き金に指を掛けることなく、この槍を再び薙ぎ払った。

 

 凄まじい強打。

 青熊獣の固い腕甲が、音を立てて割れた。

 

「……来るかッ」

 

 しかし、アオアシラも黙っていない。

 砕かれた方とは反対の腕を振りかざし、アルフレッドを薙ぎ返そうとする。

 

「だが……ッ!」

 

 アルフレッドもまた、黙っていない。

 引き金を少しだけ引き、シリンダーの固定を緩める。同時に空圧レバーを調整し、ガンランス内部に空気を送り込む。

 その一瞬の引き戻しで、シリンダーを回転させた。通常の砲弾が装填された穴を送り、次弾を銃身にセットする。

 

「頭ががら空きだぜ!」

 

 装填とほぼ同時に、彼は槍を突き出していた。

 まさに槍らしい、鋭い円錐状のその刺突は、アオアシラの脳天を射抜く。

 同時に、切っ先から、鋭い杭が撃ち込まれた。

 

「……へっ」

 

 硝煙を撒き散らしながら、ガバッとその身を剥き出しにする杭に、アオアシラはただ驚いて狼狽えるばかりだ。アルフレッドを殴るのも忘れ、両手で杭を抜こうとする。

 が、それよりも速く、杭に込められた丸い火薬が弾け飛ぶのだった。

 

「……良い音だ」

 

 杭の中に、縦に並ぶように込められたその火薬は、全部で三発。それが一つずつ、音を立てて炸裂する。

 その度に衝撃が杭を伝って、アオアシラの脳天を揺さぶるのだった。連鎖的に、三発の彼の意識を霧散させる。

 あまりの衝撃に、彼は堪らず眩暈(スタン)に陥った。

 音を立てて倒れ込む、青い毛並み。

 

「──竜杭砲弾、なかなかいいな!」

 

 まさに、"隙を晒す"の一言に尽きるだろう。

 当然、アルフレッドは前に出た。

 弱点を露わにするアオアシラのその腹に、二度続けて刺突を叩き込む。柔らかい腹の肉が破れ、血飛沫が切っ先を押し返す感触が、アルフレッドの腕に伝わった。

 

「はああぁッ!」

 

 それに負けず、続けて二回引き金を引く。

 拡散型の砲弾が、アオアシラの腹の中で弾けた。血肉が舞い、黒い煤が頬を染める。

 身を裂かれるほどの、強烈な痛み。

 アオアシラは、あまりの痛みに起き上がった。ただ半狂乱になって、全身をめちゃくちゃに振り回している。

 アルフレッドは背後に跳んで、冷静にそれを躱すのだった。

 

「お前さんがやったのも、これだろう。開拓地の住民を、こうやって食ってたんだろ?」

 

 シリンダー後方のハッチを開き、三発の薬莢を排出する。

 同時に銃槍内部の予備弾倉から新たな砲弾を補充して、ハッチを閉じた。

 このアオアシラは、人食い熊だ。山岳地帯を開拓しようと村を建てていた住民の民家を壊し、数度に渡って人を食ったという。内臓を好み、腹を割いたという。

 寒冷期にねぐらを確保できなかった、憐れな獣だった。しかし。アルフレッドは一切の容赦をしなかった。

 

「お前さんを狩る理由は十分にある。狩らせてもらうぜ」

 

 予備弾倉には、もう弾は残っていなかった。

 正真正銘の、最後の装填(ラストリロード)

 

「おおおッッ!!」

 

 両手で握った銃槍で、突く。

 気刃突きのように、鋭い刺突でアオアシラの腹をさらに抉る。

 レッドルークは、銃身と刀身が一体になっている。討伐隊正式銃槍や、アルフレッドが愛用している叛逆銃槍ロドレギオンのように、銃身と刀剣が分離可能なものとは違う。文字通り、銃身が刀身と化した『銃身一体型』だ。

 その見た目は、まさに槍。刺突が最も適した格闘法なのである。

 

「へっ、随分と振りやすいな」

 

 刺突と同時に引き金を引き、傷口を焼き飛ばす。

 さらに続けて刺突を繰り出す。

 突いては撃ち、突いては撃つ。

 アオアシラは、もはや立っているのもやっとというほど弱っていた。

 

「そうか、切っ先が軽い分、重心がシリンダーにあるのか……」

 

 ロドレギオンはヘッド独立型。つまり、ヘッドの部分に重い刃が取り付けられている。

 しかしこのレッドルークはどうだ。見た目は純粋な槍。その性質も、槍に近い。先端に行くほど細く、そして軽いのだ。

 ヘッド独立型はシリンダーと切っ先の両方に重さが加わり、重心が狂いやすく振り回すには難がある。しかしこちらは、重心が柄に近いため振り回しやすい。加えて、予備弾倉が軽くなればその分銃槍も軽くなり、さらに振るいやすくなる。

 アルフレッドが片腕で照準を正確に合わせることも、もはや朝飯前となっていた。

 

「あばよ、アオアシラ」

 

 切っ先を、息も絶え絶えのアオアシラの頭頂部へと向ける。

 

「自然に還りな」

 

 最後の砲弾を、射出。

 雷管が打たれ、火薬が弾け、爆炎の渦が飛び出した。

 青白い光を伴ったその弾は、青熊獣の頭を、一撃で吹き飛ばすのだった。

 

 

 ○◎●

 

 

 ドンドルマ広場より随分と離れたこの鬱蒼とした野原は、ハンターたちが武器の使い心地を試すのに丁度いいため、修練場と呼ばれていた。

 周囲を木の柵で覆われ、中央には武骨な一本の柱が立っている。

 ドンドルマ郊外なら、ボウガンや弓の誤射は少なく、また大きな音を立てても問題はない。ハンターたちは、ここで(こぞ)って修練に努めている。

 アルフレッドもまた、月夜やランタンに照らされながら、この場所で武器を研いでいた。

 

「……銃身一体型ゆえに砲口を複数にして刀身に備え付けているけど、これはかえって拡散型の広範囲爆破という持ち味を阻害しているような気もするな」

 

 槍の先端に付着した煤を拭いながら、彼はそうぼやいていた。

 

「斬れ味の摩耗も激しい。火薬の量が多いから、というのもあるんだろうけど。刀剣タイプじゃないから、研ぐのも何だか慣れねぇや」

 

 銃槍を専門とした工房、"火薬庫"から試運転を任されていたこの『SAA式レッドルーク』。

 その使い心地を、彼は洋紙にペンを走らせながらレポートとしてまとめていた。ランタンの明かりが、洋紙を染めるインクを優しく包んでいる。

 

「シリンダーを固定式にして、中折れ式機能を無くしたのは面白い。すげぇ頑丈だ。叩き付けをしてもビクともしない。重心も安定してるから振りやすいし」

 

 あの加工技師に提出するそれは、ほぼ殴り書きと言っていい。

 アルフレッドには大した教養はなく、文字も必要最低限度しか覚えていなかった。故に書き順や文法も疎く、これを読み解くのはそれなりの時間と労力が掛かることだろう。

 それでも、彼は書き続ける。この素晴らしい一振りのことを、書かずにはいられなかった。

 

「どちらかというと、砲撃より格闘を重視した戦法が向いている……? しかし、それには予備弾倉を軽くする必要があるから、うーん……」

「──貴方、何をしてらっしゃるんですの?」

 

 唸りながらペンを止めていたアルフレッドに、不意に掛けられる声。

 振り向けば、おおよそハンターには似合わない、品の良さそうな少女がいた。

 

「あん?」

「修練場で武器ももたず、眺めて文を書く……もしや、月刊『狩りに生きる』の編集者ですの!?」

「そんなんじゃねぇよ。ただのハンターだ」

 

 桜を思わせる桃色の髪を、肩当たりまでふわりと伸ばした少女。

 身に纏う装備は、全てレイアシリーズだ。ドレスのような鎧と、鋭い毒棘を加工したレイピア。

 ただしその色は、見慣れないものだった。髪と同じく桃色のそれはどこか上品で、ただのレイアシリーズではないことを物語っている。

 特に珍しい、桜色の甲殻を持つリオレイア亜種、その装備だ。

 その出で立ちは、さながらお姫様やお嬢様と言ったところか。その話し方もあって、ますますお嬢様のようだと、アルフレッドは思った。

 

「ランス使いですの? セバスチャンと一緒かしら」

「セバスチャン?」

(わたくし)の執事ですわ、ほら」

 

 そう言う彼女の後ろには、同じく桜火竜の装備と槍を持った老年の男がいた。

 皺と、白く茂った髭を蓄えながら、ぺこりと優雅にお辞儀する。その様相は、まさに品性があるという一言に尽きた。

 

「……これはランスじゃない。ガンランスだ」

「まあ! ガンランス! 珍しい! 私、ガンランス使いに会ったのは初めてですわ!」

 

 彼女は、紫色の瞳をまんまると開きながら驚いていた。

 ハンターとしては、まだ経験はそこまで深くないと見える。銃槍使いは少ないとはいえ、一定層存在する。ある程度ハンターをしていれば、一人や二人、見ることはあるだろう。

 なんてアルフレッドは考えるものの、それを口にすることなく視線を洋紙へと戻した。

 が、老獪な男の溢す言葉が、彼に聞き耳を立てさせる。

 

「お嬢様、この方のようですね」

「赤い髪に、珍しい武器……そのようですわね」

「何の話だ?」

「いえ、赤い髪の珍しい武器を持ったハンターがいると聞いて、訪ねてきたのです」

「私たちが探している人が、まさにその条件に一致してまして。でも、人違いでしたわね」

「ふーん……?」

 

 何やら事情があるらしい。

 気にならないわけではなかったが、アルフレッドはそれほど興味も抱かなかった。

 今度こそ、そんな思いで洋紙に目を移すものの──しかし捲し立てるように話し掛ける少女が、彼を阻む。

 

「それにしても、凄いですわ! 一緒に組みたくない武器種、不動の一位! 使い手を拒む圧倒的な操作難度! 使用者を早期引退に追い込む驚異的な反動! まさに狂人しか使わないと言われた、あの伝説の武器ガンランスが、今ここに……!」

「ひでぇ言われようだな……」

「お嬢様、使用者を目の前にそのような噂話をつらつらと並べるのは少々失礼かと」

「あら、これは失礼致しました……」

 

 早口の彼女を前に、おちおちとレポートを書き進めることもままならない。

 ただ冷静に制止を入れる、セバスチャンと呼ばれる老獪のハンターだけは、このような状況でも微動だにせず姿勢を崩さないのだった。

 いつものこと、といった様子である。

 

「私、この地方に来てまだ日が浅くて。ごめんなさいね」

「……逆にそんな短い期間で、リオレイア亜種を狩ったのか?」

「セバスは昔、ミナガルデでハンターをしていましたの。だからとってもお強いんですのよ」

「へぇ……」

 

 目線が合うと、再び丁寧にお辞儀をするその男。

 老いてはいるものの、その眼光は衰えることはない。さながら、姫を守る騎士(ナイト)とでも例えたくなる、独特の覇気をアルフレッドは感じていた。

 

「確かに、強そうだ」

「有り難うございます。貴方様もまた、相当の実力者とお見受けします」

「へぇ?」

「その体格と、全く狼狽えることのない表情。随分と修羅場をくぐってきたのでしょう。武器についた煤を見れば、貴方様が使いこなしていることもよく分かります」

 

 冷静な語り口に、アルフレッドは悪い気がしなかった。

 少しだけ嬉しそうに、口角を上げる。

 

「……で、貴方、何をしてらっしゃるんですの?」

「あ?」

「しきりに、そのお汚い字で書いているのは何ですの?」

 

 こほん、と咳払いするセバスチャンが彼女を諌めるものの、アルフレッドは気にすることなく話し始めた。

 

「知り合いの加工屋から、コイツの試運転を依頼されてな。使い心地をまとめて教えてやるんだ。これはそのレポートだ」

「はぁ~……すごいですわ。これ、きっとリオレウスのガンランスですわよね? ……ちょっと、持ってみても?」

「お嬢様、それは」

「別にいいぞ」

 

 制止に入ろうとする老年の騎士を前に、アルフレッドは朗らかに快諾する。

 この武器は借り物だ。それに、使用者は多い方がより多くの意見が聞ける。火薬庫の男も喜ぶだろう。彼はそう考えながら、銃槍を持ち、柄を彼女の方へ差し向けるのだった。

 

「えへへ、それでは失礼して……ふもっ!?」

 

 受け取った瞬間、彼女は奇声を上げて倒れ込んだ。

 ガンランスの重さに負けて、小柄な体が地べたに這う。

 

「お、お嬢様っ!」

「おっ、おい! 大丈夫か!」

 

 それでも、彼女は立ち上がった。

 立ち上がって、ガンランスを持ち上げようと歯を食い縛る。とても、お嬢様という品性に溢れた言葉とは、掛け離れた表情で。

 

「ふぎぎぎ……ッ、お、重すぎ……っ!」

 

 ようやく上がった、柄の部分。それでもシリンダーは、彼女の腰より上には持ち上がらない。

 

「く、くっ、くっそ重ぇですわ~~っっ!!」

 

 気品とは程遠いその叫び声が、修練場の奥まで響くのだった。

 

 

 

「……はぁ、はぁ。し、失礼致しましたわ……」

「お、おう……」

 

 ガンランスを受け取りつつ、アルフレッドは困ったように返事をする。

 その小柄な体躯と、細い腕ではガンランスを持ち上げられないのも無理はない。それに、彼女が使うのは片手剣である。おそらく、重量武器自体に慣れていないのだろう。

 そんな彼の考察を追うように、セバスチャンが口を開いた。

 

「お嬢様は重い武器に慣れておりませんので、申し訳ありません。ご迷惑をおかけしました」

「いや、別にそんな」

「はぁ……セバスのランスは、両手なら何とか持ち上げることができましたのに。ガンランス、本当に重いのですわね」

「まぁな。砲弾が詰まってるから、片手で扱う武器の中では最重量だぞ」

「片手……。貴方は、これを片手で扱うんですの?」

「時と場合によるが、まぁ片手かな。時々両手で持って振り回すこともあるけど」

「す、すごい……」

 

 そう言う彼女の瞳は、どこか尊敬の色を帯びていた。

 大抵、侮蔑と畏怖の意を込めた視線を向けられることが多かったアルフレッドにとって、これは意外な体験だったようだ。少しだけ、照れくさそうに頭を掻いた。

 

「こんなすごい武器を使いこなすなんて……まるでバケモンですわ!」

「は?」

「これじゃ、どっちがモンスターか分かりませんわ! すごいですわー!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねながら興奮する彼女を前に、アルフレッドはたじろぐ。

 たじろぎながら、そっとセバスチャンからの耳打ちを受けるのだった。

 

「申し訳ありません。我が家系は、どうも言葉遣いが、その、独特でして」

「……お前さんも、苦労してるんだな」

 

 修練場の夜は、更けていく。

 アルフレッドがレポートを書き終えるのは、もう少し先になりそうだ。

 




いろんなキャラクターが登場してきました。
ちょっと口調が汚いお嬢様ハンターと、執事のように付き従う老獪の騎士。書いてみたいコンビでした。お嬢様の名前が出てこないのはわざとなので、再登場の際に名前と、なぜハンターをやってるか、みたいな話を出してあげたいなと思います。
今回はレッドルークの描写と、銃身一体型ガンランスの使用感についての考察でした。ゲーム上は、全てのガンランスは同じ動きで扱えますが、実際にはガンスそれぞれによって使用感は随分と異なるんだろうなと思います。それは重さだったり、振り心地だったり、例えばロドレギオンのような剣がついている銃槍と、レッドルークのようなまさに槍の形をしたガンランスでは、叩き付けや薙ぎ払いの感覚は大きく異なるでしょう。そういうことを想像しながらガンランスを使うと、また味のある武器であることを再認識できて楽しいのです。
さて、そんないろんなガンランスをざっと分類した考察絵があります。よかったらご覧ください。

【挿絵表示】


この作品を読んでくださった方が、ガンランスを使うのがもっと楽しくなれますようにと願いを込めて。
閲覧ありがとうございました。
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