手を離した後に簡易的な陣形を築き前へと進む3人を追うかたちになる海漓と庵珠
先行する彼女達と同様にまだ健在な屋上や荒れた道路を足場に一歩一歩と確実に前へと進む
「何事もなく終わるわけないか」
「時間かけすぎたわね」
彼女達の行方を阻むように立ち塞がる数体のスモール級。
先程までの話し合いの最中に出撃したのだろう。
「今は相手してる余裕ないの無視、無視!!」
普段ならば蹴散らしていくが今回は違う。海漓は跳躍し屋上に移動。屋根の間を飛び移りながらギガント級の元へと向かう
海漓と庵珠には前進の他にもう一つ。特殊弾の使用及びマギスフィアを受け取り前衛の3人へと繋ぐ使命がある
ちなみに屋上に飛び移ったのは海漓のみ。庵珠は地上を駆け抜けて移動する。
「庵珠ちゃんもとりあえず上に上がって。電柱でも屋根でも良いから」
「わ、わかったわ」
「さて、と」
庵珠も跳躍し付近の住宅の屋根へと上がる。幸いな事に地上を闊歩するヒュージに跳躍能力は無く間抜け面を晒し自分達を見上げるだけ
「先ずは一発」
トリグラフの親機に弾丸を装填、銃口を正面ではなく庵珠の居る建物の屋上へと構えるのそのまま引き金を引くと生み出されたマギスフィアは一直線に庵珠の胸元へと向かっていく
「ほら、庵珠ちゃんぼさっとしない」
「わ、わかってるわよ」
マギスフィアを受け取った庵珠は速やかに屋根を伝いながら前へと進み、祥枝達の元へと向かう
本来ならば海漓も後を追わなければならないが、その前にやる事がある
「(まぁ、無視するつもりは無いけど庵珠ちゃんまで巻き込むのはね)」
無視なんて言ったがアレは半分嘘。無視するつもりなど無い
それは地上に闊歩しているスモール級の群れの掃討
本来ならば無視して移動するべきだが万が一、群れが自分達を追撃した場合ギガント級とスモール級に挟まれる形になり、追わなかった場合は魔弾の射手の準備を行なっている仲間達の元に向かう形となり止めの一撃を放てない可能性が出る
庵珠を巻き込まなかったのは戦力を割きたくなかったから。
「(速攻で蹴散らして、庵珠ちゃんたちに追いついて指示を出す‥キッツイな)」
ヒュージを蹴散らした後に庵珠達に追いつき止めの一撃を放つタイミングを見計らい指示を行う
海漓の実力を持ってしても相当難しいがやるしかない。出来なければ荻窪が堕ちるのだから
「皆行きますよ!!!」
「「はい!!!」」
トリグラフを構え、ヒュージに向かっていく。その最中聞こえてくるのはリリィの声と同時に響く銃声
「ルドビコのリリィ!?」
そこに現れたのは神庭のリリィではない。御三家の一角であるルドビコ女学院のリリィ。数は7人。一レギオンと考えると数が少ない
「ここは私達が、貴方はあのギガント級を!!」
「はい!」
そんな事は気にするな、前に進めと彼女達を率いるリリィが屋上に上がり目の前に立つと同時に海漓に告げる。向こうは御三家、その実力は担保されている。
ならば、と前に進もうとしたその時だ
「あ、後一つ」
「なんでしょう?」
「私達が来たことは内緒と言うことで‥今は御台場や百合ヶ丘側と友好を深めている最中なのでしょう?」
彼女は自ら唇に人差し指を当て、ウィンクし秘密だぞと言うアピールをする。
自分達が来たことは黙っていて欲しい。それも今の神庭の状況を案じての事。神庭の友好関係や狙いは海漓が考える以上に共通の認識になりつつあるのかもしれない
「‥申し訳ないです」
「いえいえ、都内の安定が第一です。
それに、御三家の使命、リリィとしての使命を果たさなくてはこの制服を着ている意味がありませんから」
海漓としては申し訳ないの一言だ。彼女は生徒会ではないがそれでも派閥の枠組みで増援を躊躇ったり助けに来たガーデンやリリィを秘密にするような扱いをしなければならないし事に罪悪感を覚える
たが気にする事は無い。未曽有の危機を乗り越え都内を守る事が第一だと言わんばかりの反応を見せる
特に御三家とは本来ばこういう時の為に存在するのだ。その中でもルドビコ女学院は別格。にも関わらず学び舎を落とし代々受け継がれてきた使命を遂行できなくなった事こそ恥である
何より神庭は自分達の守備範囲の一部を引き継いだのだ。本当の意味で独り立ち出来るまでは支えたいという思いもある
「ほら、早く仲間が待っていますよ」
「お任せします!!」
そうして前に進むと、祥枝達がパスを回している最中。周囲にはスモール級が多数存在しマギスフィアをキープする祥枝、残りの4人で周囲のヒュージを相手取っている所だ
ギガント級に目立った動きは無い
「隊長、こっからどうするー??」
「パス回し終わったよー」
「マギ溜まってます!?」
スモール級の妨害とギガント級からの攻撃を避けつつ尋ねる海漓
回避、防御に専念すればマギスフィアのキープなど容易に出来る
「うーん‥微妙かな
とりあえず1周はしたけど、回すことに専念しただけだから」
溜まっていない訳では無い
だが海漓が来るまでの間、パスを回すことに専念にマギの供給は二の次だ。現時点でも打てない事は無いが海漓の基準を満たしているのか祥枝には分からない。それは他の面々もそう
「とりあえずこんな感じ!どう?」
だからこそ彼女はマギスフィアを海漓へと渡す。言葉で言うよりも直接渡した方が良いと判断したから
「おっと!‥ん、んー‥ちょっと軽いですね」
放たれたパスをCHARMで受け止める
確かにマギは溜まっているが、まだ軽い。囮と言えどこのレベルを囮には使えない。もう少しだけマギを溜める必要がある
「だよね、もう一周する?」
「大丈夫です?無理なら無理で正直に言って貰えると嬉しいんですけど」
軽いと言われるのは分かっていた。
もう一周しなければいけないと言う事を祥枝は理解していた。
だが大丈夫かと海漓は問う。それは祥枝に限らず他の面々も同じ。全員のマギ保有量まで把握しきれれてはいない。
自己申告に任せるしかない
「面倒なのも多いし‥隊長、私のレアスキル使っても良い?いや使うわ」
「え?いや‥でも‥」
彼女のレアスキルはルナティックトランサー。それをこの状況で使うと言い始めたのだ。目的としては間違いなく周辺のスモール級やミドル級の掃討。
海漓からしても有り難い話だが、安全装置とも言える八千代は後方にいる
何より特型ギガント級もいる。暴走のリスクを考えれば簡単には頷けない
「大丈夫、下手は打たないし
ノインヴェルトや場合によっちゃ魔弾の射手も出来るから」
「(どうする‥?)」
そんな中でも大丈夫だと言い、この後も出来ると言い切るのだ
海漓としても悩みどころだ。彼女を信じるか、信じないか
「(ここは信じるか‥!)」
彼女は隊の副隊長だ。経験も豊富。そんな彼女が出来るというのならばそれを信じる。
副隊長の言う事を信用せずに、何も任せないなんて事をすれば信頼関係も揺らいでしまう
「分かりました。」
「オッケー!派手にやるわ
‥で他の3人はいけそう?」
「問題ないわ」
「私も大丈夫!!まだまだ行けるよ!」
「大丈夫よ」
彼女の問いかけに庵珠、智英、ヒロミがそれぞれ返答する。
皆が問題無いといい、声色を聞く感じ無理をしていたり嘘をついている風には聞こえない
「本当に大丈夫です?
嘘とか強がりじゃないですよね!?無理なら無理で良いですからね!?」
だが念には念を入れる。信じていない訳では無いが実戦の嘘や強がりは敗北、死に直結する。
無理なら無理と言って欲しいのが正直な所。
「大丈夫だって!
何回でも突撃出来るよ!!」
「1年生に気を使われるほどヤワじゃないわ」
本当に大丈夫であり、ヒロミからすれば1年生に気を使わせる程ヤワではないと言い切る
「私や智絵、ヒロミ様が無理って言ったらどうするつもなのかしら?」
「出来る人間でパス回して他は下げるかフォローに回ってもらうだけ
不調やマギ不足が理由で出来ない事を隠して出来るって言われた方が迷惑だから」
庵珠は意地悪な質問をするが、無理なら無理で仕方ない。出来る人間で出来る事をやるだけだ。
隠されるよりは正直伝えてほしい。それだけだ
「ず、随分と具体的な」
「良くある話でしょ?意味を履き違えた根性論
私、非常時はともかく基本的にそういう行為はふざけんなって思う派だから聞いただけ。」
これはあくまでも海漓の考え、方針だ。
彼女の方針には従ってもらう。ただそれだけ。隊長が代われば方針も変わる、これが正しいから皆も従えなんて事を言っている訳では無い
「(噂にはなってたけど、こんなの叶星様達と相性最悪じゃない‥!
そりゃ隊長引き受けるわよ)」
「どうかした?」
「何でもないわ‥」
「皆大丈夫って事なんでもう一周行きますよ!!」
CHARMを経由しマギスフィアにマギを込める。
ここで肝心なのはありったけのマギを込めるのではなく、他の面々が受け取りやすく、そして自身がこの後に行う援護を見据えた上で慎重に込めなければならない
「それじゃあ‥いきますかァ!!」
海漓がマギを込めている最中、祥枝はレアスキルを発動し全身
駆け抜ける跡が紅い閃光となり、周囲に存在するスモール級やミドル級をメッタ切りにしていく
「(この位?もうちょい?)」
後続を考え慎重にマギを込めているその時であった
『天野さん!今どんな状況ですか!?』
「ちょっ、あっぶな‥!‥ふぅ」
突如として通信が入る。
あまりにも突然の通信の為、マギスフィアは落としそうになるが、どうにか保つ。
『変化無し。強いて言うなら特型をぶっ倒す下準備をしてる所です』
声の主は校長だ。
この状況でどんな状況かと問われても撃破する準備を進めているとしか答えられない。ヒュージや大ケイブに表立った変化が無いことは目視と機器の双方で確認している
『‥どの位かかりそうですか?』
『どの位って‥おっと!』
どの位かかるかと聞かれても何と言えば良いのか分からない。
パスを繋ぎフィニッシュショットの準備を整え、魔弾の射手の合図も行う。
どう答えようか、悩んでいる時でもスモール級は自身へと向かってくる
「どうしたァ!?トラブル!?」
突然動きを止めた海漓を心配し祥枝はルナティックトランサーを発動中にも関わらず彼女へと声をかける。声は聞こえずとも通信を行っているかのような仕草を見せていることは把握した何処かで何らかのトラブルが起きたのかと不安になってしまう
「とりあえず庵珠ちゃん、パス!!
マギを込めてって!!」
「ちょっと!?いきなり渡さないでよ‥もぅ!」
流石の海漓と言えどマギスフィアをキープしつつパスのタイミング計りつつヒュージの攻撃をやり過ごして通信と会話を同時に行うなどという事は出来ない
先ずは1つずつ順序立てて対処
仲間の対応を後しマギスフィアを有無を言わさず庵珠にパス。何か不満を言っているが我慢してもらおう
『時間は分かりませんよ。
バカみたいに長くはならないとだけ‥何かありました??』
どの位かと問われても具体的な時間は分からない。常に何が起こるか分からないのが現状だ。過度な長期戦、消耗戦を行うつもりは無い為、長くはならずするつもりも無いとしか言えない
最も考えられるのはこの場以外でのトラブルの可能性。そのように考えていたのだが
『‥都内各地でもヒュージの攻勢が再度行われ始めたとの情報が入りまして‥その、原因が』
この場だけが戦場ではない。都内各地でヒュージの攻勢が行われる
原因も明らかである
『コレに煽られた‥と?』
『えぇ。それに伴い速く倒してくれとの要望が各校より相次いでまして‥』
眼の前のギガント級や大ケイブの影響だろう。都内全域に今の神庭の状況は伝わっている
御三家を除き各ガーデンからすれば速くしろと言われても仕方が無い
『(ネスト討ってるしケチつけるなら増援よこせとも言えないよね‥)』
非御三家ならば[文句があるなら戦力回せ]の一言でも言いたいが今の神庭にそれを言う権利は無い
ネストを打ち、守備範囲の拡大が告げられる程の力があるのだから大ケイブやギガント級程度速く仕留めろ、そんな風に思われているのだろう
『倒しますが時間の確約は出来ません
‥後再度確認なんですが』
『なんでしょう?』
『本当に建物への被害は無視していいんですよね?』
『構いません』
『分かりました』
何度問われてもガーデン側は同じことを言ってくれる。有り難い事だ
言ってる事をコロコロと変えられる事が一番困るのだから
「すいません何回も!どうですか!?」
「ちょっとどうしたの!?」
通信を切り速やかに戦列に復帰。
庵珠が心配に思い後退し、自身の元に向かってくる。
「校長先生から大丈夫か?っていう連絡です」
「そう」
クレームの件は伝えず言葉を濁す
急かされているなんて伝える必要はない
「丁度パスまわし終わった所!
マギスフィアはヒロミ様が持ってる」
「もう!?早くない?」
「智英はいつものアレだし祥枝様もかなりの速さでマギを溜めてパスしたから」
智英も細かいコントロールは苦手、受け取った後に力任せに突っ込み祥枝にパス。ルナティックトランサーを使用しながらマギを込めるという荒業を決めた後にヒロミにパスを回したのだろう
「ルナティックトランサーだともっと暴れるしパスも危ないかなって思ったけど‥何よりあの動き‥」
ルナティックトランサーを使用しながらマギを込めパスを行うという荒業をやってのけている祥枝
何より現在進行形でスモール級やミドル級を倒し時折とんでくるギガント級の攻撃を器用に回避しもしくはサブスキルである聖域転換の盾で防ぎ切る
そんな器用な事が出来る人物を海漓は見たことがない。ルナティックトランサーと言えば差はあれど文字どおり理性を飛ばし暴れ回るのが特徴なのだ
「海漓は祥枝様のルナティックトランサーを見るのは初めてよね」
「まぁ」
「祥枝様、どう言う訳かルナティックトランサーを使うと頭が冴えるんですって」
「そんな事あるの?‥どんなレアスキルにも差が有るってのは常識だけど」
レアスキルも個性の一つ、リリィによって出力される形や得手不得手が変わる物もある。
身近な例ではヘリオスフィアやゼノンパラドキサ。前者は発動時の形状、後者はサブスキルの配分の差だ。
「本人が言うにはそうらしいわよ」
そういう事もあるそうだ。気になるならば終わった後に聞けばいい
今はとにかく敵を倒す事に集中だ
「比呂美さん、マギスフィアのキープをお願いします」
「分かったわ!」
海漓が戦列を離れている間にどうにかパス回しは終えてくれていた。
『玲奈さん!魔弾の射手の使用準備を!!狙いは頭です
いつでも撃てるように狙いをつけてください!』
『分かった!』
後方でその時を伺う仲間達。
3年生の玲奈に通信を入れ準備をするように告げる
『後、もう一仕事頼むのでそれは追々』
『もう一仕事!?なんだ?』
『ちょっとした力仕事なんですよね、先ずは当てましょう』
『わ、分かった』
「フィニッシュショットをお願いします!
祥枝さんと智英ちゃんはカバーを!」
その言葉と同時に3名はギガント級相手に距離を詰める。
祥枝も反応は無いが周囲のヒュージを掃討後にカバーする動きを見せていることから海漓の声が届いて居ることが確認出来た
「なにあれ?何かヒュージに当たってない!?」
「あれが魔弾の射手を放つ前の事前動作。あれで狙いをつけるのね‥」
距離を詰めると同時、いくつものポイントレーザーがギガント級の頭部に照射される。このレーザーに殺傷能力は存在せずただ当てるだけ。だがこれはフィニッシュショット放つ比呂美からすれば非常にありがたい
「(あそこを目掛けて撃てば良いのね)」
彼女と防衛隊が何かを打ち合わせした事は無い。だがポイントレーザーという目に見える形で防衛隊が何処を狙うのかが示される以上、彼女は線が収束している一点を目掛けて放てばいいだけだ。
これこそ臨機応変。防衛隊が撃つ場所を示してくれているのにあえて他の場所を目掛けて放つ理由などない
体の中心という最も狙いやすい位置を示しているならば尚更だ
「B型兵装、異常なし
照準、固定‥これでっ!!!」
事前の指示通り離脱可能な所まで距離を詰めると同時、彼女は機体に搭載された特殊な装備。俗に言うB型システムを作動させる
簡単に言うならば過剰とも言える量のマギをCHARMに流し攻撃力を上げるシステムであり、その威力は絶大
しかしながら代償も大きく文字通り全てのマギを込めるため発動後は正真正銘の無防備状態。戦闘の継続は文字通り不可能となる。
離脱可能な距離で撃てと海漓が釘を差したのも無防備状態のデメリットを極力減らすため
文字通り、全員のマギとヒロミの全てを込めた渾身の一撃がギガント級に向かって放たれる
「完璧なレスキュー!!へい!智英ちゃんパス!!」
すぐさま海漓は彼女の背後に立つと首根っこをつかみ文字通り後に向かって放り投げる。最短最速で彼女を安全圏まで離脱させる非常に合理的な行為だ。マギで身体能力を上げてしまえば少女一人放り投げるなど造作もないこと
「ちょっと!?フォローってそういうぅ!!?」
フォローすると言った。嘘は言っていない。最短最速、非常に合理的だ。明後日の方向に投げ飛ばしたらのであれば問題だがキチンと智英のいる方向に向かってはなったのだ。
受け止めるのをミスりさえしなければ大丈夫だろう。恐らく、流石の智英と言えど受け止め損ねるなんて事はしないだろう
彼女が放ったフィニッシュショットはギガント級目掛けて一直線
しかし
「やっぱし持ってたか‥!!」
直撃するまさにその瞬間、マギにより編み出されたクモの巣のような物がフィニッシュショットを阻む形で現れる
「(ここまでは‥想定内‥何処まで削れる‥!?」
マギリフレクターを所有しフィニッシュショットを受け止める所までは想定済み。問題はこの後だ
マギリフレクターを砕き、その先まで届くのか、それとも弾かれて終わってしまうのか。
拮抗状態が続いた直後、マギリフレクターとマギスフィアの双方がガラスを砕いたかの如くバラバラに砕け散る
『今です!!魔弾の射手を!!』
彼女の号令と同時、後方から計11本のレーザーがギガント級の中心目掛け照射される
あの巨体ではレーザーを回避する事が出来ず盾と成り得たマギリフレクターも破壊された。後は成るがまま、熱線により溶かされるだけだ
しかし、ここで問題が
「ギガント級は良いけど‥大ケイブはどうするの!?」
この一撃でギガント級は倒せるだろう
しかし大ケイブはどうするのか。目の前の個体を倒すために文字通り全ての力を使い切り大ケイブを倒す余力などない。
放置した所で増援の出現、最悪の場合は大ケイブのネスト化だ
「問題ないです!(頃合いか)」
そんな事は海漓も分かっている。
レーザーがギガント級の体を溶かし文字通り貫通する正にその時だ
「祥枝さん!魔弾の射手を!!撃たれてるレーザーに当てて下さい」
「!!」
「ここで私も‥!!」
貫く寸前に海漓と祥枝もレーザーを放つ
何故このタイミングなのか、始めから当てれば良かったのではないか
誰もがそう思うだろう。
そんな事は海漓も分かっている。しかし何の意味もない事をする彼女ではない
『皆さん、銃口をゆっくりと下げてください!!』
『下げる!?何をするつもりだ!?』
『レーザーでギガント級をぶった切ります!!』
レーザーを放ったまま銃口をゆっくりと地上に向け、ギガント級を切断する。
魔弾の射手のレーザーだってリリィのマギ。ノインヴェルト戦術で用いるマギスフィアと姿形は違えど、マギを用いての攻撃だ。破壊できない事は無い
『そんな事出来るのか!?』
『出来ます!!レジスタ、フェイズトランセンデンスを使わせて更に威力を上げてください。フルパワーです!!』
魔弾の射手をフルパワーで放つ。威力の高さは証明済み
そのぐらいしなければ中途半端に終わり大ケイブは破壊できない
『正気か!?一帯が消し飛ぶぞ!!』
『ガーデンからの許可は取ってます』
『相手を考えれば当然か‥分かったすぐに伝える』
たがその威力は高過ぎる。以前よりも甚大な影響
それこそギガント級や大ケイブのある一帯は焦土化、大きなクレーターが生まれるがそんな事は海漓も分かっている
「とはいったけど‥重い!!」
技術的には十分可能な事だ。だがヒュージを切断するために銃口をゆっくりと下げる。しかも現在進行形でマギを消耗しながらの行動だ
体力的に厳しく、機体の重さが直にのしかかる
親機と子機の両方でレーザーを放っているためその負担が両腕にのしかかる
「(両腕、ヤバイか‥)」
仕掛けた張本人が負担に耐えられないなど笑い話だ。だがこれは自身の骨が持つか?そんな事を考えてる時だった
「海漓!手伝うよ!!!」
「智英ちゃん!?」
「比呂美様が海漓の所にって。庵珠は祥枝様を手伝ってる」
「こうすれば楽?ぐいーっと行けるかな?」
自身の機体の底を支えるように彼女が所有するティルフィングを構える
「うわっ!?なにこれ!?私のマギも吸われる!?」
「機体を直にくっつけるから疑似的なパスになってるよ‥でも助かった」
ギガント級の巨体が徐々にではあるが熱による切断で2つに割れ始める
その最中、一度だけレーザーが細くなるがすぐに元の太さへと戻る
「あれ!?また大っきくなった!!」
「レジスタとフェイズトランセンデンスのマギ補給」
「そんな事出来たっけ!?」
「レアスキルだって使いよう。
使い方に決められたルールはない。なら臨機応変に使わなきゃね」
「うん!!」
徐々に徐々に、レーザーの角度が下がっていく
熱線に加えヒュージの悲鳴と同時に体液も飛び散り始める
全員が最後の力を振り絞り、ギガント級を文字通り縦に両断する
そしてギガント級の足元には大ケイブ
大ケイブには移動する手段がない。爆発に巻き込まれ消滅するのは必然となる
「下がるよ!爆発に巻き込まれて死にたくないでしょ!!」
「わかってる‥けど」
「どうしたの!?」
「マギ‥殆ど使っちゃった。CHARMも持てないや‥」
「マジか‥(無理させすぎたな)ゴメンよ」
海漓は先ずCHARMを手放すと同時に足で智英の片足を払い、バランスを強引に崩すと後に倒れ込む彼女を両腕で抱き上げ、お姫様だっこの形を取る
「しっかりつかまって、行くよ!!」
「うひゃぁ!!」
インビジブルワンを用いてその場から高速で離脱する
適度な距離まで離れた直後、ギガント級が大ケイブを巻き込むほどの大爆発を起こし離れている海漓達でも熱さと衝撃を感じてしまう
巻き込まれれば文字どおり肉体が吹き飛んでいただろう
「‥」
その光景を見る海漓や智英
離れた場所には祥枝や庵珠、ヒロミもおり前に出ていた面々は無事に退避出来た事が確認出来る
「(智英ちゃん、荻窪出身だっけか)」
智英がどんな思いを抱いているのか海漓には分からないが予想はできる
彼女は荻窪の出身だ。余所者の立てた作戦で街並みを破壊された事に対する不満や怒り、悲しみはあって当然だ
「あー、その‥」
「どうしたの?」
「いや、怒ってるよねって」
もう少しマシな言い方があるだろうとなるかもしれないが、上手く言葉が出てこない。
「‥?何で?」
「やった私が言うのもアレだけど。街並み吹っ飛ばした訳だし‥」
だが智英は海漓の予想に反して純粋な疑問を投げかける。心当たりになりそうな事を尋ねられた事で智英はようやく理解する程だ
「あー、うーん‥
確かにショックではあるし、やりすぎだよって思ってるけど」
「けど?」
生まれ育った街の一角が吹き飛んだ光景を間近で見たのだ。確かにショックではあるし、やりすぎではないか?との思いは当然ある
「ヒュージに滅ぼされた訳じゃないし
あの辺りってネストが出来ちゃった事もあって戻らないって人も多いって聞いてたしうーん‥」
街並みは吹き飛んだがヒュージは倒せたのだ。市民の避難も完了している
何よりあの場所は以前、ネストが生成された場所であり海漓は知らないかもしれないがネスト時に避難した住民の中には不吉、安全性を理由に戻らない人々がいる事を智英は知っている
何より荻窪は陥落していないし、智英から見れば海漓は必死に頑張っていたのだ。
「気にはしてるけど気にしないで。海漓の事を恨んだりはしないから」
「そっか」
思うところが無いかと言われれば嘘になる。智英からすれば海漓だって大切な友人でありクラスメイトだ。宿題を忘れたり、教科書を忘れれば助けてくれるし居眠りする時には椅子や背中を叩き先生には見つかる前に起こしてくれる。訓練でペアになればフォローしてくれるしマギスフィアを暴投しても取ってくれる事から一部で言われるほど悪い奴じゃないことは分かっている
余談だが灯莉だって同じだ。レギオンが別れたりギクシャクしても授業での忘れものや訓練でペアを組めば扱いを変えることなく接している姿も見ている。
だが必死に頑張っていたことも分かっているのだ。
そんな友人を一方的に悪と決めつけ、叩くような事はできない
「祥枝様、その‥大丈夫ですか?防衛隊」
「隊長や先生達が上手くやってもらうしかないかなって、私も出来ることはしようとは思うけど‥これ荒れるよね、キミはどう?」
海漓達とは別方向で光景を見ている祥枝、庵珠、比呂美の3名
彼女達から見ても光景は凄まじく、一概には喜べない
「内外で相当荒れるとは思いますが‥不謹慎ですが、戦った私達からすればもう仕方ないって割り切るしかないのかなって
智英だってそのぐらいは理解できる子だと思います‥ちなみに比呂美様はどのように?」
「不謹慎だけれど皆が上手く割り切るしかないのだけれど‥
そうは行かないと思うわ」
無責任で不謹慎な行為や言い分なのかもしれない。仕方ないと割り切る事が正解ではないし、住んでいた住民だっている
彼等彼女達からすればふざけるなと言う話である。
海漓の行為も全てが正しい訳では無い。だがこの選択、判断の全てが誤りで有るとも言えないのだ
急激な守備範囲の拡大や都内の原則でもある他校からの増援の不在
主力であるグランエプレや取りまとめる御三家のトップレギオンが軒並み不在
在校生でもグランエプレ派のリリィは戦闘への不参加
このような中で『市民、リリィだけでなく住宅街への被害を最小限に』『速攻で倒す』なんて事は無理である
「(ガーデンから指示を受けた事を考えればほぼ完璧‥支援を受けた事を考慮してもこれだけの事が出来る司令塔がどれだけいるのかしら‥)」
第三者として、助っ人として参加した庵珠から見てもガーデンや軍の支援を受けた事やガーデンから戦闘に専念しろとの指示を受けた事を考慮してもほぼ完璧に近い
軍やガーデンの支援を使いこなし配置から運用まで適切にこなしてみせた
ヒュージとの戦いで怪我人は続出したものの命に関わる程の大怪我や死者はゼロ。荻窪の陥落を防いだのだから十分過ぎるほどの戦果なのだ。
全ての条件を満たすような戦いをし、非の打ち所の無い完璧を求めるならばそれこそアールヴヘイムクラスを連れてくるしかない
ネスト戦が奇跡の連続、ハッピーエンドであった事を改めて突きつけられてしまう
戦いを終えた者達はそれぞれ色々な思いを抱くのだ。