この日も授業を終えグランエプレの一年生は集まって雑談を行っていたのだが、紅巴の元気がない
本来ならば体調不良を疑うのであるが彼女が元気を失う理由など一つしかない
「今日は叶星様と高嶺様が居ないのが紅巴の元気のない理由でしょ?」
同じ学科で紅巴を間近で見ている姫歌は簡単に原因を言い当てる
まぁ、彼女が元気を失う理由などそれぐらいしか無いのもまた事実ではあるのだが
「えっ、今日って先輩達居ないの?」
「昨日ミーティングで言ってたでしょう?お二人は今日、都の防衛構想会議で不在よ」
「灯莉ちゃん、その話のとき半分寝てたからね…」
灯莉は初めて聞いたようなリアクションをするが昨日のミーティングの終わりに説明されたことを告げる
二人が参加している防衛構想会議とは複数のガーデンとレギオンが定期的に集まりヒュージの出現状況や分布を主に話し合う
勿論これが全てではなく会合の規模によって話し合う内容も変わってくるのだが、今回はそこまで大きな規模ではないと思うので夕方には帰ってくるであろうと紅巴は説明する
「かなほ先輩達が居ないってことは今は定盛がリーダーだ」
「そうよ、今はひめかがリーダーなの
そしてグラン・エプレは神庭のトップレギオン!!
…つまりひめかはトップアイドルリリィと呼んでも過言ではないわ」
「あれ?もしかして今神庭に残ってるリリィって殆ど一年生??」
灯莉と姫歌はいつものやり取りを行っているがふと海漓は気がついたことを尋ねる
グランエプレの上級生がいないのは知っているが今日は上級生の大半を見かけていないのだ
残っているのはレギオンに所属していない三年生が数名と負傷などの理由で校内に残っている二年生がいる程度
大きな戦闘が行われていないのにこの少なさは不自然すぎる
「そうなりますね…課外授業なども重なってますし戦えるリリィのほぼ全員が一年生ですね」
「んー、そっか、んー…」
不味い状況だと海漓は判断する
戦力に恵まれているガーデンならば上級生が不在でも何の問題も無いのだが神庭の場合戦力に特別恵まれているとは言い難い
グランエプレ以外の一年生リリィにも実力者はいるが数が少なすぎるのだ
しかもグランエプレを筆頭に上級生がレギオンの軸を担っているレギオンが多い神庭で上級生が不在のこの状況で機能するレギオンがどのくらいあるのか
万が一機能しなかった場合、フォローの役目を誰が担う事になるのかはもう分かりきっている
だからこそ今日に限ってはヒュージが出てこないで欲しいと強く祈るのだが、世の中は甘く無い
起きてほしくない事が起きるのが現実だ
「…ッ!ヒュージの出現のサイレン!?」
「よーし、出撃だ☆」
よりによって来てほしくない相手がピンポイントで来る
舌打ちの一つもしたくなるがよく我慢したほうだと海漓は自分を褒める
上級生がいない状況とはいえ自分達はリリィ
姫歌は出撃を決めた為グランエプレのメンバーは全員が準備をする
そうして神庭から出撃可能なリリィが現場へと急行したのだが、いざ現場に到着すると想像を上回る酷さだった
ヒュージとの戦闘はまだ行われていないため人的な被害は出ていないが、そもそも戦う心構えが出来ていないリリィが多すぎたのである
勿論トップレギオンである自分達よりも言い方を悪くすれば実力が劣るため仕方の無い所も勿論ある
だが、それを抜きにしても出撃したのに方針を決めておらず挙げ句の果に、ヒュージとの戦闘経験も少ないからこの後どうすれば分からない為、こちらに指示を出して欲しいと言い出す始末である
神庭の掟ともいえる
『リリィの戦いは今日が最後かもしれず、命を賭すに値するかどうかはリリィ自身が決めるべき』
その覚悟があるならば指示を依頼するにしても最低限やっていなければならない事が多くある
勿論上級生が居ない事や戦闘経験が薄い等同情の余地はあるのだが海漓にしてみれば思う所はある
すると灯莉は
「そんなの真正面からドーン☆で行けば大丈夫!!」
いつものノリでそんな事を言い放つ
当然その言葉を聞き、戸惑いや姫歌も止めに入るが
「んー、その案、結構良いと思うな
灯莉ちゃんの言うことだからって何でもかんでも頭ごなしに否定するのは良くないわ
ここは、私達が先頭になって正面から行きましょう」
「ちょっと!?」
「海漓ちゃん!?」
まさか灯莉に同調する形になると思わなかったのか姫歌と紅巴は動揺する
普段は常識的だと思われてる海漓が突拍子もない事を言う灯莉に同調したのだ
無理もない
が、海漓にも根拠はある
サブリーダーでも何でもないがサブリーダーに一つの意見を出すぐらいは許されるであろう
レギオンの仲間が普段以上の負荷を与えられ困っているのならば一つの手を示し支えるのもまた仲間だ
「私達じゃまだ出来もしない事を無理にやろうとした結果ミスを連発して損害多数なんて馬鹿のやることよ
なら多少のリスクはあるけど私達が先頭になってヒュージとやった方がまだ損害を抑えられるわ」
「で、でもそれじゃ他のレギオンが…!」
「他も何も無いでしょ
戦闘経験も不足してるし事前の指示も何もないし準備も不完全、そんな中で下手に連携しようものなら味方の流れ弾にも当たるし、お互いに邪魔になるだけ
なら下手に連携するぐらいなら私達が前に出て他は後方で私達が仕留めそこねたヒュージを頼む
これがベストだと思うけど、姫歌ちゃん、どう?」
これは命令では無くあくまでも提案
姫歌がこれを採用するのか、はたまた別な案を出すのか
彼女の引き出しを増やしたに過ぎない
すると姫歌は
「そうよね…アイドルリリィならこんな所で迷ってはいられないわ
私達はトップレギオン、なら先陣を切って目立つわよ!
他のレギオンの皆は後方で待機しつつ打ち漏らしたヒュージの相手をお願い
そっちにレジスタ持ちは…いるわね。
よし!行くわよ皆!」
姫歌も気合を入れ直したのか透き通る声で指示を出した後それぞれ配置につく
そしてグランエプレも先陣を切って行くのだがその途中
「海漓ちゃん、本当に良かったんですか?」
「ん?何が?」
「さっきの言い方です。あれじゃ暗にあの方達に対する戦力外通告ですよ?」
「実際そうでしょ?
出撃命令が出たから出撃したけど何も出来ません、だから指示お願いします。
挙げ句の果に経験少ないのけどヒュージと戦っていいか?って聞くとか戦場を舐めてるでしょあの子達」
紅巴からの言葉に海漓はそう言い放つ
すると紅巴は
「ま、まぁそうですね…」
苦笑いしつつも否定しないという事は彼女も内心思う所があったのであろう
そんなこんなで全身していくと早速ヒュージのお出迎えである
「来たわね…!訓練通りに行くわよ
海漓は前に出てヒュージを迎撃しつつ撹乱
囲まれないように姫歌がサポートするわ
灯莉と紅巴は後方から支援
全員マギの無駄遣いはしないでよ!」
上手く行かない事も多かったとはいえ姫歌の指示も大分様になってきたようにも見える
そうしてグラン・エプレにとって長くなる戦闘の幕が開けたのだ