対決から数日が経過。防衛隊(仮)はガーデンの管理下ではあるが新たな一歩を踏み出した事で早々に任務が追加される
説明の為に隊の面々は会議室に呼び出され、各々が設置されている椅子に着席
集められた面々の他に教導官の一乙がおり今回は彼女がこの場を取り仕切る
「普段の任務と並行して‥守備範囲外の情報収集ですか!?」
「はい」
設置されたスクリーンに画像が映し出されると同時に告げられる任務。
それは平時の防衛任務と並行し教導官に同行する形ではあるが守備範囲外の情報収集の役目が追加されるという。
ネスト出現の反省も踏まえ今後は荻窪の警備を強化していく事に加えての仕事だ
増えた任務を他校や軍の支援を受けず神庭単独で行う。当然だが防衛隊の負担だって今まで以上に増える事になる
「(早速来たか‥)」
話を聞かされ、隊の面々が動揺する中で海漓だけは冷静に表示される情報を目に映し続ける
「えー?それってグランエプレの担当じゃないんですか?
守備範囲外なら外征ですよね?」
穂が真っ先に声を上げるが彼女に限らず海漓以外の防衛隊の面々は似たような思いを抱く。自分達に与えられた役目は荻窪を守る事。それが結成の主な理由であり守備範囲外への出撃は外征。それはグランエプレが担うはずなのだから
「その通り。ずっと守備範囲外のままなら、ですけどね」
そんな事は防衛隊の編成にも関わったガーデン側も十分に理解しており彼女の言うように守備範囲外の話ならばグランエプレに言い渡している
「え?」
「つまり、守備範囲になるなら私達が駆け付けなければいけない場所‥と言うことですか?」
最上級生の玲奈が真っ先に反応した形ではあるが生え抜きの大半も言葉の意味を直ぐに汲み取る。
偵察に向かった地域が神庭の新たな守備範囲となるならば、有事の際は防衛隊に限らず神庭のリリィが真っ先に駆けつける必要が出るという事
「正解です。玲奈さんに限らず皆さんしっかり勉強していますね」
「待って下さい。それって決まりなんですか?
最近の功績諸々から神庭の守備範囲が追加されるかもって色んな所で噂になってましたが」
「はい。荻窪に加えてその近隣、そこから杉並区、次は他区へと段階的に引き上げていく案が出ています」
彼女の言い方から防衛隊が偵察に向かう地域が新たに追加される守備範囲になる事は規定路線だという確信を持つ
しかし、それはあくまでも噂の段階。結弦を筆頭に耳にする者は多いがあくまでも噂の範疇にとどまっている
この動きは決まる前に偵察の名目で下見をさせ、直接感じてもらおうというガーデンからの配慮なのだ
「何か質問のある方はいますか?」
「ガーデン側はなんて答えたんです?
近隣地域や杉並区はともかく杉並区外の防衛は飛躍しすぎじゃないですか?」
海漓が真っ先に尋ねる。確かにネスト討伐は偉業であり彼女の場合、今後起こりうる事も紗凪から警告されていたしその予感もあった。
荻窪近隣や杉並区全域は予想していたが杉並区以外の地域の防衛は幾らなんでも飛躍している。
「流石海漓さん。良い所に気が付きました
後者2つに関しては明確な了承をしてません‥では納得しませんね
防衛出来る体制が十分に整ったと判断したら引き受けると回答しています」
実の所を言うと要請に対しガーデン側は態度を明確にしていない。
神庭の実情、リリィの練度を考えるなら安易な回答は出せない。
体制が整えば引き受けるという曖昧な回答をするしか無いのだ。
「(最大の抵抗か‥何処まで耐えられるか‥)」
海漓が思うにこれが神庭の出来る最大限の抵抗。ガーデンとして明確に拒否は出来ないが安易に引き受ける事も出来ない。
出来るのは時間を稼ぎ、その間に必要な体制を整える事
しかし、これにも懸念はある
「あのー少し良いですか?」
「はい、なんでしょう」
「これって、この間のネスト討伐を踏まえてって言ったじゃないですか
グランエプレが外征で戦果を出し続けたら私達の負担がもっと増えたり、早く答えろって急かされたりしません?」
春音の言うことが最大の懸念、守備範囲の拡大はネスト討伐を踏まえての判断と提案。しかしヒュージとの戦いは続き外征も行なわれる
今後もグランエプレが外征で莫大な戦果を上げ続ければ当然世間からの期待は高まり守備範囲のさらなる拡大やガーデン側への早期回答の圧力、要請が出る事だってある
「あくまでも判断は此方に委ねられているので直ぐにとはなりませんが‥戦果を上げる度に機運が高まる事はあるでしょうね」
現時点ではこの程度の回答しか出来ない。ガーデンに主導権が与えられているが戦果の積み重ねにより早期回答を求められる事に加え神庭内で守備範囲拡大の機運が高まる可能性だってある。そして内外からの声が高まればガーデンとしても動かざるを得なくなる
何より神庭は自主制を尊重するガーデン、現場に出て戦うリリィが望むのならば動かざるを得ない。
「嘘?本当に?え?そんな事ある?」
「有りますよ。じゃなきゃ守備範囲拡大の話なんて出てきません」
冗談、少し話を盛ったつもりが可能性の一つとしてある事に春音本人が驚いてしまう
「守りよりも攻めの方が目立ちますし露出や周囲からの期待が増えますからね
強いガーデンとしての扱いだって増えると思いますよ」
その理由は余りにも単純。現れたヒュージを迎え撃つよりも、大きな戦いに参戦したり、今回のようにネストに攻め込み武勲を上げた方が世間的にも注目され、ガーデンへの期待も高まる
基本的に守備レギオンは倒して当たり前という見方をされる。
注目度合いは外征に比べると格段に劣ってしまう
「海漓さんはどう思いますか?
隊を率いる隊長として、そして非常時には限定的な権限持つ者としての見解を」
「隊だけならば訓練や情報収集を行い対応出来るようにしなければならないでしょう。
神庭としては急すぎて皆が対応しきれるかどうか‥出撃選択制もありますしリリィの派遣や現場での配置も結局はソコに依存しますから
私への人望や信頼だって高くは無いでしょうし」
どう思うか、と言われても回答に悩んでしまう。防衛隊としては日々の活動の中で対応出来るように備えればどうにかなるかもしれない。
しかし、神庭として尋ねられると非常に悩む。権限があるといえど神庭の根本である出撃選択制の是非に口を出す事は出来ないため、出撃したリリィで対応するしかない。
拒否した者に対して防衛隊が圧力をかけ無理矢理出そうものならば大問題
ネストの一件で分かるように海漓の言葉に応える者も多いわけでなくこの間の戦いで更に減った可能性だってあるのだ
「あー、そっか‥幾ら私達やガーデンが出てくれってなっても拒否されたらそれでおしまいか
荻窪だけなら何とでもなるけど‥外にも出るなら‥」
「キッツいよね、勿論、応えてくれる子も居るけど‥
私達も連戦とか分散が増えるよね」
今まで通りならば例え拒否されたとしても防衛隊全員と協力者で充分に賄えるが、今後は違う
出現した箇所が離れていれば荻窪を守る人員に加え該当地域への出撃、場合によっては地域を跨いでの連戦など様々な事態を想定しなければならない。
「万が一の事を考えて従来通り他校からの増援だって必要です。
その筆頭は管轄してるルドビコなんですけど‥これはかなり厳しいですよね」
全てを神庭が行うなど無理、そうなると 東京独自のルールに則り都内のガーデンに増援を行って貰う必要がある
その筆頭になるのは杉並区を含め自分達の守備範囲を管轄しているルドビコ女学院。しかし今後は厳しくなると海漓は考えている
「厳しい?どうして?」
「ネスト絡みで言うなら頼み込んだ相模に塩対応して、勝手に御台場と合同で討伐したんだよ
そんな事するなら御台場と組めって思われても文句は言えないよ‥」
何故厳しいのか、寧々はよく理解できない故に海漓に尋ねるが理由は簡単だ。守備範囲の拡大がネスト討伐に起因する以上、自分達の行動がどう思われ、周りからどう映ったのか。それは知っておかなければならない
ルドビコ女学院としては様々な理由や神庭への考慮を踏まえ相模女子を派遣するも神庭の長である秋日は塩対応。
「(相模は校風の違いでごまかせるけど‥御台場絡みは不味いよなぁ‥ルドビコだけじゃなくて風紀委員も裏切ってるわけだし)」
そして一番の問題は御台場女学校と手を組みネストに攻め込んだ事、何なら発覚直前の叶星と高嶺の派遣も入れたっていい
船田予備隊の絆だ奇跡だと言われているが少し見方を変えれば【神庭はルドビコ女学院ではなく御台場と戦う事を選んだ】と見られてもおかしくはないし【そんな事するなら今後は御台場に頼め】となったって文句は言えない
「それは考えすぎじゃない?って言いたいけど‥ルド女ならあり得るかも」
「あぁ、東京を守る事への誇りや覚悟を持っている‥ガーデンが崩壊したと言えど守りながら復興してみせると意気込んでいた筈だ」
最上級生の春音と玲奈は海漓以上に分かっている事、彼女達に限らず東京で過ごした者ならば誰もが理解できる事だ。
この辺りに関しては海漓よりも詳しい
「本当は駆けつけたいって思ってたけど、出来なくて
それでも決戦には間に合わそうとしてたのに私達が裏で御台場と手を組んでたらいい顔しないよね
私達や上の代は冗談抜きに神庭を助ける為に戦って傷ついたり命を落としたリリィも居たから‥」
勿論、相手にも事情があるがそれでも出来る限りの事は行い、予定していた決戦には戦力を派遣できるように手筈を整えていた筈だ。だが現実は違う
ルドビコ女学院からすれば不義理と思われたって仕方がない。春音達の世代や上の世代では死傷者が出たとの言葉が全てだ
「(表立ってぶっ叩いて来ないのはネスト討伐で危機が去ったから
でも向こうは向こうで火種にはなってそうなんだよな‥)」
それでも表立って非難や抗議をしないのは危機が去る事で都内が守られたから。終わり良ければ全て良し。だとしても今回の行為は良くは思われていないだろう。
何より春音が言ったように神庭を守る為に戦い傷ついたリリィを慕う者がいた場合はより厄介な事になる。現役、卒業生だろうがそれは変わらない
「先生、その辺りの事って分からないんですか?」
「ガーデンの内情までは分からないですね。私にも多少のツテは有りますが戦うリリィ全員の考えまで知る事はとても(教導官の間でもこの話はでてますし)」
「そもそも新参者の私達って受け入れてくれるの?今から混ぜてもらうのも‥なんか気が引けるし‥私達単独?」
楊美の言うようにこの防衛隊は結成されて日の浅い新参者。春先ならばともかく半年以上は経過した中で新たに同盟を組もうにも相手が居ない
既に共闘、同盟関係が出来上がっており日の浅い防衛隊を混ぜる事は回避するだろう。実力が未知数で目立った実績も無い。そんなレギオンと同盟を結ぶなど相手側からしたら迷惑にしかならない
「最悪の場合はそうなりますね、来てくれればラッキー程度にとどめておかなきゃ駄目かなと」
「うっわぁ、マジか」
来てくれればラッキー。基本的には自分達でこなさなければならない。東京では薄い考えかもしれないが、鎌倉を筆頭に都外では当たり前の考え方だ
だからこそ、厳しいと海漓は言ったのだ
「早速明日から本格的な活動を行って貰いますので本日は緊急事態以外での出撃を伴う活動は行わないで下さい
私達と共に該当地域への偵察と関係者への挨拶回りが主な内容となりますがヒュージが出撃すれば当然対応と成りますので、皆さん準備の程よろしくお願いします」
まだまだ未知数な事も多い。それでもやらなければならないのだ。話をしようにも日が暮れて外も暗くなっている
一乙の言い分から今日は解散、任務も免除と言うことがわかるためそのままお開きとなり各々、移動を開始するが、
「そうだ、海漓さんは私と来てください。お話が有ります」
「分かりました」
2人で廊下を歩き目的の部屋へと向かう最中、校内の動きが慌ただしくなり何事かと思っていると2の元に一人の教導官が駆け足で近寄ってくる
「都内に特型ギガント級が複数体が出現ですか‥しかも過去に倒した個体と同じ」
「はい。荻野に現れた個体はグランエプレが対応するそうですが‥彼女達への増援も必要かと」
その言葉に対し、顎の下に手を当て何かを考える仕草をする一乙。
数秒考えた後に返答をする
「必要有りません。彼女達に任せて下さい」
「えっ!?相手は特型ギガント級ですよ!?」
増援の必要は無いと断言する。
伝えられた方針に驚きを隠せない中で言葉を続ける。
「問題有りません。今後を考えるのならば以前倒した個体程度は単独で倒して貰わなければ困ります」
未知の個体であるならばともかく、今回出現したのは撃破した事がある個体であるメイルストロムなのだ。グランエプレは倒す手段を持っているのだ。
一乙達に直接話したわけではないが目指している事を考えるならば特型ギガント級を単独で倒す位の事は求めても問題にはならないのだ
「叶星さんや秋日さんが増援を求めた訳ではないのでしょう?
ならば此方から下手に手を出す必要だってありません」
現場から頼まれたのならば応えなければならないがそれも違う。下手に手を出せば両レギオンでの衝突も起こりうる。それが原因で現場を混乱させるような事を行う必要はどこにもないのだ
「わ、分かりました」
ここまで言われてしまえば対峙する教導官も何も言えず一乙達の元から去っていく。
やり取りを終え、廊下を歩き続けると目的の場所へと辿り着く
そこは俗に言う生徒指導室と呼ばれる部屋。用が無ければ訪れる事の無い場所だ
案内されるがままに部屋に入り用意された椅子に腰を降ろす
「会議の後にまた呼び出してしまってごめんなさい。」
「いえ。それにしても随分とバッサリ言いましたね」
「そうですか?強くなったのなら、相応の扱いをするだけですよ」
一乙からすれば何も理不尽な事は言っていない。ネストを討ち、強豪レギオンとの共闘を想定するレギオンならばギガント級位は自分達だけで対応し、撃破する事を求めただけ
「格付けAAAを獲得した以上は高いレベルを求めなければ失礼ですからね」
「‥AAA?グランエプレが?
早くないです?」
その言葉を理解出来ない海漓ではない。レギオンには格が与えられ高ければ高い程強力なレギオンとなる
隊としての強さ、所属するリリィのスペックなど評価は多岐に渡る
そしてAAAと言うのは9人丁度のレギオンとしては最高評価としての扱い。
グランエプレが与えられるには早いと思うのは当然。再編成され、活動を開始した時期は防衛隊と大差ないからだ
「私達もその点を指摘したのですが、所属するリリィのスペックや実績も加味した上での判断との回答が‥」
そんな状態で高評価は不可解。そこに至る根拠を教えてほしいとガーデン側から問い合わせるのは当たり前。
それに対する回答はネスト討伐に加え所属している9名の実績や能力の高さを加味。再編成し日が浅くとも所属するリリィ個人の素晴らしい能力と実績を備えた事への評価が加わり早々に高い評価に至ったのだ
「確かにグランエプレは凄いリリィの集まりですからね。
所属していた私もよく分かっていますよ」
実情を抜きにグランエプレに所属している全員が破格の力を持っている
それは所属し、目の当たりにした海漓も充分に分かっているしその差を存分に分からされた。
自分には才能が無い事を改めて実感させられたのだ
「(つか私居たら格下げられてたかもしれないし‥移籍して良かった〜。過去やスペックまで判断材料にされたら太刀打ち出来ないし周りから何言われるか‥考えたくないなぁ)」
同時に思うのは高い格付けは彼女達だったから成し遂げられた事であり才能の無い海漓が残っていたら格付けが低かった可能性が十分にある
過去の実績や個人の才能を持ち出されたら海漓は間違い無く足枷となり彼女達を慕う者や世間から何を言われるか、考えたくもない
結果的に海漓がグランエプレを抜けたのは大正解。生徒会や教導官の慧眼だと考える
「呼び出した理由を忘れる所でした‥えーっと確か‥あっ、ありました」
そんな彼女の考えを他所に一乙は室内に置かれたロッカーの扉を開き何かを探すような動きをする。
そうしている内に2枚の封筒を見つけるとそれを海漓に渡す
「ネスト討伐戦。その後の模擬戦の総評です」
「えっ、あっ、はい。 」
2枚の封筒の中身は綴じられた書類
一冊はネスト討伐戦。及びそこに至るまでの評価。隊全体、及び隊長としての海漓の働きに対する事が書かれ、もう一冊は変則タッグマッチに対する物だ
「部屋に戻ってしっかりと読んでください」
大人の前で読むよりも自室に帰ってしっかりと時間を掛けて読んでほしいと伝える。
ちなみにこの総評は防衛隊(仮)に所属する全員に配られている者でそれぞれ内容も異なっている
「ですが、これだけは文面だけでなく言葉で伝えないといけませんね
隊としても、隊長として、海漓さん個人としてよく頑張りました」
「ありがとうございます。」
だが文章だけでは伝わらない事もある
全員が頑張ったのは間違いない。その中でも一番頑張ったのは海漓であると一乙を筆頭に多くの教導官は考えている。
「さぁ、明日も任務があります
今日はもう休んで」
長々と話をしても身にはいらない
今日は休み明日に備えるように伝え部屋をでる
その途中、校内が騒がしくその内容は海漓の耳にも入る
「(ギガント級が逃走‥ねぇ)」
出現したギガント級が逃走。グランエプレは帰投し防衛軍が中心となり捜索を行っているという
任務の他に厄介な案件が増えた
部屋に戻りながらそんな事を思うのだった。