ラストリロード   作:しばじゃが

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角と角を鍔迫り合え!

 その砂漠は、からっとした日照りでアルフレッドを焼いていた。

 砂を運ぶ風は荒涼としていて、このまま放っておくと頬が風化してしまいそうだと、彼はどこか他人事のように感じていた。

 

「ディアブロス……この辺りにいると思ったんだが」

 

 高速飛行船から見えた、サボテン群。それも、比較的村に近い区域。

 この砂漠には、枯れかけた泉付近に小さな村が構えられていた。この辺りで獲れるものを狩猟採集して生計を立てているこの村は、貧しく、砂漠に生息する大型モンスターの脅威に晒されやすい。

 しかし都市部にとっては、砂漠地方の生産物も仕入れたいところ。この村は、そうした流通の前線基地として、ギルドからも重宝されているのだった。

 

「セレスって、もしかすると」

 

 この依頼を受けるきっかけとなった人物。

 「村が」とぼやいていた、月色の髪の少女、セレス。付近にある村を守ろうとしてディアブロスに挑み、返り討ちになった彼女は、もしかするとその村の出なのかもしれない。褐色の肌も、砂漠で生まれ育ったことを感じさせられる。

 アルフレッドはそんなことを思いながら、立ち上がった。

 

 サボテン群に、あらかじめ罠を仕込んでいた。

 大タル爆弾G。火薬と、カクサンデメキンを調合した彼お手製の爆弾だ。

 さらに落とし穴も仕掛け、準備は万端といったところなのだが──肝心の奴が現れない。

 ディアブロスは草食性であり、主食はサボテンだ。そのため、ここで張り込んでいれば、遭遇できる確率は大きく跳ね上がる。

 ──筈なのだが。

 

「……草食動物は朝と日暮れに食事をするらしいが、まさかディアブロスもそうなのか?」

 

 バルバレから飛び出して、数刻。陽は傾き始めてはいたが、まだまだ天高い位置にいる。

 夕暮れには程遠い。

 

「予測が外れたか……? 村の傍まで迫っていると思っていたが、まだここまでは来ていないのか」

 

 食事時ではないのか、それとも休眠中なのか。

 まだここまで来ていないのか。最悪、村まで突破されているか。

 いずれにせよ、待つには不都合が多過ぎる。

 そのため、アルフレッドが選択したのは──。

 

「おびき寄せる。これしかねぇよな」

 

 懐から、重く歪な砲弾を取り出した。

 金属に包まれたその薬莢は、通常の砲弾より太く、そして長い。

 それを、銃身を折り畳んで剥き出しにした、深い深い(うろ)へと押し込んだ。

 

「景気よく行ってやる。竜撃砲、装填!」

 

 高らかな声と共に、アルフレッドは銃槍を地面へと向けた。

 空圧レバーを強く引き、銃槍内部に空気を送り込む。

 内部で加圧された竜撃砲弾は、薬莢の尻に穴を空け、空気を大量に取り込んだ。内蔵された火竜の骨髄が、瞬時に燃え上がる。

 砲口には、加圧されたことによって熱量と燃料が臨界点を超え、青白い炎が浮かび上がった。

 震える銃身。反響するような異音が響き、蜃気楼のように砂漠の景色を歪ませる。

 

「来いよディアブロス! 俺はここにいるッ!」

 

 ズドン、と大地が揺れた。

 まるで火竜のブレスが着弾したかのような、腹の底に響く轟音。

 幻獣の(いなな)きのようなその震動は、砂漠を強く強く叩き鳴らすのだった。

 

 しばらくの静寂。

 それから数拍置いて、重低音が響き渡る。

 それは微かに、少しずつ、しかし確実に大きくなっていく。

 腹の底から──いや、地の底から、その音は響いている。

 

「……来たか」

 

 ハッチが開いて、放熱を開始するガンランス。

 それを折り畳み、背後のマグネットに接着させたアルフレッドは、ポーチから一つの砲丸のようなものを取り出した。

 重低音は、さらに大きくなる。

 それはいつの間にか振動を伴って、この砂漠の何もかもを(ふるい)にかけるように揺らし出した。

 

「そこだッ!」

 

 背後に振り向き、砲丸を投げる。

 直後に響き渡る、耳を(つんざ)くような音。破裂した"音響弾"が奏でる、断末魔。

 

 ドォン、と巨体が砂から顔を出した。

 太く重い二本角。

 甲冑の如き立派な重殻。

 巨岩を思わせる色に染めた、恐ろしい飛竜。

 角竜──ディアブロスが、そこにいた。

 

「へっ! 出やがったか!」

 

 跳躍し、そのまま銃槍を展開する。

 重い一閃が、太い角を穿つ──が。

 

「いっつぅ……! 固えッ!」

 

 痺れるような感触が、アルフレッドの腕と肩を打ち鳴らした。

 オルトリンデは、斬れ味に優れているわけではない。鈍重な角同士が鍔迫り合い、激しい火花を散らした。

 いや、火花ではない。まるで花火のような爆炎だ。

 

「オラァッ! 爆ぜろ!」

 

 そこから、連射。

 引き金を六回、立て続けに引く。その度に砲口からは爆炎が飛び出し、ディアブロスの角の付け根を激しく焼いた。

 瞬時に空になったシリンダーから、抜け殻になった砲弾を排出する。続いて、彼は背後に跳んで距離をとった。

 角竜は、起き上がる。憎々しげに黒い息を吐きながら、その首を(もた)げて天高く吠えるのだった。

 

「うるさ……ッ!」

 

 盾を構えても、問答無用に鼓膜を叩くその震動。

 あまりの音圧に、盾を構える右手が衝撃を受けている。

 それでも、アルフレッドは装填を続ける。計六発、新たな弾をシリンダーへと刺し込んだ。

 このオルトリンデは、通常型タイプのガンランスだ。

 ディアブロスは甲殻が堅く、物理攻撃は通りにくい。砲弾の衝撃が効果的なため、出し惜しみせず撃つ。数多の砲弾の連射、もしくはフルバーストを駆使して、奴の固い甲殻を打ち砕くために。

 そのために彼は、この武器を手にしたのだった。

 

「来るかッ!」

 

 突進の構えを取る角竜。

 太い脚で砂を掻き鳴らし、その巨体からはとても想像できない速さで走り出した。

 

「ハァッ!」

 

 掛け声とともに、アルフレッドは引き金と空圧レバーに手をかける。

 直後、砲撃の反動を利用して、彼は横に飛んだ。飛んで突進を躱し、空中でさらに軌道修正をする。背後に回した砲口で、今度は角竜に向けて肉迫した。

 叩き付け、からのフルバースト。これで、計十二発の砲弾を撃った。

 ディアブロスは相変わらず何も効いていないかのように、怯むことすらしなかった。ただ黒い息を吐いて、憎々しげに振り向いてくる。

 怒りのあまり、痛みを感じていないのかもしれない。

 

「尻尾……!」

 

 前方にスライディングし、迫り来る巨槌を躱す。

 角竜の攻撃はどれも重く、人間が盾で防げるものではない。アルフレッドのように体格に優れていようと、耐えられるものには限界がある。

 そのため彼は可能な限り盾は使わず、避けながら戦うのだった。

 防ぎやすいものといえば、例えば尾で跳ね上げた土砂の塊──などであろうか。

 

「甘いぜ!」

 

 盾で土砂を防ぎ、斬り上げる。

 目元を穿たれ、思わず仰け反るディアブロス。

 その隙を突くように、アルフレッドはリロードした。空になった薬莢が舞い、新たな弾が装填される。

 斬り上げの勢いのまま装填し、次に繰り出すのは──。

 

「お返しだッ! フルバースト!」

 

 渾身の叩き付け。

 巨大な角を豪快に叩き、その直後、シリンダーを猛回転させた。

 叩き付けた箇所に、込められた砲弾を全て撃ち放つ。一箇所に、ほぼ同時に着弾、そして炸裂をする衝撃はあまりにも大きいのだろう。

 その逞しい角に、一本の罅が走った。

 

「ち、弾がもうねぇか!」

 

 オルトリンデが、随分と軽くなった。予備弾倉に込められた残弾が、少なくなったことの証明だ。

 通常型は砲弾が比較的小さいため、予備弾倉に二十発ほどの砲弾を込められる。現時点で撃ち放ったのは十八発。最初にシリンダーに込めていた六発分を差し引くと、予備弾倉には八発だけ残っている計算になる。

 もう一度、フルバーストを放つことは可能だ。

 しかしアルフレッドは、一旦ポーチに携行した追加の砲弾を装填することにした。

 

「通常型は弾持ちも、斬れ味の摩耗も激しいのが辛いね……!」

 

 穂先に付着した煤も多い。

 あれだけ連射しているのだから、それも当然のこと。彼はポーチから砲弾と、砥石を手繰(たぐ)り寄せるのだった。

 ディアブロスは、怒り心頭で突進を続ける。

 納刀して、走って躱すアルフレッド。

 装填をする隙は、簡単に与えてくれそうにない。

 

「こいつを喰らいな!」

 

 放ったのは、先ほど投げた砲丸とよく似たもの。

 しかしこちらは、炸裂と同時に眩い光を解き放つ。あまりの光に、ディアブロスは視界を失った。狩人の頼れる相棒、閃光玉だ。

 半狂乱になって暴れ狂う飛竜。その傍らで、予備弾倉を開いて再装填をする狩人。

 

「今回の狩りは赤字かもしれねぇや……。でも、そうは言ってられねぇわな」

 

 奴が視界を取り戻すまで、まだ十数秒ある。

 慣れた手付きで、装填を終えた。

 アルフレッドは落ち着いて、砥石で穂先の煤を削って落とすのだった。

 穂先は十分に赤熱化している。砲撃の余熱で刀身が温まり、より斬れ味を鋭くしていた。

 この余熱は、砲撃にも良い圧を掛けてくれそうだ。

 彼はそう実感し、口角を上げる。

 

「さぁ、仕切り直しだディアブロス! 来い!」

 

 視界を取り戻したディアブロスは、まさに鬼神の如き怒りを体中から立ち昇らせていた。

 首を低く構え、目の前の敵を蹴散らさんと再び突進を繰り出してくる。

 それを前にした彼は、冷静に納刀し、走り出すのだった。

 

 角竜の唸り声は、太く重い。

 相手が武器をしまおうと、戦意が無くなろうと、おかまいなしに攻撃を続ける。それはきっと、相手が動かなくなるまで終わらないだろう。

 だが、アルフレッドは、その猛進を無理矢理止めた。

 

「へっ……落とし穴、効いただろ?」

 

 体が宙を舞い、かと思えば砂とネットに絡め取られる。

 視界が突然反転し、ディアブロスは悲鳴を上げるのだった。

 あらかじめ仕込まれていた落とし穴。

 ただ走って、角竜の進行方向を落とし穴と合わせただけ。人間の狡猾な罠に、角竜はまんまと嵌ってしまっていた。

 そしてそこには、砂漠の日差しを浴びて重々しく存在を主張する二つのタルがある。

 

「派手に行くぜ! 竜撃砲装填!」

 

 折り畳んだガンランスに竜撃砲弾を注ぎ込み、展開しながら抜刀。

 排熱ハッチはすでに閉まっていた。本体の排熱が完了している証だ。

 盾を構え、空圧レバーを解放。大量の空気が送り込まれ、竜撃砲弾内部の火竜の骨髄が発火する。それが風に送られて砲口へと進むのと同時に、砲口では空圧レバーによって絞りが生じる。

 それが青白い光となって、砲口から溢れ出すのだった。

 

「吹っ飛べッ!」

 

 轟音。

 衝撃が連鎖的に続き、まるでこの大地を稲妻が穿ったような音と衝撃が走り抜けた。

 竜撃砲の火炎は、熱に強い角竜の重殻を容赦なく燃やす。

 それと同時に、二つの大タル爆弾Gも炸裂する。あまりある衝撃は角竜の骨を数本砕き、角に走っていた罅をさらに深く刻み込むのだった。

 そして、アルフレッドは。

 

「いッ……~~~つぅ~~ッッ!」

 

 爆風に吹き飛ばされ、宙を舞っていた。

 盾を構えたものの、とても耐えられる衝撃ではなかったようだ。苦渋の思いを表情に浮かばせ、痛みに悶えている。

 それでも、その表情は確かな手応えを感じているようだった。

 

 黄金の砂が、豪雨のように降り注ぐ。

 爆風で巻き上げられた砂だった。

 その砂に覆われて、ディアブロスの姿は見えなくなる。砂の雨に突っ込むことは避け、アルフレッドは二度、地面に向けて砲撃しては落下速度を押し殺しつつ着地するのだった。

 

「さて、どうだ……?」

 

 痺れる右手を押さえながら、彼は砂の雨が収まるのを待つ。

 待った先に、ディアブロスの姿は────なかった。

 

「なっ……」

 

 直後、地の底から重低音が響く。

 大地が、怒りを表しているかのように揺れ動く。

 

「下ッ……!」

 

 痛む右手に鞭を打ち、下に向けて盾を突き出すものの──。

 

「がっ……!」

 

 防ぎきれず、軽々と吹き飛ばされた。盾が、音を立てて割れる。

 巨躯といえど、あくまでも人間。ディアブロスにとっては、小動物だ。

 それでも彼は立ち上がる。砂の上を転がされようとも、瞬時に体勢を立て直した。

 見れば、額や腕から血を零れさせ、防具の付け根が赤く染まっている。大きな怪我を負ったのは明らかだった。

 

 ディアブロスは、吠える。

 全身が焼け爛れ、黒く紅く染まっている。

 相当のダメージを負っているのだろう。その足取りはやや不安定で、ともすればすぐにでも倒れ込みそうだった。

 それでも彼は、天高く吠え続けるのだった。

 

 盾を手放してしまったアルフレッドに、轟音と衝撃を防ぐ手はない。痛む両手で耳を塞ぐしか、彼はする他なかった。

 

「……ッッ!!」

 

 ディアブロスは、走り出す。

 耳を押さえる小さな狩人に向けて、その双角を振りかざす。

 咆哮の衝撃からまだ脱せていないアルフレッドを、大地へと打ち付けた。

 

 鮮血が舞う。

 潰れたように、体中から血飛沫が舞った。

 ところどころ防具が剥がれ、もはや彼を守る役目も果たせそうにない。

 彼の右手は、あらぬ方向へ曲がっていた。

 

「ぐあ……ッ!」

 

 肺が腫れ上がる。

 呼吸する度に、かろうじて残った胸の装甲が肺を締め付ける。

 アルフレッドは荒い息で酸素を求め、そのお返しのように血反吐を溢すのだった。

 一方のディアブロスは、ようやく歩かなくなった獲物を見ては満足そうに唸り声を上げた。

 そのまま、ゆっくりと近付いてくる。

 

「このやろ……う、こいつ、咆哮を……分かってやがる、のか」

 

 咆哮を上げれば、相手は身を竦ませる。

 その隙を狙えば、確実に轢き潰せる。

 自らの技の特徴を理解している、極めて手練(てだれ)な個体と言えるだろう。

 

「お前さんも、これでやられたのか……」

 

 ここまで強力な個体は、見たことがない。

 きっとセレスも、この技にやられたのだろう。

 アルフレッドはそう考えつつ、首にぶら下げていた小袋に手を伸ばした。右腕は、動かない。残った左手で、小袋の中身を摘まみ上げた。

 ケルビの角を利用した、強烈な秘薬。強い強心作用と鎮痛効果、細胞活性力をもたらすそれを、ハンターズギルドは『いにしえの秘薬』と呼んでいる。

 あまりにも効果が高く、同時に身体的に強い負担を強いるため、一度の狩猟につき一個しか持ち込めないという、まさに劇薬だ。

 なかには、狩猟区で素材を集めて自力で調合してしまうものもいるが、その多くは身体的な理由で早く退職することを、アルフレッドは知っていた。

 できるならば飲みたくない。

 だが、飲まなければこのまま狩られてしまう。

 彼は葛藤しながらも、その黒い丸薬を口にするのだった。

 がりっと噛んで、一気に呑み込む。

 どくんと、体が跳ね上がった。

 

「ぐあッ……!」

 

 心臓が強く鼓動を開始する。

 体中の筋肉が、彼の意思と関係なく震え始める。

 腹の底から強い痛みが全身を駆け巡り、かと思えば途端に体が軽くなった。

 この強い強心作用は、一歩間違えれば心臓の鼓動も止めかねない。そのためギルドでは、回復薬を飲んで一度体の回復力を高めた後に、この丸薬を摂取することを強く推奨している。

 しかしアルフレッドは、自身に賭けたのだった。

 

「はぁ、はぁ……てめぇなんかに──」

 

 見上げる先に、ディアブロス。

 虫の息の獲物へと、その角を振りかざす悪魔。

 

「てめぇなんかに、やられてたまるかッ!!」

 

 その頭に向けて、彼は左手を振り上げた。

 レバーに掛けた中指に、必要以上の力がこもる。

 結果、彼のガンランスは、圧を掛け過ぎた砲弾を解き放つのだった。

 

 至近距離で生まれた爆風に、思わず悲鳴を上げるディアブロス。

 アルフレッドは、爆風に押されるように転がって、そのまま立ち上がった。

 全身からは血が滴っている。だがそれは、ディアブロスも同じ。お互い、満身創痍だった。

 

「ここまで追い込まれるとはなッ……。今までで一番強ぇこいつ……!」

 

 竜撃砲弾は、残り二個。彼の腰を飾るベリオZフォールドの内側に備えられた、その片割れを手にとっては──排熱がまだ終わっていないオルトリンデに装填する。

 アルフレッドは、その銃槍を高く掲げるのだった。

 

「俺も、死力を尽くすぜ……ッ!」

 

 不自由な右手は全て無視。

 盾を拾うこともなく、ただ残った左腕で銃槍を掲げる。

 穂先からは青白い光が溢れ、刀身が赤く染まっていった。排熱ハッチからは炎が溢れ、いよいよオルトリンデが爆散しそうになる────。

 その寸前で、彼は空圧レバーを閉じた。溢れだしそうな竜撃砲の炎が、砲身の中に留まっている。まるで火竜のブレスを内包したような、銃槍そのものが"炉"と化してしまったようなその様相。

 あまりの熱量に怯んだディアブロスの目元を、彼は容赦なく穿つのだった。

 

「まだまだァッ!」

 

 続けざまに、刺突。

 炎の軌跡を残すその連撃に、ディアブロスは悲鳴を上げた。重殻が熱に溶け、埋もれた血肉が掘り返される。焼ける肉の臭いが、砂漠の空気を塗り替えた。

 アルフレッドは、竜撃砲弾の熱をガンランス内に閉じ込めたのだ。砲口を絞ることで、溢れ出しそうな炎を留め、破裂寸前に絞りを緩める。そうして留まった熱を、斬撃と砲撃に昇華させる技。

 ──銃槍技師会では、『竜の息吹』と呼ばれている。

 まさしく、火竜のブレスを斬撃に変えたような、凄まじい威力を誇るのだった。

 

「オオオオォォォォォッッ!」

 

 渾身の、叩き付け。

 熱によって重殻は溶け、恐ろしい勢いで角竜の内部へと穂先が埋まっていく。

 

「倒れろ……ッ!!」

 

 装填された分の砲弾を、一度に放つ。フルバーストが、角竜の血肉を吹き飛ばした。右肩の重殻が吹き飛び、鮮血と肉の塊がぼとぼとと砂を紅蓮に彩っていく。

 炉と化した砲内部は、放つ砲炎をさらに強めていた。ディアブロスの甲殻を易々と砕く、地獄の業火そのものだ。

 もちろん、彼も黙ってはいない。その全身を使って、自らも生に必死にしがみ付いている。

 振り払うように放った尾は、あっけないほど簡単に大男を弾き飛ばした。

 

「……ッッ!!」

 

 血反吐を吐いて、のた打ち回る。

 あばらが数本折れたらしく、アルフレッドは肺に溜まった空気を吐き出せずにいた。代わりのように、黒い血潮を全身から零れさす。

 彼ももう、限界寸前だった。ディアブロスの尾を避ける力も、残っていなかったのだ。

 

 ディアブロスは、肉や骨を剥き出しにしながら、それでも角を構えた。

 自分にはこれしかない、とでも言うように走り出す。

 自身の力の象徴、突進を繰り出すのだった。

 その足取りは重く、不安定で、もはや走っているとは言えないほど崩れている。

 速度も随分と遅く、人の足でも走って逃げ切れそうなほど。

 しかしアルフレッドは、もう走ることもできない。避けることも、叶わないのだ。

 

「……はぁ、はぁ……あ……」

 

 オルトリンデの排熱ハッチが、閉まる。

 銃槍内に溜まった炎は燻り、竜の息吹が収まったようだった。

 銃槍内部は黒く焦げ、穂先も随分と煤に塗れていた。熱源を失って、刀身も急速に冷却が進む。もはや、角竜の重殻を焼き斬ることも不可能である。

 ──だが。

 彼には、彼の腰には、もう一つだけ。

 

「俺が死ぬか、お前が死ぬか──」

 

 残ったそれを、彼はガンランスの中に押し込んだ。

 

「──賭けといこうぜ」

 

 正真正銘、最後の竜撃砲弾。

 正真正銘、最後の装填(ラストリロード)

 

 迫り来る二本の重槍へと、アルフレッドは銃槍を向けるのだった。

 引き金に掛ける、力ない指。全身の傷はもちろん、いにしえの秘薬の反動が彼を蝕んでいた。

 それでも、銃槍は握り続ける。

 それでも、角竜を睨み続ける。

 自らが生き残る可能性に、例えそれが砂漠から砂金を掴むような確率であったとしても、彼は賭けるのだから。

 

 揺れる大地。

 舞い上がる砂。

 零れ落ちる血潮。

 火薬が、骨髄の脈動が、この砂漠を覆い尽くす。

 二本の重槍がアルフレッドを貫く前に、銃槍はその息吹を解き放つのだった。

 

 爆炎、轟音。

 太い何かが折れる音。

 ディアブロスが、吠える。

 仰け反るように吠える角竜から、細かな破片が零れ落ちた。

 巨大な左角が、零れ落ちた。

 

「──っでッ!」

 

 砲撃の反動で、背後に転がったアルフレッド。

 当然だ。反動を押し殺す脚力も、彼には残っていなかった。しかしそれが功を奏し、彼を猛き角から遠ざけたのだった。

 同時に放たれた爆炎が、とうとうディアブロスの角を折った。

 彼の力の象徴を、()し折ったのだ。

 

 ディアブロスは、もの悲しそうに呻き声を上げる。

 ここからさらに逆上する力は、既に残っていなかった。

 ただ縄張り争いに負けた弱者のように、怯えながら背を向ける。足を引きずって、逃げるように歩き出したのだった。

 

「……ち……どんだけタフなんだよ……」

 

 身を起こしかけていたアルフレッドだったが、その膝が静かに、地に墜ちる。

 今にも死にそうな様子で逃げるディアブロスを見ながら、彼は小さく笑うのだった。

 

「も、限界だ……一歩も動け、ねぇや……」

 

 そのまま、倒れ込む。

 意識を繋ぎ止めていた最後の糸が、とうとう切れた。

 

 角竜の撃退には、成功した。

 が、討伐とはならなかった。

 その事実にアルフレッドは歯を食い縛ろうとするものの、食い縛る力も残っておらず、ただ乾いた笑みを浮かべるのだった。

 

 




ディアブロスは、撃退で終わりました。
でも、相当な手傷を負わせたんだ。きっと、そのままくたばっちまってるだろう!

今回は、竜の息吹を書きたかったのであります。絶対ガンランスの寿命を縮める、加工屋からの拳骨待ったなしの技。でもやっぱり、あの限界を超えた感じがとてもかっこいいですよね。ヒートゲージの最大値固定と、砲撃の強化。本作品ではディアブロスの甲殻も焼き斬るほどになりました。ここまでくると、Fのヒートブレードみすらありますね。そして、そのまま強化版フルバースト、恐ろしい。今回は特に戦闘描写にこだわりました。どうだったでしょう…?感想いただけたらとても嬉しいです。
ガンランスの狩技はどれもかっこよくて堪りませんね。ストライカースタイルは是非とも狩技四つ装備できるようにアプデしてほしい。覇山からAAフレアまで全部積むから。
「何が始まるんです?」
「第二次竜大戦だ」
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